「美神さん、どうします?」
目の前でワルキューレとジークがやられた事で流石に慎重になった横島は美神に意見を求める。彼女は一瞬だけ考えた後、行動に移した。
「正面からの直線的な攻撃は跳ね返されるわ。ならこういう攻撃を仕掛ければいいのよ!!」
自信満々に答えると、美神は竜の牙を鞭に変化させ振るう。鞭は複雑な軌道を描きながら、ヒャクメーンに迫った。
「駄目なのね~!!」
「あれ?」
「「美神さん!!」」
しかし、ヒャクメーンはそれすらも跳ね返してしまった。硬直した美神の元に跳ね返された鞭が迫り狂う。それに気付いた横島とおキヌが慌てて彼女を庇った。
「あれも防いじゃうとなると、単独の攻撃じゃ無理なワケ。それにしても、さっきの令子あれだけ自信満々だった癖に見事に間抜けだったワケ」
「そうね。全員、一斉攻撃を仕掛けます!! 各自の最大クラスの攻撃を!!!」
目の前の光景に驚きながらも美神を笑うエミに対し、美智恵が頷いて指示をだす。美神はエミを睨みつけるが母親の手前耐え、霊力を集中し始めた。
「精々、あがいてみるでちゅ。どうやっても、ヒャクメーンにはかないまちぇん」
「攻撃開始!!」
それを見ても余裕気な笑みを崩さないパピリオ。そして、美智恵の指示にあわせて全員が攻撃を仕掛けた。
「霊丸!!」
横島が霊波弾を放ち、
「はあ!!」
美神が鞭に変化した竜の牙を振るい、
「ピィィィィィィ」
おキヌがネクロマンサーの笛を吹いて、クマタカを操り、
「喰らいやがれ!!」
雪之丞が全力で霊波砲を撃ち、
「霊体撃滅波!!」
エミがその最大霊撃を使い、
「アーメン!!」
唐巣神父が自然界から集めた力を放出し、
「ダンピ-ルフラッシュ!!」
ピートが吸血鬼の力と神聖なエネルギーの融合技を使い、
「みんな、頑張って~」
冥子が12の式神を操って、その全てに攻撃をさせ、
「わっしも!!」
タイガーもとりあえず幻覚を使い、
「燃えちゃいなさい!」
タマモが狐火を放ち、
「レインボーサイクロン!!」
佐藤がその技を使い、
「喰らえ!!」
西条とオカルトGメンのメンバーが銀の銃弾を発射し、
「いけ、マリア!!」
ドクターカオスがマリアに指示を出しながら自らも胸の魔方陣から霊力を放ち、
「YES・ドクターカオス」
マリアがロケットパンチを撃つ。・・・・・・・・・・・しかし、その攻撃さえも全てが・・・・・・
「駄目なのねええええええ!!!!!!」
跳ね返された。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
正確にはそれは全てではなく、攻撃を受ければ脅威になると判別された攻撃が弾き返されただけだった。しかし、ダメージを与えられなかった事に変わりはなく、逆にGS&オカルトGメン側には自分達が放った攻撃の嵐が降り注ぐ。一流のGS達はそれに何とか耐えたものの、未熟なものはその攻撃によって敗れ、そしてその中には力は一流だが、それ以外は半人前のものが一人含まれていた。
「ふぇ・・・・・・」
「や、やばっ!!」
その一人とは六道冥子。式神が庇ってくれた事で彼女自身は傷つかなかったものの、仲間達がやられたのを見て彼女がプッツンした。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」
「な、なんでちゅ!?」
暴走する式神。その展開にパピリオは驚き、ヒャクメは怯える。しかし、それもすぐにおさまってしまう。ヒャクメの感覚器官は正確に作動し、ヒャクメーンの力の前に式神は全て叩き落とされてしまった。
「冥子の暴走まで・・・・・・」
「まったく、びっくりさせるでちゅ」
目の前の光景に信じられないと言った表情を見せる美神達。それでも、式神がやられて気絶した冥子を遠くに離したりなど、体勢を立て直す為に必死に動く。
そして、美神は取って置きのカードを切る事を決めた。
「こうなったらもう最後の手段しかないわ。横島君、この前のあれ使いなさい。力押しで防御ごと破るのよ!!」
「了解っす」
“単”“独”“霊”“波”“共”“鳴”
6つの文珠に文字を込め発動させる切り札の一つ、単独霊波共鳴。前回と違って煩悩を爆発させていないので、パワーが落ちるがそれでも15000マイト以上という圧倒的な霊力が放たれる。
「ヒャクメ、ちょっと位痛くても我慢しろよ!!!」
「やめてなのねええええ~!!!」
横島が叫びをあげ空を舞う。ヒャクメーンの腕で叩き落されようとしても貫ける程のエネルギーを込めて突撃を仕掛ける。ところが、そこで突然ヒャクメーンの腹から銃砲が飛び出した。
「へっ?」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!」
予想外の事態に呆気に取られる横島。それはヒャクメーンに付けられた最後の切り札だった。妙神山の修業場を結界ごと吹き飛ばした断末魔砲の小型版、その一撃が横島を飲み込んだ。
「横島君!!」
「横島さん!!」
慌てて横島のもとに駆け寄る美神とおキヌ。すると、飲み込まれた光の中から少しよろつきながらも彼が姿が現す。
「な、なんとか無事っす」
攻撃を受ける瞬間、反射的に霊力を前面に押し出し何とか攻撃に耐えたのだった。しかし、それで力を使い果たし霊波共鳴は解除されてしまっている上、防ぎきれなかったダメージに全身にかなりの傷がある。とはいえ、命が無事だった事にほっとする二人。そして、それと対象的に笑うパピリオ。
「そのパワーは前回みちぇてもらいまちたからね。対策はバッチリでちゅよ!!」
「くっ」
パピリオの方を向き睨みながら歯噛みする美神。単独霊波共鳴によって霊力を増やした横島の攻撃にすら対応されてしまうのでは正直対応策がなかった。母である美智恵に知恵を求め、視線をやるが彼女も渋い顔をしている。
「美神さん、実はまだ一個だけ奥の手があるんですけど」
するとそこで、横島がよろつきながら美神に近づき耳打ちをした。その言葉に驚きつつ、少し怒ったように返す美神。
「何よ。そんなものがあるのなら、さっさと言いなさいよ!!」
「あはは、実は、その技まだ修行中でして・・・・。成功率に自信がないっていうか・・。後、発動までに少し時間がかかるんで・・・・」
「はあ!? この土壇場でそんな不確定な技を使おうっていうの!?」
笑いながらも横島の表情には暗さが浮かんでいた。そんな不確かな提案をする横島に呆れつつも美神は腹を決める。
「いいわ。やってみなさい。技の発動までにかかる時間は私達が稼いであげるわ」
「けど、もし、失敗したら・・・・」
美神の許可に対し、横島は自分から言い出したにも関わらず躊躇いを見せる。そんな彼に彼女は叱咤した。
「失敗なんかする筈は無いわ!! あんたはこの美神令子の助手・・・・いえ、相棒で弟子なのよ!!」
「美神さん・・・・・・・はい、やってみます!!」
美神の思わぬ声援に横島は笑顔で答え、そして技の準備を始め、美神が叫ぶ。
「みんな、横島君が大技を使うわ!! 時間がかかるから、フォローよろしく!!」
「令子!? 何を勝手な事を!!」
この現場の指揮官はあくまで美智恵にある。個人の判断に基づいた攻撃程度ならまだしも、部隊全体に対するような指示が彼女以外に許される筈も無い。しかし、美神は真剣な表情で訴えかけた。
「ママ、お願い、横島君を信じて!!」
「令子・・・・・・・・わかったわ。皆も令子の指示を聞きなさい」
その真摯な表情に少々公私混同ではあったが、美智恵はその提案を受け入れる事にした。どの道有効な打開策がある訳ではない。ならば、それを持つという横島に託して見る気に彼女もなったのだ。
「何をたくらんでるんだか知らないでちゅけど、させまちぇん!!」
それに対し、不穏な空気を感じたパピリオがヒャクメーンを動かす。今までの行動は予測の範囲内だったが、今の横島達の行動はその範囲外だった。それまで受身に回っていたヒャクメーンが竹刀を激しく振りながら前進を開始する。
「くっ!!」
「横島さんの所へはいかせません!!」
暴風雨のような攻撃が降り注ぐが、その攻撃を全員が横島の前に立って防ぐ。少しずつ傷つきながらも霊力を全開にしてその場で耐え凌ごうとした。
「冥陰滅呪烈済済黄魄協懲塵光明永劫」
仲間達の盾を前にしながら、印を組み指先に霊力を集中させる横島。彼が使おうとしているのは霊光波動拳の修の拳奥義『光浄裁』。ピリオの魔力砲を跳ね返した防の拳の奥義『霊光鏡反障』と並ぶ霊光波動拳5大奥儀の一つで、自分自身の罪の裁きを心に問い、霊体や肉体に科す荒業である。心が汚れていれば、その肉体や霊体を滅ぼすが、そうでなければ逆に悪い部分を浄化してくれる。
(よし、技は完成した!! けど、難しいのはこっからだ)
ただし、この技は相手の体に指先を突き刺さなければ本来は効果がない。近づく事さえできないヒャクメーンに対し、それを実行する事は通常不可能である。
(上手くいってくれよ!!)
しかし、横島は文珠使いという己の能力を利用してその不可能を可能とした“遠”“隔”その二文字の文殊をしようして技の効力を遠くに飛ばす。ただし、光浄裁は横島が習った霊光波動拳の技の中でも最も高度な技であり、それに文珠を併用する事は桁違いの技量と集中力を必要した。その為、訓練での成功率は5分にみたない。
「まだなの!? 横島君!!」
「これ以上は・・・・」
美神達の叫び。攻撃の矢面に立っていた彼女達は皆、傷だらけだった。そこで、横島の集中が完成する。
「光・浄・裁!!!」
指先を伸ばし技を発動させ、同時に文珠を使いその効果を遠隔なものとする。力の作用は空間を飛びヒャクメーンに突き刺さった。
「ひぃぃぃーーなのね~!!!!!!」
悲鳴をあげるヒャクメ。同時にヒャクメーンの体全身に光の線が、そしてその線の集約する点が現れる。
「美神さん!! あの点がヒャクメ様と力の接続点です!!」
その正体をいち早く見抜いたおキヌの言葉に答え、美神が霊力を全開に込めた槍型の竜の牙を持って貫いた。
「しまった!!」
べスパの叫び、同時にヒャクメと寄りしろ、そして小型断末魔砲が分離する。そして、その小型断末魔砲が砂の様になって散る。
「こんなものが残ってちゃあやばいからな」
それを為したのは雪之丞の二重の拳だった。その間に分離させられたヒャクメをおキヌとオカルトGメンの職員達が助け出す。
「さあ、どうするのあなた達の切り札は敗れたわよ?」
「へっ、そっちこそ満身創痍の癖によく言うわ!!」
そして、美智恵がベスパ達と相対し挑発する。ベスパの反論通り、確かにGS&オカルトGメン側のダメージも大きかったが、いざとなればまだ神族の小竜姫達を目覚めさせるという手段が残っている分、彼女の表情には余裕が浮かんでいた。
「むかつく女だね。けどヒャクメーンがやられたら、こっちは撤退しろって言われてるんでね。ここは引き下がらせてもらうよ」
「ベスパちゃん!!」
「パピリオ、あんたも納得した事だろ」
そして、それに対しやる気のありそうだったベスパは意外にもあっさりと撤退の意を示した。その指示にパピリオは一瞬、反論の意を示すが、睨まれて口を閉ざす。
「悪いけど、今度こそ逃がしたりはしないわ。あなた達二人捕らえさせてもらいます」
けれど、美智恵の方にそれを受け入れる気はない。一歩前にでて、彼女達を追い詰めようとした。しかし、その瞬間、彼女は首筋に痛みを感じる。それを見てニヤリと笑うベスパ。
「し、しまった!! 対滅結界を!!」
状況に気付いての素早い指示。しかし、それよりも早く更に何人ものオカルトGメンの職員、更に西条、エミ、冥子、タイガー、唐巣、タマモが首筋に痛みを感じる。
「これは、呪い!?」
「くっ」
呪いの専門家であるエミが自分が受けた攻撃の正体に気付く。そして、それと同時に対滅結界が発動し、その結界内に存在した妖蜂が死滅する。
「ちっ、ひくよ!! それからアシュ様からの伝言だ。母親と仲間の命が惜しければ、歴史を変えたければ南極の到達不能点にまで来な!!」
自分の眷属がやられた事で、苦い顔をしながら混乱が治まるよりも早くベスパとパピリオが捨て台詞を残して逃亡する。対滅結界に作動の為に霊力を回していたので、防御結界が薄くなっており足止めさえ不可能だった。
「美神さん!! 皆さんが!!」
彼女達が去った後、オカルトGメンの職員がバタバタと倒れる。それを見ながら美智恵が青くなった顔で言った。
「令子・・・・!! わかってるわね!? 私の身がどうなろうと・・・・!! 絶対に奴の誘いに乗っては駄目よ!! これは――― 命・・・・令・・・・」
「ママ!?」
バッタリと倒れる美智恵。そして、西条、エミ、冥子、タイガー、唐巣、タマモ等も倒れた・・・・・・・・。
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