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「GSキッズ6〜8(GSオリジナル)」

海(ry (2005-12-05 02:43/2005-12-05 02:45)
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これは昨日削除したGSキッズ6〜8までの再録版です。
また、今回からHNを海鮮男体盛りから海(ryに変更致しました。
ご了承の程よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


DI−A。
正式名称Disintegration−A。
いまや世界中に蔓延する事となった常習性魔法薬。
通称魔薬。
以前カタストロフAを製造した製薬会社が20年以上前に創り出した、”霊能が備わる薬”。
しかし、この薬DI−Aは常習性が高く、また重篤な副作用があった。
ヒトの魔物化。
かつて白竜寺の見習い、陰念がそうだったように、過ぎたる力はヒトをヒトで無い者へと変えてしまう。
魔物と化したヒトは天界での治療以外に回復の見込みはない。
当然、当時の厚生省の認可は下りるはずもなかった。
DI−Aは結局製造される事のないまま、そのデータのみが製薬会社のコンピュータに残される事となる。
それから10年。
製薬会社が倒産後、そのデータを手に入れた組織があった。
彼らはDI−Aを利用し、世界有数の規模を誇るマフィアへと成長する。
組織の名は『ブルータル・トライ』。


GSキッズ6
「横行闊歩!これで決着高速決戦!」


首都高目指してひた走る一台の原チャリ。
ナンバープレートを見れば50ccである事は一目瞭然であるが、そのスピードは時速100kmを軽く超えているように見える。
それも当然。
この原チャリこそ考案炎華、制作カオスのフルカスタムマシン『爆天号』であった。

「ほほほほほ、炎華〜〜〜〜〜〜っ!スピード出し過ぎだって……危ないよ〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「うっせぇ!アタシの辞書に制限速度の文字は無いんだよっ!」

「それは落丁本……って!炎華、前前前前〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「あ?……どわぁっ!?」

ギリギリのところで追突を回避する爆天号。
抜き去られたタクシーの運転手が窓から身を乗り出して罵詈雑言を吐いていた。

「あ、危なかった……」

「だから言ったじゃないか、炎華〜?二人乗りは危ないってさ〜?」

「んな事言ったって人さんが車貸してくれなかったんだからしょうがないだろ!?」

「当たり前だよ。僕たち二人ともまだ16歳なんだし……」

「だ〜いじょうぶ!いざとなったら除霊中の事故って言って誤魔化す!」

「GS免許も持ってないよね」

ごすっ!

炎華の肘が雪比古の鳩尾にめり込んだ。
悶絶して危うく転げ落ちそうになる雪比古。

「あっ、危ないよっ!死ぬかと思った!」

「ウチの親父なら落ちても大丈夫!」

「僕も流石に横島おじさんには敵わないかな〜」

「そりゃあそ〜だ。ウチの親父はあれでも一応一流だからな」

「…………炎華って結構ファザコンだよね……」

ごすっ!

今度こそ転げ落ちていく雪比古。
その体が数mほど後方で止まった。

「感謝しろよ、雪比古?一応命綱付けといてやったからな!」

「あ、あんまり嬉しくないよ、炎華〜!?いだだだだっ!?死ぬ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

市中引き回しの刑を身を以って味わう雪比古を尻目に、炎華は愛車のグリップを握る手に力を込めた。
その掌を通じ、彼女の霊力がマシンのエンジンに注ぎ込まれる。
そのグリップは事務所の廃棄神通棍の再利用なのである。

「いくぜっ!爆天号カスタムエンジンッ!」

彼女の髪が燃え立つように広がり全身に霊力が漲った。
その様子を見て雪比古が焦る。

「ほ、炎華ぁ!?それは……僕がいるのにっ!?」

「爆熱っ!」

その瞬間、爆天号のマフラーから大量の爆炎が噴き出した。


どっかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!!

炎上していたコブラのガソリンタンクに火が回り、爆発四散する。

「わ……私のコブラちゃん……が……」

ひのめはそれを呆然と眺めていた。

『ブロロロロロロロロロロロロロロロォォォォォン!』

膨大な邪気を放出し、異形と化した青年がその姿を現した。
大量の邪気が全身を覆い、悪魔のような姿をとる。

「なっ、なんでござるか、アレは!?変身したでござるよ!?」

慌てふためくシロ。
おキヌもその青年の放つ霊圧に気圧された様子で顔が青褪めている。

「なんて霊圧……!?本当に人間なの……?でもさっきまでは確かに……」

「魔装術……?いや、少し違うか……?姉さん、あれはなんなのだ?」

落ち着きを取り戻したらしいひのめが令子を見た。
令子、そして横島はヨーロッパでの件からDI−Aに関するそれなりに詳しい知識は持っている。
しかし、ひのめやおキヌは新聞等でもほとんど扱われないDI−Aに関しては名前程度しか知らず、さらにシロは新聞なんぞ読まない。
つまり目の前の現象をDI−Aと結びつける事が出来たのは令子だけだった。

「マズったわね……。こんなのが相手だったらもっと道路公団に吹っかけるんだった!」

ガッデム!と拳を握り締める令子。
ひのめの話など聞いてもいない。

「む〜……無視か」

ひのめが頬を膨らませた。

『オレが真ヂ目ニ勉キョウに励んでる横デ騒Giやがッテ!走り屋ナんゾこのおReがみNa殺シニしてヤるァァァァぁぁぁぁ!!』

青年が咆えた。
怪物の眼に狂気の光が宿る。

「ははぁん、この界隈に住んでる受験生かなんかね?それで毎晩騒ぎ立てて勉強の邪魔をする走り屋を潰してたって訳か!」

合点した、と言う表情で令子が頷く。
しかし可哀想だが手加減するわけにはいかない。
DI−Aを服用した者は、その中毒度にもよるが、GS以上の力を持つ者も少なくないのだ。

『そうDa!走りYaなンか!特ニ横に綺麗NaネーちゃnはべRaせテる奴!許さぬぁーーーーーーーーーーーーーイ!!』

「…………同情した私がバカだったかも」

「姉さん、ここは私に任せるのだ!」

「ひのめ!?」

令子を押しのけるようにひのめが青年と相対する。
その距離およそ20m。

「コブラちゃんの仇……とらせてもらうのだ!いくぞ、妖怪エキゾースト(今命名)!」

ばっ、と両手を胸の前でクロスさせる。
その全身に燃え立つ炎の霊気が集中した。

「C・F・H・S!かわせるかぁーーーーーーーーーーっ!」

組み合わされた両腕から炎の塊が発射される。
その炎がさらに無数の炎の十字架へと分裂し、エキゾーストの上下左右正面から迫る。
だが、しかし。

『ブロロー!オォ、ブロローーーーッ!!』

エキゾーストは易々とその炎の群れを回避してみせた。

『チッチッチッ』

おまけになっちゃいない、と言わんばかりに人差し指を振ってみせる。

「なぁ〜!?私のC・F・H・Sがぁ〜!」

「どっかで見たような技を使ってるからよ!」

ショックを受けるひのめの頭を令子がすぱぁん!と叩く。

「頼むわよ、シロ!」

「心得たでござるっ!」

『なNiぃ!?』

その快活そうな声はエキゾーストの背後から聞こえた。
慌てて向き直るその眼に映る残像がかったシロの姿。

「もらったぁ!」

超スピードで回り込んだシロの霊波刀が怪人の胴を横一文字に薙ぎ払う。
さらに唐竹に一刀。

「アォォォォォォォォォンッ!!」

咆哮を上げ、回転数を上げて縦横無尽に斬りつける。

『グ!?ガガガガガッ!』

「トドメでござるっ!」

霊波刀の出力を上げ、大上段に振り翳すシロ。
しかし。

『ヤらSeん!ブロロロロロロォォォォォォォォォォ!!』

「ぅわっ!?」

エキゾーストの全身を覆うガスが一瞬、シロの視界を塞いだ。
その隙にシロを蹴り飛ばす怪人。
シロの体が先程のコブラと同じくらい、高く宙を舞う。

「シロッ!?」

「シロちゃん!」

「飛んだ」

「ぐっ……!ハァッ、ハァッ……」

クルルっと回転し、シロはなんとか脚から着地する事に成功した、がダメージが大きい。
膝をついて肩で大きく息をする。

『モらっTaぁ!』

「アンタの……」

「命をね!」

『ブロォッ!?』

エキゾーストがシロに気を取られた隙に、その背後左右に回り込む美神姉妹。

「行かせないわよっ!」

令子の神通鞭がエキゾーストを十字に切り裂く。

「なのだ!」

さらに両手から炎を叩き込むひのめ。
そのあまりの高熱にエキゾーストの立つアスファルトが融解し、液状化する。

『Na……なニぃィィィィィィっ!?』

高粘性の泥沼と化した道路に脚を取られ、足掻く怪人。
さらに。

ぴゅりりりりりりりりりりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!

おキヌの奏でるネクロマンサーの笛の音色が低級霊を呼び出し、エキゾーストの下半身を雁字搦めにした。

『ぐっ!?オ、おNoレぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!』

「ひふぁふぇふっ!ひふぁひふぁんっ!(今ですっ!美神さんっ!)」

笛を構えたままのおキヌが叫ぶ。

「判ってるわ!ひのめ、行くわよ!」

「OKなのだっ!コブラちゃんの仇ぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

身動きの取れないエキゾーストを令子の神通鞭が、ひのめの炎弾が狙う。

『ノォォォぉぉooォぉooooッ!?』

神通鞭が袈裟懸けにそのボディを切り裂く。
さらに無数の炎弾が大きく穴を穿ち、燃え上がらせた。

きききききぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!

そこへ猛スピードで現れた一台のバン。
その助手席から横島が、運転席から茂呂が飛び出すように降りてくる。

「令子っ!みんなっ!無事かっ!」

「シロさんっ!無事ですかっ!」

その瞬間。


「ボス、首都高で中毒者によるものと思われる事件がありました」

けばけばしく飾り立てられた趣味の悪い部屋で男がモニターに向かっている。

『ほう……動いたのはGメンか……?』

「いや、民間のGSのようですな。美神除霊事務所とか……」

『……!?』

モニターの向こうに動揺が走る。

「ボス……?どうかしましたか?」

『なんでもない……データの回収はどうなっている?』

「送信鬼が。っと、やられちまったようですな。さすがは日本有数のGS事務所ってとこか」

『そうか……。いや、データの収集を続けろ。まだ終らんよ』

「そうですか?判りました」

『あぁ……しっかりやれ』

「はっ!」


『グオオオオオオッ!』

燃え上がる炎の中からエキゾーストが手を伸ばした。
その中から現れた腕は先程までの霊気を纏ったものとは違う。
実体化した異様な色の腕、長く伸びたヒトではありえない爪。
彼を包んでいた霊気が実体化していた。

どんっ!どんっ!

「ぐっ!?」

「あぅっ!?」

その異様な腕から放たれた霊波砲が令子とひのめを直撃する。
意識を失い崩れ落ちる二人を見た横島の顔色が変わる。

「令子っ!ひのめちゃんっ!」

二人に駆け寄る横島、その背後からさらに無数の霊波砲が降り注いだ。

どどどどどどどどどどどどどどどどどどどっ!!

「横島さはーーーーーーーーーーーーーーんっ!?」

「せ、先生ーーーーーーーーっ!」

おキヌとシロの悲痛な叫びが響く中、3人の姿は舞い上がった土煙の中に消えていった。

『ギシャーーーーーーーーーーーーーッ!!』

不気味な咆哮と共にソレが姿を現す。
先程よりも多少小型化したものの、2m近い巨躯を持つその姿は完全な魔物となっていた。
かすかに残っていたであろうヒトとしての意識も残っていないらしく、その瞳はただ紅い凶暴な光を湛えるのみだ。

『ギィーーーーーーーー…………ギッ!?』

再び霊波砲を放とうと上げられた腕が途中で止まる。
彼の前に茂呂が立ちはだかっていた。

「フン、副所長たちは問題ないだろ。あの程度で死ぬようなタマなら僕が殺してるさ……」

横島たちの飲み込まれた土煙には一瞥も与えずそう呟く茂呂。
これも一つの信頼の形である。

「さて、と」

茂呂は魔物から視線を離すと、道路に膝をつきまだ肩で息をしているシロを見た。
唇を破れるほど噛み締める。
その一瞬の隙を魔物は見逃さなかった。

『シャアァーーーーーーーーーーーーーー……グ、グガァ!?』

先程のシロに勝るとも劣らぬ素早さで茂呂に掴みかかる、がその勢いが茂呂の数m前方で急激に止まる。
よく見るとその足元に広がった影の中に何かがいた。
それが魔物の脚を喰らい込んでいる。

「ばぁか。動けないだろ?そいつは俺の式神で『影顎』って言うんだ。と言っても理解できんだろうがね……なにっ!?」

『ガァァァァァーーーーーーッ!?』

力任せに脚を無理矢理引き抜く魔物。
痛覚も存在しないのか、紫色の血液が噴き出すのも厭わず茂呂に向かってその鋭い爪を突き出した。
それを寸前でかわす茂呂。

「ちっ……!」

舌打ちする。
この近距離では術の発動に時間のかかる式神召還術は使えない。

『グガァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!』

魔物の口腔に霊力が溜まっていく。

「なにっ!?まずい……!」

茂呂の後方にはシロ、おキヌがいる。
かわせば霊波砲が彼女たちに命中してしまうのは目に見えていた。

「ちっくしょーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


茂呂たちのいる地点から数kmほど先。
そこには高速をひた走る爆天号の姿があった。
時速にしてすでに100数kmは出ている。

「炎華ぁ〜、ま、まずいよ〜〜!」

いつの間にか荷台に戻っていた雪比古が後方を見ながら叫んだ。
彼が見つめるその先には。

ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん!

回転灯を光らせ追ってくる数台のパトカー。

「だから原チャリで高速乗るのは無理だって言ったのに〜〜〜〜〜〜!!」

「うっせぇ!お前だって歩いていくのはいやだって言っただろが!?」

「距離があって大変そうだね〜、って言ったんだよぉ!」

「だ〜〜〜!もううるせぇなぁ!フッ飛ばせばいいんだろが、フッ飛ばしちまえばよ!?」

「わ〜〜!そりゃまずいって炎華……」

雪比古が止める間もなく、炎華がグリップに付いたボタンを押した。

がしゃこんっ!

原チャリのメットインの両サイドから後方に向いたマシンガンが現れる。

「ふふふふふふふふふ……!」

「やっ、やめなってば!それ絶対まずい……」

「死にさらせぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

ががががががががががががががががががががががががっ!!

パトカーに向けて叩き込まれる秒間数百発に上る銃弾の嵐。
哀れパトカーたちはエンジンルームに被弾、ブレーキ音を響かせながらあるものは横転し、またあるものは壁に激突する。
そして連鎖的に爆破炎上。
後日の発表では奇跡的に死者はいなかったらしい。

「あ……ああぁ〜〜……」

「はっはっは!アタシに逆らうとどうなるか思い知ったかぁ!」

真っ白くなって呆然とする雪比古を尻目にガッツポーズを決める炎華。

「って、え?ガッツポーズ!?」

そうそう、雪比古君いいところに気が付いたね。
炎華の手はハンドルから離れてました。

ぐしゃ!!ぐしゅ!!どぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

なにか柔らかいものをひき潰したような音。
しかも連続して二つ。
さらに謎の爆発音。

「……え?」

「なんか轢いたか……?」

急激に制動をかけて止まった二人の眼に映ったもの。
それは後頭部と背中に黒々としたタイヤの跡をつけた、茂呂と魔物の姿だった。


「いでででで……し、死ぬかと思った……」

後頭部を撫で擦りながら茂呂が起きてくる。
その目の前にはヒキガエルのように潰れた魔物の姿があった。
しかも魔物の口からはもくもくと煙が溢れている。
霊波砲を撃とうとした瞬間に轢かれたため暴発したようだ。

「な、なにが……?」

状況の掴めない茂呂、その目が原チャリに跨った炎華と雪比古で止まった。

「うっス、茂呂ちん」

「あ、どうも。茂呂さん」

「あ〜〜〜〜〜〜〜!!炎華……、それに雪比古!?お前らなにやってんだ!?」

「なんだよ、助けてやったのによ〜」

「偶然だけどね……」

ずむっ!

炎華の肘がまた雪比古の腹にめり込んだ。
悶絶する雪比古。

「ママたちが苦戦してるみたいだから助けに来たんだよ。しっかし、なんだこのでっかいの?」

つんつん、と原チャリから降りて魔物をつつく炎華。
もうもうと煙を噴き上げる魔物は完全に意識を失っているようだ。

「そ、そうだ!シロさん!?」

「せ、拙者は大丈夫でござるよ。先生たちも無事のようでござるな」

慌てて振り向いた茂呂の肩をおキヌに支えられたシロが叩いた。

「だ、大丈夫ですか!?どこかお怪我はっ!?」

「大丈夫でござるって。心配性でござるなぁ、茂呂殿は」

「あ、いや……その……」

「炎華っ!」

「あ、いっけね……」

そこへやってくる令子たち。
魔物から受けた一撃が効いたのか、令子とひのめの二人を横島が横から支えている。

「なんでこんなとこにいるのよ、アンタはっ!?呼んでないでしょ!?雪比古クンまで連れてきて!」

「まぁまぁ、令子。俺が事務所に電話しちゃったからいけないんだよ。そう怒らずに……な?炎華も心配してくれたんだし……」

「う……ま、まぁアンタがそう言うなら……。でも、今度勝手な事したら許さないわよ、炎華!」

「へ〜い」

横島に宥められてなんとか怒りを静める令子。
心配して……というのがなんだかんだで嬉しかったようだ。
そしてこっちも。

「ほのちゃんが私のコブラちゃんの仇をとってくれたのか?」

瞳をうるうるさせながらひのめが炎華の両手を取る。

「ひのめ姉、コブラ壊されちまったのか?」

「うじゅ〜〜……そうなのだ〜……」

えぐえぐと愚図り始めるひのめ。
その肩を炎華がぽんぽんと叩く。

「まぁまぁ、今度カオスのじーさんとアタシで直してやっからさ?な?」

「ありがと〜〜、ほのちゃん〜〜〜」

炎華にすがりつくひのめ。
それを横目で見ながら横島が唸る。

「炎華とカオスの合作コブラ…………ふ、不安だ……」

「とりあえず、動力は謎の放射性妖怪で……」

「却下ぁ!!」

なにはともあれ、事件解決である。


その後、魔物化した青年は妙神山を通じて治療の目途が立ち、それまでオカルトGメンの保護下に置かれた。
また、韋駄天十兵衛も親である韋駄天九兵衛によって引き取られていった。
バイトで天界の新聞配達員をやっていたらしい。
九兵衛は以前と違いすっかり角が取れて丸くなっていた。
そして、炎華が全滅させた高速警備隊についても令子が金で隠蔽させたらしい。
それについても後日しこたま叱られる事となるのだが。
ちなみに、真友タマモペアは高速の入り口を封鎖していた警察に止められたため、とうとう間に合わなかった。


で、事件解決の夜。

「はぁ〜、疲れたな〜」

「ほんとね……お腹空いた……」

ようやく事務所へ帰り着いた横島たち。
彼らを待っていたのはパピリオの豪勢な手料理の数々であった。

「うおっ!?すっげぇ!」

「これは見事でござるな〜!」

「パピリオちゃん、ちゃんと練習してたのね〜」

「おぉ!うまいのだ」

茂呂、シロ、おキヌ、ひのめが感嘆の声を漏らす。
それほど素晴らしい出来栄えだった。

「でも油揚げがないじゃない」

「タマモ〜、あんなに油揚げ買ってきたじゃんか……」

料理を見て不満そうなタマモを、高級油揚げで散財した真友が宥める。

「パピが腕によりをかけて作ったですよ♪さぁ、食べてください」

『あ、十兵衛様もどうぞ。お茶でよろしいですか?』

『あ、悪い……。う、うまい!?』

『最高級の玉露でございますから』

人工幽霊壱号の淹れたお茶を飲んで眼を輝かせる十兵衛。

「なんでアンタまで一緒にいるのよ?さっさと帰りなさいよね?」

「まぁまぁ令子。いいじゃないか?十兵衛君はあとで天界から迎えに来るってさ」

「まったく。人工幽霊壱号?玉露じゃなくって出涸らしの一番薄いやつでいいわよ!」

『ひでぇ……勘違いしたのはそっちじゃねぇかよ?』

「なんか言った……?」

『なんでもねぇっス……』

「さぁて!そろそろアタシの手料理も食べてもらうとするかな?」

「え?」

「う……」

「へぇ、炎華の手料理かぁ!う〜ん……パパは嬉しいぞぉ!」

「炎華、アンタ料理なんかできたっけ?」

「当然!アタシはママの娘だぜ?」

「たまに息子じゃないかって思うんだけど……」

「さぁ、食べてくれよ、親父!雪比古もそこの韋駄天もどうだ?」

「もちろんさ!さぁ、雪比古君!…………ん?どうした?」

「あ、いえ……その……」

しり込みする雪比古。
その目の前で炎華が無言の圧力をかける。

「た、食べます!う、うわ〜い……た、楽しみだなぁ……」

どうでもいいが台詞が棒読みだ。

『俺も貰うぜ!いやぁ、楽しみだなぁ』

「んじゃ、ほい、どうぞ!」


『もげげげげげげげげげげ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!』


その日からしばらく美神除霊事務所の中にはなんとも生臭いような異様な香りが漂う事になったという。
合掌。


GSキッズ7に続く!


「え〜、って訳で。明日は恒例のクラス対抗戦よ。ま、適当に頑張んなさいな。以上〜」

どどっとクラス全員がこける中、ホームルームを終え飄々と教室を出て行く担任教諭。

炎華たち1年A組の担任、暮井ミドリの授業はいつもこのような感じだった。
彼女は厳密には人間では無い。
かつて、横島忠夫の母校に一時赴任していた暮井緑――現在は高名な画家――が造り上げたドッペルゲンガーなのである。
元々あまり人間らしい感情を持ってはいなかった彼女だが、本体である暮井緑が夢であった画家となった今、『腐れ仕事』に精を出す必要もなく、かと言って仕事をせねば食ってはいけず――ドッペルゲンガーである彼女の常食は絵の具だが――やむなく六道学園に再就職はしたものの、教育にかける熱意など持てるはずもなかった。
まぁ、その飄々とした雰囲気と生徒にあまり関わろうとしない性格が人気がある事は確かなのだが。

と、暮井ミドリが教室を出て行った瞬間、がたっと椅子を倒して立ち上がり思い出したように叫ぶ一人の姿があった。

「って、ちょっと待て!明日が本番なのにウチのクラス代表決めてないぞっ!?」

当然と言うかなんと言うか、クラスの実質的リーダーである炎華である。
しかしその声にクラスメイトたちはほとんど関心を示そうとしない。
かろうじて話に乗ってきたのはと言えば沙耶香、恵子、芳恵、そして雪比古のいつものお決まりのメンバーたちである。

「だってさー、代表の一人は当然炎華じゃない?」

「ま、まぁな?アタシは元々出るつもりだったし……」

「それよ、それ!炎華と一緒にチーム組む事なんてなったら……あぅぅ、想像するだけで怖いわね……」

「爆弾抱えて自爆させられるか、相手ごと吹き飛ばされるか……好き好んであんたとチーム組もうなんていう奴、正直雪比古君くらいよ?ねぇ、雪比古君?」

「えっ!?いや、僕は別に……。って言うかどうせ組まされる事になるんなら始めから志願した方がいいかな〜って……」

「そうよねぇ、志願兵と徴兵された兵士とじゃあ待遇に差があるわよねぇ」

「うんうん、言えてる」

「まったくだわ」

しみじみと雪比古の意見に相槌を打つ三人娘。
彼女たち自身炎華とチームを組むつもりなどさらさらないらしい。

「お、お前ら……アタシを何だと思って……」

わなわなと肩を震わせる炎華に、三人娘はびしっと指を突きつけた。

「「「アシュまた炎華!」」」

これまた綺麗にハモる。
炎華はちょっとぐうの音も出なかった。

「ぐぅ……」

あ、出た。


GSキッズ7
「廓然大公!目指せ、学校の七不思議!」


「しっかしいくらなんでもまずいよなぁ……。結局代表の残り一人決まらなかったしよぉ……」

その日の帰り道、炎華はまだ朝のホームルームの事を気にしているのか、終始ブツブツ呟きっ放しである。
結局、クラスメイト全員を宥めたり賺したりしてみたが誰一人、彼女とチームを組もうという者はいなかったのである。
そんな彼女の後ろを付いて歩く雪比古は、無駄だろうな〜、と思いつつも疑問を口にしてみた。

「あのさぁ、炎華?残り一人って事はやっぱり…………二人目は僕?」

「はぁ?当たり前だろ?今更なに言ってんだ、雪比古?」

「あはははは……そうだよね……うん、そうでした……」

今晩辺り遺書を認めておいた方がいいかもしれないな〜、などと考えさらに鬱に陥る雪比古だった。
その時である。

「あっ!」

「ど、どうしたの、炎華!?」

「見つけた……」

「え、見つけたって……もう一人の選手の事?って、ちょっと炎華ぁ〜〜!?」

突然何かを目指して走り出した炎華。
そのスピードは尋常でないのだが、炎華の荷物も抱えてどうにかそれに付いて行く雪比古の脚力もなかなかのものではある。
そうこうしながら彼女に追いついた雪比古が見たもの、それは。

「あの!あの!名前と住所と携帯電話教えてくださいっ!」

「は、はぁ?」

はうはう、と息を荒げながら普段とは180度真逆の性格に豹変し、通りすがりの男にメモ帳を差し出す炎華の姿だった。
見ればその男、かなりの美形である。
思わず頭を抱える雪比古もそれなりの美形ではあると思うのだが、この男にはちょっと敵いそうにない。

「ちょっと、炎華ぁ〜〜」

「うるさいわよ、雪比古っ!あのあの!携帯番号だけでもいいんですけどっ!」

「あ、いや……ちょっと、ごめん……」

「あぁーー!美形のお兄さんカムバーーーーック!」

そそくさと視線を逸らしつつ逃げていく青年。
それはそうだろう。
いくら炎華が美少女とは言え、その目付きが尋常ではない。

「まったく、炎華は……。最近なりを潜めたと思ってたんだけどなぁ〜」

よよよ、と泣き崩れながら逃げ去る青年に手を差し伸べる炎華を見て、雪比古はため息を付いた。
これも彼女の性格の一面、美形を見ると声をかけずにはいられないという……父親からの遺伝であろうか。
ちなみに最近なりを潜めていたのは、単に近場に声をかけていない美形がいなくなっただけである。
彼女はまた飽きっぽくもあるのだが、真っ先に見飽きられた美形雪比古君はそれに気付いていない。

(あぁ、でもそんな炎華がちょっと可愛く見えたりする僕はダメな奴でしょうか、神様……)

なんて事を考えながら天を仰いだりする。
どこかで見た事のある覗き見専門の神様が、「ダメダメなのねー」と、頭上で大きなばってんを作っているのが見えたりしてまたちょっとへこんだ。

「はぅぅ……ま、いいか。よーし、雪比古。事務所に行くぞ」

「おわっ!?また唐突に立ち直ったねぇ〜……」

「いつまでもウジウジしてもしょうがないからな!それよりひのめ姉に聞いてみようぜ?アタシたちの先輩だし、なんかいいアイディア出してくれるかもしれないからな」

「あ、そっか!うん、いってみよう!」

駆け出す二人。
二人は特に感覚が鈍いという訳ではない。
だが、その時は美形に逃げられたショックやら神様にダメ出しされたショックやらで少々鈍くなっていたようである。
彼女たちは、その背後の電信柱から覗く小柄な影の存在に気付いてはいなかった。


「うじゅ〜〜……暇なのだ」

ちょうど彼女たちが事務所に着いた頃、ひのめは相変わらず地下のガレージでぐうたれていた。

余談だが、数年前制作した美神除霊事務所依頼倍増計画グッズNo.1203、『たれひのめ』はあまり売れなかったらしい。
最も好評だったのはカオス協力による『時空消滅湿布薬』。
病変を過去の因果に遡って消滅させるという画期的な湿布薬であった。

本題に戻ろう。

「ひのめ姉〜、いるかぁ?」

「ん〜〜?あ〜、ほのちゃん。うっス」

「うっス!」

「こんにちわ、ひのめさん」

「おぉ、雪ちゃんもか。まぁまぁ座りねぇ座りねぇ」

といいつつ脇に置いてあるクッションをぽふぽふ叩くひのめ。
二人はそこに座るなり、本題を切り出した。

説明中。

説明中。

ひのめ爆睡中。

「「寝るなーーーーっ!!」」

「んあ……うむ。話は判ったのだ」

「マジかよ、ひのめ姉?」

「完璧に涎垂らして寝てたけど……」

「だーいじょうぶ、むわぁーかして!」

どん、とその豊満な胸を叩いて豪語するひのめ。
強く叩きすぎてちょっとムセたのはご愛嬌だ。

「ほのちゃんたちは聞いた事ないか?六道学園の七不思議の噂……」

「六道学園……」

「七不思議……ですか?」

「うむ」

ひのめは新しい煙草に火をつけるとふんぞり返った。
以後、長い上にちょろちょろ脱線するので彼女の話をまとめるとこういう事になる。

六道学園には御多分に漏れず、学校の七不思議という物がある。
曰く、「六道学園の3階男子トイレには怪人赤マントがいる」
曰く、「夕方一人で校門に向かうと紫ババアに襲われる」
曰く、「六道学園1階女子トイレの奥から3番目の個室にはトイレのはなこさんがいる」
曰く、「六道学園1階女子トイレの奥から4番目の個室にもトイレのはなこさんがいる」
曰く、「2階へ向かう階段の踊り場の鏡を4時44分に覗き込むと悪魔が映る」
曰く、「庭にある銅像は夜歩き回っている」
とまぁ、別にどこにでもありそうな物ばかりではある。

「で?七不思議なのに6つしかないのが最後の不思議、ってか?」

「その通りなのだ」

「って、はなこさんて二人いるんですか……?」

「あ、ホントだ」

七不思議を確認して納得する炎華。

「いや……たぶん姉妹とか……?」

「トイレのはなこさん姉妹〜〜?聞いたことねぇぞ、そんなの?」

「う〜む……奥が深い……」

ひのめと虚ろな目をした学生服の男は腕組みをして頷いた。

「???」

ひのめがばっと振り向くが誰もいない。
首を傾げるひのめ。

「って、それがどうやって明日のクラス対抗戦に結びつくんでしょうか……?」

「ふっふっふっふっふ、それは……」

「「それは……?」」


「つー訳で夜の学校にいる訳だな、アタシたちゃ」

「なんで俺まで来なきゃいけないんだ?」

「あら?私はちょっと楽しみよ?学校の七不思議なんて青春よねーー♪」

「七不思議の張本人がなに言ってんだよ、愛子?」

「う〜、横島君結婚してから冷たいわよ?」

「なんだそりゃ!?」

という事で、七不思議といえばこの人(?)。
机妖怪の愛子を連れて深夜の六道学園にやってきた横島たちだった。

ちなみに愛子は未だに横島の母校で生徒を続けているらしい。
最近は教師として赴任してきた横島の元クラスメイトのめがね君のクラスにいるそうだ。

「で、ひのめちゃんが言った解決方法ってのはようするに……」

「ウチのクラスの隣にいるって言うはなこさんをチームに入れちまえ、って事だな」

「乱暴な事教えるよな〜、ひのめちゃんも……」

「あ、でもウチのクラスに在籍してるみたいですよ、彼女……って言っていいのかな?」

「なにぃ!?」

そう、何故か炎華たちのクラスの出席簿には存在はするのだが決して名前を呼ばれない謎のクラスメイトの名があった。
そこに書かれていたのは。
『川谷花子』
という名前。

「かわやはなこ…………そ、そのまんまって言えばそのまんまな名前だな、こりゃ……」

職員室からこっそり拝借してきた(犯罪)クラス名簿を見る炎華たち。
確かにそこには炎華たちが今まで一度も聞いた事のない名前が載っていた。

「で、愛子……ちゃん?」

「なぁに?炎華ちゃん?…………あぁっ!元クラスメイトの娘さんがいつの間にか同級生で、しかもちゃん付けで呼ばれるのって青春よねーー♪」

「どんな暗い青春だよ……俺はヤだぞ?」

「ノリが悪いわね、横島君。どっかで馬と脳みそ入れ替わっちゃったんじゃないの?」

「俺は馬より馬鹿なのかよっ!?」

「バカ親父はほっといて。どうやったらこの花子さんを呼び出せるわけ?」

放っておかれた横島が廊下の隅でのの字を書いている。
その背中に漂う哀愁につい引き込まれ一緒にのの字を書き始める雪比古。
暗い。

「あ〜、それはね。こうすればいいのよ」

ぴんぽ〜〜〜ん。

愛子がトイレの横に付いたチャイムを鳴らした。

「チャ、チャイム……?確かに付いてたけど……まさかこの為にあったなんて気付かなかった……」

『は〜い』

意外と可愛らしい声がトイレに響く。
と、同時に響くずしゃっ、ずしゃっという鎧武者か何かが歩いてくるような重厚な足音。
そして某ソ連代表残虐超人を思わせるような呼吸音が響く。

ふしゅるるる〜〜〜〜〜〜…………。

横島はどこからか某Tネイターのテーマソングが聞えた気がした。

ぎぎぎぎぎ……がちゃり。

『わらわがトイレの華子さんじゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!』

「燃え上がれ俺の小宇宙!文珠ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

ちゅどぉーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!

「はっ!いかん、俺の第7感がアレは敵やと判断してしまったーーーーーーーーーっ!!」

爆文珠をトイレ内に投げ込んでおいてから頭を抱えそう叫ぶ横島。
トイレの中からはもうもうと黒煙が噴き出している。

「うわっ、ひっでぇ……欠片でも残ってりゃ御の字だな……って、げ!?」

恐る恐るトイレの中を覗き込んだ炎華が凍った。

「ま、まぁ青春よねーー……え?」

それにつられて覗き込んだ愛子も凍る。

「な、なんでしょうね……横島おじさん……」

「お、俺に聞くなよ雪比古君……ひょっとして中身はグチョグチョのドロドロで……!」

「うわーーーーーーーーっ!お、おじさん先に行ってくださいよっ!」

「なんだとーーーー!?こういう時は若いものから先に行くべきだろっ!雪比古君、GO!」

「って、押さないでくださいっ!」

などと二人が醜い争いをしていた時。

『クスクスクス……』

と背後から笑い声が聞えたかと思うと、とん、と軽く二人の背が押された。

「「おわーーーーーーーーっ!?」」

どどっ、とトイレの中に転がり込んだ二人。
その目の前に筋骨隆々とした堂々たる体躯のランドセル少女(?)が仁王立ちで待ち構えていた。
その身体には傷一つ、いや煤汚れさえ一片たりとも付いてはいない。
文珠の威力をよく知る二人の顔がサーッと青褪めた。

『フム……お主が先程の文珠を投げ込んできた男か……?』

と、その無表情な鉄面皮を横島にずずいっ、と近付ける華子さん。
その顔のアップだけで雪比古の早鐘のように脈打った。
まぁ逆の意味でだが。
人これを、頻脈という。

「す……すんませんしたっ!ほんの出来心やったんですーーーーーーーーっ!イヤっ、お願いだから堪忍してーーーーーーーーーっ!!」

恥も外聞もかなぐり捨てて素でびびる横島に、華子さんはにっこり……と?微笑んだ。

『あのように激しくアプローチしてきた殿方は久しぶりじゃ……。わらわの好みじゃのぉ……』

じゅるり、と口の端を擦る華子さん。
と、その様子を恐る恐る眺めていた雪比古の横で横島が気絶した瞬間、彼の背後から再び先程の声が聞こえてきた。

『クスクスクス……華子さん?そんなにイジメたらその人たちが可哀相だゾ?』

『ぬぅ……花子ちゃんか。本気だったんじゃがのぉ……』

『なおさらだヨ〜』

『じゃあこっちの若者でもよいわ……ぐっふっふっふっふ』

『やめたげなっテ……』

二人(?)の笑い声の中で雪比古が意識を失ったのはその直後の事だった。


「って、事は……。3番目の個室がこっちの花子ちゃんの巣で、4番目の御個室が華子様の御寝所な訳ですか……」

『なんか扱い違い過ぎなイ?』

「気のせいだ」

二人のはなこさん、筋骨隆々の華子様と可愛らしいおかっぱ頭の花子ちゃんを交互に眺める横島。
既に二人と出会ってから数十分、炎華たちがまだ気絶したままの為二人の相手は必然的に先に目覚めた横島がする事となっていた。

『のぅ、横島とやら。わらわと一晩限りのアバンチュールと洒落込む気はないのか?』

「俺、妻帯子持っスから!」

『0.2秒で完全否定だヨ〜〜♪すごいすごい〜〜♪』

先程から横島に色目遣いまくりな華子様と、やけにテンションの高い花子ちゃんの二人を相手にしていた横島の疲労は既に極限に達しつつあった。

(くそっ!なのにコイツラ全っ然起きやがらねぇっ!チクショーーーーッ!)

横目で気絶したままの3人を睨む横島。

と、ここで一応説明しておこう。
横島の右手の洋式便器に行儀よく腰掛けているのが、筋骨隆々の大女(?)華子様。
昔のとあるお姫様や星神のいお姫様にそっくりな、厳つい容貌の持ち主である。
そして左手の洋式便器にちょこんと座っているのが、見た目小学生の花子ちゃん。
ショートボブなどではなく、昔ながらのおかっぱ頭をした可愛らしい少女だ。
ちなみに二人とも白いブラウスに赤いスカート、赤いランドセルを背負っている。
のだが、何故ここまで印象が違うのだろうか……。

などと横島が考えていると。

「う……うぅん……」

『こ、ここは〜……』

「頭痛い……」

などと言って3人がようやく起きだしてきたのだった。


『へぇ〜、クラス対抗戦かぁ。面白そうだネっ♪』

意識を取り戻した炎華からクラス対抗戦の事。
そしてそれにチームメイトとして参加して欲しい事、などを説明された花子ちゃんは嬉しそうにぴょんこぴょんこ飛び跳ねた。
昔から六道学園にいる花子ちゃんは昔から学校行事という物に参加してみたかったらしい。

『なんじゃ、わらわも出てやってもよいのだぞ?横島殿にわらわの実力をご覧頂くチャンスよのぉ。小娘や小童なんぞ千切っては投げ千切っては投げ……ぐふふふふ……』

華子様はといえば物騒な事を呟きながら、トイレの壁のタイルを紙のように毟り取って見せた。

「いや、華子様はまずいっしょ……?霊圧が半端じゃないし……」

さすがの炎華もこの華子様にはたじたじである。
ちなみに華子様は花子ちゃんと違い、れっきとした神様なのである。
便所神などと呼ばれ女性のお産に関する神様らしいのだ。
もっとも、華子様本人は便所神という呼称が御気に召さないらしく、先程その言葉を口走った横島がまだ壁にひしゃげて張り付いていたが。

『フム……残念じゃのぉ……』

『僕はOKだヨ♪炎華たちのチームメイトになってあげル♪』

「ホントか!?花子ちゃん!?」

「やったー!これでメンバーが全員揃ったね、炎華ぁ」

『あ、その代わり……優勝商品とか5割貰うからネ?』

「なにぃ!?じゃあアタシの分は5割しかなくなっちまうじゃねぇか!?」

『あったりまえジャン?僕はわざわざ手伝ってあげるんだヨ〜〜?そのくらいの報酬は貰わなくチャ♪』

「うぐぐぐぐぐぐぐぐぅ〜〜〜!」

「あは……ははは……僕の分は最初っから数に入ってないみたいだね……うぅ……」

『これもまた、青春よね〜〜♪』

なにはともあれ、波乱含みとなりそうなクラス対抗戦、開幕である。


GSキッズ8に続く!


『うぅ〜♪楽しみだナぁ♪早く〜、早く始まレ〜〜♪』

 六道学園、クラス対抗戦選手控え室。
 1年から3年までの代表選手たちがそれぞれ精神統一や、試合前のアップをしている中でただ一人、小学生にしか見えない花子が待ちきれないといった様子で飛び跳ねていた。

「ちょっとは落ち着けよ、花子。そんなにはしゃいでると試合前にバテるぞ?」

「そうだよ、花子ちゃん。試合までまだ30分くらいあるんだからさ?落ち着いてて大丈夫だよ」

 炎華と雪比古が落ち着かせようとするが花子は全く聞く耳を持たず、ますますぴょんぴょん飛び跳ねる。
 その服装は昨晩と同じ白いブラウスに赤いスカートの為、彼女が跳ねる度にスカートの裾がまくれ上がる。
 おまけに背中に背負った赤いランドセルがガチャガチャと騒々しい音を立てていた。
 ちなみに、炎華と雪比古の服装はいつも通りの制服である。炎華はともかく、雪比古は闘龍寺の霊衣があるはずなのだが、学生服で通していた。
 そんな花子の騒ぎにを他のクラスの選手たちがジロリ、と睨みつける。

「あぁっ、は、花子ちゃん!大人しくしてないとっ!」

『大丈夫、大丈夫♪あんな奴らが怒ったって花子、全然怖くないも〜〜ン♪』

「あぁっ!火に油っ!!」

 ファッキン、と中指を立ててみせる花子。
 控え室の空気が一瞬で凍りついた。


GSキッズ8
「気炎万丈!開幕、クラス対抗戦!」


「言ってくれるじゃねぇか、炎華よぉ?あぁ?」

「僕たちに勝てると思ってるのワケ?」

 冷え切った雰囲気の中、額に青筋を浮かべた虎次郎、そして普段と変わらぬ雰囲気のアンディが炎華たちの前に現れた。
 虎次郎は母親とよく似た特攻服スタイル、アンディも呪術師のような服装をし両頬に隈取りのような模様を描いている。

「へっ、虎次郎にアンディ先輩かよ。言っとくけどな、そういう台詞はアタシに一回でも勝ってから言うもんだぜ、虎次郎?」

「ふん!それはこっちの台詞だ、炎華ぁ!てめぇこそいつもみたいな卑怯な技は使えねぇんだぞ!?覚悟するのはてめぇの方だぜ!」

「そうそう。せっかく今年から対抗戦が学年別じゃなくなったんだしね。一年生に僕ら先輩の実力ってものを見せ付けてあげるよ!そうだろ、こーちゃん♪」

「こーちゃん言うな、アンドレア!とにかく、だ!学校霊をチームメイトなんかに選ぶようじゃ、てめぇらもおしまいよぉ!はっはっはっはっはっは!」

 虎次郎が花子を見てバカにしたような視線を向ける。
 2m近い巨漢の虎次郎から比べると、小学生にしか見えない花子は腰までの高さしかない。

『なんだトぉ〜〜、僕の事馬鹿にしたナ!?僕はこれでも50年以上幽霊やってんだゾ、このゴリラ!』

「ぬあっ……だ、誰がゴリラだ!この餓鬼っ!」

『どっからどう見てもゴリラじゃんカ!名前も虎次郎なんて偉そうなのじゃなくって、ゴリ朗に変えたラ〜〜?』

「てめぇ!試合までなんて待ってられるか!今すぐぶっ殺してやるっ!」

『もう死んでるも〜ン♪』

「くわぁーーーーーーっ!あったま来たっ!」

 小学生相手に完全にムキになる虎次郎。あまり格好のいい姿ではない。
 と、虎次郎が花子に掴みかかりそうになった瞬間、その首にスッと日本刀が突きつけられた。
 妖しく光るその刃を見て虎次郎の喉がグビリ、と鳴る。

「その辺にしておいたらいかがです、お二方。それ以上控え室内の空気を乱すというのなら……この九能市吹雪、お相手して差し上げますわよ?」

 その日本刀を突きつけた女子生徒が冷ややかに告げた。忍者のような服装をした和風な顔立ちの美女である。
 右腕に付けられたリボンの色からすると、どうやら3年生らしい。

「く、九能市先輩……!?」

「九能市〜〜?誰だ、このねーちゃん?」

 青褪める虎次郎、一方炎華はまったく知らないようで平気な顔をしている。
 と、虎次郎が炎華の顔を引き寄せた。
 その様子に雪比古とアンディが嫉妬の視線を向ける。どちらがどちらに嫉妬しているのかは言わぬが華。

「バ、バカヤロ!お前は自分のガッコの生徒会長も知らねぇのか!?それにこの人はなぁ……怒らせるとマジで怖いんだよ。忍者の末裔とか言ってかなり強いし……」

「負けた事あるのかよ……。お前ホントに喧嘩強いのか〜?『無敵の虎』の名前が泣くぞ?」

「う、うるせぇ!この間はちょっと油断しただけだ!」

「しかも負けたの最近かよ……情けね〜」

「だからうるせぇって……」

「何をごちゃごちゃ言っているのですっ!」

 九能市の怒声と共に、しゅぱっ、と空を切る音が響く。
 次の瞬間、二人の間にあった机が見事な切断面を曝して真っ二つになっていた。

『お〜、机の開きダぁ〜〜♪』

 無邪気な歓声を上げる花子を他所に、虎次郎の顔はますます青褪めた。

「い、いや……ごちゃごちゃ言うつもりは……!」

「なんだよ、九能市先輩よぉ?アタシたちが騒ごうが暴れようがアンタには関係ないだろ!?」

「バカヤロ……!何言ってんだ、炎華!」

「貴女……美神炎華さんですわね?」

 九能市は炎華にキッと冷たい視線を向けた。
 虎次郎や雪比古たちがビビって後ずさりする中、炎華はその視線を真正面から受け止め睨み返す。

「そうだよ、なんか文句あっか!?」

 九能市は炎華の全身をじろじろと見回した。
 その視線が彼女の胸の位置でピタリと止まる。

「フッ、小学生が一人紛れ込んでいるかと思ったら、こんな所にも小学生がいましたわねぇ。小学生同士せいぜい仲良くすることね?」

「なっ……なんだとぉーーー!?てめぇっ!今アタシの胸見て言いやがっただろ!?」

「あら、自分でも自覚していらっしゃるのね?」

「むっかーーーーーーーっ!自分がアタシよりちょぉーーっとばっかし胸があるからってーーーーーーーー!」

 確かに、九能市の胸は忍び装束の上からでも判るほどくっきりとその形を浮かび上がらせていた。
 ちょっとばかしというか、比べるのも炎華が気の毒なくらいである。

「んだと、作者ぁ!?」

「とにかく。控え室でこれ以上騒ぐ事は生徒会長としても許しておく訳には行きません。これ以上騒げば強制的に出て行ってもらいますわよ?」

「ぐっ……わ、判ったよ。大人しくしてりゃいいんだろ!?」

 いつになく大人しく引き下がる炎華。
 生徒会長権限を持ち出されて出場停止にでもされては元も子もない。
 不機嫌な顔つきで雪比古たちの傍へ戻る炎華。その後ろで九能市が口元に手を当て笑う。

「判ればいいんですのよ、判れば。オホホホホ」

「ぐぬぬぬぬぅ〜〜!」

 頭の血管がぶち切れそうな勢いで足音荒く戻ってきた炎華を、雪比古と虎次郎そしてアンディがが慰める(?)。

「炎華ぁ〜、あんまり気にしない方がいいよ?胸が小さい事なんか欠点の内に入らないって。ね?」

「そうだぜ、炎華。お前には他にもいくらでも欠点があるんだしよ?確かに胸は小さいが……」

「胸が小さくたって大丈夫さ、炎華ちゃん!小学生の低学年には勝ってるワケ!」

「てめぇら、それで慰めてるつもりかぁーーーーーーーーーっ!!」

がっしゃーん!

 机をひっくり返して乱闘を始める炎華。雪比古たち3人があっという間にボロボロになる。

「静かにしなさいといったでしょう!」

『え〜、今から第1試合を始める。呼ばれたクラスはすぐに結界リング前に集合するように!えぇな?』

 控え室内のスピーカーから政樹の声が響く。
 そのスピーカーの方向を控え室内の選手全員が一斉に仰ぎ見た。
 騒いでいた炎華たちもさすがに静かに政樹が読み上げる内容を聞く。

『まずは2年C組対1年A組や。えぇか、すぐに始めるで。以上や!』


 校庭のテニスコートに設置された特殊結界魔方陣、通称結界リング。
 その周囲には観客席が設けられ、代表に選ばれなかった生徒たちが試合開始の時を今か今かと待ち構えていた。
 そして、その観客席の前に作られたテントには毎年一流のGSたちから選ばれ招待される特別審査員が座っていた。

「この雰囲気は変わってないわねー、おキヌちゃんたちの試合の時を思い出すわ」

「確かになー。しかも今回は愛娘の試合だっていうんだから……年をとったよなぁ」

 十数年振りに審査員として招待された美神横島夫妻である。
 と、令子が横島の台詞を聞き額に#を貼り付かせた。

「なによ?それは私が老けたって言いたいわけ、横島クン……?」

「バッ、バカ言うなって!お前は昔と変わらず綺麗だよ、令子」

 キラッと前歯を光らせて見せる横島だが、令子にそんなものは通用しない。

「フン、どうだか。さっきも女子生徒に挨拶されて鼻の下伸ばしてるの見てたわよ?」

「いや、あれは……あっ!そ、その神通棍は一体……?ちょ、ちょっとぉ、令子さん!?」

 しばらくの間、テントの中からはこの世の物とは思えない悲鳴が響き渡った。
 その横では六道学園理事長が何匹かの式神を侍らせながらお茶を啜っている。

「れ〜こちゃんたち変わってないわね〜〜。冥子うれしいわ〜〜〜〜♪」

 2、3年前に母親から理事長職を引き継いだ六道冥子である。
 彼女も政樹と結婚し今では2児の母であるが、そののほほんとした性格及び常に式神を出している癖は全く変わっていなかった。
 今現在も申のマコラや卯のアンチラが冥子の言葉に同意するように『クケケー』などと奇声を上げている。

「うがっ……がふっ……め、冥子ちゃん……助け……なっ、マコラなにすんだっ!?う、うぎゃーーーーーーーーーっ!?」

 冥子に助けを求め手を伸ばした横島にマコラが蹴りをお見舞いする。
 気分が乗ったのかそのまま美神に協力し始めるマコラ。

「あ、そろそろ試合が始まるわ〜〜〜〜」


「うっし!アタシたちの出番だな!」

『うん♪早く行こうヨ、炎華〜♪』

「おう!」

 堂々たる足取りで結界リングへ向かう炎華と花子。その後ろからズタボロになった雪比古がヨロヨロと付いて行く。
 そしてリング横へ。そこには既に対戦相手である2年C組の生徒たちが彼女たちを待ち構えていた。
 2年C組の代表は全員女子生徒のようである。男物のように見える白のスーツ、空手風の胴着、やけに露出度の高い赤い服と全員バラバラの格好をしている。
 3人目の生徒に興奮した審査員がまたシバかれているようだ。聞くに耐えない悲鳴が響く。

「なにやっとるんや、横島は……。遅いぞー、美神、弓。時間ないんやからすぐに始めるで?」

 呆れ顔でテントを眺めていた政樹がようやくやって来た炎華たちを叱った。

「すんまへ〜ん、雪比古の野郎が回復に手間取ったもんで……」

「あんまし弓を虐めんなよ……?大丈夫か、弓?」

 政樹がズタボロの雪比古を気遣うように声をかけた。
 雪比古はといえば学生服もあちこち破れ、ほこりだらけ、引っかき傷だらけと酷い有様である。

「だ、大丈夫です……。慣れてますから……」

「そっか。ま、お前見た目より頑丈やから大丈夫やろ。ほな、始めよか」

 政樹はそう言うと踵を返し、テントの前方に当たるリングの外に立ち両チームを見た。

「えぇか?判ってると思うが、この試合はGS協会公認のGS試験と同じルールで行う。結界魔方陣の中では霊力を使用しない攻撃は無効化されるからそのつもりでな?一度にリングの中に入れるんは両チーム一名ずつ。それ以外の選手はリングの外で待機するように。交替する時は選手の体の一部にタッチする事。武器その他の持込は可。5カウント一本勝負、時間は無制限。以上や、判ったか?」

 両チームの選手が頷く。 

「それじゃ、両チームの選手、一人リングの中へ!」

「さて、どうすっかな。雪比古……は無理だな、こりゃ。花子行くか?」

『うん♪行く行く〜〜♪僕にまっかせっなさ〜い♪んじゃ、行ってきま〜〜す!』

 ヴン、と音がして花子がリングの中へ入っていく。
 対戦相手の2年C組の先鋒はどうやら胴着の生徒らしい。
 額に巻いた赤い鉢巻が風に靡く。

「それでは……第1回戦第1試合……始めっ!」

 政樹の号令で試合が始まった。


『ムフフフフ〜〜♪いっくゾ〜〜〜〜〜〜!』

「それはこっちの台詞だっチ!小学生だからって手加減しないっチよ!?でぇ〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!覇王焼香拳!」

 その場で飛び跳ねる花子に向かって対戦相手の女子生徒が霊波砲を放つ。
 小柄な見かけによらず、なかなかの出力である。

『おっと!』

 それを軽々と避けてみせる花子。しかし、その霊波砲の陰から女子生徒が現れた。

『え!?』

「甘いっチ!百合!超裂破ぁ!」

 ばぎぃっ!と音を立て、百合と名乗った女子生徒のアッパーカットが花子を捉える。

『にょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?』

 一気に結界の端まで吹き飛ばされる花子。ダメージはそう大きくはなさそうだが、目を回してしまっている。

「花子っ!」

「花子ちゃん!前見て、前!」

『ほぇほぇほぇ……ふぇ?うわっとっとっと!?』

 目を覚ました花子の目の前を、百合がとどめとばかりに振り下ろした拳が通り過ぎた。
 ケンケンをするように距離をとる花子に、相手は素早く距離を詰めさらに正拳や蹴りを繰り出してくる。

『うわわわわわわ〜〜〜〜〜!?』

「ちょこまかするんじゃないっチ!」

『ちょこまかしないと当たるじゃんカっ!?』

「当然だっチ〜〜〜〜〜〜!!っ!?」

 ブンッと渾身の力の込められた拳が空を切る。花子はいつの間にか空中に逃げていた。
 元々幽霊の彼女にとって宙に浮く事など造作もない事である。

『もう怒ったゾ!もう少し遊ぼうかと思ったけど……やっつけちゃうもんネ!プンプン!』

 頬を膨らませた花子がランドセルを下ろすと留め金を外し、その口を対戦相手に向けた。

「何をするつもりだっチ?」

『おいで!だいだらぼっち!』

 そう花子が叫んだ瞬間、どう見てもランドセルには入りきらないだろう、と思われる巨大な足が飛び出す。
 そのままそれは百合を踏み潰すような勢いで地面を踏み抜いた。

ずずぅん!!

「うわっ!?な、なんだっチ、これは!?」

 かろうじてそれを避けた百合、だが危機はまだ終っていなかった。

ずずぅん!!ずずぅん!!ずずぅん!!

 まるでタップを踏むように何度も巨人の足が地面を踏み抜く。
 その度に会場全体が揺れるほどの振動が伝わってくる。 

「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 あまりの猛攻にリングの隅に追いやられる百合、その手を白スーツの生徒が掴んだ。

「交替だよ、百合!」

「王!後は頼むっチ!」

「あぁ!」

 結界を抜けた百合と入れ替わりにリング内に立つ白スーツの生徒、王。
 彼女は首を左右に振りポキポキと音を立てると、その場で一気に飛び上がった。
 尋常ではない脚力で瞬時に花子と同じ高さにまで達する王。

『ず、ずるいゾ!?飛ぶなんてぇ!』

「あんたに言われたかぁないね!いくよっ!」

『あきゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?』

 王の蹴りが花子を地面に叩き落す。
 さらに王が上空で長い脚を振ると、無数の霊気弾が発生し花子目掛けて降り注いだ。


「へぇ、やるじゃないかあの娘。あれだけの霊気弾を自在に操るとは」

「そうね。さっきの子もかなりの出力だったけど、今度の子も見込みあるわね〜」

 早々に復活した横島が王の放った霊気弾を見て感嘆の声を漏らした。
 傷一つなく回復しているところはさすが、元祖不死身の男である。
 その言葉に賛同する令子。内心、あとで名刺の一つも渡しておこうか、などと考えているのは冥子には秘密だ。

「でも〜〜、あの花子ちゃんっていう子も珍しい能力ね〜〜」

 それまでのほほんと試合を観察していた冥子が口を開いた。
 その視線は地面に叩き落されまた目を回している花子に注がれていた。

「学校霊らしいけど、それなりに力は持ってるみたいだしね。ってか、試合出てよかったの、冥子ちゃん?」

「え〜〜?でもあの子ウチの生徒なんだから〜〜、大丈夫よ〜〜。きっとすぐにお友達が出来るわ〜〜」

「あ、いや。そうではなくて……」

「いいのよ、横島クン。それに六道学園には人外の生徒も結構いるのよ?人狼もいるし、化け猫とかもいるらしいわね」

「そうなのか!?人狼って、やっぱりシロのとこの?」

「らしいわね。これからは人と人外の者たちが仲良く暮らしていく時代よ。そのテストケースって訳ね」

 事実、六道学園の入学枠には特殊推薦枠という物があり、GSなどによって無害と判断された妖怪たちが人間社会への適応も兼ねて入学できるシステムが作られていた。

「ほら、化け猫のケイだってそうでしょ?」

「あ、そっかぁ。そうだよな〜」

 かつて横島が助けた化け猫親子の子供、ケイもここの卒業生の一人であり、現在は母親と共に森などに住む妖怪と人間との橋渡しをしているらしい。
 年に数回、横島とも手紙やメールのやり取りをしている。
 試合そっちのけでそんな話をしていると、冥子が突然声を上げた。
「あ〜〜!花子ちゃんがまたなにか出すわよ〜〜〜〜」


『おいで!にのきん!』

 花子がランドセルを閉じると巨大な足が掻き消え、今度は薪を背負った石像が現れた。
 その陰にささっと逃げ込む花子。

どどどどどどどどどどどどどどんっ!!

 無数の霊気弾が降り注ぐ。
 だが、花子には一発も当たる事なく、盾にされた二宮金次郎像はひびの入った顔に滂沱の涙を流しながら消えていった。
 その隙に花子はあたふたとリングの隅へ行き、炎華に手を伸ばす。 

『炎華っ!交替しテっ!』

「ったく、しょうがねぇな〜。自分で行くって言ったんだから全員片付けろよな〜?分け前減らすぞ?」

『え〜〜〜っ!プン!判ったヨ〜〜。自分でやればいいんでショ?』

「そゆ事。頑張れよ〜〜、ほれ、後ろ後ろ!」

『はぇ?うきゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?』

 またまたぷくん、と頬を膨らませた花子が振り向くとそこは一面霊気弾の嵐。
 面白い悲鳴を上げながらそれをなんとかかわしていくが、今度は王に接近される。

「フッ、私たちを一人で片付けるですって?笑わせてくれるねぇ!」

 王の足に霊力が篭る。

「ほぉら!そらそらそらっ!」

『わきゃきゃきゃきゃ〜〜〜〜っ!?』

 連続して繰り出されるトレースキック。
 だがその凄まじいスピードの蹴りも花子には当たらない。キャーキャー言うだけなのに全てがかわされている。

「くそっ!なんで当たらないっ!大した身体能力でもなさそうなのにっ!」

『今度はこっちの番だヨっ!出て来てっ、紫ババァ!』

 歯噛みする王の目の前に突然、ま紫色の顔をした老婆が現れた。
 白い着物を肌蹴、髪を振り乱したその姿は相当、いやかなり怖い。

『助けてなんぞと言うた割にババァ呼ばわりかえ?まったく最近の若いもんは礼儀がなっておらんのぉ』

「あわわ……ひぇ〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 突然眼前にそんな顔に出て来られた王が悲鳴を上げた。
 そりゃそうだろうな、と観客全員が思ったのは言うまでもない。

『ゴメ〜ン、婆ちゃん!あとで羊羹あげるから許しテっ!』

『フン……ま、いいじゃろ。許してやろうかね』

 そう言い残し紫ババァが掻き消える。
 そのまま花子は王に突撃、ランドセルを大きく振りかぶった。

『グラウンドのバックスクリーンまで飛んでケーーーーーーっ!花子ちゃんホムーーーーーーーーランッ!!』

ぱっかーーーーーん!!

「きゃーーーーーーーーーーっ!?」

 結界の端に吹き飛ばされる王。そのまま結界にぶつかり、中央辺りにボテッと落ちる。
 当然、そこでは仲間にタッチできるはずもなく。

「……スリー!フォー!ファイブ!勝者、A組!」

 カンカンカン、と横島が持ち込んだゴングを喜色満面の笑みを浮かべながら叩いた。
 さらにかつてのおキヌのように旗を振り回し、三連チアホーンをプーーーーーーッと吹き鳴らす。
 正直かなり鬱陶しかった。

「こらこら、横島!そんなもん持ち込んだらアカンやろ!」

「いいじゃねぇか、気分が出てさ。ウチの炎華が勝ったんだ、このくらいさせろ!」

 さらにチアホーンを吹き鳴らそうと大きく息を吸い込んだ横島。
 その瞬間。

「やめんか、このクソ親父ーーーーーーーーっ!!」

どがっ!

「「あぅっ!?」」

 炎華がブン投げた雪比古が横島に命中した。


GSキッズ9に続く!


あとがき

ここまで読んで下さった方いらっしゃるんでしょうか?(笑)
海鮮男体盛り改め海鮮(ryです。
これまでのレスなどを見てちょっと自信をなくしてしまって、一旦削除したんですが……
まだまだ生き恥(?)を曝したいと思いもう一度投稿しなおすことに致しました。
そのまま消えてろや、とお思いになる方も多いとは思いますが、これからも自分の妄想にお付き合いいただきたいと思いますm(_ _)m
自分の頭の中で受信した事を文章に表すのはやはり難しいですね……。
では、GSキッズ9でまたお会いしましょう。

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