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「DAWN OF THE SPECTER 2(GS+オリジナル)」

丸々&とおり (2006-02-18 00:42/2006-02-19 19:17)
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紺色の海の絨毯を一つの影が疾走していく。
その凄まじい速度により、風は見えない塊となって海面を切り裂き、水飛沫が舞い上がる。
空の漆黒と海の紺が混じり合い水平線もぼやけているにも関わらず、影は迷う事無く一直線に突き進む。

その時、分厚い雲が途切れて澄みきった月の光が降り注ぎ、影がその姿を現す。

流線形の、バイクに良く似た青い機体に一人の青年が跨がっていた。
スキーに使うゴーグルのような物を身につけ、耳には無線式のヘッドフォンを装着している。

前触れも無くヘッドフォンに通信が入り、状況を伝えてくる。


『ミスター・ヨコシマ、後約一分で敵と接触する予定だ。
敵はレーダーに映らないため正確な位置は不明だ、注意してくれ。』

「ん、レーダーに映らないのに後一分ってわかるのか?」


横島がふと浮かんだ疑問を口にする。
それを聞いた通信係は軍人らしく簡潔に説明する。


『宇宙から人工衛星の非可視状況下用カメラで監視している。
レーダーと比較すれば大まかになるが、ある程度の位置は掴める。』

「ふーん、なるほどね。全く、雲の下すら監視出来るってか…」


横島がふむふむと納得したように頷いている。
もう通信は終わりかな、と思っていると通信機から絞り出すような、先程までの事務的な口調とは打って変わった声が聞こえてきた。
その声色は苦渋に満ちている。


『君のような民間人に頼まなければならないのが情けない限りだが……
頼む、あの悪魔を倒し……仲間の仇をとってくれ……!』


その言葉で、既に敵に戦闘機を三機落とされている事を思い出す。
だが横島はぺろりと舌を出し唇を湿らせると自信ありげな笑みを浮かべた。


「ヘヘッ、大船に乗ったつもりで任せなさいってね。」


右手のアクセルを思い切り吹かせ、己の霊感が囁く方向へ急加速した。


(――――アレか!)


海面ギリギリを飛行していた横島の表情が引き締まる。
上空を見上げると、開けた雲間からのぞく月明かりを浴びて、異形が翼を広げていた。
焦点をあわせると、ゴーグルに拡大した映像が映し出される。

全身を包む漆黒の鱗を月明かりが照らし、不吉な光沢を帯びる。
恐ろしく強固に見える甲殻に覆われた翼を広げ、まるでこの空は自分のものだと主張するかのように悠々と風に乗っていた。

翼を広げた全長は約三十メートル。
鋭い角を頭部に幾つも生やし、それは背中から尻尾の先まで生え揃っていた。
鳥類と同様に、両腕は翼と化しており鋭い爪を生やした両足で獲物を捕らえるようだ。


(これじゃジュラシックパークっつーより、ゴジラのノリだよなぁ……)


引き受ける時に聞いていた前情報を思い出し、横島が苦い顔をする。
漆黒の空の王の凶悪な姿は、見る者の恐怖を引き出すには充分過ぎた。

だがそれは普通の人間の話だった。
残念ながら、この青年は普通の人間の感性の持ち主とはとても言えなかった。


「さぁ〜てちゃっちゃと片付けて、楽しい楽しいデートといきますかぁ!」


横島が握る左右のグリップは神通棍と同じ仕組みになっており、乗り手の霊力を直接機体に取り込むように造られていた。
デートの期待にたぎる霊力に呼応するかのように、フリーダムキーパーが淡い瑠璃色の光に包まれる。

剥き出しの乗り手を風圧から保護するため、ほとんどのフライヤーは常に自動的に微弱な結界を展開するよう設計されている。
このフリーダムキーパーも例外では無く、だからこそ繋ぎのライダースーツとゴーグルだけという軽装で乗りこなす事が出来る。

常人離れした霊力が注ぎ込まれ、血の通った機体の動力部が狩りの始まりを喜ぶかのように咆哮をあげる。


「行っくぜぇぇぇぇぇぇ!!」


機体後部のメインブースターが爆発し、瑠璃色の光が放出される。
狙いを定めるかの如く機首を黒い飛龍に向け、最大戦速で一直線に急上昇を始めた。

急激なGで、体が振り落とされそうになる。
風は結界で防いでいるので問題無いが、急な加速により発生する強烈なGだけはどうしようも無い。
さらに機体の限界に近い速度で突っ込んでいるため、動力部が悲鳴をあげ、機体が激しく震え始める。

フリーダムキーパーが乗り手を選ぶ真の理由はここにあった。
起動に必要な100マイト以上の霊出力を持つ者は、探せば恐らく見つかるだろう。
だが継続しての霊力供給、それに加えてのこの急な加減速に耐えられ、しかもそれを恐れずに更なる一歩を踏み出せる人間となるとそうはいない。

しかし横島には下積み時代の様々な経験があった。
学生服一つで箒に跨がり音速を超えた事もあれば、生身で大気圏突入を成功させた。
他にも首都高で車から投げ出された事もあれば、乗っていたF-1が猛スピードで空中分解するなど、枚挙に暇が無い。
普通の感性を持つ人間にしてみれば冗談にしか聞こえないが、実際にこれらを経験した横島にしてみれば、フライヤーを乗りこなすのはそれほど難しくはなかった。
必要な体力や腕力も、常日頃行っている訓練や、下積み時代の過酷な労働で彼の体を強靭な戦士の肉体へと成長させていた。

そして現在、常人ならとっくに気を失っている程の強烈なGの中でも、彼の目は獲物の姿をしっかりと捉らえて離さない。
空の王は己の真下から接近する狩人に気付いていないのだろう、視線を空の彼方に向けたまま悠然と翼を広げていた。

獲物が無防備なまま射程距離に入った瞬間、横島は口元に笑みを浮かべ、勝利を確信する。
グリップを握り締め定められた霊波のパターンを送り込み、機体に搭載された武器を起動させる。
両手が塞がった状態で操縦しなければならないため、フリーダムキーパーは特定の霊波パターンを入力する事で武器を扱えるように設計されている。

横島の命令に応え、鋭く伸びた機体の先端部が光を放つ。

これは乗り手の霊力を先端に集束させ、まるでガレー船の衝角(ラム)の如く敵を穿つというものだった。
言ってみればただの体当たりなのだが、一点に集束させた高出力の霊力を超スピードでぶつけるのだ。
その威力は尋常ではなかった。

横島はテスト運転の際、厚さ三メートルもの鉄板を貫く事に成功していた。
その収束霊波があらゆる物質を貫く光の矢と化した。
黒い飛龍を撃ち抜く一筋の流星が闇夜の空を切り裂いていく。


彼はとても上機嫌だった。
深海の底で成長し、羽根が自重を支えるのに十分な広さを備え、ついに飛び出した大きい空。
空を飛ぶのは昨夜が初めてで――

暗い海の底と違い、空には光が満ちており、自分以外に誰もいない空を飛ぶのはとても気持ちが良いものだった。
だがその気分に水を差すように、今まで見た事も無い何かが背後から追いすがり自分の横に並んだのだ。

その何かは翼から炎を吐き出しながら飛行し、とてもうるさい音を立てていた。
耳障りな音を立てるその何かが気に入らず、自慢の鋭い爪で引き裂いてやろうと思った。

だがその前に、見た事の無いこの『何か』をじっくり調べてみたいという好奇心にかられた。
彼はその欲求に従い二本の足で素早く両翼を捕らえた。

捕らえた獲物はその身を激しく揺らし、彼の両足から逃れようと試みたが彼の力の方が上回っていた。
抵抗する獲物を押さえつけ、じっくりと観察し始める。

獲物の身体はなかなか頑丈だ。
とはいえ、彼がその気になれば握り潰せる程度の硬さだ。
翼から噴き出る炎は少し熱い。
だが彼の堅牢な鱗を焼く程ではない。

これが何なのかは彼にはわからなかったが、少なくとも彼にとって必要なものでは無さそうだ。
興味を失い握り潰そうとしたところで、クラゲのような透明な膜の中に、何かが動いている事に気がついた。

一目見ただけで、彼の本能はこの小さなものが御馳走だと見抜いた。
顎が目一杯に開かれ、乱雑に生え揃った鋭い牙に唾液が伝う。


空に鮮血の華が咲き、続く機体の爆発により虚空の彼方に吹き飛ばされた。


その後、またも彼に纏わり付いてきた二体の獲物を胃袋に納める頃には、小さいがこの果てし無く美味な獲物が大のお気に入りになっていた。
そして彼はどちらに向かえばこの獲物を思う存分楽しめるか、本能で察知していた。

御馳走への期待に胸を踊らせ、ニューヨークへ向けてその漆黒の翼を大きく羽ばたかせていた。


(やったか……?)


敵を貫いたという手応えは確かにあった。
だがスピードが速すぎたため、果たして致命傷を負わせたかどうかは確認出来なかった。

ちらりと後方に目をやると、黒い飛龍が重力に引かれて真っ直ぐに落下していた。
闇夜の中では良く見えないが、かなりの量の血液を噴き出し、身動き一つせず落ちていく。

仕留めた、と横島が判断しようとしたその刹那、突如飛龍が翼を羽ばたいた。
自由落下に逆らい、意識を取り戻した漆黒の飛龍が体勢を立て直す。

フリーダムキーパー必殺のサイコ・ラムは稼動限界を超え、集束していた霊力は既に解除されている。
サイコ・ラムの問題点は、霊力を一点に集束させるのが短時間しか出来ず、さらに一度使えば冷却時間をおかねば再使用が不可能な点だった。
とは言え基本的には一撃必殺の兵器なので、二度目を考えなければならないような状況ならそもそも使うべきではないのだ。

飛龍の方も人間で言うなら脇腹から腰の辺りを三分の一程度えぐり取られ、かなりの深手を負わされている。
人間なら致命傷だが流石は龍族、生命力が強いようで宙で静止している横島を憎悪を込めた双眸で睨みつける。


『バオオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!』


聞く者の精神を恐怖という鉄槌で破壊する程の叫び声をあげ、手負いの飛龍は横島に襲い掛かった。


「元気ハツラツだな、こんにゃろう。」


大口を開けて突進してきた飛龍を軽々とかわし、バイクを操るように車体を傾けて小さく旋回すると、勢い余って通り過ぎた飛龍の背後をとる。

フリーダムキーパーに搭載されている武器はサイコ・ラムだけではない。
ゴーグル越しの視界にロックオンサイトが浮かび上がる。

背後を取った横島をふりきろうと飛龍が速度を上げる、が――


「逃がすかよ、トカゲ野郎!」


当然素直に逃がしてやる訳も無く、飛龍を赤い十字架の中心に捉らえ、躊躇せず機体の左右に搭載された霊波砲を起動させた。
闇を切り裂き、霊力を圧縮させた光弾が飛龍に迫る。


(――――いいっ!?)


標的を完全にロックしていた。
それは確かだった。

だが飛龍に命中した弾丸は炸裂する事なく、鱗に弾かれ虚空へと消えて行った。

飛龍は鱗の表面に油のような体液を分泌して、攻撃を逸らしていた。
飛龍がレーダーに映らないのも、ステルス戦闘機のようにこの体液が電波を反射せずに後方へと受け流しているからだった。
もちろん横島は全てを察した訳では無いが、飛龍の鱗が霊力を弾くらしいという事は直感で理解した。


「くっそぅ、面倒臭い身体の造りしやがって!」


愚痴をこぼしながら霊力の弾丸を連射するが、やはり全ての弾が鱗に受け流されてしまった。


「おい、こらー!
 こっちの攻撃効かないんだけど、どういう事だぁぁぁぁぁぁぁ!?」


ほとんど八つ当たり気味に通信機に声を上げる。


『機銃も通用しない頑丈な鱗だという事はわかっていたが……
まさか霊的な攻撃も防ぐとは想定外だった。君の健闘を祈る。
オーバー。』


――――ブツッ!――――


「ちょ、ちょっとー!?」


応答が無くなった通信機に声をかけるが応答はない。
そうこうしている内に飛龍が反転し攻撃に転じる。

えぐられた脇腹からドス黒い血液を撒き散らしながらも、その黒真珠のような双眸は激しい憎悪に彩られていた。
己を傷つけた横島を叩き潰そうと、すれ違いざまに尻尾を思い切り振り抜いた。
だが横島は相手の死角へ潜り込み、危なげなく回避する。

背後をとっていたドッグファイトの最中は気付かなかったが、こうして正面から向かい合うと、どうにか勝ち目がある事に気付く。
正直かなり危険な方法だったが、横島はにやりと嬉しそうに口元を歪ませた。


「それじゃ、運試しといきますかぁ!」


恐怖心というものを持ち合わせていないのか、それとも自分が勝つと信じているのか。
どちらにせよ横島の表情には恐れや不安といった感情は欠片も浮かんでいなかった。
狩りに臨む肉食動物の如く、ゴーグルの奥の両眼はギラギラと危険な光を湛えている。

アクセルを全開にし、トップスピードで真っ正面から突撃する。
飛龍もこの生意気な小さな獲物を腹の中に入れるべく、牙を剥き出し獰猛な雄叫びをあげた。


瞬きの間にも満たない刹那の交錯。


すれ違った後の尻尾の一撃を避け切れず、フリーダムキーパーの右側に搭載されていた霊波砲とミサイルポッドが空の彼方ヘ吹き飛ばされていった。


「三発、ってとこか。」


ぽつりと横島が呟いた。


『オオオオオオォォォォ!!』


口から大量の血液を吐き出しながら、飛龍が絶叫していた。
さっきのすれ違いざま、横島がサイコ・ラムで穿った傷口に霊波砲を撃ち込んでいたのだ。
傷口から侵入した弾丸は飛龍の体内で炸裂し、重要な臓器の幾つかに深刻な損傷を与えていた。


「別にお前にゃ恨みはないが、これで終わりにさせてもらうぜ!」


内側からの衝撃のせいだろうか、飛龍の前面の鱗は無残に剥がれ落ちていた。
これではもはや盾の役割は果たせない。

とどめを刺すべく残った左の霊波砲で狙いをつけながら瀕死の飛龍に迫る。

砕けた鱗の部分を砲撃が撃ち抜く寸前、いきなり飛龍が大きく口を開け黒い霧のようなものを吐き出した。
大量に吐き出された黒い霧は飛龍の周囲を完全に覆いつくし、飛龍の姿を保護色の如く周囲に溶け込ませる。

横島が勢い黒い霧の中に突っ込むと、霧の中は月明かりすら届かず、視界は全く利かなかった。
そしてまだ霧を吐き続けているらしく、その有効範囲はなおも拡大する。


(結界?――いや、霊力は感じない。)


試しに霊波砲を撃ってみるが問題無く発射できた。


(毒?――フライヤーは微弱とはいえ結界を展開している。
仮に毒だとしても俺が吸い込む危険性は皆無だ。)


霧に紛れて襲ってくるかと思ったが、どうやらそれも違うようだ。
刹那、飛龍を探ろうとして、気付く。


(――――畜生!ミスった!!)


飛龍の気配が急速に遠ざかる。

烏賊や蛸が身の危険を感じた時に墨を吐くように、この黒い霧は本能的に横島に勝てないと悟った飛龍が逃走のために吐き出したのだ。
遠ざかっていく気配を追い、横島は思い切りアクセルを握り締めた。


生物の構造的に、彼は痛みをほとんど感じなかった。
現にかなりの深手を負わされているはずの今でさえ、痛みは無いに等しかった。
だが彼は全力でこの場から離れようとしていた。

何故か?

彼は生まれて初めて恐怖というものを知ってしまったのだ。
己に迫る小さき者の背後に、圧倒される何かを感じ取ってしまったのだ。

もしも彼が人の知識を持っていたならば、大鎌を携えた黒衣の髑髏の影を見ていただろう。
今なお背後から迫る死の恐怖に、彼は己の死期を悟った。

「待ちやがれコノヤロー!!」


黒い霧を抜けた横島が全速力で飛龍を追いかける。
相手はレーダーに映らないため、霊感で感じる大まかな方向に突き進むしか無かった。
黒い霧に包まれていたのは数十秒程度だったが、その間全力で逃げた相手に追いつくのは困難だった。

水平線の彼方に街の灯りが浮かび上がり始める。


(うわぁ、まずいぞこりゃー。)


もしもあの飛龍が街に到着してしまった時の事を考え、横島の頬に冷や汗が流れる。
いくら手負いとは言え――いや、むしろ手負いだからこそ――被害は甚大なものになるだろう。
戦闘機の機銃を弾き、霊力の弾丸すら通じないのだ。警官や機動隊などの手に負える相手ではない。

しかし闇夜に紛れる漆黒の飛龍を目で見つけるのは、正直な所できそうに無かった。
募る焦りを抱えながら、目を皿のようにして辺りに注意を払う。

そうこうする内にどんどん灯りは近付き、もう数十キロ程度の距離まで来てしまっていた。
この速度なら、後数分足らずで街に辿り着いてしまうだろう。


(ちっくしょー!いったいどこに居やがるんだ――――――って、あれは!!)


視線の先で、街の灯りを遮るかのように一瞬影が差したのを横島は見逃さなかった。
街に近付こうとしているからこそ見つける事ができた。


「焦らせやがってコンニャロウ!!」


鬱憤を晴らすかのように、一直線に霊波砲を連射しながら追撃する。
背後からでは傷口を狙えないため結局全部弾かれてしまう。
だが構わず横島は撃ち続けている。

弾いているとはいっても多少の衝撃は伝わるのだろう。
霊力の弾丸の嵐を嫌がるように飛龍が方向を変え、街から外れた入り江へと入っていった。

街から外れた事で横島はしてやったりと喜んでいたが、ここで現在地を少しでも思い浮かべていれば後の悲劇は起こらなかっただろう。
何がこの先にあるのか――――ニューヨークで暮らす人間なら誰もが知っているのだから。

大西洋から飛来した横島と飛龍は、ブルックリン区とスタッテンアイランド区の間の狭い海路を通っていた。
何とか街中に逃げ込もうとする飛龍を横島が霊波砲で牽制し、逃げる事を許さない。


「この距離なら……もらったぜ!!」


そしてついに横島が最後のジョーカーを切る。
霊波砲の上部に取り付けられていたミサイルポッドから、三発のミサイルが飛龍めがけて襲い掛かった。

機銃や霊力の弾丸の軌道は逸らせても、霊力と機械を組み合わせたミサイルを防ぐ事は、鱗の剥がれ落ちた飛龍には不可能だ。
ミサイルは白煙を吐き出しながら飛龍との距離を縮めていく。
飛龍がミサイルの軌道上から逃れようとするが、逃げ場を奪うように先読みした弾丸が大気を切り裂いていく。


「へっ、なかなか手強かったが――じゃあな、あばよ。」


もはや命中は確実になった所で、横島が手をひらひらと振って別れの挨拶をする。
このままミサイルは飛龍を焼き尽くし、横島は依頼を達成して万事解決、となるはずだった。

結論から言えば、飛龍は焼き尽くされた。


だが――――――


「ちょ、おい!?」


その時横島は見た。
ミサイルの弾頭が三つに分かれ、合計九つものミサイルが飛龍に襲い掛かるのを。


『ミサイルは手数を重視し、多弾頭型に変更――――


出発前に、確かにモニカはちゃんと説明していた。
だが口説く事で頭がいっぱいだった横島はちゃんと聞いていなかった。

そして至近距離で分かれた弾頭は――――


轟音と共に飛龍に命中し、炎に包まれた飛龍が海面へと落下していく。
翼は破れ、両足はちぎれ飛び、首から先も木っ端微塵に吹き飛ばされた。
先ず間違いなく致命傷だ。


だが果たして九発全て命中したのか?
どこかに流れ弾として逸れてしまってはいないか?


どこかで爆発音が響くのを聞いた気がする。
横島の背筋に嫌な汗が流れた。


「…………き、気のせいだッ!!
俺は何も聞いてない!何も見てない!問題無く任務完了!!
こういう時は酒でも飲んで忘れるに限るよな!!」


無理矢理納得させるように力強く自分に言い聞かせると、くるりと旋回して帰路についた。


そして翌朝の横島の寝室。
全てを聞き終えた黒人の男が興味深そうに頷いている。


「…………ふむ、なるほどな。
つまり君は薄々わかっていたがフリーダムキーパーをさっさと降りると、気にせず帰って来た、という訳だ。」

「ま、まあ、そういう言い方もあるかもな。」


さっと目を逸らし横島も相槌を打つ。


「で、酒を飲んで女を口説いて、この部屋に連れ込んで楽しんだ、という訳だ。」

「うむ。あれは良い女だった。
スタイルも良好、感度もバッチリ!それに中の具合も――――」


大袈裟に頷き昨日ベッドに連れ込んだ相手の感想を言おうとした瞬間――


――――ドドドドドドドドン!!――――


ラルフが構えた銃が火を吹いた。


「コ、コラー!!
そんなもんくらったら死んでしまうだろうがぁぁぁぁ!!
弾が当たればとっても痛いんやぞぉおおおおおおおおおお!!
軍人のくせにそんな事もわからへんのかぁぁぁぁぁ!! 」


横っ飛びでかわした横島がベッドの影から声を上げる。
既に弾は切れてしまっているにも関わらず、ラルフは引き金を引き続けている。

しばらくそうしていたが、カチカチと鳴るだけの銃にようやく気付いたのか、ラルフが懐に銃をしまった。
そして大きく息を吸い込み、自分の感情を抑えるように深々と息を吐き出した。


「ヨコシマ……」


心底疲れた表情で口を開く。


「ん、なんだよ。」


怪訝な表情を浮かべる横島に、ラルフが懐から一枚の紙を取り出し手渡した。
それに目を通した横島が慌てて声を上げる。


「おい、これ!冗談だろ!?」

「言うまでも無いが、無論冗談ではない。
アシュタロス事件後、いかな国土防衛の為に心霊兵器の開発が急務となったとは言え、合衆国軍もアメリカGS協会も、これ以上お前を使うのは割に合わないと判断したんだ。」


突き放すようなラルフの言葉に、横島の手から紙が滑り落ちた。
そこにはアメリカのGS協会会長と合衆国空軍の司令官の連名でサインがしてあった。
その内容は、横島忠夫の日本への強制送還というものだった。


「いや、そりゃ、今回はやり過ぎたかもしらんけど、いきなり強制送還ってのは無いんじゃない?」

「先月はグランドキャニオンの一角を吹き飛ばしたな。」


ラルフの言葉に横島がうぐぐと仰け反る。
だがまだ諦めずに抵抗を試みる。


「そんな事もあったかもしれないけど、たった2回だけの事じゃないか。」

「先々月は発電所の除霊の際、ラスベガス全域を停電にしたな。」


そんな事もあったかなー、と横島が口笛を吹きながら目を逸らす。


「そして今回の自由の女神像の破壊。
これ以上お前に好き勝手させる訳にはいかん、というのが上層部の決定だ。
安心しろ、引き取り先は日本のGS協会に話をつけてある。」


そう言うと携帯を取り出し、横島を横目で見ながら短縮のダイヤルをかける。


「なーラルフー、俺達友達だろー?
頼むから何とかしてくれよー。」


馴れ馴れしい言葉にラルフがじろりと睨みつける。


「ほう、それで次はエンパイヤステートビルにミサイルをぶち込む気か?
――――もしもし、私だ。奴はここに居た――――ああ、突入だ。」


不穏な言葉に横島が質問しようとした時、玄関の扉が激しい音を立てて開かれ、幾つもの足音が聞こえてくる。
事態が理解できず呆然とする横島を、あっという間に屈強な警官達が取り囲んでいた。


「連れて行け。」


「ちょっと待て!おい、いきなりなのか!?
身の回りの整理とか色々あるんだけどぉぉ!!」


後ろ手に手錠をかけられズルズルと引き摺られていく横島の叫びが、むなしく早朝の市街地に響き渡っていた。

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