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「横島の道、美神の道 その15(GS)」

小町の国から (2006-02-18 17:58)
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横島が目を覚ますと布団の中だった。

「気が付かれましたか横島さん?」

声のした方を見ると小竜姫が座っている。

「小竜姫様・・・・・ああそっか、俺・・・」

横島は修行場での事を思い出す。小竜姫の一撃を防いで反撃しようとしたところ迄しか覚えていない。

「結局俺どうなったんすか?」

「私の攻撃を霊波の盾で防いだようだったんですけど、衝撃までは防げなかったようで壁まで吹っ飛んでそのまま・・・・・」

「そうっすか・・・」

(額に出したサイキックソーサーじゃあ物理的な攻撃力までは防げなかったってことか。よく考えたら神剣をソーサーで受け止めた時に左手が痺れてたんだから当たり前だよな。そんな事も考えないでソーサーを額に出すなんて・・・・・やっぱ俺って馬鹿だわ。)

「横島さん?」

「・・・ん?・・・あっ、はい小竜姫様、何ですか?」

「何処か痛むのですか? 急に黙ってしまって。」

心配そうな顔で小竜姫が尋ねる。

「いえ違います。何処も痛くありません。」

横島は首を横に振った後自分の体を動かしてみるが、特に痛みも違和感もない。

「小竜姫様がヒーリングをしてくれたんですか?」

「ええ、そうです。」

「ありがとうございます。」

「気にしないで下さい。ところで横島さん、お腹は空いていませんか?」

「そう言えば・・・・・今って何時なんですか?」

「もうお昼時はとっくに過ぎていますよ。待っていて下さい、今食事を運んできますから。」

そう言って立ち上がる小竜姫。

「いえいえ、何処も痛くないんですから俺ももう起きます。」

横島は布団から起きて立ち上がる。

「本当に大丈夫ですか?」

「はい大丈夫です。じゃあ行きますか、もう腹が減って腹が減って。」

心配する小竜姫を安心させる為、戯けた態度をとる横島。

「(くすっ)はい、行きましょう。」

二人は居間へと向かった。

「あっ、ヨコシマ! 大丈夫でちたか?」

居間にはパピリオがいた。テーブルの上には勉強道具が広げられている。

「ああ大丈夫だパピ。ずっと勉強してたのか?」

「朝にやった問題の間違ったところを勉強してるんでちゅ。小竜姫ってば、わたちがヨコシマの看護をするって言っても許してくれなくて、勉強を続けるように言ったんでちゅ。鬼でちゅね小竜姫は。」

「おいおい、そんな事を言うとまた・・・・・・」

慌てて背後を向く横島だが、そこに小竜姫の姿はなかった。ほっとして再びパピリオの方を向く。

「危ない発言は止めてくれよ。大概は俺もとばっちりを受けるんだから。」

「むぅー・・・分かったでちゅ。」

横島はパピリオの向かいに座る。

「で、どんなところを間違えたんだ?」

「ここでちゅ。」

「どれ・・・って、何だこれ? そもそも文字なのか?」

「わたちらの使ってる文字で、神族についての問題でちゅ。」

「わりい、それは俺にも分からん。」

「んー、それもそうでちゅね。」

「横島さん、ご飯ですよ。」

お盆を持った小竜姫が居間に入ってきて器を並べる。

「小竜姫様ありがとうございます。それでは、いただきます。」

「はいどうぞ。」

ガツガツともの凄い勢いで食べ始める横島。

「んぐんぐ・・・・・・うまっ・・・・・うまっ・・・・・・」

「凄い食べっぷりでちゅ。」

「うふふ、もっとゆっくり食べても大丈夫ですよ。誰も取りませんから。」

小竜姫が注意しても横島の食べる速度は落ちない。あっという間に全てを平らげる。

「ご馳走様でした。」

「はいお粗末様でした。お茶をどうぞ。」

「ありがとうございます。」

小竜姫に渡されたお茶を啜る。

「その食べっぷりなら本当に大丈夫そうですね。」

「そりゃあもう。小竜姫様がヒーリングをしてくれたわけですし、俺も回復力だけには自信がありますから。」

「ふふふっ、そうでしたね。普通なら危険なくらいの状態からでも自力で復活してましたものね・・・・・女性が絡むと特に早く。」

「ぶっ・・・・・ごほっ・・・・・しょ・小竜姫様、何を言って「それがヨコシマでちゅ。」・・ってパピまで・・・」

頷きあう小竜姫とパピリオ、茶を吹いて咽せている横島も全てを否定できないために言葉が続かない。

(あぁー、俺ってやつは・・・)過去に犯した数々の所行を思い出す度に凹んでゆく横島。

「まあ、それはさて置き・・・横島さん。」

「はい、何でしょう小竜姫様?」

「先程やった組み手の事で聞きたいことがありますから、私と一緒に来てもらえますか?」

「はい、分かりました。」

そうして二人が移動しようとすると、

「パピも行くでちゅ!」

そう言ってパピリオが立ち上がる。

「駄目です。パピリオはここで勉強を続けなさい。」

それを小竜姫が止める。

「むぅーー」

「横島さんとのお話は1時間くらいで終わると思いますし、その後はパピリオも自由時間にしますから我慢しなさい。」

「うぅー・・・分かったでちゅ。」

しぶしぶ頷くパピリオ。

「悪いなパピ。小竜姫様との話が終わったらゲームでもしような。」

そう言いながらパピリオの頭を撫でる横島。

「・・・分かりまちた、約束でちゅよ。」

「ああ、じゃあな。」

そう言うと横島は小竜姫と一緒に居間を出る。

「こちらです横島さん。」

「はい。」

長い廊下を歩く二人。

「ここです、お入りください。」

やがて辿り着いた部屋の扉を開けて入るように促す小竜姫。

「それじゃあ。」

そう言って横島は部屋に入る。

「・・・・・ここは?」

しばらく室内を見渡した後で、扉を閉めて入ってきた小竜姫に尋ねる。

「この部屋は私が主に事務を行うときに使っている部屋です。妙神山の管理人として報告する書類なんかもありますから。」

「はぁー、そうなんですかー。」

改めて室内を見回す横島。成る程机もあるし、本や書類の詰まった棚もある。

「小竜姫様も大変なんですねぇー。」

小竜姫を見ながら感心したようにそう言う横島。

「ええ、私も書類業務は苦手な方ですから、目は疲れるし肩も凝って・・・って、今はそんなことはどうでもいいんです! とにかくそこに座ってください。」

ため息をつきながら真情を吐露し始めた小竜姫であったが、はたと気がついて顔を赤くしながら話を変える。

「では先程の組み手の話をする前に、横島さんが今までどんな修行をしてきたのか話してもらえますか?」

椅子に向かい合うようにして座った後で小竜姫がそう切り出す。

「んー、まあ修行って程大げさなことはやってなかったんですけど、何のことから話せばいいんですか?」

「できれば最初と言いますか、あのアシュタロスとの戦いの後から今日までのことを話してください。」

「そうっすね・・・・・んー、確かにきっかけはあの事件ですから。
 事件の後で俺はルシオラを失った事のショックもあって無気力のまま惰性で日々を過ごしていたんですが、一人になると時々どうしようもない程悲しくなったり、自分に力が無かった事に対してものすごく悔しくなったりしてたんです。まあそれで霊力を上げる訓練を始めました。」

「それは誰に教わったのですか?」

「いえ、本なんかを頼りにして自分一人でやりました。」

「そうですか。続きをどうぞ。」

「はい、始めてから少しずつですが霊力は上がっていきました。まあ毎日やってたわけでもないんですけど。でもそれも60マイトを超えたあたりで止まってしまったんです。そうなってからは何とかならないかと思って色々やってみたんですけど結局無理で、最高記録64マイトで止まってしまいした。」

(えっ、64マイト? そんなはずはない。横島さんから感じる力はもっと大きい。なのに何故?・・・・・いけない、取りあえず今は横島さんの話を。)

「美神さんが約100マイト、雪之丞も約90マイト、それからしたら俺の64マイトなんて自慢になる値でもありません。まあそれで俺には才能が無いことが判ったんで、その後はまた惰性で生きる日々が続いていました。
 そんなある日、美神さんが俺を認めてくれて事務所の正式な職員にしてくれたんです。給料も上げてくれて。それがきっかけになってまた訓練を再開しました。でもやっぱり霊力は上がりませんでした、ただ裏技(煩悩全開)を使えば80マイト代までは行くんですけど持久力がないですし。
 それで自分の出来る能力について改めて考えてみると、霊力値がそんなに影響しない事が分かったんです。サイキックソーサーも霊波刀も文殊も全て収束系の技で、霊波砲みたいな放出系の技を俺は持っていません。だからもっと収束力を上げれば何とかなるかなって考えました。まあそれでも一応霊力が上がったおかげでサイキックソーサーを出しても全身の霊力を集める必要もなくなったし、ソーサーと霊波刀の両方を出す事ができるようになったのは助かりました。」

「はあ、なるほど。」

「それからは自分の能力を工夫して改良する事を考え始めました。もちろん基礎体力の方もシロとの『散歩』で鍛えるようにしたんですけど。
 まずはサイキックソーサーを大きくする工夫をしてみましたが、強度的な問題が起こってあまりうまくいきませんでした。大きくするとどうしても脆くなってしまうんですよ。それで次は霊波刀を強くする事を考えたんです。でもそれも物質化するほど密度を高めてみると鉛筆を削る小刀程度にしかならなくて、仕方なく部分的に密度を高めたりする工夫を始めたんです。尖端だけ高めたり、片刃だけ高めたりと。
 その過程で生まれたのが物質をすり抜ける霊波刀です。相手の防御をすり抜けて攻撃するのに効果的なんで色々便利ですし、それでさっきの組み手でも使ったんですけど、『腑抜けた剣』って言われて消されちゃいました。」

「ああ、先程のはそういうものだったんですか。」

「雪之丞くらいには効果はあったんですけどねぇ。まあ他にも霊波刀の形を変えて全体に柔軟性を持たせて鞭のようにしようとしてるんですけど、これはまだ試行錯誤の段階です。どうも上手くイメージできないんですよ、鞭って使ったことがないもんで。
 そんな工夫をしていた時に海外での除霊に行ったんです。その時に雪之丞の全力を見て俺に足りないものが色々分かりました。雪之丞って魔装術に頼り切っているのかと思うと実は違うんですよね。攻撃対象に近づいたり、相手の攻撃を躱したりする時の足捌きや体捌き。攻撃を相手に確実に当てる能力。どれも俺には無いものでした、そもそも基礎すら無いですから。
 それで雪之丞にそういった基礎を教わる事にしました。週1回くらいの頻度で。」

「なるほど、伊達さんに習ったんですか。それであんなふうに・・・」

「えっ?」

「その件は後で話すとしまして、もうどのくらいの期間習っているんですか?」

「ええと・・・一ヶ月とちょっとってとこですか。」

「そうですか。じゃあ続きを。」

「はい。そんな訳で攻撃と体捌きには目処が立ったんですけど、それを含めても雪之丞と俺を比較すると、特に防御に関して不足しているなと考えました。
 俺には手から出すサイキックソーサーしかないので、とても雪之丞の魔装術には敵いません。そのことを考えていた時に以前手以外の場所からもサイキックソーサーを出した事があったのを思い出しまして、これは使えるんじゃないかと思って練習を始めたんです。」

「どんなふうに練習を?」

「最初は一人でやってたんですけど、相手の攻撃を想像してやっていたんではなかなか上手くいかなくて大変でした。でも美神さんの事務所で暮らしているタマモという妖狐の女の子に練習相手になってもらって、タマモの狐火を攻撃に見立てて防御する練習をしたんです。まあ、これはまだ始めて間もないんで大して上手くできませんけど、訓練中って事で。
 んー、こんなとこでしょうか。」

「そうですか。色々と努力したんですね。」

小竜姫のそんな言葉に横島は、

「いえ、結局小竜姫様には何一つ通用しなくて、付け焼き刃だったのが分かっただけですよ。」

苦笑いしながらそう返す。

「そんな事はないと思いますよ。」

そう言いながら小竜姫が椅子から立ち上がる。

「小竜姫様?」

「ずっと話していて喉が渇いたでしょう。お茶でも淹れてきます。」

「あっ、はい。」

小竜姫が部屋を出て行く。

(小竜姫様に話した事を改めて考えると、俺って色々やった割には成果が出てないなぁー。まだまだやるべき事はいっぱいあるって事か。あーあ、いったいいつになったら美神さんや雪之丞に追いつけるんだか。)


「質問してもいいですか?」

小竜姫の運んできたお茶を飲んだ後でそう小竜姫が切り出す。

「はい、どうぞ。」

「霊力を上げる訓練の時に誰かに教えを請おうとは思わなかったのですか?」

「んー、あの頃って俺も自棄になってたって言うか情緒不安定気味だったんで、なんか素直に教えて貰おうって気持ちになれなかったんですよ。今考えれば馬鹿みたいですけど。」

「それは霊力が上がらなくなってからも?」

「はい、意地になってたんでしょうね。そのくせ少しして一人で頑張って霊力が上がらないと分かったら、あっさり止めちゃったんですから。ほんと馬鹿っすよ。」

「では美神さんが認めた後はどうなんですか?」

「うーん、前の時に霊力が上がらないって諦めてたんで、今更教わろうとは考えなかったってとこですかね。」

はははっ、と乾いた笑いをする横島。小竜姫はそれを見た後で、

「横島さん、あなたの霊力はそんなものではありませんよ。伊達さんや美神さんにも負けないと思います。正しい訓練をまだしていない分、これから更に上がる可能性もあるでしょう。」

「・・・・・いやっ、小竜姫様。慰めてくれなくても・・・」

「慰めではありませんよ。私があなたから感じる霊力はもっと大きなものです。」

「でも実際、何回測定しても60マイト代だったんですよ。」

「んー・・・・・それはどのような測定方法なのですか?」

「えっ?! 単に霊力を測定する器械の前で、体から霊波を放出して測るんですけど。」

「ああなるほど、そのせいですね。」

「えっ?」

「放出した霊波を測定するやり方だから横島さんの霊力は60マイト代だったんですよ。私たちは内に秘めた霊力を感じますから。」

「内に秘めた霊力?」

「ええ、潜在力と言ってもいいかもしれませんね。それを感じると横島さんの霊力はもっと大きなものですよ。」

「そうなんですか? じゃあ何で出せないんすかね?」

「えぇっと・・・・・横島さん。」

「はい?」

「横島さんは霊波を意識して放出する訓練はしましたか。」

「・・・いえ、やってません。そもそも霊力に目覚めたのも小竜姫様にもらった心眼のおかげですし、他の能力も戦いのどさくさの中とかで出来るようになったものばかりですから。まあ、改めて言わなくても小竜姫様はご存じでしょう?」

「ええ・・まあ。でもそのせいでかもしれませんね。横島さんは効果的に霊波を放出する事が出来ないんだと思います。」

「えっ?」

「体内にある霊力を意識してきちんと出せないってことです。訓練をしてないんですから当然かもしれませんけど。」

「そうなんですか。」

「ええ、普通は師匠から弟子への教えとして憶えていくものなんですけどね。」

「ははは、美神さんに雇われた時は単なる荷物持ちの丁稚としてでしたからね。霊力なんて全然無かったし・・・・・じゃあ、俺もその訓練をすれば?!」

「ええ、もっと測定値は上がるでしょう。」

「そっかぁ、俺の霊力にもまだ上がる可能性があるんだ・・・・・これでいくらか希望が見えてきたな。じゃあ帰ったら早速。」

「・・・・・横島さん、ちょっとこちらに来て床に座ってもらえますか?」

「えっ? なんすか?」

「結果的に霊力を目覚めさせた師から弟子へのちょっとした贈り物ですよ。私が横島さんに霊力をきちんと出すための切っ掛けを与えます。そう、そこに座禅を組むようにして座って。」

床に座禅を組んで座った横島の背後から小竜姫が近付く。立ち膝の姿勢で横島の両肩に手を置き、横島の背中に体を密着させながら後頭部に自分の額を押しつける。

「えっ! ・・・あっあの・・・小竜姫様?! そんな事をされたら俺の理性が・・・・・」

小竜姫の予想外の行動に、横島は動揺しつつもいけない妄想が膨らむのを止められず、うわずった声で真意を質すのが精一杯である。

「動かないで!!・・・そう、そうしたら意識を集中してあなたの中にいる私の意識を見つけて下さい。」

小竜姫はそう言うものの後頭部や背中への感触によって、まるで意識を集中させる事が出来ない横島。

「いや、そんな事を言われましてもですね、この恰好はまるで恋人同士のじゃれ合いと言うかスキンシップと言うか・・・」

「い・い・か・ら、集中しなさい!!」

横島の両肩に置いた手に力を込める小竜姫。

「・・・はっ・・・はい!」

モジモジと体を動かしていた横島もようやく集中しはじめる。

「そう・・・そのまま・・・あなたの中にいる私を見つけて。」

(なんかいやらしい言い方やなー、あぁー・・・背中が幸せ・・・・・)

さほど集中できず、お間抜けな事を考えていた横島であるが、

(横島さん!!)(うわっ!)

頭の中から直接聞こえてきた小竜姫の声に驚く。

(集中しなさいと言ったでしょう! さあ早く!)

(す・すんませーん、全ては俺の煩悩が(いいから早く!)・・へーい。)

遂に覚悟を決めて真剣になる横島、集中すると自分の意識の中に居る小竜姫が感じられる。その姿はぼんやりとしていてはっきりとした形にはならない。

(なんでやー! せっかくなんだから、裸の小竜姫様が出てきてくれてもええやんかー。頑張れ俺の意識!)

やはりと言うか、まるっきりおポンチな方向に集中していく横島の意識。

(横島さん・・・あなたは強くなる気があるのですか?・・・)

小竜姫の意識がもはや呆れたという風に語りかけてくる。

(あぁーすんません・すんません! 強くなりたいです。)

横島はやっと本来の目的を思い出す。

(それでは・・・集中したまま自分の体をイメージして私の意識の後を付いてきて下さい。)

そう言うと徐々に移動していく小竜姫の意識、横島も慌ててその後を追う。

(うーん、野原やお城は見えんな・・・やはり美神さんは女王様体質だからなのか・・・)

体をイメージしろと言われたものの、心理世界の事を考えてしまう横島。一度おポンチな方向に意識が逸れると修正するのも難しい。成長したようでも、横島はやはり横島であった。

(何をしているのですか? 置いていきますよ。)

(あぁ、すんません。直ぐ行きます。)


(ん? 何か先の方に光っているものが・・・)

(・・・やっと気付きましたか?)

いくらかの時間を掛けて少しずつ横島の体内を進んだ二つの意識。やがてその先に光るものが見えてきた。

(・・・あれが横島さんの霊力の源です。私達はそれを目指して進んできたんです。ふぅー。)

少し疲れたような小竜姫の声。とんでもない方向に幾度も逸れていく横島の意識を修正しながらここまで誘導するのは彼女にとっても大変だったようである。

(もう少し近付きますよ。)(はい。)

更に近付くとはっきりと物体としてイメージができる。

(へぇー、これが俺の霊力の源なんだー。それをこうして見る事が出来るなんてすごいんやなー。)

それも小竜姫の努力と忍耐の賜である。一時などは彼女が神剣に手を掛けて、
(いっそ切り捨てた方が楽かも。)
などと考えているのが横島の意識に流れ込み、意識だけでなく体が震えるような状況にもなったのだから。

(よく見て下さい。霊力の源に繋がっている管のようなものが見えませんか?)

小竜姫の問い掛けに横島が源をよく見ると、

(んんー・・・はい、何か細いパイプのようなものが何本も・・・ちょっとパイプが光っているような気も・・・)

そう、横島にも源に繋がるパイプのようなものが幾本も見える。

(ええ、それが横島さんの全身に霊力を送っている配管のようなものをイメージしたものです。その管は横島さんが言ったように源の大きさや光の強さに対してあまりにも細い。それゆえ横島さんは効果的に霊波を出すことが出来ないんです。)

(へぇー、実際に見ると良く判りますね。)

(そうです。だからこそここまで横島さんを連れてきたんです。・・・・・かなり余計な時間が掛かりましたけど・・・)

(はははっ・・・・・すんません。どうも小竜姫様の温もりで平常心をかなり失ったみたいで。)

(ぬ・温もりって・・・横島さん、師として弟子に接する私の行動にまで平常心を失うようでは・・・今後のあなたの人生が心配です。)

(こ・今後の人生って・・・・・なんもそんな大げさな・・・・・)

(どんなに努力をしても、ちょっとした女性の態度を誤解して一気に人生を棒に振る典型のような人ですね。)

(そっ・そこまで言わんでも・・・・・)

意識体のまま膝を抱えてしゃがみ込み床にのの字を書く横島。こういう事にかけては器用なものである。

(まあ、それはさて置き。)(あっさり置かんで下さい。)

大して気にもせず話を変える小竜姫、横島の突っ込みにも動じない。

(この管をもっと太くすればより大きな霊波を放出する事が出来るようになります。やり方は見本を見せますから憶えて下さいね。)

(うぅ・・・・・はぁー、分かりました。)

突っ込んでも相手にもされない事に悲しくなりながらも返事をする横島。

(それでは、あなたの体を一時的に使わせて貰います。)

小竜姫はそう言うと横島の体を操って源から霊力を少し強めに取り出して全身を循環させる。

(こうやって霊力を循環させる事によりこの管は強く太くなっていきます。その感覚を覚えて下さい。)

(はい。)

小竜姫は尚もその行動を続ける。それを懸命に憶えようとする横島。

やがて、

(では体をお返ししますから、今度は横島さんがやってみて下さい。)

(はい、それでは。)

今度は横島が挑戦するが小竜姫のようにはいかない。何度もやり方を注意されながら何とか横島も出来るようになる。

(そう、かなり良くなりましたよ。その感覚を忘れないようにして下さいね。管の方も少しは太くなったようですし。そろそろ戻りましょう。)

(はい。)

意識が源から離れていく。行きは時間が掛かったものの戻る時は早かった。

「うん?」

横島の目が開く、小竜姫の体もゆっくりと離れていった。

「どうでしたか横島さん?」

やがて聞こえた小竜姫の声に横島は体ごと振り向く。

「はい、小竜姫様の体は柔らかくて温かかったです。」

ベシッ!

小竜姫のビンタが頭に炸裂する。顔も心底呆れ果てている。

「そうじゃないでしょう!」

「あぁー、すんませんすんません。一番強く印象に残っているもので。」

床に倒れた体を起こしながら謝る横島。

「それで、感覚の方は憶えましたか?」

「それは何とか。」

「そうですか。では付いてきて下さい。」

小竜姫はそう言うと立ち上がり部屋を出て、先程使った異空間にある修行場に向かう。

「横島さん、霊波刀を出してみて下さい。」

修行場に着いた小竜姫がそう横島に話す。

「はい。」

横島が出した霊波刀は、小竜姫と組み手をやった時よりも強く輝いている。

「えっ? これは・・・」

「それが先程の成果です。出力をもっと上げて。」

小竜姫の指示に従う横島、霊波刀の輝きは更に増す。

「次は密度を上げて物質化をさせてみて下さい。」

次の指示にも従う横島。物質化させた霊波刀は鉛筆を削る小刀から侍の脇差し程度のサイズにまで大きくなっている。

「凄ぇー、これが俺の霊力なのか・・・」

霊波刀を出した本人であるにもかかわらず驚いている横島。

「通常の悪霊相手の除霊では物質化をさせる必要はないでしょうけど、実体を持った相手には有効です。さっきの訓練を繰り返せば更に大きく・強くなるでしょう。
 ただし、必要以上に出力を上げても疲れるだけですから、その制御も練習するようにして下さいね。」

「はい、分かりました。」

横島が頷く。

「ではさっきの部屋に戻りましょう。」「はい。」

二人は小竜姫が事務で使う部屋に戻って椅子に座る。

「霊気の出力に関してはこれで問題はないでしょう。後は横島さんの努力次第で霊力は更に上がると思います。
 霊気を使った技も私との組み手で悪いところは分かったでしょうから、横島さんの想像力と創造力で工夫をして更に高める事です。霊気の出力が上がった事によって色々な技の可能性も上がるでしょうし、そうして自分に一番合った技を生み出して下さい。」

頷く横島。

「あと問題なのは横島さんの戦い方ですね。」

「戦い方?」

「ええ、受けの方はまあいいですが、問題は攻めの方です。
 伊達さんに習った事もあって直接打撃を得意とする人の動きと間合いになっています。直接打撃を使う時ならばそれでいいのですが、霊波刀を使う時は問題です。
 剣や刀を使う場合は、それに適した足捌きがあり間合いがあり腕の振りがあります。日本刀も切れるのは『切っ先3寸』と言いますから。」

「そうなんですか。」

「ええ、ですからそれについては明日練習しましょう。」

「これからじゃないんですか?」

「そうです。結構時間が経ちましたから、パピリオの機嫌がどうなっているか心配ですし。」

「あっ・・・そう言えば・・・」

「では明日という事でいいですね。」

「はい、わかりました。」

「それでは居間に戻りましょう。」

「はい。」


二人が居間に戻ると、頬を膨らませたパピリオがこちらを睨んでいた。

「1時間くらいで終わるって言ってたじゃないでちゅか。何時間待ったと思ってるんでちゅ。」

「悪いパピリオ、本当に気が付かなかったんだ。」

「むうぅーーー」

横島は何とか小竜姫に助けて貰おうと思い横を見るが、そこに小竜姫の姿はなかった。

(にっ、逃げたな小竜姫様・・・)

額を冷や汗が流れる。援護が無い以上横島一人で何とかするしかない。

「ほんっとーにすまんパピリオ。今からお前の気が済むまで付き合うから許してくれ。」

何度も頭を下げながらそう言う横島。

「・・・・・分かったでちゅ。じゃあ早速ゲームステーション2で遊ぶでちゅ。」

「ほっ・・・助かった。よし! 遊ぶぜパピリオ。」

「おぅーーでちゅ。」


ここはパピリオの部屋。そこで横島とパピリオはゲームに夢中になっていた。



「こらパピリオ、何だその技は。ずるっけーぞ!」
「実力の差でちゅ。」



「わははっ、こつを掴めばこんなものよ。」
「ううぅー、もう一回でちゅ。」



「とどめでちゅー!」
「くっそー、やられた。もう一回じゃーー!」
「もはやパピの敵ではないでちゅ。」
「なにをー! お子ちゃまのくせに、大人の本気を見せちゃるー!!」
「望むところでちゅ!」



「・・・なあパピリオ。」
「・・・なんでちゅか?」
「疲れたから休憩しようぜ。」
「そうでちゅね。」

二人そろって後ろに倒れ込む。

「あ゛ー、疲れた。一体何時間やってたんだ?」

「んー、判んないでちゅ。」

二人して「はぁー」とため息を吐く。

「二人ともいいですか?」

そこへ小竜姫が現れる。

「夕食の支度も出来ていますから居間の方に来て貰えませんか?」

「はい、分かりました。行くぞパピ」

「りょーかいでちゅ。」


「ふぅー。」

食事も終わって入浴中の横島、お湯に入るとついため息が漏れる。

「んんー、いい湯だなーっと。」

お湯の中で全身を伸ばして仰ぎ見れば、空は満天の星空。

「おぉー、綺麗な星空だー。いいもんだな。」

一人でのんびりと入る露天風呂も悪くないなと横島が考えていると、

「ヨコシマー、あたし達も入るでちゅー!」「ちょ・ちょっとパピリオ、放しなさい。」

振り返った横島の視線の先には小竜姫の手を引いている裸のパピリオと、藻掻きながらも手を引かれる湯浴み着を着て顔をほんのりと赤くした小竜姫がいた。

「なっ・何故に小竜姫様まで・・・」

驚いて立ち上がりかけたものの自分も裸なのを思い出して、後ろを向いてタオルを腰に巻く横島。パニックで振り返る事も出来ない。

「ま・まさかこれが『美女揃いでサービス満点』と言われる妙神山のサービスなのか?」

「違います!!」

横島の発言を力一杯否定する小竜姫。

「こっ・これは、その・・・パピリオが。」

「お風呂はみんなで入った方が楽しいでちゅ。ヨコシマも喜ぶし。」

その言葉にコケが入る横島。

「そりゃあ嬉しいのは否定できんが・・・」

「ならオッケーでちゅ。さあ入りまちゅよ小竜姫。」

手を更に引っ張るパピリオ。

「まっ・待ってパピリオ、せめてかけ湯をしてから。」

直接湯船に入ろうとするパピリオを懸命に止める小竜姫。

「むぅー、我が儘でちゅ。」

「それはあなたの方です!」

騒動も何とか収まり並んでお湯に入っている三人。右端にいる横島は左端にいる小竜姫の方を見ないように努力はしているものの、本能には逆らえずチラリチラリとつい横目で見てしまう。一方小竜姫の方は落ち着きを取り戻して普通に入浴をしている。まあ湯浴み着があるせいもあるのだろうが。

「横島さん、別に無理をしてそんな事をしている必要はありませんよ。普通にこちらを向いて入浴して下さい。」

「そうでちゅ、変でちゅよヨコシマは。」

「はあ、そうですか。どうも俺にはこんな経験が無いもので。」

「わ、私だってありません!」

「そうですか、小竜姫様も無いんですか。」

そう言いながらきちんと体を向けて話す横島。パピリオがいる事もあって(落ち着けー落ち着けー俺)そう心で繰り返し何とか平常心を保とうとしている。多少目は血走っているようだが。

変な雰囲気も一掃されて普通に会話を交わしながら入浴していた三人であったが、

「パピリオそろそろ体を洗いますよ。」

この一言で状況が一変する。

「それでは小竜姫様の背中は不肖の弟子であるこの横島がお流しします!」

そう言って右手を挙げて立ち上がる横島。

「い・いきなり何を言うんですか。」

「ですからこの私めが小竜姫様のお背中を「必要ありません!」・・何をおっしゃいます、師匠の背中を流すのは弟子の務め、さあ遠慮なさらずに。」

小竜姫の手を取って洗い場へ連れて行こうとする横島。女性ゆえ元々横島よりも軽い体重がお湯の中という事もあり更に助長され、抵抗むなしく引かれていく小竜姫。横島に引かれていない方の手が胸元で湯浴み着を押さえている事もあって、手の自由もきかない。

「さあ、どうぞこちらに。」

洗い場に着いた横島はそう言って振り向く。振り向き際に小竜姫の手を放してしまったその一瞬後、

「仏罰です!!」

そう言いながらスマッシュパンチを繰り出す小竜姫。狙い違わず炸裂したパンチは、横島の体を風呂の囲いの外まで吹き飛ばした。

「ああー、ポチー!!」

突然の出来事に横島の呼び方がつい昔に戻ってしまうパピリオと、危機を脱してため息を吐く小竜姫。


(なっ、何かこのオチも久しぶりやなー)

切り立った崖に生えている木によって辛うじて落下が止まった横島は、腰に巻いていたタオルも失い素っ裸のまま、わりと余裕のある事を考えながら徐々に意識を手放していった。


『あとがき』
どうも「小町の国から」です。

バトルでは小竜姫に手も足も出なかった横島君を更に成長させるためにも必要だと思ってこの話を書きました。
きちんと訓練を受けないで突然能力を身につけた者には、こんな事態があってもいいかなと思いまして。


それでは「その16」でお会いしましょう。


「小町の国から」でした。

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