インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「妙神山のただおくん36(GS)」

のりまさ (2005-12-11 01:42/2005-12-11 13:20)
BACK< >NEXT

<ルシオラ>
「ヨコシマ、一緒に帰りましょう」


 授業も終わり、教室ではみんなが放課後の予定について話あったりしている。

 友達と遊びにいく者、学習塾に行く者、まっすぐ家に帰るもの。様々だ。ちょっと前までは私はいつもヨコシマと一緒にまっすぐ妙神山に帰っていたんだけど……。


「ごめん、ルシオラ。悪いけど今日もおキヌちゃんと二人で帰ってくれる? 寄るところあるんだ」


「また? ここ最近ずっとそれじゃない。偶には一緒に帰りましょうよ」


 遊園地でのメドーサの一軒から、ヨコシマは私と一緒に帰ろうとしない。いつも伊達君たち男子とどこかへ出かけ、門限ぎりぎりに疲労困憊で帰ってくる。

 何か悩みでもあるのだろうか?

 でもヨコシマは何も話してくれない。私は小鳩ちゃんを除けば家では一番ヨコシマとの付き合いが短いから何も話してくれないのは仕方ないのかもしれないけど、それは少し寂しいことだ。


「ねえ、ヨコシマはいつもどこに行ってるの? 私は行っちゃ駄目なの?」


「うん、秘密だからね」


「おーい、ヨコシマ。そろそろ行くぞ」


「ああ、分かった。じゃね、ルシオラ」


「あ、ちょっと待っ……」


 私の制止も聞かずに、ヨコシマは風のように教室を去っていってしまった。


 ……ヨコシマの馬鹿。


妙神山のただおくん〜来訪者 前編〜


<心眼>
「どうだ、横島?」


「駄目だ、やっぱり栄光の手はこれ以上進化のしようがない。少なくとも今の俺のレベルじゃ無理だ。そっちは?」


「こっちも大して変らねえ。ママ装術はやっぱり鎧っつう概念があるからか、それとも魔装術と違って人間の霊体を元にしているからか、どっちかもしくは両方かは知らねえが、変化も難しいし強化も上手くできねえな」


「うむ、魔物の霊体は人間のそれよりも柔軟であるからな。そもそも人間の霊体で魔装術を使うということに無理があるのだ」


 とある森の中で相談しあっている主と雪乃丞殿に、我が口をはさんだ。
 主たちはあの日を境に小竜姫様や雪乃丞殿の母親たちには秘密で強くなるための特訓をしている。まあ、それも仕方ないといえば仕方ない。今まで小竜姫様たち以外では年上にも遅れを取らなかった自分たちが、完敗してしまったのだから。
 思うに主はある意味で増長していたのだろう。実際にちゃんとした戦いで負けたことのある相手は小竜姫様や斉天大聖老子ぐらい。六道女学院でもトップとされている冥子殿は昔自分が教えを施した人物であるし、美神殿には負けはしたもののあの勝敗はあまり実力は関係なかった。
 雪乃丞殿は自分の相手をできる数少ない同年代ではあるが、決して遅れを取るものではない。


 そういう環境であれば思春期の中学生が調子に乗るのもおかしい話ではないというものだ。


「しかし、なんでまた急にこんな特訓してんだ? 学校の授業だけじゃ足りないってか?」


「それは秘密だよ、陰念。悪いけどね」


「ああ、ちょっと言えねえな。付き合わせといて勝手だが」


 陰念殿と勘九朗殿は色々と主たちを手伝ってくれている。陰念殿の霊力は他の三人と比べて低いものの、身体中から霊波刀を出すという面白い発想の技を持っているし、勘九朗殿は霊能技術がこの中では一番高い。


「……………………」


「ん、どうしたの勘九朗? さっきからずっと黙っているけど、調子でも悪いの?」


「そういや、そうだな。いつもはいらんことまでぺらぺら喋るくせによ。はは」


「……そうね、ちょと調子が悪いのかもしれないわね。最近ちょっと疲れが溜まってるのよ」


 冗談めかしていった雪乃丞殿だが、勘九朗殿が本当に顔色が悪いのを見て、その笑みを消した。


「ごめん、勘九朗。調子が悪いのに無理やり付き合わせて。今日はもうやめようか?」


「悪かったな、気付かなくて。そうだな、今日は終わりにして家まで送ってやるよ」


 主が素直に、雪乃丞殿はちょっとぶっきらぼうに謝る。思春期でもこうも素直になれるのは美点であるな。


「……ふふ、でもいいのかしら? 雪乃丞に送ってもらったら、そのまま送り狼になられるかもしれないわよ?」


「誰がなるか! ったく、人がせっかく心配してやってんのによ」


「よ、よし! じゃあ俺は横島を送っていこう!」


「いや、俺は疲れてないから」


 沈みかけた空気が勘九朗殿のおふざけ(半分本気だが)、それを受けた雪乃丞殿の激しい突っ込み、陰念殿の怪しい発言(かなり本気)とそれへの主の冷静な突っ込みで元の空気に戻る。
 女子高に四人だけという(一人まだ入院しているらしいが)特殊な空間が、彼等に強い連帯意識を持たせているのだろうか、四人は仲がいい。まあ約二名違う意味で仲がいい奴がいるが。


「そうね、お言葉に甘えて今日はお開きにしましょうか。せっかく雪乃丞が送ってくれるっていうんだしね」


「ったく、初めからそう言えよな」


 だがその日、勘九朗殿だけがその沈んだ顔色を戻すことはなかった。


<忠夫>
 俺は弱い。あの日、あの魔族に完膚なきまでに叩きのめされてそれを肌まで感じた。


『俺がお前を助けるんだ! 兄貴の俺が、妹のお前を!』


 あの時、力を暴走させかけたタマモに言ったあの言葉。

 決して嘘をいったつもりじゃない。

 でも守ることはできなかった。

 守ったのは小竜姉ちゃんたちで、守られたのは俺の方。

 強くなるために六道女学院に行ったのに、実際には強くなどなってはいなかった。自分が少しは強くなったなどと思ったのは傲慢だった。たった一人の妹も守れないばかりか、その妹に助けられそうにすらなったのだから。


 だから同じ思いを抱いた雪乃丞と特訓をしているのだが……


 結論は今の俺たちでこれ以上の身体能力及び霊力の底上げは無理だということだけだった。
肉体的にも霊能的にも成長期の今、無理なトレーニングは身体を壊すだけだし、今は何もしなくてもそれらは勝手に伸びていく時期だ。それでも成長期で早めに霊能力を上げたいというものが六道女学院中等部に入るけど、実際に霊能力を鍛える授業は少なめで、ほとんどは知識の補充がメインだ。

 だから今の俺たちは勝手に能力は上がっていくけど、同時に強くなるには時間に任せるしかないということだ。
 妙神山の修行には短期間で一気にレベルアップさせてくれる修行があるって聞いたことがあるけどそれをするには小竜姉ちゃんの許可がいるからできない。元々その修行はある程度力をつけて伸びにくくなった時に受けるものだというし、今の俺たちがやるようなものじゃない。だから小竜姉ちゃんはきっと俺たちに許可をくれはしないだろう。


 仮に許可を貰えたとしても俺は小竜姉ちゃんに話す気はない。なぜだろうとは自分でも思うけど、突き詰めていけばきっと意地なんだろうと思う。


「だからすぐに強くなるには今ある能力自体を強化するしかないんだけど……」


 栄光の手を強化しようにも今以上に霊力を込めることはできなかったし、形を変えるのも伸び縮みさせるのが限界だった。
 入学式の日にできるようになった、栄光の手の甲にある部分の玉に意志を込めて様々な効果を付加できるという能力も一通り試したものの、期待したほどの効果は得られなかった。

 まずこれは酷く疲れる。霊的にもそうだが精神的に酷く磨耗する。一日にせいぜい二、三回がいいところだ。
 次に栄光の手で触れなければ効果は発動しない点。『癒』という意志を込めたことがあるが、傷に直接触れなければその効果は発揮しなかった。
 そして効果が一時的であるということ。発動時間はせいぜい十秒程度。それ以上使うと栄光の手そのものの維持が難しくなる。


「だけど、俺はもっと強くならなきゃ。あの魔族が次にいつ来るか分からないんだから」


 あの魔族が実は天竜ではなく俺を狙っていたということを聞いた時はとても驚いた。だが同時に納得もしていた。物心ついた時に俺が妙神山に預けられた理由は聞いたし、あれほどの使い手の魔族があっさり天竜を逃がしたことは自分でもおかしいとおもっていたから。


「主、そう急ぐものではない。あれは特別だ。魔族の中でも上級で、その上戦いに長けていた。そんな者が人間界に来ることは早々ない」


「でも、実際にこの前は来たんだ。タマモと天竜も危なかった。雪乃丞だってもし相手に殺す気があったらどうなったことか」


「だから自分が強くなって全員守るというのか? それも傲慢だぞ、主」


 心眼の言葉が耳に痛い。でも俺にだって意地がある。


「分かってる……けどさ。でもせめて大事な人を守れるぐらい強くなりたいって、おかしいかな?」


「……………」


 心眼は黙り、俺も黙った。奇妙な沈黙が流れる。


 だがその静寂もそう長くは続かなかった。


「! なんだ!?」


 急に自分の上からまゆばい光が沸き起こり、辺りを包む。悪意はないが、そこには強大な霊力を感じた。俺は目を開けてられなくなり、咄嗟に目を瞑りながら心眼に問いた。


「な、なんなんだよこれ! 心眼!?」


「分からぬ! だが用心せよ! あの時の奴らかもしれぬ!」


 やがて光が収まり目を開けると、光の代わりに煙がもくもく。

 い、一体なんなんだ?


 よく目を凝らすと、煙の中には人影がある。その人影は身体を起こすと俺を発見し、こちらに詰め寄ってきた。
 その人影は警戒していた俺の肩をいとも簡単に掴むと、


「おお! 懐かしいな、俺だよ俺! つっても誤差を入れても十年近く経ってるんだから分かるわけねえか」


 などと急に訳の分からないことを言い出した。


「へ? ……あのおじさん誰?」


「おお、俺の時と同じような反応だな。つってもかなり幼いみたいだが……一つ聞きたいんだが、今は西暦何年の何月何日だ?」


「え? ええと確か……」


 俺はカレンダーを見ながら今日の日付をその男に伝えていく。すぐに警戒が解けたのは展開がさっぱり分からなかったのと、この男から悪意を感じなかったからだ。
 それにどちらかというと……懐かしさを感じた。どこかで見たことがあると思うんだけど、どこだったかな?


「まじか! さすがに文珠の数が少ないから誤差がかなりでたか。とはいえ時間がなかったから仕方ないといえば仕方ないんだがな。……にしてもここどこだ? 今の時期ならおふくろたちと一緒に住んでいるはずだが、こんな部屋じゃなかったはずだし」


 この男は何を言ってるんだ? さっきから言っていることがさっぱり分からないけど、とりあえずは応えておく。


「どこって妙神山の、俺の部屋っすけど……」


「うむ。小竜姫様の管理する人間の修行の地だ」


「妙神山!? 待てよ、お前今中学生だろ? なんでこの時期にここにいるんだ!? それにそのバンダナの目は心眼だろ!? ……どういうこった?」


 なんで、どうしてって言われても……むしろどうしてあなたはここにいるんですかって聞きたいぐらい。
 大体どうして心眼のことを知ってるんだ? 竜気から作られた心眼なんて普通の人なら、いや多少霊能に精通している人でも知らないはずだけど。


 男は一人で騒いでいたかと思うと、今度は急にぶつぶつ独り言を言い出した。


「確かに文珠による時間移動は平行世界を作ることができるのは前の俺のことで判明してるけど、俺が来たのは今だぞ? 過去にも干渉するのか? 確かに平安時代の件もあるからないとは言い切れないが……いや、もしかしたら俺とは別にこの世界の過去に未来からの干渉を行った奴がいるのか?」


 何言ってるんだかさっぱり分からない。
 男が急に焦ったり驚いたりしたから逆に俺は冷静になり、まだ相手の名前も聞いてないことに気付いた。


「あの……ところであなたは一体誰なんすか?」


「ん、なんだまだ分からなかったのか? まあ、俺も同じだったがな。男は鏡なんてあんまり見たりしねえし」


 男はポケットをごそごそするとくたびれた財布を取り出し、そこから更に何かの証明カードを取り出した。


「ん」


 突きつけられた俺は仕方なくそれを受け取ると、内容に目を走らせる。
 よく見て驚いた。なんとそれはGS免許だったからだ。六道学院の生徒なら誰もが憧れるそれは初めて見たものだったが、本当に驚くべき場所はその内容にあった。


「えーと、よこしま、ただお。へーあなたも横島忠夫って言うですか……って、ええ!」


 名前は横島忠夫。俺と同じ。だが大して珍しいわけではないこの名前なら同姓同名ぐらいいるだろう。だが、発行年月日は……。


「やっと気付いたか? 言っとくが偽造じゃねえぞ。れっきとした本物だ。まあお前も数年後には取ることになるがな」


 その発行年月日は今から大分あとのはずの日。未来のはずのこと。


「も、もしかしてあなたは……」


 男はどっかとイスに座り込むと、不適な笑みを浮かべて嬉しそうに言った。


「俺の名は横島忠夫。十年後の未来から恋人の命を救うためにやってきた。恋人の名は……


                  ルシオラ」


 続く


あとがき
 未来横島登場。実はここが一番書きたいところでした。色々言いたいことはありますがネタバレになる可能性が高いのでそれはまた次回で。ちょっと短いけどここで切りたかったので勘弁してください。

 ではレス返しを。


>かぐや様
>無理せず気長に続けてください。これからも頑張ってください。
 レスありがとうございます。今回は早めに出せましたが、これからも応援よろしくお願いします。


>whiteangel様
>黒おキヌ降臨?怖すぎ
 降臨しちゃいました。皆様がオチキャラオチキャラ言うから……(笑)


>シヴァやん様
>それにしても弟君もなんか悟ってきたな
 彼も妙神山生活長いですからね……


>拓坊様
>そうか、月まで行っちゃったか貧ちゃん…流石は小竜姫様の萌える魂(誤字に非ず)はとてつもなかったんだな(汗)
 本当は月を砕いて太陽まで延びる!とかやろうかと思いましたけど、それしたら月神族絶滅しちゃいそうだったのでやめました(笑)


>黒覆面(赤)様
>でっかくなって頭が月に刺さる、っていうのは予想外でした。笑わせていただきました。
 ありがとうございます。一番大きくなったっていうのが分かりやすいだろうと思って使ったんです。


>柳野雫様
>小鳩ちゃん達も加わって、益々賑やかな忠夫くんの周囲。
 もう少し増えると思います。多分魔女か机が。


>ゆん様
>小鳩ちゃんの追加で皆に激震!!
 うーんどうでしょう? 小鳩ちゃんは壊れなかったので目立つのが難しいんですよね。まあこれから壊れる可能性もありますが。


>ジェネ様
>ルシオラの場所なんですが、空気抵抗が少ない。と書くとスレンダーという風にもとれるので、揺れが少ない、もしくは小さい、軽いなどを強調した方がよかったのではないか?と思いました。
 なるほど、確かにその方が分かりやすかったかもしれませんね。こういうのは読者の視点でないと分からないこともありますので、そういういった意見は歓迎しています。ありがとうございました。


>なまけもの様
>何故神無が朧と迦具夜様を差し置いてシルバー会員になれたかが一番気になる。
 なぜでしょうか? 真相は闇のままに……


>神曲様
>始終ツッコミをしていた忠夫君に笑いました。それと、おキヌちゃんの間○桜化。
 すいません、その元ネタは分かりません(汗)。なにかのキャラに似てたんでしょうか? 教えてもらうと嬉しいです。


>るうく様
>個人的には文明破壊のあの作品が一番好きです。
 私もですけど、あの技はもうすでに使っでしまったんで、ウッソさんになりました。


>夢食彦様
>空気抵抗小さくするためには横向きに走らないと^−^(歳がばれる発言だ)
 大丈夫です、私には元ネタ分かりません(笑)


 次回は未来横島の話の続きになります。

 ではこの辺で。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMIT1~] COiq COsI