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▽レス始

「センチメンタル・エゴイスト 第3話(GS+少年魔法士)」

瑞原夕梨 (2006-02-24 11:03/2006-02-24 11:04)
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 爆音。
 そして爆風。
 再び爆音。
 爆風。

 集中砲火。

 その真っ只中に立つのは一人の女性。赤いショートの髪を僅かに靡かせつつ、凛と立つ彼女は、一人、孤独な戦いを続けていた。
 籠城戦。
 守るべきは自らの後ろにある研究室だ。

 限界は近い。
 自らの計測器がはじき出す数値が、正確に冷酷に、未来を告げる。
 誤差はあって3分。それだけの長さを余分に稼げれば御の字だ。

 しかし、それでいい。
 人工頭脳のはじきだした結論に、彼女も一人頷く。
 もう少し、あと少しで、マスターは目的を達するだろう。

「ソーリー、ドクター・カオス」
 声は爆音にかき消される。

「マリアの我が侭。聞いてくれて嬉しかったです」

 彼女の孤独な戦いは続く。
 初めての望みを、自らの製作者が叶えてくれるその瞬間まで。


第3話。もう一人の逆行者


「おっそいなぁ。忠夫のヤツ」
 狭いアパートの一室。万年床と化している布団の上で、高島は小さくあくびをした。
 部屋の主である横島は、飯を買いにいくと言って出て行ったきり、帰ってこない。
 時間にして、40分。エロ雑誌を立ち読みしているにしても(それはそれで、ツワモノだが)時間がかかりすぎていた。
(はて? この時期に何か、あったっけか?)
 先日精霊の壷をおキヌが見つけたばかり。
 その直後の出来事となれば……
「ああ、あのボケ老人か」
 すっかり忘れていたが、ドクター・カオスと初めて会ったのが、今ぐらいの時期だったと、高島は思い出す。
「ということは、忠夫はマリアに捕まった後か」
 マリア。久しぶりだなと高島は笑う。
「そうだな。あのじいさんを巻き込んでみるか」
 今はボケたとはいえ、ヨーロッパの魔王。それに、他のメンバーに比べて倫理観が低い(美神も金銭的な面では倫理観なぞ無いに等しいが)のも理想的だ。
(神様を造るなんて、そそるだろうしな)
 問題は、あの痴呆だが……
「それはこっちで、なんとかするか」
 高島は守袋に手を添えると、中の双文珠の効果を消す。
 そうして、右手に霊力を集中させると、数個、文珠を作り出した。


「ちきしょー。やっぱ、ラーメン食っときゃよかったぁ」
 喚き声。
 右腕を後ろに捻り上げられ拘束されながらも、横島は騒ぐ。
 その声に閉口する老人、ドクター・カオスの声など聞こえていない。
 そのことに焦れたのか、カオスは
「貴様のように、レベルの低い輩には説明など不要のようだな」
コートを肌蹴ると、そこには魔方陣が描かれていた。
 雷撃。
 魔方陣から発せられたそれの直撃を受け、横島はぐったりとその身をマリアに預けた。
「おいおい、そいつは大事な身体なんだ。もう少し丁寧に扱ってくれないかな」
 どこからともなく響く声。
 バッとマリアが身構えるが。
「そんな警戒しなくても、何もしないって」
(今はね)
 不穏なセリフは胸の内。
 いつの間にか侵入していた高島は、目にも留まらぬスピードで横島の身体を奪還。
 スタリと、カオスとマリア、二人の前に降り立つ。
「お前は何者だ」
 カオスの誰何の声に、高島はニヤリと笑い。
「高島蛍人。あんたにひとつ取引を持ち掛けに来た」

「取引?」

「そう」
 頷き、高島は一度言葉を切る。焦らすように。

 そうして――


「神様を造ってみたいとは思わないか?」


「横島忠夫は特異体質だ」
 気を失った横島の身体を床に横たえて、高島は目の前に立つカオスに、言葉を紡いでいく。
「コイツの魂には、免疫機構に先天的な障害がある」


『横島さん。落ち着いて聞いてくださいね』

『ルシオラさんを貴方の子供として復活させる件ですが、不可能だと。そう、結論がでました』

『ごめんなさい。私達がもう少し早く気づいていれば……』

『ルシオラさんの魂を確認することができないのね。ヨコシマさんの魂と混ざり合っちゃったみたいなの』

『横島さんの魂には、障害があるんです。多分、先天的な免疫障害が』


「『移植される者(レシピエント)』だな」
「さすが、ヨーロッパの魔王。知っているなら、話は早い」
 高島の手が横島の肩に触れる。
「この身体は誰も拒まない。なにしろこいつは、無条件なる『移植される者(レシピエント)』だからな」
「ほう、それは」
珍しいとカオスの瞳が細められる。
「人間は、魂も肉体も独りでしか生きられない。常に自分を守り、自分を確かめながら他と混ざり合うことなく生きていく。
 だがコイツは、自分の魂に入り込む異質なものに対して、排除する力がない。
 もしも、何かに取り付かれたら最後、それを拒む力も、それを自分でないと判断する能力さえ、おぼつかない」

「つまり、何とでも融合する」

 まあ、これは受け売りだけどな。
 言って、高島は横島の身体から手を離した。

「この身体を使えば、神を創れる。
 そう思わないか?」

 だからこそ、神も魔も横島忠夫を排除しようとしたのだから。

「自分より高位の存在を食わせることにより人造で神を作ろうというのか」
「そう、人の力で新たな神をつくる。
 今存在する神も魔も、結局はオレらとあまり変わらない、俗物だと思わないか?
 ただ、そこにある力が違うそれだけで。
 それは、逆に言えば、力さえあれば人も神になれるということだ。
 神は誰も救いはしない。
 ならば、オレの手で作ってやろうじゃないか。オレ達を救ってくれる神様ってヤツを。
 混ぜて混ぜて混ぜて、全てにして唯一の究極のキメラ」


「そう、オレは神を創造するよ」


「いかれておるな」
 不意に、高島から寄せる雰囲気が剣呑さを帯びる。
 が、カオスは気にとめるふうでもなく、高らかに笑った。
「面白い。そんな事ができるのは、この天才ドクター・カオス以外おらんだろう」
 がははははははと天を仰ぐ。
 が、だ。そんなふうに背を反らすと……

 ゴキッ

「こ、腰がっ、腰がぁ」
(大丈夫かよ。このじいさん)
 ぎっくり腰か、腰を押えて呻くカオスに高島は白い目を向ける。
「ま、マリア、腰を摩ってくれ」
「イエス。ドクター・カオス」
(って、おいおい、マリアにそんなこと頼んだら)
「ぐわぁぁぁぁ」
(あーあ、やっぱり)
 マリアにとっては、軽く撫でているつもりなのだろうが、如何せん馬力が大きすぎる。
 痛めた腰をさらに痛めつけているカオスに生温い視線を送りながら、高島は小さく溜息を吐いた。
(しかし、マジでこのままじゃ使い物にならんな、このじいさん)
 掌に乗せた文珠を数個転がしながら、高島は「仕方ない」と呟く。
「んじゃま、協力してくれる代価を先に支払っておこうかな」
 コロコロと文珠が床を転がる。
「おい、じいさん」
「ドクター・カオスと呼べ小僧」
「じゃあ、あんたも高島と呼べよな」
 少し、会話を交わし、高島は文珠の力を解放する。
 文珠の数は4つ。浮かぶ文字は『記』『憶』『再』『生』

 と――――

「ぎゃあああぁぁぁ」
 悲鳴。
 頭を抱えて転げまわるカオスに、高島はしまったという表情を浮かべ、
「悪い悪い。順番間違えたわ」
謝意の言葉。しかしそこに誠意は感じられないが。
「そりゃ、こっちの方を先にやらんと、脳がオーバーヒートするわなぁ」
 再び、文珠が投げられる。
 浮かぶ文字は『記』『憶』『共』『有』
 すると、頭の痛みは治まったのか、カオスの動きがピタリと止まる。
 数度頭を振りながら立ち上がったカオスは
「小僧、今何をした?」
ジロリと高島と睨みつけ問う。
「だから、小僧は止めろって」
「ふん。わしにとっては、まだまだ小僧だがな。まあいい。高島か。お前何をした」
 そう言うカオスの瞳には、先ほどは見受けられなかった知性の光が宿っている。
「お、成功か」
 ニヤリと笑い、高島は手の中に残っていた文珠をカオスの前に差し出した。
「? それは、まさか文珠か」
 素早くカオスの手が伸びて、高島の手から文珠を奪い取る。
 高島はそれを楽しそうに眺めながら、先ほどの文珠の効果を説明し始めた。
「あんたのボケた理由は、その膨大な知識が脳の容量を超えたからだろ?
 おかげで、古い記憶は壊れてボロボロだし、ちゃんと形を保っているものでも、取り出しにくくて仕方がないときてる。
 だから、まず、壊れた記憶を修復して、それから、脳の容量を増やしたってワケ。
 本当は、容量を増やしてから、記憶を修復しなきゃならなかったんだけどな」
 ま、ちょっとした手違いってやつか?
「それは、下手をしたら廃人だぞ。お前」
「ははははは。だから悪かったって言ってんじゃん」
「誠意の欠片も感じられんヤツだな。しかし、それはまあいい。だが、脳の容量を増やすといったが、どうやってそんなことを?」
「別に。ただ、大量に容量がある頭脳とあんたの脳を繋いだだけ」
「!? まさか、マリアと」
「そ。マリアの電脳とアンタの脳の記憶野を共有させたわけ。あ、大丈夫。記憶は共有してるけど、思考やその他は別物だからさ」
 そう、高島はカオスの脳の容量をより大きな入れ物と接続させることで、単純に増加させようと考えたのだ。
 初めは単純に『若』『返』で若返らせようかとも思ったのだが、それでは記憶も戻ってしまう。そこで考えたのが、脳の容量アップだったというわけだ。
 しかし、やはりただ『容』『量』『拡』『大』としただけでは、カオスの容姿がどこぞの超常番組に登場する、頭でっかちの銀色宇宙人のようなりかねない。
 それはさすがに気持ち悪い。
 ギャグはともかくシリアスには耐えられないし
「しかし、文珠使いか。それだけの力があれば、わしの力など必要ないだろう?」
なぜ、この話を持ちかけた?
「ああ。だってオレ頭悪いし」
 サラリと高島が言う。
 実は、先日のミスが後を引いているのかもしれない。
 カオスは一瞬キョトンとし、そして――
「あははははははは」
 『爆笑』そう言っていい笑い方で笑いだす。


「気に入ったぞ、小僧。いいだろう。ワシの頭脳、お前の為に使ってやろう」


 高島が、横島の体を抱えて研究室を出て行った後。
 それまで、黙っていたマリアが口を開いた。
「いいのですか? ドクター・カオス」
 疑問の言葉に、カオスが振り返る。
 マリアの顔をみて、「ああ」と一人頷いた。
「そうか、視たのか」
 記憶を。
 そう、それはこれから先の記憶。
 まだ起こっていない未来の記録だ。
「イエス。未来のマリアが迷惑をおかけしました」
 困ったようなマリアの雰囲気にカオスが笑う。
「ははははは。娘に我侭を言われるのは、ずいぶんと楽しい経験だったぞ」
『ヨコシマさんを助けて欲しい』
 そう言った娘の瞳を思い出す。
 彼に出会ってから数年。ずいぶんと人間らしい感情を手に入れたものだ。
「しかし、記憶の共有とは無茶をする」
「ノー。マリアの記憶回路にはまだ充分な空きがあります」
「そういうことを心配しているのではないのだがな」
 苦笑。
「まーよい。記憶は共有されても、思考は別物であることは確かなようだ」
 そこで、一度言葉を止める。
「さて、では最初の質問の答えを言おうか」
 カオスの手がマリアの頬に伸びる。
「これでいいのだ。マリア。
 小僧がただ未来を変えるためだけに過去(ここ)へきたのなら、わしは全てを打ち明け小僧に協力しただろう。それがマリア、お前の願いだったのだしな。
 しかし……神を創るか。
 昔の自分を犠牲にして」
 カオスは数度頭を振る。
「マリアの願いは『横島忠夫』を助けること。過去であれ、未来であれ、『横島忠夫』と言う人間を助けることがわしの仕事だ」
「ならば、ナゼ、了承を?」
「高島の干渉を排除すれば、確かに世界は救われるだろう。
 一人の、英雄と呼ばれるべき青年の絶望と引き換えにな。
 しかし、それは最善か?
 最悪ではない。ただそれだけだろう。
 だから、儂は小僧についたのだ。
 退屈と停滞はわしの最も嫌うところ。
停滞を求める現在(いま)よりも、進化の可能性を含んだ未来を選んだと、そういうことだ」
それにとカオスは言葉を続ける。
「小僧は本当にかつての自分を忘れているようだが――
 まあ、一つ、予言というか予定といってもいい言葉を告げておこう。
 小僧の思惑どうりには未来は動かんとな。
 なにしろ、あいつの計画の要は、あの『横島忠夫』だぞ。
 予測不能。
 それが、横島忠夫の真骨頂だというのにな」


あとがき
あれ?カオスが戻ってきてる。
まあ、それはいいとして。
高島君の望みはこんな感じです。
未来横島君はちょっと思考のベクトルというか意思の軸になる部分が本編時の横島忠夫とはズレている模様。
その原因は、後々ということで。
でもまあ、それもいつまでか。カオスじゃないですけど、高島君の隣にいるのは「横島忠夫」ですからねぇ。

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