カーテンの隙間から射し込まれる朝の光が、私の眠りを妨げる。
鳥が二羽、愛を囁くように囀り合う。
伸ばした手でカーテンを開け、窓から空を仰ぐ。
今日も空は高く、青い。
枕元の時計はAM5:40を指していた。
雪乃の朝は中々に早い。
朝は一日の始まり、手を抜くわけにはいかないのだ。
手早くパジャマから着替え、身支度を整える。
洗濯機の『ゴウンゴウン』と、言う独特のベースに、台所から響くパーカッション、鳥のコーラス。
「〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
メロディラインも軽快だ。
生活の音は心の持ち様で生活を彩るBGMに変わり、人を舞台の主役に変える。
雪乃の朝は、ミュージカルで始まるのだ。
どだどだどだどだどどどどどどどど!つるっ!?すてーーん!ごろごろごろー!ぱっかーーーーん!!
二階から聞こえてきた騒音が、階段を駆け降り、廊下で滑り、転がり、玄関の傘立てを薙ぎ倒す。
ストライク。
「〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
そんな騒音に耳を傾けながらもまったく動じる事無く、フライパンを振るう。
中で踊るのは『Aglio,Olio e Peperoncino』、直訳すると「にんにく、オイルと鷹の爪」
一般的に言えば、ぺペロンチーノスパゲッティである。
ちなみに、今日の弁当の付け合せだ。
がちゃ
フライパンから皿にパスタをあげた時、ドアが開いた。
「うぅ〜!時間無い!時間無い!!雪乃〜、ご飯ちょ!」
先の騒音の主、登場。
「……母さん、裸でうろつかないでよ」
頭を抱えたくなる様な母親の姿に若干の眩暈を覚えながらも、それとなく注意する。
勿論、効果などまったく無い。
「別に良いじゃない、女三人家族、男なんて居ないんだからー」
ぶーぶー!と、口を尖らせる母。
「ダーメ!横島だってこの家に来たりするんだから、だらしないのは恥ずかしいでしょ!」
と、指差す先は、黒い丸まった物体P。
「うふー、忠夫君を誘惑されたら困る?ソレ、忠夫君にプレゼントしちゃおっかなー♪」
「ママ!!」
「うひゃー、ゆきのんが怒ったー♪」
着替えながら逃げる母、プンスカと音をたてながら追いかける娘。
これが伊達家の日常、これが親子のスキンシップなのだった……」
「変なナレーション入れんなー!」
仲が良い親子である。
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
第十四話
「はい、朝ご飯」
春奈の前に料理が置かれる。
「うあーい忠夫君のお弁当の付け合せの絶望のパスタの残りだー」
「……何か?」
ギロリ。
「うっひゃ〜!ぺペロンチーノだ〜!オラ、こいつが食いたかったんだ!ワクワクして来たぞ〜!」
「よろしい」
雪乃は軽く笑うと、台所へ戻っていった。
その頃の伊達家次女。
「くぅ〜〜〜〜、むにゃ……、駄目だよぅ、そんな所舐めちゃやぁ〜、よこしまぁ〜♪」
……中々面白い夢を見ているようである。
「む〜〜〜〜〜、舐めるなら跪いてぇ……、そう、指の股を……、うふふふふふふ……」
…………、幸せな夢、の、よう……か?
「じゃ、行って来るわ、今日からタマモちゃんも学校だから、遅れ無いように連れて行ってあげてね」
ビシッとスーツを着た母、本当に先程までの母と同一人物かどうか、いつも疑問に思う。
いつもこんな感じでビシッ!っとしていてくれればなぁ、と、溜息を吐く。
「あ、タマモちゃん、おはよう♪」
そんな時、タマモが階段を下りて来る。
「ん〜、おはよぅ……、ふぁ、ママは会ふぁ〜?」
欠伸まじりの朝の挨拶、タマモは、母の事を『ママ』と呼ぶ。
母が、『ママって呼んでね♪雪乃はもう呼んでくれなくなっちゃったから〜、ね?』と、泣きついたのだ。
勿論タマモは拒否をした。
しかし母は……、否、これは語るまい、人は誰しも脛に傷を持って生きているものだ、忘れたい物もあって良い筈だ。
と、言うわけで結果的にタマモが折れる形で『ママ』と呼ぶようになったのだった。
「うん、おはよう、タマモちゃん、今日から学校、頑張ってね♪」
「ん〜、ありがと、いってらっしゃい〜」
そう言ってタマモは洗面所に入っていった。
「はい、これ、今日のお弁当」
赤い袋に入ったお弁当を渡す。
「おー、ずっしり!今日も気合入ってるわね〜、忠夫君への愛が詰まってるわ
〜〜その弁当匣の中には忠夫君への愛がぴったり入ってゐた〜〜みたいな?」
「さっさと行け!馬鹿親!!」
雪乃は春奈を蹴り飛ばすように送り出した。
AM7:45
「タマモ〜、そろそろ出るわよ〜」
玄関から雪之丞、ううん、雪乃の声がする。
あ、今日は最初だから早く行かなきゃ行けないんだっけ。
「今、行く〜!!」
部屋の姿見で最終チェック。
髪、良し!
顔、変じゃない!
ニコ♪笑顔良し!
制服も、うん、ばっちし!
「タマモ〜!」
「は〜い!!」
タマモの新たな学校生活が、今日、始まる。
朝のHR前、雪乃の周りに人が集まる。
何処から聞きつけたのか話題は編入生の話、一年生に物凄い美人が編入してくる、と言うのだ。
そう、間違いなくタマモの話である。
「あ、それ私の妹の話だと思う」
隠すことでも無いので雪乃は言う。
「へー、雪乃の妹ねー」
!!!!!!!!!!!!
瞬間、教室で聞耳を立てていた男子女子、総勢二十数名が動きを止める。
……………………。
教室を静寂が支配する。
「??」
雪乃は喧騒を忘れたかのような教室で首を傾げる。
静寂は椅子の音で破られた。
ガタン!
一人の男子生徒が立ち上がる。
「……、俺、ちょっとトイレ行って来る……」
それはダムにキリで穴を開けたかのようだった……。
「お、俺も!」「俺もトイレ……」「……、俺も」
教室の彼方此方で上がる「俺、トイレ」宣言、全て男子である。
「あ!いっけな〜い!私、先生に呼ばれてたんだったー」
「え!呼ばれてたの?私も一緒に言ってあげるよ〜♪」
「私も!」「私も!」
女子は何故か十人以上で職員室へ。
あっと言う間に教室に残っているのは、雪乃とのどかだけになってしまったのだった。
「……皆、如何したのかな?」
「……さあ?」
溜息を吐くのどかと、困惑気味の雪乃であった。
二人だけの教室で、向かい合って話をする。
「妹って言っても、義妹なんだけどね」
「へー、血は繋がってないんだ」
「うん、養子なんだ、今度紹介するよ」
「ん、楽しみにしとく」
ちゃらら〜!のどかの楽しみが1増えた!
その時。
「あ、横島だ」
雪乃が突然ドアの方に顔を向ける。
数十秒後、ドアが開き、
「うい〜す、って、あれ?学級閉鎖か?」
横島が現れた。
横島の反応は当然であろう、後数分でHRが始まってしまうと言うのに、教室の中に居たのがたった二人だったのだから。
「ううん、皆、なんかどっか行っちゃったの」
「へー」
何も入っていないような薄っぺらい鞄を机の上に放り投げ、横島は雪乃達の会話の輪に入っていった。
「それにしても、良く横島が来たってのがわかったね、雪乃」
愛の力かねー?と、ニヤニヤ笑う。
「ち、違うよ!よ、横島の気配が……」
「愛の力だねー」
「違うってば!」
「で、他の連中は何処行ったんだ?」
横島は話題を変える事を試みる。
何だか解らないが、生温かいのどかの視線に耐えられなかったのだった。
「ん?ああ、多分職員室だよ」
「「?」」
首を傾げる雪乃と、横島。
「皆、一年に凄い美人の編入生が来るってんでさ、見に行ったよ」
「へー」
「それだけじゃ、眉唾だったんだけどね、さっき雪乃が……」
「私?」
「そ、アンタ、雪乃が」
「あ!そうか、今日からだっけか?タマモ」
合点がいったのか、ポム!と、手を打つ、横島。
「何だ、知ってるのか、雪乃の妹の事」
詰まらなさそうに息を吐くのどか。
「それでな……」
三人で話に華を咲かせるのだった。
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん♪き〜んこ〜んか〜んこ〜ん♪
鐘が鳴っても生徒は帰っては来なかったそうな。
そして。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
歓喜の雄叫びが学校に響き渡った。
追記
その後の昼休み。
当然の如く、横島の教室に現れるタマモ。
そのタマモから発せられる、横島への『愛と言う名の熱視線ビ〜ム』
そして雪乃からの『手作りお弁当』が発覚。
さらに、雪乃とタマモでのツープラトンでの『あ〜ん♪攻撃』
これを見せられて嫉妬しない奴ぁいねぇ!!←男子生徒&若干の女子、心の叫び。
横島はこの日から、男子生徒&若干の女子の心の中で、『敵』と認定されてしまったのだった。
南無。
あとがき
駄目だ!!
中々GS本編に絡まない!!
と、言うより思ったよりタマモで時間が!!
さくさく書かねば!!
レウ!レウ!!
LINUS様、箒柄様、徹夜覚悟様、とんちゃん様、ゆん様、内海一弘様、ミアフ様、シヴァやん様、まさ様、aki様、諫早長十郎様、コーヤ様、kj様、白銀様。
感想、毎度有難うございます。
この作品も、早いことで十四話、自己最長を更新いたしました。
それもこれもどれもあれも、皆様方の感想あればこそで御座います。
拙い文でありますが、これからも温かく見守っていただければ恐悦至極に御座います。
時が経つのは早いもので、後十日もしないうちに、三月になるのですね、私が今生の生を諦めかけつつも手術を受けてから、七ヶ月経ちました。
体調も万全と行かないまでも、普通に朝を起き、昼に活動し、夜に眠れるようになりました。
……、と言うわけで。
四月から学業に復帰しますよー!
嬉しいな、嬉しいよ!
……申し訳ない、関係なさすぎでした。
次回もこのチャンネルに!!(チャンネル?
ばぁぁぁっちぃぃっ!こぉぉぉいっっ!!