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▽レス始

「横島の道、美神の道 その16(GS)」

小町の国から (2006-06-28 00:10)
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「せい! そら! ほい! ・・・とどめ!」

ピタッ

「うっ! ・・・まいったでござる。」

妙神山から帰った翌日、横島とシロは朝の散歩の恒例となっている攻撃を躱す訓練を行っている。

「っしゃぁ、かなりコツが掴めてきたぜ。」

肩を落とすシロの横で横島は一人頷いている。

「せっ、先生。いったいどうしたのでござるか? この前よりもかなり攻撃が鋭くなっているのでござるが?」

「ん? ああ、妙神山で小竜姫様に剣での攻撃方法を教えて貰った。ここまで効果があるとは思わなかったけどな。」

「なっ、なんと?!」

「ん?」

言葉に詰まったシロを訝しがって横島が振り向くと、シロは俯きブルブルと震えている。

「どうしたシロ?! どこか体の具合でも悪いのか?」

横島が慌ててシロの顔を覗き込むと、俯いて閉じていたシロの目がクワッ! と開く。

「げっ!」

その爛々とした輝きに思わず後退る横島。

「せ・ん・せ・い・・・」

俯いたまま近付いてくるシロから発せられるプレッシャーに、冷や汗が出てくる横島。

「なっ、何だシロ。一体どうしたって言うんだ?」

話しながらも横島はどんどん後退っていく。

「先生は妙神山には新年の挨拶に行くと行っていたでござるが・・・」

じわじわと横島に迫るシロ。

「ああ、そのつもりだったんだけど何故か修行もする事になっちゃったんだ。」

(嘘は言っていないよな)
そう思いながらも後退りは止まらない。

「修行をするなら・・・・・」

そこでようやく顔を上げるシロ。瞳の輝きは更に増している。

「げげっ!」

これはやばいと感じて逃げ出そうとする横島だったが、

「何故拙者も連れて行ってくれなかったのでござるかー!!」

そう叫びながらシロが飛び掛かって横島の腕に噛みつく。

グワァブ!!

「いっっっっっってーーーーーー!!」

あまりの痛さに悲鳴を上げる横島、しかしシロの噛みつきは少しも緩まない。

「やっ、やめろー! っだっだってー・・いてーってば。」

何とか逃れようと腕を振り回す横島だったが、逆にシロの歯が食い込んでしまう。

「分かった! 今度は連れて行くから、だから放してくれーー!!」

いつもの練習場所に、今日は横島の悲鳴だけが響き渡っていた。


「はっはっはっは・・・・・・あー腹いてぇー。それは災難だったな横島。くっくっくっくっく・・・・」

ストレッチをしながらも笑いを堪える事が出来ない雪之丞。

「ったく他人事だと思って、こっちは痕がまだ残ってるんだぞ。人狼の犬歯ってのがあんなに鋭いとはなぁ・・・はぁ・・・」

雪之丞の横で同じくストレッチをしながらため息を吐く横島。未だダメージから回復しきれていないようだ。

「まあ、今度妙神山に行く時は連れてくって事で人狼の嬢ちゃんも納得してくれたんだろ? だったらもう良いじゃねぇか。んで、どうなんだ?」

「・・・何が?」

「妙神山での修行の成果だよ。小竜姫には何を教えて貰ったんだ?」

「んーと・・・霊波刀を使っての戦い方と間合いの取り方、あとは霊力の出し方かなぁ。」

「霊力の出し方だぁー?! この期に及んで何でそんなものを?」

驚いて声が大きくなる雪之丞。

「いやっ・・・・・情けない話だけどな、俺ってまともな霊力の修行をしてないうちに実戦に出たもんだから、体内の霊力を外に出すのが下手なんだ。それで霊力測定の値が低いんだって小竜姫様に言われてな。それの直し方を教えて貰ったんだよ。」

「ほぉー、そう言う訳か。なら出せる霊力も上がったのか?」

「ああ、正確に測定はしていないけど前よりは出力も上がっていると思うぜ。」

「そうか。それは楽しみが増えたな・・・・・ふっふっふ。」

横島の話を聞いて低く笑い始める雪之丞。

「何だよ? 気持ち悪い笑い方しやがって。」

少し引き気味に話し掛ける横島。

「だってよ、おめぇが強くなったって事は俺の楽しみが大きくなったって事だからな。あー、早く4月にならねぇかなぁー。」

顔を上げて未来のお楽しみに思いをはせる雪之丞。徐々に頬がにやけていく。

「このバトルジャンキーが・・・・・これさえなけりゃぁまともな奴なんだが・・・」

生憎横島の呟きは雪之丞には聞こえなかったようだ。

『二人とも、そろそろ準備は良いかしら?』

スピーカーから美智恵の声が聞こえてくる。

「ああ、いいぜ。」「はい、おっけーです。」

その声に二人が返事をする。
そう、ここは都庁地下にある戦闘シミュレータルームである。横島が大晦日に美智恵に話していたのが今日使えると許可が下りたので、二人は出向いていた。

「横島、もちろん俺に先にやらしてくれるんだろうな?」

「別にいいぞ。俺は後からでも。」

「よし! いっちょやるか。」

肩を回しながら雪之丞がシミュレータルームの中央に歩いていく。

『最初は伊達君なのね。シミュレータの強さはどうする?』

「おい横島、お前がこの前やった時は確か12倍って言ってたよな?」

「ああ、そうだ。」

「よし! じゃあ俺は50ば「アホかー!!(スパーン!)」・・・ってー、何しやがる・・・って何だそれは?」

「ふっ・・・・・遂に見せてしまったな。突っ込み用霊波刀バリエーション、その名も“霊波ハリセン”を。」

「そりゃまた格好悪い技だな。器用なのは認めるが・・・・・」

「ふっふっふ・・・・・やっぱ誰も誉めてくれんのね・・・・・」

自分で使った技によってへこんでいく横島。

『・・・・・あなた達、やる気があるの?』

ちょっとドスの効いた声がスピーカーから流れてくる。

「わりい、勿論やる気満々だぜ。」

『じゃあ早くレベルを『先生。』・・・ん? ちょっと待ってね。
 ・
 ・
 ・
 二人ともごめんなさい。メンテナンスを依頼している会社から連絡が入って、向こうの都合で2時間後から作業を開始したいと言ってきてるの。だから二人とも100鬼を相手にするのは時間的に厳しくなったのよ。一人50鬼ずつでも良いかしら?』

「・・・しょうがねえな、そう言う事なら。じゃあその代わりにレベルは15倍にしてくれ。」

『分かったわ。西条君15倍で設定して。・・・・・・・・・・・・・お待たせ、準備は出来たわよ。』

「よし! 始めてくれ。」

雪之丞はそう言って魔装術を発動させる。

『では、スタート!』

「うおりゃぁぁぁぁ・・・・・・・・・・」

雄叫びをあげながら、現れた相手に嬉々として突っ込んでいく雪之丞。

「やっぱこいつには付き合いきれんわ・・・」

それを見た横島がポツリと呟く。
 ・
 ・
 ・
「そりゃあー!」

雪之丞のパンチを受けた相手がその瞬間消滅する。

『伊達君、50鬼終了よ。』

「ちぇ、もうかよ。」

雪之丞はまだ不満そうだ。

「お前ね・・・50鬼全部殴る蹴るで倒しておいて、まだ不満なんかよ。」

「だってよぉ『横島君、準備をしてちょうだい。』・・・ちっ、その話は後でな。」

「ああわかった。」

不満タラタラの雪之丞にそう言うと横島はシミュレータルームの中央に進む。

「隊長、準備できました。」

『分かったわ。・・・では、スタート!』

横島は右手に霊波刀を出して構えた。
 ・
 ・
 ・
『横島君も50鬼終了よ。二人ともお疲れ様。
 汗を拭いたらコントロールルームの方に来て貰えるかしら?』

「はい、分かりました。」

美智恵の問い掛けに横島が応える。やがて汗を拭き終わる横島。

「じゃあ行くか。」

「おう。」

二人はシミュレータルームを出てコントロールルームへ向かう。
やがてコントロールルームに到着し中に入ると、室内には美智恵と西条の二人がいた。

「お疲れ様、そちらの椅子に座っていてくれる? 今飲み物を持ってくるから。」

美智恵はそう言うと隣の部屋に歩いていき、やがてペットボトルをお盆に乗せて戻ってくる。

「はいどうぞ、ボトルのままで悪いけど。」

「いえ、いただきます。」「さんきゅ。」

美智恵からペットボトルを受け取った二人は早速一口喉に流し込んだ。

「「ふぅー。」」

二人の口からため息が出る。それを見た美智恵は微かに微笑みながら椅子に腰掛けた。

「二人とももの凄く成長しているわね。横島君は今回が2度目だけど前回と比べても驚く程成長しているし、伊達君の魔装術を使った霊的格闘能力に関しては間違いなく日本全国のGSの中でもトップクラスでしょうね。ほんと二人には驚かされるばかりね。」

「いやー、なんかそう言われると照れるっすね。」
「何でぇ全国でトップじゃねぇのか。まあ近いうちにトップになってやるけどな。」

控えめな横島の発言に被せるように雪之丞が言う。

「お前ね・・・・・もう少し謙虚さってものを・・・」

「いいじゃねぇか。これが俺のやり方なんだから。」

「ぐっ・・・・・・・・・・はぁー。」

あくまでも強気な雪之丞の発言に横島ですら何も言う気を失ってしまう。

「まあいいじゃない。そうやって自分にプレッシャーを与えて成長していくのも一つの方法でしょうから。」

「そんなもんすかねぇ。」

美智恵の取り成しに力無く同意する横島。

「そんなものよ。ところで今日のシミュレーションのデータはこちらで分析して今後のシミュレーションプログラムに反映させたいんだけど、いいかしら?」

「ああ、俺はかまわんぜ。もっと手応えのあるやつに改良してくれ。」

「俺もかまいませんよ。隠さなきゃならん程の能力でもないし。」

「ありがとう。二人の協力に感謝するわね。
 そうそう、そう言えば伊達君が横島君に色々教えている事の報酬が二人の模擬戦というのは本当なの?」

「ああ、その通りだ。今から楽しみだぜ。」

美智恵の問いにニヤリと笑いながら返事をする雪之丞。

「そう・・・・・それで何処でやるつもりなの? あなた達二人が全力を出したら、ちゃちなテロ組織がかわいく見える程の被害を周囲に及ぼすと思うんだけど。」

美智恵がそう言うと二人は顔を見合わせる。

「そう言えば・・・」「考えてなかったな。」

「・・・はぁ、今まではどうやってたの?」

こめかみを押さえながら美智恵が訊く。

「えっと・・・・・公園とかで文珠を使って結界を張ってその中で・・・・・まずかったっすかね。」

恐る恐るそう話す横島。

「そんな事をしてたの・・・・・言っておきます、今後公共の場所を占有してそのような行為を行った場合はGメンの権限で逮捕します。」

「えー!」「何だよそれ。」

美智恵の宣言に不満の声を上げる二人。

「勿論逮捕した場合はGSのライセンスに関しても罰則があると憶えておきなさい。最悪ライセンス取り消しになる事もありますからね。」

「「えぇーー!!」」

更に高まる不満の声。

「それが嫌ならばここを使いなさい。ここなら強固な結界を施してあるから周囲への被害を心配する必要もないでしょう。いいですね!」

「「・・・・・・はーい。」」

渋々頷く二人。

「よろしい、私の言いたい事は以上です。それじゃあ帰っても良いわよ。」

「それじゃあ失礼します。」「じゃあな。」

二人は立ち上がって部屋を出て行く。それを見送る美智恵の元に西条が近づいてくる。

「データの処理は終わったの?」

「はい。」

「それで結果は?」

「・・・やはりと言いますか、文句なしにこのシミュレータの1位と2位の成績です。まあ15倍なんて設定で戦ったのはこの二人だけなんですから当然でしょうがね。」

「そうでしょうね。それで個々の特徴は?」

「伊達君に関しては、やはり身体能力の数値がずば抜けています。魔装術による肉体の強化を考慮に入れても驚くべきものです。攻撃力に関しても文句の付けようがありません。
 そんな伊達君と生身で戦った経験のある横島君の実力も驚く程数値が上昇しています。それも前回の計測と比べてです。詳細はこちらに。」

西条は美智恵に印刷したデータを渡す。

「しかし横島君には驚かされます。まるで他の人が一段一段上がっていく階段を、二段か三段飛ばしで駆け上がっているようなものですから。
 伊達君の実力も想像以上のものでしたし、あの二人、一体何処まで伸びるのやら・・・・・」

「ほんとね。ほんの1〜2年で彼らの時代が来るかもしれないわね。」

「・・・・・納得は出来ませんが、否定も出来ません。」

データ表から顔を上げ、苦々しい顔でそう応えた西条に目を向けて、美智恵は面白そうに笑った。


美神除霊事務所の事務室では令子、おキヌ、横島の三人が書類作成に勤しんでいた。

「ん?」

令子が何気なく横島を見るとペンを握った手がプルプル震えており、作業も捗っていない。

「どうしたの横島君? それに手が震えているようだけど?」

令子の言葉を聞いておキヌも横島に目を向ける。言われた横島は焦ったように手を机の下に入れた。

「いえ、何でもありません。」

ブンブンと首を横に振りながら否定する横島。それを聞いた令子は目を細め、

「なら、その手を机の上に出しなさい。」

強い口調でそう言う。

「いっいやあ、男の手なんて見てもしょうがないでしょう。」

冷や汗をかきながらそう言った横島は、席を立とうとする。

「あっ、俺ちょっとトイレに「待ちなさい!」」

立ち上がったところで令子に手首を掴まれてしまい、横島は動けなくなってしまう。

「!・・・・・この手どうしたの?」

無理矢理横島の手を自分の方に引っ張った令子がそう横島に訊く。

「横島さん! その手!・・・」

自らも立ち上がって令子の後ろから覗き込んだおキヌも驚く。

「いやっ・・・・・別にたいした事はありません。」

ばつが悪そうな顔をした横島がそう二人に告げる。
(とっとと文珠で治しとけば良かった。まさかここまで心配されるとは。)

「じゃあこの親指の爪は何? 変色しているし割れているじゃない。
 ・・・・・まさか左手も?!」

令子がそう言うとおキヌが横島に近付き、横島がさりげなくポケットに入れていた左手を引っ張り出す。

「美神さん!」

おキヌの声に令子が視線の向けると、左手の親指も同じようになっていた。

「うぅ・・・(まいったな、どう言い訳しよう?)」

「ちょっとこっちに来なさい。」「うわっ、美神さん。」

言い訳を考えている横島を令子は強引に引っ張ってソファーまで連れて行く。二人に両手を掴まれていた横島は抵抗も出来ずに連行されソファーの中央に座らされてしまう。

両脇には令子とおキヌが座り込み手を掴んだままなので逃げる事も出来ない。

「さあ話して貰うわよ。」

横島の方を見て令子がそう告げる。おキヌの視線も厳しくなってくる。

「いやっ・・・・・その・・・・・あのー・・・・・」

二人の視線に耐えかねた横島は顔を俯かせ何とかごまかそうと思案中だ。

「・・・・・本当の事を言わないと・・・・・この爪をグリグリするわよ。」

そう言いながら横島の親指を軽くつまむ令子。反対側ではおキヌも同じ動作をしている。

「ああ分かりました言います。言いますからそれは堪忍してー!」

割れた爪をいじくられる恐怖に負けた横島は自白を始める。

「本来の意味とは違うんですけど、言うなれば指弾(?)の練習をしてこうなりました。」

「指弾?・・・・・指弾って、まさか玉なんかを指で弾いて攻撃するやつ?」

「はい、そうです。」

「横島さん、何でそんな練習をしたんですか?」

「んーと、文珠を飛ばすのにいちいち野球みたいにして投げてたらモーションが大きくなっちゃうんで、それをカバーするために・・・」

「つまり相手に気付かれないように文珠を飛ばすのに有効だから練習したっていうの?」

「はいそうです。俺の切り札である文珠をもっと効果的に使う工夫として練習してました。」

「でも、こんなに酷くなるまで・・・・・何でこんなに無理したんですか?」

「いやっ、これは慣れないせいで俺の爪が弱かったからこうなっただけで、練習を続ければ爪ももっと丈夫になるよ。」

「でも・・・・・とりあえずヒーリングしますから動かないで下さいね。」

おキヌはそう言うと手をかざしてヒーリングを始めようとする。

「大丈夫だよおキヌちゃん、こんなの文珠で「横島君!」・・・はい、美神さん。」

「おキヌちゃんに任せなさい。」

「あ、いや・・・・・でも・・・・・分かりました。お願いするよおキヌちゃん。」

「はい、任せて下さい。」

おキヌがヒーリングを始めた。

「横島君、あまり無理をしないでね。体を壊したら何にもならないんだから。
 雪之丞やシロ、それにタマモとも訓練をしているっていうのに。あまり私とおキヌちゃんの心配事を増やさないで。」

「・・・・・はい。」

「GSとしての実力は前より上がっているんだから、生き急ぐような事をしないでね。無理せず着実にアップさせていけばいいわよ。」

「・・・・・分かりました。すいません。」

「うん! それでよし。」

俯いた横島の頭を軽くポンと叩いた後で令子は立ち上がる。

「おキヌちゃんは横島君のヒーリングを続けてね。その間に私は書類を片付けるから。」

「はい、分かりました。」
「すいません美神さん。」

「まあいいわよ。ちょっと前までは書類作業は私だけでやってたんだしね。」

そう言いながら令子は微笑み、その後書類作業を再開する。

「何か俺って事務所のみんなに迷惑ばかり掛けて、全然戦力になっていないような気がするな。」

「そんな事は無いですよ。」

小さく呟いた声ではあったが、直ぐ近くでヒーリングをしているおキヌにはまる聞こえだった。

「横島さんは私達にとってとても大事な人なんですから。普段も除霊の時もとても頼りにしていますよ。
 だからそんな事を言わないで下さいね。」

ヒーリングをしている横島の手を両手で優しく挟み込み、労るような笑顔でおキヌがそう言う。

「おキヌちゃん・・・・・ありがとう。」

その優しさが伝わったのか、横島もおキヌに笑顔で感謝の言葉を返す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ちなみに先程の横島の呟きは令子にも聞こえていたようで、その後の二人のやりとりを机に向かって見ていた令子には当然面白くない。何せ自分の事務室内で思いっきりラブシーンをぶちかまされているようなものなのだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

徐々に令子のこめかみに青筋が浮いてきて、全身もわなわなと震え始めている。
なのにまったく気付かずに相変わらず見つめ合っている二人。

バキッ!

遂に令子が握りしめていたペンがへし折れる。

「二人とも・・・・・」

地の底から聞こえてくるような声を聞いた横島とおキヌは漸く我に返ってぱっと身を離す。

「いつまでいちゃついてるつもりなの? 早く治療して手伝ってくれないかしら?」

「「はっ、はい!」」

青筋の浮かべた笑顔で令子にそう言われた二人には、姿勢を正してそう返事をするしかなかった。


「そらっ!」
「負けられんでござる。」
「燃えろ!」

本日は都内のビルを除霊している美神除霊事務所のメンバー達。横島、シロ、タマモの3人が寄ってくる悪霊を尽く倒している。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

後方でそれを見ている令子とおキヌ。機嫌の方はあまり良いとは言えないようで・・・

本来ならば、おキヌの笛で数を減らして全員でとどめを刺せば簡単なのだが、それでは修行にならないと言う事で3人が戦っているのだ。

令子はおキヌをガードするためと全体の指示を出すために、おキヌと二人で後方に下がっている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

とは言っても3人の活躍により何もする事がない令子。自分は何もせず楽をして収入があるのだから喜んでいても良いのだが、その顔には不満の色が表れている。

「・・・・・なんか・・・・面白くないわね。」

ポツリと思いを口に出してしまう令子。

「私達って何もやる事が無いですもんね。」

「このところ書類作業が多くて鬱憤も溜まってるって言うのに・・・・・」

言いながら顔をしかめる令子。

「美神さんも参加したらどうですか?」

令子の方を向きながらおキヌがそう提案するが、

「おキヌちゃんのガードを居なくするわけにも行かないでしょ。それに・・・・4人で暴れるには部屋の広さがちょっとね・・・・・」

3人の方を見つめたままそう返す令子。だが体はピクピクと震え始めている。

「私なら大丈夫ですよ。それにさっきから1体の霊も迫ってきていませんし。」

「でもね・・・・・・・」

顔も動かさず、いきなり神通棍を振るう令子。3人が初めて討ち漏らした悪霊が一瞬で消え去る。

「こんな事も・・・・・ある・・・・・でしょ・・・・・・・・」

令子の体の震えが大きくなり、言葉も途切れ途切れになる。

(あっ、雑魚悪霊をしばくのって・・・気持ち・い・い!)

更に震えが大きくなる令子の体。

「よっしゃ! フィニッシュも近いぞ。一気に行くぞシロ・タマモ!」

ノリノリの横島がそう話し、

「「りょーかい(でござる)」」

シロタマがそう返した瞬間、

「ちょーーっと待ったーーーー!!!」

令子からストップが掛かる。

3人は周囲に注意しながらも令子の方を向く。

「美神さん、何を言ってるんすか?」

代表して訊く横島に、

「フォーメーション変更! シロとタマモはおキヌちゃんのガード、フォワードは私、横島君は私のバックアップ。いいわね!」

「なっ何でここまでやってから・・・・一体何を考え「い・い・わ・ね!!!」・・・・分かりました。」

有無を言わさぬ令子の態度に渋々と従う3人。

「それじゃあ・・・行くわよ!!」

高らかにそう言って悪霊に向かっていく令子、その後ろを付いていく横島。

神通鞭が唸りを上げる。掠っただけでも込められたその霊力によって消滅する悪霊。

(ああっ、楽しい・・・なんて気持ちいいの・・・やっぱこれってサイコー!)

事務所のメンバーもビビるような笑顔を浮かべ、更に勢いを増す令子の神通鞭。バックアップの横島ですら少し距離を拡げ始めている。

(イイっ、イイわ・・・・・もう、イっちゃいそう!!)
「ホホッ・・・・・オホホホホホホホホホ・・・・・・・・・」

気分の高鳴りに、何時しか令子の口から高笑いが響き始める。

(なんかヤバいぞ美神さん・・・)
(美神さん・・・・いったい?・・・・・・)
((狂った?!・・・・・・・・・))

かなり失礼な事を考えているメンバーをよそに、令子はあっさりと除霊を済ませて振り向く。

“ビクゥ!!”

その笑顔は・・・・・・はっきり言って・・・怖かった。

身を寄せ始める4人、シロタマはおキヌの後ろに完全に隠れてしまう。

そこへ近付いていく令子、4人がガタガタと震え出す。

そんな事には気づきもせず、

「さぁー! 今日は予定を繰り上げて明日の分も廻っちゃうわよー!」
「「「「えっ?!」」」」

そう言うと戸惑う4人を尻目にさっさと出口に向かう令子。

「ホホホホッ! もうぜっ・・こう・・ちょー!! 気分もサイッ・・・コー!! 雑魚悪霊なんざ、このGS美神令子が極楽へ送ってあげるわー!」


凍り付いていた4人は、その後令子の気が済むまで除霊に付き合わされる事となった・・・


合掌


『あとがき』
お久しぶりになりますね。「小町の国から」です。

「その15」の後で体を壊して入院しておりました。当然パソコンも使用できず、憂鬱な日々を送りました。
そんな状況になってみると、いかにパソコンやネットが自分の日常生活の中であたり前のように使っていたのかが分かりました。
あたり前のものが無いって結構辛いものなんですね。そして何より『健康第一』ですね。痛感しました。

何とか退院できまして、この作品も続けることができるようになりました。
しかし、入院から退院とそれまでの間に卒業式、入社シーズン、ゴールデンウィークとイベント関連のシーズンをスルーしてしまい、この話をどうやって持って行こうか悩んでおります。
まあ、ここまで遅れたら開き直ってシーズン無視しか無いでしょうけど・・・・・
今回にしても盛り上がりに欠けている話になってしまいました。まあリハビリの第一作という事でご勘弁下さい。
徐々に何とか調子を上げていこうと思っています。(ペースもね)

それでは「その17」でお会いしましょう。


「小町の国から」でした。

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