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▽レス始

「妙神山のただおくん 番外編8(GS)」

のりまさ (2005-12-22 00:59/2005-12-22 02:46)
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<横島>
 文珠を発動させ、時空の渦に入り込む。
 俺はルシオラの霊体を手に入れ、
 無事に元の時代へ帰還することに成功した。
 それにしても予想よりも大分早く終わったな。
 その分予想よりも大分アレな世界だったが。
 正直、最初の時間移動であんな世界に行ってしまったため、
 もしかすると帰りも別の世界に迷い込んだりするかなーとは思ったが、
 どうやら杞憂に終わったらしい。
 まあ、逆行よりも元の時間に戻る方が簡単といえば簡単だからな。
 帰還の場合は逆行と違って世界の意志が俺を本来あるべき正しい時間へ導こうとする。


「おかえりなさい、横島さん」


「おかえりなのねー」


「おかえりなさいでちゅ、ヨコシマ」


「ちゃんと姉さんの霊体、取ってきたんだろうね?」


 どすんと時空の渦から出てみれば、出迎えてくれたのは小竜姫様とヒャクメ、そして恋人の妹たち。
 パピリオはともかく魔界にいるはずのベスパまでどうしてここに?


「横島さんがこっちの時空へ帰ってきたのが見えたから、私が呼んできたのねー」


「おお、ヒャクメが役に立ってる!? さては偽物か!?」


「酷いのねー」

 ヒャクメはいじけて「の」の字を床に書き出した。
 安心しろ、冗談だ。


 ……半分ぐらいはな。


「それでポチ、どうだったんだい?」


「そうでちゅ! ルシオラちゃんに会えたんでちゅか?」


 事情を知っているらしいベスパとパピリオが身を乗り出して尋ねる。
 こいつらにとって、特にベスパにとっては深刻で複雑な問題なんだろうな。
 ベスパは今でも自分がルシオラを殺したと思っているようだし。


「見てみな」


 今まで握っていた手を皆の前に突き出す。
 そしてそっと開ければそこには一匹の蛍が。
 目を枯らし、血眼になり、ヒャクメの目にも賭けた。

 それでも見つからなかったもの。

 でもそれは、今確実に手の中にある。


「ああ、間違いない……。姉さんだ。姉さんだよ……」


「ルシオラちゃん、やっと帰ってきたでちゅ。私、ずっと待ってたんでちゅよ」


 今にも泣きそうな、いやパピリオは実際に目元に涙が浮かんでいる。


「さあ、涙は拭こうぜパピリオ。さあ


 ルシオラを復活させよう」


妙神山のただおくん〜番外編 その後の蛍と少年の話〜


 どれほどこの時を待ち望んだだろうか?

 夢に見たこともある。
 夢想したこともある。
 それはコスモプロセッサのおかげであったり、
 ルシオラの霊体がぎりぎり基本量に足りたり、
 あるいは今回のように時間移動で助けようとしたり、
 復活させる方法は様々だったけど、
 どれも結末は同じだった。


 いつも最後の最後に失敗し、
 ルシオラは復活はおろか転生すらも不可能となり、
 絶望し、
 叫び、
 そしてその絶叫と共に飛び起きる。


 それは夢。

 だがそれを正夢にさせるわけにはいかない。


 俺はほとんど使い切ったストックの代わりに、新たな文珠を作り出す。
 いつもより丁寧に、
 慎重に、
 確実に、
 霊力を込めていく。


『融』『合』『復』『活』


 そして今度は文字を一つずつ念じながら込めていく。
 文珠はイメージだ。人の想像力の、限りそれは無限可能性を持つ。
 だから霊体が足りさえすれば、文珠による復活は可能。
 だが正しく文字を込めても、念じた時に間違ったイメージを込めたら?


 失敗する。


 だから慎重に復活するイメージを込めなければならない。
 失敗させるわけには……。

 失敗?

 その単語から、俺の脳裏に次々と、今まで見てきた夢が蘇ってくる。


 コスモプロセッサで復活させようとした瞬間、魔神に捕らえられる夢。

 基本量に達したはずの霊体を、神族に破壊される夢。

 過去へ戻っても、結局ルシオラを助けられなかった夢。


 駄目だ、どうして今こんなことを思い出す!?


「ポチ!」


「ヨコシマ、どうしたんでちゅか!?」


「まずいのねー! 横島さんの霊波が揺らいでるのねー!
 このままでは文珠の発動に失敗するのね!」


 大丈夫だ、失敗などするはずがない。
 俺が失敗なんて、俺なんかが、俺が、
 失敗なんて失敗なん失敗な失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗しっぱいしっぱいしっぱいしっぱい


「そんな、どうして!?」


「横島さんは今までずっとルシオラさんのことを後悔してきたのね。
 自分は好きになってくれた女の子一人も守れなかった、
 復活させることすらもできなかった。
 その思いは復活させる目途が立った後でも溜まり続けたのね。
 その間に横島さんの中に無意識に
 『自分ではルシオラを救えない』という概念が生まれ、
 そしてこびり付いてしまったのね。
 文珠はイメージが重要だけど、そのイメージを横島さんの負の意識が邪魔しているのね!」


 俺はあいつを復活させるんだ! 絶対、そして会ってあいつに……


『俺には何もできない。好意を示してくれた女の子に好きだと言うことすらできない』


 黙れ! 俺は救うんだ! あいつを!


『俺のこの手は掴めない。栄光は掴めても、恋人一人掴めない』


 できない? 俺にはあいつを救うことすら、いや、ちが


『できない、俺にはできない。こんな煩悩しか取り柄のない俺なんかじゃ。
 俺のこの手は掴めない。
 俺のこの手は届かない。
 俺のこの手は守れない』


 できない。俺にはこんな俺じゃ、煩悩しか取り柄のない俺なんかじゃ、
 こんな俺では、馬鹿な、弱っちい俺じゃ、勇気もない、
 力もない、決意もない、何もない俺では。

 俺なんかでは何もでき


『忘れたの!? お前を信じた私のことを!』


 声がした。


『お前は私に言ったじゃない。何とかしてやるから、俺のことを信じなさいって!』


 それはすでに消えたはずの声。
 俺の中に溶けてしまったはずの声。
 故にそれは幻聴。

 だが聞こえている俺にとっては、真実。


『そのお前が自分を信じなくてどうするの!?
 約束したでしょ! 必ず私を迎えに行くって!』


 それはかつて、初めて本気で、本当にただ誰かのために
 戦う決意をした時の言葉。


――必ず迎えに行くから、だから待っててくれ――


『私はまだここにいる! まだ約束は果たされてないわよ!


 あなたは強い人でしょう、ヨコシマ!』


 俺は、文珠を発動させた。


<???>
 とても暗い道を歩いてた。
 とても暗い夢を見ていた。
 とても長い道のりだった。

 でも怖くはなかった。
 常に暖かい光が私の側にいたから。

 その光はとても大切なもので、
 とても優しくて、
 愛するもので。


 暗闇の中に一人はとても心細かったけど、
 光はとても勇敢で、
 とても明るくて、
 とても温かく包み込んでくれて。


 そしてやがてその暗闇に出口からの光が見え始めた。


 やった、外に出れる。


 でも、すぐにその出口が見えなくなりそうになる。
 その光がとても弱ってしまって、
 出口まで照らすほどの力がなくなってしまったから。


 お願い、もう少し頑張って!


 それはとても身勝手な言葉だけど。


 あなたは私を励ましてくれるほど、強いでしょ!


 それはとても傲慢かもしれないけど。


 私は、あなたと一緒に外に出たいの! だから、光って!


 そして暗闇に温かい、とても気持ちのいい光が満ちていき。


 私は今、生まれた。


「ル、シオ……ラ」


 光の先にはとても懐かしい、でも見慣れた顔。
 優しい、愛しい、この胸に抱きしめたい顔。


「馬鹿ね。私なんかのために、そんなにぼろぼろになっちゃって……」


 上手く隠してはいるけれど、身体の表面は傷だらけ。
 修行でできた傷は、いくら文珠でも完全に治るわけではない。


 私は今までのヨコシマを全て見ていた。


「迎えに来るの、遅くなっちまったな」


 ぽりぽりと頭を掻きながら紡がれる声に、心が揺れる。
 抱きしめたいと絶叫する。
 今すぐ走って駆け寄りたいと渇望する。


「ふふふ、本当ね。私の方がお姉さんだったのに、今じゃすっかり逆転ね」


 私の見た目は過去の私を身体のベースにしたせいか、
 二十歳前後の見た目だった前より若干幼め。
 人間でいうところの十五、六といったところか。
 それに比べて今の横島はあれから随分経ったおかげで、
 どう贔屓目に見ても二十台前半。


「悪いわね、こんなに子供体型になっちゃって。大人っぽい方が好みだったんでしょう?」


 ちょっと意地悪な言い方。

 本当はあなたを抱きしめたい。
 身体全部であなたを感じていたい。
 あなたの胸に顔を埋めたい。
 あなたの匂いを感じたい。


 手が震えているのが分かる。
 指先が熱くなっているのが分かる。


 私もお前も、二人とも。


「気にすんな。歳を取ったせいか、最近では若い方が好みでな」


 あら、冷静な切り返し。まったく、随分と冷静になったものね。
 その成長を見守っていけなかったのはちょっと悔しいけれど。


 黙って見詰め合う、私とお前。


 もうムードもいいかしら。
 そろそろ、駆け寄って、キスの一つもする場面かな。

 いや、そういうムードだからというのは違う。
 お前を抱きしめたい自分の心をごまかせそうにないっていうのが本音。


 私は一歩を踏み出す。


「ヨコシマ、私、あなたを「ルシオラー!」ってきゅあ!」


 相変わらずのとんでもない瞬発力で跳躍してきたヨコシマを、私はついつい癖で迎撃してしまう。割合本気で。


「な、突然何するのよ!」


「何って、ちゅう……」


 ヨコシマは倒れ伏しながら、どっかで聞いたような台詞を言う。


「いきなりしたらびっくりするでしょ! もう、少しはムードを読みなさいよ!」


「十分読んだつもりだったのにぃぃぃぃぃぃ!
 後数年で強制的に魔法使いにジョブチェンジしちまう男に、
 これ以上ムードが読めるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
 雪乃丞やピート、あまつさえタイガーまで魔法使いの資格を失ったのに、
 俺だけ魔法使いの道のりまっしぐらなんやぞぉぉぉぉぉぉぉ!」


「ムードは悪くなかったけど、いきなり飛びついたら台無しじゃないの!
 まったく、少しは成長したと思ったら……」


「ちくしょー! どうせ俺なんか成長してもムードの読めない、
 セクハラ野郎なんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!
 この先ドー○イのまま三十路を越えて魔法使いになって、
 いつかとんでもない魔法を使えるようになって、
 いつか『俺を呼ぶなら大魔導師とでも呼んでくれ』とか
 そんなこと言うようになるんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 今度は泣きながら壁に頭をガンガンぶつけるヨコシマ。
 血がぴゅーぴゅー出てる。

 変わってないわね、まったく。

 少し残念なような、でも安心したような。


 よく分からないけれど、つまるところ嬉しいのだと思う。


 ヨコシマはあの時誓った通り、
 『俺らしく』の約束を守っていてくれたから。

 私はそっとヨコシマの側に歩み寄り、


「馬鹿ねえ。嫌なわけないでしょ。


 全然♪」


 あの時のように、そっと唇を近づけ……


「「「「ごほん」」」」


 すぐに離れた。


「ルシオラちゃん、私たちのことは無視でちゅか?」


 あ、あらいたのパピリオ?


「姉さん、嬉しいの分かるけど少しは回りを見ようよ……」


 ち、違うのよベスパ。気付いてたわよ、本当よ?


「お二人とも、私達はさっさっと出て行くから後は好きにするといいのねー」


 ペス、じゃなくてヒャクメさん。どうしてお布団敷いているの?


「さ、パピリオ。一、二時間ぐらい外に行こうか」


「はいでちゅ。ルシオラちゃん、私は甥が欲しいでちゅから」


「さあ、小竜姫も。一緒に行くのねー」


「ええ!? 私はここの管理人ですよ!? それをサボるなどと……」


「嫉妬するのは分かるけど、今日のところは退くのねー」


「な、私は嫉妬など……」


「はいはい、じゃあお二人とも。お留守番よろしくなのねー」


「あ、こら。ヒャクメ、角を掴んで引っ張らないでください。
 そこを掴まれたら力が……」


 呆然とする私とヨコシマを尻目に、ベスパがパピリオの手を引いて、
 ヒャクメさんが小竜姫さんを強引に連れて行き、
 部屋の中は二人だけになる。

「…………」


「…………」


 目を合わし、気恥ずかしくなり逸らし、でもまた合わす。

 そんなことを数回繰り返した後、ヨコシマが遠慮がちに口を開いた。


「せ、せっかくの厚意だしな


 …………続けるか?」


「……うん」


 そして私たちはぎこちなく、でもそれはとても自然に、唇を合わせた。


「…………ん」


 長い口付けの後、ヨコシマが布団に私を押し倒すと、


「……ふふ、やっともう一つの約束を果たすのね」


「まったくだ。後数年遅けりゃメラを覚えるところだったぞ。
 先延ばしになった分、利子はしっかり返してもらうからな」


「……ん、


 ……もう、馬鹿なんだから」


 やがて障子に映った私たちの影が、一つになった。


<ルシオラ>
「どうしたの、ルシオラ? 涙なんか流して。目にゴミでも入った?」


 六道学院からの帰り道、
 最近また一緒に帰るようになったヨコシマが気遣わしげに声をかける。


 気付けば私は涙が溢れていた。


「ううん、分からないけど、急に涙が出て……」


「何か悲しいことでも、思い出した?」


「ううん、これはそんな涙じゃなくて……
 ただ、とても、
 とても、


 とても幸せな気がしたの」


 続く


あとがき
 基本的に全編シリアスな未来原作横島編、ひとまず終了です。
 あまり人気のないシリアスですが、私自信は結構シリアス好きなので書いてて結構楽しかったんです。
 ルシオラですが、壊すことももちろん考えたんですが、やめました。
 性格も変わってしまったら横島くんが過去に跳んだ意味がないですからね。
 次からはまたぶっ壊れコメディです。

 ではレス返しです。

>拓坊様
 すんません、ほとんどシリアスで期待通りにはいきませんでした。

>アキ様
 応援ありがとうございます。お察しの通り未来帰還後の話でした。
 やはり性格を変えたくはなく、原作のままにしました。

>黒覆面(赤)様
 未来横島についてですが、実はまだこれからも出番が……

>54様
 未来のルシオラはこうなりました。不満があるかもしれませんが、私はこれでよかったかなと思います。

>tomo様
 お久しぶりです。ルシオラがどうなるかですが、先に書いた通り変わりませんでした。ご期待に応えず申し訳ございません

>ドリル様
 ご指摘ありがとうございました。なんで轟天号って書いたんだろう……

>つく様
 今手元にGS原作がないのでどちらか忘れたしまったのですOTZ。
 原作で確認次第すぐ修正します。ご指摘ありがとうございました。

>柳野雫様
 この壊れた世界がどこに行こうとしてるのか、実はちゃんと意味があったりして……

>ゆん様
 この世界では小鳩ちゃん、出番を作るには壊れるしかないのです。

>シヴァやん様
 そういえばそうでしたね。NJCの時でした。核ミサイルのときじゃなかったですね。

>神曲様
 まあ、私も死種のことは忘れたいような、でもネタとしては上等なので忘れたくないような。ちなみに愛子はそろそろ出てきます。

>かぐや様
 いつも応援ありがとうございます。明日も寒いようですが、そちらもお体には気をつけてください。

 次は久しぶりに六道学院編。学園祭をしようかなーと思います。

 ではこの辺で。

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