秋も深まり始めた、とある日の午後。
美神除霊事務所では事務所のメンバープラス美神美智恵とひのめ嬢が、午後の紅茶タイムを楽しんでいる。
皆リビングのソファーに座り、シロタマがお菓子の取り合いでじゃれているのをおキヌがなだめ、ひのめは横島の腕に抱かれてご満悦、美智恵と令子は『我関せず。』とばかりに紅茶を飲んでいる。
まあ、いつもと変わらぬ光景だ。
「でさママ、中○で起こった例の一件の詳細はどうだったの。」
「ああ、あれね。
あれってオ○ンピック関連の施設を作る工事中に、昔の封印を破っちゃって起こった霊障だったのよ。」
「封印を破った? また何で。」
「なんせ歴史のある国だし、覇権争いも数多くあって滅びた国も多いものだから、記録に残ってない封印なんて山のようにあるんでしょうね。
それに文化大革命からこっち、あれだけ庶民の生活に密着していた陰陽術やら風水やらが廃れ始めて、工事を担当していた現場監督以下全員が封印を理解できなくて、大昔の遺跡か何かだと思ったんですって。
まして工事は遅れていて、工期に間に合うかどうか分からないところまで来ていたもんだから、『大昔の遺跡なんてぶっ壊してしまえ』となっちゃって封印を破壊。結果あれだけの大霊障が起こったわけよ。」
「ふーん、四千年の歴史も徐々に廃れていってるのね。
で、被害はどれくらい?」
「そうねぇ、建設中のオリ○ピック関連施設の損害は軽微、ただ人的被害は膨大ね。」
「膨大?」
「ええ。死者は民間人で300〜500人、軍人が約400人、霊能者が100人前後といったところかしら。負傷者は1000人を超えるでしょうね。
まあ、封印されていた妖のたぐいが勢いよく飛び出していったせいで、現場にいた工事関係者の被害が少なかったから霊障の発生の経緯を聞くことが出来たのは幸いだったわ。」
「そんなに?! でもその割に報道の扱いは小さかったわよ。」
「そりゃあ政府が必死になって抑えたのよ。事が大騒ぎになってオリン○ックが他国開催にでもなったら面目丸つぶれでしょうからね。
Gメンでも情報が入ったんで支援を送ろうかと打診したんだけど・・・・・・・『我が国ではそんな事件は起こっていない』って回答だったから。」
「はー、まったくお役人ってのはこれだから。
でも前にイ○クで起こった事件の時に派遣された○国の霊能者にもかなりの被害が出ているはずよね。それに今回の被害を合わせると中○の霊能者って数がかなり減って居るんじゃないの?」
「そうね。いくら人口が多いとはいえ、優秀な霊能者は早々出てはこないでしょうから。」
「まったく、強がらないで支援を受ければ良かったのに。」
「そうもいかないでしょ。メンツもあるだろうし、特に対日感情が悪化している時に日本から派遣されたGSに助けてもらいましたってのはねー。」
「はー、ほんとお役人ってのは。」
令子は呆れたとばかりにため息をつき、冷めてしまった紅茶をすする。
それを見た美智恵も苦笑いをした後でカップに口を付ける。
「あう、にぃーにぃー。」
ひのめの声に二人の会話に聞き入っていた横島は再起動を果たす。
「あーごめんねーひのめちゃん。にーにだよー。」
笑顔でひのめの方を向き手をパタパタさせる横島、途端に機嫌が良くなるひのめ。
周りの女性陣はそれを笑顔で見ていた。
一時、ほのぼのとした空気が流れ、それを楽しみながら紅茶を飲み干した令子が再び美智恵に話し掛ける。
「でもさママ、○ラクの件も○国の件もそうだけど、いくら太古の封印とはいえ簡単に破れすぎていない?」
令子の問い掛けに美智恵はため息をついた後で答える。
「それは私も感じていたわ。爆弾や重機による結界や封印の破壊。確かに大昔にはそんな強力な機器が無かったとはいえ、もっと強固でもいいはず。
もしかしたらアシュタロス事件の時に神魔の拠点がすべて破壊されたこととかが影響して、地脈や竜脈になんらかの異変が起こっているのかもしれないわ。
先日の会議でもその事が議題にあがって、早期に記録に残っている全ての結界や封印を調査する事を本部に上申すると言うことで決着したのよ。
いずれ本部から各国のGメンにそれが通達されることになるでしょうね。」
その答えに令子は、
「ぞっとしないわね。世界中の封印が簡単に破れてしまう状況だなんて。」
「まったくね。」
美智恵のその一言でこの話はお終いとなった。
プルルルルルル・プルルルルルル
電話が鳴り、おキヌが立ち上がる。
「はい、美神除霊事務所です。」
「あ、おキヌちゃんかい? 西条です。」
「あっ、西条さん、ご無沙汰しています。」
「そちらに美智恵先生は居るかい?」
「はい居ますよ。少々お待ち下さい。」
おキヌは電話を保留にして、
「隊長さん、西条さんからお電話です。」
と美智恵に向かって呼びかける。
「そう、ありがとうおキヌちゃん。」
そう言って受話器を取る美智恵。
「もしもし西条君? 私よ・・・・・・・ええ・・・・・それで?・・・・・・・」
徐々に美智恵の表情が真剣みを帯びてくる。
「何かあったんでしょうか?」
席に腰掛けながら不安そうにそう言うおキヌ。
「まあ、電話が終われば分かるわよ。おキヌちゃん、紅茶のお代わりちょうだい。」
「はい、・・・どうぞ。」
「ありがと。」
「横島さんもどうですか?」
「ありがとうおキヌちゃん。いただくよ。」
「はい。」
再び令子たちは茶話会を再開した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、分かったわ。西条君も他の人たちに連絡を急いで、それじゃあ。」
電話を切った美智恵は令子たちの方を向き、話し始める。
「令子。」
「なーにママ?」
「急遽海外での除霊が入ったの。直ぐに準備して! 横島君、あなたもよ。」
「俺もっすかー?」
険しい顔をした美智恵に驚き、つい間の抜けた返事をしてしまう横島。しかし美智恵は気にもせず話し掛ける。
「ええ、そうよ。それと横島君はパスポートを持ってきている?」
「いえ、アパートに置いたままですけど。」
「じゃあ行きがてらに寄って持ってきなさい。おキヌちゃん、もうすぐ迎えの車が来るから私は行かなくちゃならないの。ひのめの面倒見てもらえるかしら?」
「はい、わかりました。」
美智恵の願いを笑顔で承諾するおキヌ。
美智恵も笑顔で、
「ありがとう、よろしくね。」
と返す。
「令子、装備の方は一応オールマイティに対応できるようにして。集合場所は羽田空港のVIP用入り口前、Gメンの職員が居るはずだから。
来る時に横島君のアパートに寄るのを忘れないでね。詳しい情報は空港と機内で伝達するわ。」
美智恵がそこまで話したところで人工幽霊一号が、
『美智恵様、Gメンのお車が到着しました。』
そう告げる。
「ありがと人工幽霊一号、じゃあみんなよろしくね。
ひのめー! ママが帰ってくるまでいい子にしててねー」
そう言ってひのめのほっぺにキスをしてから慌ただしく出て行く美智恵。
「よし! 私たちも急ぎましょう。横島君は装備の準備を手伝って。おキヌちゃんは依頼者に除霊時期の変更を連絡して。」
「りょーかいです。」
「はい、わかりました。」
横島とおキヌも慌ただしく動き始める。
「なーんか大変そうねー。」
「そうでござるな。」
その様子をシロとひのめを抱いたタマモが他人事のように見ていた。
「じゃあ行ってくるわねおキヌちゃん。ひのめの面倒お願いね。シロとタマモも頼むわ。」
「はい。」
「わかったでござる。」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
「あうー、にぃーにぃー」
ひのめを含めて4人の見送りを背に、令子のコブラは野太い排気音を響かせて遠ざかって行く。
「拙者も早く先生と色んな除霊に行けるようになりたいでござるよ。」
「私もよシロちゃん。」
「まぁー頑張ってね。私は遠慮しとく。」
「うぁ?」
そんな会話(?)を交わしながら4人は事務所に戻っていった。
途中で横島のアパートに寄った令子のコブラが羽田空港に到着したのは、既に辺りが暗くなった時間であった。
「GSの美神令子さんと横島忠夫さんですね。Gメンの美神隊長がお待ちです。こちらに。」
そう言って駆け出す職員の後を走ってついて行く令子と横島。横島は大荷物を背負っているが、シロとの散歩の成果なのか余裕で走っている。
やがて『VIPルーム(3)』とプレートが付いたドアの前に到着し、職員は「こちらです。それでは。」と言い残し去っていく。
「じゃあ行きますか。」
「そうね。」
そう言って二人は部屋の中に入る。
部屋の中では美智恵がGメンの職員とともに慌ただしく書類をまとめている。
「ああ、来たのね令子、それに横島君も。まだ情報が集まっていないんで詳しいことは機内で説明するから、そこのドアからVIP用ターミナルに向かって。」
令子と横島に気が付いた美智恵はそう言って、また書類に目を落とす。
「隊長は忙しいみたいですね。行きますか美神さん?」
「そうね。行くわよ横島君」
二人はVIP用ターミナルへのドアを開け進んでいった。
ターミナルでは西条が待っていて、令子を見ると話しかけてくる。
「やあ令子ちゃん。急な仕事ですまないね。」
「あっ、西条さん。いいのよ別に、そんなに急ぎの仕事も入ってなかったし。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そうかい? それなら良かった。僕達の乗る飛行機は現在最終チェック中でね、もう少し時間が掛かりそうだから、あっちの喫茶コーナーででも休んでいてくれないか?」
「えぇ、分かったわ西条さん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「出来れば僕も一緒に行きたいんだが、まだ集まっていない人もいてね。残念だけど。」
「それなら仕方ないわ。機内でゆっくり話しましょ。」
「うん、そうだね。」
「(ボソッ)俺のことは完っ璧無視かよ。このエセ紳士でロン毛の中年野郎が。」
「(ピクッ)なんだ、荷物の山が動いていると思ったら横島君だったのかい。まあ、そんなことでしか役に立たないから仕方ないね。」
「(ヒクッ)いやー西条、その長い髪だけど、中年にもなって不自然に黒いよなー。染めてる? それともヅラ?」
「(ヒクヒクッ)ふっふっふ横島君、君は目上の者への接し方をきちんと覚えるべきだね。」
「なんで尊敬もしとらんヤローに対して敬語なんぞ使わにゃならんのだ。その歳になっても自分の器を掴んどらんのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
横島と西条の間の雰囲気は悪化の一途をたどっていく。
「殺す! 今日こそ殺す!!」
「死なす! ぜってー死なす!!」
二人が武器を手に飛び掛かろうとした時、
「はいそれまで。行くわよ横島君。」
「いでー!!」
横島の耳を掴んだ令子がそのまま喫茶コーナーへと進んでいく。
「じゃあ後でね、西条さん。」
「西条ー! 後で覚えておけよー! 痛い、痛いっすよ美神さん。」
西条に話し掛けながらも令子が歩み続けるために耳を捕まれた横島も止まれない。
二人はそのまま喫茶コーナーへと入っていった。
「ふー。」
いかんな。Gメンの上級捜査官であるこの僕が、あれほど冷静さを失ってしまうとは。
やはり彼とは合わないな。このまま僕の歩みを邪魔するのであれば、いっそひと思いに。・・・くっくっく
喫茶コーナーの方を見たまま危ない笑いをしている西条、彼もGS美神の登場人物だけに“まとも”ではなかった。
「まったく、何をやってるのよあんたは。西条さんの前に出ると途端にガキのような罵りあいから喧嘩を始めて。」
喫茶コーナーのテーブルの一つに向かい合って座りコーヒーを飲んでいる。
「うーん何というか、あいつには前世からの恨みがあるというか、俺の人生の最大の障害になりそうというか・・・・・
まあ、そんな訳でどうも合わないんすよー。」
そっぽを向きながらブツブツと言う横島。
「まあ、ウマが合わないのは仕方ないにしても、もう少し大人の対応を覚えなさい。いいわね!」
「・・・努力します。」
令子に睨まれ、段々小さくなる横島。
「よぅ、美神の旦那に横島。相変わらずだな。」
そこに話し掛けてくる男が一人。
「雪之丞じゃないか! 今回はお前も一緒なんだ。」
雪之丞を見て立ち上がって近付きながら話し掛ける横島。
「ああ、隊長さんから呼ばれてな。ギャラも良いみたいだし、思いっきり暴れられるとなれば断る理由は無いだろ。」
心底楽しそうな雪之丞。
「相変わらずのバトルジャンキーぶりだな。」
苦笑いで話す横島。
「いいじゃねえか。相手は強ければ強いほど、ぶちのめすのが楽しいからな。」
「お前、ぜってー病んでるって。」
雪之丞の言葉に呆れてしまう横島。
「時に横島。」
「(ギクッ)なっ、何だよ。」
「お前、この前俺に勝ってから、俺をあからさまに避けてるだろ。」
元々目つきの悪い三白眼が更に鋭くなる。
「えっ? んー、んなこたー無いと思うぞ。」
目を逸らして返事をする横島。
「きったねーぞてめー! 勝ち逃げする気かよ!」
「だー! あん時もうやらねーって言ったろーが!」
「んなもんは認めん! 今度こそ勝負しろ!」
「っとにしつこいよなーお前。まあ、無事に帰ってこれたら考えてやるよ。」
「おっし、約束だからな!」
「ああ約束だ。“考えてはやる”。」
相変わらず横島を睨みつけている雪之丞と、うんざり顔の横島。
「なあ雪之丞、俺もう美神さんとこに戻っても良いか?」
「ああ、いいだろう。」
肩を落とし美神の正面の席に座る横島。
「雪之丞も相変わらずね。」
令子の顔にも苦笑いが浮かぶ。
「いやほんと、かんべんしてほしいっすよー。」
「でもあんた、前に雪之丞に勝ったの?」
「ええ何とか。運が味方してくれまして。」
「へー、大したものじゃない。事、接近戦のバトルで雪之丞の上を行ける人は、そうはいないと思っていたのだけど。」
「運ですよ。」
あくまでも“運”と言い張る横島に、令子の目つきが段々厳しくなる。
「なっ、何すか?」
「あんた、何か隠しているんじゃないでしょうね?」
「(ドキッ!)もっ、もちろんすよー、はっはっは」
うろたえる横島を見て、後でキッチリ吐かせてやると心に誓う令子だった。
その後集まってきたのは、唐巣神父・ピート・小笠原エミ・タイガーの4人である。
「おっ、神父にエミさんこんにちは。よう、ピートにタイガー。」
「やあ、元気そうだね横島君。美神君に雪之丞君も。」
「こんにちは横島さん、美神さん。久しぶりだね雪之丞。」
「こんにちはですジャー。」
「おう、みんな久しぶり。」
と、和やかな会話を交わす連中がいる一方で、
「げっ、エミ。」
「げっ、とはずいぶんな挨拶なワケ令子。」
何やら妙に緊張感漂う方々がいたりする。
「そういやピート、Gメンの試験受けたんだろ? どうだった?」
「ええ、合格できました。これも皆さんのおかげです。」
「そうか、おめでとう!」
「おめでとうですジャー。」
「ほう、ピートはGメンになるのか。まあ頑張れや。」
同世代(ピートは?)の4人は固まって話をしている。
「皆さんありがとうございます。」
「まあそんなに堅苦しい話し方をするなよ。」
「そうですジャー、わっしらは友達ですケン。」
「そうだぜピート、ダチと話す時は気楽に行こうぜ。」
「はい、そうですね。」
「ぜんぜん気楽になっとらんじゃないか。」
「まあまあ横島さん、それがピートさんですけぇーノー。」
「そういやぁタイガー、お前ライセンス持ってたか?」
「持っとりますジャー!!」
「雪之丞、タイガーは今年の試験を受けてちゃんと合格したんだよ。ったく、偶にしか顔を出さないからそんな事も分からなくなるんだよ。まあ来たら来たでバトルを挑んでくるからやっかいだけどな。」
「何やら棘のある発言だな横島?」
「気にすんな。」
「そう言えば雪之丞はどうなんだ?」
「ああ俺は隊長さんから呼ばれて書類書いたら貰えたぜ、ランクCの奴をな。」
「うぅ、わっしはランクDですジャー。」
「へぇー、僕と同じランクですね。でも試験を受けなくても貰えたんだ。」
「まあ、イ○クでの一件で急遽使えるGSが必要になったとかでな。おかげでまた試験を受けなくても良かったわけだが・・・・」
「わけだが?」
「トップ合格とせっかくの戦う機会をフイにしたのは惜しかったな。」
「おめーはバトルの事しか考えとらんのか!」
「いいじゃんかよ横島、だいたいお前が相手をしてくれれば俺の不満は解消されるんだ。」
「やだっつーとるだろうが!」
「んだと!」
徐々にヒートアップする横島と雪之丞。
「まあまあ、横島さんも雪之丞も落ち着いて。」
「まあいい。ところでよ、今年の試験でトップは誰だったんだ?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
急に黙り込む3人。
「どうした? 誰だったんだよ?」
「・・・・・・カオスだ。」
「・・・・えっ?」
「だからカオスのおっさんだと言ったろうが。」
「・・・・・・・・・・・・・マジ?」
「マジだ!」
「マリアは反則をしなかったのか?」
「そうですジャー。それにいつの間にか霊的な攻撃力まで持っとったんです。」
「あのおっさん、未だにマリアの改造をしてるみたいでな。」
「攻撃はほとんどマリアがして、ドクターカオスはその後ろに立って笑っていただけだそうですよ。」
「おい、それっていいのかよ?」
「道具として認められたんですから、それもアリなんでしょうね。」
「・・・・・・何か疲れた。コーヒーでも飲もうぜ。」
「そうだな。」
「賛成ですジャー。」
「行きますか。」
4人は立ち話を終え、疲れた顔をして喫茶コーナーに歩き出す。
一方、令子とエミは未だに睨み合っており、間でオロオロしている神父が哀れであった。
「先生、Gメンの職員集合しました。」
そう言いながら西条が近づいてくる。その後ろにはGメンの戦闘部署要員や調査要員が12人いる。
「これだけなの? どんな事件か知らないけど少ないんじゃない?」
令子は首をかしげる。
「もう一人来る予定よ。今回の事件を検討した結果、どうしても協力してもらいたくてね。」
美智恵の応えに令子は、
「えっ? 誰?」
「もうすぐ『ズドーーン!!!』・・・・・・来たようね。」
何事かと窓から外を見る面々
「ファーハッハッハ! ヨーロッパの魔王、ドクターカオス見ざ「やかましい!」・・なんじゃ美神令子のとこの小僧ではないか。」
「はー、カオス! もうちょっと静かに登場できないの!」
「おお、美神令子か。おぬしも行くのか?」
横島に怒鳴られようと、令子に呆れられようと全く意にも介さないカオス。マリアはカオスの横に黙って立っている。
あれだけの音を立てた着地(墜落?)をしても二人(?)ともピンピンしている。謎に丈夫なカオス達だった。
「これで集まったわね。西条君、皆を連れて飛行機に乗って。」
「分かりました。」
「皆さん、時間が惜しいためブリーフィングは機内で行います。西条君の後について飛行機に移動してください。」
美智恵の声に美神達も荷物を持って進んでいく。すると部屋の出口の辺りで西条が数人のスーツ姿の人と話していた。
「ん? 美神さん、あそこにいるのって外務大臣じゃないですか。」
「えっ?・・・・・・そうね、あの時横島君に『帰れ』と言った大臣だわ。あいつ、またしゃしゃり出てきやがったの? ん?(ニヤ)」
令子は不敵な笑みを浮かべて横島の方を向く。
「なっ、なんすか?」
びびる横島。
「ランクBの横島くーん、一緒に大臣にご挨拶しに行きましょ。」
「・・・・・・・・そうっすね美神さん。ぜひとも行きましょう。」
令子の行動を理解した横島が、こちらもまた笑みを浮かべて令子の方を向く。
「じゃ」「行きますか!」
令子と横島は大臣に近付き、
「あーら大臣さん、お元気でした? 美神除霊事務所所長でランクAの美神令子ですー。イラ○へ向かう時以来ですわねー。あの後新聞なんかで随分叩かれていたんで心配していたんですのよー。」
「きっ、君は」
「お久しぶりです大臣。あの時『帰れ』と言われた美神除霊事務所所属の“ランクB”になった横島忠夫です。いやー随分大変だったようですねー。“不要”と言われた私も心配していたんですよー。ところで次の選挙は大丈夫なんですか?」
「何を言って」
「そうそう大臣、私達急いでいるんでした。“この前”のような“失敗”をしないためにも急がなくちゃー。“役立たず”の“お役人”が乗り込む前に出発しなきゃねー。」
「君たち」
「じゃあ急ぎましょう美神さん。それでは大臣失礼します。また会えたら会いましょう。」
「ちょっと。」
結局大臣には碌に喋らせず、言いたい放題やって去っていく二人。あっけにとられている大臣を哀れみの目で見ている西条。
通路を歩きながら、
「横島君!」「はい!」
笑ってサムズアップを交わす二人であった。
飛行中の大型ビジネスジェットの機内、各人思い思いの席に座って美智恵の説明を待っている。
ちなみに今回は政府関係者は一人も乗っていない。前回の教訓は少しは活きているようである。
なお横島の隣には雪之丞が座っていた。
「それでは、これからブリーフィングを行います。」
美智恵の声に皆の注目が集まる。
「まずは今回の相手の画像を映します。」
美智恵の横のスクリーンに画像が映される。
「なっ! これは!」
「ガルーダじゃねえか!」
画像を見て驚く令子と横島。
「そうです。これは以前美神除霊事務所が担当した事件で倒された『ガルーダ』と呼ばれる人工魔族と酷似しています。
よって、今回もこれの呼称は『ガルーダ』とします。」
そう告げる美智恵。
「人工魔族・・・」
「またやっかいな・・・」
等の声が周りで上がる。そんな中、
「おい横島! こいつは強いのか?!」
雪之丞だけが目を爛々と輝かせ横島に詰め寄る。
「・・・・・・ああ、中級魔族クラスの霊圧はあった。」
少々呆れながらも横島が答える。
「そうか! ふっふっふ、ゾクゾクしてきやがるぜ。」
「おまえなー・・・」
更に危なくなっていく雪之丞の隣で、一応声を掛けながらも横島は別のことを考えていた。
まさかあの時グーラーについて行ったチビ達じゃあないだろうな。でもあの時のグーラーは俺達に協力もしてくれてたし、ガルーダを使って事件を起こすふうには見えなかった。だとすると誰かがまた造ったか、それともグーラーが捕まって・・・・・
「横島君! 横島君!!」
考え込んでいる横島は、美智恵の呼びかけにも反応しない。
すると、
ガン!!
「ってー、何しやがる雪之丞!!」
雪之丞が横島を殴り、横島が気が付く。
「ほらよ、隊長さんが睨んでいるぜ。」
「えっ?!」
横島が前を見ると本当に美智恵が睨んでいた。
「やっと戻ってきたのね横島君、これから説明をするんだからきちんと聞いていてちょうだいね。」
「分かりました。・・・すいません。」
それを見た美智恵は気を取り直し、
「それでは現在まで判っている内容を説明します。
まず事件が起こったのはイン○ネシア領のマラッカ海峡。そこを航行中の貨物船が海賊に襲われたようです。そして船長以下船員を縛り上げて、まあおそらくは身代金目的の誘拐でもしようとしたんだろうけど、海賊の一人が積み荷のリストを見てコンテナを開けてしまったようです。
それでそのコンテナの中に入っていたのがこのガルーダ4体。」
「よっ4体!」
周囲から驚きの声が上がる。
「そう4体よ。その後海賊が何らかの理由で銃を発砲したらガルーダが目覚めて暴れ出してしまい海賊達は全滅。
ガルーダが暴れたせいで貨物船は沈没しそうになったんだけど、全滅した海賊達の武器が辺りに散乱していたおかげでロープを解いた船員達が何とか操船して小さな島に乗り上げさせました。
その後ガルーダ達が船から飛び降りていったので、船員達が生きている無線機を使って状況を船会社に連絡しました。
その連絡が船会社から回り回ってインド○シア政府に届き、それを聞いたイン○ネシア政府は現地に軍を派遣したんだけど地上軍は全滅。航空機から爆弾を投下したそうだけど効き目なし。まあ通常の武器ではガルーダは倒せないわね。
そこに至って政府は霊的な問題なのではと判断して、友好的な関係の日本に連絡。その結果私たちが向かっているという訳。」
淡々と美智恵が告げる。
「でもママ、ガルーダ4体よ4体! これだけの人数じゃあどうしようもないわ。」
令子が立ち上がってそう叫ぶ。
「それが何とかなるのよ。」
「えっ!?」
美智恵の返事に令子が驚く。続けて美智恵が話す。
「人数をこれだけに絞ったのには理由があります。
まずこのガルーダ達ですが船から下りた後はほとんど移動していません。また、ガルーダ達はそれぞれが100メートル以上離れていて、まとまって襲っては来ません。その理由は分かりませんが。」
「何でよ!?」
「だから分からないって言ったでしょ。でもその方がこちらにとっては好都合よ。こちらは1体ずつ倒せばいいわけだから。
それでは編成を言います。攻撃隊の前衛は令子、横島君、伊達君にピート君。中盤に西条君とタイガー君にマリア。後衛に唐巣先生とエミさん。指揮は西条君に執ってもらいます。いいわね西条君。」
「分かりました先生。」
「次にGメン実動隊Aチームは私や調査隊と共に貨物船へ、ドクターカオスにも同行してもらいます。実動隊Bチームは攻撃隊に隣接するガルーダの監視と接近してきた場合の足止め。よろしくね。」
美智恵の言葉にGメンの隊員達は頷く。
「それでは「ちょっと待ってくれ。」・・・・・・・・何かしら伊達君?」
美智恵の言葉を遮った雪之丞に発言を促す。
「これだけのメンバーがいるのに1体ずつ倒すってのはないだろう。攻撃隊を2つに分けてくれよ。片方は俺と横島だけで良い。残りでもう1チーム作ればいい。」
「またなんちゅー事を言うんだ。やっぱバトルジャンキーだわてめーは。」
雪之丞の発言に呆れた横島がそう言う。
「いいじゃねぇーかよ。せっかく全力で戦えそうな相手だってのに、寄って集ってのタコ殴りは俺の趣味じゃねーよ。」
「あーあ、馬鹿に付ける薬は無いってのはほんとだな。」
「んだよ横島。」
「あのなー、少しは「そこまでにして、伊達君に横島君!」・・はい、すいません。」
横島と雪之丞の会話を美智恵が遮る。
「で、どうなんだ隊長さん?」
「その提案は呑めないわ伊達君、相手の実力が判らない以上冒険はするべきではないと考えます。よってこちらは全力で1対1体ずつ対処します。」
「じゃあさ、1体を倒した時に西条の旦那が2チームに分けても大丈夫だと判断したらそうしても良いという事にしてくれよ。相手は4体もいるんだからさ。それならどーだ?」
美智恵に言われても簡単には諦めない雪之丞がそう提案する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふー、分かったわ。ではその判断は西条君に任せます。西条君頼むわ。」
「はい、分かりました。」
しつこい雪之丞に美智恵の方が折れる。
「よっしゃー! やるぜ横島!」
「お前ね、・・・・・いや、もういい。」
「何だよ。」
「もういいって。」
そんな横島と雪之丞を見ていた令子達は、
「まったく、あの馬鹿達は。」
「まあいいじゃない令子。○ラクの時はあの二人はいなかったから、久々に実力を見せてもらうワケ。」
「横島さんも雪之丞さんもどれだけ強くなっているか楽しみじゃノー。」
「そうだなタイガー、僕も二人の全力はしばらく見ていないからね。」
「友人の成長を見るのもいい刺激になるはずだ。ピート君もタイガー君もよく見ておくといい。」
「ピート君に関しては、僕達Gメンの動きを見るのも将来のために勉強になると思うよ。」
「腹がへったのう。機内食は出んのかマリア?」
「確認して・きます、ドクター・カオス。」
などと話していた。
「はいはい、みんな注目して。この機はインドネ○ア軍の飛行場に着陸します。その後は攻撃隊と調査隊に分かれて軍の大型ヘリに乗り現地に直行し作戦を開始します。
まだ数時間掛かりますので各員は準備と休憩をして下さい。
以上でブリーフィングは終了します。」
「美神美智恵、機内食は出んのか?」
「・・・・・・・・直ぐに食事の準備をさせますドクターカオス。」
「あっ、俺も俺も!」
「俺もだ!」
「あんたらねー!!」
緊張感の無い一行を乗せた飛行機は、○ンドネシアに向けて飛行を続けていた。
『あとがき』
大変お久しぶりな「小町の国から」です。
忘れ去られていないか心配なところなんですが、以後気を付けます。
この作品も7話になったわけなんですが、今回はやたらと説明ばかりになってしまいました。
世界情勢(というか時事ネタ)も、GS美神連載後あたりの物を使おうかと思ったのですが上手くいかず、『まあ、最初の方でイラ○を出しちまったからいいか!』ってことで現在の物を使っています。
でも登場人物が増えた時の書き分けって難しい。なかなか一人一人を上手く活かせないなー。
SS書きの皆様はどうやっているのでしょうか?
今後も精進しますので、もう少しお付き合いください。
それでは。