正月の三が日も明けた日、例のアパートでは横島とおキヌによる除霊が始まろうとしていた。除霊は横島とおキヌの二人だけで十分のはずなのに、何故か令子・シロ・タマモの三人も一緒に来ている。
「じゃあやろうかおキヌちゃん。」「はい。」
おキヌが『探』の文珠を発動させる。流石に一度見つけているだけに程なく発見出来た。
「見つけました横島さん。」
「そうか、じゃあ俺の手におキヌちゃんの手を重ねて。」
その手の上には『伝』の文珠が乗せられている。
少し照れたようにおキヌは手を重ね、横島はそれを優しく包み込むように握る。それを見た瞬間、令子・シロ・タマモがジト目に変わる。
「じゃあいくよ。依代のある場所をイメージしてね。」「はい。」
『伝』の文珠が発動し、横島にも依代のイメージが伝わってきた。
「よし、見えた。こりゃぁ深いな、流石おキヌちゃんだ。さーて、伸びろ霊波刀!」
物体をすり抜ける霊波刀が床についた手から伸びていく。
「くぅ、これ予想以上に深いし・・・きつい。」
横島はひたすら集中し、懸命に霊波刀を伸ばす。ちょっとでも集中が途切れると霊力が拡散してしまうので慎重に行わなければならないのだが、文珠の効果の持続時間も気になる。
「もうちょっと、もうちょっとです横島さん。」
文珠の効果で横島の霊波刀が伸びていくシーンも見えているおキヌが応援する。約3分で霊波刀は依代のところまで届いた。
「よし届いたぞ! 後は文珠を・・・」
横島は更に集中する。自らの霊力を凝縮させる文珠を生成する為の霊力を、物体をすり抜ける程密度を薄くした霊波刀を通して送らなければならないのだ。
「がんばって下さい横島さん、あっ・・・・・」
そこで『探』の文珠の効果が切れる。その後『伝』の文珠の効果も切れたため、後は横島の感覚だけが頼りとなる。
長い15分が過ぎた。
「よ・・・・よし、なっ・・何とかなったぞ。いけー!!」
伸ばした霊波刀の先で文珠が発動する。皆が見つめる中、横島の左手に転移した依代が現れる。
「やっ・・たぜ。美神さんとおキヌちゃん、後をお願いします。」
おキヌに依代を渡すと横島は倒れ込む。
「先生!」
「横島!」
シロとタマモが横島に駆け寄るが、令子とおキヌは依代の除霊を優先させる。何故ならそれこそが横島の願いだから。
「おキヌちゃん!」「はい!」
おキヌのネクロマンサーの笛の音と令子が予め横島から預かっていた『浄』の文珠により、霊が依代から離れ昇天していく。
「終わったわね。」
「そうですね。はっ! 横島さんは?」
おキヌが慌てて横島に近づく。
「大丈夫でござる。」
「ただ気を失っているだけみたいよ。」
その言葉にほっと胸を撫で下ろす令子とおキヌ。
「ったく、こんな無茶なことやるから。」
「でもそれが横島さんですから。」
「・・・そうね。」
令子とおキヌは見つめあって笑みを浮かべた。
横島が意識を取り戻した後は、令子とおキヌが知り合いのお寺に依代の供養を頼みに行き、残りの3人が不動産屋に除霊完了の報告に行った。
不動産屋は感謝の言葉を述べ、今日から2世帯とも入居してくれてもかまわないと言ってくれる。電気・ガス・上下水道・電話等の手続きもこちらでやっておくから、後でサインと捺印だけしてくれとの事だった。
そう言う事ならと横島は小鳩たちを迎えに行き、新居となるアパートに連れてきた。
「本当なんですか横島さん? こんなに立派な所が月2万円でいいなんて。」
連れてこられた部屋を見て小鳩は驚いて横島に詰め寄っている。
「落ち着いてよ小鳩ちゃん、本当だって。ここを除霊したお礼って事でそういう契約になってるんだ。」
「えっ? じゃあ私たちが入るのは・・・・・」
「気にしないでいいよ。美神さんがその辺はきちんとやってくれて、2世帯分を確保できたから。」
「ありがとうございます横島さん。」
「いいのいいの、いつも世話になってるのはこっちなんだから。それよりどうする? 不動産屋の言う事だと今日から入居できるってさ。お互い荷物もあんまり多くないし、一気に引っ越しをしちゃわない?」
「・・・はい! そうしましょう。」
そうとなれば後は早い。戻ってきた令子にそれを話すと、令子が何処かに電話を掛けトラックを手配する。電話している時の令子の口からは何やら“地獄組”だの“私たちお友達でしょ”だのと言った声が漏れ聞こえてはきたが・・・
今度のアパートは作りつけの家具などもある為に持ち出す荷物は少なくて済む。横島とシロ、それにトラックを運んできた人相の悪い二人組がトラックへの積み込み、その他の人たちが荷物の梱包係となった(令子を除く)。
横島の部屋は主におキヌが担当していたのだが、何故か横島の貴重なコレクションはことごとく廃棄処分の憂き目となる。どうやら“巨乳”というキーワードがお気に召さなかったようだ。
「青春の光と陰がー!」
嘆く横島だったがおキヌに睨まれると何も言えない。
大家の話では「どうせ取り壊すのだから掃除の必要も無い。」とのことなので、引っ越しは思いの外早く終わった。まあ2世帯合わせてもトラックの荷台が半分も埋まらないのだから当然かもしれないが。
「ねえ横島君、これだけの部屋にそのテレビは合わないんじゃない?」
令子に言われて横島は運んでいた自分のテレビを見る。かなり昔のチャンネルをつまみで切り替えるタイプの14型、確かにこの部屋には似合いそうもない。
「それに、フローリングの床にそんな使い古した布団を敷いて寝るってのもねぇ。・・・・いいわ、これから必要な家具や家電製品なんかを買いに行きましょう。」
「えっ?」
「ほら行くわよ、立ちなさい。おキヌちゃん・シロ・タマモ、あなた達も行かない?」
「行きます。」
「行くでござる。」
「行こうかな。」
話は決まり、横島の運転する車で大型家具店や家電量販店等を回る。
リビングに置くAV関連機器、各部屋に置くベットや寝具類、令子に「これから必要になるから。」と言われて購入する事になった横島用の机とパソコン一式、おキヌのリクエストでそろえた冷蔵庫やオーブンレンジ等の調理器具関係、横島の希望で購入する事となった冬以外はテーブルにもなる大きめのこたつとそれを設置する為にフローリングの床の一区画に敷くカーペット等々、その他諸々を合わせると横島の手元にあるお金ではとても買えない金額となった。
「美神さん、とてもこんなに買えませんよ。」
「大丈夫よ。私が預かっている横島君名義のお金を使うから。」
「いいんですか?」
「まあこんな大きな出費は想定していなかったし、横島君が卒業すれば渡すお金なんだからいいんじゃない。」
この令子の言葉であっさりと購入が決まり、令子の懇切丁寧な“脅し”によって全て即日配達してくれる事となった。
その後はスーパーに寄って食材を購入してアパートに戻る4人。
令子の“脅し”が功を奏し、程なく購入した品物が届いて運び入れられる。
「ふぅー、これで何とか片づいたわね。」
こたつに入りお茶を飲みながら令子が言う(殆ど何もしていないくせに)。横島は辺りをキョロキョロと見渡し、
「なんか落ち着かないっすねー。本当に俺みたいなのが、こんな立派な所に住んでもいいのか疑問に思っちゃって。」
と言う。
「まあ最初はそうかもしれないけど、1週間もすれば慣れるわよ。」
「そんなもんすかー?」
「そんなもんよ。まあ今日は引越祝いと言う事で、お隣さんの小鳩ちゃん達も呼んで楽しくやりましょう。」
「はい。じゃあ俺小鳩ちゃん達にその事を話してきます。」
そう言って横島は部屋を出て行く。
その後尋ねてきた不動産屋との契約も完了し、宴の時間となった。
最初は和やかな雰囲気であった。おキヌと小鳩の作った料理も美味しくて皆楽しく語り合っていたのだが、途中から令子の持ってきた酒が皆の飲み物に混ざってしまった為に、アルコールに慣れていないおキヌ・シロ・タマモの様子がおかしくなる。
突然シロが「今日はここに泊まるでござる。」と言い出す。
それを聞いたおキヌやタマモまで「なら私だって。」と言い出す始末。
横島は『誰だよ未成年に飲ませたの』と思いながら、「いや、それはまずいよ。」と止める。
しかしアルコールで頬を赤くした3人は譲らない。おキヌなどは上体がフラフラし始めダウン寸前である。
何やらやばくなりそうな雰囲気を察し、横島は小鳩たちを帰してから再び説得をするが聞き入れてもらえない。
最後には令子までが「3人を泊めて何か問題が起こったら困るから、保護者として私も泊まる。」と言い出した為、哀れ全てのベットを占領された横島は新居での初めての夜をリビングのこたつで眠る事となった。
引っ越し騒動も一段落すると、令子・おキヌ・シロ・タマモは温泉旅館の女湯に出る悪霊の除霊に行く事になった。
「まあ、ギャラは安いけど4〜5日ゆっくりしてくるつもりよ。」
と言う令子。当然横島は留守番となるのだが、
「美神さん。それなら俺妙神山に行ってきてもいいですか?」
と訊く。
「また何で? 修行でもするの?」
「いえ、住所が変わったって事をパピリオに教えようとして電話したら、遊びにこいって駄々捏ねられたもんで。まあついでに小竜姫様達にも新年の挨拶をしようかと思いまして。」
「ふーん、まあいいわ。急ぎの予定も入ってないしね。」
「そうっすか。じゃあ俺も明日出発します。」
「ええ、分かったわ。」
「先生、修行なら拙者も行くでござる。」
シロがそう言って横島に詰め寄るが、
「話を聞いてなかったんかシロ、修行じゃなくて新年の挨拶に行くんだ。」
「それでもいいでござる。先生と一緒なら拙者は・・」「「「駄目!」」」
シロの希望は他の3人によって却下される。
翌日、ジタバタと暴れるシロを無理矢理車に押し込め令子達は出発していった。
それを事務所前で見送った横島も荷物を背負って出発準備を始める。
『お聞きしてもいいですか横島さん。』
「ん、何をだ? 人工幽霊一号。」
『大きな荷物を背負っていますけど、お車は使わないのですか?』
「ああその事か。妙神山へ行くには山道をずっと歩かないといけないし、あの辺りはあまり雪が降らないと言え季節は冬だからな。何より山の登り口に駐車場も無いんで、乗っていった車がどうなるか分からんから電車で行くよ。」
『そうなのですか、分かりました。』
「んじゃ行ってくるわ。戸締まりよろしくな。」
『はい、お気をつけて。』
人工幽霊の見送りを受けて横島は出発した。
「よう鬼門達、あけましておめでとう。元気にしてたか?」
「ん? 横島ではないか、久しぶりだの。おぬしこそ元気だったか。」
「ああ、まあな。」
「して、今日はどのような用向きじゃ?」
「新年の挨拶とパピリオに会いに来た。」
「そうか、ではしばし待て。」
「ああ。っとそうそう。」
横島は背負った荷物を降ろし瓶を2本取り出す。
「これは鬼門達にだ。結構良い日本酒みたいだから二人で飲んでくれ。」
「なに?!」「わっ、儂らにか?」
「ああそうだよ。まあ今年もよろしくって事でな。」
「おお! それはすまんのぅ。」「ありがたく頂くぞ。」
「どうぞどうぞ。」
「なあ右の、横島が儂らにここまでしてくれるとはのぅ」
「そうじゃな左の、変われば変わるもんじゃのう。」
「えらい言われようだな・・・・・まあ前は、小竜姫様にしか興味がなかったし、そもそも金が無くて何も買ってこられなかったからな。」
「「と、言う事は?」」
「美神さんが俺の給料を上げてくれたんだよ。」
「「なっ、何ぃーー?!」」
「あっ、あの美神令子が給料を上げるとは。」
「天変地異の前触れかもしれんな左の。」
「おっ、お前らも無茶苦茶言うなあ。まあ俺もかなり驚いたけどな。」
「それは・・」「・・そうだろうな。」
「「「はっはっはははは・・・・・」」」
乾いた笑い声を上げる3人。
「おっ?! 小竜姫様が来たようじゃぞ。」
「そっか。」
門が開き小竜姫が顔を出す。横島は笑顔で、
「あけましておめでとうございます小竜姫様。今年もよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。小竜姫の方も直ぐに横島が飛び掛かって来るのを警戒していたのに頭を下げられ多少驚く。が直ぐに笑顔に戻り、
「あけましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね横島さん。」
そう応える。
「今日は横島さんお一人ですか?」
「はい、そうです。」
「今回は何日くらい滞在されるのですか?」
「そうですね・・・四日間くらいでしょうか。」
「にしては・・・・・・・大きな荷物を抱えてきましたね。」
横島の横に置いてある荷物を見ながらそう言う小竜姫。
「これですか? まあ色々と・・・」
「そうですか。立ち話も何ですから中へお入り下さい。」
「はい、お邪魔します。」
横島は荷物を持ち上げ門の中に入る。
「横島さん・・・・・あなた成長しましたねー。」
突然驚いたように小竜姫がそう言う。
「えっ?! 何の事ですか?」
「歩き方で分かります。きちんと修行を積んでいるようですね。」
「そんな事も判るんですか?」
「ええ。後で修行の成果を見せてもらってもいいですか?」
「はあ、そんな大層なものじゃあないんで構いませんけど。」
「それは楽しみですね。」
そんな会話を交わしながら母屋に向かって歩く二人。
「そう言えばパピリオは?」
「ふふ、来ましたよ。」
横島が小竜姫の視線の先を追うように見ると、走って近づいてくるパピリオが見える。
「ヨコシマー!!」
そう言いながら横島に抱きつくパピリオ。横島は荷物から手を離しパピリオを抱き上げる。
「久しぶりだなパピリオ。力一杯抱きつく癖は直ったみたいだな。」
「むー失礼でちゅね。わたちも成長してるんでちゅよ。」
「成長ねぇ、あまり変わっていないように見えるけど。」
「魔族は人間と違って成長が遅いんでちゅ。それに小竜姫だって全然成長してまちぇん。」
「いや、小竜姫様はもう大人だろ。」
「えっ! そうなんでちゅか? 背が低いからまだ子供だと思っていたでちゅ。」
「お前なぁ、そんなの話をすれば分かる事だろう。ここに1年以上もいるってのに。」
「女性に年齢を尋ねるのは失礼なんでちゅよ。」
「いや、女同士ならそうでもないと思うけど。」
「そうでちゅか・・・小竜姫はもう大人なんでちゅか。もう成長しないんでちゅね。終わった胸なんでちゅね。ルシオラちゃん並み・・・いや、それ以下かも知れまちぇん・・・・・・不憫でちゅ。」
「そうかルシオラ以下・・・って、何でパピがそんな事知ってるんだ?」
「そんなの一緒にお風呂に入っているからに決まってまちゅ。」
「あっ、そうだよな。」
「ふふん、パピの胸には未来がありまちゅ。もう終わってる小竜姫とは違うんでちゅ。」
「・・・・・お二人とも私が側にいる事をお忘れですか?」「「あっ!」」
慌てて二人は小竜姫の方を向く。笑顔だ。とっても笑顔だ。ものすごく笑顔だ。
「ふっふっふっふっふっふ・・・・・・・」
徐々に小竜姫の手が神剣に伸びていく。横島とパピリオはもう汗びっしょりである。
「逃げるでちゅー!!」「戦術的撤退ーー!!」
その一言でパピリオを抱えたまま脱兎のごとく逃げ出す横島。
「逃がしません!」
神剣を抜いた小竜姫が追いかけてくる。
「仏罰です!」
斬りかかる小竜姫。
「うわぁあああー!」
人間業とは思えないターンで神剣を躱し遠ざかる横島、よくもまあパピリオを抱えたままでそんな芸当が出来るものである。
「うふふふふ、今のを躱すとは・・・・・本当に成長しましたね横島さん。」
危ない笑みを顔に浮かべ更に追いかける小竜姫。
「こんな事の為に成長したんとちゃうわぁー!!」
「ヨコシマ急ぐでちゅ。」
心からの叫びを上げて逃げる横島をパピリオも急かす。唯一の救いは小竜姫が冷静さを失っているので超加速が使えない事だろうか。まあ結果は時間の問題であろうが・・・・・
「あー酷い目に遭った。」
居間でお茶をすすりながら横島が言う。ちなみに何処にも怪我をした痕跡は無い。
「本当に頑丈ですね横島さん。」
横島と向かい合った席では小竜姫がお茶を飲んでいるものの、まだ機嫌は直っていない。パピリオは横島の隣の席でお菓子に夢中になっている。もはや先程の件は頭の片隅にも残っていないようだ。
「小竜姫様、そろそろ機嫌を直して下さいよ。子供の無邪気な発言じゃないですか。」
「無邪気?・・・・・・・・・はぁ、まあいいでしょう。」
「あっ、そうだ! 忘れてた。」
持ってきた荷物を探り始める横島。包みを一つ取り出し小竜姫に差し出す。
「これ、小竜姫様にです。」
「何ですかこれは?」
包みを見詰めたままポカンとしている小竜姫。
「んーと、お土産と言うか心ばかりの贈り物というか、まあそんな物が入っています。」
「私に?」
「はい、どうぞ。」
「あっ、ありがとうございます。」
ようやく包みを受け取る小竜姫。
「あのー、開けてもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ、喜んでくれるかは判りませんけど。」
小竜姫が包みを開けて中の物を取り出す。
「これは・・・・手鏡?」
「はい、小竜姫様が人間の女性が使う香水や装飾品なんかを気に入ってくれるかどうか分からなかったので・・・でも女性なら身だしなみには注意しているだろうなと思ってそれにしたんですけど・・・・・気に入っていただけました?」
小竜姫は手鏡をしげしげと眺めた後で、
「横島さん、ありがとうございます。私にそこまで気を遣っていただいて。大事に使わせてもらいます。」
と笑顔で応える。どうやら小竜姫の機嫌も直ったようで、その笑顔を見た横島もほっと胸を撫で下ろす。
「分かった、分かったってパピ。お前にも買ってきてあるから。」
先程から横島の袖を引っ張っていたパピリオの方を向いて包みと封筒を渡す。
「ありがとうヨコシマ。開けてもいいでちゅか?」
「ああいいぞ。」
パピリオが開けた包みの中には蜂蜜の瓶とゲームソフトが入っていた。
「パピのも色々悩んだ結果そうなったんだ。ゲームは老師と一緒に遊んでくれ。それとこっちは・・・・・」
そう言って封筒を指さす横島。中にはデジャブーランドの年間フリーパスが2枚入っている。
「これは今度一緒に行こうな。」
「ヨコシマ! 嬉しいでちゅ。」
パピリオがそう言って横島に抱きつく。横島もパピリオを抱き返し頭を撫でる。
「ちゃんと小竜姫様の言いつけを守って外出許可をもらうんだぞ。今度の俺のアパートは広いから泊まっても大丈夫だからな。」
「わかったでちゅ。」
そんな二人を見て小竜姫は笑みを浮かべている。
「あっ、小竜姫様も一緒に来てもらっても大丈夫ですよ。今度のアパートは寝室も3つ在りますから。」
「ふふっ、考えておきますね横島さん。」
小竜姫は笑顔で返した。
その後横島は老師・ヒャクメ・ベスパ・ワルキューレ・ジークへの贈り物を小竜姫に託し、互いの近況を話す。
「あら、もうこんな時間ですか。では横島さん寝室に案内しますので付いてきて下さい。」
「ヨコシマはわたちと寝るんでしゅ! 行きまちゅよヨコシマ。」
「ちょっ、待てパピリオ。荷物・・荷物!」
パピリオは立ち上がって横島を引き摺りはじめ、横島は引っ張られながらも何とか荷物を掴む。
「私は食事の準備をしますから、その間にお風呂に入って下さいね。パピリオも。」
「分かったでちゅー!」
「こら、そんなに引っ張るな! 痛い、痛いってばー。」
横島はパピリオに引き摺られたまま居間から出て行く。
「うふふ、パピリオもいつになく元気ですね。さあ私もご馳走を作らなくちゃ。」
小竜姫も楽しそうに台所へ向かった。
「ふー、いい湯だな。あー疲れが取れる。」
横島は露天風呂につかっており、時折首や肩を動かしてこりを解している。
「ヨコシマ、ミカミ達はどうしたんでちゅか?」
横島の隣で風呂につかっているパピリオが訊く。
「ああ、美神さん達なら、温泉旅館の女湯に出る悪霊の除霊に行ったよ。悪霊の出る場所が女湯だったから俺は行かなくてもよくなったんだ。なんか4〜5日ゆっくりするつもりらしいし。」
「そうなんでちゅか。そのおかげでヨコシマが来てくれたんでちゅね。」
「まあな。」
そう言って横島が空を見上げる。空はきれいな夕焼けになっていた。
「なあパピリオ、ルシオラが夕焼けを好きなのは知ってたか?」
「いえ、知らないでちゅ。」
「逆天号に乗ってた頃、洗濯をしていた俺にパピリオが作った衣装を渡してくれた時、その格好のまま俺が物乾し場で洗濯物を吊していたらルシオラに会って、その時にあいつが言ったんだ。『昼と夜の一瞬のすきま、短時間しか見れないからよけい美しい。』ってな。その後でお前達の寿命が1年しかない事を聞いて・・・その頃からだったかなルシオラの事が気になりだしたのは。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それから少しして美智恵さん、Gメンの隊長で美神さんの母親だけど、その人の策略で逆天号同士で戦う羽目になったよな。あの時にあいつと俺で逆天号を修理する事になって、向こうの逆天号の攻撃であいつが宙に放り出されそうになったんだ。それを俺が助けて、何とか異空間に逃げる事が出来た後であいつから告白・・・されたのかな?・・・まあそれで恋人同士みたいになれたんだけど・・・その告白の言葉がさ、『敵でもいい、また一緒に夕焼けを見て。』だったのさ。
なもんで、あいつの好きだった夕焼けを見るとあいつを思い出すのさ。ルシオラを・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「恋人同士でいられたのって本当に短い間でさ、俺に命をくれて逝っちまったあいつ。あいつは蛍の化身だったけど、本当に蛍のように儚く逝っちまった。
けど、夕焼けを見るとあいつと一緒だった時の事が思い出せる。ただ馬鹿でスケベなだけの俺なんかを唯一愛してくれたルシオラとの出来事を。
あいつが生きている間には何もしてやれなかった俺だから、せめてあいつとの事は絶対に忘れたくないんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんな事を考えながら夕焼けを見ると、また更に綺麗に見えて、俺は夕焼けが大好きになったんだ。
ちょっと寂しいけど心が温かくなる夕焼けが。」
「・・・・・そうなんでちゅか。」
「ああ、だからパピリオも夕焼けを見た時はちょっとでいいからあいつの事を思い出してやってくれよ。そして出来れば夕焼けが好きになってくれると嬉しいな。」
「・・・・・分かったでちゅ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・夕日、沈んじゃったな。」
「・・・・・そうでちゅね。」
それでも二人はじっと空を見ていた・・・・・いつまでも。
食事の用意が出来たと二人を呼びに来て、偶然話を聞いてしまった小竜姫まで巻き込んで。
『あとがき』
どうも「小町の国から」です。
“横島とパピリオがそんなに長い間風呂に入っていて上気(のぼ)せなかったのか?”との突っこみは勘弁して下さい。上手く表現できなかったんです。
まだまだ未熟なこの作品を気に入っていただき、感想をくださった方々どうもありがとうございます。
次回も妙神山での出来事を書こうと思っています。期待に添えればいいのですが。
それでは「その14」でお会いしましょう。
「小町の国から」でした。