コントローラーを握る手に汗がにじむ。
両手親指は小刻みに動き、それと同時に体もわずかに動く。
目は画面に釘付け、口は半開きである。
画面の中では操作されたキャラクターが軽快に動き、立ちはだかる敵を踏みつけていた。
一見ゲームに集中しているかのように見える、が、頭では別のことを考えていた。
あの小竜姫が弟子をとった。
自分の弟子がいきなり「私の弟子です」と語尾にハートを付けて紹介しに来たのでコントローラーを落としてしまった。
あの堅物の小竜姫が、弟子を、それに語尾にハートである。
おそらく奴を知っているものは全員同じような反応をするだろう。
そう、何度も言うが小竜姫が弟子をとったのだ。
自分には孫弟子にあたるわけだが、中々に素質がある、目に力のある少年だった。
正直、おもしろい、と思った。
小竜姫は気が付いているのだろうか?
そもそも、あの小年は人ではない。
どちらかと言うとこちら、神族よりではあるようだが……。
おそらく人だったが何かがあって転生したのだろう。
有り得る話だ、彼は霊基構造をごっそりと失うような怪我をしたのだ、
そして、神族か魔族が霊基構造を代用したのだろう、自らの命を投げだして。
彼を生かすために。
転生したならば環境は大切だ。
転生後の環境によってニュートラルな属性から神か魔に傾くのだから。
何故だろう、そんな考えが頭に浮かんできた。
そんなライトノベルや漫画のようなこと、聞いたことも無い筈だ。
「あの少年を育てよ、と、でも言うのか」
斉天大聖は、いつか聞いた話を思い出した。
[世界は時折語りかける、人を神を魔を、導くように。
時々考えもしなかった事が頭に浮かんでくることがあるでしょう?
そんな時は、世界が語りかけて来ているのですよ]
おそらく、こういう事なのだろう、そう感じた。
現実に戻る、画面ではピンク色のドレスを着たお姫様
と赤い配水管工が抱き合っていた。
「む、いつのまに……」
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
第三話
さて、妙神山に住まうことになって二日目。
俺は通学路を走っていた。
何故、学校に通えるかというと、学校に行くために妙神山からアパートまで空間を繋げて貰ったのだ。
正直、ずっと妙神山で修行しているほうが良いのだが、不登校で退学は拙い。
そもそも、前回、妙神山での修行の為に、学校を辞めており、おかんの手による折檻で地獄を見たのだ、流石にあれは二度と御免である。
「と、言うわけで走っている」
何故走るのか?もちろんこれも修行、体作りである。
実は遅刻寸前であるなんて事は、無い。まったく無い。本当だぞ?
何故、パンを咥えているのか?特に意味はない、デフォだ、登校時に走るのであれば、パンを咥える、これはデフォルトなのだ。
「パンにはチーズだろ、やっぱ。」
パンにチーズをはさむのもデフォだ。
「よし、スライスカーブ!!」
俺は、丁字路を素晴らしく凶悪なスピードで攻略しに行った。
今日から新しい学校での生活が始まる。
今日は職員室に行かなきゃだから、早めに出なきゃ!
そう、早めに出なきゃいけなかったのだ。
「うわ!もうこんな時間!ご飯食べてる余裕ないよ!!」
そんなこんなで、私はパンを咥えて走り出した。
「やっぱり、ピーナッツバターだね」
食べながら走ってもかなりのスピード、当たり前だ、毎日鍛えているのだから。
これからの戦いに備えて。
「よし!加速装置!!」
本気で急いでいた私は全力で道を駆け出した。
その結果。
「どわぁあ!!?」
「うひゃあ!!?」
どんがらがっしゃ~~~~ん
二人して盛大に吹っ飛んだ。
そして、空を舞う二つ折りのパンが二枚。
「「あ~!!俺(私)のパン!!」」
痛みは感じないのか、二人ともムクリと起き上がり、
「とぅっ!」「たぁっ」
ジャンプ!!
はしっ!
パンをキャッチ。
「「あぐ」」
同時にほうばる。
「「????」」
そして、異変。
「「あ~~~~~!!」」
絶叫!!
「俺のチーズパンがピーナッツバターパンになってる!!」
「私のピーナッツバターパンがチーズパンになってる!!」
「「…………」」
長い沈黙。
「こ、このパン君の?」
「こ、このパンあんたの?」
そう、彼等はパンを食べて走っていた、一方はチーズを挟んだチーズパン、もう一方はピーナッツバターを挟んだピーナッツバターパン。
そして、衝突。パンは衝撃に耐え切れず宙を舞う。
彼等は衝突の衝撃で舞い上がったパンを、ジャンプ一閃、空中で掴み、そのままほうばる。
結果、彼のチーズパンは彼女に、彼女のピーナッツバターパンは彼の口に入ったのだった。
そうなのだ!!これは!!
「「か、間接キス!?」」
ラブコメの王道。
パンを咥え登校時の出会い頭の衝突、そして間接キッス。
伊達雪乃、26の呪い、の一つ。
(横島限定)ラブコメ体質が発動した瞬間だった。
私、伊達雪乃は混乱していた。
人とぶつかった衝撃、宙に浮くパン、取って、ほうばった。
味が違う。
チーズ味だった。
つまり、ぶつかった、人の、パン。
間接キス。
カッと熱くなる頬を無視し、キッと容疑者を睨んだ。
「……横島?」
そこに居たのは間違いなく、横島忠夫だった。
俺、横島忠夫は混乱していた。
誰かとぶつかった衝撃、宙に舞うパン、取って、ほうばった。
味が違う。
バターピーナッツ味だった。
つまり、ぶつかった、人の、パン。
間接キス。
ああ、悲鳴をあげられて殴られるんだろうなあ……、諦めて、謝ろう、そう思った。
「……あ」
二の句が告げなかった、そこに居るのは天使だと思ったからだった。
これが、横島忠夫と伊達雪乃の出会いだった。
ぷちん。
何かが切れた音がする。
「よ、よこしまぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
咆哮と同時に完璧な踏み込み、盛大な音を立ててアスファルトが、陥没する。
腰を捻る、ぎゅるん、そんな音が聞こえた。
そして、肩から捻りこみ、否、抉りこむ様に。
足から腰へ、腰から肩、肩から肘、それは拳に集まる。
なんて芸術的な、運動エネルギーの譲渡、そして体捌き。
ぎゅおぉぉぉぉっ!
ありえない音がする。
まるで、工事用のドリルが孔を穿つ様な。
それは、空気を切り裂き、否、空気に孔を開け、全てを破砕し貫く、渾身の一撃。
ばぁぐぅぅぅぅぅぅん!
「うぎゃあああああああっ!!」
錐揉み、吹き飛ぶ横島。
流石、『伊達』である。
素晴らしい、コークスクリューパンチだ。
朦朧とする意識の中で、横島は。
「……いいパンチだったぜ、……雪之丞」
昔、親友を怒らせた時に貰ったプレゼント(パンチ)を思い出し、
べしゃ。
意識を手放した。
「……、あいつ、今、雪之丞って……」
後で書く、と書いて、後書き。
雪乃の口調、突っ込まれる前に言いますが、一人称や、その他バラバラですが仕様です。
男の自分と、女の自分を、両方意識してますから、そうなっています。
これからの話しによって、どちらかの言葉遣いに固定される予定です。
まあ、決まってますが、ね?
拓坊様、KS様、ゆん様、ジェミナス様、白銀様、法師陰陽師様、秋瑠様、ヒナユキ様、眞様。
皆様感想有り難うございます、これを糧とし、今後も精進致しますので、今後とも宜しくお願い致します。
さて、合い言葉になってしまった様なので・・・・・・。
バッチコーイ!!