今回の話は一応本編に続いているのですが、それでも番外編にした理由は最後の方で分かると思います。
では本文をどうぞ。
横島は悩んでいた。
何しろ恋人に向かって『他の女とデートさせてくれ』と申し出なければならないのだ。
『サバイバルの館』から帰った後、おキヌにデートの件を蒸し返されて、結局了承してしまったのである。引け目もあったし、横島自身おキヌとデートするのが嫌だったわけではなく、むしろ望むところであったのだから。
ルシオラがバンダナ化して眠っている、という状況自体は珍しくない。横島が学校に行くときや男友達と遊びに行くときなどは大抵そうしている。
が、それとこれとは話が違いすぎるわけで。
横島はいろいろ考えたが彼の頭脳で良案など考えつくはずもなく、玉砕覚悟で経過をそのまま話すことにした。
しかしルシオラは彼が思ったより寛大だった。
出された条件は2つ。1つは今後自分を『眠らせる』ような約束はしないこと、もう1つは自分も1度デートに連れて行くことである。
実に当然の要求で、横島も受け入れざるをえない。それに考えてみればルシオラと普通にデートしたことは今までになかった。ルシオラの方もだが、あまりに身近すぎてそういう発想が浮かばなかったのと、一緒にいるだけで満足だったからである。
そういうわけで無事恋人の理解を得た横島は、待ち合わせ場所の喫茶店にその姿を現していた。
が、後ろに不審な2人組がいるのには気づいていない。
いや、彼女達の態度はごく自然である。怪しむべき点は何もなかった。普通の人が見た限りでは。
しかし見る者が見れば、1人は妖怪の変化であることに気づくだろうし、もう1人は一流GSクラスの霊力を巧妙に隠していた。
京香とタマモである。
京香はおキヌが横島とデートの約束をとりつけた事をすでに探知しており、横島が家を出た辺りから追跡していたのだ。
「サーヴァ○トとしてマスターを陰ながらお守りすることは義務! 気配遮断と尾行の修行にもなるし」
といったような建前で、背後の横島とおキヌの会話に耳ダンボしている、というわけだ。
タマモを連れて来たのは、万一2人を見失ったときに彼女の嗅覚が役に立つからである。九尾の狐とはいえ幼生、油揚げで買収することは容易であった。シロについてはあの騒がしい性格で尾行など出来るわけがないから却下である。それにタマモなら他人の姿に化けられるし、自分も変装ができる。ルシオラが起きてこない限りまずバレまい。
京香は薄い青のシャツと赤いスカートを着て、腰まで届く長髪のかつらをつけていた。タマモはエキゾチックな雰囲気のある美少女の姿に化けている。紫色のブラウスを着て、これも紫のベレー帽らしきものをかぶっていた。白のフレアミニスカートと紫のニーソックスの組み合わせは飛んだり跳ねたりすると色々と危なそうだ。
「横島さん、おはようございます。待たせちゃいましたか?」
「いや、ついさっき来たとこだよ。ところでおキヌちゃん、何か緊張してない?」
「あ、分かっちゃいました? だってほら、今日は初デートですから」
「そ、そっか」
初々しくも互いに相手を意識して仲良く赤くなる横島とおキヌ。横島の背後で何かの気配が揺らいだが、たぶん気のせいであろう。
「そう言えばおキヌちゃんと2人っきりで話するのってけっこう久しぶりだよな」
「そうですね」
GS試験のとき以降、横島のそばには常にルシオラがいたから、彼とおキヌが2人きりになることはなかった。今も厳密には2人きりではないのだが、眠ってくれているからまあ2人きり同然と言えるだろう。
「思えばあれから色々あったよな」
「……でも不思議ですね。何度もピンチになったのに、こうして振り返ってみると何だかいい思い出みたいに思えちゃうんですから」
てへっ、と悪戯っぽく笑うおキヌ。はっきり言って可愛い。
「ところでもうすぐ夏休みですよね。横島さんは何か予定とかあるんですか?」
おキヌは旅行とか行楽といった回答を期待していたのだが、横島の返事はひどく散文的なものだった。
「うーん、たぶんルシオラにしごかれるんだろうなあ」
何しろ彼にはいずれ人の身で魔神と対峙するという大試練が待ち構えている。実際の戦闘は最新案『ルシオラ&小竜姫同期合体』がやってくれるとしても、彼がその場にいなければならない事は間違いないのだから。
「そうなんですか……それじゃ横島さんはやっぱりGSになるんですか?」
そこまでやって別の職業につくというのも考えづらいし、横島の実力ならもう十分やっていける。
「そーだなあ、せっかく死ぬ思いして取った資格だし。美神さんとこで正社員にしてもらうか独立するかは別として」
(独立するならついていきますよ!?)
(美神さんとこよりは平穏に暮らせそうね。……あ、バカ犬も来るからダメか)
横島の背後でまた気配が動いたが、彼もおキヌも話に夢中で気づかなかった。
「ま、小竜姫さまにも誘われてるし路頭に迷うことはないだろ」
「小竜姫さまに!?」
「妙神山管理人の補佐だってさ」
小竜姫の仕事は修行場の運営だけではなく、メドーサのような凶悪な魔族を討伐するといった荒事もある。そうしたときに横島とルシオラがいればどんな相手も恐れることはないだろう。2人の生活費など、美神に払う報酬のことを考えればタダのように安い。
本音はむろん別のところにあったが……。
「それでそーいうおキヌちゃんはどうすんだ? 実家に帰って巫女さんになるとか?」
「うーん、私はまだ分かりません。せっかくの才能ですから役に立てたいですし、みんなと一緒にいたいですから。とりあえず今はGS資格取れるくらいになるのが目標です。
……だから私も修行おつきあいさせて下さいね、横島さん♪」
「あ……ああ」
にっこり笑った少女の笑顔が眩しくて、頷く動作も当社比6割ほどぎこちなくなってしまう横島。
「……じゃ、そろそろ出ようか。今日は映画でも買い物でも付き合うからさ」
「じゃ、最初は映画にしましょう。前からチェックしてたラブロマンスものがあるんです」
「美形の主人公はいやだぞ!?」
「もう、横島さんったら映画にまで」
そんな感じで始終和やかな雰囲気のまま2人が喫茶店を出て行くと、尾行者たちも行動を開始した。
「出るみたいね。それじゃ行くわよシ○ン」
「はいはい。……えっと、秋○だっけ?」
お互いコードネームで呼び合っているらしい。
「ステキだったですね。私も横島さんとあんな風にしてみたいです」
「そ……そっか」
映画館から出て来たおキヌはすっかり興奮していたが、答える横島は塩でも吐きそうな顔をしていた。キザっぽかった主人公に生理的な嫌悪感を覚えたらしい。
しかしおキヌがそこまで気づくはずもなく。その話はそれで終わって、次の行き先はデパートだった。それも……水着売り場。
「私学校指定のものしか持ってませんから、横島さんに選んでほしいんです」
「何DEATHとぉ!?」
心臓をえぐるような一撃を受け、胸を押さえてよろめく横島。言葉遣いも変になっている。
しかしここで取り乱してはせっかくのタナボタを逃しかねない。横島は全精力を振り絞って冷静を装った。
「……しかし、男が入ってもいいものなのか?」
下着売り場ほどではないが、それなりに男子禁制なエリアのような気がする。
「大丈夫ですよ。ほら、あそこにカップルがいるじゃないですか」
言われてみれば店内には女性客以外に2組ほど先客がいた。
「あ、ほんとだ。今はそーゆー時代なのか!?」
彼に縁がなかっただけと思われる。
「くっ、氷室さん、何てえげつない……」
並んで女性用水着売り場に入っていく2人の姿を目の当たりにした京香が深刻な表情で怨嗟の声をあげた。タマモがあきれて、
「ちょっと、霊気が漏れてるわよ」
「え? ああ、ありがとう。遠○家当主たる者、常に冷静でないとね」
謎な返事をかえしつつ監視を続ける京香。しかし横島とおキヌはむろんそれには気づかず、
「横島さんはどんな水着が好みなんですか?」
「え、俺の好み?」
横島には特殊なデザインを偏愛する嗜好はなく、単純に大人っぽくて大胆なのが好みである。とはいえ『俺のもの』な女性が人前でそれを晒すのは嫌なので、さじ加減が難しいところであった。判断に迷ったが無難なところで、
「うーん、まあおキヌちゃんにはあまり派手なのは似合わんと思うが」
「やっぱりそうですか? じゃあこれとこれ、着てみますからちょっと待ってて下さいね」
おキヌが物足りないようなほっとしたような複雑な表情で更衣室に入っていく。横島はその前で待っているわけだが、
(くくぅっ、おキヌちゃんがこの向こうで着替えを……!!)
必要以上に鍛えられた横島の聴覚は彼女の衣ずれの音をはっきりと捉えていた。水着に着替える以上いま着ている服は全部脱ぐ、つまりハダカになるわけで、今や彼の妄念は本人の意に反してぐぐーっと急上昇しつつあったが、
(いかん、耐えろ、耐えるんだ忠夫! ここで醜態を見せるわけにはいかんぞ!!)
初デート、ましてや公共の場でいつものような暴走をかましたら少女をどれだけ怒らせ、もとい傷つけることか。
やがて試練を耐え抜いた横島の前でカーテンが開き、着替えたおキヌが現れる。彼女なりにちょっと頑張ったその水着はピンクのビキニ。美神が着るような大胆なものではないが、それが逆に可憐さをかもし出していた。
そして羞ずかしそうな目で横島をみつめる――はずだったのだが、彼女の視線は別の方を向いていた。
ああ、何という運命の悪戯か。おキヌはこちらを見ていた京香と目が合ってしまったのだ。
京香が100%冷静でいればバレなかったかも知れない。しかしパワーが上がった分、遮断できなかったときに漏れる霊力も大きいのだ。そしておキヌは霊力の流れを読むことにかけては名人であった。
「峯さん!?」
バレた、と京香とタマモが蒼ざめる。タマモは他人のふりをしてすばやく遁走したが、京香はなぜか足が動かなかった。
「……さては私達のあとをつけてたんですね」
うつむいて呟くおキヌの雰囲気が変わっていく。
「え? あ、あの、おキヌちゃん!?」
横島の声も聞こえていないっぽい。
「ずっとずっと想ってて、今日やっと初めてデートできたのに……いつもいつも私のこと出し抜いてたのに、今度は邪魔しにまで来るなんて」
むせぶようなその言葉に引っ張られるようにして、おキヌの体から黒いオーラが湧き上がってくる。京香は清純派少女の変貌を呆然と眺めているだけだったが、横島にはそれが何なのか分かっていた。
(いかん、『黒化』しかけてる! なだめないと)
おキヌの両肩を両手でつかんで、
「ま、待ったおキヌちゃん! ここでケンカするのはまずい。とりあえず落ち着いてくれ!!」
必死で説得する横島だったが、それは逆効果にしかならなかった。
「横島さん……横島さんまであの泥棒猫の味方するんですか? 私が1番先に横島さんのこと好きになったのに」
泥棒猫って何デスカー!?
ここまでの黒化は初めてだ。すっかり気が動顛してしまった横島だが、そこにルシオラからの念話が飛んできた。
『ヨコシマ、今のおキヌちゃんはもう手がつけられないわ。逃げるのよ!』
(あ、ああ、分かった!)
ものすごく無責任な気もするが、命あっての物種である。
「時よ止まれッ! 《世》《界》!!」
ドオオオン!!
横島が文珠を発動させた瞬間、彼の周囲のすべてが停止した。『超加速』のように時間の流れを遅らせるのではなく、完全に止めているのだ。つまり今の横島の行動は誰にも見えず、反応されることも有り得ない。わずか数秒ではあるが、京香をかついで脱出するには十分だった。
が、
「動けねえ!?」
京香が金縛りになったのと同様、横島の体もすでに捕らえられていたのだ。いくら時を止めても、すでに起こっている事は変えられない。
やがて時間切れになって動けるようになったおキヌが横島の顔を見てにっこり微笑む。
「……大丈夫ですよ横島さん、そんなに怖がらなくても。手くせの悪い猫さんをちょっとしつけてあげるだけですから」
それであなたの後ろに見えるカウントダウンは何なんデスカ!?
横島の悲鳴は声にならない。
彼の目には、
ターゲットスコープオープン、黒化エネルギー充填120%。対ショック対暗黒防御。
最終安全装置解除、『この世全ての黒』発動します。
どこかの誰かが決戦兵器を発射しようとする光景が見えていた。
その日、世界は黒に包まれた。
………………。
…………。
……。
「はっ!?」
横島が目を覚ますと、そこはデパート内にあるレストランだった。目の前に食べかけのグリルランチがある。
「えっと……俺、どうしてたんだ!?」
「え、何がですか?」
おキヌも平和そうにサラダセットを食べていた。横島の言うことが理解できない様子である。
「……? うーん、夢でも見たのかな?」
「夢、ですか。夜更かしでもしたんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
横島はこっそり念話でルシオラに呼びかけてみたが、
『今はおキヌちゃんとデートしてるんでしょ? そっちに集中してあげなさい』
と逆に叱られてしまう始末で、
「ま、白昼夢ってことにしとくか」
とりあえずそれで納得することにした。
なお、横島はおキヌと別れてから京香に電話してみたが、今日は1日家にいた、という返事がかえってきた。
真実は天とおキヌちゃんのみが知っている。
――――つづく。
ついにやってしまいました。寛大な気持ちで見逃して下さるとありがたいですm(_ _)m
次回は本編に戻ります。
ではレス返しを。
○ヒロヒロさん
>なんか切なくなってきました
いつか何の心配もなく行ける日が来るといいです。
○ガバメントさん
>や、やべ〜〜蝶〜〜見て〜〜・・・
希望されてしまいました!?
○夜雲さん
>しかし頭にドリルだったら某超人のハリ○ーン・ミキサーが
その外見だとメカミカミならぬ鬼美神に(怖)。
○雪龍さん
>え〜だってこんなに群がったのに(;−;)
拳王様は漢の憧れです。
美神さんにはそれが分からんのです(ぉぃ
○遊鬼さん
>メカミカミのおかげでたいした苦労もせずに解決してしまいましたね(w
漢の浪漫が満載ですから。茂流田ごときに敗れるはずがありませんw
>あ、そういえば茂流田が死にませんでしたね? これって流れに何か絡んでくるんでしょうか?(w
うーん、特に出す予定も出さない予定もないです(^^;
○ASさん
>自分はクロトさんのネタが続く限り余裕で憑いていけます。<断言
ではお待ちしてますm(_ _)m
>あと『全て遠き新婚旅行』って横島がいないと発動できないと思っていたんですけど…別に横島は関係ないんですか?
ぜんぜん関係ないです(ぉぃ
横島君が鞘もってるわけじゃないですから。
>このルシオラだったら美神に封印の解除を求められるような状況ぐらい簡単につくれそうだし…
ぶっちゃけバレなきゃ(以下検閲により削除)。
○ゆんさん
>無限の煩悩
おおぅ、何だかカッコよすぎる呪文だ……。
そんな立派な呪文はうちの横島君には贅沢です<マテ
○comeさん
>メカミカミにおっぱいミサイルが装備されていないのね
ルシ製ですから……いやルシ製だからこそついてるべきだったのか?(爆)
○流星さん
はじめまして、宜しくお願いします。
>"心""王"でMSを素手でぶちのめす必殺技が"神の指"の人や、"反""逆""者"で右腕にだけ鎧の様な物が付いている人なんかはどうでしょうか
美神さんにバレさえしなければ(ぉぃ
○無銘さん
>原作より大幅に戦力アップしているだけに、最後はあっさり終了してしまいましたね
たまにはピンチになる話も書きたいとは思っているのですがどうも(^^;
>ところで、捕まった X-fileコンビの小物っぷりは、個人的に気に入ってます。今後、何かの機会があれば、チョイ役で再登場させてくれるとうれしく思います。
うーん、無罪にはならないでしょうからちょっと難しいかも知れません。
○拓坊さん
>横島がどんな反応するか見てみたかったですね〜
真下に立って上を(以下略)。
○獅皇さん
>少しばかりへこんでる獅皇です
これも美神さんの心が狭いせいです<マテ
>つーことはバーサーカーは天然暴走娘!!??
うーん、確かに彼女はそのクラスに相応しいかも(^^;
○緑の騎士さん
><死・竜・召・還>ではどうでしょう?暴走したらヤバそうですが
召喚魔法ですか、確かに制御できないと危険ですねぇ。召喚者狙われたらピンチですし。
ではまた。