「そ、そんな危ないですよ!!」
「だ、大丈夫だって。危険っていうなら、今までだって危険じゃない事の方が寧ろ少なかったしさ」
命を懸けた試練と言う事で、横島の決断におキヌは反対した。それに対し、横島は大丈夫だというが表情が引き攣っているので説得力がない。
「あの、幻海さんが危険っていうからほんとにとんでもない試練なんじゃないか?」
更に雪之丞まで不安になる事を言う。その言葉に横島の表情が更に引き攣るが、わざとらしく咳をすると真面目な表情になって言った。
「けど、今回はおキヌちゃんだってがんばってるし、美神さんは命を狙われてる。俺だって、誰かが死ぬのなんて嫌だしさ。だから、まっ、頑張ってくるよ」
言葉は軽い口調、しかし、表情は真剣で目にはある種の覚悟が浮かんでいた。
「それに、俺の夢は世界中の美人のねーちゃんを手に入れる事だからな。それを果たしてない内はしねるか!!」
続けて冗談めかして言う。しかし、それは下手な演技で自分達を安心させようとわざと言っている事は人より少し鈍い所のあるおキヌにもはっきりわかった。だから、彼女は自分なりの励ましを贈る。
「わかりました。ところで、横島さんの夢は“世界中の美人のねーちゃんを手に入れる”ことだそうですけど、私はその中に入ってますか?」
「えっ、そりゃ・・・・もちろん」
思わぬ切り替えしに横島が戸惑う。何と答えていいか迷ったが、とりあえず、おキヌは横島の守備範囲にはばっちし入ってるのでYESと正直に答えた。その答えを聞いておキヌは“ふふっ”っと笑う。
「そうですか。それじゃあ・・・」
「!!?」
そして悪戯っ子のような笑みを浮かべ、行き成り横島にキスをした。突然の行為に横島は硬直する。横で、見ていた雪之丞もだ。そして、おキヌは唇を離した。
「その、横島さんがちゃんと無事に帰ってきたら、続きとかも・・・・・・してもいいですよ」
「つ、続きって・・・・」
そして、そのまま硬直し続けている俯いて手をもじもじさせなが最後の方は消え去りそうな声で言う。
その爆弾発言に横島の硬直が解けるものの、今だ頭の中は混乱状態だ。おキヌの方も自分からしたり言ったりしたにも関わらず顔をトマトのように真っ赤にしている。
「それは、その・・・・言わせないでください、そんなこと!!」
「ご、ごめん!!」
怒るおキヌと謝る横島。横でそんなものを見せられた雪之丞はもう、砂を吐きそうであった。そのまま二人ともモジモジし続けていると横から幻海の声が入った。
「そろそろいいかい?」
「は、はい!!」
その声で二人がパッと離れる。そして、幻海は横島の側によると耳元に寄せて言った。
「若いねえ。けど、これで、絶対に死ねなくなったじゃないか」
「そっすね」
前半はからかうような口調だったが、後半には思いやりが感じられた。もともと死ぬつもりなどなかったが横島は改めて生きる覚悟をする。
「ところで、試練は長ければ1日位かかるけど、それまでどうするかい?」
そこで、幻海が話を変えておキヌと雪之丞、それとタマモの方を見た。おキヌは考えた末に言い、雪之丞はそれについで答える。
「私は先に戻っています。美神さんも心配ですし。横島さん、美神さんの所で待ってます。絶対帰ってきてください。それで、また、3人で事務所やりましょうね」
「俺もこれ以上ここに居てもやることが無いからな。お前が戻ってくるまで、美神の旦那の事は助けてやるから、そっちの方はまかせとけ」
二人が答えた後、その場にいる者達の視線がタマモに行く。タマモはいつの間にか人型形態になっており、横島とおキヌのラブシーン?を見た所為か少し不機嫌そうだった。
「私は残るわ。その美神ってのは私には関係ないし、私はあくまで育ての親の横島に対し協力するだけだから」
プライドが高い所為か協力する理由をあくまで育ての親に対する恩というように言うタマモ。幻海に語ったのは彼女が明らかな強者であり、基本的に強者に従う妖怪の本能故の話である。
「そうかい。それじゃあ、まっ、気をつけてね」
「それじゃあ、おキヌちゃんに雪之丞、美神さんを頼むよ」
「はい、横島さん、がんばってくださいね」
「おう、強くなってこいよ。俺も新技を会得してお前に負けない位、強くなってやるからな」
横島と幻海の見送りにおキヌと雪之丞が答え、そしてやがて彼女等の姿が見えなくなる。そして、横島達は試練の場へと移動した。
「試練はこの洞窟の中で行なう」
それは幻海の家の庭にある洞窟だった。そして、それは横島の兄弟子である浦飯幽助が同じ試練を受けたのと似たような場所でもある。
そして、タマモを洞窟の入り口に残し、二人は中に入った。
「今から渡すものは代々霊光波動拳の継承者に引き継がれてきたものだ。幽助に一度は渡したが、あいつにはもうたいして意味のあるもんじゃなくなったんで、返してもらったんだ」
そして洞窟の奥まで行くと、幻海は振り返り横島の方を見て言う。そして、彼女の身体から膨大な霊力の塊が生み出された。
「霊光玉、歴代後継者の霊力が蓄積された力の塊。これを受け入れればあんたの力は飛躍的にあがる。けど、その力を受け入れるだけの器が無ければ耐え切れず死ぬ事になる」
「っ・・・・・・」
一瞬、声もでなかった。神族などの強大な力を目にした事のある彼も、このように只純粋で強大な力の塊を見るのは初めてだった。それを受け入れるという事に横島は息を飲む。
「覚悟はいいかい?」
「う、うっす」
そして、その力が幻海から横島に手渡された。玉が横島の身体の中に入っていく。
「んっ? 別になんとも」
そう言った次の瞬間。彼の身体から血が噴出した。
「うがっ、な、なんだ、これ・・・」
身体中の毛細血管が破裂し、血が滲み出る。今まで感じた事の無いほどの痛みが身体中が走りまわった。
「痛みは試練を乗り越えるまで続く。乗り越えられなければ死ぬだけさ」
幻海はそう言ってその場を立ち去る。しかし、今の横島にはその言葉すら聞こえていなかった。
「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
洞窟に横島の叫び声が響き渡った。