「静流よぅ、横島の奴は勝てそうか？」
「勝てる確率は五分五分といったところだ。だが・・・身体が耐え切れるかどうか・・・」
きたろうと静流が空牙の戦いを見ながら話していた。しかし、静流の表情は浮かないものだった。
「やはり・・・・・もう横島の身体は・・・・」
「うむ・・・・・“長くない”かもしれん・・・」
「運命ってやつは・・・・・皮肉すぎるぜ」
「因果とは・・・・・そう言うものだ」
ただアッサリと答えるものの、静流の手からは血が滲みだしていた。強く握りすぎて、爪が刺さって出血していたのである。
「俺たちは・・・・見届けるしかないのかもな・・・」
きたろうは苦い表情をしながら、その戦いを見続けるのだった・・・。
エピソード二十九 爆ぜる魂
「だりゃあああああああああああああああああああああ！！」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！」
空牙の振るう刃とフェンリルの刃が交差する度、空気が裂け、地面が砕ける。
≪ガキンガキン・・・・・・・・ガキン≫
その剣戟はすざまじく、二人のいる地面すら砕かれかけていたのである。すると、空牙は剣を弾き上げ、フェンリルの腹を蹴って間合いを取ると、再び構えなおした。
「やるな・・・・・・だがこれはどうだ！！斬風牙！！」
そう言うと、フェンリルは八房を横に切り払った。それにより、強力な風の刃が空牙に襲い掛かる。
「んにゃろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！」
それを見た空牙は地面を蹴り、跳躍して攻撃を仕掛けようとした。しかし、それを読んでいたのか、フェンリルが刃を縦に振るった。
「斬風牙縦式！！」
「んなのアリかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！」
叫びながらも、空牙は空中で捻りながらなんとかそれを避けた。そしてそのまま着地すると、サイキック・ソーサーを数枚発動させた。
「ショットガン・ソーサー！！」
空牙はソーサーを宙へと投げると、左の拳でソーサーの中心を殴りつけた。それにより、ソーサーはガラスのように砕け、フェンリルへと散弾銃の如く放たれる。
「なんの！！そんな飛び道具で！！」
「それは囮だぜ！！」
フェンリルはそれを連続で切り払った。しかしそれを予想していた空牙は、その隙に一気に近づき、刃を振り上げる。そして、フェンリルの肩口から思いっきり切り裂いた。
「がはっ！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
それをモロに受けたフェンリルは、血を吐きながら地面へと膝をついた。それを見た空牙は一度間合いを開け、様子を見る。
「どうじゃい・・・その傷は結構効いたはずだぜ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
肩で息をしながら、空牙は刃をフェンリルに向ける。すると、傷口を押さえながらフェンリルが立ち上がる。
「・・・いいだろう。我が人生最後の敵として・・・・・・ふさわしい！！ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン！！」
そう言うと、フェンリルは月が浮かぶ空へと咆哮を上げた。すると、フェンリルの身体がメキメキを音を立て、筋肉が盛り上がり、先ほどより三倍は大きい姿へと変貌を遂げた。そう、フェンリル・・・暴走体である。
「・・・おっさん、命を懸ける気かよ・・・・・・・・・・」
「無論だ・・・・・我が願い潰えるなら・・・・・せめて武芸者として、我が全力を懸ける！！」
そう言うと、フェンリルは3メートルもの八房を鞘から引き抜いた。そしてそれを構えると、目では確認できない速度で横に振るった。
「喰らえ！！“真”斬風牙！！！！」
それが放たれた瞬間、空牙の身体からは八つの傷跡が浮かび上がり、鮮血が宙に舞った。そして・・・・地面へと倒れた。
「よ、横島君！！」
「横島さん！！」
「先生ーーーーーーーーー！！」
「ヨコシマーーーーーー！！」
皆が悲痛な叫びを上げる。しかし、空牙は動く気配が無く、まるで生気が失われているようだった。
「犬飼！！堕ちるに堕ちたでござるかーーーーーーーーーーーーー！！」
ビュンと凄い出力で霊波刀を発動させると、シロはフェンリルに斬りかかった。超高出力の霊波刀により防いだフェンリルが少しばかり下がるが、様子から見て効いていないのは明白だった。
「愚かだなシロよ・・・・ミスミス死ににくるとはな」
「黙れ！！拙者の先生を傷つけられて、動かないほうが無理でござる！！」
ギシギシと刃同士が音を立てる。しかし、明らかにシロが後退し始めていた。純粋な力もあるが、グロンギで霊的にも強化されたフェンリルは、もはや過去の大神とは比べ物にならないのである。
「ぐ・・・・・・あ・・・・・・・・！！」
「シロよ・・・・・・お前では拙者には勝てぬ。例え女神を宿そうが、拙者はその更に上をいく！！」
「負けないでござる・・・・・・拙者は・・・・・皆を・・・・・・・・・横島先生を守りたいのでござる！！」
シロが想いを叫ぶと同時刻。人狼の里の祠から、強い光が放たれていた。それは、一本の刀から放たれており、ガタガタと音を立てて動いていたのである。
≪・・・・・・バキン≫
そして・・・・その刀を抑えていた結界は崩れ、外へと飛び出していった。その刀には“伏姫”と書かれていた・・・。
「フン・・・・・ならその想いと共に死ぬがいい！！」
フェンリルがそう言って止めを刺そうとした瞬間、二人の間に空から落ちてきた一本の刀が突き刺さった。すると、その刀から聖なる波動が放たれ、それによりフェンリルの視界は遮られる。
「な！？目が見えぬ！？」
「ま・・・・まさかこれは・・・・」
シロは刀を引き抜くと、跳躍しその場から間合いを取った。そして視界の戻ったフェンリルは、シロの持っている刀を見て愕然とする。
「な・・・・・何故伏姫が！？何故その刀をシロが持っているのだ！？」
「それは・・・・・その刀がシロを選んだから・・・・・だぜ」
フェンリルは突然の声にその声を方を振り向くと、そこには満身創痍ながら立ち上がる空牙の姿があった。
「「「横島君(さん)(ヨコシマ)！！」」」
美神たち三人が立ち上がる中、空牙はシロに近づく。
「せ・・・先生」
「わりぃ・・・・俺がアイツを倒さなきゃいけないのに・・・・シロに戦わせてしまった・・・・」
「先生・・・・・ですが犬飼は拙者が・・」
「あんな強いんじゃ・・・・一人じゃ無理だ。だから、“二人”でアイツを倒す」
「は・・・・・・・はい！！」
シロは勢いよく頷いた。そして、空牙とシロは一緒に伏姫を握る。それにより、伏姫からは強力な霊波が放たれる。
「な、なんなのだその力は！？何故それほどの力を！！」
「お前は・・・・・己だけのためにしか力を求めてないからさ」
「拙者たちは・・・・・ただ互いのため、仲間のために全ての力を注いだのでござる！！」
「だからこそ・・・・・俺たちは負けないんじゃ！！」
そう言うと、空牙とシロは伏姫を構える。その決意を知ったのか、フェンリルもまた八房を構える。
「いいだろう・・・・・・次で決着だ！！」
「望むところでござる！！」
「俺たちの絆・・・・・・見せてやる！！」
そう言うと、互いの得物に霊力を込め始める。そしてそれが限界まで引き上げられた瞬間、それは放たれた。
「“真”斬風牙・・・・」
「九連弧狼・・・・・・」
互いの力が最大限まで凝縮され・・・・。
「八連式！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
「霊波斬！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
二つの力は激突した。一つ・二つ・三つと、刃は相殺されていく。しかし、八つになった時、答えは出た。
「な、何！？」
「九つ目でござる！！」
「受け取りやがれ！！」
そう言うと同時に、空牙とシロはフェンリルの肩口から、全力で切り裂いた。それにより、フェンリルは吹っ飛ばされると同時に、大爆発を起こした。
「拙者の・・・・・・負けだな」
フェンリル化が解けた犬飼は地面に倒れながら、側に立つ横島とシロを見ていた。
「ああ・・・・俺たちの勝ちだ」
「拙者たちが・・・勝ったでござる」
「そうか・・・・・強くなったらシロ・・・・・」
そう言いながらも、身体は粒子状になって消えかけていた。空牙の救世の力により、浄化が行われているのである。しかし、変異体を越えた暴走体は身体を隅から隅まで侵食し、もはやグロンギと犬飼を離す事は出来なかったのだ。
「すまねえおっさん。俺にもっと力があったら、アンタを止めれたはずなのに・・・」
「気にするな若造。お前との戦いで、拙者は満足した。もはや現世に悔いはない。あとは、拙者が殺めてきた人々への償いがために、拙者の魂が地獄へと向かう」
「そっか・・・・・しっかり償ってこいよ！！」
横島がそう言うと、犬飼は不敵な笑みを浮かべながら、光となって消えていった。
「逝ったで・・・・ござるな」
「だな・・・・さて、俺たちも帰るか」
横島はそう言って振り返ると、ブンブン手を振っているおキヌがいた。横島は苦笑しながら駆け寄ろうとした瞬間・・・。
≪・・・・・・・・・・ドサリ≫
地面に・・・・倒れこんだ。
「よ、横島さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん！！」
おキヌの悲痛な叫びが、人狼の里全体に響き渡るのだった・・・。
あとがき
さ〜て、遂にフェンリル編終了でございます。次ですが、横島に起きた異変、そしておキヌメインのあの話へと突入させていただきます。
＜ATK51様
静流はまだまだ未知な部分が多いです。それも、戦いが続きながら明かされていきます。
では、次回まで。トォ！！