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▽レス始

「Dances with Wives! 3.5 〜The parents work〜(絶対可憐チルドレン)」

比嘉 (2006-02-06 17:41/2006-02-06 22:22)
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ヒュオオオオオオ・・・・・・・・・


一陣の風が吹き抜けていった。


そこは、車が繰り返し通った事でできた道らしきものと、それにそって辛うじて立つ電柱の列。

そして、


十数戸の家が集まった、小さな街があった。


しかし、


そこには生者の気配だけが


存在しなかった。


絶対可憐チルドレン パラレルフューチャー

Dances with Wives! 3.5
  〜The parents work〜


 ザザ・・・ッ

《こちら“AOI”スタンバイ完了》


 ザ・・・

《こちら“SHIHO”準備完了。いつでも。》


 ヘッドセットから聞こえる報告を受け、皆本光一は最後の指揮官に確認をとった。


「こちら指揮車。薫、準備は良いか?」


《(ザッ)・・いつでも・・・》


「(怒ってるな・・・)」

 光一は、待機中の『ザ・チルドレン』各コマンダーの声を聴き、独り語つ。
 その気持ちは彼も同じ。
 しかし、今は事態の終結に全力を注がねばならない。

『コーイチ・ミナモト君。』

 皆本の背後から太ったスーツ姿の男が声をかけてきた。
 狭い車内だというのに、何の遠慮もなく匂いの強い葉巻に火をつけている。

『Mr.ウェスカー、すでに作戦中です。余計な言動は慎んでください。』
『おお、それはすまない。しかし確認をしたいのだ。本当に事態を解決できるんだろうね?』

 ウェスカーと呼ばれた男は、悪びれもせずに自分の言葉を続けた。

『この事態には「局地核地雷」による「滅菌」処理がすでに決定している 。そこに君たちがわざわざ割り込んで来たのだ。もし、君の部下たちに「汚染」が及んだ場合、彼らも「滅菌」対象となるのだよ? 解ってるのかね?』

 何が誇らしいのかわからないが、彼は皆本に「愚者を見おろす賢者」の様な視線を向ける。
 もっともホントの賢者はそんな行為の愚かさ自体に気づく人をさすのだが。

『もし、万一の事があれば、今朝お会いした君の部下達・・・特にコマンダーの3人は君のワイフだそうじゃないか。彼女たちのあの美しい魅惑的な身体も、街と共に灰となる運命を辿るやもしれんのだよ?』

 いやらしい光を浮かばせる彼の目を、光一は感情は出さずただ強い視線を持って受け止めた。

『・・・問題はありません、知事。今必要なのは切り捨てる「英断」ではなく、小さな粒もかき集め様とする「悪あがき」です。』

 その返事に、ウェスカーの薄ら笑いが引き攣った。
 そんな表情を一瞥すると、光一は号令をかけた。

「『ザ・チルドレン』へ! ミッションスタート!」

 その声と同時に、そこに居る全員がモニターに映る『街』に注目した。


《・・・ミッション=コンプリート》


 そしてほぼ直後に、スピーカから落ち着いた女性の声が、指揮車の中で響いた。


『『『『『『『『『What!?(なっ!?)』』』』』』』』』


 中のスタッフの半分が、思わずそう声を上げていた。

「了解した。続いて"AOI"は第2段階ヘ移行。救助者を所定の医療機関へ転送。“SHIHO”は引き続いて「対象」の存在を細部まで確認。絶対に見逃すな。」
《了解》

 ザワ・・・

 続く光一の指示を聞いて、バベルからのオペレーターを除いた全員が、我に返った様にざわめき出す。

『Mr.皆本!? これは何の冗談かね?』

 ウェスカーが質の悪いジョークに付き合わされたかの様に光一に詰め寄る。

『冗談ではありません。今、状況は終了しました。』
《(ザ・・)こちら、“SHIHO”。状況を確認。現場の『標的』はワクチン用に別途回収したサンプル分を除き完全に死滅したわ。》
「了解。現場を軍の『専門部隊』に委任後、“SHIHO”は速やかに撤収。各員の滅菌処置が終わり次第、ウィルスの拡散状況を報告。」
《ハイ》

『Mr.皆本!!』
『失礼、今は事後処理中です。Mr.ウェスカー。』
『なんの事後だと言うのだね!? 先程から何の変化も無いではないか!』

 狭い車内を気にもせずに声を上げるウェスカーに、皆本は首だけ振り替えって答えた。

『20年前、あなたが開発予定地だった頃のあの街の地下に廃棄した「トライデント=ウィルス」、通称「T-Virus」の浄化処置の事ですよ。』

『!!』

『(ザ・・)こちら薫。紫穂からOKが来た。力を解除するよ。』

「了解、ご苦労だったな。薫。」

 ユラ・・・

 その途端、画面に写った画面が揺らめき出した。
 だがそれは、ごく普通に立ちのぼった陽炎のためだった。
 それまで、指揮車ギリギリの場所までの全域に渡る大気を包み込み、制していた薫の力が解かれた為に本来の状態に戻ったのだ。
 つまりはウェスカーたちが見ていた画面は、すでに作戦をスタンバッていた状態だったのである。

『当時、このウィルスを研究していた製薬会社「ザンブロンゾ」は、突然の摘発を受けてウィルスの処置に困っていた。
 そこで「親密な」つき合いがあった当時市長のあなたは相談を受けて、開発が始まろうとしていたあの街の地下に埋める様、手引きをした・・・』

『な、なっ、なっ・・・』

『「T-Virus」は感染すると、その生物の神経をゆっくりと麻痺させていき、やがて眠る様に意識を失う。その後放っておくと仮死状態になり、そのままなら衰弱して死んでしまう。 しかし・・・』

 キッと光一の眉が吊り上がる。

『仮死状態に陥った者に超度4クラスのテレパスが脳に命令を送ると、容易く命令を聞く人形にできる。それも痛みも死も恐れず、ウィルスが宿主の生体を維持しようとする為に、身体に多少の「欠損」が起こっても動かす事に支障がない。
 夜に蔓延させれば、朝には仮初めのゴーストタウンになり、そしてそこに「命令」を送れば、住民全てを味方として「使う」事が出来る・・・
 そして先日、地下で急場凌ぎのコンクリートが割れた事で、奇しくもそれが実践されてしまった・・・それがあの街の有様だ。そうですね?』

 光一の口から語られる言葉に、周りいた者達の表情も変わり始めた。
 単なる局地的なバイオハザード処理と聞いていた者がほとんどだったからだ。
 その話の通りなら、ひょっとしたらあの街の住人達はまだ『死んでいない』と言うことではないか。

『まるっきり「ゾンビ」だ。・・・いや、あちらはまだ死を迎えているだけマシかもしれない。これは「生き人形」を作るウィルスですからね。』
『馬鹿な! それが事実として、どこにそんな証拠がある!!』
『先程、ワクチン用のサンプルを回収しています。同時に地下にあったタンクも回収しました。』
『な!?』
『テレポーター7 Plus「GODDESS(女神)」の名を、甘く見ないでください。決して、見た目だけについた字名ではないのです。』
『ぐ・・・っ』

 怒りに赤黒い顔になっていくウェスカーに、光一はさらに言葉を続けた。

『あなたが「焼き払いたかった」タンクから「読み取った」当時の経緯は、「Sara(小公女)」の名において、然るべき所へ報告します。よろしいですね。』

 超度7 Plusのサイコメトラー、「Sara(セーラ)」こと「Little Princess(小公女)」シホ ミナモトの報告は、世界でも1、2の正確さを持つ。
 現在は「Sara」の名が添えられているだけで、直接的な証拠として認められてしまうほどである。
 仮にそうならずとも、それに沿った調査が行われるだけでほぼ確実に事実を実証してしまう。

 そして、ここまで聞いてウェスカーが何をするつもりだったのかを察したスタッフの目は、剣呑なモノになっていた。

 ザザ・・・

《こちら、葵。救助者は全員仮死状態から回復。死亡者はなし!! 間におうたで!!》


 おおおおおっ!!


 ちょうどそこに入った葵からの報告に、指揮車の中が一斉に沸き立った。
 現地のスタッフも日本語がわかる者から、訳され同じ様に歓声をあげる。

 その中でウェスカーだけが、沈黙し、俯いていた。

『あのウィルスは確かに熱や薬品には強い。通常ならそちらの判断通り『熱核地雷』程の熱量と範囲がなければ処分する事はできないでしょう。しかしその反面で、急激な気圧の変化には極端に弱い。耳鳴りが起こる程度のものでも80%は死滅させる事が出来る。また、精神波に反応する事から、一定値より強い念波でも死滅させる事が可能です。
 ・・・今、私たちが行った様に。』

 先程の『ザ・チルドレン』の行動はこうだ。

 汚染が予測されている地域周辺(空中地中も含む)を紫穂が率いるサイコメトラー=ユニット“SHIHO”が囲み、ウィルスの『気配』と仮死状態に陥った住民の位置を検索。
 その情報を受け取ったテレポーター=ユニット“AOI”のメンバーが、各々の転送対象を確定。
 同時に汚染域より更に上空に待機していた薫も、紫穂からのナビゲーションで汚染域+αの空間の大気をサイコキネシスで掌握した。
 光一の合図で薫が周辺の大気を瞬間的に縮小・膨張させ二段階の気圧変化を起こしウィルスの9割以上を死滅させ、その直後に葵達がテレポートで住民を滅菌されたコンテナの中に直接転移させた。
 そこで残留ウィルスをチェックしつつ、予めスタンバイされていた医療施設へと再転送させたのだ。

 この間わずか7秒。

 本来なら『感染性のある謎の死病により全滅』の報告で、丸ごと焼却されて数年の間立ち入り禁止の地となる筈だった街は、今、87名の住民と共に生き延びたのである。

『ば、ばかな・・・あの数秒の間で・・・!?』
『「Ika-duchi(雷鎚)」は、正確なナビゲートの元で力を使う範囲を確定・認識すれば、その領域内でなら分子レベルまで力を仕掛ける対象を選定できます。これはすでに報告されている事です。』

 確かに超度7 Plusの力と駆使できる能力は公開されている。しかし、それでどんな使い方が可能かは、個人の想像力が負わねばならない。
 特に今回の様に最高超度のエスパーが連係プレーで何が出来るかなど、まず想像がしきれるものではない。
 事実、今回の薫は神懸かりにも、紫穂からのナビも加わった事で、体内に侵入していたT-Virsuに対しても、自らの念波でピンポイントでダメージを与えるという離れ業を演じており、感染者がデッドゾーンに入る前に回復させる事に大きく貢献していた。


 それは、強大にして繊細。


 広大な範囲に向けてもなお、微細な分子に至るまで力を振るえるが故に「破壊できぬ物はこの世に無い」と呼ばれた彼女の資質、


『Queen of catastrophe』


 その名を冠する事が無かった今でも、それは欠片も損なわれていなかった。


「ん・・・そうか。ありがとう。」

 新たに入った報告に光一は頷き、ウェスカーに向き直り言った。

『・・・Mr.ウェスカー、「ザンブロンゾ」、および状況報告の偽造に加担した軍の幹部も先程、身柄を拘束されました。
 今回の状況では住民の命はウィルスの正しい情報があれば、我々が介しなくとも救う事が出来たのです。なのにあなたは、彼らの命より、過去の遺物を抹殺する事を優先させてしまった。
 ・・・これは許されません。』
『アンソニー=ウェスカー・・・。あなたには虚偽報告・書類偽造および関連する証拠の捏造、そして、大量殺人幇助の容疑により逮捕状が出ました。あなたは今より拘束されます。』

 肩を振るわせたウェスカーの後ろに二人のスーツ姿の男達が立ち、身分証を示して話しかけた。
 そして、その手が肩に掴もうとした瞬間、


 パシュン!


 空気が瞬間的に広がる特徴的な音と共にウェスカーの姿は掻き消えた。

『動くな!!』
『『『!!』』』

 その声は光一のすぐ隣から聞こえた。
 すると、ウェスカーの姿はそこにあり、日本人スタッフの女性を抱え込み、首にナイフを突きつけていた。

『テレポート・・・未登録ESPだったのか。』
『ククク、そのとおり。私の力じゃ障害物を越えてまで跳べないが、こういう時の切り札としちゃ十分役に立つのでねぇ。知られない方が効果的なのだよ。』

 そう言いながら、ウェスカーは人質の頸動脈ギリギリにまで刃を突きつけて周囲を威嚇する。

『さあ、全員車から降りてもらおう!』
『よせっ! 彼女を放すんだ!』

 皆本がウェスカーに、必死の声で呼びかける。

『時間を稼ごうとしても無駄だ、Mr.ミナモト。あの「化け物」みたいな連中に戻って来られてはかなわないからね。』
『そうじゃない! お前の身が危ないと言ってるんだ!!』
『くだらんハッタリは『くさいんだよ・・・』 !?』
『まっ、まずい・・・』

 グググ

 ウェスカーのナイフを持つ腕が、強烈な力で押し返されていく。

『な?』
『息がくさいんだよ・・・このエロオヤジィッ!!!』

 パキィーーーーン!

 甲高い音と共にウェスカーのナイフの刃は、瞬時にきらきらと舞い散る金属編と変わった。

『その葉巻臭い手を・・・あたしの胸から放せっつってんだよ!!』

『ぐわ!?』

 ぶわっ!!

 ウェスカーの100kgは越えてるであろう身体が、毟り取られる様に彼女から引っぱがされた。

『お、おおおーーーーーーーっ!?』


 バキャアッ!!


 そして、彼は身体で指揮車のドアをぶち破ると、二転三転と地面を転がる。

『う、ぐう・・・し、しまった。あの女「サイコキノ」だったのか!?』

 ウェスカーの油断も無理も無い。
 本来『力』で実戦が可能な程高レベルのサイコキノ(念動能力者)は、その数の少なさから、必ず何らかのチームに属している筈である。
 一般職の、しかも個人の秘書にその希少な念動能力者を割いて当てる様な『もったいない』真似など、どこの国でもまずしない。
 実際、バベルでも超度6の念動能力者・・・『梅枝ナオミ』を秘書にしてるのは、超兵器(と、認識されてる)『源氏島』の管理責任者でもある皆本くらいなのだが、ウェスカーにとってはそれが完全な裏目となった。

 フワ・・・

 だが、それを後悔してる暇はなかった。
 自重に痛めつけられた身体を起こすウェスカーの目の前に、半ば壊れた指揮車の後部ドアから、その秘書の女性が宙に浮いたまま現れたのだ。
 その表情は『般若』のそれに等しい。

『今朝会った時から、あたしや薫さん達の身体ジロジロとイヤラシイ目で見やがって・・・金と権力があったら、女の胸が触り放題とでも思ってるなら、いまその間違いを判らせてやるっ!!』
『ひっ!』

 本能的に彼女の怒りが、『異様なくらい殺意と紙一重』な事を気づいたウェスカーは、あわてて『転移』しようとした。

 が、

 バチィ!

『ぐあ!?』

 それは妨害されて、ウェスカーは再びその場に転がるハメになった。


「どこ行く気だ?」


 頭の上から聞こえて来たのは、ひどく冷めた日本語だった。


『わるいけど、逃がさないわ。』


 今度は別の声が流暢な英語で言った。


『ほんとに、とことん小悪党ね。』


 また別の声が言う。
 上手な発音の為に、母国語よりも訛りが無いのがご愛嬌だ。

『な、お、おまえたちは!? いつのまに!?』

 そこに立っていたのは、『ザ・チルドレン』のコマンダー。
 皆本薫、紫穂、葵の三人だった。

『指揮車の中のあなたの悪さが“聞こえた”のよ。だから、後を任せてすぐに飛んで来たの。』
『く、くそ! テレパシストも居たのか!』
『あなた・・・バカでしょ?』
『なに!?』
『光一のヘッドセットが誰と繋がってたか、忘れたの?』
『はっ!!』

 その通り。
 光一のヘッドセットはこの三人に繋がれていた。
 つまり、彼女らにも指揮車の会話は聞こえていたのである。
 そしてそれは・・・


「ところで、だーれが『モンスター(化け物)』だって?」
『ヒッ!?』


 とーぜん、ウェスカーの不用意な発言も聞かれていたことも指していた。


「人をポルノ雑誌のモデルかなにかと勘違いした目で見たあげく・・・」
『光一の前で「ばけもの」呼ばわりするなんて、』
『ちょっと許しがたいわね。』


 ジリ・・・


 ウェスカーに迫る、3つの女性の影。
 そして背後に感じるチリチリした気配から、さっきの影も迫って来るのがわかる。

 それらは半日前には、彼に甘美な未来予想まで抱かせた、妖艶で淫媚なシルエットの筈だった。
 だが今は違う。

 それは異形の天使か、狂える鬼か

 正に己の身を食い散らさんとする『デーモン』の姿に見えていた。


 そしてそれは多分、


 間違いではない。


『nNOOOOOOOoooooooooooooo!!!』


『ミ、Mr.ミナモト!? い、いいのかね?』
『・・・大丈夫でしょう。あれくらいなら素手で殴るのと同程度のダメージですから。』
『いや、止めなくていいのかと・・・』
『あなたがたはできますか? ワイフの癇癪を止める事・・・』
『『・・・・・』』

 しばしの沈黙の後、捜査官二人は揃ってこう答えた。


『『吐き出し終わるまで耐えて待つのがベストだな。』』


 そして苛烈極まった3分間の後、4人の女性に突き出されたウェスカーは、一時的な『幼児退行』を起こしていた。


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


「ただいまー」「ただいま」「ただいまぁ」「ただいま」
「「おかえりなさーい!」」
「おかえりなさい。ご苦労様。」

 あれから3日が過ぎ、二日に渡る検疫も済んだ光一達は、久しぶりの我が家に帰って来た。
 玄関を上がると、迎えた朧の横を抜け、さっそく光一と薫に飛びついてくる光次郎と雛。

「ただいまー! いい子してたか?」
「えーと・・・うん!」
「おいこら、なんだその“えーと”は?」
「昨日、雛とケンカしちゃったのよ。初めての兄妹げんかね。」
「あー! おかあちゃん、言っちゃダメ!!」
「えーホント!? みっ、見たかったぁ!! あんのエロオヤジぃ、たわけた仕事作りやがってーっ!! もう十二、三発殴っといてやりゃよかったぁぁぁ!!」
「こらこら。」
「なんや、ひな。おにいちゃんとけんかしたんか?」
「うん」

 お父さんに抱っこされた雛は葵に笑顔で答える。
 仲直りもすんだ様で、雛にはもうお兄ちゃんとのイベントの一つとなってるようである。

「朧さん、歌穂は部屋?」
「リビングのベッドよ。帰って来るの気がついたみたいで、さっきおっきしたばかりよ。」
「ありがとう」

 朧にうなづくと、紫穂はリビングに向かった。
 そこの半円を描くソファの横に置かれた、3人目の主を受け入れた木造りのベビーベッド。
 その中で機嫌良く、小さな手足をパタパタと動かしている娘の姿を見て、紫穂は安堵の表情を浮かべてベッドから抱き上げた。

「う、あーんまーあー♪」
「ただいま、歌穂。みんな助かったわよ。よかったね、ありがとう。」
「ぱぅー♪」


 それは丁度六日前の深夜だった。
 その夜、皆本家の家人全員が叩き起こされるという『事件』が起こった。

 歌穂が夜泣きしたのである。

 この娘の夜泣きは、ただ泣くだけではなく、母譲りの能力で、周りに心を飛ばして来る為に、声で起こされるよりもはるかに驚かされる。
 だが、普段は逆にこの力のおかげで、普通の赤ん坊よりも親に欲求が伝え易い為に夜泣きはほとんど無い。
 しかし、この日は同じ力を持った母親の紫穂が隣に寝ていたにも拘らず生まれてから一番の『大声』で泣いた。
 その『声』は遥か離れた世田谷区にお住まいの堺 新三郎さん(57)を含む超度2以上のテレパシストを、みんな起こしてしまった程だった。

 紫穂が幾ら宥めても泣き止まない歌穂に、光一は『万一』に対して家に設置してあったECMを作動させた。
 それでどうにか落ち着いたものの、歌穂はまだぐずり続けていた。
 普通の泣き方じゃないと感じた紫穂は、娘の意識に接触を試みた。
 すると、紫穂の目にまったく知らない家の様子が鮮明に浮かび上がったのだ。
 それは丁度、歌穂を挟んでサイコメトリーをしている様な感じで紫穂の脳裏に見えていた。

「!?」

 ごく普通の部屋の様子だったが、違和感が在った。
 周囲から人の気配が感じられない。
 紫穂は視界を動かせるか試してみると、それはあっさりとできた。
 正確に言えば、さっきと違う誰かの『意識』に移動した様であった。

「何これ!?」

 そこに見えたのは、哺乳瓶を持ったままベッドに倒れ込んでいる母親の姿とベッドの赤ん坊。
 そしてその向こうには、パイプの掃除道具を握ったまま、椅子からズレ落ちて目を閉じる父親らしい男性の姿も見えた。
 さらに、窓の外にも歩いている途中で倒れたとしか思えない様子の人が幾人も見えていたのだ。
 すぐに彼らの様子を探ってみると、生きてはいるが、生体反応が極端に下がっていて、まるで冬眠している動物に触れた時の様な感触だった。
 異常を知った紫穂は、ここがどこか判る物が無いか探すと、つけっぱなしのテレビがニュースを流していた。
 それは、紫穂も眠る前に見た列車事故のニュースだった事で、このヴィジョンがほぼリアルタイムであるのを知った紫穂は、テーブルにある新聞と消印の入った郵便を見つけ、そのアドレスと名前、新聞の紙名から場所を特定し、夫に伝えたのである。

 すぐさま光一は朧から桐壺長官へ連絡を・・・とろうとしたら、『歌穂が夜泣き!』の報告を受けた本人が、テレポーターを連れてやって来た。

 ・・・部下としていろいろとツッコミたい事はあったが今は渡りに舟。光一から話を聞いた桐壺は、早急に事実の確認をとらせ、日本のほぼ反対側のとある郊外の街でバイオハザードが起こっている事実を知ったのである。
 しかし、『住民は全て死亡』と報告されて居る事が、紫穂が歌穂を通しトレースした状況とに食い違いがあった事から、桐壺は紫穂の報告を『部下への熱き信頼』の名目のもと『全面肯定』する形で予知・透視・遠視のエスパーを事態の確認に投入し、半日後には事の経緯の概要を、更に一日後には割り出された元ザンブロンゾ研究員からウィルスの特性を引き出す事に成功。
 公平とは言えない桐壺長官の調査だったが、その迷いの無さ故の迅速さのおかげで、報告書を鵜呑みにした某国政府が、焼却処置を正式に下す直前に割り込む事に成功し、政府側の作戦が開始されるまでの時間をバベルの『救出作戦』にもぎ取る事ができたのである。
 もちろん、光一達『ザ・チルドレン』の作戦行動の裏では、桐壺長官が調べ上げた証拠を政府に提出し、作戦の中止と被疑者の確保に動いていたのは言うまでもない。


「今回のお手柄は歌穂だな。」

 雛を肩車してあげながら、光一が紫穂の肩にポンと手を置いた。

「ええ・・・まさか、地球の裏側まで“お散歩”してたなんてね。」
「うーむー」

 もちろんこの散歩は「心の散歩」のことだ。
 紫穂にも経験があったが、夜眠るといつの間にか父や母の心に飛び込んでいて、その心の内にあった自分への“愛情”に甘えていた事があった。
 歌穂もそれと同じ事をしていたのだろうが、この娘は桁違いの範囲を飛び回っていたらしい。

「私が最初にリンクしたのは、ベッドに寝ていた赤ちゃんだったわ。ひょっとしたら歌穂の初めてのお友達なのかもね。」
「そう考えるとまったく驚きだよね。地球の裏の友達の危機を知らせたわけなんだから。」
「そうよねぇ。」
「でもよかったね、光一?」

 彼の二の腕を軽く叩いてニヤリと笑ったのは薫である。

「ん? なにがだ。」
「あの赤ちゃん、女の子でさ。」
「は?」
「男の子だったら、あたし達が全然知らないうちに仲が進んでて初対面で『歌穂をボクにください!』なんて言われてたかもね。」

 ウッと顔が引き攣る光一である。

「な、なに言ってるんだ薫。歌穂はまだ0歳だぞ?気が早いったらありゃしないだろ?」
「光一、言葉遣いがヘンになっとるで。」
「雛も、16年もしたら『孫』とか作って来てさー」
「リアルすぎる事を言うなー!」
「だいじょうぶやて。その頃にはこーちゃんが彼女作っとるて。」
「葵ちゃん、それ解決になってないから。」

 娘を持った男親の哀愁に沈み込む光一だったが、それとはおかまいなく当の娘は自分を抱く母に欲求を伝えていた。

「まー・・むにゅ」
「あら、おねむ?」

 紫穂がベッドに寝かせてやると、歌穂はいつもの様にすぐスースーと寝息を立て始めた。

「・・・またどっか行ったのかな?」
「さあ・・・けど、今度はええ旅やとええな。」
「そうね・・・」


 家族の見守る中、やすらかな寝顔を見せる歌穂。

 後に『Heart to Heart(嘘の無い世界)』の名で呼ばれる『精神融和能力者(サイ・ハーモナイザー)』皆本 歌穂の、これが初めての功績だった。


おしまい


※☆あとがき☆※

というわけで、皆本家のお父さん、お母さん達のお仕事のお話しでした。
バイオハザードの処置については、映画の知識程度で書いたので変な所もあったかと思いますがご容赦ください。
紫穂の二つ名は「こちら」では『小公女(Sara)』にしました。
子持ちになって『Little Princess』もどうかって感じですが、紫穂の場合は『Sara』の名前の威光もあって、定着してしまってるという事になってます。

あと前回もそうですが、話のネタ的に某ゲーム機関連のネタが続きました。
いまかなりハマってしまってて、ついやり易くて(笑)


ではレス返しです

>スレイブさん
レスどうもありがとうございました。
ナオミさん、最高でしたか。
でもこの後にナオミさんの話作るのを、自分から制限つけたよーな気が今更しております、ハイ(^ ^;。

>LINUSさん
大人になったら・・・というか、オヤジになったらアウトでしょうね・・・。
軌道修正がかけられるとしたら、今が最後のチャンスかもしれません。

>煮豆さん
たぶん、自分の経験があるから谷崎さんの様に、彼の人生を踏み外させる様な行動には出ないと思います・・・経験者の最後の良心として。

>セイングラードさん
美神さんに「兄妹か!」と認められとりますしね(笑)。
実のところ、この話で朧さんが見合い相手になったのは『梅枝ナオミ』と言うキャラを忘れてたからだったりするんです。
サンデー本誌は買ってないので、情報が丁度ブランクになってる時に書いてたせいです。すいません。
ナオミさんが見合い相手だったら、明美さんや好美さん達も黙ってなかったと言う展開も考えられますが・・・。

>ピリエさん
『男』です。
だって、光次郎くんは男の子ですから(笑)
ちなみに雛ちゃんは「くびぎつね」のタマモちゃんで遊んでます。

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