横島と雪之丞がアホなやり取りをしている間もコンテナ船内の調査は続いていた。外のガルーダが片付いたので、調査には西条・唐巣神父・マリアも参加している。
「開けられたコンテナは韓○行き、他に日本行きのコンテナもある。積載リストの依頼主及び記載重量から見てもこの二つは同一のものと判断するのが妥当でしょうね。」
美智恵の独り言のような発言に、
「はい。僕もそう思います。」
西条が同意する。
「そうなると日本行きのコンテナ内にもガルーダが積まれているでしょうから、開封は慎重に行わなければ。西条君、船会社へこの荷の件について質問しているので、その返事を急がせてくれる? それとこの荷を依頼した会社については判ったかしら?」
「積載リストから判ったのは、荷を依頼した会社がフィ○ランドに在るということだけです。ネットで調べると確かにこの会社のHPは存在するのですが、色々調査をしてみると疑問な点が浮かんできました。」
「と、言うと?」
「まずは所在地です。フィン○ンド支部に確認してもらいましたが、HPに記載されている所在地の住所はそもそも存在しません。それに株式会社となっている割にはこの会社が株を上場した記録がありません。荷を積んだフラン○のマルセ○ユ港近郊にある事務所にも支部の捜査員を向かわせましたが、安アパートの一室で現在は無人だったそうです。」
「なるほどね。ダミー会社を作って荷を発送したんで用も無くなり事務所からもとんずらしたってわけ。」
美智恵の顔が微かに歪む。
「おそらくは・・・・・・・・・・船会社からの報告は急がせます。」
そう言って立ち去ろうとする西条に、
「ああ、ちょっと西条君。他の船会社にも同じ会社名で荷が依頼されていないかも調べてちょうだい。」
そう美智恵が告げる。
「分かりました。」
そう言い西条は立ち去った。
「で、コンテナの調査状況はどうなの?」
振り向いた美智恵は調査隊の責任者にそう質問する。
「はい、現在のところ開封された韓○行きのコンテナはドクターカオスとマリアの協力を得て調査を進めています。ただ、銃弾によって破壊された部位も多く、順調に進んでいるとはいえません。
日本行きのコンテナの方は、韓○行きのコンテナの扉部分の調査によって仕掛けられているトラップがある程度分かったので、慎重に開封作業を行っています。」
「そう。それじゃあ慎重にお願いね。」
美智恵は責任者にそう告げると、作戦室兼休憩所に使用している食堂に移動する。
食堂に着いた美智恵は自分でコーヒーを入れ、一口すすった後に椅子に腰掛けため息を吐く。
対ガルーダ戦に関しては予想以上に上手くいったものの、調査の方は別である。
特に海賊連中が銃を撃ったためにコンテナ内部に設置されていた機器の破損がひどい。
(まあ、これに関しては日本行きのコンテナが開封されれば解決するかもね。ただガルーダの保管状態がどうなっているのかが懸念材料ね。最悪暴れられたりしたらまた戦闘になってしまうから。)
疲れた体を椅子にもたれさせながらも美智恵は今後の展開について考えていた。そこへ、
「先生! 美智恵先生!」
大声を上げながら西条が走り込んでくる。
美智恵は椅子にもたれさせていた上体を起こしながら、
「どうしたの西条君?」
と問い掛けた。
「今、船会社からの回答が届きまして、それによるとこの船会社だけで例のダミー会社から6個のコンテナの輸送を依頼されています。」
「なんですって! 荷の送り先は?」
「シンガ○ール、マレー○ア、中○、台○、韓○そして日本です。ここにある2つのコンテナ以外は別の船で輸送されているとの事で、時間経過を考慮すると既に到着している可能性が高いですね。」
「すぐにGメン本部及び関係国支部に連絡して! 水際で抑えられればよし。それが無理ならば荷受けに来た会社を急襲してでも奪還するようにと。
Gメン本部から圧力を掛けて他の船会社からの返答も急がせて! フ○ンスだけでなくヨーロッパ全域の会社から。アジア以外の地域にも荷が送られた可能性がある。世界的なオカルトテロが発生する可能性が高いわ。」
「はい!」
西条が飛び出してゆく。いつの間にか立ち上がっていた美智恵も足早にコンテナ調査を行っている貨物室へと向かい責任者に指示を出すと、通信室へ寄り西条を連れ船を下りて令子達が休息しているプレハブへと向かった。
慌ただしく入ってきた美智恵達に令子は驚き、
「どうしたのママ?」
と問い掛ける。美智恵は室内を見渡し、
「誰か横島君と伊達君を呼んできて。その後で皆さんに話があります。」
と険しい顔で告げる。
それを見たピートとタイガーは、急いでプレハブを飛び出し横島と雪之丞を呼びに行く。
数分後横島を背負ったタイガーと雪之丞そしてピートが戻ってきた。
「横島君、どうかしたの?」
令子の問い掛けに、
「いや、ちょっと自己鍛錬で失敗しまして。」
と横島忠夫が応える。
「ふーん、まあいいわ。ママ集まったわよ。」
美智恵の話を優先した令子は横島との会話を打ち切り美智恵に話しかける。
「ありがと令子。それでは皆さん現在の状況を説明します。まず例のコンテナの件ですが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と言うわけで、アジアの各国でもガルーダが暴れる可能性が出てきました。それにこれは私の勘ですが、ヨーロッパやアメリカ大陸も同様の可能性があると考えています。」
「それ本当なの? ママ!」
「かなりやっかいなことになってきたワケ。」
「クッ、同時テロとは何て卑劣な。」
「これからどうなるんですかいノー?」
令子、エミ、ピート、タイガーの面々も美智恵同様沈痛な面持ちになる。が、
「クックック、燃えてきた燃えてきたぜー!!」
やたらとハイになる雪之丞と、
「お前ね、事の重大さをまぁーったく考えていないだろ。」
さして動揺もせず、雪之丞にいつものように突っ込む横島が居た。横島の様子を見た美智恵は、
「横島君はあまり気にしていないみたいね。」
そう聞いてみるが、横島は、
「まあ、隊長さんの能力は前から信じていますし、今回の一件で西条やその他のGメン達の優秀さも分かったっすから。
その皆さんの仕事ぶりを信じて、じっくり自分の出番を待つだけですよ。」
と応える。
「へー横島君、あなたかなりまともな事が言えるのね。」
令子がそう感心するが横島は、
「俺を何だと思っているんすか。」
と、不満そう。
後はお決まりの令子と横島の言葉でのじゃれ合いが始まる。
それを見ながら美智恵は横島の成長に感心していた。横島もまた西条と同じように相手を毛嫌いしていたはずなのだが、正当に評価すべきところはできるようになってきている。
(案外、良いコンビになるかもね。)
そんな事を考え一瞬だけ微笑んだ後、顔を引き締め再び皆に話し始める。
「はいはい、ちゅうもーく。この後皆さんにはへりで軍の飛行場まで戻ってもらいます。西条君をこちらに残して私が同行しますので、今度は私の指揮下に入ってもらいます。」
皆が頷く。
「では手配したヘリの到着まで、ここで待機していてください。」
そう言って部屋から出て行こうとする美智恵に横島が、
「あのー隊長。もう昼なんで食事は出ないんでしょうか? よく考えたら今日は何も食っていないんですけど。」
と言い、
「そう言えば、」「そうですノー。」
雪之丞とタイガーも同意する。
「残念だけどここには軍のレーション位しかないのよ。軍の飛行場に戻ってから食事が出来るように手配するから我慢してね。」
美智恵はそう告げて部屋から出て行った。
ヘリで軍の飛行場に戻った美智恵達一行は情報士官と話をした後で食堂に移動し、遅めの昼食を摂る事となった。
「「「ガツガツ、ムシャムシャ、ズズーー」」」
横島、雪之丞、タイガーの食いっぷりには美智恵達だけでなく周りにいる軍関係者も呆れて見ている。
「ちょっとあなた達! もう少し落ち着いて食べられないの?」
「妙に目立って、さすがに恥ずかしいワケ。」
美智恵とエミが3人をたしなめるが令子は気にもしていない。何せ横島達の食いっぷりは香港に行った時も経験しているので、何を言っても無駄だと諦めているのだ。
美智恵とエミには非常に長く感じられた食事も終わり、一行は会議室に戻ってきた。
美智恵は早速連れてきたスタッフに次々と指示を出し、西条からその後の経過を確認するとともに、いざという時のために乗ってきた飛行機のパイロットにも待機を命じる。
美智恵とスタッフ達が慌ただしく作業をしている間に、令子達は疲労回復のために睡眠を取っていた。
「ふぁー、んー!」
目を覚ました横島は椅子に座ったまま伸びをする。
「おっ! 起きたか横島。」
そこに声が掛かる。
「ああ。今何時だ雪之丞?」
声がした方へ振り向きながら横島が質問する。
「こっちの時間で夕方5時を過ぎたところだな。」
「そっか。じゃあ3時間位は眠れたんだな。」
「ああ。昼飯食ったのが遅かったからまだ晩飯には早いしな。」
「そうだな。隊長さん達は忙しそうだし、まだ眠っている人もいるしな。さて、どうやって時間をつぶすか?
そうだ! なあ雪之丞、晩飯前の軽い運動も兼ねて俺に1回目の指導をしてくれよ。ここだって体育館位あるだろうし、居場所を隊長に言っておけば大丈夫なんじゃないか?」
「ふむ・・・・だな。よし、それじゃあやるか横島?!」
「おう!」
横島と雪之丞は美智恵に話をした後で体育館に移動した。
「ここか・・・って、誰もいないな。」
「みんな遺体の回収とかにかり出されて忙しいんだろうよ。丁度いいじゃねぇか。
じゃあ準備体操からやるか。俺達もさっきまで寝てたから体を解さないとな。」
「そうだな。」
二人は準備体操、ランニング、そして足捌きのトレーニングを行う。
・
・
「ほら、また重心が後ろにいってるぞ。足もバタバタ動かすじゃねぇ。」
「おっ、おう。」
・
・
「だから重心は臍の下辺りに置くんだって。そんなにバランスを崩したら次の動きができんだろうが。」
「・・・・・はあ・・・・・はあ、おう。」
・
・
「よし! 今日はこれくらいにしておくか。」
「はあ・はあ・はあ・はあ・・・・そっ、そうだな。」
そう言うと横島は床に大の字に倒れ込む。
「どうだ、足捌きも真面目にやると結構きついだろう。」
「はあ・・・はあ・・そうだな。これでもシロと一緒に走ったりして鍛えているつもりだったんだが・・・・・
うー足腰がいてぇー。」
上半身を起こし足を揉む横島。
「そりゃぁそうだ。足捌きには単に走ったりする時には使わない筋肉も使うからな。慣れないうちはきついはずだ。」
「そうなのか?」
「ああ。だから繰り返しトレーニングしないとものに出来ないぜ。」
「分かった。」
「今教えた足捌きが出来るようになったらもっと別のも教えてやる。それに足捌きに付随した体捌きもな。」
「ああ頼む。」
「他に言っとく事は・・・・・・そうだな、まあお前も実感しているだろうが相手の攻撃を紙一重で避けようなんて思わない方が良いぞ。
俺たちが相手にするのは悪霊や霊能者、それに神魔族なんかだ。普通の人間と違って相手の攻撃の有効範囲や射程が、見えている部分だけとは限らんからな。ただ後ろに下がって避けられるなんて思うなよ。」
「ああ分かった。」
「じゃあそろそろ飯にしようぜ。流石に腹も減ったしな。」
「そうするか。」
そう言いながら横島は立ち上がる。
「へぇ、もう呼吸が整ったか。人狼の嬢ちゃんとトレーニングしてるってのも本当なんだな。」
「嘘を言ってどうするってんだ。」
「それもそうか。」
そんな会話を交わしながら二人は会議室へ向かい、隊長に声を掛けた後食堂へ行った。
「ふー、どうやら終わったわね。」
美智恵達一行が軍の飛行場に戻ってから9時間が過ぎた頃、各国のGメン達の活躍によりアジア方面に送られた全てのコンテナの確保に成功した。逮捕されたテロリストもかなりの数になっており、今後取り調べが行われる事になる。
ガルーダが入ったままのコンテナの無力化にも成功し、これらは大型輸送ヘリと輸送機を使ってGメン本部の研究所へと輸送される事も決まり、これには西条とGメン実働隊が同行する事となった。
会議室で待機していた面々は、島に残っていた唐巣・カオス・マリアとGメン調査隊が戻ってくるのを待って飛行機に乗り帰国した。
帰国から一ヶ月後、美智恵の元に本部からの調査報告書が届けられた。
それによると、テロリスト達は新年になったお祝いムードの中を狙ってガルーダをけしかけるつもりであった事が分かった。
美智恵の素早い対応により、アジアやアメリカ大陸等の船を使って輸送されたものに関してはかなりの数が押収されたが、おそらくは陸送されたであろうヨーロッパ各国は押収数も少なく、既に厳戒態勢に入っているとの事である。
ガルーダ達の動きが美神達が以前経験した時よりも鈍かった事については、攻撃対象地点を特定するためのGPSを利用した誘導装置や、以前は体外にあった制御装置を簡素化し小型化した物を全て頭部に組み込んだが為に、ガルーダの脳の発達が阻害された事と制御能力が不十分ためにガルーダ本来の能力が十分に発揮できなくなり鈍くなったようであるとのことだった。
ガルーダ達が互いに100メートル以上離れていたのも、制御装置の能力不足により乱戦になった時の同士討ちを避けるためだろうと推測されている。
使用されていた部品等も汎用品で構成されている為に、ガルーダが何処で製造されたのかも特定できないとの事だ。
オカルト兵器としては不十分な完成度ではあるものの、電子機器の進歩は日進月歩であるのでこのまま開発を続けられれば将来は大きな驚異となるだろう、との一文が最後に記載されていた。
報告書を読み終わった美智恵はその結論に暗澹たる思いになった。
今はテロリスト達が使っているが、何処で造られたものかは分からない。もしも国家的な開発を行っている政府がガルーダの能力を実戦で検証する為にテロリスト達にわざと与えているものだとしたら。
その可能性は否定できない。何せ押収されたガルーダだけでもかなりの数になる。まだ発見されていない数も含めたら、単なるテロ組織が製造できるような数ではない。
いずれ何処かの戦場に人造魔族が兵器として登場するかもしれないのだ。そしてそれを倒すには通常の兵器では難しい。
美智恵は未だ発見されていないガルーダ達の捜索を強化する一方、霊力の無い常人でも扱える対人造魔族用の武器を開発する必要が出てきたとの所感文を本部に送った。
一方こちらは横島。
ドンドン、ドンドン
「せんせぇー! 朝でござるよー! 散歩に行くでござるー!」
帰国した次の日だというのに、早朝から横島の部屋のドアを叩くシロ。
ガチャ
「ふぁー、まだ眠いなー。ああ、おはようシロ。」
「おはようでござる。散歩に行くでござるよ。」
尻尾をブンブン振って笑顔で話すシロ。
「ああ、それじゃあ行くとするか。」
そう言って二人は階段を下りていく。
「なあシロ。」
「何でござるか先生?」
準備運動をしながら横島はシロに話しかける。
「今日から走る距離を少し短くして新しい修行をしたいんだが。」
「新しい修行でござるか?! それはどのような?!」
横島の発言に色めき立つシロ。
「それは後のお楽しみ。じゃあ修行が出来そうな場所まで走るか。」
そう言って走り出す横島。
「あー! せんせぇーずるいでござるよー。」
そう叫びシロは横島を追いかけ始める。
「うん、ここいらでいいかな? シロ、止まるぞ。」
そう言って横島は走るのを止めて軽くストレッチを始めた。
「どんな修行をするのでござるか?」
シロも走るのを止めて横島に話しかけながらもストレッチをしている。
「まあ簡単に言うと相手の攻撃を躱す練習だ。」
ストレッチが終わった後で横島はそうシロに話す。
「相手の攻撃を躱す練習・・・・でござるか?」
首を傾げながらシロが訊く。
「そう。攻撃する側から言うと受けられるより躱される方がより疲労するんだ。それに相手の攻撃力が分からないうちは安全の為にも躱したほうが良い。」
「そんなものでござるか。」
今ひとつ理解できていないシロ。
「まあとにかくやってみようぜ。最初はシロが攻撃をする方、俺が躱す方だ。時間は3分。
そうそう霊波刀の出力は最小にしておけよ。あくまでも練習なんだからな。」
「はいでござる。」
「じゃあ、よーい・・・・スタート。」
「うぉーーん。」
鋭い雄叫びを上げながらシロが突進して霊波刀を振るう。
「くっ、あっぶねー。」
横島はシロの攻撃の癖を知っている為最初のうちは何とか躱すが、人狼のポテンシャルをフルに活かして攻めてくるシロに次第に追いつめられ、何度かは躱せずにサイキックソーサーで受け止めなければならなかった。
「はあ・・・・はあ・・・・時間だシロ。」
「ふう・・ふう・・そうでござるか。」
3分間全力で攻めたシロも多少息が荒くなっている、もっとも横島ほどひどくはないが。
「じゃあ3分休憩したら攻守交代だ。」
「了解でござる。」
・
・
・
「じゃあ行くぞシロ!」
「はいでござる。」
3分後攻守を入れ替え横島が攻める。
「そら!」「うっ」
元来攻撃一辺倒のシロはなかなか上手く躱せない。
「どうしたシロ! そんなものか?」「うぅ・・」
「そらそら。」「うぅぅぅぅ・・」
守りになるとほとんど人狼のポテンシャルを活かせないシロは窮地に追い込まれていき、躱す回数より霊波刀で受ける回数の方が増えてきた。
「受けるんじゃない、躱すんだシロ!」「うぅぅぅぅぅぅぅぅううううううぉーーーーん!」
「このばかたれーー!!(すぱーん)」「きゃいん!」
守りが苦手なシロが遂にキレてしまい攻撃に転じようとしたところに横島の一撃が炸裂する。
「せぇんせぇー、痛いでござる・・・・・・・・・・・って、それは何でござるか?」
シロが見た横島の霊波刀はいつもの形と違っていた。
「ふっふっふ、これこそ霊波刀の改良に苦心した結果生まれた偉大なる失敗作。その名も・・・・・・霊波ハリセンだー!!」
「れっ、霊波ハリセンー! でござるか?」
「おうよ。最初は霊波刀を鞭のようにするために工夫していて、堅い部分と柔らかい部分を作るためにあれこれとやっていたら何でか出来ちまったものだ。」
自慢げに胸を張る横島だが、顔には脂汗が流れている。
「さすがは先生でござる! と言いたいところでござるが、あんまりかっこよくないと・・・・」
「・・・言うなや、俺もそう思っているんだから。でもまあ、文字通り悪霊をシバくには打ってつけの武器だろう? 関西お笑い界だとシバくのにハリセンはお約束だからな。威力の方も霊力の調整でかなりのものになるし。」
「でもやっぱり、格好悪いでござるよ。」
「・・・やっぱそうだよな。」
「「はぁーーー」」
師匠と弟子の二人はそろってため息を吐く。
「まあいい! ほらシロ、続きをやるぞ。もっと我慢するところは我慢しなくちゃな。」
「しかし拙者は・・・・」
「“攻撃は最大の防御”だとお前が言いたいのも分かるが、落ち着いて相手の攻めを見てここぞという時に効果的な反撃をする為にも防御は大事だぞ。
もっとも、俺も習い始めたばかりだからあんまり上手くないけどな。」
「・・・・・・・分かりましたでござる。」
横島の意見に上手く反論できずシロは俯く。
「まあそうがっかりするな。お互いがこの練習に慣れたら攻防一体の組み手の回数を増やすから。」
「ほっ、本当でござるか?!」
シロが顔を上げる。
「ああ。だから今はこれの練習だ。」
「はいでござる。」
横島とシロは練習を再開する・・・・・・・・・・が、シロがそうそう変わるはずもなく。
「うぉーーーーん「何度言ったら分かるー!(すぱーん)」・・キャイン!」
この場所では毎日のようにこのような叫びが響く事となる。
令子の言いつけにより用事の無い日はきちんと学校へ通う事になった横島は、昼休みに屋上を使って雪之丞に教わった事を繰り返し練習していた。
横島が懸命に努力をしているので、雪之丞の方も2回3回と指導をしているうちに足捌きだけでなく体捌きも教えてくれた為、横島が繰り返し練習しなければならない種類も増えていき、昼休みの時間は食事をしている以外の全てがこれに使われている。
季節も冬が近くなり、風があると寒く感じるこの時期に屋上に来る生徒もなく、横島には格好の練習場所となっていた。
スッ、ササッ、シュッ!
防御の動き、そこから攻撃に移る動き、繰り返すうちに全身から汗が出てくる。
普段はあまり人に見せる事のない真剣な表情でひたすら練習をする横島。
バーン! 「そこまでだ横島!!」
突然屋上の扉が開き、横島の担任教師・生活指導の教師・強面の体育教師・ピート・タイガー・愛子が屋上に出てくる。
「なっ、なんすか? 何かあったんですか先生?」
事情が分からない横島は後退りながらも教師に質問をする。
すると一歩進み出た担任が、
「貴様という奴は! そこまで学校に恨みがあったのか?!」
そう横島に叫ぶ。
「へっ? 恨み?・・・・・・・何の事?」
更に訳が分からなくなる横島。
「最近生徒達から『3年の横島忠夫が屋上で何やら妙な踊りを踊っている。学校に呪いでも掛けているのかもしれない』との投書が数多くあり、我々がそれを確かめに来たのだが・・・・・・・・・・・・まさか本当とはな。」
「呪いー?! 何で俺が?」
「いったい何が不満だったんだ? 呪いを掛けようだなんて。」
生活指導の教師も哀れみの目で見ながら話しかけてくる。
「ちっ、違う! 俺はそんな事はしていない。」
首と両手をブンブン横に振り否定する横島。
体育教師が進み出て、
「言い分は後で聞く。除霊委員! 横島を縛り上げて指導室へ連行しろ!!」
「はい。・・・・・・すいません横島さん。」「恨まんでつかぁーさい。」
ピートとタイガーがロープを手に横島に近付いてくる。練習の成果は何処へやら、あっさりと縛り上げられる横島。
「何でじゃー! 俺は無実だー! 冤罪じゃー!!」
「よし、連れて行け。」「「はい。」」
横島の叫びに耳を貸さず移動する面々。
「これも青春・・・・・・・・・・・かな?」
横島が解放されたのは夜も遅くなってからであった。
『あとがき』
どうも「小町の国から」です。
今回は今までより早く更新する事が出来ました。
このペースを守るよう努力します。
それでは「その10」でお会いしましょう。
「小町の国から」でした。