糸のような軌跡を網膜に残し、白刃が踊る。
振り下ろし、斬り上げ、薙ぎ、突く。
まるで舞の様な洗練された一連の動作は、観る者を魅了し、圧倒する。
私の眼前を鋼が高速で通り過ぎる。
頬が裂ける、血は、出ない、皮一枚で避けている。
安堵する暇などは無い、頭上から、死の気配。
右足を引く、身体を半身にし避ける、紙一重で、否、前髪が数本舞った。
避けたと同時に、一挙動で懐に潜る様に入り込み、膝のバネを活かして突き上げるように肘を叩き込む。
ズドゥム!
軽い衝撃、手応えは無い、彼女は自ら後方へ飛び、衝撃を逃がしている。
頬を汗が伝う、拭う暇などは、無い。
もう既に彼女は体勢を立て直し、正眼に構えを取っている。
楽しい。
心が歓喜に湧き、血潮が沸騰する感覚。
まるで昔に、男であった頃に戻ったような、そんな高揚感。
ただ一つ、ただ一つだけ、昔と違うことがある。
心は熱く燃え滾っているのに、頭だけは物凄く冷えていた。
「うわ……」
感想はそれだけ。
正直、今の俺じゃ目で追うのがやっとだ。
一瞬一瞬が死と隣り合わせ、鍛錬と言えども気を抜けば死に繋がる。
あの二人は今、刹那的な世界に身を置いている。
「俺もあんなことやってたんだなぁ……」
今や一般人に毛が生えた程度の身体能力しかない俺としては、脅威でしかない。
「よく生きてたな、俺」
溜息を一つ吐いて、横島は瞑想へ戻る。
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
第十話
「では、此処までにしましょうか」
小竜姫様の一言で、今日の修行が終わった。
「有難うございましたぁ~」
私は小竜姫様に礼をし、修行場にへたり込んだ。
男だった時、二十○歳の頃の自分ならいざ知らず、女で、しかも発展途上の体力では小竜姫様との鍛錬はかなりキツイ。
魔装術が今でも使えたら良かったんだけど……。
今、私は魔装術を使えない。
何故か?簡単だ、魔装術は魔族と契約し、力を借りる秘術。
その契約は、人間の魂と肉体を担保に力を借りる、と言うような契約なのだ。
つまり、契約した魂と肉体があって、初めて魔装術を使うことが出来るわけで。
で、魂だけで逆行した今の私では、パスワードが解ってもIDを取得していない!?と、いった感じなのである。
此処の世界に来た当時は理由も解らずオロオロしたが、横島のおかげで合点がいった。
しかし……、今考えると、昔の『俺』は魔装術に頼りすぎていた様に思える。
魔装術の頑強さを武器に、前線で敵と殴りあう。
ハッキリ言って馬鹿である。
『俺』はマジ○ガーZか??
そんなわけで、今は女である利点、素早さを活かす様な、戦術や技術を身につけようとしているわけだ。
スーパー系がリアル系に乗り換えたような、そんな感じ。
気分はダン○インである。
「おつかれさん、ほれ」
いつの間にか横に来ていた横島にタオルを渡された。
緊張が解けた身体は思い出したかのように発汗し、私は水浴びをした後のようだった。
「ありがと」
タオルはすぐに汗を吸い、重くなった。
タオルを渡して横に座ったは良いが……。
こ、これは……。
ちら、と。
雪之丞を横目で盗み見る。
…………。
これは拙い。
雪之丞は今、汗を掻いているわけだ……。
汗と言うのは水分であって……、つまり、その。
服、が、その、濡れるわけで。
胴着の、下に着ているシャツが、だな……。
「うあ~、下着もべしょべしょ~!」
と、言う訳で。
うわ!胴着脱ぐなって!
わ!こっち向くな!
「ほら、汗、凄くない?」
いや、聞くなって!!
「なんかシャツ絞れそうだよ~」
絞んなくてええちゅーんじゃ!!
臍!臍が!!
こ、これは何処の天国の拷問ですか!?
理性が!理性が!?
「ふ、風呂に入ってきたら如何だ?」
如何にか搾り出して雪之丞に進言する。
「ん、そうだね」
「う、動いた後だから多分気持ち良いぞ?」
が、頑張れ俺!!
ゆ、雪之丞は女の子だけど男!!
男なんじゃ~!
「じゃ、入ってくるね」
そう言うと雪之丞は修行場の出口へと向かった。
…………。
勝った!!
俺は欲望という強敵に勝ったんや~!!
良く堪えた!!危うく人の道を踏み外す所やった……。
「ちぇ、結構冒険したのにな……」
…………。
俺は何も聞かなかった。
聞こえなかったんじゃ~~~~~!!
小竜姫は喜びに心を打ち震えさせていた。
横島の才能、雪乃の才能、二人とも百年、否、千年に一人でも可笑しくない程の才能の持ち主だ。
そんな逸材が、私の弟子なのだ!!
そんな逸材を、私が導くのだ!!
武神冥利につきる。
「ふふ♪」
自然と笑みが浮かんでいた。
「……さて、汗を掻きましたし、お風呂にでも」
「シャオ、お風呂行こう~」
「丁度良かったです、私もお風呂に行こうと思ってたので」
「そっか、それは良かった」
雪乃が笑う、鍛練が終わると雪乃は友として接してくれる、それがとても嬉しくて、くすぐったかった。
追記
修行場には一人瞑想する。
と、言うよりは、小竜姫と雪乃の入浴を覗くか否かを考える横島の姿があった。
「の、覗きたい!!し、しかし!覗いたら覗いたで、小竜姫様の信頼やらなにやらが崩れ去ってしまう!!」
「うぐぐ!!雪之丞には……、こ、殺される……!!し、しかし!!み、見たい!!」
「しかし、見たら見たで……、俺の中の何かが壊れるような!?」
「ぅああ!!雪之丞は男!!というか!!漢なの!!」
「でも、水も滴る何とやらで!?ぐあああ!!?」
悩み続ける横島。
「あー、汗もなんか良い匂いで……って、俺にはそんな性癖は無いんじゃ~~!!」
「しかし、残り香が……、違うんじゃ~~~~!!!!」
「……お、俺は、如何したら……!?」
→ 「横島なんだから、覗くしかないだろ?」
「忠夫なんだから、覗くしかないだろ?」
「横島忠夫なんだから、覗くしかないだろ?」
「選べるか~~~~!!!」
横島は小一時間、悩み続けたのだった。
横島の理性が破綻する日は、近い??
あとがき
今回は短い気がします。
ちょっと試験的にバトって見たところ。
う~ん、難しい。
これは練習の必要があると思いました。
ヒロヒロ様、N,W,様、ミアフ様、ゆん様、眞戸澤様、菅根様、白銀様、LINUS様、山の影様、紅様、BD様、獅皇様、樹海様、鳴臣様、内海一弘様、片倉 希様。
感想、有難うございます!!
少々年末年始にて、中弛み傾向にありましたので、投稿が遅れました。
ごめんなさい。
皆さん、伊達母について、誰々だと思った!とか色々書いていただいておりますが……。
ずばり、琴乃voiceで良いかと思いますよ(笑)
あ、あと、無能じゃないですよ?伊達母は有能です。
ただビールを飲むと豹変するだけです。
最初の設定では、彼女のモデルは雪の町の邪夢オバ……、邪夢お姉さんだったのですが……、何故かこんな事に。
まさに謎です。
次回!!
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
第十一話!!って、今回十話だよ!?吃驚じゃ!!
に!?
バッチコ~イ!!