「覚悟、ブラドーーー!!」
ピートがブラドーに突貫する。美神が止める声も聞こえていない。ブラドーはニヤリ笑って軽く腰を落とした。
「バンパイア滅・波動拳ーー!!」
ドンッ!
強烈な魔力弾を腹に受けたピートが吹っ飛ばされる。
「ぐっ!」
「だ、大丈夫かねピート君!?」
唐巣が駆け寄るとピートは何とか体を起こして、
「は、はい……油断しました……」
「ピートさん、おなか出してください」
おキヌがピートのそばに膝をついてヒーリングをかける。彼が復帰しなければ今回のミッションは終わらないのだ。
ブラドーに対しては、雪之丞が魔装術で立ち向かっていた。
「へっ、面白くなってきたじゃねえか!!」
見せる機会はなかったが、この鎧は魔族の霊波砲すら撥ね返す強度を持っている。2発目の魔力弾を受け止めて、そのまま接近戦にもつれ込んだ。
「ナイスよ雪之丞! そのままそいつ押さえといて!」
安全な場所からあんなもので狙い撃ちされたら危険すぎる。美神はそう叫びつつ、自らも神通鞭をふるった。
バチバチバチッ!
1振りで3人の吸血鬼を転倒させる。相手の方が人数が多い上、おキヌやカオスなどは戦力外どころか吸血鬼が近づかないよう守ってやらなければならない。倒してしまうのは他に譲って、今は足止めに専念しているのだ。
「やれマリア!」
「イエス、ドクター・カオス。ロケット・アーム!」
マリアの方は十分戦力なのだが、銃火器類を使うわけにはいかないので、使える武装はこれだけだった。吸血鬼を倒しきるほどの威力はないので、こちらも後衛の護衛に徹している。
「父と子と聖霊の御名において命ずる、その邪悪なる魂を解放せよ!!」
唐巣の詠唱と共に、その掌から眩い光が放たれた。闇の眷属が苦手とする聖なるエネルギーが数人の吸血鬼を吹き飛ばし、昏倒させる。
「どうした、この程度か? オラオラオラーーッ!」
「くっ、人間風情が調子に乗りおって! 滅、ふん、うらあっ!」
まとわりついて離れない雪之丞に、ブラドーが必殺の3連アッパーを放つ。雪之丞を吹っ飛ばして自由になると、吸血鬼たちにGSチームの後衛への攻撃を命じた。彼らの隊形を崩すためである。
「くっ、させるか! バンパイア旋風脚!!」
ようやく回復したピートが、体を回転させながらの横蹴りで1人目を薙ぎ倒した。ついでマリアのロケットアームが2人目を突き飛ばしたが、3人目は止める者がいなかった。
「いかん、逃げるんじゃ嬢ちゃん!」
カオスが切羽詰った声でおキヌに叫ぶが、彼女の足では逃げられそうもない。もはや少女が吸血鬼の毒牙を避ける術はないかと思われたが、
「ちょっとタマモ、何考えてるの?」
おキヌをかばう形で前に出たタマモに美神が叫ぶ。無理もない、いつもセット扱いになっているシロと違って彼女は肉弾派ではないのだから。しかし妖狐たる者、仲間をかばうといっても無鉄砲に我が身を盾とするほど酔狂ではない。
(あのバカ犬に負けるのは面白くないから……ね)
シロが暇をみつけては横島やルシオラに稽古をつけてもらっているのをタマモは何度も見かけていた。剣術については素人のタマモだが、それでも彼女の技がぐんぐん上達しているのはよく分かった。
だからと言って彼女に混じって泥臭い修行をしようなどとは考えた事もない。妖狐はあくまで知的に、優雅に――が信条なのだから。
タマモが前に出たのは、ちゃんと彼我の能力差を見極めていたからだ。ここまでの戦いで吸血鬼たちの身体能力は把握していた。まっとうな状態ならかなわないかも知れないが、単調な動きで掴みかかってくるだけなのだからさばくのは容易い。その腕をかち上げて、無防備になった胴に手をさしこむ。
「ロック解除、フォックスファイヤーフルオープン……!」
ドドドドドッ!
最大パワーの狐火を連射して吹き飛ばした。吸血鬼が悶絶して動かなくなる。
「ふん、戦うに値しない障害だったわ」
「だったら初めからもっと真面目にやりなさい!」
口は災いのもと。
「大リー○破魔札2号ーーー!!」
おキヌが投げつけたお札が額に貼りつき、一瞬吸血鬼の動きが止まる。美神が神通鞭で打ち叩き、タマモが狐火を吹きつけた。
「ギャアアアッ!」
集中攻撃に耐えかねて吸血鬼が気絶する。美神が周囲を見渡して、
「よし、これで全滅したわね……って、あれ?」
そう、確かに吸血鬼たちは全員KOされて倒れている。しかしその中にブラドーの姿はなかった。
「ま、まさか……」
美神の唇がわなわなと震え出す。
「「逃げたーーーーー!?」」
マリア以外の7人の心からの叫びがユニゾンした。
「み、美神さんどうしましょう!?」
おキヌがおろおろして雇い主に尋ねる。美神もテンパっていたが、さすがに超一流と呼ばれるだけあって対応に遅れはなかった。
「落ち着いて、奴もそう遠くには行ってないはずよ。ピート、この部屋からの脱出口はどこにあるの?」
「入り口の扉以外では玉座の後ろの扉ですが……くっ、真・バンパイア昇龍拳のシーンが没になるなんて」
「じゃ、私とあんたと先生で追いましょう。残りはここで待機してて。もしかしたらどこかに隠れてるかも知れないし」
「「は、はい!!」」
こうして3人は玉座裏の扉からブラドーを追いかけて行ったのだが、そのブラドーはピートも知らない抜け道を通って城内の隠し部屋に潜んでいた。
「ちっ、人間どもめ、ここまでやるとは……」
手駒は優秀な方が良いが、それにしても強すぎる。こうなったら夜を待って逃走しようと考えていたのだが、いつの間に現れたのか冷たい声が背後から聞こえた。
「こんな所で何をしているのですか、吸血鬼」
「……なにっ!?」
ブラドーが振り向いた先にいたのは、カソックと編み上げブーツに身を固めた少女が1人。6本もの長剣を両手の指の間に挟んで持っていた。無慈悲な瞳はブラドーを生き物扱いするつもりさえ無さそうだ。彼女の後ろから現れた同年輩の娘――ルシオラがその殺意を感じて、
「一応ピートさんのお父さんだから死なない程度にね?」
と念押ししすると、少女はギチッと歯噛みした。
「この私に、吸血鬼に手心を加えろと言うのですか、蛍の娘」
とはいえ完全に却下する気もないらしく、
「しかしながら他ならぬ貴女の頼み、条件次第では聞かぬこともありませんが……?」
「日本に帰ったら○○○の格好で○○○してあげるから」
伏せ字の部分は各自で脳内補完していただきたい。
「――いいでしょう。確かに約束しましたよ?」
さりげなく鼻血を拭いながら少女は答えた。
別にレズというわけではない。彼女の正体は横島が文珠《知》《得》《留》で変身した埋葬機関の第7位、弓のシエル――――の、パチもんなのだから。姉妹品に《猫》《君》通称猫アルクもあったがさすがに失礼ぽいのでこちらにしておいたのだが、中の人が中の人だけに、シエルならともかく知得留ではこんなもんである。
それはともかく、ブラドーが生き残るには知得留とルシオラを倒すしかない。いきなり咬みに行くほどの余裕もなく、すっと片手を上げるとまずは近くの知得留めがけて魔力弾を発射した。
ドウッ!
強烈な破壊エネルギーの塊が知得留にせまる。しかし少女は残像がのこる程の速さでかわすと同時に、手慣れた動きで両手の剣を投げつけた。
「ゼロ、トゥロア、キャトル!」
彼女の愛剣『黒鍵』が、その二つ名の通り矢のような速さでブラドーに襲いかかる。とっさに顔をかばったブラドーの腕に突き刺さった。
「ぐっ! 貴様、これはただの剣ではないな!?」
普通の剣ならこんな焼けるような痛みは感じない。特に聖別が施されているか、それとも……。
「よく分かりましたね。これは私の魔力で編まれた剣です」
知得留は無表情にそう答えると、法衣の内側から刃が付いてない剣の柄を取り出した。それが彼女の指の間に挟まれたとたん、柄から魔力の刃が伸びて6本の凶器に変わる。
「おのれ小娘!!」
ブラドーが腕に刺さった剣を振り落とし、今度は両手で魔力弾を連射した。
ドンドンドンッ!
「無駄ですよ」
しかし知得留はそれすら掠らせもせずに避けきる。
「――串刺しにしてあげましょう!!」
彼女の得意技、大量の黒鍵を連続して投げつける猛攻撃だ。しかしブラドーはすっと左脚を上げると、右脚だけのフットワークで一瞬に知得留の背後に回り込んだ。
「――!?」
知得留は慌てて振り向いたが遅かった。
「殺す……怖気づくか」
そしてブラドーが知得留の肩をつかみ、その白い首筋に牙を突き立てようとした瞬間。
「カットカットカットカットカットカットーーー!!」
竜巻のような衝撃波がブラドーを壁に叩きつける。それでも一応は最強の吸血鬼の1人、すぐに立ち上がって不躾な闖入者に猛然と抗議した。
「貴様、不意打ちとは卑怯だぞ!」
「今さら何言ってるの、最初から2対1だったでしょ?」
しかしルシオラは平然とそう受け流して、
「それに、余所見してると危ないわよ」
「なに?」
見れば知得留はどこから取り出したのか、でっかいパイルバンカーをその手にしていた。法衣を脱ぎ捨て、黒いノースリーブのワンピースだけを身にまとっている。
「セブン……カルヴァリア・デスピアーーーッ!!」
ドズッ……バンバンバン!!
敵の体にバンカーを突き刺し、そのまま頭上に持ち上げて何回も転生批判の鉄槌を叩き込むという惨烈な攻撃であるが、さいわいブラドーは無限転生者ではないので昇天は免れた。というか知得留が最初の約束のためにわざと心臓を外したのだが。
知得留はふうっと一息ついて、
「聖なるかな、我が代行は主の御心なり。――はい、代行完了。仕事も終わったところで○○○の格好で○○○をーー!!」
ぼろぼろになったブラドーを放置して、知得留がルシオラに飛びかかる。ルシオラはあっさり知得留を撃墜して、
「こんな所でできるわけないでしょう! それよりブラドーをちゃんと縛りなさい」
回復したら霧化で逃げるおそれがある。ルシオラの指図は当然だった。
「うう、がんばったのに……しくしく」
涙を流しながら呪縛ロープでブラドーを縛り上げ、封魔札を貼り付ける知得留。戦闘中とはうって変わった情けない姿だが、まあ、知得留だし。
その間にルシオラは無線機で美神と連絡を取り、やがて合流した彼女とピートによってブラドーは今度こそ確実に服従の魔力をかけられた。
こうして、第2次極楽愚連隊の遠征は無事勝利を収めたのである。
ちなみに、横ルシとブラドーの戦いの場になぜ京香たちがいなかったのかというと。
「じゃ、この先は私とヨコシマだけで行くから、あなた達はこのロビーで待機しててちょうだい」
「え、どうしてでござるか? 拙者も行きたいでござるよ」
天真爛漫なシロには、リーダーの指示の意味するところが分からなかったらしい。その辺りも潜入組に向かない理由だったが、ルシオラはそうとも言えず、
「せっかく取った出入り口だから確保しておいて欲しいのよ。大亜みたいなのが他にいるかも知れないし。冥子さんもお願いね」
「はいでござる」
「は〜〜〜い」
シロと冥子が無邪気に答えるのを確認すると、ルシオラは京香に小声で秘密命令を出した。
「2人のお守り頼むわね。もし何かあって冥子さんがプッツンしたら当て身でも入れて気絶させなさい。ロビーの確保はこだわらなくていいわ」
シロと冥子を連れて行くのは面倒だが、留守番がこの2人だけでは能力はともかく思慮の面で不安すぎる。ルシオラが京香も残すのは当然だったし、彼女にもその趣旨はすぐ分かった。聞こえていない横島でも理解しているくらいなのだから。
「……はい。先生も気をつけて下さいね」
そんな必要はないと思うが、これも浮世の義理というものだ。
「ええ、それじゃよろしくね」
……というやり取りがロビーであったからである。リーダーって大変ですね。南無。
――――つづく。
今回は格闘ゲーム風味でお届けしました。でもあまり救済企画にならなかったかも。大人数バトルは難しいです。やっぱりタイマンが1番書きやすいですね。
ではレス返しを。
○遊鬼さん
>おキヌちゃんの活躍
ちょっち不完全燃焼でしたorz
>『黒化』は発動条件が難しいですもんね
最強のスキルですからw
>大亜紋が怒っちゃったせいでルシオラの反応がわかりませんでしたが
彼のおかげでうやむやになって横島君はお仕置きを免れましたw
>タマモ
何とか救済(ぉぃ)できたでしょうか。
○ASさん
>ダイ・アモン
本当は強いんですけどねー、『幸運:E−』なのかも知れませんw
>戦闘中でも運を引き寄せて横島を籠絡してしまうんですから
これをネタにデートをせまる、なんて2番煎じはしませんが。というかその必要なし?(ぉ
>おキヌちゃん
どうも能力的に目立ちにくいような気がしてきてますorz
>エウリュアレと京香がコンビを組めば負けなしになりそう
コンビになってる情景が今いち想像できませんが、実現したらさすがにルシの牙城もヤバそうです(^^;
○ももさん
>まさか、あの台詞が伏線だったとは!
そう、すべては予定調和だったのですvv
>特にシロの体格差を利用した攻撃・・・(もらい涙
悪党に情けは要らないです(ぉ
>京香ちゃんもサイキックソーサーはもう完璧?弟子入りの目的は果たしましたか
技術的には横島君に及びませんが、当初の目的は達成されましたねー。だからと言ってランクEXの師匠と憧れの先輩から離れるわけはありませんがw
>マイト数から言っても六女最強っぽいのですね
平常モードでも楽勝でしょうねー。むしろ手加減しないと大怪我させちゃいます。
まあクラス対抗戦にはもう興味ないんですけれど。でもそうなると弓あたりと確執があるかも。
>ぢごくの特訓コース決定。合掌
因果応報というやつですな。
>「出し抜かれ○ーヴァントの逆襲」(嘘)
果たして2号の座は誰の物に?<マテ
○ゆんさん
>ブラドー・・・はやくやられたほうが・・・地獄を見ないで済むんだよ?(爽やかな笑顔)
全くです(ぉぃ
素直にピートの真・バンパイア昇龍拳で倒れてればよかったのに。
>横島軍団
ヒャクメは参謀部直属の方が情報が早くなりそうですねー。
しかし強い……ノスフェラトウが兵隊つきで復活しても勝ち目なさそう(^^;
>師匠(ルシ)から弟子(シロ)へ着実に技術が継承されてますねw
描写はあまりありませんがシロも頑張っております。
○わーくんさん
>こんなことおキヌちゃんに知られたらまた『黒化』発動されてしまうよ(滝汗)
そこはそれ、彼女もやった事ですし(ぇ
>ガタガタブルブル←以前同じようなことされたのを思い出した
それはまた……お察しします(黙祷)。
○なまけものさん
>ついにシロまでネタ技に手をそめたか
何せ師匠の宝具がアレですからねぇ……。
>でもあの時はルシオラはまだいなかったし、横島も吸血鬼にされて敵になっちゃったし、とても良い評価はだせませんが?
そうですね、確かにその時点での横島の評価は低いんですが、ブラドーはともかく他の吸血鬼たちはあの時点の美神たちで対処できるレベルだったので、今の横ルシなら問題ないと思ったわけです。
>唯一仲間はずれにされた弟子4号のおキヌちゃんに合掌
身体能力が一般人なのが痛かったですorz
>「目玉焼き(アッサーシーン)」が見たかった……
あれ出されたらさすがに京香とシロでは勝ち目が無いというか(^^;
ではまた。