令子達一行を乗せた飛行機がイン○ネシア軍の飛行場に着陸した時には周囲もかなり暗くなっていた。
「急いで来たんだけど、この分では夜間の戦闘になるわね。」
美智恵の呟きに、
「まあ今日は天気も良くて月明かりもありますから、何とかなるでしょう。」
そう西条が返す。
「そうね。それに期待しましょう。それじゃあ最新の情報を収集しましょうか。
みなさん! 最新情報を含めたブリーフィングを行いますので、イ○ドネシア軍士官の後について会議室へ移動して下さい。」
美智恵の言葉に全員が移動を始める。
「うーん、相変わらずほとんど移動していないのは良いんだけど、辺りに散乱している遺体が邪魔になるわね。」
美智恵が空撮した画像を見ながらそう話す。
「何とかこの地点まで移動させないと、こちらが満足に動けませんね。」
そう言いながら西条も考え込む。
「隊長、ちょっと質問なんすけど。」
横島が手を挙げる。
「何かしら横島君?」
美智恵が促す。
「写真の左上の方、港らしきところ辺りに集落が有るみたいですよね。そこにもガルーダが1体いますけど、住民の避難は間に合ったんですか?」
横島の質問を受け、美智恵が軍の情報士官に尋ねる。
「横島君、軍も可能な限り努力したらしいけど、住民にもかなりの被害が出ているようよ。」
「そうっすか。」
美智恵の応えに横島の顔が曇る。そこへ、
「しっかりしなさい横島君! これ以上被害を出さないためにも私達が頑張らないといけないんだから。」
「はい。そうっすね美神さん。」
令子に諭され、横島が頷く。
亡くなった人達のためにもあのガルーダ達は倒さないといけない。出来ればグーラーに引き取られたチビ達じゃない事を願うばかりだな。
「・・君! 横島君!!」
また考え込んでいた横島は美智恵の呼びかけに直ぐには反応できなかった。
「・・あっ、すいません隊長。」
ようやく返事をした横島を見ながら、
「今は大事な話をしているんだから、集中して聞いていてね。」
「はい、すいませんでした。」
またもや美智恵に注意される横島だった。
「では、コンテナ船に一番近い相手をガルーダA、その隣の比較的開けたところにいるのをガルーダB、集落内をうろついているのをガルーダC、最も北に位置しているのをガルーダDとして識別します。
そして最初に対処するのはガルーダAとします。」
その美智恵の言葉に横島は、
「たっ、隊長! ちょっと待って下さい。集落内にいるやつを最初に排除しないんですか? まだ生き残った住民がいるかもしれないんですよ!」
そう叫ぶ。
しかし美智恵は冷静に、
「その可能性があるのは分かっています。しかし現在は離れているガルーダ達が戦闘を開始した途端近寄ってくる可能性も考えなければなりません。その場合、ガルーダCを最初に対処した場合挟撃される事になります。それを防ぐためにも一番端にいるガルーダAから対処をするのです。
また、調査隊が安全にコンテナ船へたどり着くためにも、問題となるガルーダAを最初に排除する必要があるのです。」
そう告げる。
「でも、生き残った人達が「横島君!!」・・・・・・美神さん。」
尚も食い下がろうとする横島を令子が止める。
「冷静になりなさい。確かに生き残った人達もいるかもしれないけど、それを救うために来た私達が被害を受けてガルーダを倒すのに時間が掛かったら意味が無いの。少しでも多くの住民を救いたいのならガルーダAとBを速攻で倒してガルーダCへ対処することよ。」
「・・・・・・・・・・・分かりました美神さん。隊長、どうもすいませんでした。」
顔はまだ納得しきれていないものの、横島は大人しく従った。
「そう。ではみなさん、今からヘリに移動してもらいます。当初の予定通り攻撃隊と調査隊に分かれて搭乗し、現地に向かいます。それでは解散!」
美智恵の指示で全員が移動を始める。横島も荷物を背負いトボトボと移動し始めた。すると誰かが横島の肩に手を乗せる。横島が振り向くと、
「美神さん・・・・・」
手を乗せたのは令子だった。
「横島君、まだ納得していないようだけど無理にでも納得しなさい。迷いが有るまま対処できる程ガルーダは弱くはないわ。住民を救うためにも、何より自分の命を守るためにも迷いを振り切って無心で当たるのよ。
・・・・・・私はまだ横島君にいなくなってもらいたくないんだからね。」
最後の一言を言う時の令子は頬を少し赤くし、はにかんだ表情をしていた。
「美神さん・・・・・ はい! 俺頑張ります!」
令子の表情に一瞬見とれた後、横島はそう答えた。
2機の大型ヘリは40分程飛行した後目的地の小島に着いた。ガルーダ達のいる場所からは丘を挟んだ反対側に着陸し、GS達を降ろすと再び上空に舞い上がり小島の周囲を安全な距離を取って旋回していた。
「さあ、こっからは俺たちの出番だぜ!」
雪之丞のテンションがどんどん上がってゆく。
「お前ね・・・・・。まず最初はガルーダAをあの場所から開けた場所に誘い出さないといけないんだが・・・・・。なあ西条、何か良い方法でもあるか?」
横島の問いに西条は、
「試しに僕の銃で威嚇をしてみよう。上手く乗ってくれればしめた「俺に任せろ!!」・・・・伊達君、何か良い案でもあるのかい?」
話を遮られた西条が雪之丞に問い掛ける。
「俺が反対側からあいつをこっちに吹っ飛ばす。」
自信たっぷりにそう言う雪之丞。
「・・・・・・出来るのかい?」
西条は半信半疑だが、
「問題ない!」
雪之丞の自信は揺らがない。
「分かった、任せよう。」
遂に西条が折れた。
「じゃあお前らはあの場所に移動して、適度に霊波を放出して奴の気を逸らせていてくれ。」
そう言うと雪之丞は闇に紛れて移動してゆく。
「じゃあ僕らも移動しようか。」
西条がそう告げ、令子達は移動を始めた。
令子達が移動し終わりフォーメーションに従って配置を完了した後、雪之丞から言われた通り軽く霊波を放出する。
すると今まで身じろぎもしていなかったガルーダAが令子達の方を向き体にも力がみなぎってくる。
『クェーー「おりゃあー!!」・・ガッ』
令子達の方へ一声吠えようとしていたガルーダAの背中に雪之丞がショルダータックルを決め、そのまま令子達の方に一緒に飛んできた。
「っしゃあー成功! じゃあ行くぜぃー!」
霊波を悟られないために魔装術を発動していなかった雪之丞がここで発動させる。
慌てて振り返るガルーダAに、ピートの霊波砲とマリアのバズーカが命中する。
体勢を崩したガルーダAに魔装術を纏った雪之丞の連続パンチが炸裂。更に体勢を崩したガルーダAの正面から霊波刀を出した横島が接近する。
しかし体勢を崩していてもそこはガルーダ、接近する横島にパンチを繰り出す。すると横島は左に一歩ステップをし、横島が空けた空間を令子の神通鞭が唸りを上げて向かっていく。
神通鞭は横島に向かっていたガルーダのパンチを弾き、脇の開いたガルーダを横島の霊波刀が薙ぐ。
霊波刀で脇腹を切られたガルーダは後ろ向きに倒れる。
その間に美智恵達調査チームはコンテナ船へ向かっていった。
倒れたガルーダを見た横島は妙な違和感を感じていた。
おかしい。いくら何でも前の奴に比べて弱すぎないか?
「横島君!!」
令子の声に反応し、上体のみを起こしたガルーダが口から放った霊波砲をサイキックソーサーで反らした横島は一歩下がり体制を整える。
「仕上げと行こうぜ!」
雪之丞の声に反応し、ようやく立ち上がったガルーダを横島と雪之丞が左右から攻撃する。そしてガードすら出来なくなったガルーダのチャクラに令子の一撃が突き刺さる。
「グェーーー!!」
断末魔の悲鳴を上げてガルーダAは消滅した。
「へっ、口程にもねぇ」
そう雪之丞が吐き捨てるが、横島は真剣な顔をしたまま令子に近寄る。
「美神さん、今のガルーダなんか変じゃなかったですか?」
「そうね。」
令子も考えながら言葉を続ける。
「いくら私達があれから成長したと言っても、今のガルーダは弱すぎたわ。霊力の無い相手にならかなり強いでしょうけど、今回集まったメンバーには物足りない相手ね。
それに、最前線にいた横島君は気付かなかったと思うけど、頭部の制御装置が埋め込まれていそうな部分の形が違うわ。あの時のちびガルーダが成長したものとは思えない。」
「そうっすか。あの時のチビ達でなくて良かったっす。」
ほっとしたように横島が息を吐く。
「まったく、あんた達のせいで出番がなかったワケ。」
「うん、実に効率の良い攻め方だったね。」
「わっしも出番がありませんでしたジャー」
エミ、唐巣、タイガーが近づいてきて口々にそう話す。
その時ガルーダBを監視していた実動隊BチームからガルーダBが接近し始めたと連絡が入る。
「ガルーダAが消滅してからガルーダBが動き始めるとは、一体これはどういう事だ?」
連絡を聞き考え込む西条。
「どうだ西条のダンナ、これなら二手に分かれても大丈夫だろう。」
そこへ西条の思考を邪魔するように雪之丞の声が割り込む。
「・・・・・・・・・良いだろう。戦力を二手に分けよう。」
「よっしゃ! 行くぜ横島!」
「待ちたまえ伊達君。チーム分けは僕が決める。」
はやる雪之丞を西条が止める。
「Aチームは令子君に横島君、マリアに唐巣神父。Bチームは伊達君にピート君、タイガー君に小笠原君そして僕。以上だ。」
「あぁ? 何で俺が横島と別チームなんだよ!」
詰め寄る雪之丞。その間にも実動隊BチームからはガルーダBがどんどん接近していると連絡が入る。
「落ち着きたまえ伊達君。時間が無いから簡単に言うとコンビネーションの差だ。令子君と横島君の阿吽の呼吸は君も見ただろう。それを最大限に生かすためにこのメンバーにしたんだ。」
西条の言葉を聞いた横島は驚いていた。普段あれだけ令子絡みでいがみ合っているというのに、ここ一番では横島の事も認めている。
こと有事の際のその私心を排除した判断力は、今の横島には無いものだ。
横島は西条の指揮官としての能力に関心をすると共に、まだまだ大局を見るという点において西条に劣っている事を実感した。
「それでは行こう。令子君、僕達がガルーダBを引きつけるから君達はガルーダCを頼む。横島君もガルーダCを随分気にしていたようだからね。それじゃ!」
そう言うと西条を先頭にBチームの面々はガルーダBに向かって掛け出して行った。
「ちぇっ、西条の野郎。」
あっさりと負けを認めた時のようなさっぱりとした顔で横島はそう言った。
「行くわよ横島君! 西条さんの信頼に応えないとね!」
横島の方を向いた令子はウインクを一つ飛ばしてから集落目指して走り出した。
「りょーかいっす!!」
笑みを浮かべた横島も大声で返事をし、令子の後に続いた。
集落の中にいるガルーダCは、じっと立っていたガルーダAとは違い何かを探すようにうろついていた。
「まずはこいつも集落の外に誘い出さないとね。さて、どうするか?」
令子の言葉に横島が反応する。
「美神さん、それは俺に任せて下さい。神父、ガルーダの目眩ましをお願いできますか?」
「それ位なら問題無いが横島君はどうするのかね? 雪之丞君のような芸当が出来るのかい?」
「俺にはあんな真似は出来ませんが、代替案なら有ります。」
そう言った横島はマリアの方を向き、
「マリア、月面で使ったカタパルトの要領で俺をガルーダに向かって投げてくれ。この方法なら霊力も漏れないから目眩ましの効いているガルーダに気付かれる可能性も少ない。」
「イエス・横島さん。」
「美神さんは霊力を抑えてあっちの広場に先回りしていて下さい。」
「・・・・・分かったわ。気を付けてね横島君。」
「はっはっは、俺は頑丈さだけなら自信があるっすから。」
苦笑を浮かべた令子が移動して行くと横島は、
「それじゃあ神父、マリアお願いします。」
「よし! 神と精霊の御名において・・・・・・・・・・・悪霊よ退け!!」
唐巣の霊気がガルーダに炸裂する。
「今だ!」「イエス!」
マリアが横島をガルーダに向け放り投げる。
横島はガルーダに接近したところで栄光の手を発動しその拳をガルーダの腹に叩き付け、ガルーダと共にマリアに投げられた勢いのまま広場まで飛んで行った。
「ってって、流石にそう簡単には行かないか。」
そう言いながら横島はガルーダからカウンターパンチを喰らって切れた唇を腕で拭った。
このガルーダは、前に戦った時よりも弱いとはいえ人造魔族である事に変わりはない。回復力は横島よりもあり、未だ立ち上がれない横島に向け霊波砲を放つ。
横島もサイキックソーサーで何とか弾いたものの、まだ足に力が入らず立ち上がる事は出来ない。
その間にガルーダは横島との距離を詰め肉弾戦に持ち込もうとしている。
「ちっ、やるっきゃないか。」
覚悟を決めた横島が霊波刀を出そうとした時、
「マリア! 横島君を!」
そう言いながら令子がガルーダへ神通鞭を振るい注意をそらす。
「イエス! ミス美神」「どわぁーー!」
マリアのロケットアームに襟を捕まれ、強引に引き摺られてその場を脱する横島。
「サ、サンキューマリア。でも今度はもう少し優しくして欲しいな。」
「ソーリー・横島さん。でも・その余裕・ありませんでした。」
マリアと会話しながら軽く屈伸運動をしている横島。
「そっか、じゃあしょうがないな。よし! 体の調子も戻ったし行こうぜマリア。」
「イエス・横島さん。」
ガルーダとの攻防は唐巣の支援を受けて令子が責めているものの決定打を出せないでいる。
「くっ、やはり少し分が悪いか。」
そう言いながらも神通鞭を振るう令子。だがガルーダはそれを腕に巻き付ける事で防ぎ、動きの止まった令子に霊波砲を発射した。
「しまっ「させるかよ!!」・・・・横島君!」
令子を庇うように横島が割り込みサイキックソーサーで弾く。
「美神さんの動きを止めるために鞭を巻き付けたのは流石だが、逆に言えばお前の動きも制限されるんだよ。」
そう言いながら横島は霊波刀を上段に振りかぶりガルーダへ斬りつける。
ガルーダは鞭の巻き付いていない腕で霊波刀を防ごうとするが、横島の霊波刀はその腕をすり抜けガルーダの頭部に炸裂し両断した。
「グワワァァーーー」
ガルーダCはそう叫びながら消滅した。
神通鞭を神通棍に戻し畳んだ美神は横島へ走り寄る。
「よっ、横島君。今の技は何?!」
問いつめる令子のあまりの迫力に思わず後ずさる横島。
「美神さん、落ち着いて下さいよ。今話しますから。」
「じゃあ、早く教えて!」
「実は霊波刀の密度を上げる鍛錬をしているうちに、霊波刀の部分部分の密度を変化させる事が出来るようになったんです。今のはそれを使って相手が防ごうとしている部分の密度を下げてすり抜けさせて、斬るために使う先端部分だけ密度を上げたんです。」
「なるほどね、そんな使い方が出来るなんてね。霊波を凝縮させるのが得意な横島君ならではの技ね。」
「うん、凄いものだね横島君。他の人にはちょっと考えつかないだろうね。」
「イエス、とても柔軟な・思考をしています。」
近くに寄って聞いていた唐巣やマリアも感心している。
「まあ、最終的にはもっと柔軟性を持たせて美神さんの神通鞭みたいにするつもりなんですけどね。」
「はー、霊力の使い方を型にはめないのは確かにあなたの才能ね。凄い天才なのか馬鹿なのかは分からないけど。」
呆れたように令子が言う。
「何か誉められてる気がしないんすけど。」
横島は不満そうだ。
「私にも分かんないわよ。」
苦笑しながら令子が応える。
「んっ? どうやら西条君達もガルーダBを退治し終わったようだね。」
「じゃあ、残りは一体っすね。」
「そうね。」
「おーい横島ー! 今度こそ俺と一緒にやってもらうぞ。」
雪之丞がそう叫びながら近付いてくる。
「随分気に入られたものね横島君。」
そう言う令子に、
「まあ一時期がむしゃらに強くなりたいと思い、一緒に修行した仲ですからね。」
当時を思い出しながら横島が応える。
「おっし、行くぜ横島!」
「ああ分かったよ雪之丞。美神さんに西条、神父にエミさん、そしてマリアお願いがあるんですけど。」
「何だね横島君?」
皆を代表して唐巣が応える。
「マリアのセンサーやその他を利用して、この瓦礫の中から生存者を見つけて欲しいんです。ピートやタイガーも頼む。それと美神さん、これを。」
そう言いながら横島はありったけの文珠を令子に渡す。
「それを使って何とか一人でも多くの人を助けて下さい。」
皆に頭を下げる横島。
「横島君・・・・・・・・」
「よっし! じゃあ行くか雪之丞。俺たち二人で残りをぶっ倒そうぜ!」
「おう!」
そう言うと二人はガルーダDがいる方へ走って行った。
「・・・・・横島君は随分人命が失われるのを恐れているみたいだね。」
「ええ、あのアシュタロス事件からこっち、身近に救えそうな人がいると目の色を変えて必死になっちゃうんです。」
唐巣の問いに令子が答える。
「ふむ、そうか。非情になれないのは彼の優しさなのだろうが、それが引き金になって彼の心が壊れる程傷つく事がなければいいのだが。」
「ええ、そうですね神父。」
俯いたまま令子は返事をする。
「よし。じゃあ彼のためにもこちらも頑張ろうか。マリア、よろしく頼むよ。」
「イエス・唐巣神父。」
マリアのセンサーを頼りに皆は捜索救助作業を開始した。
「ふっふっふ、ワクワクするぜぇー! なあ横島。」
「お前と一緒にすな!」
軽口を叩きながらも二人はガルーダに接近し、それに気づいたガルーダと真っ向から激突した。
ガルーダの霊波砲を雪之丞は軽々と躱す。だが横島はガルーダのパンチを栄光の手で受け流すのが精一杯である。
「くそっ、砂に足を取られて思ったように動けねぇ」
ぼやく横島。だが雪之丞は普通の地面と同じように動けている。
「雪之丞の奴、一体どんな技を使ってるんだ?」
疑問を口にしながらも横島はガルーダに向かってゆく。
雪之丞は、
「オラオラオラオラオラ・・・・・・・・・」
と、どこかで聞いたようなセリフを言いながらパンチを繰り出し、ガルーダが反撃しようとするのを横島がサイキックソーサーと栄光の手を使って防いでいる。
かなり息の合ったコンビネーションではあるが、やはり絶好調時の令子・横島コンビとまでは行かない。攻防の流れに一瞬だけ動きの止まる時があるのだ。
だが、破壊力だけならばこの二人は最強であろう。ガルーダの動きが目に見えて悪くなっている。
「とどめだー!」「おりゃー!」
叫びながら雪之丞が顔面へパンチを、横島が胸に霊波刀を叩き込んだ。
哀れガルーダDは、悲鳴を上げる事も出来ずに消滅した。
「あー疲れたなー。」
浜辺に腰掛け横島がそう呟く。
「そうかー? 俺はまだまだいけるぜ。」
雪之丞はまだやり足りないようだ。
浜辺では朝日が昇り始め、負傷者救助と遺体回収のために軍人達が駆け回り、大型ヘリがひっきりなしに飛んでいる。
美智恵達調査チームはまだコンテナ船から出てきていない。西条とマリアもそちらに向かい、特に用事の無くなった他のメンバーは思い思いに休息を取っていた。
「ったく、無駄に元気だよなお前は。」
「まあ大して動きの速い奴らでもなかったし、お前みたいに何をやってくるか分からないところもなかったからな。」
「なるほど。じゃあ俺と戦っている時は精神の疲労もかなり有るという事か。」
「ああ。お前はセオリーというものが無い奴だからな。」
「まあ誉め言葉の方に分類して記憶しておくよ。」
「微妙な言い方だな。」
「気にするな。」
そこで話は一端途切れ、二人とも昇っていく朝日を眺めていた。
「なあ雪之丞」
「何だ?」
「お前ってさー、俺と戦っている時本当に全力で戦っているか?」
「何を突然言い出すんだ?」
雪之丞が横島の方を向く。
「今回の戦いを見ていてさ、雪之丞の実力にはまだまだ引き出しが多いように感じたんだ。」
「・・・・・・・・・で?」
「俺はまだまだ強くなりたい。お前が言ったようにセオリーが無いってのが俺の強さの一因になっているのも何となく分かっている。よく他人に“常識外れ”とか言われているしな。」
「ほう! ・・・・・・・・それで?」
「でもそれだけじゃあダメなんだ。何の土台も無い所に建物は建たない。俺も土台を作らないといけないんだ。」
「ふん、そこまで考えていたか。」
「ああ、お前だって魔装術を習得してからそれに合った戦い方を研究しているだろうが、土台になっているのは白竜会での修行だろう?」
「・・・・まあ、そうだな。」
「だからさ!」
そこで横島は雪之丞の方を向き言葉を続ける。
「俺にその基礎を教えてくれ。」
「はぁー?!」
驚く雪之丞。
「何で俺なんだ? 妙神山にでも行けば小竜姫が一から教えてくれるだろうが?」
「今の俺には妙神山での修行も敷居が高すぎる。それに学校や仕事の関係もあるから長期間滞在しての修行は無理だ。」
「そっか。」
「まずは基本だ。体捌きと足捌き、特に防御から攻撃へと繋げる足捌きを教えてくれ。」
「まあ、それはかまわんが・・・・・・俺も自分の修行があるしな。」
「期間は俺が高校を卒業するまでの四ヶ月間、しかも週一回で良い。もちろん只とは言わない、報酬は出す。」
「金や飯程度ならお断りだぞ。今回の仕事で俺にもかなりの金が入るからな。」
「分かった、報酬は・・・・」
「報酬は?」
「お前の指導終了後に成長した俺との全力バトル1回でどうだ!」
ピクッ 雪之丞の表情が変わった。
「全力バトル1回は少ないぞ。10回にしろ!」
「アホかー! そんなにやったら俺が死んでしまうわ。・・・・・2回!」
「せこいせこい。大負けで8回だ。」
・
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「「ギャーギャー・・・・・・けんけんがくがく」」
・
・
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・
「ぜーぜー、じゃ、じゃあ4ヶ月間だから月1回の計4回でどうだ。」
「ふーふー、分かったそれでいい。」
「そう言えば雪之丞、最後の戦いで下が砂地だったのに何で足を取られずに動けたんだ?」
「ああ、あれか。あれは足の裏から少量の霊波を出して踏ん張りは効くが沈み込まない程度に体を浮かせていたのさ。」
「お前器用だなー」
「最初の奴に飛んで突っ込んでいったのだって、圧縮した霊波を足の裏から放出して加速したんだぜ。」
「ふーん、便利そうだな。俺もやってみるか。」
横島は立ち上がり足の裏に霊気を集中させた。
キーーーーン
「おおっ、出来た!」
喜ぶ横島。だが雪之丞は冷静に突っ込む。
「それは霊波を出してるんじゃなくて、足の裏にサイキックソーサーを作ったんじゃねーか!」
「まあいいじゃんか。砂にも沈み込まないし。」
横島はそのまま辺りを歩いてみる。
「何か雪国で使う“かんじき”みたいだな。」
「気にしない気にしない。で、次はこれを放出して推進力に・・・・・・・・そりゃー!!」
ちゅどーーーん!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あっ、足が痛ひ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「雪之丞、呆れてないで助けてくれ。」
「おめー、ほんっとーに馬鹿だな。俺は放出と言ったのに、何でサイキックソーサーを爆発させるんだ? っとに、そんな自滅技見た事ねーぜ。」
「いや、俺も狙ってやったんじゃないって。それよりも助けてくれよ。」
「文珠で治しゃーいーじゃねーか。」
「今品切れ。」
「・・・・・・・・・知らん! 暫く頭を冷やしてろ。てめーの回復力ならじきに治る。」
「いや、シリアスバージョンの時は治りが遅いんだって。あっ、こらー! 見捨てるなー!!」
その後横島は昼まで放置プレイにさらされていた。
『あとがき』
どうも「小町の国から」です。
相変わらず更新が遅いなー。
これでも目標は最低一ヶ月に一作は書く! なんですけどね。
次回も頑張りますので、どうか長い目で見てやって下さい。
それでは。