「はあ、はあ。駄目、このままじゃあ・・・・。」
おキヌとクマタカの戦いはおキヌが一方的に不利だった。致命的な攻撃こそ受けていないものの、回避するのが手一杯で一度も攻撃を返せないでいる。
「こうなったら・・・・・!」
“このままでは負ける”、そう思ったおキヌは思い切って覚悟を決める。自分が攻撃を受けるのを覚悟でカウンターを取りに行く事を決めたのだ。
「ピッピー!!」
クマタカが吼え飛び掛ってくる。それに対し、おキヌはその攻撃をわざと肩で受けた
「くっ・・・はあっ!!」
肩に鷹の嘴が突き刺さる。その痛みに耐えながらおキヌは掌から全力の霊波をクマタカに向かって叩き込んだ。その直撃を受けて苦痛の悲鳴をあげるクマタカ。撃を仕掛けようとするがそれよりも早くクマタカは空中に逃げた。しかし、ダメージは大きいらしくふらふらしている。
「今の一撃かなり効いてるんだ。これなら!!」
ダメージを受けている今なら力を認め契約してくれるかもしれないと考え、おキヌは笛をとりだし吹き出した。
(お願い!!私に力を貸して!!)
抵抗するクマタカと念を送り続けるおキヌ。そして、数十秒間競り合いが続き、クマタカが大人しくなる。同時に“彼”からおキヌを主と認めるテレパシーが届いた。
横島がダッシュで接近する。幻海は衝撃波でそれを弾き飛ばそうとするが、その攻撃は跳ね返された。ついで放たれる衝撃、だがそれらも全て跳ね返される。
「!!・・・なるほど、そういう使い方をした訳かい。」
幻海は横島が何をやったのかに気付き、感心したような表情を見せる。横島が生み出した文珠は“合”。霊波長を自動で相手に合わせる事で、霊光鏡反掌を発動させ続けたているのだ。そして、幻海に対し、手の届く位置まで飛び込んだ。
「霊光弾!!」
拳より強力な霊拳を放つ。だが、幻海は上に跳んでかわし、そのまま蹴りを放った。
「ぐわっ。」
蹴り飛ばされ吹っ飛ぶ横島。すぐさま起き上がるが、その時には幻海の姿がすぐ目の前にあった。
「くっ!!」
腕をクロスさせ、さらにその前方にサイキックソーサーを生み出し防御する。
「霊光衝撃波!!」
幻海の攻撃を受けた後、反撃に横島は反撃をしかける。しかし、幻海も同じ技を繰り出し、互いの技がぶつかりあい、お互い弾き飛ばされた。
「ずいぶん、技を練れるようになってきたじゃないか。」
飛ばされて空中に舞った幻海はそのまま足を横島の方に向け、そこから霊波砲を放ってきた。
「なっ!?文珠!!!」
“護”の文珠を使ってその攻撃を防ぐものの目の前の光景に驚く。
「あ、足からも霊波砲って撃てるのか!?」
「当たり前だろ。むしろ、手から撃てない方がおかしいってもんさ」
人間は“手”を使う生き物であるから、手を使って術を行使するのが、最も簡単なのは道理である。だが、幻海ほどの技量があれば、霊波砲のような単純な技ならそれこそ身体の何処からでも出す事が可能だった。
「なるほど、じゃあ、俺も試して見るか。霊光操弾!!」
横島は足から霊気の弾丸を生み出し、それをサッカーボールのように蹴り飛ばした。幻海はそれをかわすがボールは方向を変えて再び幻海の方にとんでくる。彼女はそれを片手で受け止めそのままかき消した。
「おお!!できたー!!」
横島が感動を示す。ちなみに今、使った霊光操弾は放った霊弾を自由にコントロールできる霊光波動拳の割と初歩の技である。当初は霊光操気弾と名付ける予定だったのだが、何故かその名をつけると非常にへタレた技になる気がしたので霊光波動拳の先代が今の名前に決定したという言われがある。
「感動してるとこ悪いけどね。そろそろ再開するよ」
「あっ、はい」
答え、構える。そして次の手として、横島は文珠を一つ生み出しそれに“瞬”の文字を刻みこむとさらに一つの文珠を用意する。
「賭けにでるつもりだね?来な。」
幻海が構えをとる。感覚まで引き上げるには“超”“加”“速”として3文字の文珠が必要だが、ただ短距離を高速移動するだけなら“瞬”の文字一文字でもいける。そして横島は“瞬”の文字を発動させ、次の瞬間には幻海のすぐ目の前にまで移動している。そこで二つ目の文珠“速”を発動させた。
「これでどうじゃああああああ!!!」
“速”の効果で2段加速する。そして、栄光の手を身に纏い拳を撃ちつけた。その一撃に幻海が弾き飛び、そして彼女が壁に叩きつけられ、床に落ちた。
「や、やば!!もしかしてやりすぎたか!?」
それを見て慌てて駆け寄る横島、すると、その瞬間、幻海は起き上がり、横島にボディーブローを見舞った。
「油断大敵だよ。とはいえ、こっちも、ちぃとばかし効いたがね」
腹をおさえ、うずくまる横島に対し、幻海も僅かによろける。そして、体勢を立て直すと気を取り直したように言う。
「とりあえず、あたしに一撃与えたから合格だ。お前に渡すものがあるついてきな」
「渡すもの、何すか?」
「あんたを強くするものさ。今のあんたが敵のボスと直接戦えば万に一つどころか一億に一つも無い勝ち目はないだろう。けど、まあ、こいつと文珠を組み合わせれば万に一つ位の勝算は生まれるだろうよ」
そうして、横島を無理やり立たせ、引っ張る。同時に、今までちゃっかり試合を見物していたタマモも二人についてきた。そして、目的の場所に行く前に寄り道をする。
「っと、その前にあの子達の様子を見ておくか」
そう言って、おキヌの様子を見に行く。すると、そこではちょうどおキヌが契約を成立させた所だった。
「あっ、横島さん、幻海さん。私やりました!!」
二人の姿を見てガッツポーズを決めるおキヌ。しかし、そこで肩の傷の痛みに顔をしかめた。
「おキヌちゃん!! 怪我してるの!?」
それをみて慌てて駆け寄り、ヒーリングをかける横島。その効果で傷が塞がっていく。
「ありがとうございます。昔と立場が逆になっちゃいましたね。昔は私が治す方だったのに・・・」
それに対しお礼を言って笑顔を浮かべるおキヌ。前のように自分が役立たずだと感じる事はなかった。それは、修業により、力を得た事に対する自信の表れでもある。
「よくやったね。それじゃあ、今度は雪之丞の方を見に行くか」
傷の手当てが終えると今度は雪之丞の所へ4人は移動した。そこで、彼は石を割り続けていた。
「くそっ、うまくいかねえ」
「まあ、そうさね。そいつは習得に1月はかかるもんだ。まあ、できるようになるまで、毎日やるんだね」
ぼやく雪之丞に対し近づくと共に言葉をかける幻海。その言葉に気付き、横島達の方を見る。どうやら、修業に熱中していて接近に気付いていなかったらしい。
「お前ら!? もう、そっちは終わったのか」
「おー、何とかな」
「はい。クマタカ」
腰に手を当てて威張っていう横島とクマタカを見せるおキヌ。雪之丞はそれを見てちょっと罰の悪そうな表情を見せた。
「くそっ、終わってねえのは俺だけかよ」
「いや、横島にはまだ試練が残ってるよ」
雪之丞の愚痴に幻海が答える。その言葉にその場に居た全員が彼女の方を見る。特に、横島にとっては寝耳に水の事だった。
「ちょ、ちょっと幻海さん、聞いてないっすよ!?」
「さっき、渡すものがあるっていっただろ。そいつの事だよ。受け入れられればあんたは大幅に強くなる。その代わり駄目なら死ぬ」
「し、死ぬ!?」
その言葉に横島は青くなる。幻海は口調を変えずに続けた。
「嫌っていうなら無理強いする気はないよ。けど、ここで試験を受けなければ今度の戦い勝ち抜ける確率は大幅に下がる。どうする?」
「そ。そりゃもちろん・・・・・」
やめておく、そう言おうとして横島は言葉が出なかった。彼の頭の中に色々な言葉が蘇る。
『男のコでしょっ!?』
『美神さんは横島さんが守らなきゃ・・!!』
『この場にいていいのは戦士のみ!!』
『後悔はしてからじゃ遅いよ』
そして、横島は答えた。
「うっす、やります」
(後書き)
ルシオラの出番が遅れました。って、いうかどこでだそう・・・・・・。