「……、あいつ、今、雪之丞って……」
雪乃はそう呟き、自分の拳を見る。
血、血が出ていた。
自分の拳は霊力で守られていた、その筈だ。
何故、血が出る?
答えは簡単だった。
横島の顔面を捉える寸前の何かを貫くような感触、何かが拳を遮ったのだ。
「……サイキック・ソーサー」
間違いない、あいつは、横島忠夫だ。
そう、俺の知っている、横島忠夫だ。
雪之丞、否、雪乃は確信した。
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
第四話
正直、雪乃は悩んでいた。
おそらく、横島は、時間が戻った原因や、理由を知っている。
それを横島に聞くのは簡単だ。
私の事を話せばいい、私が誰なのかを。
自分が『伊達雪之丞』であることを証明するのは容易なことだからだ。
さて、何故悩む必要があるのか?
それは、現在、俺は『伊達雪之丞』ではなく、『伊達雪乃』、女なのだ。
確実に笑う、間違いない、腹を抱えて。
「ひ~!腹痛ぇ!!お前ホントにユッキーか!?」こんな感じだろう。
顔が熱くなる、恥ずかしい。
正直この姿を一番見られたくなかったのが、横島だったのだ。
ああ、神様、私は何か悪い事をしたのでしょうか?
ママ、私、泣きそう。
「ん~……」
そんなことを思っているうちに横島が目を覚ましそうだ。
はあ、と、一つ溜息をついた。
腹を括る時がきたようだ。
冷静に、そう冷静に。
びーくーる、落ち着け、俺。
い、いつも通りで良いんだ、いつもの伊達雪之丞で。
頬が痛い、ここまで痛いのは久しぶり、気絶したのも久しぶり、である。
何が起こったのか?正直考えるの億劫だった、頭が働かない。
たしか……。
「起きたか」
考えようと思ったとき、上から声がした。
鈴が踊るような、可愛らしい声だった、口調はぶっきらぼうだったが。
「大丈夫か?」
ドキリ、とした。
凄く、可愛い。
自分のボキャブラリーでは表現できない程に。
そんな少女が自分を見下ろしていた。
「あ、だ、大丈夫」
そんな言葉だけをどうにかこうにか、喉から捻り出した。
緊張している自分が可笑しかった。
これまで美少女、美女には中々に縁があり、正直、免疫が付いていると思っていた。
それなのに、彼女は大きく心を揺さぶる。
しかし、それと同時に疑問と、違和感が浮かんできた。
疑問は、先程の一撃。
覚えがあった、あの衝撃に、角度の入り方、そして、霊力の匂い。
違和感は、今、この瞬間。
俺は、彼女を、知っている?
ちら、と、凄い考えが脳裏を横切る。
違う、あいつは男で、仮に女装したところでこんなに美人にはなる訳が、無い。
しかし、
「ゆ、ゆきの、じょう??」
口に出さずには居られなかった。
「~~っ!!」
驚いたように目を見張る雪之丞(仮)
ああ、その反応だけで十分だ。
この女の子は『伊達雪之丞』だ。
「ゆ、ゆきの、じょう??」
横島が呟いた。
「~~っ!!」
正直驚いた、まさか此方から正体を明かす前に見破られるとは……。
……って、ば、ばれた~!!
頬に血液が上がってくるのが分かる、おそらく俺の顔はりんごの様だろう。
ああ、神様なんて、いるんだけど、いないんだ……。
「本当に、雪之丞なのか?」
変な質問だった、女の子に君は男の子だね?と、言うような質問。
本当だったら、笑い飛ばされても可笑しくない。
はっきり言って、否定して欲しかった。
確信を打ち砕いて欲しかった。
しかし、彼女は。
「ああ、久しぶりだな、横島」
しっかりと肯定してしまった。
言葉が出なかった、目の前に共に何度も死線を潜り抜けた親友の変わり果てた姿。
それも、その姿が露見して物凄く恥ずかしいのだろうか、口元に手を当て、頬を紅く染めている。
こ、これは……、か、かわい……。
っ!ごほんごほん!
いかんいかん!!こ、こいつは雪之丞なんだ!雪之丞!!
男なんだ!否!漢だ!!
「よ、横島?」
横島は何かを振りほどくように頭をブンブンと振り始めた。
あ、そ、そんなことすると!
「ちょ!ちょっと!駄目!きゃ!」
「!?」
雪之丞の悲鳴で我に返る。
上から見下ろす雪之丞は此方を睨んでいる。
上から?雪之丞がどうやって?
そこで気が付く、後頭部が柔らかい。
そして雪之丞を見上げると。
「や、山」
どうして今まで目に入らなかったのか、自己主張の激しい二つの山、既に丘ではない。
「あ」
状況に気が付く、そう、この状態は。
「ひざまくら?」
そう、今、俺は雪之丞に膝枕されていたのだ。
「~~~~っ!!!」
雪乃は今にも、恥ずかしさで爆発しそうだった。
それを堪えたのは、確実に母の教育の賜物だった。
「女性は常に優しく、優雅であれ」
女として過ごした数年間がそれを押し留めた。
もちろん、この「ひざまくら」という状況も、彼女の無意識だったのだろう。
う~ん、大和撫子はいいな!……元男だけど。
「き、気が付いたんだったら、さっさとどけよ」
「す、すまん!」
横島は飛びのいた。
「「…………」」
そして訪れる長い沈黙。
気まずい、穴があるなら入りたい、そんな空気だった。
それを破ったのは、
『き~んこ~んか~んこ~ん!き~んこ~んか~んこ~ん!』
遠くで聞こえる学校の予鈴の鐘の音であった。
ハッと我に返る。
「「や、やば!!」」
「「遅刻だぁ!!」」
二人は風になった。
そして……。
「親の仕事の都合で、中国からこっちに引っ越して来ました、伊達雪乃です、宜しくお願いします」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
教室は大歓声、拍手喝采、万歳三唱、と、物凄い大歓迎だった。
そして始まる、質問タイム。
「何処から来たの?」「北京に」
「中国語話せるんだ?」「住んでいたから当然話せるわ」
「趣味は?」「と、トレーニングかな?」
「うわぁ、髪の毛さらさら~、シャンプーとリンスって何使ってるの?」「えと、知らない、ママが買って来たの使ってるだけだから」
「こ、恋人はいますか!」「い、いないけど」
「た、タイプの男は?」「そ、その、や、優しくて、守ってくれそうな人」
「す、スリーサイズは?」「上から……って、言えるか!」
「結婚を前提とした交際を!」「ご、ごめんなさい」
そして次の質問の瞬間、教室の空気は一変する。
「じゃあ、この教室の中で恋人にするなら誰?」
し~~~~~ん
沈黙が世界を包み込む、まるで音がなくなった世界。
今まで騒がしかった皆が、雪乃の答えを待っている。
「へ?へ?」
雪乃は混乱していた。
質問の意味はもちろん理解していた、即答しようとしていた。
『初対面じゃわかりません』
そう言うつもりだった。
この沈黙が無ければ。
男共は目を血走らせ、女子は目をランランと輝かせる。
正直、これは怖い。
雪乃は助けを求めるように目をキョロキョロと彷徨わせた。
その時、一人の男子生徒と目が合った。
横島忠夫だ。
一人だけ席についてニヤニヤとこっちを見ている。
どうやら、あたふたする私をみて、笑っているようだった。
むかついた。
目が合ったので、目で会話を交わす。
同じ死線を潜り抜けた中だ、そんなことは造作も無かった。
『おい!助けろよ』
『無理だろ、答えてやれよ』
『てめぇ……』
『恋人にするなら、だろ?しなきゃいけないわけじゃないぜ?』
『人事だと思いやがって……!』
『人事だろうに』
『……オボエテロョ?』
「じゃ、じゃあ」
意を決して、こう答える。
「あそこの彼で」
横島を指差して。
「「「「「ええええええええええええええっ!?」」」」」
くくく、これで人事じゃないだろう?
ちら、と横島を見る。
横島は頭を抱えていた。
奴は頭を机につけたまま、手を頭の上で動かした。
ブロックサインだ。
馬鹿、墓穴を、掘りやがって。
それから先は分からなかった、何故か?
それは、
「彼だけはよすんだ!伊達さん!」
「危ないわ!彼は獰猛な狼なのよ!?」
「発言の撤回を!危険発言の撤回を!!」
「男はおーかみなのっよ~♪気をつけなさっい~♪」
「雪乃タソ、かむばぁぁぁっく!!」
等、口々に叫びだしたからだ。
結局、事態が収まったのは、二時間目が過ぎた頃だった。
「つ、疲れた」
全部、横島のせいだと思った、怨んでやる。
後書きという名の懺悔室。
はい、横島と雪之丞の再会でした。
前回は雪乃との出会い、と。
突っ込みどころがいっぱいのこの作品も四話目、除霊も入れたほうがいいとは思うのですが。
無理です。
まだもう少しどたばたラブコメディが続きます。
時には喧嘩もするけれど、最後は笑ってバイバイビー。
そんな感じです。
フェイカー様、Rays様、獅皇様、KS様、ジェミナス様、ゆん様、くま様、拓坊様、BLUE様。
感想ありがとうございました。
励みになります、がんばるぞー。
ちょっとだけ、ネタばれ。
二十六個の呪い……、いつかのマスクドライダーも二十と少しの秘密、と称して秘密を抱えていましたね。
全部公開されることはありませんでしたがね。
性転換キャラ、ですか。
もう出て来ません。
断言します。
出しません。
必要ないです。
一人で十分。
ホントダヨ?
正直、焦っているのです、私。
自分、以前に違うペンネームで違う作品のssを執筆しておりました。
二作品目を公開した翌日の事です。
「○○の書いたssって、性別転換キャラ多いよな~、お前好きだなーこういうの」
衝撃でした。アルベルトです。
天地が開闢して乖離しそうでした。
読み返してみるとあら不思議、二作とも性別転換キャラヒロイン??
おかしなこともあるものです。
ちなみに今作三作目。
懲りてません。
ところで、この作品はリハビリで始めたので、少々梃子摺っています。
ネタ、ください。
おっと、後書きが長くなりすぎましたね。
では、性別転換バッチコ~イ!!