天下泰平、事も無し。
今日も世界は平和そのもの、アシュタロスのアの文字も見当たらない。
そんなこんなで、今日も横島たちは学生生活を満喫するのであった。
「ふぁぁぁっ~」
授業中にも拘らず窓の外を見ながら大欠伸。
しかし、それを咎める教師は居ない、何故なら。
「横島、自習だからってボーっとしすぎ」
そう、自習時間なのだ!
自習時間、それは退屈な事この上ない学校生活において、昼休み、体育に次ぐ開放された時間なのだ!
周りを見渡せば解る筈、惰眠を貪る者、友人と談笑するもの、トランプ(大貧民)に興じる集団、花札、麻雀、チンチロリン……。
真面目に勉強している人間なんて一握り、なのだが……。
「横島、そこ間違ってる」
横島の目の前に座るこの人、伊達雪乃は、なんと真面目人間なのであった!!
「(んー、こいつが学歴にコンプレックスもっとったのは知っとったが、此処まで勉強するようになるとは……)」
前の世界で、雪之丞がポツリと洩らした事があるのだ。
「俺は義務教育もまともに受けられなかったんだ、だからもし、来世があるんならしっかり勉強してぇな……」
如何やら雪之丞は来世、では無いが、この世界でかなり勉強したようだ。
「ちょっと後ろから失礼」
「(しかし……、俺にまで勉強を強要せんでも……)」
「だから……、この公式を此処に入れて……」
横島の後ろから覗き込むような形で、横島のノートにスラスラと数学の解を求める雪乃。
一生懸命雪乃が説明しているが、横島の耳にはまるっきり入ってこない、何故か?
それは……。
むにう、むにむに。
「(胸が胸が胸がぁ~!!心地よい弾力が背中に肩にぃ~!!)」
まあ、つまりそう言う事である。
「この場合、左辺のこれを、右辺に移項すると、ほら、この定理にあてはまるでしょ?」
耳元で囁く雪乃。
「(うお!耳に息がぁっ!き、気持ち……!?い、いかん!六根清浄六根清浄……!)」
理性は既に三途の川のほとりに佇んでいる、後は六文運賃を渡すだけで、向こう岸に渡れる状態だ。
ふわっ……。
雪乃のシャンプーの香りだろうか、優しい香りが横島の鼻腔を擽った。
「(げ、限界か!?否!まだだ!まだ終わらんよ!!この横島忠夫の愚息を舐めるなよぅ!)」
横島の脳内はレッドゾーン、かなりの危険領域である。
「それで、さっきの?Aの式をこの間に入れるとっ、ほら、出来た♪」
如何やら説明は終わったらしい、向日葵のような笑顔を横島に向ける雪乃。
「解った?こういう問題は、解き方さえ頭に入っちゃえば簡単だから、……って、横島?」
何の反応も示さない横島を訝しげに見る雪乃。
「(な、何とか此処は乗り切らねば!と、とりあえずトイレだって言って逃げるっ!)」
男としてのピンチである、此処は何としてでも逃げねばならない。
しかも反応した相手は今は女だとしても、あの雪之丞なのだ。
横島としては、雪之丞を雪乃、女と認めてしまう事を恐れたのだ!
「ゆ、雪之丞、お、俺、ちょっとトイレ……!?」
横島が逃げるための口実を雪乃に伝えようと、雪乃の方に首を動かした。
横島は椅子に座っていて、雪乃は立っている訳である、しかもかなり近い。
横島が横を向いた時、雪乃は何も言わない横島を心配して更に一歩近づいた、つまり。
ぼよん。
「むぐぅ!?」
「きゃっ!?」
振り向いた先に雪乃の自己主張激しい双子山親方がいらっしゃった。
そう、横島は雪乃の谷底に落ちてしまったのだった。
これで反応しない男は男やないんやー!仕方なかったんやー!!by横島
机の下で如何にか平静を保っていた横島sunであったが、顔に感じる心地よい弾力に、力一杯に起ち上がったのだ!
がたーーん!!
ナニかに下から押し上げられ、倒れる机。
勿論、盛大な音は周囲の注目を浴びる。
周囲の注目は、一点に集中したのだった!
注目の的は、雪乃の胸に顔を埋める横島……、ではなく。
机を下から押し上げ、倒した横島くんちの息子さん、で、あった。
「す、凄い」(女子A)
「こ、これは!!」(女子B)
「この間の海軍兵より立派かも」(女子C)
「ま、負けた……」(男子一同)
~暫くお待ちください~
静止した時間、軽く三十秒。
静止した時間の中で動けたのは唯二人だけだった。
俯いてプルプルと震える雪乃。
オタオタと慌てながら如何弁解しようか、思考を巡らせる横島。
「ど、どうも愚息が失礼を……」
「……親が親なら息子も息子」(ぼそっ)
雪乃の拳に力が篭る。
「よ」
「よ?」
「横島のぉ~」
前回よりも鋭い踏み込み!
しかし、横島もあれからの鍛錬で身体を自由に動かせるレベルまで達していた!
「(は、速い!しかし、見えているぞ!右のストレートだっ!)」
素早く両腕を顔の前に持ってくる、サイキックソーサも展開する。
「(これなら防げる筈っ!)」
横島はこの防御に自信を持っていた、何故なら、この防御で、師、小竜姫の剣ですら止めた事があるからだ、勿論手加減されていたが。
「(ガードした後その衝撃でもって窓から脱出!くくく!これが横島忠夫の逃走経路だっ!!)」
しかし……。
ニヤリ
「(わ、笑いやがった!?)」
先程の向日葵のような笑みではない、妖しい、そんな嘲笑。
「(!?)」
ガードの隙間から見えた雪乃の拳の位置に横島は驚愕する。
「(拳の位置が低いっ!ちぃ!アッパーか!?)」
腰から肩へ、順を追って移動する破壊力。
「(くそ!間に合うか!?)」
顎を守るように腕を下げる。
刹那の時に身を置く立場の者にとって、判断ミスは命取りである、横島はこの時、致命的なミスを犯したのだ。
「(な、なんだとっ!?て、手首が返ってない!?こ、このパンチは!!)」
そう、雪乃のパンチはストレートでも普通のアッパーでも無かったのだ。
手首を返さず、拳を低い位置から、突き上げるように、最短距離で。
このパンチは日本フェザー級元王者、千○武士のフィニッシュブロー!
気が付いた時にはもう遅い。
「(ス!スマッシュやとぉ!?)」
スローモーションのように迫り来る雪乃の拳、それは確実に命を、意識を刈り取る必殺の一撃。
「(間に合わん!歯ぁ食いしばれっ!!)」
ギリギリギリッ!
食いしばる歯から悲鳴が漏れる。
「(堪えろっ!)」
「馬鹿ぁ~!!」
ぱぐんっ!
「ガガーリンッ!!」
その日横島忠夫はスイカの破裂したような音と共に、空へと旅立ったのだった。
合掌。
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
第十五話
「いてててて……」
普段の二倍は腫れ上がった左頬をさすりながら、帰り道を歩く。
「ご、ごめん」
隣には雪乃。
「しかし驚いたわ、いきなり破裂音がするんだもの」
そして反対側にはタマモ。
「あれは普通、打撃音には聞こえないわね、お姉ちゃんのパンチ、音速超えたんじゃない?」
「そ、それは無理だって、私なんかまだ一秒間に四十九発しか……」
タマモの言葉に恐縮する雪乃、ちなみに、四十九発でもかなり凄い。
「よ、四十九発って、そんなに殴ったの?」
タマモは横島の身に起こった不幸に手を合わせる。
ちなみに、タマモ、驚くべきところはそこじゃあない。
「そんなわけないでしょ!一発よ、一発」
全部入れたら死んじゃうじゃない、と、雪乃。
そもそも、普通の人間だったら一発で十二回程、死ねそうな威力だったのだが……。
「まあ、俺が全部悪いんだけどな」
ポツリと呟く。
そりゃ怒って殴られるよな、女の子の胸に顔埋めて、反応しちまったんだから。
そこまで考えて横島は気がつく。
女の子の胸に顔埋めて……。
ああ、もう、『雪之丞』だなんて呼べない。
横島は、気が付いてしまったのだ。
既に自分は、伊達雪之丞を、伊達雪乃として見ている事に。
雪乃に女を感じてしまっている自分に。
横島は、坂を転がり始めたのだった。
~妙神山~
「はぁっ、はぁっ……、み、美神さん、す、少しは持ってくださいよ」
そこには岩肌剥き出しの山を登る者達がいた。
「五月蝿いわね、黙って歩きなさい、身体を鍛えることもGSには必要なのよ」
美神と呼ばれた女性、そして、かなり大きい荷物を背負った金髪の青年、そして。
「ふれー、ふれー、ピートさん!」
金髪の青年、ピートをふわふわ浮きながら応援する幽霊の少女。
三人は妙神山修行場を目指し、山を登る。
そこに世界を変えるような出会いがあることなど、三人には解る筈の無いことだった。
そしてその後ろに付かず離れず付いていく人影。
「ふふふ、ピートをデートに誘いに教会に行ったのに、令子と妙神山に行ったって言われたから追いかけてきたワケ!」
はい、説明ありがとう。
そんなこんなで、漸く歴史の歯車は噛み合い、廻りだすのであった。
あとがき
短くて、後、間が開いて申し訳ないです。
最近、学校の準備とかで忙しいのです、あとFF12とか。
教習所も行かなきゃなんないしで、てんやわんやです。
LINUS様、kj様、桜川様、白銀様、ゆん様、とんちゃん様、ヒロヒロ様、内海一弘様、HINO様、諫早長十郎様、seilem様。
感想ありがとうございました!
横島、書いている自分も大分羨ましくなって参りました。
なんだかとってもチクショー!な気分になったので、雪之に殴らせてみました。
が、羨ましさは消えませんでした。
チクショウ!
漸くやってきた出会い!
そして、雪乃を意識し始めてしまった横島の運命とは如何に!?
次回!
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
第十六話に!
バッチコーイ!!
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