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「Dances with Wives! 3 〜恋する山猫さん〜(絶対可憐チルドレン)」

比嘉 (2006-01-25 11:29/2006-01-26 09:24)
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「ふ〜ふふ〜ん♪ふ〜ふふふ〜ん♪ん〜んん〜ん〜ん〜ん♪」

「あーうおあ、ぷーあむーうーんにゃーうー」

「ん〜んん〜♪ん〜んん〜 ん〜んん〜ん〜ん〜♪」

「んぱーぅお〜あ〜む〜、む〜おーあーあおー」


 ・・・・・・・・・・


「・・・あのな、かーさん一応子守唄歌うとるんやからな? 一緒に合唱せんとお眠してくれんか?」
「あー♪」


絶対可憐チルドレン パラレルフューチャー

Dances with Wives! 3
   〜恋する山猫さん〜


「しゃあないかぁ。夕べはよう寝とったよってな。」
「うーぱぁうー」

 すっかり板についた手つきで腕に抱いた歌穂をあやしてるのは、超能力者支援機関B.A.B.E.Lの特務チーム『ザ・チルドレン』のテレポーターユニット“AOI”のコマンダー、皆本 葵。通称バベルの『女神(GODDESS)』。
 育児施設の一角で赤ん坊をあやしてる事の方がギャップの激しい知的な美貌の人妻である。
 自身に実子はまだいないが、特殊な婚姻環境のおかげで義理の子供ら相手に赤ん坊の世話はお手の物な24歳だ。
 今日彼女がここでこうしているのは、“同妻”の紫穂の産後の診察と検査の間彼女の娘、歌穂の面倒を引き受けたからだ。
 ちなみに薫の息子、光次郎と朧の娘、雛も紫穂の検診と一緒に健康診断中。
 きっと今頃、母と子で『修羅場』が展開されてる事だろう。

 ・・・・・予防接種の為に。

「・・・こーちゃん、ええ子にしとるかなぁ。初めての時は施設中逃げまくって夕方までかかったよってな。」

 その時の騒ぎに『力』は関係なく、子供の発想とバイタリティを敵に回した怖さを親達に思い知らせた激烈な追跡戦だった事を記しておく。
(なんせ親・・・つまり皆本光一指揮する、元『ザ・チルドレン』三人の追跡を朝10時から「捕獲作戦終了」の17時17分41秒まで逃げ通したわけである。)

「歌穂ー、あんたのお兄ちゃんとお姉ちゃん、お行儀ようしとるかな?」
「あーぅ♪」

 歌穂の小さな手を指で握って上げながら、葵は話しかける。
 産まれてから一週間。
 歌穂の凄まじい精神感応は、とりあえず精神状態が平常であれば、『触っておはなし』が出来る程度に落ち着いて来ていた。
 なので言葉をかけてやる時に手とかを握ってやってると、乳飲み子ながらすんなり意思の疎通が出来る。
 もっとも単純な欲求が判る程度でではあるが。

「ん? そろそろお腹空いたか?」
「うー」

 葵はニッコリ笑って歌穂をベビーベッドに戻すと、「皆本 紫穂」と書かれた瓶を共用の冷蔵庫から取り出し、常設してあるミルクウォーマーに入れた。

「こういうとこ、手ェかからんのはええよなー♪・・・ん?」

 ウォーマーの温度を設定して、歌穂のもとに戻りかけた葵の目に、顔見知りの姿が映った。
 その人物は、ちょうど入り口の辺りでなんだか目立たない様にして育児室の中をじーっと見つめていた。
 その表情には、時々幸せそうな笑顔が浮かび、目は部屋の中でハイハイしたりお座りしてオモチャで遊ぶ子供達を一心に追い続けていた。

「ふーん・・・おーい、ナオミはんー!」

 葵が声をかけると、彼女・・・夫の第一秘書の梅枝ナオミは、顔中の筋が突っ張ったかの様にその表情をひきつらせた。
 そして、葵に向かってなにやら言い訳するかの様にワタワタと手を振り回すと、前に出ようとした自分の足を絡まらせ、

 ベチン!

 あげく、受け身も取り損ねて顔面を床にぶつけた。

「・・・そないに慌てる事か?」

 ピンポロローン♪

 座り込んで鼻を押さえ涙ぐむナオミに呆れる葵の傍らで、ミルクが温まった知らせが鳴った。


 んくんくんくんく

「わぁ、よく飲むのねぇ。」

 葵の腕に抱かれて哺乳瓶から勢いよくミルクを飲む歌穂をみて、ナオミが感心した様に声を上げる。

「うん。この子も感応系の力持っとるせいか、頭育てるのにええ母乳はすっごいよう飲むよ。」
「へえ・・・なんか一生懸命で、可愛いな。」
「この子はさわったったら言いたい事わかる分、手がかからんでな。こーちゃんやひなの時なんか、こうしてミルクやるんも夜討ち朝駆け昼夜無しの戦争やったから・・・」
「あはは・・・」

 なんかちょっと遠い目で「ウフフ」と微笑む葵に、困った笑みを浮かべるナオミ。

「ところでナオミはん、ここによう来とるん?」
「え゛!?」
「そ、そないびっくりせんかてええやん。」
「あ、ごっごめんなさい。」
「・・・もしかして、赤ちゃん欲しなったん?」

 ボッ!

 葵のその一言に、ナオミは瞬時に真っ赤になる。

「(あれ!? もしかしてあたりか?)」

 今年30歳の彼女は、今も独り身である。
 別に本人に問題があるわけではない。むしろ、女らしさならバベルでも五指に入る女性である。本当なら葵達より先に結婚しててもいいくらいだ。

 もしもあえて、彼女が独りである事に原因と呼べる物があるとしたら・・・

『男運が悪かった』

 としか言いようが無い。
 かつて谷崎主任(と、ザ・チルドレン)のおかげで『覚醒』したワイルド・キャットとしての過激な部分の方が風潮に乗り、さらに谷崎主任を〆る様子も、谷崎主任が何故か嬉々とした表情をしてるため彼女から男性を遠のける結果になってしまった。
 そもそも谷崎主任が当時猛反対しなかったら、光一の見合い相手は朧でなく彼女がなってた筈だったりする。

 そしてトドメになったのが、そんな状況の彼女に、谷崎主任が皆の前で本当にやらかしたプロポーズである。


 その“返事”として衆人観衆の目の前で起こった惨劇は、男達から彼女に求婚する意気地を根刮ぎへし折るに足る、バベルの闇の歴史となった・・・


 そんなナオミから感じた「春」の気配。
 葵はもう少し突っ込んで尋ねてみた。

「ほな、だれか『お父さん』になってくれる男(ひと)見つけたん?」
「!!」

 その問いには、ナオミは赤い顔のまま、いきなり視線を外して俯いてしまう。
 肩をすくめ、膝に置いた両手はギュ〜〜〜っと握り締められていて、まるで初恋を友人に告げた中学生の仕草である。
 大人っぽくきまっていた白のスーツが、いっぺんに浮いて見えてくる。

「へー・・・」
「〜〜〜〜(///)
「ぷ、あー」
「あ、よーし歌穂、いっぱいのんだなー。さ、げっぷしょうな」

 ミルクが済んだ歌穂を肩に抱き上げる葵の横から、ナオミはそそくさと立ち上がった。

「そ、それじゃ、わたし仕事に戻るわ。」
「あ、うん。光一のこと、よろしゅうな。」
「はい。薫さん達にもよろしく。」
「ぱー♪」
「ふふ、ばいばい。またね、歌穂ちゃん。」

 自分を見つめる歌穂にニッコリ笑って手を振ると、ナオミは心無しか足早に歩いて育児室から出て行った。

「・・・ナオミはんもやっと・・・かぁ。」

 初めて会ってから十余年。彼女の色恋の悲運を幾許ながら見て来てる葵は、彼女の幸せをそっと祈った。


「まあ、ナオミちゃんが?」
「よかったわね。少し気がかりだったもの。」
「今まで話がなかったのが不思議なくらいだよ。ほんと、お買い得なのにさー。」
「お買い得てな、薫・・・」

 ナオミが去ってからしばらくして。
 同じ育児室で皆本家の女性陣が話の輪を作っていた。
 ちなみにベッドに寝てる歌穂以外の子供達は、少し離れた所で他の子供達と一緒に遊んでいる。ひながちょっとべそをかいていたが、今回の予防接種は無難に終われた様だ。

「でも、相手ってだれなんだろ?」
「うーん。見た感じやとまだ片思いって気がしたけどな。」
「朧さん、誰か心当たりは無いの?」

 紫穂に尋ねられ、現在ナオミの直接の上司である朧が頬に指を当てながら首を傾げる。
 御歳○○で、この仕草が可愛く見えるのは、夫のおかげか日頃の努力と節制か。
 ・・・多分両方だろう。
 家には自分以外に、二十代の女性が三人もいるのだから、安易に『女』は捨てられない。

「誰かって心当たりはないわねぇ。私の前ではそんな素振りも見せた事なかったもの。」
「そっかぁ。気になるなぁ。」
「まあ、これはナオミさんのプライバシーなんだし、彼女が何か言って来るまでまちましょ。」

 紫穂の言葉に、薫達も「そうね」と頷いた。

「ママー!」
「おかあちゃまー」

 と、そこに光次郎と雛が勢いよく駆けて来た。

「ど、どうしたの。光次郎?」
「なあに? 雛。」

 二人は各々の母の膝に抱きつくと、真っ直ぐ顔を見つめた。

「「(む!)」」

 薫と朧にそれぞれピーンと来るモノが走った。
 子供らのこの顔は、明らかに「おねだり」する時の顔。
 二人とも素早く『対駄々っ子迎撃モード』に移行する。

「ママ! あれ買って!」
「ひなもー」

 ドンピシャだった。
 そう言って指差す先には、一緒に遊んでいた女の子が持っているハンディゲーム機がある。

「? なんだよ。あれならクリスマスに買ってやったろ?」
「ちがうー」
「ちがうのー」
「薫、挿さっとるゲームの事ちゃうか?」

 葵の言葉にいっせいにコクコクと頷く光次郎と雛。

「あのね、あのね、お化けになって遊ぶんだよ!」
「ひなきつねさんなりたいー」
「?」

 おそらくゲームの内容を直接言ってるだけなのだろうが、さすがに薫達にはすぐ理解しきれない。

「ちょっと見せてもらってくるわね。」

 そう言って朧が立ち上がると、キョトンとしてこちらを見ていた女の子の所に歩いて行った。


「『かいぶつの森(モンスターズ フォレスト)』?」
「ええ。簡単に言うと、疑似生活シミュレーションね。遊ぶ人がそれぞれドラキュラとか幽霊とかのキャラクターになって、自分のゲームの中の街で好きに暮らすってやつ。」
「あー、そういや昔、葵と紫穂そんなの遊んでたよな。」
「あのシリーズね。たしかに不思議と楽しいのよね。とくにゲームの中で、他の人と文通したりして、お話ししたりするの。」
「そんなものかなぁ?」
「薫は対戦かアクションばっかやったしな。」
「それとネットワーク通しても互いのゲーム機に行き来してお話するのも出来るみたいね。ほら、向こうの棟にこっち見てる男の子いるでしょう? あの子とお話したのを見せてもらったみたい。」

 朧が指差す中庭を挟んだ向こうの窓に、小学生くらいの男の子の姿が在った。

「ねー、ママ。いいでしょ?」
「うーん。」
「注射がまんしたお菓子いらない! ねー!」
「え・・・」

 光次郎の『お菓子いらない』発言に、薫の表情が凍る。
 なぜなら、この『お菓子』というのは薫手作りの特製クレープの事。光次郎や雛から「大好き」と言われた現状で唯一の薫のレパートリーだったりした。


 ザシャアァ!!


「あ・・あたしの努力は『てれびげえむ』にまけるのか? 苦節6年の修行は、ここまでなのかーーっ!」
「そこまで考えなくても大丈夫よ。いまはお腹空いてないだけだから。」

 息子の言葉に本気で挫けかける薫に、紫穂が冷静なフォローをした。

「それで、どうするの? 光次郎ちゃんもひなちゃんも、ちゃんとお注射したご褒美に買ってって言ってるわけだけど。」
「そうねぇ・・・」
「・・・いまやったら、八王子のゲーム屋でにーきゅっぱ(¥2,980)で買えるみたいよ。うちが買いに行ったら交通費もいらんけど?」

 携帯から情報サイトを見た葵が言う。

「・・・ご褒美としたら、まあ妥当なところかしらね。」
「ちょっと大サービスだけどね。」
「薫、あんたもかまわんのか?」
「ううう・・・おのれ『かいぶつの森』!! 次は負けないーっ!!」
「なにを張り合うてんねんな。・・・こーちゃん、ひな。よかったな、注射のご褒美に、買うてくれるて。」
「ほんと!?」
「ただし!」

 立ち直った薫がちょっと怖い顔をして二人に言った。

「注射はな、欲しい物が無いからしなくていいってモノじゃないからな! 来年もまたするんだぞ? いいな!」
「「うん!」」
「ならよし!」
「「わーーーーい!!」

 喜ぶ二人を見て、『あまいかなぁ』と思いつつも口元を緩める皆本家のお母さん達だった。


 ちなみに、

 終業後に買いに出向いた葵だが、人気作だった為にその時点では既に完売。
 結局その日のうちに日本中を飛び回ったあげくに、ようやく青森の個人経営のオモチャ屋で定価で手に入れて帰った時には、子供達は眠ってしまっていた。
 へとへとになった葵はその枕元にゲームの入った包みを置きながら“季節外れのサンタクロース”の気分を味わったそうな。

「あー・・・なんでかヤク○トが美味しい・・・」


「お、来た来た。」

 キィーッと音を立て小さな門が開き、二頭身の白銀毛の狼男が入って来た。
 頭の上に「しろ」と名前が浮いてる。
 それを待っていたのは、同じく二頭身の巫女姿のゆうれい少女「きぬ」。

 ポッ『まま?』

 狼男の「しろ」からでて来た吹き出しに、そう文字が浮かぶ。

 ピッ『そうだぞーいらっしゃい』

 お淑やかめの巫女幽霊の子からは、そんな返事の吹き出しが浮かぶ。

 ポッ『こんにちわ』

 狼男が礼儀正しくぴょこっとお辞儀をする。

 ピッ『よしよし。おひるごはんたべた?』
 ポッ『たべたーおむれつとごはんとおみおつけ』
 ピッ『そっか、おいしかった?』
 ポッ『うん』

 ここはバベルの屋上庭園。
 そこここでお弁当を広げている光景の中、サンドウィッチの入ったランチボックスを傍らに、ハンディゲーム機を開いてニコニコ顔でいるのは皆本 薫。
 その画面に映ってるのは子供達が買ってもらったのと同じ『かいぶつの森』である。
 実はあれから、子供らが遅く帰ってくるパパやママたちに宛てて、このゲームの中の掲示板に何かしら文を書いて行く様になったのだ。
 最初は直接言えばすむのにと面倒がってた薫だが、それでも紫穂に教わってゲームを始めてみると、そこでもう眠ってしまってる光次郎の「ママ、おかえりなさい」と書かれた一行を見た途端、じ〜〜んときてしまった。

 で、しばらく光次郎のゲーム機でのやり取りが続いたのだが、一週間後、薫は自前のゲーム機とソフトを買って来て、昼休みには光次郎達と“お話”するようになっていた。
 ただ、タッチキーボードを打ちながら、サンドウィッチとコーヒーを念動使って食べてるのが少々行儀が悪いが。

 ピッ『ままきょうはかえってくる?』
 ポッ『わかんない。でもかえれたらいっしょにおふろはいろーな』
 ピッ『うん』

 と、なった所でしばらく狼男がだまりこむ。

「ん?」

 ピッ『ひまも』

 突然の謎の言葉に「?」となった薫だが、すぐに察しがついたのか返事をした。

 ポッ『うん。ひなもいっしょな』
 ピッ『うn』

 タッチキーを押し損ねた返事が返ってくるのを見て、薫は楽しそうに笑う。

 ポッ『それじゃ、ふたりともかほといいこしてろよ』
 ピッ『うん』
 ピッ『はあい』

 そう言って門から出て行く息子の分身を見送ると、薫はパタンとゲーム機を閉じた。

「ふー・・・あーもー! なんかいいなー!」

 それはほんの1分足らずの他愛ない“お話し”だったが、薫はものすごく幸せだった。
 光次郎が生まれて以来、徐々にだが確実に子煩悩になっていった彼女にとって、子供とのそんな些細なコミュニケーションもその母性を満たしてくれた。
 実際、姓が変わって母となって以降の薫は心身ともに充実していた。

「さーてっと! 午後もがんばって仕事するか・・・・・あれ?」

 ピッ・・・ ポッ・・・ ピッ・・・

 ランチボックスを閉じて大きく伸びをした薫の耳に、さっきも聞いていた電子音が聞こえて来た。
 一応、スリープしている自分の『ハニーゴールド(テーマパーク限定色)』のゲーム機を見てみるが、音は出ていない。
 音の元を探して首を巡らせてみると、薫の居る所から木立を挟んだ所にあるベンチに座る女性の姿があった。
 音は彼女の手元から聞こえて来ていた。

「・・・ナオミさん?」

 フワ・・・

 薫は自分の身体を浮かばせると、そーっと木立の間を縫って近づいてナオミの手元を覗き込んだ。
 案の定、彼女の手には『パールホワイト』のゲーム機があり、その画面の中で「ねこ娘」のキャラと「だんぴいる」のキャラが会話をしていた。
 枝にまぎれる格好で見ている薫からはそれ以上はよくわからなかったが、会話が数回で終わらない所を見ると、どっちかが「お客さん」らしい。

「へー、ナオミさんもやってんのか。」
「え!?」

 ぽろっとこぼれた薫の声にナオミが振り向いた。

「あ、ごめ・・・」

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 バチン!

 ナオミは薫に気づくと、ものすごい勢いでゲーム機を閉じると同時に顔を真っ赤に染めて悲鳴を上げていた。

「わ、わわわわわ!?」

 ドシーン!

 薫は三半規管がしびれたよーな気がしてバランスを崩し、下の芝生に落っこちて尻餅をつく。

「あたた・・・」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ご・・・ごめんなさーーーーーーーーい!!」

 ダーーーーーーーーーーーーーッシュ!!

「あ、え?」

 タイトスカートで走ってるとは思えない超高速で駆け去っていくナオミを、まだクラクラする耳を押さえる薫と、その悲鳴を聞いた周囲の人達はボーゼンと見送った。


「・・・あの『声』、ナオミはんやったんか。」
「葵のとこまで聞こえたのか。」
「でも、たしかに変ね。」

 午後9時半、家のリビングでは子供らを寝かし終え、寝間着代わりのLLサイズのTシャツを被っただけの姿の薫が、薄桃色のネグリジェの紫穂と黒と白のパッチワークのパジャマを着た葵に、今日あった出来事を話していた。

「そりゃ、だまって覗いたのはあたしが悪いんだけど、あの反応はわけわかんないよ。」
「そもそもナオミはんが薫に謝る理由ないしな。」
「そうね・・・でももしかして・・・」
「なに? 心当たりあんのか? 紫穂。」

 思わせぶりに言葉を切る紫穂に、薫が尋ねる。

「もしかして、相手が噂の『彼』だったんじゃないかしら。」
「「あ!」」

 そう考えればたしかに合点はいく。

「けど、それやとゲーム機閉じて逃げたまではわかるけど、『ごめんなさい』まで言うか?」
「・・・たしかに。」
「ナオミさん、『薫ちゃんに』謝ったのよね?」
「ん? そう・・・なんじゃない? あの状況だと。」

 それを聞いて黙り込んだ紫穂に、薫と葵の二人は顔を見合わせる。

「どーしたんだ? 何かおもいついたのか?」
「・・・うん。あくまで想像でしかないんだけど・・・」
「なんや?」
「こう考えたらつじつまが合うのよ。つまり『お話ししてた相手が、薫ちゃんに申し訳なく思ってしまう人物』だったら・・・」
「薫に申し訳ないって・・・・・!? まさか!」
「そっ、それって・・・・・まっまさか、こ、光・・・」


 紫穂はコクリと頷いた。


「光次郎か! 光次郎なのかーっ!? ダメ! ダメダメダメッ!! あの子はまだ婿にはやらんーーー!!

 ・・・って、あれ? どうしたの?」

 盛大にズッコケてる葵と紫穂に、薫が首を傾げて問いかけた。

「アホー! こーちゃんなわけないやろーっ!」
「なにをー! 光次郎はいい男になるぞ! あたしそっくりなんだからなーっ!!」

 漫才を始める二人の間に、紫穂はため息をつきつつ割って入った。

「薫ちゃん。光次郎ちゃんがかわいいのはまちがってないけど・・・わかってるんでしょ?」
「ん・・・・・光一・・・だろ?」
「うん。」

 紫穂の相づちを境に、三人はシーンと静まり返る。

「ま、まさかー!? あの堅物がそんな自爆同然の真似するわけないじゃない!」
「でも、光一は朧さんの後から私たちを真っ直ぐに受け入れてくれたわ。」
「言いかえたら今の光一て、昔から考えたらすでに自爆済み・・・とも言えるわな。」
「日常から離れ、静かにすごす時を共有する二人・・・。愛人を持つ男性、愛人になる女性はだいたいそれを望むみたい。」
「それがナオミはんやと、相手役にはまりすぎやな・・・」


 どこかの高級マンションの一室。
 ガウン姿でナオミが作ったグラスを傾ける光一。
 自分のカクテルを作り終えると、そっとナオミは光一座るベッドに並び腰掛ける。
 洗ったばかりの黒髪が湿りを帯びたまま寝具の上に落ち、彼女はそっと彼に身体をあずけた。

 二人に言葉は無い。
 伝えたい言葉はもう各々の分身が伝えている。
 今は互いを包む、穏やかな空気が全て。
 やがて二人の影は重なりあい、ベッドサイドに二着のガウンが脱ぎ落ちる。

 サイドテーブルに置かれたグラスの横で開かれたふたつのゲーム機には、楽しそうに歩く「ねこ娘」と「だんぴいる」の姿があった・・・


「うああーーー!? なんか、なんか解る!! 解るけど、解る自分が憎らしいーーー!!」
「うわっ!? いきなりなんや!」
「何考えたのかは、だいたいわかるけどね。」

『内なるオヤジ嗜好』と『女』との葛藤に薫が転がり出した時、カララーーン♪と玄関に連動してるドアベルの音が鳴った。

「「「!!」」」

 そしてほどなく、いつもの様に残業を終えた光一と朧が、リビングに姿を見せた。

「ただいまー」
「ただいま。遅くなった・・・うん? ど、どうした?」

 ジ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ

 帰宅早々三人に睨まれた光一は、反射的に半歩程あとずさる。

「・・・ん、べつに何でもないよ。ほら、上着脱いで。」
「あ、ああ・・・?」

 転がるのをやめて光一の前に立った薫が、手慣れた仕草でボタンを外すと、するりと後ろに回って肩から上着をとる。

「食事、先にする?」
「いや、今日は風呂にするよ。」

 薫にネクタイを渡しながら、ようやく解放された首をさすりつつ、光一は紫穂に答えた。
 葵はその返事を聞いて、カラーボックスの棚から予め用意してある光一のバスタオルと着替えを持ち出した。
 実に息の合ったコンビネーションである。

 ・・・というか結婚6年、朧さんから数えたら8年。子供も作っててまだこんな事できますか、あんたらは。

「朧さん、はい。」
「ありがと、紫穂ちゃん。」

 疲れてテーブルでクタッとしていた朧の前に、ホットチョコレートが置かれた。
 独り身だった頃はなかった、家族の気遣いが今の彼女には心地好い。

「朧はんもお風呂は光一と入る?」
「んー・・・時間も遅いからそうしちゃおうかな? いい? あなた。」
「ん? ああ、かまわないよ。」

 そしていつもの、ごくありふれた日常が進んでいく筈だった。

 ・・・薫が“それ”に気がつかなければ。

「あれ? 光一。なんか上着いつもより重くないか?」
「え? あっ!!」
「むっ!?」

 その光一の反応を見た薫は、上着を指に引っ掛けてたハンガーごとクルッと『力』でひっくり返した。
 するとポケットの中身が床の上に落っこちる。
 その中に、

 ゴトン

「あ!」
「え?」
「・・・」
「なに? どうしたの?」

 例のゲーム機が一緒になって落ちていた。

「あ、そ、それは!」

 慌ててそれを拾おうと、光一が手を伸ばすが手が届きそうになった瞬間に『パシュン』と音を立てて消える。
 それは次の瞬間には葵の手にあった。

「こ、こら葵! 「非接触テレポート」は無闇に使うなって・・・」
「『パールホワイト』か・・・」
「ふーん・・・薫ちゃん。ナオミさんが使ってたのは?」
「・・・『パールホワイト』」
「おそろやな・・・」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 三人の周囲に灼けた鉄の様な色のオーラが沸き上る。

「お、おい? かおる? しほ? あおい??」
「光一・・・とりあえず話聞こーか?」
「正直に話してくれたら、ゆるしたらんでもないで?」
「別に話したくなかったら、話さないでもいいんだけど・・・」

 ジリジリと光一に詰め寄る三人をみて、朧があわてて間に入った。

「どうしたの、三人とも。いったい光一君が何をしたの?」

 その朧の腕に、紫穂が軽く手を触れた。

 パシッ!

「!」

 朧は驚いた顔で紫穂をみる。
 紫穂は黙って頷く事で、朧の無言の問いに答えた。

「・・・光一君?」
「え? お、おぼろ・・・さん?」

 急に声のトーンが一つ下がった朧を、何年かぶりに“さんづけ”で呼んでしまう光一。

「ナオミちゃんと何があったのか・・・じっくり聞かせてもらいますね。」

 振り返ったその笑顔は、それを知る者には恐怖以外の何も生まない地獄の微笑み。
 光一は、さっきまでの味方が噛み付かれた途端に敵に回ってしまう、ゾンビか吸血鬼ホラーの恐怖と言うものを、今初めて体感する事で理解していた。

「さあ、覚悟きめたか?」
「まって、薫ちゃん。ここで騒いだら、子供達が起きちゃうわ。」
「んー・・・じゃ、風呂場いこうか。それなりに遠いし、裸どうしで包み隠さず話合おうじゃない。」
「いいわね。」
「じゃ、いこか。」
「いやだから! いったい何でこんなこ・・・」


 パシュン!!

 パサパサパサ


 光一の必死の反論が途切れた後・・・
 そこには中身を失って床に落ちた、5人分の衣服が残るだけであった。


 コンコン

「皆本局長、梅枝ナオミ一尉、参りました。」
『ああ、入ってくれ。』

 シュッ

「何か御用でしょ・・・え!?」

 朝一番に光一に呼ばれ、彼の執務室にやって来たナオミは、中に入った途端、その光景に目を見張った。
 そこには、ほっぺたに湿布や絆創膏を張ってげんなりした光一の他に、直接の上司である皆本 朧と、生まれたばかりの歌穂と子供達を見る為にここに来れなかった紫穂を除いた薫と葵の姿が在った。
 つまるところ、皆本家のバベル職員がほぼ勢揃いである。

「あ、あの、どうかしたんですか? 皆本局長?」
「・・・ナオミ君。」
「は、はい?」

 光一のえらく疲れ切った切実な声に、ナオミは自分の質問を飲み込んでしまう。

「君の口から、ちゃんと説明してやってくれないか? 紫穂のおかげで一応無実は認めてもらったんだが・・・」
「は?」
「ナオミはん。実はな・・・」

 わけがわかりませんが?とポカンとしてるナオミに、葵が昨日の経緯を話した。

「・・・・・・・・・・・ど、どうしてそんなことに!?」
「ナオミさんの行動がおかしかったからだよ。昨日なんであたしに『謝ったり』したんだよ?」
「え? 私が・・・薫さんに?」

 うん?

 ここで初めて食い違いが見えた。

「え、えーと。そのゲーム機は確かに私が買って局長にお渡したものです。でもそれは大人に面と向かって相談事が出来ない子とコミュニケーションをとる方法として有効じゃないかって、私が提案したからです。」

 昨夜、ゲーム機が見つかった時に光一が焦ったのは、自分がそんな物を持っているのが知れたのが恥ずかしかったからである。

「それがなんでお揃いに?」
「それは単に同じ色の物が残っていただけです! 私も皆本局長も、皆さんを裏切る様な行為は何もしてません!」

 執務室の中で、真剣な視線が交わされる。
 ピーンと張りつめた静寂が起こる。

「・・・・・じゃあさ、ナオミさん、誰と話してたんだ?」
「え?」
「うん。それがわからんと、謝った事とか、えらい勢いで薫の前から逃げ出した事とか、話しが見えて来んのやけど・・・」
「・・・・・・・」
「おい、二人ともそろそろいい加減に・・・ムゥ!?」

 ナオミが俯くのを見て、光一が二人を止めようと声をかけようとするが、それは朧に止められた。
 小さく首を振りながら、『これは女の話です。』と光一に告げる。
 しばしの沈黙の後、ナオミはゆっくりと顔を上げた。
 その目には、ある決意が込められているのがわかる。

「あの・・・他の人には黙っていてもらえますか? あ、『彼』にも内緒にしていてください。わ、私の片想いなんですから迷惑はかけられません。」
「うん、それは約束する。」
「誓うわ。」
「・・・・・わかりました。じゃ、ついて来てください。」

 そう言って部屋から出るナオミの後を、朧と頷きあった薫と葵の二人が追って行った。


「・・・・・・『彼』?」
「はい。」

 三人は寄宿施設の中央広場を望める窓の前に立っていた。

「2ヶ月前、廊下で偶然出会って、そ・・・その時、きゅんと来ちゃって。」

「へぇ・・・・・」

 その広場では、バベルの寮に住む超能力者達が、桐壺長官の『健全な精神は健全な肉体に宿る!』の方針で決められた『朝の体操』をしていた。

「そ、それで、なんとかお話しする方法が無いかなって・・・。そしたら『彼』、あのゲームをやってるって聞いて・・・」

「ふうん・・・・・」

「それから彼が“友達ナンバー”を載せてるHP見つけて、先月にやっとお話しできる様になって・・・」

「ほぉ〜・・・・・」

「あっ けど、違いますよ? 皆本さんにお話しを持っていたったのは、彼とお話しするためじゃなくて、お話ししてて思いついたから進言したんです。」

「「・・・・・はぁ〜・・・・・」」


 梅枝ナオミ一尉。

 今年30歳になる彼女が、その器量にも関わらず独身な理由。

 それはあえて言うなら『男運が悪かった』としか言えない。

 初めて“男”(谷崎主任)に対して持った激しい嫌悪感。
 実際には成人した男なら多かれ少なかれ誰でも持っている筈のその部分を、彼女の敏感な感性は“許すまじきもの”として刻み込んでしまったのだ。

 その結果、

 彼女の中に、そこに触れない為の新しい感性が生まれたのである。

「『彼』、ほんとに『いい子』なんですよ。下の子の面倒見もいいし、優しいし・・・その分、やっぱり女の子にモテちゃうのがちょっと悔しいんですけど・・・」

「「・・・・・・・・・・」」

 薫と葵は一人はしゃぐ様に惚気るナオミを前に、もう沈黙するしか無かった。
 ちらっと広場の方を見ると、その『彼』が体操に参加した証明の『スタンプ』をもらった所だった。


 B.A.B.E.L 小等部6年
 P1(サイコキノ)/Class4
 Student No.03
 伊庭 雅彦/ Masahiko Iba
 Age: 11


 遠感知能力がある者なら、『彼』のスタンプシートにそう書かれているのが見えるだろう。
 それは奇しくも、薫達に『かいぶつの森』を知った時に、向かいの棟に居た少年だった。


 そう


 つまり、ナオミが“オヤジ”を嫌うあまりに芽生えた新たな感性とは


 ショタ属性であった。


「そうだ、知ってます? 彼ね、あの歳ですごくお料理詳しいんです。ご両親が共働きで自然に覚えちゃったらしいですけど、私も知らない様なレシピや裏技も知ってるんですよ? おばあちゃんっ子だって言ってたから、そのせいなのかな・・・?」

「(も、もう黙ってナオミさん! イ、イタいから! イタすぎるからっ!!)」
「(ナ、ナオミはんが謝ったんは、薫やのうて『世間様』にやったんか。これやったら、ほんまに光一が相手やった方がまだ対処のしようがあったんちゃうやろか・・・?)」


 お釈迦様でも草津の湯でも、超度7+のエスパーも、恋の病は治せない。
 少女の様な表情ではしゃぎ続けるナオミの横で、バベルの『雷鎚』と『女神』は、心底疲れ切った顔でただ肩を落として大きく溜息を吐いた。


 B.A.B.E.L特務部秘書官 梅枝ナオミ。
 彼女に幸福と言う名の天使が舞い降りてくる日は、一体いつの日だろうか・・・。


 それはだーれも判らなかった。


おしまい


あとがき

 ここまで読んでくださってありがとうございました。
 そして、梅枝ナオミファンのみなさま、

 ほんとにごめんなさい!!

 おもいっきり色物化してしまいました(汗)
 彼女が嫌いなわけではないんですけど、ナオミさんの話をと考えてたら、こんなのありそう・・・と思いついてしまいました。
 いや、本編からじゃ絶対有り得ない話ですけどね。

 それではレス返しです。
 >disraffさん
  あらためて、誤字の指摘ありがとうございました。
  いままであやふやに覚えていたので、本当に助かりました。
  覚えてなかったからトラウマにならなかった、だからデジャ・ブになった・・・と「卵が先か〜」の様な事態と言う事だと思います。

 >セイングラードさん
  あ、いえいえ。こちらも別に気にしてたわけじゃありません。
  ただファフナーの内容を知らなかったので、そんな設定だったんだと思っただけですから。
  『証拠隠滅』の所ですが、掛け布団は薫が身体を起こしてたのでめくれちゃってますから、肝心の部分は直撃できます(笑)。
  それに自分と皆本の身体が濡れてしまえば、ごまかしは効きますし。
  皆本も、あとちょっとでも身体を動かしてたら気がついてたでしょうね。

  しかし、自分で書いといてなんですけど、際どいネタだったかなぁ・・・(汗)

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