「お久しぶりですね。おキヌちゃん、雪之丞さん」
「あっ、はい、小竜姫様、お久しぶりです」
おキヌ達の前に立つのは小竜姫。シミュレーションの後、おキヌ達は彼女に呼ばれ、ここはオカルトGメンの最深部にやってきていた。
「ここは、人界では最も霊力の満ちた場所よ。一部の神域を除けばね。消耗を少しでも抑える為に小竜姫達にはここで普段は休眠していてもらってるの」
「えっ、それじゃあ、もしかしてわざわざ私の為に起きてもらったんですか?」
美神の説明に焦るおキヌ。それに対し、小竜姫は気にしないように言った。
「気にしないでください。それより、先ほどのあなた達の戦い、実は見せてもらっていたのですが。驚きました、まさか短期間であれほど成長してるなんて」
「い、いえ、そんな事」
小竜姫に褒められて照れるおキヌ。しかし、雪之丞が後ろから余計な口を挟んだ。
「なあ、すまんが、用があるならさっさとすませてくれないか? 戦いに備えて少しでも鍛えておかなきゃならねんだよ」
「あんたねえ、仮にも神様相手なんだからもう少し礼儀とか気にしなさいよ」
雪之丞に対し、呆れた表情をする美神。もっとも、彼女も結構、人の事言えない時もあるのだが。
「ああ、そうですね。それでは、これをあなた達に授けます」
小竜姫は気にしていないように、しかし、コメカミをひくひくさせながら、おキヌと雪之丞にそれぞれあるものを渡した。
「これは?」
「おキヌちゃんに渡したのは竜の羽衣。全体的な霊力を向上させる神衣です。今のあなたには一番適した装備でしょう。雪之丞さんに渡したのは竜神の籠手、腕につける事で特に攻撃力を強化する武器です。既に知っての事と思いますが、拠点を全て破壊され、冥界からのチャンネルを閉じられた今、私達の活動は著しく制限されています。美神さんの護衛はあなた達に任せざるを得ません。こちらも余剰はありませんが、その為の力として美神さんの仲間の中でも特に強い力を持っていると思われるあなた方にこれらを託します」
「そ、そんな、雪之丞さんはともかく、私なんかよりもエミさんやピートさん、唐巣神父の方が・・・・・・」
「そんな事はありませんよ。あなたの力はいまや彼女達に劣っていません。何より、美神さんが一番信頼しているのは、あなたと横島さんでしょうから」
「信頼・・・・そうですね!! 私達で美神さんを守らないと!!」
その言葉に頷き、竜の羽衣を受け取る。一方雪之丞の方はおもちゃをもらった子供ように竜の籠手を持ってうきうきとしながら早速はめている。
「こいつはすげえ。これと新技二つを組み合わせればあの女魔族等も勝てる!! 感謝するぜ!!」
さきほどまえぶつくさ言っていたにも関わらず調子よく礼を言う。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね」
それにそう笑って答えながら、小竜姫の表情には汗がうっすら浮かんでいた。只でさえ、妙神山に括られている彼女は他の神魔以上に消耗が激しく補助の無い状態では、こうして具現化しているだけでも辛いのだ。やるべき事を追えた彼女は、原始風水盤の時のように角だけの休眠状態になった。
「さてと、二重の極みを覚える前にこいつの使い方をマスターしておくか。さっきのトレーニングもっかいやらせてもらうぜ」
小竜姫が居なくなると雪之丞はそう言って早速走り出してしまう。それを呆れた表情で見送り、そこには美神とおキヌが残された。
「美神さん、私達はこれからどうすればいいんでしょうか?」
「そうね。おキヌちゃんも、せっかくもらったんだから、それ着てみれば。私もちょっと訓練しとこうかしら。あの馬鹿に引き離されるのもしゃくだし」
あの馬鹿、それが誰を指すのかは言うまでも無い。そして、抜かされる、ではなく、引き離されるという言葉がプライドの高い彼女から極、自然にでてくる辺り、如何に今、彼女が“彼”を認めているのかと言うのが伺え、それに気付き微笑むおキヌ。そして、そこで不意にそのくだんの“彼”の事が思い出された。
(横島さん、大丈夫かな・・・・)
「はあ、はあ。うっ、うがっ、うごっ・・・・・・」
洞窟に呻き声が響き渡る。試練開始から10時間、横島は今だ苦痛の中にあった。
意識が朦朧としながらもただ、痛覚のみがはっきりしている。霊体と肉体への負担が命の火を弱め、次の瞬間には霊力が体中に満ち、生の感覚を取り戻す。その繰り返しだった。
(こら、こんどばかりはあかんかもしれんな・・・・・)
想像を絶する苦痛は生きる気力すらも失わせる。横島の生命の火は、生きる意志は少しずつ弱まりつつあった。
(おキヌちゃん、帰るって約束したのにごめん・・・・・。美神さん、時給下げたりしないで・・・・って、はは、何考えてんだ俺、死んじまったら時給なんか関係ねえじゃねえか)
もういい、もう楽になりたい。そう思った時、彼に近づくものがあった。
「いいの? あの、おキヌって娘と約束したんじゃないの?」
(タマモ・・・?)
それは横島が数日前から仮初の親を務めたキツネの少女であった。そういえば、こいつにも色々と悪い事した気がするなー、そんな事を思いながら、でも、まあいいやと意識を手放そうとする。
「生きて帰ったらあの娘と交われるんでしょう?」
ピクッ
その言葉が耳に入った瞬間、手放しかけた意識が引き戻される。更に、タマモは囁きをした。
「そういうのって、男冥利につきるんじゃないの? 私にはよくわからないけどさあ。あの娘、結構見た目はよさそうだし。そういえば、あんた、他にも誰か待っている女がいる感じだったわねえ、話し聞く感じだと」
ピクッピクッツ
横島の頭に美神の姿が過ぎる。何故か、風呂上り、タオル一枚のセミヌードの姿で。
「ここで、あんたが死んだら、誰か別の男のものになるのかしら?」
ピクピクピクッツ
消えかけた命の火と共に煩悩と霊力が高まっていく。そして、最後の一言。
「そういえば、幻海さんも試練クリアーしたら何か色々サービスしてくれるってさ(嘘)」
プッツン
「世界中の美女は俺のもんじゃああああああ!!!!! それを手に入れるまでこんなところで死ねるかアアアアアあああ!!!!!!!!!!!!!」
(ほんとにこいつ幻海さんに聞いた通りの性格だわ)
タマモが内心で呆れ、もしかしてこいつに好意を持った自分の勘は鈍っているのか不安になった。何はともあれ、横島は歴代継承者の中で最も馬鹿らしい過程を経て、霊光波動拳正当継承者になったのだった。
(後書き)
ちょっと、この辺展開の流れというか描写の順番がいまいちですね。
っと、いうか、やはりおキヌを先に帰らせたのが展開的におかしかったかも・・・・。
さて、次回はルシオラ達が久々に登場する予定です。
<現在の霊力>
横島 1025マイト+潜在能力(煩悩)=????マイト
おキヌ 80マイト+竜の羽衣=430マイト
雪之丞 108マイト+竜の籠手=508マイト