眼前で蹲って体を震わさせている少女『タマモ』に
横島は唯、何も言えずに暫くの間
その小さな少女の震える肩を痛ましげな視線で見つめて──
転んで泣いている幼児に手を差し伸べるような
静かで、慈愛の篭った声音で囁くように語りかけた。
「 なぁ… 」
独り言を呟く様な…それでいてソレを聞かせる様に語る横島に
タマモの肩が『ぴくり』と震える。
「 俺は…。お前の苦しみを全て
解ってやるなんて出来ねぇけどけど、さ? 」
『 でも…お前は…』と呟き、続ける。
「 今からタマモになればいいんじゃないのか? 」
『 生まれたばっかだし… 』と、頭を掻きながら話し掛け
最後には自身にも聞き取れない声音で
『 俺には出来なかったけど、な 』と呟いた。
「 …………? 」
そんな横島の言葉に『きょとん』として
タマモが一度だけ横島と目線を合わせた。
『 確かにそうなんだけど…。 』
呆れる程に簡潔なその一言に。
縋りたくなる程の、優しい声音に…その瞳にタマモは
冷静さを取り戻す。
今まで妖孤の自分に『この様に』話しかけてくる人間なんて
僅かに蘇った記憶『記録』の中にも居なかった。
『 変なヤツ… 』と、心の中だけでタマモは呟く。
──が、それでは叫んだ自分がバカみたいじゃない…。
と、蹲ったままで抱えるように抱いている膝の間に
気恥ずかしさから再び、顔を伏せた。
そんなタマモの姿に泣いていると勘違いした横島は
『ガシガシ』と乱雑に頭を掻くと
「 元気だせっ!弱虫は庭に咲くひまわりに笑われるッ!! 」
焦った様に言葉を掛ける──と、タマモは急に肩を震わせて
次第に、その震えは大爆笑と共に大きくなった。
『 変な顔… 』と哄笑に紛れて聞こえてきたタマモの言葉に
横島は憮然とした面持ちで勘違いをした
自分を叱咤し続けていた。
苦し紛れに『 前…肌蹴ているぞ 』と呟きながら…。
「 見るなッ!! 」
暫くの間
天井に頭だけを突き刺しぶら下る横島のシュールな光景に
玉の汗を出しながら見守っていたタマモが其処に居た。
願い 〜第三話〜
「 ──要するに 」
タマモが人差し指を立てながら続ける。
「 私には…三人分の記憶があるのね? 」
未だにシーツを裸体に纏わただけの格好のままで
横島へと尋ね掛けた。
その問いかけに横島は神妙な態度で頷き
「 大まかにはそうだ。──けど、姐妃さんについては
…良く解らないっていうのが正しいな。 」
『ふーん』と顎に指を添えながらタマモは相槌を打つと
更に疑問を投げ掛けた。
「 姐妃は二重人格になるかも──って言ったのよね? 」
『 あぁ。 』頷く横島に
「 でも、呼びかけても何も感じないわよ? 」
と、思案顔でタマモは『己以外の人格』を
感じることは出来ないと伝えた。
ちゃぶ台を挟む様に対峙する二人に
僅かに沈黙の間が降りる。
「 ──そうか… 」
暫くして、静かに響いた横島の言葉がその沈黙の場を
更に痛く重いモノへと変化させていた。
更なる時間の経過。
痛いほどに圧し掛かる沈黙の場は
突如として横島が言葉を掛ける事によって離散していく。
「 ──で、タマモは此処で生活していくのに不満は無いのか?」
『 勝手に決まった事だし…』と続けるように語り掛けた。
そんな横島の言葉にタマモは
僅かに逡巡すると『 まぁ… 』と小さく呟いて
「 姐妃がそう言ったのなら…それでもいいか、な? 」
首を僅かに傾げながら答えると最後に『 同じ私だし… 』
と、付け足しながら横島に伝えた。
「 いいか、な?って…。 」
そんなタマモの答えに僅かに不満気な表情を浮かべた横島が
タマモの真似をしながら憮然と喋る。
「 ま、まぁいいじゃない。私が此処で保護されたら
退魔師に追われる事は無いんでしょう? 」
『 もう…追われるのは嫌よ…』と弱々しく呟くタマモに
横島は表情を一瞬歪ませたが、直ぐにその表情を戻し
「 …そうか。 」
『──じゃぁ 』と続けると、
「 歓迎会の前にッ!大切な話があるッ! 」
横島はいきなり声を張り上げて家族会議を始める様なノリで
タマモへと語りかけた。
その横島の突然の変化にタマモは『 ほぇ? 』と小さく呟いた後
『こほん』とわざとらしく咳払いをして
「 な、何よ? 」
と、横島に問いかける。
『 まずは… 』と、横島は人差し指を『ぴんッ』と立てながら
語り始めた。
「 我が家は深刻な食料飢饉に脅かされているッ! 」
「 は、はぁ…。 」
半ば呆けた様に返事をするタマモを横島は一瞥すると
『タンッ!』とちゃぶ台を叩きながら力説をする。
「 し・か・しぃッ!給料を上げてもらうのは至難の事であるッ!」
『タンッ!タンッ!』とちゃぶ台を叩く度に跳ねる油揚げが
実にシュールで…
その滑稽さを跳ねる度に乗算の様に増していた…。
そんな力説を語る横島にタマモは若干引きながらも
彼にとっては手痛い一言を漏らす。
「 経済力が無いのね…。 」
その一言に流石の横島も、『 う゛…… 』と声を漏らしたまま
反論できずに押し黙る。
──が、持ち前の復活力で回復すると
「 何が経済力だッ!男の甲斐性はそんなもんで── 」
と、そこで口ごもると
次に『ハッ!』と気づいた様にタマモに微笑みかけた。
その笑みに嫌な予感を覚えるタマモだが、突っ込まずには
居られずに──つい、促すように声を掛けてしまった。
「 な、何よ? 」
そんなタマモの言葉に変な既視感を覚えながら横島は
『 ふふふ 』と、実に怪しい笑みを浮かべると
「 明日、タマモには俺の上司に会ってもらうッ! 」
「 上司って…──あのミカミって女? 」
怪訝な表情をしながら
記憶の欠片を思い出す様に相槌を打つ。
「 そう。その美神さんに俺の給料の値上げ交渉を── 」
「 イヤ。 」
タマモは横島の発言を全て聞く前に
その言葉を遮断する様に言葉を出した。
『 えッ? 』と、その予想もしていなかったタマモ反応に
横島は呆気に取られた様に言葉を出した。
「 だ・か・らッ! イ・ヤッ! 」
そんな横島にタマモは態々一言一言区切りを入れるように
同じ言葉を繰り返す。
『 えッ? 』と、再び返す横島に視線を合わせると
タマモは
「 自分の事は自分でやりなさいよ… 」
と、頭を抑えながら呟いた。
僅かな時間、呆けたままで固まっていた横島だったが
突如、体を震わし…それを抑える様に己の腕で抱いた後
「 そんなッ!?神は既に死んだのかッ!? 」
叫び『 Oh、ガッデ〜ムッ! 』と、余裕のある
悲鳴を上げていた。
暫くの間、その姿をタマモは冷めた視線で見守っていたが
横島は次第に踏み止まれなくなったのか、
ちゃぶ台に顔を伏せると『タンタン』と音を立ててちゃぶ台を叩き
油揚げを舞い上がらせる。
それから僅かに遅れて
「『 享年17歳 子供に頼る男 横島忠夫 餓死
──飽食の時代に起った悲劇ッ! 』
とか、そんな題名でニュースワ○ドとかに流されるんやーッ!」
と、叫び始める横島に『 ひくり─ 』と頬を引きつらせた。
数分後
「 ……とはいえ、だ。 」
体を狐火でこんがりと焦がしたままで
横島は呟いた。
「 これ以上は明日にならないとわからないな 」
顎に手をやり呟く横島にタマモは短息を吐いて
疲れた様に頷いた。
そんなタマモに苦笑を浮かべた横島。
「 ちなみに、お前も明日は学校に連れて行くからな。 」
「 ……? 学校? 」
目をぱちくりさせるタマモに横島は更に苦笑を深める。
「 えぇ…っと、学び舎で伝わるか? 」
と、他の言い方で伝わるかと尋ねてくる横島に
タマモは『よくわかんない…。』と呟いた。
その返事に横島は『んー…』と顎に手を添え
思案する様に唸ると
「 お前って…知識にばらつきあるよな? 」
尋ねる様に話しかけた。
「 そうね。まだ上手く引き出せないっていうの? 」
と、此方も思案する様な表情で答えるタマモ。
そんなタマモに『 ニヤッ 』と横島は笑みを浮かべると
「 その知識を補う様な場所が、学校だッ! 」
自身の言った説明に満足気に頷いた。
その説明に『ふーん』と相槌を打ち暫く虚空を眺めた後で
「 まぁ…いいわ。ついて行く。 」
と、冷めた返事とは打って変わってタマモの
その表情は期待で染められていた。
後書き
コタツと格闘三時間 水稀です(挨拶
第三話をお送り致しましたが、楽しんでもらえたでしょうか?
暫くの間、タマモが周りの環境になれる様を描いて行きたいので
これといったハプニングが起ること無く
『 学校編 』 『 事務所編 』 『 ???編 』と三作ぐらい
日常を描いていくスタンスを取ろうと思っているのですが
どうでしょうか? 何か意見が御座いましたらレスにて
教えてもらえると嬉しいです。
レス返しです。
『 帝様 』
毎回レスありがとうございます(ノ∀`゜)
三大栄養素の次に大切な栄養となっておりますよ!w
で、タマモ同居の件なんですが…。
このまま行くとタマモを一度飛ばしちゃうんですよね(意味深w
それに、美神が同居を許すかなぁ と考えての結果
暫くの間 同居。 それ以降は本編と同じ様な待遇を考えて
おります。
変更するかもしれないですが…w
今回はコレでお終いです。
帝様にはもう一度お礼を…。 ありがとうございますm(_ _)m
では、次回も頑張りますので
今まで見てくれた方や…これから見てやるよ といった方も
今後ともヨロシクお願いしますね!