ベビーシッター一日目。
「こんにちわ〜、ベスパちゃん。これからよろしくね」
「ふっ…。ふぎゃあぁ〜〜〜ん!!」
抱っこした途端、ベスパちゃんに泣かれました。
べビーシッター二日目。
「ああ、何やってんの!? ルシオラちゃん!!」
「ふぅ、うう、うあぁぁぁぁぁぁぁあんっ!」
ルシオラちゃんが部屋のビデオデッキを弄ってたので、慌てて引き離したら泣かれました。
ベビーシッター三日目。
「パ、パピリオちゃん…死ぬから! お兄ちゃん、死んじゃうから!!」
「きゃは! きゃはははははっ♪」
パピリオちゃんがぐずり出したので、あやした。上機嫌になりすぎて霊波砲乱射。本気で死ぬと思いました。
子供って、凄いなぁ。
子育てって、命懸けだったんですね。
がんばれ、横島君!!〜横島君と三姉妹〜
え〜。ベビーシッター初日。
アシュタロスさんに色々注意事項とか聞きました。
魔族だからGSや神様、その関係者には敵視されているので。見付かったら問答無用に一方的に攻撃される恐れ有。
アシュタロスさんは完璧に魔力を消せるので問題はないが、まだまだ小さいルシオラちゃん達はそうはいかない。
なので、絶対にこの屋敷から出しちゃいけない。
屋敷――塀の内側の範囲ね――には結界が張ってあるので安全とのこと。
俺だってルシオラちゃんたちが危ない目にあったり、殺されたりなんて絶対お断り。
そんなことにはならないよう、気を付けないと。
ルシオラちゃんたちに関しても少し説明を受けました。
長女はルシオラちゃん。蛍の化身。主食、砂糖水。
次女はベスパちゃん。蜂の化身。主食、蜂蜜。
末っ子がパピリオちゃん。蝶の化身。主食、蜂蜜。
ホントはもっと個人で違う能力があるらしいけど、幼すぎて本人たちも使えないので今はこれだけでいいらしい。
で、俺の子守生活がスタートしたわけですが。
子供の強さを侮っておりました。
学校が終われば直行です。
アシュタロスさんの家は丁度俺のボロアパートと学校の中間。
ベビーシッター三日目にはそのまま向かうようになった。
学生服のままだけど気にしない。
アシュタロスさんが余っている部屋を自由に使ってもいいと言ってくれたので、一室に俺の荷物とか着替えとか置かせてもらってます。
俺が前に立つと同時に門は自動的に開いて、中に入ればやっぱり自動的に閉じる。
「ただいま〜」
「ぽ〜。ぽっぽ〜」
出迎えてくれるのはハニワ兵。
足元をうろちょろしてる奴らに軽く声を掛けながら着替えて、子守り用にと渡されたエプロンを付けて手を洗って子供部屋に。
相変わらずファンシーで明るい部屋。中心のベビーベッドの中には小さな両手で柵に掴まって立ち上がり、こちらを見て笑うルシオラちゃん。
三人とも最近掴まり立ちが出来るようになってきて。
とくにルシオラちゃんはこういう風に俺を出迎えてくれることが多い。
「あ〜い♪ あーうあうあー」
嬉しそうにはしゃいで柵から手を離し…べしゃり。
後ろに向かって転びました。まだ自力で立てないもんなぁ。
「大丈夫、ルシオラちゃんって…ベスパちゃん下敷きになってるし!」
そう。ひっくり返ってそれでも楽しそうにじたばたしているルシオラちゃんの下には、ベスパちゃんが。
俺は慌ててベスパちゃんを抱っこして、その顔をのぞきこむ。
「痛くない? 平気?」
「うう〜。あう、やぁ〜う」
痛い痛い。ベスパちゃんの手が俺の顔をぺちぺちと叩く。
柔らかいし小さな手だけど、一番力が強いし。目とか急所的な部分にも普通に手が来るので油断できない。
ベスパちゃんは一番の人見知りで。流石に最初みたく泣かれることはなくなったけど…。まだ完璧には懐かれてないわけで。
俺が抱っこしてもあんまり笑ってくれません。ちょっとショック。
まあ、なんともないみたいだから良かったけど。
ベスパちゃんをベッドではなく、床に降ろそうと屈み込んだ俺の背中に軽い重みと高い体温。
誰かが乗ったのだ。
こーゆうことするのは――
「パピリオちゃん、危ないよ?」
その体勢のままで首を巡らし背中を見れば。
目が合った子はにこぉと笑う。
この子達は当たり前に飛べるから、時々こーゆうことをする。
ルシオラちゃんの場合は俺の視界に入る位置からやるので平気だけど、パピリオちゃんは急に見えない位置から乗ってくるから危ないんだよなぁ。
背中に乗られてうっかり落としたら…えらいことになる。
とりあえずベスパちゃんを降ろして。
パピリオちゃんに手をまわす。自分から抱っこされにきたのでよかった。
はしゃぎながら俺の服や髪を引っ張るパピリオちゃんを片手に、ベッドでつまらなそうに座っていたルシオラちゃんも抱え上げる。
「あ〜、きゃふ! うあ〜あ!!」
ようやく抱っこしてもらえたからか、ルシオラちゃんも嬉しそうに俺の顔を触ったりパピリオちゃんに手を伸ばしたり。
二人とも床に降ろせば、パピリオちゃんはベスパちゃんのところに這っていく。はいはいって、結構早いんだよな。
すでにお気に入りのクマのぬいぐるみで遊んでいたベスパちゃんは、それを片手で振り回して迎える。
…嫌がってるわけじゃないんだけど。
ベスパちゃんの感情表現は三人中一番わかりづらい。
それでもパピリオちゃんは気にせず楽しそうにじゃれてるし、やっぱり姉妹なんだな、と感心。
ルシオラちゃんは俺の足元。ズボンの裾をきゅうっと握って。
早く遊んでと訴えている。
俺は座って膝の上にルシオラちゃんを抱き上げた。
「なにしよっか? 何して遊ぶ、ルシオラちゃん?」
「あー。あうー。あ〜え、え〜」
指したのは絵本。
まだまだ言葉も話せないけど、こっちの言っていることはおぼろげながらも理解してくれているので助かる。
「どれがいいかなぁ〜? どれ読みたい、ルシオラちゃん?」
散らばった絵本を一冊一冊ルシオラちゃんの前に持ってきて、表紙を指差していく。
ルシオラちゃんが選んだのは、『ヘンゼルとグレーテル』。
内容を理解しているというよりも、絵が好きなんだろう。きっと。
魔女がでかでかと描かれているページにくると、「きゃあ〜」と可愛い声をあげ、膝の上で跳ねる。
怖がってるのか喜んでるのか? どっちだ。
絵本を読みながら横目でベスパちゃんたちを確認。
さっきと同じようにぬいぐるみに囲まれてじゃれあっている。
その様子が子猫とか子犬とか。そんな感じですごく可愛い。
読み終えて、面白かった?と聞くとルシオラちゃんは楽しそうに笑ってくれた。
「はい、みんなと一緒に遊ぼうね〜」
ベスパちゃんとパピリオちゃんのところに連れて行く。
ルシオラちゃんは体を動かすよりも絵本とか、その場で動かずに出来る遊びが好きみたいだけど。
運動不足はだめだしな。好奇心は旺盛なんだけどなぁ。
ウサギのぬいぐるみを噛んでいたパピリオちゃんが方向転換してルシオラちゃんに、ではなく俺に向かってきた。
「あ〜う! うあ、だぁ〜あ!!」
ぬいぐるみを持って何か一生懸命に訴えてくるけど…正直よくわからん!
抱き上げて、どうしたの〜?と聞いてみれば、ぬいぐるみを振り回す。
「あう! あいう〜あ〜の!! あぶぅ」
「ウサギさんだねぇ。くれるの?」
首を傾げて問えば、パピリオちゃんが嬉しそうに何度も頷いた。
「ありがとう、パピリオちゃん」
「あーう!」
手足を振り回して喜ぶパピリオちゃんを撫でて降ろして、ほっとした。
パピリオちゃん、一番感情表現豊かで明るい子だけだけど一番手がかかる。
いや、悪い子って意味じゃなくて!
ぐずったり泣いたり、機嫌が悪くなると霊波砲を見境無しに乱射するくせがあるんだよなぁ。しかも機嫌が良くなりすぎてもする。
それで何度か死に掛けてるし、アシュタロスさんも何とかしなければって困っていた。
まだ赤ちゃんだから仕方ないけど、これが他の人に当たったりすると命に関わるし。
それよりも魔族ということがバレるので、そっちのがやばい。
もっらたウサギはエプロンのポケットに入れておく。
こーゆーときでかいポケットって役に立つ。
再び、今度は別のぬいぐるみで遊び始めたパピリオちゃんと押すと音のなるオモチャを弄っているルシオラちゃんを見守って。
子守は色々と忙しい。
ベスパちゃんのオムツを替えたり、腕にぴとぉと抱きついてくるルシオラちゃんに高い高いしたり、パピリオちゃんが投げてくるおもちゃを受け止めたり。
ルシオラちゃん、色んなものに興味持つのはいいけどどうしてバラしたがるんだ?
パピリオちゃん、飛ぶのはいいけど壁とか天井に激突するのは危ないって!!
べスパちゃん、アシュタロスさんのスーツをどこから持ってきたの…?
この子達が個性的なのか、これくらいの子供って皆こうなのか?
その後しばらく遊んで、おなかがすいてきたみたいなのでご飯の用意。
ルシオラちゃんたちはハニワ兵に任せて、キッチンに。
廊下であったハニワ兵に風呂が沸いていると教えられた。
最近ずっと顔をあわせてるからな。
なんとなくニュアンスで理解できるようになった。
侮れんなぁ、俺の順応能力。
広くて無駄に設備が充実したキッチン。棚には色んな国の色んな種類の蜂蜜がずらり。
冷蔵庫の中には俺用の食材をのぞき、どこそこの山の湧水とか名水とか天然水が所狭しと並んでいる。
別の棚には砂糖が、これまたずらずらと。
普通の砂糖に和三盆とか外国産の砂糖とか。これはどこの国の文字ですか?
蜂蜜は適当なものを選んで適量を器に移し、砂糖水はルシオラちゃん専用のコップに入れてよくかき混ぜる。
これだけで準備完了だから手間もかからない。
ちなみに蛍は砂糖水が好きとか言われてるけど、実際は違う。
歌に出てくる「甘い水」も、綺麗なおいしい水の例えだ。
それをアシュタロスさんに言ったら、しばし沈黙の後――
「ふっ。糖分はエネルギーに変換されやすいのだよ」
と、尤もらしいことを言われた。
その日一日、部屋に閉じこもって出てこなかったけどな。
……アシュタロスさん、あんたって人は。
それらを持って部屋に戻ると、小さなテーブルと椅子を準備。
三人を座らせて、食事タイム。
「はい、ルシオラちゃん。ご飯だよ」
ルシオラちゃんにコップを手渡すと嬉しそうに受け取った。ストローと両側に取っ手がついているタイプなので、持ちやすい。
ルシオラちゃんが飲み始めるのを確認して、ベスパちゃんたちに向き直る。
「はい、ベスパちゃん。あ〜ん」
「あ〜」
素直に口を開けたベスパちゃんに、スプーンで蜂蜜を食べさせる。
で、ベスパちゃんがもごもごしてるうちにパピリオちゃんにも一口。
パピリオちゃんは椅子の上でもはしゃいで、微妙に食べさせ辛い。
「おいしい? ルシオラちゃん」
「あ〜い!!」
聞けば、上機嫌な返事。
彼女には、こまめに声を掛けたり意識を向けるようにしている。
この子は性格上割と手がかからないし、一人で食事が出来る。結果他の二人にかかり切りということになるんだけど…。
ええ、慣れない頃それをやって――泣かれました。
癇癪です。構ってもらえなくて寂しかったか、悲しかったか。
それはもう、盛大に!
霊波砲乱射? ふふ…それだけだったらまだマシだったかもね〜。
泣いて泣いて泣いて。
とにかく泣いた。残された二人も釣られて泣き出すし。
修羅場だ、アレは。
謝り倒してご機嫌をとって。それでもぐずって。
ほぼ一晩中かかって宥めて。結局そのときは泊り込んであやしたな。
アレは二度とごめんです。
心の底から反省して、最近は大丈夫。…多分。
ご飯を食べ終えたら、全員がうとうと。
ベッドに寝かせたら、俺は自分の飯の用意。
うどんですよ。スーパーで売ってる、煮るだけのやつ。
卵を落として、月見うどん。完成!
レトルトは体に悪いしルシオラちゃんたちが欲しがっても困るので、出来るだけやめろとアシュタロスさんに言われた。
一応雇い主の言うことは聞かないと。
そーゆうわけで最近カップ麺は食ってない。
うどんを食いながら、宿題のプリントを埋めてゆく。
ここで重要なのは答えが正解か不正解か、ということではない。
ちゃんとプリントを埋めたという過程だ! 結果は二の次!!
別に入学わずかで俺の成績が底辺を漂ってるとか、どこがわからないのかすらわからんとか。そんなことではないぞ!
ふ、自分で言ってて空しくなってきた。
飯を食い終わったら、器を片付けて子供たちの様子を見る。
気持ち良さそうに寝てる。
俺の気配に気付いたのか、ぱちりとパピリオちゃんが目を開けた。
こちらに手を伸ばして笑っている。
この子は寝つきもいいけど、寝起きもいい。
「おはよう。お風呂入ろうか?」
俺の言葉に笑うパピリオちゃんを抱き上げ、まだ寝ているルシオラちゃんたちはハニワ兵に任せ風呂場に。
早めに済ませて戻らないと残された二人が泣き出すことがある。
子供用の小さな浴槽には適温のお湯。
驚かせないように少しづつお湯をかけて、お風呂に入れる。
パピリオちゃんはたいていの場合楽しそうに笑って、嫌がらないからある意味楽だ。
ベビー用ソープで慎重に体を洗って、頭を洗って。
泣かれないように、泡が入らないように。気を付ける。
気持ちいいのかきゃらきゃら笑うパピリオちゃんの泡を流して、お湯の中で少し遊ばせて。
完了。
湯上りの体はほかほかして気持ち良い。
あ〜あ、ほっぺたも真っ赤になって。
着替えさせて部屋に戻ると、ハニワ兵がジュースを用意してくれている。
それを飲ませて、次はベスパちゃんの番。
濡れるのがイヤなのか一番ぐずる。
それでも何とか入浴を終えて、最後がルシオラちゃん。
この子はほんとに聞き分けがいいというか、大人しい。
アシュタロスさんは、ルシオラちゃんを長女と設定しているからその影響だと言っていた。
なので、一番簡単に済んでしまう。
気を付けることと言ったらのぼせないか、溺れないか。それくらい。
バスタオルで拭いて、触覚は自分でぴるぴる振ってしぶきを飛ばす。
「気持ちよかったね、ルシオラちゃん」
ニコニコしているルシオラちゃんの頬をつついて、笑う。
あうあうと上機嫌なルシオラちゃん。抱っこして部屋に戻る途中、アシュタロスさんが帰ってきた。
「あ。お帰りなさい、アシュタロスさん。ほらルシオラちゃん、パパだよ〜」
「ただいま、横島君。いつもすまないな。良い子だったか、ルシオラ」
口調はまとも、だが笑顔が崩れている。ルシオラちゃんを抱き上げて、頬ずり。
親馬鹿だなぁ、と思うが慣れた。
幸せそうだし、本人。
嬉しそうに撫でて、笑って。気が済んだのか俺に向き直った。
「そうそう忘れるところだった。これが完成したんだ」
ポケットから取り出したのは、ブレスレット、か?
三つ。白っぽい数珠みたいで、中心にそれぞれ青、赤、オレンジと淡く光を放つ石。
普通のものではないと、俺でもわかる。
なんだか妙な波動?みたいなもんを感じるし。
「なんですか、これ?」
「うむ。これは私が作った一種の結界だ。これをつけていれば魔力が抑えられるし、霊波砲も撃てなくなる。まあ、封印だと思ってくれてかまわない」
誇らしそうに胸を張る。
早速青い石のをルシオラちゃんに。
部屋に戻ってすやすやと寝息を立てているベスパちゃんたちにも。
起こさないように気を付けて、その細い腕にはめる。
赤がベスパちゃんで、黄色がパピリオちゃん。
ルシオラちゃんを抱き上げたまま。アシュタロスさんはもう一つ、同じものを取り出した。
薄紫の石が付いたそれは少しばかりデザインが違う。
それは俺に差し出され、
「持っていたまえ。アミュレット…お守りだ」
「いいんですか? 俺が貰って」
「うむ。いつも世話になっているしな。何かあったときのため、一応の用心だ。常時身に付けていたまえ」
そう言われたのでありがたく受け取ることにした。
い〜んかな? 身に付けろって、こーゆーアクセサリーはあんまり似合いそうに無いんだけどな。
左手首にはめると妙に馴染むというか、はじめっからそこにあった感じ。
違和感が無いのが逆に違和感がある…。ま、すぐ慣れるだろ。
「あい、あーぱぁ。ぱぁ〜う」
アシュタロスさんの腕の中。一人取り残された形になっていたルシオラちゃんが声を上げた。
機嫌が悪いというわけでなく、ちょっと寂しかったようだ。
なにやら訴えたいのかしきりに言葉にならない声を上げる。
「どうしたの、ルシオラちゃん? 何かあった〜?」
聞きながら腕を伸ばすと、ルシオラちゃんも俺の方に身を乗り出してきて。
そして――
「あ〜。あーうぱあ〜あ。ぱぁぱぁ〜。ぱーぱ」
ひっしと俺の腕を掴んで、言いました。
はい、しっかり聞こえましたとも。聞き間違いじゃありません。
俺は反射的にルシオラちゃんを抱っこして。
ああ、ルシオラちゃん。そんな言いたいこと言えましたってすっきりした顔して。
アシュタロスさんは…?
そう思って首を巡らすその前に、ぎしぃっと嫌な音を立てつつ大きな手が俺の頭に置かれた。
「これは、一体どういうことだね? 横島君」
やっぱり。
笑顔です。すっごい笑顔です。お願いですからその背後の瘴気を何とかしてください。
頭蓋に感じる圧迫が徐々にきつくなってますよ?
早く何か言わんと殺される!
「し、知りませんよ!! 普段アシュタロスさんが家にいないからじゃないですか!?」
とりあえず責任転嫁!
「仕方が無いだろう! トップともなるとやらなければならないことがたくさんあるのだから! しかも私は二束の草鞋を履いているのだ!!
私だって家にいたい、出来るなら一日中娘達と戯れていたいし、一緒にお風呂♪だって堪能したいんだ!! 娘達の可愛い姿をカメラにもビデオにも収めたいし、お昼寝だってしたい! 手作りの洋服だって着せてやりたい!!
だが! それが出来ないからこそ、こうして毎日毎日身を切るような思いで仕事に出ているのだろう!!」
「わかりましたから紫色の血涙流しながら迫らんで下さい! 気持ち悪い!!」
肌色の上を滝の如くこぼれる紫色の涙って、ちっちゃい子トラウマになるぞ!!
胸に抱いたルシオラちゃんの視線をアシュタロスさんから逸らし、俺も半歩身を引いた。
おろろ〜〜んと泣き声を上げるアシュタロスさん。俺を睨むと、
「裏切ったな、私の気持ちを裏切ったな!! 父さんと同じように〜!!」
「誰が父さんだ〜〜〜っ!!」
「うわぁ〜〜〜〜〜ん!! 横島君の変態、ロリコン! 欲望下半身直結人間!! 横島君なんて…横島君なんて熟女の胸で窒息してしまえ〜〜!!」
「悪質なデマを流すな〜! って、なんだ最後のは!?」
捨て台詞と共に全力で走り去るアシュタロスさん。
ああ、家から出て行っちゃったよ。
熟女の胸で窒息、ちょっといいかもとか思ったぞ! ロマンですね!!
「あ〜う? ぱぁぱ〜?」
飛び出したアシュタロスさんを見送ったルシオラちゃん。不思議そうに首を傾げた。
アシュタロスさんもパパなんだ。
「ルシオラちゃん。俺は〜?」
「ぱーぱ!」
自分を指差し聞けば元気に応えて。
アシュタロスさんの写真―ルシオラちゃんたちと一緒に写ってるやつ―を指差して聞いても、パパで。
意味がわかってないんだろうな。
まだちっちゃいしな。
俺の呼び方は別に教えんと。またアシュタロスさんが暴走する。
「俺はお兄ちゃんだよ、ルシオラちゃん」
「おーにぃ?」
きょとんと繰り返すルシオラちゃんをベッドに寝かして。
アシュタロスさんの泣き声で起きてしまったベスパちゃんたちも、もう一度寝かしつけて。
それから――
高架下。赤提灯の屋台で呑んだくれてたアシュタロスさんを迎えに行きました。
親の方が子供より手がかかってどうする!
ベビーシッター。いろんな意味で大変です。
続く
後書きと言う名の言い訳
この横島、まだ霊力は使えません。次回もこんな日常ですがどうなるか? ハニワ兵との心の交流が書きたい…(待て)。
ルシオラたちがもう少し大きくなってから、GSたちと絡ませようかと。
ちなみに横島のエプロンは首と腰で止めるスタンダードでシンプルなタイプ、膝まであります。子供はよく汚すから。アミュレットはたいしたものじゃないですよ、多分。
話を面白く書くって、どうやるんでしょうね…? 本気でヤマもタニも無いな。
皆様、ここまで読んで下さってありがとうございました!