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「センチメンタル・エゴイスト 第二話(GS+少年魔法士)」

瑞原夕梨 (2006-02-22 11:01)
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「で、アンタ、何が目的なんだよ」
 朝飯(勿論カップラーメンだ)をかき込みながら、横島がたずねる。
 結局昨日はバタバタしていて、肝心のことを尋ねる機会がなかったのだ。
 横島が帰宅したころには、既に高島は寝ていたし。
(十一時に就寝って、ガキかよ。この人は)
「『アンタ』ってなぁ他人行儀な。お兄ちゃんって」
「呼ぶかっ」
「まあいいが。ぶちゃけ、目的なんかねーよ。
 ただ、母さんから弟がいるって言われてなぁ。会ってみたいと思ったわけだ。
 オレは一人っ子だしな」
「それだけかよ」
「本当は父親だって人に会いたかったんだが……」
「オヤジはナルニアだぞ」
「知ってるよ。調べた。海外じゃ、追っかけるわけにもいかんしな」
「だったら、もう、目的は達しただろ。さっさと家に帰れよ」
 横島の言葉に、高島は、「あー」と歯切れの悪い声を出すと
「当初はその予定だったんだがな。気が変わった。暫くココにいるわ」
「はぁっ??」
「だって、お前、今にも死にそうだし」
 と、高島は部屋に転がるカップ麺の空き容器を呆れたように見る。
「3食カップラーメンって、一人節約バトルか??」
「俺だって好きで、こんな生活してるわけじゃねぇよ」
「そりゃ、そうだろうが。まあ、毎日は無理だが、週に何回かは、援助してやらんこともないぞ、食事ぐらい」
 途端、横島の態度が変わる。
「是非居てください。お願いします」
 土下座までする横島に、高島は苦笑。
 露骨過ぎる態度の変化は、当然高島の予測通りだ。
(まあ、時給250円だからなぁ)
 背に腹は変えられない。そういうことだろう。
(さて、これで、仕込みは完了か?)
 否と、高島は胸の内で否定。
 確かにこれで、これから起こる事件に自分も巻き込まれることは確実だろう。だが……
「そういえば、お前、変わったバイトしてるんだってな」
 そう、美神令子との面識は絶対に必要だ。
 できれば、高島が除霊現場に何食わぬ顔でついていける。そういう関係に持っていくのが望ましい。
(まあ、無理なら無理で構わないんだがな)
なにしろ
(美神さんの助手はちょっと遠慮したいよなぁ)
 今更時給250円では働きたくない高島だった。


第2話 アンチゴーストスイパー??


「気に病まないで下さい」
 掠れた声が耳に蘇る。

(ああ。これは白昼夢だ)


 きっかけは些細なこと。

 散々ごねた結果、横島に了承を取り付けた高島は、意気揚々と横島について、事務所へ。
 懐かしい『美神除霊事務所』の文字。
 それに目を細め、微かに緊張しているらしい自分に苦笑。小さく深呼吸をする。
 その間に、横島はさっさとドアを開け。

『あ、おはようございます。横島さん』
 耳に飛び込んできた声に、クラリと視界が揺れた。


「気に病まないで下さい。
 って言っても、横島さんは気にしちゃいますよね?」

(ナゼ、彼女ハ笑ッテイルノダロウ?)

「平気です。元々幽霊だったんですもの。また、幽霊として側にいます」

(幽霊?)

「それとも迷惑ですか?」
 困った顔で眉尻を下げて
「これは、私の身勝手です。横島さんの足手まといになるくらいなら……
 私の所為で横島さんが死ぬくらいなら――。
 この方が良かった」
 それでも、また、顔を上げて

(ナゼ笑ウノ?)

「ごめんなさい。
 横島さんを苦しめること、知ってたのにね。
 それでも――
 ううん。なんでもありません。
 横島さん。
 私のこと、怒っていいですから、だから……
 だから、横島さんは生きてください」

(君ハ死ンデシマッタノニ?)

『あああああああ』


「…しま。……かしまっ! 高島!!」

 過去の自分の慟哭は、高島を呼ぶ声に遮られる。
 しまったと顔を上げれば、そこには、心配そうな顔をした横島とおキヌの姿があった。
「大丈夫かよ。顔真っ青だぜ?」
「いや、ちょっと立ちくらみ」
 片手を挙げ、大丈夫だと示す。
「ところで、忠夫。『高島』なんて他人行儀な。ちゃんと『お兄ちゃん』って」
「呼ばんっ」
 きっぱりしっかり、拒否する横島。
「つーか、忠夫もやめろ」
「じゃあ、忠ちゃん?」
「きもいわ!」
「えー。これも不満なのか? じゃあ、たーくんとか?」
「絶対止めろ」
 断固拒否の姿勢を崩さない横島に、高島はしばし熟考。
 そして、不意に意地の悪い笑みを浮かべた。
「晩飯」
 ボソリと呟かれた言葉は、対横島最強呪文。
「肉食えたかもしれないのにな」
「忠夫でいいです。お兄様」
(ああ。貧乏が憎い)
 心の中で、滂沱の涙を流す横島。
(しかし、肉かぁ。何ヶ月ぶりだろう)
 何日単位でないところが、既に涙を誘う。

『あのう、横島さん』
 遠慮がちな声。
 高島、横島、どちらもが、はっと振り返る。
『そちらの方は?』
「あー。こい「僕の名前は高島蛍人。横島忠夫の兄です」
 ぐいっと横島を押しのけて、高島が前に出る。
『お兄さん、ですか?』
 横島から父や母のことは聞いたことはあるが、兄の話はない。
 おキヌは『?』という表情を浮かべて、横島を見た。
「あー、残念ながら、マジで兄貴らしい」
『らしいって……』
「いや、俺も昨日聞いたばっかりだし」
 横島は困ったように隣に立つ男を見た。高島は、どうやら自分で説明する気はないらしい。

 と――

「あんたたち、何騒いでるの?」
 ガチャリとドアノブを捻る音がして、マンションの主が姿を現した。

「ずっと、前から愛してましたvv」

「横島っ!! お前は来るなりいきなりそれかぁっ!!」
 バキッ、ボコ、ドスッ、ガスッ。
 果てはメキョなんて珍妙な音も響く。
 が、しかしだ。
「み、美神さん」
 横島忠夫は、ココにいる。
 おキヌの隣、美神令子の目の前にだ。
 だいたい、バイトを始めてもう数ヶ月。さすがに出会いっぱなにセクハラすることは、なくなった。美神のボディを見慣れたこともある。大部分の理由は、出会い頭では叩き落とされるのが関の山だからだが。痛いし。
「あ、れ? 横島君?」
 と、なるとだ。
 今、美神にルパンダイブを(さすがに脱いではいなかったが)仕掛けたのは……

 美神の足元には、蹴られたのだろうか、ヒールの後が痛々しい高島蛍人の姿があった。

『さすが、横島さんのお兄さんですね』
 行動パターンが似通いすぎである。
「兄って、これ、アンタの??」
「まー、一応」
「って、どうすんのよ。思わず横島君のつもりでどついちゃったじゃない」
 言われて、横島はチラリと高島を見ると……

「もしもし警察ですか?」
「アンタ、何してんのよっ!!」
 超高速の一撃。膝がイイ感じに横島の鳩尾にめり込む。
 そのまま吹っ飛ばされて、壁とキスする羽目となる横島であった。
「か、軽い冗談やったのに」
 呟いて、ガクリと横島の体が落ちた。
「こんな時に、ふざけてんじゃないわよ」
 と、パチパチパチと小さな拍手。
「いやぁ、綺麗な蹴りだなぁ」
 そういえば、高島が足元に居たのだ。そこから蹴りを出せば、すらりとした美脚が、足の付け根ギリギリまで見える。なにしろ美神のスカートはミニだし。
(いやあ、久々に福眼福眼)
「って、あんた無事なの!?」
 ありえない。
 何しろ、本気でボコったのだ。対横島用、手加減ナシ。
「ま、ちょっと痛かったですけど」
「痛かったって。それだけで済むはずないでしょ? ちゃんと霊力だって込めてた……」
 唐突に美神の声が止まる。
『美神さん?』
 怪訝そうなおキヌの声には答えず、美神は壁になついたままの横島へと声をかける。
「横島君、いい?」
「そりゃあもう、今すぐにでも準備OKッス!!」
 何を思ったのか、というか、ナニを思ったのだろうことはすぐに分かったが。相変わらずの超回復で復活した横島が、ここぞとばかりルパンダイブを慣行。
「そう、じゃあ、遠慮なく」
 ニコリと浮かんだ微笑は、しかし、非常に意地の悪いものだった。
「へ?」
 嫌な予感。が、この世界には慣性の法則というものがある。車は急には止まれない。もちろん、今美神に飛び掛っている横島にしてもしかりだ。
「学習ってもんをしなさいよね。あんた」
 バキッといっそ気持ちのいいほどの音を立てて、美神の拳が横島の頬に決まる。瞬間、錐揉みうって吹き飛ぶ横島。ダイブの勢いも加味されたのだろう。見事なカウンターパンチだ。
 美神は視界の隅に横島の姿を捉えながら、軽く右手を振る。
「おかしいわね?」
 呟いて。
 唐突に高島の頭へと、その右手を振り下ろした。

 ドコッ

「痛いじゃないッスか」
 頭頂部をなでながら、少し涙目の高島に、けれど、美神はジトリと半眼を向けた。
「あんた、一体何者?」
「へっ? 一応、忠夫の兄ですけど」
さっき、忠夫が言ってましたよね?
「そういう事を聞いてるんじゃないわよ」
『どういうことですか、美神さん?』
「こいつのね、側によると、霊能力が仕えなくなるのよ」
『えっ?』
「さっきも今も、私はちゃんと霊力を込めて、こいつを殴ろうとしたわ。でも」
 再び美神の拳が高島に。
「そう、何度も殴らないで下さいよ」
「ホラね。全然利いてない。それも当然よね。霊力が込められてない私の拳なんて、そこら辺にいるOLと変わりないもの」
「いや、その割にはかなり痛かったというか、重かったというか……」
「か・わ・り・ないもの」
「そ、そうですね。羽みたいに軽かったです」
「でも、横島相手には、ほら、いつもどうりでしょ?」
 美神の指差す先には、頭からドクドクと血を流している横島の姿。
『そ、そうですね』
 多少、おキヌの声が強張っているのは、アレが普通だと言い切る美神に対してか、それでもすぐに回復するだろう横島に対してか。
「ってことで、あんた一体何者?」
 当初の質問に戻った。
(あー、しくったなぁ)
「何者といわれても。ボクは普通の一般人ですよ?」
 顔には出さず、けれど、高島は焦っていた。
 無意識に、右手が胸元へ。
 ジャージの下、守り袋にいれて首から提げていた、それに手が伸びだ。
 そこには、双文珠が一つ入っている。
 『封印』の文字が入った双文珠が。
「今まで、そんなこと言われたこともなかったですし」
(範囲設定、もっとしっかり考えとくんやった)
 ただ、美神に力を知られたくなかった。
(不信がられたらヤバイし、何より、多少の霊力でも見せてみろ、バイト決定やないか)
 本当に、ここで働くのは嫌だったらしい。
 まあ、そんな考えの結果、高島は自分の霊力を封印することにしたのだが。
 アバウトに、『封印』なんて考えた所為で、その範囲を考慮に入れていなかったらしい。
 今の美神の行動を見る限り、『封印』の範囲は、自分の周囲も巻き込んで作用しているようだと、高島は頭を抱える。
 まあ、あくまで心の中での話しだが。
「特殊、体質とか。そういうんじゃないですかね?」
 おそるおそる、提案してみるが、高島とて、そんな体質聞いたこともない。
「聞いたことないわよ。そんなの。
 まあ、この世の中絶対にありえないことなんて、ありえないんだけどね」
 美神も本当のところは、納得していないのだろう。が、一応高島の説明で折り合いをつけることにしたようだ。理由はともあれ、高島の側では霊力が出ないのは事実だったし。
「名づけるとしたら、『アンチ・ゴースト・スイーパー』ってところかしらね?」
(ふーん。使いようによっては、面白いかもしれないわね)
 そんな美神の思惑に気づいたのか、ブルリと高島の背筋が震える。
 しかし、霊力封印なんて力、どう使うつもりなのか。
 同業者への嫌がらせか?
 その瞬間、美神の頭の中に、悔し涙に濡れるエミの姿かあったとか、なかったとか。
 とにかくこうして、高島蛍人は、美神令子との接点を作ることに成功したのだった。


 少し、というか、ぶっちゃけかなり、高島本人の予定とは、ずれまくってはいたのだが。


あとがき
結構修羅場をくぐっている割にポカミスの多い高島です。
さて、霊能を見せるかどうか、高島君は見せるメリットよりデメリットの方を優先させたようです。
今回の時間移動の目的が目的だけに、おそらく高島は暗躍メインで動きたいのでしょう。だったら、力を隠しておいた方が疑いをかけられにくいですしね。
でもそれでは、作者が動かしにくいので、無理にでも現場に連れて行かれることになりました(笑)
特に誰かさんとの共同作戦時に。だって、この能力って某最凶お嬢様のアレをストップさせられるかもしれないですからねぇ。
しかし、バイオレンス表示のない今回の方が、全体的に見て流血が多いのでは?と思えるのは何故なのか(苦笑)
ともあれ、レス返しです。

>3×3EVILさま
今回も感想一番乗り、ありがとうございます。
そうですね。全ての否定は、高島も色々あったとはいえ横島ですから、どうなることか。
本人としては、出来ると思っているようですけどね。
そこら辺のことは、次回結構色々と明らかになるんじゃないかと思います。
なので、次回をお楽しみに――と宣伝してみたり。

>akiさま
まずは、感想ありがとうございます。
高島の目的は次回で完全に明らかになります。
少し他の逆行ものとは目的が違うので、反応が怖いのですが……
あ、横島の煩悩はちょっとやそっとじゃ矯正できるもんじゃないですよー。
だから、安心してくださいね。
いや、でも多少抑えめになるかも? 原因は瑞原の筆力のなさですが。
精進していきますので、出来れば次もよんでみて下さいませ。

ではでは、本当に感想ありがとうございましたvv

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