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▽レス始

「願い〜第五話〜 (GS)」

水稀 (2006-01-15 08:31/2006-01-17 08:12)
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何時の間にか湿った空気の独特な匂いが窓辺から漂う様に
彼の聴覚を幾度も刺激する。
「 雨か…。」横島は口の中だけで小さく呟くと──ふと、視線を
机の奥にある窓へと移した。
その視界にトントン──と、窓ガラスを叩くようにぶつかり
弾ける水の玉が日常を閉ざす一幕の様に見えて
『 そんな訳無いよな 』と彼は幾度か頭を横に振ると、一度だけ
嘆息を吐いた。
「 どうしたの? 」と、傍にいたタマモが彼の行動に怪訝に眉を
顰めながら尋ねてくるが「 いや、何でもない 」と、曖昧な笑みを
浮かべ呟く様に答えると、横島は再び美神親子の対談を視界に
収めた。


「だから依頼料が安すぎるし…それに他の依頼があるのよッ!」
「 ………そう。」


「 だからね…ママ? 」と捲くし立てる様に続ける令子の声が
室内に響く。そんな娘の姿に美智恵は眉間を摘むように指で
押さえ短く嘆息を吐くと「 もう、いいわ…。」疲れた様に呟いた。
呆れた様に…そして諦めた様にソファーに沈めていた腰を上げ
スッ──と立ち上がると「横島君達を借りていくわね。」令子に
背を向けながら伝える。

「 ──って、事だから良いわね? 」
「 ………へ? 」
要領を得ていない様を見て取れる返事を返す彼に背後で
「 それ、私の丁稚なのよッ! 」喚き叫んでいる令子に横目で
視線をやりながら何気無い口調で美智恵は続けた。
「 だから…アナタに例の子の捜索をお願いしたいの 」
「 何で俺なんスか? 」
「 別に横島クンだけという訳じゃないわ。それに──
  本当にお願いしたいのはタマモちゃんの方だし…。」
「 アナタが彼女の保護者なんでしょ? 」続けて語る彼女に
「 なるほど 」と横島は頷いて、タマモに向き直る。
「 …………それで、タマモはどうするんだ? 」
「 私は依頼料が出るなら── 」
憮然と答える彼女に美智恵は一度、苦笑を浮かべ
「 令子が指定したお金は出せないわよ? 」
いたずらを呟く子供の物言いみたいに微笑みながら答えた。
そんな美智恵の答えにタマモは前髪をはね除け自負心のある
微笑みを表情に浮かべると
「 別に良いわ。今は人並みの生活ができるなら… 」
と、横島に視線をやりながら告げてくる。
「 ………う゛。」と呻く様な声が聞こえて──
それから僅かに遅れて

こ、コケェェェェ…
っと鶏の断末魔が響く。
     ──黒キヌの料理が今始まったのだ…。

その異常は壁を越えて…。そして…常識の檻を越えて
皆の中耳を震わせた。


「「「「「 ………。」」」」」

刹那──事務所は痛い程の沈黙で満たされ──その沈黙を
切り裂く様に「 ………ふふふ。 」彼女の声が静かに響いた。
暫くして、無言のままに席を立つ横島とタマモ。
それに続く様に書類等の持ち物を整理したGメンの二人が肩を
並べて事務所のドアに向かう──が、ぽつぽつと不均衡に
強弱があって…。遠く、耳を打っていた静かで柔らかな雨音が
突如として、その在り方を変じ、まるで滝壺の近くに居る様な
騒音を彼等の耳に届けさせた。

「 逃げられないみたいね…。 」
小さく呟かれた言葉は聞き逃しようの無い音として
皆の思考に入り込んだ。


        願い  〜第五話〜


夜の中に、少女は蹲っていた。
焼け焦げた跡の残る大地を彼女の身体を透き抜けながら
雨が打ち、弾ける。その雨音は途絶えること無く続き独特の
音楽を奏でていた。
昨夜……その場に充満していた白色の夜の姿は
その身を潜め、静寂の闇へと姿を変じていた。
彼女を取り巻くその闇色──そして影の中に沈み込む様にして
吸い込まれていく彼女の声。それ以外は彼女に知覚される事は
無く、唯、闇の芳香だけが彼女を蝕んでいた。

「 もー…いいかい… 」

途絶える事の無かった問いかけ。その言葉が淀んだ闇を幾度と
無く揺らめかせていたが、それでも周囲の闇は晴れる事無く
執拗に彼女を包み込んだ。


私が飼ってあげよう。小さな小鳥を
もしも歌を囀らない小鳥なら──
その代わりに買ってあげよう。飾りのあるオルゴールを
もしもそのオルゴールが粉々に砕けてしまったら──
その代わりに歌ってあげよう。貴女の歌を
もしも声が掠れてしまったら──…。

「 パパの歌だ…。 」

闇の奥底から響いてくるその歌に、彼女は問いかけを一度
中断させた。「 パパ? 」呟くと同時に伏していた顔を上げる。
けれど…閉ざしていた瞳をそッ──と開いた彼女の瞳に入り
込んだのは果てなく続く淀んだ闇色の世界だけ…。
彼女はその闇を直視して「 ……ひっ」と、息を呑んだ。
そして…涙。恐怖に引きつらせた顔を更に歪ませて、彼女は唯
泣いていた。


[ 事務所 ]


「 日記が更新されている… 」

食後の気だるい一時。
急遽、用意された油揚げの料理に舌鼓を打ちながら
他のメンバーよりも遅く取った夕食の時間が終わるとタマモは
ふと、手渡された日記を覗き込んで、そんな台詞を呟いた。
「 は?まだ9時にもなってねぇぞ? 」返事を打ちながら彼女の
肩越しに開かれているその日記を覗いた。


『 11月05日 AM2:06 』

パパの歌…。もう暗い所は嫌…。
誰か私を見つけて…。


「 …どういう事ッスか? 」
同じ様に彼女の肩越しから視線を覗かせていた美智恵に
横島は尋ねるが、彼女は一度考え込む様な仕草をして──次の
瞬間「 日付が進んでるわね…。」と、呟き声を僅かに潜めると
「 時間軸が違う世界…もしくは特殊な結界内にでも
  いるのかしら? 」
そこまで答えて再び考え込んだ。
「 2:06に日記が更新されるって依頼人は言ったのよね? 」
「 それは… 」タマモに何か言い掛けて彼女は続けるのを一度
止めると
「 もう一度依頼人に話しを聞いてみるわ。」と、席を立ちながら
答えた。


暫くの間、携帯電話を片手に去っていく彼女の背中を眺めていた
横島とタマモは互いの顔を見合わせた後で再び日記の文字へと
視線を移した。──が、「 どうしたんですか? 」と、令子との話
を終えたおキヌが顔を覗きこむようにして二人の視界内に入り込
んできた。
「 んー…おキヌちゃんはどう思う? 」
今まで読んでいた日記の日付を指差し薦めて、顔を上げた。
瞬間。『 あれ?』と、感じた違和感に眉根を少し寄せると
その違和感を尋ねる様に声を掛けた。
「 おキヌちゃん? 」
「 はい?」と、日記の文字に視線を追わせながら答える彼女に
『 何時の間に元に戻ったの? 』と、言う言葉を呑み込んで、
その代わりに新たに浮かんだ疑問を問い掛けた。
「 美神さんと西条の野郎は? 」
「 美神さんは明日早いのでお部屋に戻りました。
  で…西条さんなんですが、随分と前にご帰宅しましたよ? 」
と、呆れた様に答えてくるおキヌに「 そ、そうか…。 」
頭を掻きながら呟くと、横島は話を変える様に
「 ──んで、どう思う? 」と日記を再び指差して問い掛けた。

「 んー…時計を持ってらっしゃらないんじゃ? 」
顎に指を添えながら答える。そんな彼女の言葉に苦笑を浮かべ
させるが、『 案外そうなのかも知れないな… 』と肯定させる思
考が湧き上がり、虚空を見詰める。

雨音は未だ止まる事を知らず、だが、確実に上がる予兆を見せ
ていた。
窓ガラスに弾けた雨が街灯の光を歪ませ、横島の瞳に映っては
瞳を閉ざして、消した。──暫くして「 可哀想です…。」ぽつりと
日記に視線を落としていた彼女が呟いた。
そんな彼女の言葉に横島は虚空に向けていた視線を落とし
「 そうだな… 」一度呟くと
「 早く見つけてあげないと、なッ! 」
沈み出した雰囲気を蹴散らす様に敢えて明るく言葉を返した。
「 はい…。お願いします。私は── 」
「 お仕事で行けないから… 」と少女の孤独を訴えかける日記
に視線を落としたままで申し訳なさそうに…それでいて強く言葉
を掛けぎゅっ──と日記に添えた手に力を入れた。
「 ……おキヌちゃんのお願いならしょうがないなッ!不肖ながら
  この迷探偵 忠夫がズバッと愉快に迅速にッ!
  将来有望な少女を救いますかッ! 」
「 漢字が違いますよ? 」 クスクス──と笑いながら茶々を
入れたおキヌが一度真顔に戻ると
「 ありがとうございます。 」そう、静かに呟いて
「 それじゃ…私も明日早いので先に眠らせてもらいますね? 」
続けると同時に一礼をして自室へと足を運ばせた。


ぱたん……
開けられたドアが小さく音を立てて締まると横島は短く嘆息を
吐いた。僅かな間、続く沈黙に居心地の悪さ感じた訳では無い
のだが、軽く頬を掻くと押し黙る様に日記に視線を落としていた
タマモに「 あのさ、? 」と話しかけようとしたが、それと同時に
彼女の声が被さる様に重なった。
「 現代の人間って不思議ね…」
機先を制され内心で軽く狼狽した横島だったが
そんな彼の姿には気に留める事無く、少し考え込む様な仕草を
すると彼女は「 アンタもそうだけど… 」と、呟いてから振り向き
そして、続ける。
「どうして見知らない幽霊の子供の事であんな顔ができるの?」
「 んー…。 」
少し考えて横島はポンッ──と彼女の頭に手を置くと
「 長く付き合っていくとお前にもわかるさ? 」
諭すような口調で…明確に答える事を避けて、語りかける。
「 良く…わかんないわ。」と、タマモは僅かに口ごもる様な
口調で呟いた。
彼が何を言いたいのか、おぼろげに理解できているが目覚めて
二日目の彼女には明確な思惑が伝わる事は無かった様だ。
そんな彼女に小さな微笑を浮かべて横島はパタン──と再び
音を立てたドアに視線を向けた。


「 どうッスか? 」横島は尋ねながら美智恵と視線を合わせた。
彼女はカツカツ──と、ヒールの音を響かせながらソファーに
近づき、僅かな間を置いて腰を下ろすと
「 ちゃんと話を聞けたわ。」と、答えて続ける。
「 時刻については依頼主は良く分からないそうよ。
  唯…日記に書かれているその時刻に更新されていると
  思っていたみたい。 」
「 じゃぁ…前からずれていたかも知れないって事ッスね? 」
「 えぇ。」答えて、彼女は「 ──それで… 」と、呟きながら
タマモへと向き直る。
「 アナタに頼みたい事は日記に流れ込む霊波の匂いを追って
  欲しいの…。感覚に鋭いアナタなら出来るでしょ? 」
と、日記を指差しながら尋ねた彼女にタマモはこくん、と頷いた。
──が、その言葉に彼女では無く、横島が引っかかりを覚えた
のか、「 ちょっといいスか? 」と尋ねた。
唐突に聞かれて、美智恵はタマモと対峙していた顔を向けると
静かに答えた。
「 何かしら? 」
「 …少女の居場所って家じゃないんスか? 」
そんな彼の問いに美智恵は視線だけで返した。
「 えぇっと…」と、呟きながら日記を開くと横島は
『10月27日』かくれんぼでもしてるのかな?パパが居ない…。
その文字を指でなぞりながら続ける。
「 火事が先々週。って事は父親も霊になっていた訳ッスよね?」
「 そうでしょうね。 」頷き、話を薦める。
「 霊っていうのは生前の印象強かった場所で自縛されるのが
  大半じゃないッスか 」
考えを巡らせる様に虚空を睨み、横島は以前、令子から
聞かされた話を自分の言葉でアレンジしながら続ける。
「 死のイメージ…そして生前印象に残った場所。そのどちらか
  の場所にしか霊は引きずられないんスよね? 確か…
  美神さんと受けた仕事でも例外無くそうだったんスよ 」
「 概ね、そうなるかしらね。」
「 …この日記見て思ったんスけど…。自分の父親と一度は
  逢ってるんスよ?…家族で共通している場所っていったら
  家が一番可能性あるじゃないッスか。 」
自信の仮説に満足いったのか、うんうん──と、満足げに
独り頷く。
「 …案外、勉強しているのね? 」
意外そうな表情を作ると、次の瞬間にはその表情を戻し
そして答えた。
「 でも…自宅ではその子は発見されなかったらしいわ。」
首を僅かに横に振りながら答えた美智恵に「 そうッスか…」と
項垂れる様にして答えた横島の横で今度はタマモが
「 それなら… 」と呟き
「 私は…突然消えたって文字が気になるけど? 」と、横島と
同じ様に
『 10月29日 』友達が居なくなっちゃった。パパと同じように
突然消えたの…約束したのに…。
日記の文字を指でなぞりながら尋ねた。
そんな彼女の問いかけに美智恵は両腕を僅か上に掲げると
自嘲的な笑みを浮かべて「 結局はね? 」と、呟き
「 分かっている事は、あまり無いのよ… 」続けて答えた。


[ 自宅 ]


「 ふぅ…。疲れたわ 」
そう言って敷かれっぱなしの布団に寝転んだタマモに
横島は美神事務所から持ってきた雨傘を玄関の脇に立て掛け
ながら苦笑を浮かべた。
「 濃い一日だったからな 」
「 ほんとッ!前世の記憶はあんまり無いけど
  多分…初めてよ?一日でこんなに疲れるなんて… 」
布団に顔を蹲らせながら呟く。
──と、唐突に止まったタマモの声に横島は、ん?──と、
顔を向けて、訝った。
「 どうした? 」
「 …。この布団やっぱり臭いわ…。 」
「 報酬貰ったら新しいの買わなきゃ── 」と続ける彼女に
「 うっさいわ!」と、困った様な笑みを浮かべながら答えた
横島に「 ねぇ…。 」と声が掛かり
「 また、臭いなんて言うなよ? 」と、苦笑を浮かべながら
相槌を打った。
「 違うわよッ!唯、少し気になったの。 」
「 何がだ? 」
ついっ──と、指差した場所にあるのは
先程まで話題となっていた日記があって…
彼女は小さく口を開けると
「 最後の文字。私を見つけてって書いてあった… 」
呟き…語る。
「 ──何か、嫌な予感がする…。 」

暫し沈黙の後に、横島が「 そうか。 」と
そう呟いた後で、再び脱ぎ捨てたGジャンを羽織った。
「 どうしたの? 」
「 家族の不安を軽くする為に、下見にでもってな! 」
玄関先へと視線を向けながら、軽くタマモに伝えると
「 それに…あの自宅の事がまだ気になるんだよな 」
と、続けて一度タマモの傍に寄った。

「 お前は寝てろ。まだ目が覚めて二日目だしな。 」
ぽんッ──と、置かれたその手にタマモは
「 それ…。 」小さく呟いて
「 何度もされてる気がする…。 」と、続けた。
そんな彼女に横島は微笑み、自分の手に視界を向けると
「 お前が寝てる時にしていた…癖だな。これは── 」
苦笑に変えて答えた。
「 迷惑な癖ね、せっかくの髪型が崩れちゃうわ。 」
「 嬉しいくせに… 」
ニヤニヤしながら笑う横島は
「 子供は撫でられるのが好きだしなぁー。」
わざとらしく大きな声で喋りながら玄関先へと足を向けた。
その時に「 さっさと行ったら? 」と呟かれた彼女の言葉に
背を向けたままで苦笑を浮かべ、みずぼらしいドアに手を掛ける
──と、そこで一度立ち止まって
「 ちゃんと寝てろよー 」と軽く声を掛けて出て行った。


「 へんなヤツ… 」
タマモは蹲らせた顔を僅かに上げて
ドアの向こう側に消えた横島の背中を盗み見る様に視線を向けた
後で、既に何度目かの言葉を呟いた。
ごろん──と、一度寝返りを打って彼女は
『 以前はこんな事無かったな… 』と、思考を浮かべて
ふと、止まる。
「 以前は…? 」
自身でも意識していなかったその言葉に怪訝そうに眉を歪めて
呟いた。──が、一度嘆息を吐くと彼女は
「 家族、か…。 」先程、横島が語りかけた言葉を繰り返すと
『 前の記憶なんて…全然無いけど今は関係無いわね 』
そう思考して、目が覚めた当日の事を思い出した。

”──今からタマモになればいいんじゃないのか?──”

と、想像の中でも頭を掻きながら話しかけてきた横島の言葉に
追随する様に
「 そう…。私はタマモ。それ以上でもそれ以下でも無いもの。」
自負心を滲ませた声音で呟いた。──が『 でも…。 』と突然
表情を変えると『 同じ人間なのに… 』と思考した後の言葉は
声となって唇から零れ落ちた。

「 何故かヨコシマだけに不信感が沸かないのって…
   ──もしかして、インプリティングじゃないでしょうね? 」

そう静かに呟いた後に
頭を抱えて悩み出したタマモが残されていた。


[ 屋敷跡 ]


遠く街灯の明りが薄く辺りを照らしている。
未だ焼け跡の残るその屋敷跡には
幾重にも倒れ重なった柱の不恰好なオブジェが出来ていた。
鉄で作られた接合部分やキッチンの残骸には
黒く煤けた模様が複雑に描かれていて、それは幾度と無く
振り注ぐ雨を受けても掠れる事も…流れ落ちる事も無いように
感じさせた。

びしゃっ──と音を立て跳ねた水溜りに
「 雨傘意味無いねぇじゃん… 」と、自身のびしょ濡れの身体を
見下ろして、横島はぼやいた。
と──少し間を置いて眼前に広がった屋敷の焼け跡に嘆息を
吐いた。
「 …………。 」
僅かでも、じっとしている時間が勿体無いと辺りを見回した。
焦跡のある柱の残骸が幾度にも折り重なっていて
常人の感性では唯、炎の恐怖を煽る爪跡と成って
横島の視界に飛び込んだ。
『 こりゃ…不気味かも…。 』
声には出さずに横島は胸中で『帰ろうかな』という言葉を
反芻した。自分でも良くわかっていないのだが──
何故か、眼前に広がる光景に寒気を感じたのだ。
雨音が小さく響き、廃棄されるであろう木材を黒く染めている。
そして、その奥にはやけに広い庭の森が蹂躙された様に
所々で傷跡を見せている。
「 …………。 」
横島は道を急ぐ。緊張による自分の心臓の鼓動を感じながら
火事跡となった屋敷の道を早足で、大股進む。
──やがて開けた場所に出て、一度立ち止まる。
「 …………。 」        、 、 、
そして再び腰の引けた行進。そんな行動を徐々に繰り返しながら
何度も、何度も辺りを見回していく。
瞬間、遠くで聞こえた。"何か"が倒れる音が…。
「 ……………ッッ! 」
息を呑んで、立ち止まる。
『 な、なんだッ!? 』
否応無しに高まる心臓の鼓動に思考する力を奪われ自身でも
意味の無い疑問を繰り返す。
微かに震える体が踏み出そうとした脚をその場に力無く落とし、
冷たく硬直していた。
「 …………。 」
自分の顔が、引き攣っているのが判った。汗が引き攣った顔の
表面を雨と共に伝い、大地に落ちていく。
心臓の音が、激しく鼓動している感覚だけを感じて
沈黙。唯、沈黙だけが続いていた。
『 俺は何でここに来たんだ!? 』
胸中でのみ上げた声は、そのまま踏み止まる為の楔になった。
「 ………ふぅ。 」
未だ収まる事の無い、胸の奥から湧き上がる不安と緊張を
溜息に出来るだけ乗せて吐き出した。──そして、
「 よしッ!隠れた女の子を探しますかッ! 」
誰に語るでもないその"言葉"は横島が意識した声音よりも
ハッキリと大きく呟かれた。


30分後…

「 何も無いんかなぁ…。 」
藍を含んだ墨色の空を見上げてそう、呟いた。
遠く薄ぼんやりとした明りの点在するその屋敷跡は
闇に包まれて、歪んだ街灯の光を点して浮かび上がる様に
その姿を晒している。
──カン…。
煤け…くすんだ色の鉄製のキッチンの残骸が静かな夜。
その空気の中で不快なほどに高い音を響かせた。
「 …………。 」
カン、カン、カン、その残骸を何度も踏みつけ
視線の先を、じぃっ、と見詰めた。
澱んだ闇を薄く照らしていた辺りにはちらつく影…。
そして、音を立てる存在を見つける事は出来ずに
──カン…。最後の音が響いた。
甲高い音音の余韻。それが澱んだ闇に吸い込まれるのと
同時に、横島は小さく息を吐いた。
一つ、二つ…。三つ、四つ目と脚を踏み出して
不意に、脚が止まる。
──♪…。
「 ──ッッ!? 」
その瞬間。
横島は、たった今"何か"が響いた方向。
その先を睨みつけた。
『 ……何の音だ? 』
初めに浮かんだ疑問はそんな言葉で──  、、 、
眼前に広がる光景が音に追従する様にその在り方を
変えた様な…。
そんな不思議な感覚を感じて横島は身を抱きしめる。
しん、と冷たく…空気が震える。
──♪…♪…。
鳴り止まぬ"音色"。
その唐突な変化に僅かな間、身体が凍らされた様に
脚を踏み出す事すら出来なかった。
そして…。その時初めて気づいたのだ。
周囲の温度が下がりつつある事に…。
吐いた、吐息が白く空気に溶け込んで
微風の様に取り巻く冷気が…皮膚に、触れた。
──が、未だ鳴り止まぬ雨音、それと再び高まり出した
心臓の鼓動にその音色は遮断されてしまう。
「 ……何だったんだ…? 」
荒く吐いた吐息にそう呟いて、一歩、足を踏み出そうとした
──瞬間

ぎょむッ!
空間が歪む様な…音とも衝撃ともつかぬモノが
横島の頭を貫いた。

「 ──ッ!? 」
顔を顰めて、一瞬ふらつき──その表情が驚愕の色に染まった。
世界が一瞬にして僅かに暗く…
周りに在る物は変わり無いのだが唯、光源だけが
徐々に無くなっていく様な変化を見せ──
やがて、光が無くなり、冷たく硝子の様な…。
停止した空間。
そして──。


「 トモダチ…見つけた…。」
──その空気の中、声が最後に響いた気がした。


後書き

初めてのスランプ体験 水稀です(挨拶
最後の展開は少し急ぎすぎたかな…と思ったのですが
上手く代案(話を進める事)が出来ず。
結末は決まっている筈なのに…投稿が遅くなってしまいましたorz
今回まで色々と散りばめたキーワードを
次回で繋げていくのを楽しみにしてもらえると幸いです。
ですので、次回から急展開になるのかな、多分。
キーワードの様々な繋がり。
日記や背景。色々な物を繋げて…繋げて
繋げていきます!(´∀`)b
無理やりなものもあるかもしれませんが、ねorz


後…『 ─ 』この文字使い過ぎかもしれませんね…。
書いた私は、これが無いと見づらいかなぁ と思って
表記したんですが…。見づらかったら教えてください。
以前と、書き方を変えたので
もしかしたら違った印象を与えるかな…と思って
試しで 『 ─ 』を使っているだけですから!
( 以前 シーン様から多くて見ずらいと言う
 参考意見をもらったので、今回の書き方の場合は
 どうなのか、意見を貰いたいです。          )


では レス返しです。
『 藤竜様 』
初レス有難う御座いますm(_ _)m
今回も改行を少なくして見たのですが
どうでしょうか? 未だテンポが悪いな、とかこういう場所が
だめなんじゃないか? と言った意見が御座いましたら
是非とも教えてください。
後…。掘り下げなんですが、やっぱり上手く理解できて無い
様ですorz 
ですがッ!これからも頑張って勉強して
掘り下げ等の執筆の腕を上げていきたいと想いますので
今後とも よろしくお願いします!

『 通りす〜がり様 』
黒キヌ好きですか?w
楽しんでもらえて幸いです(`・ω・´)
これからもどんどん新展開を書いていくので
よろしくお願いしますね^^

『 帝様 』
難しいですね…行間。
今話はシリアスモードが多様されるので…難しいのですが
既におキヌの番外編のデムパを暖めておりますので
楽しみに待ってて下さいw
黒キヌも登場してしまいますが…!w
これからもヨロシクお願いしますw

『 tomo様 』
詳しい行間の説明有難う御座います。
前回よりも意識して開けたのですが
どうでしょうか?
それと…数々の複線ですね。
今話限りの複線と…かなり先の複線ができております。
ですが、必ず消化させていきますので
展開を楽しみにお待ちください^^

P.S 我侭な意見では無いですよ!
   大切な参考意見となりました。本当に有難う御座いました!

『 ほつめ様 』
初めまして!
自分の書いた文章を、声に出して
兄にニヤニヤとヲチされちゃいましたw
ですが、この方法はいいかも知れないです!
まだまだ、文章の書き方甘いんですが、ねorz
参考とさせていただきました^^
有難う御座いますm(_ _)m
これからも期待を裏切らないように
頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いします!

『 通行人A様 』
お久しぶりです。
前回は中々進まないといった私の悪い点を指摘して
頂いて有難う御座いました^^
次回も頑張っていきますのでヨロシクお願いします!


以上で今回はお終いです。
レスをくれた皆様に多大な感謝を。
有難う御座いましたm(_ _)m

では、次回も頑張りますので
今まで見てくれた方も、これから見てやるよ、って方も
よろしくお願いします!

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