<小鳩>
「なあ、貧」
「なんや?」
「あれ食らったら、お前どうなる?」
「そりゃ、あんなとんでもない霊力の攻撃食らったら……、どれぐらい大きくなるか想像もつかへんな。むしろ貧乏が個人で収まりきらず、最悪日本経済が破綻するという可能性も……」
「じゃあ」
「そやな」
「「逃げるぞ」」
「「「待ちなさーい!」」」
横島さんと貧ちゃんは顔を青ざめながら走り出し、それを小竜姫さんとルシオラさん、おキヌちゃんが追いかけていきました。
……貧ちゃんをあまりいじめないでくださーい。
妙神山のただおくん~女の戦い 後編~
<忠夫>
冗談じゃない!
いくら結婚の真似事をすれば貧乏神は小さくなるって言ったって、あんなとんでもない霊力食らえばそれだけで元の大きさに戻れるわけがない。
そもそも最初の俺の霊力だって大して力を込めてないのに、結婚しても結局元の大きさには戻らなかったんだ。あんな攻撃受けたら……想像するのが怖い。
「横島、追い付かれるで!」
貧が後ろを振り向きながら叫ぶ。誰が追い付いてきたんだ!?
俺も走りながら後ろを振り向いた。
「光の翼ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おかしいですよ、ルシオラさん!」
とんでもないスピードで迫ってくるのは、なんか背中から光る翼を生やしているルシオラだった。ちなみにアサルトでバスターだった。
なんか衝撃によって周りが凄い勢いで破壊されていってますけど?
ルシオラさん? 文明破壊用よりはましだけど、それ食らったら確実に貧乏がどん底になりますから!
「ルシオラ、ストップ、ストップ! やめようよ、ねえ」
「大丈夫よ、ヨコシマ。私は三番目でも気にしないから! でも三号は駄目よ!」
「話を聞いてくれええええええ!」
お、追い付かれる!
俺よりも足の遅い貧乏神を抱えこむと、とにかく全力で逃げる。とはいってもルシオラは魔族。元々のスペックが俺と違いすぎる。
このままじゃすぐに追い付かれてしまう!
俺が諦めかけたとき、ビルとビルの間の曲がり角から聞き覚えのある声がした。
「こっちですよ~」
<ルシオラ>
「待ちなさーい!」
これでも私はスピードには自信がある。なにせ空気抵抗が少ない。ヨコシマに追い付いて貧乏神を捕らえるのも時間の問題ね。
ふふふ、結婚式はどうしようかしら? こんな街中の教会じゃなくて、やっぱりもっとムードのあるとこにしようかしら。
海の見える教会で二人だけの式っていうのも結構いいかもしれないわね。それとも前の二人が洋式だったから、目新しく私は和式でいこうかしら?
そして式が進むにつれて二人の緊張は高まっていくの。そして新郎新婦は最後にその愛の証として熱い口付けを……きゃーきゃー!
ヨコシマたちは急に角を曲がったけど、そんなことで私からは逃げられないわ!
私もすぐ二人の後を追ってその角を曲がる。もう追い付くわね。
「この崇高なる目的のためにも、貧乏神さん! 大人しくするのよ!
……ってあれ? 二人ともどこ?」
すぐに追い付いたはずなのに、曲がってみると二人の姿が見当たらない。おかしいわ、そんなに早く走れるはずないのに。
「ヨコシマー、どこー!?」
<忠夫>
「えーん! ヨコシマどこに行ったのー?」
ルシオラが視界の下で寂しそうに泣いている。ちょっと可哀想だけど、これも生きるためだ。仕方ない。
「間一髪やったな」
「そうだな。ありがとう、おキヌちゃん」
「いえ、どういたしまして♪」
俺が軽くお礼を言うと、おキヌちゃんは笑顔で返してくれた。
あの時おキヌちゃんの声が聞こえて俺はその通りに角を曲がると、ルシオラに見つかる前間一髪でおキヌちゃんが俺をビルの屋上まで引き上げてくれた。そのおかげでルシオラをやり過ごすことには成功したみたい。
じり
「ん?」
「なんですか?」
後ろを振り向くと、そこにはとても笑顔なおキヌちゃんが。
なんか今怪しい気配を感じたんだけどなあ。気のせいかな?
じり
「ん?」
「どうしたんですか?」
やっぱりなんか嫌な感じがする。でもおキヌちゃんはとっても笑顔だし、周りには他に貧しかいないし。
「ごめん、なんか嫌な予感がして」
「謝る必要なんてないですよ。だって……
その予感は正しいんですから♪」
おキヌちゃんの声とともに、足元から無数の霊たちが現われ俺たちに絡みつき、その動きを奪う。
「う、動けへん!?」
「お、おキヌちゃん!?」
「うふふふふ、ごめんなさい横島さん」
「裏切ったな!? 父さんと同じように僕の気持ちを裏切ったな!」
「大丈夫ですよ。すぐに解いてあげます。ちょっと貧乏神さんに東京中の霊による突撃をしてからですけど」
く、黒い! おキヌちゃんの周りを黒いプレッシャーが包んでる! オチキャラオチキャラみんなが言うからついに覚醒しちゃったのか!?
「皆さん、集まってくださーい!」
おキヌちゃんの号令とともに無数の霊たちが集まってくる。その数は正直数え切れないほどだ。本当に東京中の霊を集めちゃったの!?
「皆さん、お願いです! あの貧乏神さんを倒すのにちょっとだけ協力してください!」
おキヌちゃんが涙目で集まって霊団となった霊たちに訴える。するとみんな「よっしゃあ!」とか「おキヌちゃんのためなら!」とか言ってやる気満々に。
そしておキヌちゃんが影でくすりと笑う。なぜか目元が影で見えないのは気のせいか!?
霊たち、お前ら騙されてるよ!
「横島、あの霊団全員の攻撃食らったら、魔族の攻撃と同等の霊力を吸収してまうで!」
貧が焦って叫ぶが、絡みつく霊たちから逃げ出せない。まずい、このままじゃ我が家の、いや日本の経済が……。
「そうだ! これならどうだ!」
俺は栄光の手を発現させると、すぐに意志を込める。
『浄』
栄光の手についた玉に文字が浮かび光を放つと、周りに絡み付いていた霊たちが次々と成仏していく。自由になればこっちのもの、すぐに貧を捕らえていた霊たちも成仏させてやった。
「あーずるいです!」
「おキヌちゃん、ごめんね!」
なおも霊たちをけしかけようとするおキヌちゃんを尻目に、俺は栄光の手を伸ばすと隣のビルの屋上の手すりを掴み、今度は縮ませて一気にそちらへ飛び移る。
おキヌちゃんは空を飛んで浮いて追いかけてきたが、俺がそれを何度か繰り返すとやがて撒くことに成功したようだ。
「はあはあ、今日はなんて日だ……」
「でも、なんとか逃げ切れたんやないか?」
貧がのんきなことを言っている。だが甘いとしか言いようがない。なぜなら……
「忠夫さん、やはりここでしたか。計算通りです」
本命がまだ残っているからだ。
<小竜姫>
「小竜姉ちゃん、一つ聞きたいんだけどどうして俺の居場所が分かったの?」
「……ヒャクメがこちらにはいますからね」
「う……、やっぱりそうか」
嘘ですけどね。ヒャクメは今頃東京湾にでも浮いています。
私の頭の中には様々な「忠夫くんデータ」が詰まっています。そしてルシオラさんとおキヌさんの行動を予測、推測し、それに「忠夫くんデータ」をぷらすし、最後に私の姉の勘を使って忠夫さんの現在地を弾き出したのです。忠夫さんは現在86.9%の確率でここいると。
「さあ、貧乏神さん、こちらにいらっしゃい。大丈夫です、痛いのは最初だけですから」
「嫌やー! 霊力を吸収するっていうても、痛いもんは痛いんやぞー!」
泣き叫ぶ貧乏神ににじり寄る私の前に、忠夫さんが立ち塞がります。
「忠夫さん、どいてください」
「駄目だよ、小竜姉ちゃん。まだ家庭を崩壊させるわけにはいかない」
きりっとした忠夫さん。ふふ、こうやって真剣に向かい合うのは久しぶりですね。
「弟がいつまでも姉に勝てないとは思わないでよ!」
栄光の手を出す忠夫さん。随分強くなりましたものです。ですがまだまだですね。
「はあ!」
<忠夫>
小竜姉ちゃんが気合を入れると、なぜか額に竜の紋章が浮かび出た。
「ド、ドラゴニックオーラ!? っていうかいつからドラゴンの騎士に!?」
ちょっと待て、さすがに漫画が違いすぎだろ!?
「姉弟愛の間には、不可能などないのです!」
……まじで?
小竜姉ちゃんは剣を天に掲げると、大きな声で叫んだ。
「ぎがで○―ん!」
ずとーんと稲妻が剣に落ちると、びりばりとそのエネルギーが神剣に溜まっていく。なんで小竜姉ちゃんは感電しないんだ? というかそもそもあの雷雲はどこから?
「貧、逃げろ! 逃げるんだ!」
「ふふふ、逃がしませんよ! 私の野望のための礎となってもらいます!」
小竜姉ちゃんは剣を逆手に持つと、振りかぶり、全国のその世代の少年が一度は傘でやったであろうポーズを取った。
「ぎが○とらっしゅ!」
「びぃぃぃぃぃぃぃぃん!」
「な、なんやとぉぉぉぉぉぉぉ!」
小竜姉ちゃんが放った神気とか竜気とか竜闘気とか雷とか煩悩とかなんかもう色々混じった一撃が、貧を直撃した。
<神無>
「ねえ神無、少しお金貸してくれない? 五千でいいのよ」
「朧、また無駄遣いしたのか? これでもう五度目だぞ」
「仕方ないのよ。だってブロンズ会員まであと二十ポイントなのよ!」
いきり立つ朧に私はやれやれと肩をすくめる。
朧の給料は私と同じはずだが、なんでこうも金欠になりやすいのだろうか。
まあ実際には原因は分かっている。
忠夫くんグッズを買い集めてポイントを貯めているせいだ。
「まったく、迦具夜様のお支払いになる給料をなんだと思ってるんだ」
「なによ。あんただっていっぱい買い物してるじゃない。秘かにシルバー会員のくせに」
ぶほっ!
「な、なななななぜそれを知ってる!?」
「え、本当だったの!? 冗談半分で言ったのに! というか迦具夜様ですらいまだブロンズ会員なのに、なんであんたがシルバーなのよ!」
……………………。
「顔を背けるな! さあ、いったいどうやってそんなにお金を用意したのか、きりきりとズッガーン!……うわ!」
朧が私に詰め寄ってきたちょうどその時、月にまた何かが衝突したのか、地響きが起こった。
なんだ!? 前も何か地球から来たが、もしやまた地球からじゃあるまいな!
「行ってみるぞ、朧!」
「あ、待って神無」
さっそく何かが衝突したであろう辺りへ二人で行ってみる。
そこには……
「おーい、誰かー、頭抜いてくれー」
なんかとてつもなく巨大な頭が、地球から月面に突き刺さっていた。
なんだこれ?
<忠夫>
その後、ルシオラやおキヌちゃん、小竜姉ちゃんと結婚の真似事をしたけど月に届くほどでかくなった貧乏神を小さくするほどには至らなかった。
さらにその後、おじいちゃんの進めで貧乏神の試練を誰かが受けることになったけど、これには責任を感じてた小竜姉ちゃんが受けることになった。もちろん小竜姉ちゃんは試練をクリアして出てきた。
どんな試練だったか聞くと、小竜姉ちゃん曰く、
「私にはお金や贅沢など無意味なものなのです。ある人がただ側にいてくれれば」
だってさ。
おまけ
「そういえば小鳩ちゃん家はどこ? そろそろ帰らなくていいの?」
「あ、そうでした! お母さんがお腹を空かして待ってるんでした! ……でも住んでいるところはないんです。家賃払えなくて追い出されちゃって……」
「う~ん、じゃあ家にくれば? 家もずいぶん居候がいるし、今更一人や二人増えてもどうってことないよ。家事ぐらいは手伝ってもらうことになるかもしれないけど」
「本当ですか! ありがとうございます! お母さん、心優しい人はいるものです!」
「よかったなあ、小鳩」
ちゃんちゃん
続く
あとがき
またこんだけ待たせてなんかぐだぐだな展開です。更新スピードが唯一の自慢でしたのに、それすらもなくなって……OTZ。
こんな自分の作品ですが、よろしければ読んでやってください。
ちょっとこちらの都合で今回はレス返しできません。レスをくれた方には誠に申し訳ございませんが、ご了承してくださいませ。
レスはちゃんと全てに目を通し、しっかりと励みにさせてもらっていますので。
次回は実はこの作品で一番書きたかったところになると思います。それかもしくは机妖怪編。もしくは番外編。どれにしようかは考え中です。
ではこの辺で。
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