放課後の屋上。
横島と雪乃は赤く染まった景色の中、ベンチに腰掛けていた。
いつの時でも、この二人の喧嘩は些細なことだった。
雪之丞に買い置きのカップ麺を全て(六個)食われた横島が激怒し、殴り合いに発展する、だとか、
横島に彼女の事で冷やかされた(デートを尾行しぶち壊す)雪之丞が憤激し、罵り合って殴りあう事になったりだとか……。
今回もまた、些細なこと、馬鹿みたいなことだった。
ただ、今回は男同士の喧嘩じゃなくって、男と女の喧嘩だっただけ。
だから解決方法も簡単、互いにに動けなくなる迄、拳で語り合うわけじゃなく、ただ謝ればいい。
互いに、喧嘩したことに後悔しているなら、謝って、何でこんなことに成ったのか、話せばいい。
言葉という人類の特殊能力を、今、使わなくて、いつ使うというのだ。
あっけないものだった。
横島に屋上に呼び出された雪乃。
雪乃を屋上に呼び出した横島。
向かい合うと、互いに謝りあう。
謝罪、謝罪、謝罪の応酬。
傍から見ていてかなり滑稽な光景だ。
ぺこぺこと、まるで水を飲む鳥のおもちゃのよう。
そして、自分達が相当滑稽な状態にいることに気が付き、互いに笑いあう。
何で喧嘩したのか、とか、そんな事は吹っ飛んでしまったようだ。
「ごめん、俺が馬鹿だった」
「ううん、こっちこそ、ほっぺ、ごめんね?」
なんて事は無い、久しぶりに会って、横島は雪乃の変化に戸惑い暴走しただけ、雪乃は戸惑っている横島に驚いただけだ。
こんなの喧嘩でも何でも無かったのだ。
ああ、馬鹿ップル……。
私は大きく溜息を吐いた。
心配して見に来ること無かったなー、なんて呟きながら雪乃達の死角になるところに腰掛け、メディアプレーヤーのボリュームを上げた。
ここから先は二人の会話、野次馬が聞いて良いもんじゃない。
それに……、
「いきなり、おっぱじめられても困るしね」
イヤホンからは軽快なギターの音色が流れていた。
そのギターのコードを頭の中でなぞりながら、私は目を閉じた。
「雪乃、横島、早く帰れよ?私が帰れなくなる」
瀬戸のどかの、切実な願いだった。
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
第七話
ベンチに座る横島と雪乃、二人の間には、人が二人くらい入れそうな間がぽっかりと開いていた。
それは、男と女のキョリを示しているようで……。
「私がこの世界に来たのが何時だったのか話したよね?」
雪乃が話し始める。
この世界で、母親を救った時のこと、言葉遣いとか、色々と母親に注意されて、矯正された事、中国の学校のこと。
これからの事を考えて毎日トレーニングをしている、だとか。
「もう、私を知ってる人と会えないって思った時、凄く、凄く悲しかった」
「雪之丞を知っている人は自分だけ、だから、雪之丞であった事を忘れて、雪乃として生きてこようと思ったんだ」
「だから、横島が、雪之丞を知っている横島が居てくれて、凄く嬉しいんだ」
「もう、雪之丞には戻れないけど、横島のおかげで、雪之丞だった頃の自分を殺さなくて済むから……」
「その、ありがとう、横島」
雪乃はそう言って笑う、屈託が無い、心のままの笑顔だった。
「そんな、礼を言われるような「ありがとう」」
「おいおい、ゆきのじょ「ありがとう!」」
「あ・り・が・と・う!!」
「ど、どういたしまして……」
横島にはそう言うしか残されていなかった。
「ありがとうって、言わせておいてよ、私が勝手に感謝してるだけだから」
雪乃はそう言ってクスクスと笑った。
「横島は何時こっちに来たの?」
雪之丞は首を傾げる。
「ああ、一昨日だ、気が付いたら昔の美神さんの事務所の前だった」
「美神さんの所が横島のターニングポイントだったんだ……、じゃあ」
「そ、だから、美神さんの所じゃ、働いてないんだ」
「へぇ~」
いきなり雪之丞の機嫌が良くなる、はて?何か面白いこと言っただろうか?
「もうあんな時給で扱き使われるのは嫌だしな」
「へぇ~♪」
あれ?雪之丞さん?凄い機嫌いいですよ?尻尾があったら確実にブンブン振り回してますよ?
「じゃあ、バイト、してないんだ」
なんで満面の笑みっすか?
「お金、無いんだ」
うぐ、痛いところを……!
「お昼、食べてる?」
うぅ、そう言えば二日間昼飯は水だ。
小竜姫様に言えば嬉々として作ってくれそうだし、小遣いとかいって小判もくれそうだ。
しかし、流石にそんなに迷惑をかけるわけにはいかなかったので、言ってなかったのだ。
激しく後悔しているが……。
「じゃ、じゃあ、さ」
??
「わ、私が、そ、その、作って来てあげようか?」
ぼひゅん!雪之丞は、頬をりんごのように赤く染めながら、そう言った。
??誰が、なんだって?何を作るって?
「わ、私が!お、お弁当……、横島に」
雪之丞が?弁当??俺に???
「あ、ママの分も私が作ってるから、その、ついで!ついでだよ?」
「二人分も三人分も変わんないし!それにいつも量作っちゃうから余っちゃうし!」
わたわたと、両手を振って、慌てだす。
なんていうか、その、小動物チックだ……、ハムスターとか、そんな感じ。
こ、これは、か、かわい……、川相昌弘!犠打世界記録たっせーい!!(いつの話しだ!いつの!)
いかん!雪之丞!この女の子は雪之丞なの!!
「い、いらないなら、別にいいんだけど……」
ああ!そんないきなり泣きそうにならんといて!!俺が悪かった!!俺が悪かったから!!
「要る!うわ~!すげぇ嬉しい!!手作り弁当だ!ひゃっほう!!こいつは春からついてるぜ!!」
断る理由もまったく無いしな、ただ作ってくれるって言うのに驚いただけ、そう、驚いただけだ。
そう言うと雪之丞は満面の笑顔になった。
「よ、良かった、じゃ、じゃあさ、おかずのリクエストとか、あるかな?」
雪乃はポケットからピンク色の手帳を取り出して、メモを取る。
リクエスト?別に雪之丞達の残りを詰めて貰うんだから別に無理しなくっていいんだけど……。
「い、いいの!ふ、二人の好きなものだけにしちゃうと偏っちゃうから、横島の好きなものも参考にするの」
へぇ~、考えてるんだな~、本当に女の子してる、こんな女の子らしい女の子って結構希少だよな~。
「!?」
あれ?さらに赤くなっちまったぞ?まるで焼けた鉄みたいだ。
あー、雪之丞とか関係なくなってきそうだ、だめだ、すごい、かわいい……。
「……、か、かわいい……?」
あれ?なんで雪之丞は俺が考えてることがわかるんだ?
「あは、かわいい……?」
赤い頬に手を当て、身悶える雪之丞。
も、もしかして??
口に?
「出してる?」
「……、うん」
「いつから?」
「えと、バイトの話くらいから?」
…………、って。
「ほとんどやないか~~~~!!!」
頭を抱えて転げまわる。
ああーーーー俺のアホーーーー!!!
あはは、要らんことを口走って折檻されるって言うのはあっても、そのまま会話が続くってのは初だね~。
あはは~~~~~。
「えと、その、聞こえないところもあったから……気にしないで?」
「肝心なところが聞こえてるやんか~~~~!!!」
「あは、可愛いって言われた」
御機嫌である。
「私ね、憧れてたんだ、学校に……」
「学校に?何で?」
「前は、中学校にも行けなかったから」
「あ……、そうか」
「うん、でね、羨ましかったんだ」
「羨ましい?」
「皆で集まって、飲みに行った時ってさ、絶対、高校の時の話になってさ」
「……、そ、そうかな?」
「そうなの、ピートと、タイガーが、羨ましかった、いつも、私も高校に行ってたらって、思ってた。皆と共通の思い出が欲しかったの」
「そっか……」
「だから……」
「じゃあ、これから……」
「へっ?」
「これから、一緒の思い出を作ろう」
「……」
「これから、ピートや、タイガーが転校して来るからさ、あいつらと一緒にさ、馬鹿やろうぜ!」
「いっぱいあるぜ!体育祭とか、文化祭とか!二年だから修学旅行だってある!」
「だから、一緒に、思い出を作ろう!」
「ぷっ!ふふ!ふふふ!!」
「おいおい、何か可笑しい事言ったかな?」
「だ、だって、だってさ!ふふ!なんか、プ、プロポーズみたい」
そこまで言って雪之丞は顔を赤くした。
「な、何言ってんだよ」
多分俺も赤いだろう。
それが可笑しくて、二人して顔を見合わせて、笑ってしまった。
二人の笑い声が響く屋上。
「あ~、もう六時半だよ……、早く帰んないかな、あの馬鹿ップル……」
「……トイレ、行ってから来れば良かったなぁ」
一人、涙を流す影があったそうな……。
あとがき。
駄目駄目だー。
女の子と口喧嘩になったことなんて無いからわかんねー。
おいらの周りにいる女って姉ちゃんくらいだしー。
姉ちゃんには絶対服従だから喧嘩になんて殆どならないし。
二人の仲直りも、謝り倒すしか出来ませんでした。
待たせて肩透かしになってしまった事を深くお詫びします。
こんな早い段階で雪乃と横島がすきすきすき~!な展開は流石に変だし。
七話で雪乃とくっついちゃったら終わっちゃう(涙)
そういえば、東鳩2のPC版やってます。
久しぶりに、主人公に殺意を抱きました。
双子とメイドロボとお風呂で(どっかーーーーーーん!!)!?
それにメイドロボは後二体増える予定??
つまり……、いち、にぃ、さん、よん……(どっかーーーーーーーん!!)!?
なんてうらやま……、男の敵!!
恋愛敗北者に愛の手を!!そういう奴がいるから敗北者達は難民になるんだ!!
あ、あとがき関係無いっすね。
拓坊様、流河様、ゆん様、ラゴス様、白銀様、内海一弘様、BD様。
感想有難うございます。
今回は皆様の期待に答えられるような話であるか甚だ疑問ですが、頑張ってみました。
次回も気合入れて行こうと思っている所存であります。
次回!
GS横島!!極楽トンボ大作戦!!第八話!!
『血が降る帰り道!「師匠!そんな物騒なもの振りかぶらないで!!」』(あながち冗談でもない)に!?
バッチコ~イ!!