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「DAWN OF THE SPECTER 3(GS+オリジナル)」

丸々&とおり (2006-02-25 01:11/2006-02-25 21:49)
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「なぁ、いくら何でもやり過ぎだと思うんだけどさぁ。
俺はルパン3世かっつーの。って、あんたらは知らんか。
ルパン3世ってのはな――――」


説明しようとした所で誰も聞いてない事に気付き、やれやれと肩をすくめた。

エコノミークラスとも言えない簡素な軍用輸送機の座席で、青と白の横縞模様の囚人服に身を包んだ青年が退屈そうに身をよじる。
青年は後ろ手に手錠をかけられ、足首にも鉄球付きの足枷をはめられ、さらに駄目押しとばかりに呪縛ロープで厳重に縛り上げられていた。
座席の左右を髪を短く刈り込んだ屈強な大男に挟まれ、正面には同じく髪を短く刈り込んだサングラスをした黒人が腕を組んで見張っていた。


「拘置所を二度も脱走した男のセリフとは思えんな。
……いや、護送中のも合わせるなら三度か。」


サングラスの位置を直しながら、黒人の男が疲れ切った表情でため息をつく。

身柄を拘束してから僅か三日という早業で日本へ強制送還された訳だが、本来の予定では身柄拘束から二十四時間以内に強制送還は執行される筈だった。

…だったが、何と護送されているさなか、横島が手錠を外して脱走してしまったのだ。

それなりに付き合いも長く、横島の行動パターンをある程度理解していた黒人の男――ラルフが、横島が脱走する都度先回りして捕獲したのだ。
捕獲現場が全て夜這いを仕掛けた女性宅というのも、横島らしいと言えば横島らしい。

三日で強制送還というのも、自由の女神像破壊の犯人を嗅ぎ回るマスコミ連中が横島の存在を嗅ぎつける間一髪のところだった。


「それにしても薄情だよなー。
命懸けでワイバーンを倒した報いがこれだもんなぁ。」


横島が既に何度目になるかわからないほど繰り返された愚痴をこぼし、ラルフも今までと同じ答えを繰り返す。


「我が国の象徴にミサイルを撃ち込んでおいて、逮捕されないだけありがたいと思え。」


ちゃんと搭載武器の説明を聞いていなかったのは確かに横島の不注意だったが、とはいえ、本来あれは不可抗力だったし、厳密には横島の責任では無いだろう。
しかしそんな言い訳は怒れる群衆には通用しない。
自由の女神とは、アメリカ人にとって単なる銅像以上の大きな精神的支柱といって良い。

もしも横島の存在がマスコミに掴まれていたなら。
引き金を引いたのが横島だと明らかになれば。
一部の過激な愛国者がどんな行動に出るかわからなかった。

彼らからすれば、理由はどうあれ、横島のした事は悪質なテロだと思われかねないのだから。

奥深い山奥や、誰もいない海の上ならともかく、昨日の失敗は大都市のすぐ近くで起こしてしまったのだ。
何時目撃者が現れないとも限らなかったし、そうなってからでは手遅れになる。

そんなラルフ達の配慮など知った事かとばかりに脱走を繰り返されては、歴戦の海兵隊員といえど、疲れ果ててしまうのは無理もない事であった。


「あれは突然現れたワイバーンの仕業という線で丸く収めたんだ。
わかっていると思うが、日本で妙な事を口走るんじゃないぞ。」

「へいへい。わかってますよ。
俺だって余計な事してせっかく稼いだ資産を没収されたくないし。」


ぷいと目を逸らし、つまらなさそうにそっぽを向く。
軍はバラバラになった飛龍の死体をかき集めてマスコミに引き渡していた。
何故バラバラになっているかは適当な理由をつけてごまかしていたが。

後は横島さえ黙っていれば真相は闇に葬られるだろう。


「そーいや、誰かが迎えに来てるんだよな。
ラルフは誰が来るか知ってんの?」

「いや、私は聞いていない。
GS協会が誰かを手配したという事しか聞いていないんだ。」


ふーんと頷き、少し考えを巡らせた後、目を輝かせて尋ねた。


「女かな?」


「知らん!」


「若いかな!?美人さんかな!?」


畳み掛けるような横島の言葉に、とうとうラルフがキレた。


「知らんと言っとるだろうが!
もう黙れ、この色魔が!!」

「いやぁ、楽しみだな〜♪」


こめかみに青筋を浮かべるラルフを余所に、先程の不満顔はどこへやら。
横島は新たな出逢いへの期待に胸を踊らせ、はや心は日本へと飛んでいた。


民間と半々で利用している空港に輸送機が着陸し、日本に上陸した瞬間、ようやく横島の拘束が解かれた。
むしろその時点まで解放しなかったというあたり、横島の日頃の行いの突飛さを窺わせる。

囚人服から用意してあった普段着に着替え、引き渡し場所に向かう。
半袖のブラウンのシャツに濃い灰色のジーンズという、なかなか落ち着いて見える服装を選んでいた。
空港ロビーから見る、何年かぶりの日本の空。
移動しながら、ふと当たり前の事を思い出していた。


(ああ、そういや、今って6月なんだよなぁ。)


何年もアメリカで暮らしていたので、横島は日本の四季を忘れかけていた。
空港内は空調が行き届いていたが、航空機の出入りの際に感じたじとつく湿気。
独特の季節を感じ、6月は梅雨の時期なのだと。

日本に帰ってきたのだと、改めて感じていた。


「あ、ちょいと待った。
先にトイレ行かせてくれ。」


その言葉にラルフがため息をつきながら懐から財布を取り出した。


「……どうせ整髪料もいるんだろ。
そこの売店で買うんだな。」

「さっすがぁ♪
わかってんじゃ〜ん。」


まだ日本円を持っていない横島が、満面の笑顔で一万円札を受け取っていた。
意気揚々と空港内のコンビニに入っていく横島を見送りながら、横島の左右を固めていた男の一人がラルフに尋ねる。


「よろしいのですか、ミスター・ゲイト?
何もそこまで気を遣わなくてよいのではないかと思いますが。」


その言葉をやれやれと心底嫌そうな顔で否定する。


「こんな事でへそを曲げられてまた逃亡でもされてみろ。
我々の面子は丸潰れだ。100ドル足らずですむなら安いものだろう。」


警戒厳重な拘置所から二度も逃亡されたのだ。
日本側に引き渡すその瞬間まで、ラルフは最善を尽くすつもりだった。


手早く頭をセットした横島が手洗いから出てくると、ラルフが誰かと話していた。
ラルフの大柄な身体に隠れてしまい横島の方からは確認できないが、どうやら話している相手が日本側の身元引き受け人のようだ。
ロビーは飛行機を待つ人々で混みあっているため、なかなか相手の姿を確認できないが、とりあえず相手の顔を見てみなければ始まらない。

ツヤ無しワックスで自然な感じに髪を整えた横島が、爽やかな笑顔を浮かべ近づいていく。
こういう事は初顔合わせの第一印象が肝心だ。

さりげなくラルフの隣に並び相手を確認した途端、とたんに横島の表情が露骨に嫌な顔になる。
相手も横島に気付いたのだろう。
パッと顔を輝かせると歓声をあげた。


「いやぁ立派になったものだなぁ、見違えたよ横島君!
四年前急に姿を消して、今までずっとアメリカにいたのかい?
皆とても心配していたんだよ。」


丸眼鏡をかけた神父服を着た中年の――そろそろ初老にさしかかる――男が、懐かしさと安堵のあまり涙ぐんでいた。
何も言わずに忽然と姿を消した彼をずっと心配していたのだろう。
さらに寂しくなった頭髪と、残り少ない中に目立つようになった白髪が、神父が相変わらず苦労の多い生活を送っている事を窺わせる。

感動の再会に盛り上がる神父を余所に、横島がラルフの方に向き直り、口を開いた。


「チェンジで。」


「出来るか、この馬鹿!」


期待を見事に裏切られた横島がぶるぶると肩を震わせると、クワッと目を見開き、ラルフに掴みかかった。


「チックショォォォォ!
普通こういう時は若手の美人GSが出てくるもんじゃねーのか!?
そんで最初は反発しあいながらも少しずつ心を通わせていき、最後には……
的な展開が待ってるんじゃないのかぁぁぁぁ!!」

「んなもんこっちの知った事かぁぁぁぁ!!」


こんの嘘つきがぁぁと殴りかかる横島に、ラルフも堪忍袋の尾が切れたとばかり、固い拳で殴り返す。
混み合う空港のロビーに激しく殴り合う音が響き渡り、神父が手のひらで顔を覆って嘆いていた。
空港警備隊が駆け付け、神父の髪がまた少し薄くなるまで二人の拳での語り合いは続けられた。


横島が鼻血を流しながら、帰っていくラルフの後ろ姿に中指を突き立てていた。
せっかくシックに決めた服装も台無しだが、ラルフも血こそ流していないが、膝がガクガクと笑って、海兵隊の制服もぼろぼろで見る影も無い。

二度と合衆国に足を踏みいれるな、この色魔が!と最後に釘を刺しつつも、ラルフは仲間の海兵隊員に引きずられるようにアメリカへと戻って行った。


「ったく、何で神父なんスか。
エミさんとか冥子ちゃんとか、綺麗どころはいくらでもいるってのに。」

「君ねぇ……」


昔と変わらぬ、というかむしろひどくなってさえいる横島の調子の良さに、神父が苦い顔をする。
だがその表情とは裏腹に神父も悪い気分ではなかった。
やはり彼には自然体が良く似合う。


「さ、それじゃ行こうか。
まだ住む所も決まってないんだろう?
うちの教会で良ければしばらく使ってくれても構わな――――」


ふと違和感を感じ言葉を切る。
周囲を見渡すといつの間にか横島がいなくなっていた。
置いてあった筈の荷物一式も一緒に姿を消している。


「あれ、横島君?」


もう一度周囲を見渡せども、見えるのは見知らぬ人々の顔ばかり。
それから数分して、ようやく横島が逃げ出した事に気付く神父であった。


「神父にゃ悪いけど、好き好んでおっさんと一緒に居る趣味はないんだよな。
って事で、ここからは俺の好きにさせてもらうさぁ。」


まずは両替両替、と言葉を弾ませ、軽快な足取りでロビーを後にした。


神父が懐から携帯を取り出し、ぎこちない動きでボタンを押していく。
相手が出たのを確かめ、申し訳なさそうに頭を下げる。


「やあ、申し訳ないんだけど、ちょっと問題が起きてしまったんだ。ここまで来てもらえるかな。
――――え?いや、たいした事じゃないよ。横島君がどこかに行ってしまったようでね。
君に探すのを手伝ってもらいたいんだ。
――――うん?このまま直接探しに行くって?
まあ、そうだね。君ならすぐ見つけられるだろうし、それじゃお願い出来るかな。」


携帯を懐にしまうと、停めておいた車の方へと足を向け、ロビーから歩き去っていった。


「へっへ〜♪こんだけありゃ当分遊んで暮らせそうだな。」


空港内の喫茶店で預金通帳をにやにや眺めながら、横島がアイスコーヒー片手にくつろいでいた。
通帳の金額は、若かりし頃では想像もできない程に膨らんでいた。
半ば追い出されるようにアメリカを後にしたのだが、資産はきちんと日本に移してくれていたようだ。

あまり貯蓄に熱心な方ではなかったが、収入自体が大きかったからか、何時の間にやらそれなりの資産が手元に残っていた。
これなら当分飢餓に悩まされる心配はないだろう。


「とは言ってもなぁ、一生遊んで暮らせる程じゃないしなぁ。
これからどうしよっかなぁ……」


腕を枕にしてテーブルに突っ伏し、これからの事に考えを巡らせる。
とその時、チリンチリンと鈴が鳴り、店の入口から誰かが入って来た。

鈴の音に惹かれ、何気なく視線を向ける。

入って来たのは、二十歳前後の若い女性だった。


(お、イイね〜♪)


一目見た瞬間、横島の頬が緩んだ。


(淡い水色のブラウスにタイトなスカート♪
フォーマルな服装って意外とそそるんだよなぁ♪)


上機嫌で、値踏みするようにじっくりと眺める。
無論相手が不快に思わないよう細心の注意を払う事は忘れていない。


(すっげぇ綺麗な髪だよなぁ♪
向こうでもここまで綺麗な金髪にはなかなかお目にかかれないもんな。
ん、金髪?いや、ちょっと待てよ?)


女性は店内の視線を一身に集めながら、コツコツと上品にヒールを鳴らしながら横島の方へ一直線に歩いていく。
どこかで見たような特徴的な髪形に気付くと、横島は気配を消してスッと椅子から立ち上がり、さりげなく女性の視界から外れるように移動する。
そのまま声もかけようとせず、伝票を手に取り一目散に店を後にしようとする。

二人は無言ですれ違った。
が、やったとばかりに横島が少し歩いて、いざ走り去ろうとした所で。
金髪の女性が不意に声をあげた。


「コーヒー、まだ半分も飲んでないじゃない。
ゆっくりしていきなさいよ。」


振り返りこそしていないが、女性の言葉は明らかに横島に向けられていた。
その言葉が背中を突き刺すように、横島の足を止めて。
冷や汗を流しながらも観念したのか、横島が立ち止まり振り向いた。


「よ、よぉ、久しぶり。」


振り返った女性の冷ややかな視線にも負けず、横島がとびきりの作り笑いを浮かべた。
透き通るような鮮やかな金髪を九房に纏めた女性が、不機嫌そうにふんと鼻を鳴らしていた。

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