インデックスに戻る(フレーム有り無し

「GSキッズ1〜5(GSオリジナル)」

海(ry (2005-12-05 02:40/2005-12-05 02:44)
>NEXT

これは昨日削除したGSキッズ1〜5までの再録版です。
また、今回からHNを海鮮男体盛りから海(ryに変更致しました。
ご了承の程よろしくお願いいたします。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どごおぉぉんっ!!

閑静な住宅街の朝を見事にぶち壊す爆発音が響き渡る。
轟音の発生源は住宅街の中程に構えられたさして大きくはないが、かといって小さい訳でもない白い外壁を持つ一軒家。
その2階、かなり大きく取られた窓からは濛々と黒煙が上がっていた。

「けほっ」

そしてその黒煙の中、ベッドの上に座り込み寝惚け眼で咳をした人影が一つ。
サイドを斜めにカットした朱色のショートボブが黒煙の中で左右に揺れた。

「ふえ?部屋が黒焦げ……?」

そう言って周囲を見回すと、朱色の髪の持ち主はベッドの下に脚を下ろした。

「ぶぎゅる……」

足元から声、というより潰れたヒキガエルの悲鳴と言った方がいいような音がした。
ふぅ、と短く息を吐き、寝巻き代わりのホットパンツから伸びるすらりとした脚をつい、と上げる。
その下には黒焦げの、しかしなぜか嬉しそうな少年、といっていい年齢の男の顔があった。
ふと、朱色の髪の持ち主は自分がホットパンツにブラ一枚で寝ていた事に気付く。
同時に足元の少年のにやけた笑みの理由にも。

「…………」

一旦上げた脚に力を込め、踏み抜く。

「ぐえっ」

半眼の仏頂面で足元を見やった「彼女」は足元の物体に声をかけた。

「よぉ、雪比古」

その機嫌の悪い声に反応し、足元の消し炭がもぞもぞと動き出した。

「う……うん、おはよう、炎華……」

これがここ十数年、彼女、美神炎華と少年、弓雪比古の間で交わされてきた朝のひとコマであった。


GSキッズ1


ダンッ!

テーブルの上に叩きつけられた拳の衝撃で、食卓塩とソースの瓶が宙を舞った。

「あわわ……!」

慌てて空中でそれらをキャッチした少年の横で、これまた彼女たちの朝の日常が繰り広げられようとしていた。

「アンタは!なんで毎朝毎朝部屋を吹き飛ばさなきゃ気が済まないのよっ!お金がかかってしょうがないじゃないっ!!」

と言って再び拳を叩きつける長い朱色の髪の女性。
歳は40になったばかりと言ったところだろうか、頑張れば20代後半でも通りそうな絶世の美女である。

「いちいちうるさいのよ、ママは!アタシだって壊そうと思って壊してるわけじゃないでしょ?なんでそういう言い方しか出来ないわけ?」

そう言い返す少女、炎華。
外見は母親である美神令子の若き日にそっくりで、内面はそれ以上に恐ろしい事を少年、弓雪比古は知っている。

「ったく、アンタのおかげで私がいくら稼いでも全部家の修理代に消えちゃうんだから!」

憮然とした表情でママと呼ばれた女性、美神令子が椅子に腰掛けた。

「んなわけないでしょ?ママの稼ぎにしたら部屋の修理代なんて屁みたいなもんじゃない」

そう言って炎華も腰掛け、ほこほこと湯気を立てるトーストに齧り付いた。
と、同時にハムエッグを口に放り込み、熱いコーヒーで押し流す。

「ん?なにしてんだ、雪比古。食わねぇんならアタシが食っちまうぞ?」

「え?あ、食べるよ!食べる!」

それまで3歩ほど下がって親娘のやり取りを眺めていた少年は、慌てて席に着くとトーストを上品に手に取った。
そしてゆっくりとした動作で無塩バターを手に取ると、トーストに優雅に塗り始める。

ばきゃっ!

「ぶっ!?」

「なぁにトロトロしてやがんだ、雪比古!?学校に遅れちまうだろうが!?アタシが皆勤賞逃したらどうなるか、判ってんだろうなぁ〜?」

「そんなぁ〜……」

トーストに突っ込んだ顔を上げ、バターを付けた雪比古の顔が情けなく歪む。
実際彼女が皆勤賞を狙えるのは、毎朝雪比古が命の危険も顧みず炎華を起こしに来ているからなのだが、それを言えば命が無い事くらい付き合いの長い雪比古にはよく判っていた。

「ったく、毎朝毎朝ご苦労様ね、雪比古クン。こんな放蕩娘ほっといてガッコ行っちゃっていいのよ?」

同じく上品にトーストを齧りながら片眉を上げてみせる令子。
その表情がわずかながら意地悪そうに見えるのは、彼が娘を放っておきなどしないという事を知っている為か。

「あはは……そういう訳にもいきませんか……ら……」

と、そこまで言って雪比古の表情が固まる。
その視線の先にはこの家のもう一人の住人の姿があった。

「ふわぁ……、姉さん……ご飯」

咥え煙草を燻らせながら寝惚け眼を擦り擦り現れた令子の妹、美神ひのめ。
炎華が令子の若い頃にそっくりならば、炎華と4つ違いの叔母ひのめは彼女の母、美神美智恵の若い頃に瓜二つであった。
そのあけすけな性格もまた。
ひのめの格好はノーブラにスケスケのネグリジェだったのである。
彼女が歩くたびにその姉以上に豊満な左右の膨らみがたゆん、たゆん。
それに釣られて雪比古の頭も左右にふらん、ふら……。

ずばきゃぁっ!!

「ナニ見てんだ、こら雪比古ぉ!?さっさと飯食ってガッコ行くぞ!オラオラドララァッ!!」

と、急に不機嫌になった炎華が雪比古の口の中に無理矢理トーストとハムエッグを詰め込み、熱いコーヒーを注ぎ込む。

「ふががががっ!?ひぎやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

「おし!食ったな!行くぞ、こら!」

「あがが……い、行ってきます〜……」

悶絶する雪比古の首根っこを引っつかみ、引き摺るように出て行く炎華。


「ふえ?」

そんな二人を見送る寝惚け眼のひのめを見、令子はため息をついた。

「ひのめ……下着のまま起きてくるのやめなさい……」

顔に縦線を何本も走らせる姉を意にも介さず、ひのめは懐をゴソゴソと。
ネグリジェの下は下着一枚なのにどこを探っているかは秘密である。
やがて諦めたように令子の顔を見た。

「姉さん……煙草ない?」

「ないわよ」

「うい……」


炎華と雪比古はともに六道学園の高等部霊能科に通う高校1年生である。
六道学園は元々女子高であったが、10年前に男女共学となり現在では男女共に毎年のGS試験合格者の約4割を輩出している。
そんな彼女たちの学園生活の一コマを見てみよう。


ピッ。

「ほな次は弓!お前の番や。しっかりせんとまたお前の父ちゃんが怒るで〜?」

と雪比古の背中をばしん、と叩いて結界の中に押しやったのは六道学園教諭、六道(旧姓鬼道)政樹である。
40代半ばを過ぎ、理事長の娘である六道冥子と結婚した彼は現在、六道学園の教頭という立場にあるが今でも現役バリバリで霊能科の実技担当をしている。
世間一般の存在感ほぼ0の教頭とは訳が違うのだ。
と言うわけで、雪比古は周囲に戦闘の影響を及ぼさない結界、通称リングの中央によろめきつつ入らされた。
六道の言う弓の父親とは、現弓式除霊術宗家弓雪乃丞のことであり、彼らは共通の友人を介し親友となっていた。

「え……えっと……頑張ります……!」

そう言いつつファイティングポーズを取る雪比古。
その背後でクラスの女子が黄色い歓声をあげる。

「キャーーーーッ!雪比古君頑張ってぇ!」

「式紙なんかに負けちゃ駄目よぉ!」

はっきり言って雪比古は美少年である。
母親譲りの端正な顔と父親譲りの細く引き締まった体、艶やかな黒髪を軽く目にかかる長さに切りそろえた外見は正直そこいらのアイドルにも引けは取らない。
が。

「おらおら、雪比古ぉ!式紙なんぞに負けやがったらアタシの地獄の特訓フルコースが待ってんだからなぁ!?」

そんな見た目の良さなど意にも介さない女、というのも中にはいるものである。
それがクラスメイトの最前列に陣取って胡坐をかいている彼の親分、美神炎華であった。

「……炎華の地獄の特訓フルコース……!」

雪比古の脳裏に過去に受けた虐待……もとい、特訓の記憶が思い起こされる。


特訓はいつも炎華の訓示?から始まる。

「ひとぉつ!おとこたるもの、ふっきんはわれていなくてはならないっ!!」

「って、ちょっと炎華ぁ!?」

包丁を片手ににじり寄る炎華(4歳)から必死に逃げる雪比古。


「ひとぉつ!男たるもの、常に女をよろこばせなくてはいけないっ!!」

「あの……もうお小遣いがないんだけど……」

雪比古の小遣い、前借り含めた3ヶ月分の駄菓子をものの5分で平らげる炎華(7歳)。


「ひとぉつ!男たる者、体に鉄球の7個や10個埋まってなくてはならないっ!!」

「んなアホなぁっ!?ふげっ!がふっ!げふっ!ごふぁっ!?」

違法改造ロボピッチャ(Made by Dr.カオス)で、重さ約500gの鉄球を柱にくくりつけられたままぶつけられる雪比古(10歳)。


などなど。

「……って、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『グケ?』

ふるふると震えていた雪比古の目に炎が灯った瞬間、六道の作り出した式紙が吹き飛ばされる。

どぎゃあぁっ!!

『グケケーーーーーーーーーーッ!?』

そのまま結界壁に激突する式紙。
間髪入れず、地面に落ちた式紙の上に覆いかぶさる雪比古。

ばぎぃっ!!

マウントポジションをとった彼はその両腕に霊力を込め、猛烈な勢いで式紙の顔面を殴りつけた。

『グギャァッ!?』

「炎華の特訓……地獄の……フルコース……嫌だ……嫌だ……嫌だ……嫌だ……街の不良に『嫁に来ないか?』って聞きに行くのはもう嫌だぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」

『グゲーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!??』

ばぎどがべきごきぼごどがめきぼこどかばきぐしゃっ!!

暗い表情で意味不明な言葉を呟きながらひたすら式紙を殴りつける雪比古。

「こ、こら!もうそれ以上やらんでえぇ!やめぇ、弓!」

慌てて六道が後ろから羽交い絞めにして雪比古を止めるまで、たっぷり5分は殴られた式紙。
そして心の傷に炎華の一言が触れたのか、ぶつぶつと独り言を繰り返す雪比古にその元凶が声をかけた。

「よぉ、雪比古。やったじゃんか」

その声にぱぁっと表情が明るくなる雪比古。

「え……あ……うん!」

普段彼を誉めたりなどしない彼女に誉められた。
それだけで彼の心は喜びに包まれた。
が。

「いっひっひっひ、これで今日の賭けはあたしの勝ちだな〜。こっそり式紙ケント紙をカオス特製最強レベルのにとっかえておいたんだ♪いやぁお前のおかげで儲かっちまったぜぇ♪あとでうまい某でもおごってやるよ♪」

と言いつつ千円札の束をポケットにねじ込む炎華。

「う……うあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

雪比古の中で何かが音を立てて崩れ去った。
南無。


放課後。
炎華と雪比古は美神除霊事務所を尋ねた。
彼女たち二人はバイトとしてたまに事務所を手伝っているのである。

「うっす!ママいる?」

「こんにちわ……。お邪魔します」

片手を挙げて挨拶もそこそこに部屋に入る炎華と、丁寧に頭を下げてから部屋に入る雪比古。
とことん性格の違う二人ではある。
しかし、炎華の期待に反し、応接室兼居間にいたのはソファーにうつ伏せに寝そべり器用に口から煙の輪っかをぷかぷか吐き出している叔母、ひのめだけだった。

「あれ?ママいないの、ひのめ姉?」

「うん。さっき出かけた……」

相変わらず気だるそうなひのめである。
炎華でさえ、彼女のしゃきっとした所を見た事が無いくらいだ。

「あ……ほのちゃん」

「なに?煙草ならないわよ」

「むぅ……」

先回りして答える炎華にひのめがむくれる。
その視線が雪比古を見た。
ふるふると雪比古が首を振るとひのめはため息を一つつき、立ち上がった。
服装に無頓着な彼女は事務所でも、ごく普通のジーンズにTシャツという出で立ちだ。
そのTシャツをつんと突き上げる豊かな膨らみに雪比古の目が……。

ざぶし。

潰された。

「ぐはぁっ!」

と、のけぞる雪比古に目もくれず、ひのめは部屋を出て行こうとする。

「ん、ひのめ姉どこ行くの?」

「煙草……」

ぼそっ、と答える彼女。

「あ、そ」

関心無さそうに先程まで彼女のいたソファーに座ろうとする炎華に対し、ひのめが続ける。

「のついでに仕事……」

炎華がこけた。


「まったく!煙草のついでに仕事じゃなくて普通逆でしょ?ナニ考えてんのよ、ひのめ姉は!!」

「まぁまぁ、炎華〜……」

「やかましいっ!!」

「ぶげっ!?」

ひのめの運転するワゴン車の助手席でふんぞり返った炎華は、先程からずっと文句の言いっぱなしだ。
ちなみに雪比古は後部座席に行儀よく座っている。
ブチブチと文句を垂れる炎華を宥めようとして前席から蹴りを喰らう雪比古、そして我関せずとばかりに黙々と運転を続けるひのめ。
大抵の場合、この3人が1チームとして仕事に赴く事はあまりないのだが、果たしてこれでチームワークが取れるのかどうか。

「……着いた」

などと言っている内に目的地に到着したようだ。
車に乗り込む前にひのめが二人に渡した資料を見ると幽霊屋敷の除霊、という事になっている。
本来ならひのめ一人でも十分過ぎるレベルの依頼なのだが、二人の修行の一環も兼ねて令子が受けたのだろう。
もっとも、自分で行かずひのめに押し付ける辺りが彼女らしいといえば彼女らしい。
到着した屋敷は郊外の外れに建つ一軒家で、あまり大した広さは無さそうだった。
とりあえず建物の周囲にお札を貼り、これ以上雑霊が侵入しないよう結界を張り終えると、ひのめは玄関を指差した。

「行け……」

「ちょ、ちょっと!アタシらだけでやれっての!?」

「うん……」

炎華の抗議もどこ吹く風。
無表情なひのめの表情からは何も読み取れなかった。
と、言うか何も考えていないと言った方が正しいかもしれない。

「大体、こんな密室にアタシと雪比古を二人っきりにして、襲われたらどうするんだよ?こいつこう見えてもムッツリスケベなんだぞ?」

炎華の言葉にひのめがぼんやりとした目を雪比古に向ける。
雪比古は俯くと首をふるふると横に振った。
それはない、と。

「……煙草」

そう言い残すとひのめはふらりとどこかへ歩いていってしまった。


「ちっ……たくよぉ。自分の身内ながら訳わかんねぇよ、あの姉ちゃんは!!」

そう言いながら拳を振るう炎華、その拳の先には炎で出来た籠手があり、雑霊をいとも簡単に焼き払う。
叔母と同じ能力、発火能力だ。

「そんな……確かにあんまり感情を表に出さない人だけどさぁ〜……」

とひのめを弁護する雪比古。
彼の方は全く攻撃はしていない、というより出来ないのだ。
彼は昼間の授業の時のように、精神的に追い詰められないと霊能力が使えないという弱点があった。
しかし、それを補って余りある回避能力が彼にはある。
というより炎華にいたぶられる内に身に付いた能力なのだが。
それでもその能力をフルに使い、的確に炎華の攻撃圏内に雑霊を追い込んで行く。

「あぁ?てめぇ雪比古ぉ……アタシより姉ちゃんの味方するってのかぁ?そんなに巨乳がいいか!?この非国民め!!」

確かに炎華の胸は小さい。
美神家の標準から言えば無きに等しい……もとい、慎ましいサイズである。

「そんな事……うわぁっ!?危なっ!!」

炎華の炎の籠手が一瞬大きく膨らみ、雪比古の皮膚を焦がした。
その瞬間、仰け反り体勢の崩れた雪比古に雑霊たちが一気に押し寄せる。

どごどごどごどごどごどごどごどごどごどごどごどごどごどごどごどごどごぉん!!!!

「うわぁっ!?」

「雪比古っ!?」

めりめりめりめり……。

と、その霊たちの勢いに押されてか、嫌な音が響いたかと思うと屋敷の床が一気に抜けてしまった。

「あ」

「え」

「「おわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!??」」

二人は見事に声をハモらせながら床に開いた穴の中へと落ちていった。


雪比古は暗い地下倉庫のような場所で目を覚ました。
月明かりに照らされたかすかな明かりから、かなりの距離を落ちてきたようだが、干草のようなものが積んであった為助かったらしい。

「はっ、炎華!?炎華、無事!?」

ふと気付いて周囲を見回し、彼の親分を探す雪比古。
その視界の隅になにやら蠢くゼリー状の物体が映った。

「なっ!?霊団……!!あっ、炎華!!」

彼の目に飛び込んできたのは地下倉庫の隅に澱んだように蠢く霊団、そして気を失いそこに半ば埋もれるようになった炎華の姿だった。
彼が何度彼女の名前を呼んでも答えは無い。
やがて暗闇に目が慣れてきた彼は彼女の額から一筋の鮮血が流れている事に気付いた。
ここへ落ちてきた時に傷付いたのか。
それともこの霊団が傷付けたのか。
そんな事は問題ではなかった。
視界が歪む。
炎華の額から血が……炎華が血を……炎華に……炎華を……炎華……炎華……炎華……!!

どんっっっ!!

長い年月放って置かれた地下倉庫に溜まっていた埃が舞い上がる。
その中から全身を紅い装甲服のような物で覆った人影が飛び出した。
父親から譲り受けた霊能力、魔装術を身に纏った雪比古である。
まだ未完成な為、全身を覆うまでには至っていない。
形状的には初期型の雪乃丞の魔装術、そして細部の滑らかな表面などは後期型の魔装術と言ったところだ。
ただ一箇所、頭の両側にせり出た2本の突起が背中に届かんばかりに大きく後ろに張り出ているのが特徴である。
ただし、彼に意識は無い。
この状態になった雪比古は完全なバーサーカーと化すのだ。

どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどっ!!!!

雪比古の放つ霊圧に怯えたのか、霊団が無数の霊体を機関銃の様に撃ち出した。
それを雪比古は獣じみた機動力でかわしていく。
霊体の着弾した地点が大きく穿たれるが、当たらなければどうという事は無い。
それでも全てを避けきることはできなかったのか、いくつかが雪比古の眼前に迫った。
しかし。

「くわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

剥き出しの口が大きく開かれ、雪比古が咆哮する。
その咆哮だけで霊体たちは四散した。
さらには霊団本体までが吹き散らされ、散り散りになっていく。
その中から零れ落ちるように落下する炎華を雪比古はしっかりと抱きとめた。

「炎華……」

彼女を助け出し安心したのか、その場に膝をつきがっくりと項垂れ意識を失う雪比古。
同時に魔装術の装甲が空気中に溶けるように霧散していった。


しかし。
霊団は完全に消滅したわけではなかった。
気絶した雪比古の背後で再び凝集し、その形を取り戻していく。
やがて、元の半分ほどの大きさになると、霊団はゆっくりと雪比古たちの上に覆いかぶさろうとした。
が。

どんっ!どんっ!どんっ!どんっ!どんっ!

頭上から降り注いだ何かが霊団に突き刺さる。
身悶えして苦しむ霊団、その背部に突き刺さりわずかな紫煙を上げているのは火の点いた煙草。
やがて煙草が燃え尽きて灰になるように、霊団は細かな塵となって消えていった。
それを階上の穴の淵から覗き込んでいたひのめは、何の感慨も無さそうに、いや少しだけ悲しそうに呟いた。

「煙草……せっかく買ってきたのに……」


帰りの車の中、気絶したままの二人を後部座席に乗せ、ひのめは再び黙々と運転を続けていた。
その叔母に気づかれぬように、こっそりと炎華は目を開けた。
少し前から気が付いてはいたのだが、目の前に気持ち良さそうに眠る雪比古の顔があったため、しばらく見惚れていたのだった。
やがて、気を取り直したように炎華は雪比古の髪をそっと撫で、呟いた。

「ったく、無理すんじゃねぇよ、バカ……」

そう言うと頬を紅くして運転席の叔母の様子を窺う。
幸い気付かれなかったようだ。
ほっと一息つき、雪比古とは反対側を向き、再び寝入る炎華だった。


が、炎華は知らない。
その一部始終をひのめがバックミラー越しに見ていたことを。
ひのめはニヤーっと笑うと口からハート型の煙を吐き出して見せるのだった。


GSキッズ2に続く!


美神令子の娘、美神炎華は美少女である。
スレンダーな肢体によく目立つ朱色のショートボブ、若き日の母親にそっくりな目鼻立ちといい文句の付けようの無い外見である。
しかし、にも拘らず彼女はモテない。
それは何故か。
簡単に言えばそれは彼女の内面、性格のせいである。
ここに、彼女を周囲の者たちが形容する字名をいくつか列挙してみよう。

「女ジャイアン」

「先天性俺様娘」

「心の中に越後屋と悪代官が棲む女」

「人間版イデオン」

その中でも彼女の本質をあらわす最たるものがこれである。

「アシュタロスも跨いで通る女」

通称「アシュまた炎華」。
一応言っておくが、彼女自身は別にレズでもファザコンでもショタコンでもなんでもない。
しいて言うなら極度の美形好き、といった所だろうか。
という彼女なのだが哀しいかな、上記の字名が知れ渡った結果、彼女の周りに集まるのはこれらをものともしない男たち、ようするに……。

「変な男」(炎華談)

しか集まらないのであった。


GSキッズ2
「悪逆無道!炎華と不快な仲間たち!」


「はぁ〜、どっかにイイ男落ちてねぇかな〜。ついでに言うと金持っててアタシの言う事なんでも聞いてくれる美形だといいんだけどなぁ〜」

午前中の授業が終わり、炎華が最初に漏らした言葉がコレだった。

「いきなり何を言うかねぇ、この娘は」

「ホント。大体炎華には雪比古君がいるじゃん?」

「そうよ、雪比古君いらないんなら私に頂戴よ?」

その言葉に反応し、文句をたれているのは彼女の悪友たちだ。

「って、おい。なんで雪比古をてめぇにやんなきゃいけねぇんだよ?あぁ、沙耶香ぁ?」

そう言って最後にしゃべった金髪タレ目の少女を睨む炎華。
彼女に睨まれた沙耶香は怯む様子も見せずに炎華を見返した。

「だぁってそうでしょ?アンタが美形拾ったら雪比古君キープしとく必要ないじゃない?ねぇ、恵子?」

沙耶香は隣に座る黒髪おさげの眼鏡っ娘に同意を求めた。
うんうん、と同意を表しクロッキー帳を後生大事そうに抱えた恵子が炎華に詰め寄る。

「そうそう。あ、美形拾ったら私にも紹介してよ?その美形と雪比古君をネタにするからさぁ♪」

怪しい笑みを浮かべにやりと笑う恵子。

「出たよ〜。恵子にかかったら男はみんな、やおい本のネタになっちゃうんだからねぇ。あ〜やだやだ」

と呆れ顔で呟いたのは残り一人の背の高い少女である。
ストレートの髪を野性的な感じにまとめた彼女が、肩の高さに上げた掌を上に向け顔を振る。

「ちょっとぉ、男はみんなじゃなくって、美形と美少年だけよぉ?失礼な事言わないでよね、遥!」

かなり、いや相当騒々しい。
この3人、全員が霊能科に在籍、つまり3人とも霊能力を有している。
体操部に所属している金髪の沙耶香の能力は霊波の触手。
漫研部員の恵子はマンガ本を使用したイージスの盾。
バレー部員の長身の芳恵の能力は雷獣変化である。
ちなみに全員が六道学園OGの母親を持つ。
趣味も性格も違う彼女たち4人だったが、一つだけ共通する趣味があった。
それは。


「ただいまぁ〜……」

と、そこへ両手いっぱいに大荷物を抱えふらふらした雪比古が教室へ入ってくる。
その荷物の中身はというと。

「お、ご苦労、雪比古ぉ。ちゃんと特製メンチカツパンGETしたかぁ?」

「うん……買って来たよぉ。はい、恵子さんたちの分も」

と言いつつ、雪比古は炎華たちの囲む机の上にどさっとパンを広げた。
つまりパシらされていた訳だ。
これが彼女たち4人の共通の趣味、美少年いじり、であった。

「あ!そのチョコメロンパンはあたしの!」

「ヤキソバパンも〜らいっ!」

「あ〜!ずるいっ!じゃ、私はメンチカツ!」

「それはアタシんだって言ってんだろが!?」

バーゲン品に群がる主婦のようにパンを取り合う彼女たちの様子を一歩下がって見守る、というか手を出したら簀巻きにされててるてる坊主の代わりをさせられる羽目になりかねないので黙ってみている雪比古。
やがて、4人がそれぞれ目当てのパンを抱え込み、仁義なきパン争奪戦は終了した。
チラ、と机の上をのぞき見る雪比古。
机の上には何も残っていなかった。

「炎華ぁ……僕の分は!?」

「あぁん?」

と、メンチカツパンを齧りながら炎華がメンチを切る。

「ねぇよ」

「そんなぁ!?」

うるうるしながら残りの3人を見る。

ぷい。

ぷい。

ぷい。

3人とも見事にそっぽを向いた。

「あうぅ〜……」

哀れ雪比古。


「美神炎華はいるかぁ!?」

と、突然教室内に罵声が響き渡った。
何事かと教室の入り口を見るクラスメイトたち。
そこで肩を怒らせ仁王立ちしていたのは2m近い身長を持つ大男だった。
ガッシリとした体型で短く刈った髪を金色に染めたなかなかの男前だ。
ざわつく教室、しかし肝心の炎華は自分の名を呼ばれた事もまったく気にせず、幸せそうにパンにかぶりついていた。
彼は教室の中を見回し、窓際に屯する炎華たちを見つけると大股で近付き、炎華に向かってビシッと指を突きつける。

「美神炎華ぁ!俺と勝負しやがれ、今日こそぶっ潰してやらぁ!」

「まぐぁぐぁびょぼびぼ〜?びびばべんばびばべびょびょば?」

「口の中のもん飲み込んでからしゃべれ……」

炎華がのんびりと口をもごもごさせ、メンチカツを飲み込んだ。
ついで、コーヒー牛乳をすすりほっと一息つき、机に突っ伏したかと思うと。

「んじゃ、おやすみ」

しゅた、と手を挙げ心地よさ気な高鼾をかき始めるのだった。

「って、くおらぁ!寝るんじゃねぇよ、寝るんじゃぁ!」

がっしゃぁん!!

机をひっくり返す大男。
炎華は素早く飛び上がると空中で一回転し………………雪比古の上に見事着地した。

「ぶぎゃ!?」

3人娘がしっかりとパンを抱え、二人から離れたのを確認して炎華が大男を睨みつける。

「いきなり机ひっくり返すたぁやってくれるじゃんか、虎次郎!アタシとヤル気かい?」

「あぁ、ヤル気だぜ。いつまでも女にデカイ面させられっかよ」

そう言って彼はにやりと笑った。


彼の名はタイガー虎次郎。
タイガー寅吉とその妻魔理の息子で、炎華たちと同じ六道学園の2年生である。
学園内で炎華に喧嘩を売る数少ない人物の一人であるが、現在までの戦績は3000戦全敗。
決して彼は喧嘩に弱い訳ではない。
事実、父親と違い喧嘩っ早い彼は炎華以外の相手には負けたことが無く連戦連勝、近隣の不良からは「無敵の虎」と呼ばれ恐れられている。
のだが、炎華はそれ以上に強い上に恐れられ方も彼以上だった。
喧嘩というより格闘術に関してもかなりの実力を持っているのだが、彼女が恐れられる理由はそれだけではない。
それは知略。
謀略と言ってもいい。
ぶっちゃければインチキである。
とにかく彼女は母親譲りのゲリラ戦法が得意中の得意なのであった。
例を挙げてみれば。
日時と場所を指定してみれば、決闘場所が地雷原になっていた。
携帯で決闘の寸前に場所を指定しようとすれば、カオス印の逆探知装置で携帯が爆発した。
後をつけて一人になった瞬間を見計らって決闘を申し込んでみれば、ストーカーの通報を受けた警官に捕まった。
とにかく、炎華は卑怯だった。
逆に言えば虎次郎が馬鹿正直過ぎる、とも言えるかもしれないが。
それゆえに今回彼は敢えて学校内でいきなり教室に乗り込む、という手段に出たのだった。


「というわけで、だ。炎華ぁ!今すぐここで勝負しやがれ!!」

「何がというわけで、だ?なんでアタシがんな事しなきゃいけねぇんだよ?てめぇがいると暑苦しいから校庭行って芝生の数でも数えてろ、バァカ」

頭を傾け耳を小指でほじりながら、半眼で小次郎を睨みつける炎華。
口も悪けりゃ態度も悪い。
俯き肩をブルブルと震わせる虎次郎にさらに炎華が畳み掛ける。

「あぁ、泣いてんのか虎次郎?泣くんならやっぱし校庭に出て花壇の花に涙で水やって来たらどうだ?」

「アホかぁっ!!怒ってんだよ!!」

虎次郎がぶち切れる。

ばぎゃぁっ!!

そのついでに近場の机を拳で叩き壊した。

「喰らえぇっ!!」

その砕けた机の破片を炎華に向かって投げる、とその破片が無数の小鳥になり彼女に一直線に向かった。

「幻惑精神感応!?」

炎華の足元で雪比古が驚きの声を上げる。
といってもその能力に、ではない。
学内でのトラブルに霊能力を使うのは校則で禁止されている為、だ。
許可なく私用に能力を使った場合は停学や、下手をすれば将来のGS資格取得にまで響く事となる。
しかし、覚悟を決めたのか虎次郎はさらに無数の鳥を発生させ、さらにその陰から剛拳を振るった。

どごぉっ!

確かな手応え。
虎次郎は勝利を確信し、天を仰いだ。

「やったぜ!ハッハッハーーー!俺の勝ちだ、炎華!」

しかし。

「バァカ、残像だ」

炎華の声は背後から聞こえた。

「なにぃっ!?」

振り返った先に無傷の炎華。

「って、事は……」

彼の拳の先には青い顔で涙を流す哀れな残像(雪比古)の姿が。

「ひでぇ……」

「アタシの盾になって死んだんだから、雪比古も本望だろうよ」

「いや、死んでねぇって……う!?ぐ……ぐがっ……!?」

と、突然腹を押さえるとその場に倒れこみ苦しみだす虎次郎。
3人娘やその他のクラスメイトたちが不思議そうに見つめる中でただ一人、炎華だけがニヤニヤ笑いながら虎次郎を見ていた。

「へっへ〜。アタシがなんの用意もしてなかったと思ってんのか、虎次郎?へへっ、バ〜カ。ちゃんと刺客を雇っておいたんだよ」

そう言って笑う炎華をうずくまったまま見上げる虎次郎。
その顔は真っ青になり、脂汗が浮いている。

「ぐぐぐ……し、刺客だとぉ……?」

「そう、その通りさ♪」

とその時、妙に明るい声が教室の出口から響いた。
ざざっ、とそれまで彼女たちを取り巻いていたクラスメイトたちがモーゼの十戒のごとく左右に割れていく。
その間から現れたのは浅黒い肌に豪奢な金髪、手にはなぜか藁人形を持った美形の男だった。

「チャオ〜、虎次郎。僕が炎華のボッディガードってワケ♪おわかりかな?」

ふぁっさぁ、と前髪を掻き揚げ……もとい、かき上げる彼。
虎次郎を見下ろしにやりと笑うと前歯が光った。

「ぐっ……てめ……アンドレアァ!」

「やだなァ、アンディって呼んでよ、こーちゃん♪」

「こ、こーちゃん言うなぁっ……!!」


と、現れるなり虎次郎と漫才を繰り広げる金髪の男。
彼の名はアンドレア・小笠原・ブラドー。
現ICPO超常現象対策課、通称オカルトGメンに所属するピエトロ・ド・ブラドーとその妻小笠原エミの息子である。
年齢は虎次郎と同じ17歳の高校2年生。
ヴァンパイアの血を受け継ぐヴァンパイアクオーターであり、腕のいい呪術師もである。
が、その性格はラテン系、と言ったらラテン系の人に怒られそうなほど明るくいい加減。
どちらかと言うと生真面目な虎次郎とは対照的な性格であったが、二人は仲がわりと良かった。


「そういう事だ、虎次郎。残念だったなぁ?これでアタシの3001勝目かな?」

にやりと笑う炎華。
その横に同じくニヤニヤ笑いながらアンディが立った。

「ぐぞぉ……裏切りやがったなぁ……アンドレアァ……」

「時には敵として立ち塞がる事も友情なワケ。僕も辛いんだよ、こーちゃん」

と言ってウインクしてみせる。
その仕草にクラス内の女性陣がざわめいた。

「ところで、虎次郎に何したんだ?アンディ先輩」

虎次郎の苦しみ方を見ながら炎華が不思議そうにアンディの持つ藁人形を見た。
見た目には釘も刺さっていなければ、どこかが焦げているわけでもない。
炎華が疑問に思うのも当然だったが、その問にアンディはにこやかに答える。

「ふふん♪藁人形の腹の中にしこたま下剤を詰め込んでみたワケ。それも重症の便秘用の超強力なヤツ♪」

「うげ……」

さすがの炎華も青褪めた。
見れば藁人形の腹部が異様にぱんぱんになっている。

「ち……ちくしょーーーーーーっ!!きょ、今日の所は……このくらいにしといてや……はぐぁっ!?」

よろよろと立ち上がり、尻を押さえつつ捨て台詞を吐く虎次郎。
だが、その間にも便意の波が押し寄せてきたらしく表情がさらに青くなる。

「ほれほれ、早くトイレに行かねぇとやばいんじゃねぇか〜?」

イヒヒ、と意地の悪い笑みを浮かべながらからかう炎華。
虎次郎はもはや捨て台詞を吐く余裕もなく、よろよろと教室から出て行くのだった。
恐らく午後の授業には出られないだろう。
アーメン。


「ところで、炎華ちゃん?仕事料は払ってくれるんだろうね?」

虎次郎を見送った後で、アンディが炎華の顔を覗き込むように近付いた。
二人の距離が鼻と鼻がぶつかりそうなほど近付いている。

「わかってるよ。報酬はデートだろ?」

炎華のその言葉に、それまで屍と化していた雪比古が跳ね起き猛然と詰め寄る。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!!デートってどういう事さ、炎華!?まさかアンディ先輩とデートするって言うの!?」

「そうだぜ?ま、約束だからな、しょうがねぇさ」

「!!」

さらりと言ってのける炎華。
それを聞いて雪比古の背後がベタフラになる。
たっぷり10秒は停止した後、炎華の肩をガッシリと掴んで彼女の目をまっすぐ覗き込んだ。

「駄目だよ炎華!炎華がそんな事するくらいなら……ぼ……僕が!!」

シン、とする教室内。
雪比古は決死の覚悟で、彼女に殴り飛ばされるのを覚悟で彼女の瞳を見つめ続ける。
と。

「ぶわっははははははははは!!何言ってんだ、雪比古ぉ?アタシがアンディ先輩とデート!?だーっはははははははははは!!」

炎華が爆笑した。

「へ?」

何がなんだかわからない、といった顔の雪比古。
だが、笑っているのは炎華だけでなく、3人娘を筆頭にくすくす笑いが広がっている。
まだ状況の把握できていない雪比古に、芳恵が笑いすぎて涙目になりながら近付いた。

「ぷっくく……あのさ、雪比古君。相手はあのブラドー先輩だよ?あ・の!判ってる?きゃははははははははは」

「あ……!」

そこまで言われようやく合点がいく雪比古。
勘違いしていた事に気付き顔を赤らめる、と同時にもう一つの事実に気付き顔が青褪めた。

「ま、まさか……!?」

「そうだよ、雪比古。先輩とデートすんのはアタシじゃねぇ…………お前だ!!」

「な……!!」


アンドレア・小笠原・ブラドー。
性格補足・・・・・・・・・男が好き


「ふふふふふ……優しくしてあげるからねぇ〜、雪比古君♪楽しみにしてるよぉ♪」

いつの間にか雪比古の背後に忍び寄り、ふっ、と耳に息を吹きかけるアンディ。
と同時に彼のブレザーの隙間から手を差し入れ体をまさぐり始めた。
その後ろでは創作意欲に火が点いたのか、恵子が二人の姿を懸命にスケッチしている。

「あ……あ……あ……あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

再び、雪比古の中で何かがガラガラと音を立てて崩れるのだった。


その日の夜、嫌がりながらも炎華たち(特に恵子)の猛烈な脅しに負け、アンディとのデートに望んだ雪比古。
なんとか貞操だけは守り通し、ようやく帰宅したのだった。

「ただいまぁ〜……はぁ……」

がらがら、と普段の数倍重く感じられる扉を開き玄関に入る雪比古。

「ん?」

彼は普段見慣れない靴が一足だけ家族の靴の中に混じっているのを見つけた。


彼の家、弓家は代々悪霊の調伏を生業としてきた名家である。
その為、昔からのお得意様など来客も多い。
のだが、その日の客はどうも普段の客とは違うようであった。
なぜかと言えば。

「がはははは!まぁ飲め飲めぇ!はははははははははははははははは!!」

仕事関係の来客であれば聞けない、父親の笑い声が玄関まで響いてきていたからである。


まぁ邪魔をする事もないだろう、とにぎやかな笑い声の響く客間を通り過ぎようとする雪比古。
ところが、彼が通りがかった瞬間障子戸が開き、彼の父親が顔を出したのだった。

「おい、雪比古。こっちへ来ておまえも挨拶しなさい」

「えっ、僕も?」

「そうだぞ、お前も普段色々とお世話になってるんだからな」

と、彼を部屋の中へ引き込もうとする父、雪乃丞。
その背後からは「雪乃丞が父親ぶってるよ!だははははは!」などという笑い声が聞える。
その声に雪比古は聞き覚えがあった。

「あ……ひょっとして……横島のおじさん!?」

「よっ、雪比古君。久しぶりだなぁ」

そこには当年とって37歳、世界最高のGSとも言われ炎華の父親でもある男、横島忠夫の笑顔があった。


GSキッズ3に続く!


美神除霊事務所の横島忠夫。
それはいまや世界中に知れ渡るビッグネームである。
強力な霊波刀栄光の手、そしてそれを生かすため妙神山の竜神、小龍姫から学んだ剣術。
さらに万能の力、文珠。
そして師であり妻でもある、美神令子から受け継いだ様々な権謀術数の知識。
これらの実力を身につけた彼には世界中から除霊依頼などが殺到し、いまや日本にいる事自体がかなり少なくなっていたのだった。
そのため、愛する妻と娘にあまり会えなくなってしまった横島が、結婚以来多少なりを潜めていた煩悩を取り戻しつつある事は令子の悩みの種でもある。
そして今回、横島忠夫は数ヶ月ぶりに故郷日本へ帰国し、20年来の親友である雪乃丞を訪ね弓家を訪れたのだった。


GSキッズ3
「意馬心猿!やめられない・たまらない?」


「横島おじさん!?」

雪比古が自宅へ帰ると、そこには父雪乃丞と酒盛りをしていた横島忠夫の姿があった。
ちなみに、横島が美神姓でないのは妻令子が結婚当時、「今更アンタの事を忠夫なんて呼べるわけないでしょ!」と主張したためらしい。
もちろん、横島は笑って承諾したのだった。

「よぉ、雪比古君。久しぶりだなぁ。元気してたか?」

横島が笑顔を浮かべ、雪比古に手を振った。
その服装はかなり高級そうなスーツだが、見る影もなくよれよれのぐしゃぐしゃになってしまっている。
一方、和服姿の雪乃丞はなぜか頭に横島のネクタイを巻いていた。

「だはははははははは!雪比古も帰って来た事だし飲みなおすぞぉ、横島ぁ!」

「おう!ほらほら、雪比古君もまぁかけつけ一杯!」

真っ赤な顔をした横島が雪比古を座敷に引きずり込み、コップを渡す。
そこへどぼどぼと一升瓶から酒を注ぐ雪乃丞。

「おら、雪比古!飲め!今夜だけは俺が許すっ!!」

「そうだぞ、雪比古君!男ならぐぐっと!それぐぐぐーっと!」

「あはは、はは……いや僕まだ高校生ですし……」

と、雪比古がコップをテーブルの上に置こうとすると。

ぐわしっ。

横島がその腕を掴んだ。

「俺の酒が飲めない……と?」

目がマジだ。
横島は歳を取るにつれてやはり父大樹に似てきた、とは彼の母百合子の談である。

「あう……おじさん……顔が怖いですよぉ……」

と、後ずさる雪比古。
だが、さらに。

ぐわしっ。

両肩を雪乃丞に掴まれる。

「雪比古ぉ……横島があんだけ言ってるのに飲めねぇってのかぁ?」

ぎりぎりぎり、と雪比古を掴む両手に力が篭る。

「いだだだだだっ!父さん、痛いっ!痛いよっ!あ、そうだ父さん!母さんは!?」

そこで唯一の救世主、母カオリの存在を思い出す雪比古。
しかし。

「残念だったな、雪比古。母さんはさっき出かけたところだ」

「そんなぁっ!?」

「ふっふっふ〜、雪比古くぅ〜〜ん」

「ゆ〜きぃ〜ひ〜こぉ〜」

両目を妖しく光らせながら迫るオヤジ二人。

「よく見れば……なかなかきれいな顔してるじゃないか、雪比古くぅん」

「だろだろ、横島?こう言っちゃぁなんだが…………ママに似てる……」

「ひぃっ!」

なんだか危ない方向に向かうオヤジのテンション。
危うし雪比古!
ようやく炎華とアンディから逃れたと思っていたら今度はコレだ。
雪比古に安住の地は無いのだろうか?

「ん……イイ事思いついたぞ、雪乃丞。耳貸せ」

ごにょごにょ……。

妖しい笑みを浮かべながら雪乃丞に耳打ちする横島。
と、雪乃丞の顔にも同様の笑みが広がった。

「横島……イイ!」

「だろだろーーーーーっ!?ってな訳で雪比古君!魔装術使ってみなさい!」

「は……!?」

脈絡のない横島の言動に目を白黒させる雪比古。

「いいから魔装術だよ。雪乃丞から習ってるんだろ?」

「いや……でも僕まだ自由に使えないんですけど……」

「大丈夫!むわぁかせて!コントロールは俺と雪乃丞でするから、ほら早くっ!!」

「は、はぁ……」

そう言うと雪比古の両手を取る横島と雪乃丞。
仕方なく雪比古は精神を集中し始めた。

ひぃぃぃぃぃぃぃぃん……。

少しずつ雪比古の全身を霞のように霊力が覆い始める。

「いくぜ、雪比古!魔装術展開っ!」

「はいっ!」

ばしゅっ、と音を立て魔装術が展開。
そこへ。

「今だっ!!」

と横島が突然文珠を発動した。
文珠の文字は。

『女』

「えっ!?」

驚き集中が乱れる雪比古。
しかし、雪乃丞の介入で無理矢理魔装術が完成する。
その姿は。

「な、なんですか、コレっ!?」

どこからどう見ても美少女だった。
普通なら硬い装甲となる部分がなぜか柔らかな素材となり、全身を覆ってセーラー服を形作る。
さらに顔部分の装甲は頭に集まって長いしなやかな黒髪に。
脚を覆うのは膝の上までの黒のニーソックスだ。
ニーソックスとスカートの間からチラチラ見える素肌が悩ましい。
横島の発案と文珠による介入、さらに雪乃丞のコントロールで完成したこれが。

「「女装術!!」」

「んなアホなぁっ!!」

と、思わず声をあげる雪比古。
だが、オヤジ二人の反応は上々である。

「きれいだ……きれいだぞぉ、雪比古ぉっ」

和服の裾でそっと涙を拭う雪乃丞。
いや、確かに線の細い雪比古にセーラー服は似合いまくっていたが、父としてそれでいいのか、と。
んでもって横島は。

「雪比古君……ボカァ……ボカァもうーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

久方ぶりのルパンダイブ決行。

「いやだぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

「なにしとんじゃ、このクソオヤジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

どがぁっ!!

突然現れた炎華に空中で撃墜された。


「いでで……はっ、炎華!元気だったかい?パパだよぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

ビール瓶の山に突っ込んで血だらけになる横島だったが、炎華の姿を認めると両手を広げて抱きしめようと近付いた。

ぼごぉっ!

「やかましぃっ!血だらけで近付くんじゃねぇよ、このクソ親父!」

「ぐふっ……い、いいパンチだ……」

と、炎華の蹴りで再び吹き飛ぶ横島。
どうでもいいが、キックである。

どんっ。

と、吹き飛ぶ横島が何かにぶつかる。

「?」

周囲を見回す。
ぶつかるような物は何もないはずだ。
そこまで考え見上げると、そこには額に青筋浮かべつつ引きつった笑いを見せる愛妻の顔があった。

「れ、令子さん……」

「久しぶりねぇ、横島クン?」

さらにその背後にはひのめの姿も。
どうやらカオリは美神家に赴き、彼女たちに横島の帰国を報告していたようである。

「ひ、ひのめちゃんも……久しぶりだね」

「うい」

ぴっ、と手を挙げるひのめ。

「うんうん、相変わらずいい乳してるね、ひのめちゃん」

無表情ながらぽぽっ、と赤くなるひのめ。

「って、んな事ぁどうでもいいのよ!なんで帰国するんならそうと報せないのよ、この宿六がぁーーーーーーーーーっ!!」

ばきゃぁっ!!

令子の右下段突きが横島を捉えた。

「ぐはぁっ!」

「おまけに雪比古クンに女装までさせて!今度は男にまで手ぇ出す気!?」

さらに左。

「おまけに!ひのめに言ったのはセクハラよっ!!」

さらにさらに右、左、右、左、とどめのかかと落としまできれいに横島に決まった。

「すんませんっ!もうしませ……ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

その横では。

「雪乃丞!雪比古にいったいなにをさせてるんですのっ!?」

「カ、カオリぃ……いや、これはだな……」

「問答無用ですわっ!!」

「だーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

床の間に飾ってあった薙刀を取り、雪乃丞を打ち据えるカオリ。
かつてのライバル同士は共に妻には頭が上がらないようである。


「この度は本当にウチの宿六がご迷惑をおかけして……もうなんとお詫びしたらいいか……」

「いえ、いいんですのよ、美神お姉様。ウチの馬鹿も同罪ですから、ね?」

そう言い交わしながら、ぺこぺこと頭を下げ合う二人の主婦。
その横では横島と雪乃丞がそれぞれ右頬、左耳を抓られつつ従っていた。
さらにその後ろでは。

「似合うね……」

「んとに、よく似合ってるぜぇ、雪比子ちゃん?」

「ひぃ〜〜〜〜ん」

ひのめと炎華に挟まれじろじろと観察されている、未だ女装術展開中の雪比古の姿。

「確かに似合ってる……でもなぁ……」

「うっ……炎華……?」

ますますニヤニヤ笑いを強める炎華に悪寒が走る雪比古。
その予感は見事的中した。

「アタシよか色っぽいってなぁ、どういう事だぁ!?あぁ、こら!言ってみろーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

「あぁっ、やっぱりーーーーーーーーーーっ!!」

炎華の拳が雪比古のこめかみを捉え、ぐりぐりと押し付けられる。
さらに。

じゅっ。

「熱っ!?」

こめかみに当てられた拳にやや熱が篭った。
彼女の拳が真っ赤に燃える。

「どうだ、アタシの考案した『みさえ攻撃・ぷちファイヤー』の味はぁーーー!?あぁん?」

「熱いーーーーっ!」

「そうだろ、そうだろぉ?」


その様子を見ていた大人たちは、というと。

「いやぁ、相変わらずだなぁ、雪比古君は……」

「いえいえ、炎華ちゃんに鍛えてもらえて助かってますわ」

「そうだな。雪比古にはもうちょっとビシっとしてもらわにゃ」

「雪乃丞アンタね……それが息子に女装させてた男の台詞なの?」

と、すっかりほのぼのムード。
親たちの目にはじゃれあっているようにしか見えないのだろうか?

「ま、これも伝統って事で。なぁ、横島よぉ?」

そう言いながら意地の悪い笑みを横島に向ける雪乃丞。
確かに、彼とその妻の昔の関係に似ていないとも言えなくは無い。

「これで雪比古君も俺みたいにタフな男になるだろうなー」

「でも炎華もしっかりレベルアップしてるのよね」

まぁ昔から横島と令子のドツキ漫才を見てきた彼らにとって、この程度は暴力の内にも入らないという事だろうか。
流血もしていないし。


その後、炎華とひのめを先に家に返し、令子と横島は事務所を訪れていた。
現在の事務所は場所こそ同じであるが、メンバーの増加もあり建物自体は多少改造されている。
簡単に言うと、4階そしてガレージ兼の地下室の増設である。
その4階、新たに増設された所長室で。

「ご苦労だったわね、横島クン」

「まぁ、そだな。令子もお疲れ様、ってとこか」

二人は革張りのソファーに腰掛け、ワインを傾けていた。
ソファーの前にあるクリスタルガラスのテーブルの上に置かれているのは、今回の出張のレポートである。

「イタリアで1件……、イギリス2件……、フランス1件……、ベルギー3件……確認できたのはこれだけ?」

「いや、後直接事実確認できなかったのが4件だな」

「直接って……そっか、遺体が残らなかったのね?」

「あぁ……、そうするしかなかった……。『爆』文珠で粉々にな」

レポートの一つを取り上げ、その時の事件を思い出したのか苦い顔をする横島。
そのレポートには大文字で『DI−A』と書かれていた。

「一応実力者のアンタがそうするしかなかった、って事は相当手強かったのね?」

「一応は余計だろ?」

「そうね」

フフ、と優しい笑みを浮かべ横島の肩にぽふん、と体を預ける令子。
この二人、炎華たちの前では決して見せないが……未だラブラブである。
勿論、現在人口幽霊壱号には所長室の監視及び記録はしないように言ってある。

「日本ではまだコレ絡みの事件は起こってないんだろ?西条から聞いてる」

「えぇ……。でもいつ起こってもおかしくない……うぅん、表に出てきてないだけでたぶん……」

「堪らないな……、魔薬か……」

「うん……」

そう言うとさらに令子は横島に体をすり寄せた。

「おいおい、ウワバミのお前がこんなに酔うなんて珍しいな?ってか、酔ってないだろ?」

「あら。アタシだって雰囲気に酔うって事はあるわよ?」

いたずらっぽく笑う令子。
その笑顔は20年前となんら変わりなかった。

「へぇ、その言葉、20年前の俺に聞かせたかったな〜」

「フフッ、バカね。アンタこそ大丈夫なの?雪乃丞と大分飲んできたんでしょ?」

「あぁ、あんなの……誰かさんに散々どつき倒されたおかげで、すっかり抜けちまったよ」

横島も笑う。
少年時代と変わらぬ笑みで。

「悪かったわねぇ……」

令子が目を閉じ、唇を突き出すように顔を横島に近づける。
横島も令子の肩を抱き寄せるようにそっと……。

ぱさり……。

と、彼の手からレポートの束が落ちた。


その頃、某所では。

「あ、そうです!そろそろあれが帰ってきてる頃ですねー」

その少女は宙に浮いていた。
というより、浮いているのは彼女が乗っている黄色の絨毯のような物の方だったが。

「電話してみるです」

懐から携帯電話を取り出し、どこかにかける少女。
そのまましばらく、彼女を乗せた絨毯はふよふよと空に浮かんでいた。


こんこんこん。

んばっ、と勢いよく離れる二人。
その二人の前で、所長室のドアがゆっくりと開いた。

『失礼します』

そう言いながら入ってきたのは白髪に上品な髯を生やした初老の男性。
その手には銀色のお盆に載った電話があった。

『申し訳ございません、オーナー、横島様。急用の連絡が入りましたもので野暮とは思いましたが……』

「あ、いや……ぜ、全然構わないのよ!全然!オホホホホホホホ……」

引きつった笑みを男性に向ける令子。
横島も同じだった。

「そーそー、全然構わないよ!人工幽霊壱号!だはははははは……はぁ」

『ありがとうございます、横島さん』

そう、この男性は人工幽霊壱号である。
手に物を持っている事からも判るように、幽体ではなく実体、ドクターカオスの作り上げたマリアタイプの事務所内限定端末なのだ。
実際の彼は建物にとり憑いたままで、霊体の一部のみをこのボディに移しているのである。
当初、横島は是非とも女性型に!と希望したが、令子たちとなにより人工幽霊壱号の意向によりこのような形に。
あくまで彼のメンタリティは男性なのである。
ついでにこのボディを使い始めてから口調まで親爺臭くなったのは余談である。

「で、誰からの電話かしら……?こんな夜中に電話してくるなんて……」

『はい。パピリオ様でございます』

「「パピリオォ!?」」

『はい。横島様を出せ、との一点張りでして……』

苦笑する人工幽霊壱号から電話を受け取る横島。

「もしも〜し、電話代わっ『ポチィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!』ぐはぁ!?」

突然受話器から響き渡った超音波に脳をやられた横島。
その為、彼はその後に続くパピリオの言葉を聞き逃した。
つまり。

『今から遊びに行く』

と。

「ちょっと!なによ、今の超音波は!?」

「パ、パピリオかぁ?って、あれ?もしもし!もしも〜〜し!?」

既に一方的に切られている受話器に向かって怒鳴る横島。
すると、人工幽霊壱号が。

『あ』

と呟き天井を見上げた。

「ん?どうしたのよ、人工幽霊壱号?」

『いえ、その……』

どがぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!!

人工幽霊壱号の言葉を遮り爆発する事務所の天井。
凄まじい粉塵と爆風、そして黄色い何かが所長室を蹂躙する。

「な、なに!?どっかの魔族が攻めて来たの!?」

ひっくり返ったソファーの陰で慌てて叫ぶ令子。
と、彼女の鼻先にひらひらと舞い降りる一片の黄色い物体。
まるで呼吸するようにその羽を開いたり閉じたり……。

「って、蝶!?」

嫌な予感に起き上がり、顔を出してみると。

「ヨコシマ〜〜〜〜〜〜〜!会いたかったです〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

と、微妙な語尾を付け話す15,6歳ほどの美少女に抱き疲れる旦那の姿。
少女が飛び跳ねるたびに、道化のようなボンボンつきの帽子が揺れる。

「な…………」

「おいおい、パピリオ……。いきなりなにするんだよ〜?」

と、横島も満更でも無さそうにその少女、パピリオの頭を撫でた。

「えへへ〜〜〜」

嬉しそうに満面の笑みを浮かべるパピリオ。
本当に幸せそうな表情だ。

「な……な……な……!」

『ふむ、これではまた修理が必要ですなぁ』

と、思案顔で室内の惨状を眺めている人工幽霊壱号。
どうでもいいが、外れた首を手で持ち辺りを見回しているのは少し気持ち悪い。

「なっ、なにしてくれてんのよ、このバカ魔族ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

令子の叫びを聞いているものはとりあえずこの場にはいなかった。


「出るたいみんぐを逃したでござるな……」

「うん……」

そう呟きつつドアの隙間から室内の様子を窺う二人の美女以外は。


GSキッズ4に続く!


うっす。

私美神ひのめ、二十歳。

えっと…………んと…………。                             「ひのめさん!これこれ!」

あ、サンキュ、雪ちゃん。                               「わっ!ADに返事すんなよ、ひのめ姉!」

ふえ?あ、言うな?

うい。

えと……というわけで今回は美神除霊事務所のメンバーのそれぞれについて紹介する……。

ふんふん、そうだったのか。                              「あちゃぁ……」

あ、言っちゃダメなの?……そかそか。                         「やっぱ、ひのめさんに任せたの失敗だったんじゃない、炎華?」

という事らしいんで、でわ、ご覧ください。                       「ダメだ、こりゃ……」


GSキッズ4
「有象無象?美神除霊事務所24時!」


<AM8:00>

「ちわ〜っス。よっ、みんなおはよう」

バイト時代と変わらぬ挨拶、変わらぬ明るさで事務所へと入ってきた横島に、居間でくつろいでいたメンバーたちがそれぞれ挨拶を返す。

ぴしっ。

と、突然空気が凍りついた。
メンバーたちが見た先では横島の首にぶら下がったパピリオが「おはようです」、と挨拶していたからである。

「せ、せ、せ、先生!なにしてるでござるか!?離れるでござる、パピリオ!」

といって真っ先に噛み付いた美女は犬塚シロ。
美神除霊事務所に所属する人狼族の女性で、横島が結婚した今も彼にぞっこんだった。

「あれ?いたんですか、犬っころ?ヨコシマはワタシのペットですよ?どんなにべたべたしたってワタシの勝手です」

「誰が犬でござるか!?大体先生は貴様のペットなどではござらん!離れるでござる〜〜〜っ!!」

「べ〜、です!」

横島を挟んで口論、さらに取っ組み合いにまで発展しそうな勢いの二人。

「ったく、よく飽きないわねぇ。他人の男取り合って何が楽しいんだか」

などとその様子を見てバカバカしい、と言った顔であくびをしたのは9房の金髪を長く伸ばした美女、タマモである。
この事務所がよほど居心地が良かったのか、結局彼女は事務所に居つきメンバーの一人となった。
しかし、彼の隣にいた青年はあくびする前彼女の額にかすかに青筋が浮いたのを見逃さない。

「そんな事言って、タマモもあの中に入りたいんじゃないの?」

「なによ?アタシをあんなガキと一緒にしないでよね?マトモ?」

「アハハ……ごめん……」

タマモに睨まれ、眼鏡をかけた青年が謝った。
彼の名は真友康則、10年前から事務所の一員となった気の弱い青年である。
タマモと再び出会うためにGSを志した彼だが、ようやく彼女と再会した際タマモはまったく彼の事を覚えていなかったため、泣きながら横島と一晩飲み明かしたのはまた別の話。
その後しばらく思い出してもらえなかったらしい。

「横島さん……」

「おぉ、茂呂。元気か?」

「ふん、元気ですよ。あなたも相変わらず元気そうで……」

「相変わらず暗いやっちゃな〜」

のそりと横島の背後に現れた背の低い男、茂呂麻太郎。
かつて横島と一戦を繰り広げて以来、彼に勝つ為ひたすら勉強と訓練をつんできた男である。
その暗い雰囲気は変わらず、しかし最近は横島とも普通に会話を交わすようになってきたようだ。
しかし。

「先生〜〜!パピリオなんかほっといて散歩行くでござるよ〜!」

「あ、こら!抱きつくな、シロ!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

横島に抱きつくシロを見た瞬間、でんでろでろでろと再び暗い雰囲気を背負い込む彼。
二人が和解する日は、そしてシロに彼の思いが届く日はまだまだ先のようである。
がちゃり、と音を立ててドアが開く。

「あ、横島さん!」

「おキヌちゃん、久しぶり」

「そうですね、お久しぶりです」

昔と変わらぬにこやかな笑顔で挨拶するおキヌ。
36となった今でも昔と変わらぬ清楚な雰囲気を備えた彼女だが、15年前に横島の友人堂本銀一と結婚、現在では2人の子を持つ母親でもある。

「昨日お帰りになったんですか?家の主人も会いたいって言ってましたよ?」

「そう言えば銀ちゃんにもしばらく会ってないな〜。よし、今度一緒に呑みに行こうって言っといてくれる?」

「わかりました♪伝えておきますね」

横島たちの結婚当初、彼女が愛包丁シメサバ丸を握り締め薄く笑う様子を見てシロタマが縮み上がったのは彼女たち3人だけの秘密だ。

「みんな揃ってる?」

「……おはよ」

そう言いつつ令子とひのめがやって来る。
二人で並べばなんとか、姉妹に見えないことも無い。

「姉妹よっ!」

そうでした。

「それじゃ、今日も張り切ってバンバン稼ぐわよっ!いいわね!!」

とまれ、美神除霊事務所、始動である。


<AM10:20>

本日最初の依頼はここ、都心にある最近改装された超高級高層ビル『サイレントヒルズ』での仕事である。

「で、出たのは鋏を持った怪人?それとも逆さ吊りの少女?」

「はぁ……?」

「ちょっとタマモ……す、すいません〜。えっと、依頼主の方ですね?美神除霊事務所から派遣されました真友康則と言います。こっちはタマモです」

「あ、これはどうも……」

突拍子も無いことを言い出すタマモを制し、真友が名刺を渡す。
名刺を渡された相手は不審気な表情を浮かべながらも霊障に関する詳しい説明を始めた。


「事前に聞いてた内容とほとんど変わらないみたいだね」

「そうね」

お互い感想を述べながらエレベーターでビルの上階を目指す二人。
仕事の内容は簡単なもので、依頼主の会社のあるフロアに悪霊が出たので退治して欲しいとの事。
特に強力でも無さそうなので二人だけで除霊に当たる事となった。
そう、強力な悪霊ではない。
しかし。

(そう!しかし!これはチャンスだ!あんまりタマモと二人きりで仕事するなんて無いんだから……)

真友の頭の中は別の案件で掛かりきりだった。

「ちょっと、マトモ?」

訝しげに彼の顔を覗きこむタマモ。
だが、真友は悶々と妄想を続ける。

(そうだ!これが終ったら二人でデートしてレストランで食事でも……)

「ちょ、ちょっと!」

(そんでもってそんでもって!その後部屋を取ってあるんだ……なんて言ってみちゃったりして〜〜!)

「マトモ!危ないっ!!」

タマモの悲鳴に近い叫び声にふと我に帰る真友青年。

「へ?」

『プロ野球に新規参ニューーーーーッ!!お前らが来るのは想定内だぁーーーーーーーー!!』

その眼前に悪霊の物と思われる巨大な手が迫った。


<AM10:50>

関東自動車道を使い北陸へと向かう車の中。
重かった。

「空気がな〜……」

と、ぼやくのはハンドルを握った横島。
その隣には。

「なんで……シロさんと……たかった……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……」

車に乗り込んでから2時間近く、暗い表情でブツブツと呟く茂呂の姿があった。
彼を中心に暗い重苦しい空気が広がっていく。

「なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……」

「だーーーーーーーーっ!もううっさいぞ、茂呂!俺だってお前みたいなムサいのじゃなくって、ひのめちゃんとかシロとかと一緒に仕事したかったわい!」

「なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……」

「ったく。大体令子が今回は式神に関する依頼だから茂呂連れて行って来いって……俺が何したって言うんだよ、チクショー」

「なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……」

「チクショー……チクショー……チクショ……チクショー……」

「なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……」

「チクショー……チクショー……チクショ……チクショー……」

「こ〜の〜う〜ら〜み〜」

「晴〜ら〜さ〜で〜」

「「おくべきかーーーーーーーーーーーーっ!!うははははーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」

実は仲がいいかもしれない。
とにかく、悶々とどす黒い瘴気のような雰囲気を纏わせながら、車は一路北陸へ向かうのだった。


<PM10:55>

「くしゅんっ」

「ん?姉さん……風邪?」

「ダメですよ、美神さん。またお腹出して寝てたんでしょう?」

「違うわよっ!なんか悪寒が……」

「やっぱり……風邪?」


<PM1:00>

「いたたたた……」

「ったく、ボケっと考え事なんかしてるからよ?なに考えてたの?」

先程の悪霊は依頼主の会社社長の生霊だったらしい。
真友は悪霊に捕まれる寸前に霊体ボウガンを発射、動きを止めた所タマモが狐火で攻撃。
その爆風で真友がエレベーターの奥の壁に頭をぶつけたり、といった事はあったが一応、悪霊はあっさりと退治されたのだった。
その際に出来た後頭部のたんこぶを押さえる真友の顔をタマモが覗きこむ。
少し前屈み気味に覗き込んでいるので、そのふくよかな胸がぎゅっと……。

「ななな、なんでもないよ!なんでもない!」

「そう〜?って、あ、危ない!」

「えっ?おわっ!?」

タマモの表情+胸の迫力に思わずドギマギする真友、その間に彼の運転する車は隣の車線にはみ出していた。
慌ててハンドルを切り車線の中央へと車を戻す真友に、タマモが唇を尖らせて文句を言う。

「ちょっと〜、気をつけなさいよね?」

「ごめん……」

「事故起こしたりしたら私の胸に目が釘付けになってました、って証言しちゃうわよ〜?」

「いぃっ!?」

タマモの目が悪戯っぽく笑っていた。
真友形無し。
流石は元傾国の大妖、と言った所だろうか。

「ところで、どっか寄って行かない?」

「え……」

「え、じゃないわよ。お腹空いたって言ってるの!」

「あ……うん!どこがいいかな!?少しくらいなら俺、奢るよ?」

途端に、先程とは打って変わって満面の笑みを浮かべる真友。
その顔を見てタマモは苦笑した。

「じゃあ……」

「うんうん、じゃあ?」

「あぶらげ」

「へ?そ、それでいいの?」

「うん、いいの。私の知ってるお店があるから、そこに行きましょ」

「う、うん!」

嬉しそうに車を飛ばし始める真友。
その横でタマモは窓の外を眺めながらニヤっと笑い、呟く。

「……一枚一万円の最高級あぶらげだけどね。フッ」

「なんか言った?」

「なんでもな〜い♪」


<PM3:00>

「おい、茂呂。何か言いたい事はないか?」

「あんたに言いたい事なんていくらでもあるんですけどね……」

「そうじゃない、この状況についてだっ!」

暗い笑みを浮かべ「へっ」と笑う茂呂の脇腹を脚で小突く横島。
その反動で二人の体が大きく揺れる。

「あ……危ないだろ!?なにするんだ、副所長!?」

「言いたいのはこっちじゃアホーーーーーっ!誰のせいでこうなったと思ってやがる!?」

こうなった、とはつまり彼らの今いる位置である。
ようするに。

「なんでこんな断崖絶壁にロープ一本でぶら下がらなきゃならんのやーーーーーーーーーーっ!?」

であった。
元々の依頼そのものは大したものではなかった。
地元の三流式神使いが造ったのはいいが、コントロールできなくなった式神を倒して欲しいと言うものである。
そして彼ら二人は順調にその式神、かつて茂呂が造り出したものに毛が生えた程度、を追い詰めたのだが場所が悪かった。
いかにも、と言った吊り橋の上に式神を追い詰めた二人。
吊り橋の両側は前もって結界で封印してあった。
だが、その吊り橋の上で事もあろうに茂呂が式神を召還。
吊り橋は破壊され二人はその残骸のロープに宙吊りとなったのである。
下は30m近い渓谷の急流。
追っていた式神ですら粉々になるこの高さでは、さすがの横島も落ちて助かる自信は無い。

「大体なー!?なんであの場所で式神喚んだりしたんだよ!?落ちるって判ってたろうが!?」

横島の言葉に茂呂が顔を紅くしてそっぽを向く。
そして何事かもごもごと呟いた。

「はぁ?聞えないぞ?もっとはっきりしゃべれ!」

「だ、だから………たんだよ」

「だから聞えないっつー「間違えたんだよ!!」の……って、はぁ!?」

茂呂、彼は式神使いであるが、その影の中に式神をしまうといった事は出来ない。
あれは六道家や鬼道家など、一部の限られた血筋の者にしか出来ない高等技術なのである。
その為、彼は普段式神をお札の中に封じ込め、状況によって召喚するのだが……。

「間違えた!?まさか……破魔札とかぁ!?」

「そ、そうだよ……悪いか!?」

「悪いわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!なんて事するんじゃアホーーーっ!!だからあれほど札の整理はちゃんとしろってーーーー!!」

「うるさいうるさい!間違えたもんはしょうがないだろっ!!」

彼が札を間違えた原因、それは彼の服装にある。
服装などにあまり気を遣わない質の彼が愛用しているのは、無数のポケットが付いたよれよれのコートなのだ。
そしてそのポケットにはこれでもか、と言うほど大量の札が押し込まれているのを横島は知っている。

「だから言ったやないかーーーっ!偶には年長者の意見も聞かんかいっ!」

「大体、あんたが文珠か霊波刀を使えば済んだ事だろうが!?なんで僕にやらせたんだ!?僕がそういう……いわゆるお茶目さんだと知っていたくせにーーーーーーーーっ!!」

「俺がやる前にお前が札使ったんだろがっ!大体野郎にお茶目さんなんて使うか!アホで十分だ!アホーーーッ!」

「なんだと……この馬鹿っ!」

「ば、馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞっ!」

「アンタは子供かっ!!あ、そうだ!こんな時こそアンタの文珠……あ」

そこで茂呂は思い出す、横島が文珠を使って結界を張っていた事を。
そして、これで今日の分は打ち止めだな〜、とぼやいていた事を。
と言うか、この状況で文珠使おうと片手を離したら間違いなく落ちる。

「つっかえねぇな!アンタは!」

「お前に言われたかないわーーーーーーーっ!!」

その時。

ぶちぶちぶち……ぶ、つん。

「「あ」」


<PM20:00>

「おキヌちゃ〜ん?そっちの準備はいい?」

「は〜い、OKで〜す」

「シロ!アンタは?」

「OKでござる!」

「よぉし、後はひのめを待つだけね!」

令子たちがいるのは都心高速環状線、俗にC1と呼ばれる高速道路の路側帯である。
普段命知らずなお兄さんたちがギリギリの勝負を続けるここに、最近彼ら以上のスピードで走る鬼が出るとの噂を受け、事務所に依頼が来たのだった。

「ふふふふふ……、民営化したとは言え、天下の道路公団からの依頼!この不況の時代に3億よ、3億!これで張り切らなきゃ女が廃るってもんよ!オーッホッホッホッホッホッホッホ!!」

高笑う令子。

「美神さん元気ねぇ」

「久しぶりの大口の依頼でござるからな〜。張り切るのも当然でござるよ」

反対側の路側帯でぼそぼそと会話するシロとおキヌ。
と、おキヌの視線がシロの顔の上で止まった。

「ところでシロちゃん、いくつになったんだっけ?」

「へ?拙者でござるか?えっと、確か……数えで20と7でござるが?」

「って事は28、か……」

しげしげとシロの顔を眺める。

「な、なんでござるか、おキヌ殿……?目が怖いでござるよ……」

「……普通28にもなればちょっとは目尻の皺とか目立ってきてもいいはずなのに……なんでシロちゃんはそんなにお肌がつやつやしてるのかしらぁ〜?」

「ふぐぐぐぐっ!?くひをひっはらはいでふははへっ!」

「あら、ごめんなさい」

いつの間にかシロの頬を両手で掴んで伸ばしていたおキヌ。
なんとなく、自分の頬をシロと同じように摘んでみた。
ため息。

「拙者たち人狼族は戦うために若い期間が長いんでござるよ〜。そういうおキヌ殿だって肌きれいではござらぬか?最近ちょっと化粧濃いけど……」

「…………」

「ふぐががが〜〜〜〜〜!?」

井桁を浮かべて再びシロの頬を引っ張るおキヌ。
目が怖い。

「お金ーーーーーーーーっ!3億ーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「この口?そんな事言うのはこの口かしらぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」

「ふげごごご〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

騒がしかった。


<PM22:05>

その頃、ひのめは一人環状線をコブラでひた走っていた。
時速200kmを軽く超えている、が今夜環状線は警察の協力で封鎖されている為に彼女の運転技術を持ってすればそう難しい事ではなかった。
が、ハンドルを握るその指がハンドルにタップを踏んでいる。
それもそのはず、オープンカーで飛ばしていれば煙草など吸えたものではないからだ。
彼女のイライラは最高潮に達しつつあった。

「う〜〜〜……来るなら早く来るのだ……煙草〜〜〜……っ!」

ぼやいていたひのめの独り言が突然止む。
彼女の霊感が後方から凄まじいスピードで近付いてくる霊気を感じていた。

「む……来たなぁ?」

『ふ〜は〜は〜は〜は〜〜〜!!なんぴとたりとも俺の前は走らせんーーーーーーーーーーー!!』

サイドミラーに豆粒のように映る影。
それが何事か叫びながら次第に人の形をとる。

「やっぱり……韋駄天かぁ!!」

『フハハハハーーー!今日は獲物がいなかったのでちょっと寂しかったぞーーーーーっ!さぁさぁ、いざ尋常に勝負っ!!』

コブラの横を併走する一匹の鬼。
6つの目に1本の角を持ったインド辺りの民族衣装を身に纏った姿、それが高速道路の鬼の正体、韋駄天である。

『我が名は韋駄天十兵衛!女、貴様の名を聞いておこうかぁ!?』

ニヤリと笑う。

「美神ひのめ……GS」

『美神ひのめか……ふむ、いい名だな……………………って、美神ぃっ!?』

驚愕する十兵衛、その口が大きく開かれている。

(今あの口に煙草放り込めば……)

などとひのめが思っていると、韋駄天十兵衛の表情が変わった。
口を真一文字に結び、その瞳にはなぜか憎しみの炎が燃える。

『フフフ……そうか!貴様「美神」なのかぁ!?フハハハハハハハハハハハハハハハハーーーーーーーーーッ!!』

そして嬉しそうに笑った。

「美神を知ってる……?まさか、アンタ……!」

『そうだよ!俺はかつて「美神」に敗れた韋駄天九兵衛の息子だよぉっ!「美神」!ここで会ったが百年目!この俺と勝負だ、勝負しろぉ!』

「むぅ……」

『どうした?臆したかぁ!?』

口篭るひのめを嘲笑うかのように大声を張り上げる韋駄天十兵衛。
その言葉を聞き、ひのめは何かを決心したかのようにきっ、と相手を見据えた。

「判った……勝負してやるのだ!……………………次回にね」

『は、はぁ!?』

十兵衛の口が大きく開かれる。
しょうがないのだ、時間の都合という奴である。

「というわけで」


GSキッズ5に続く!


「う〜っス!おキヌさんなんか食べ物〜!」

「お邪魔しま〜す」

「って、おりょ?誰もいないのか?」

学校帰りらしい制服の炎華と雪比古が事務所の中を見回すが、誰もいない。

『お帰りなさいませ、炎華様、弓様』

「あ、人さん。ちゅっス!」

「こんにちわ、人さん」

と、そこへ別名リモートコントロールダンディ、人工幽霊壱号が台所から現れ、二人を出迎えた。
何故か「GARU GARU」というロゴの入った、ガルーダ幼生のイラスト付きの可愛らしいエプロンを身に着けている。

「あれ?人さん料理作ってんの?またお菓子かなんかか?」

「え!僕人さんの作ってくれるあの……えっと……なんだったっけ?うらねじ……みたいなやつ」

『ウフ・ア・ラ・ネージュでございますかな?』

「そうそう!あれ好きなんだよねぇ〜。ふわふわでさぁ〜、甘くってちょっと酸味が効いてて」

『それはそれは、ありがとうございます。ではまたその内に作って差し上げるとしましょうか』

「やったぁ……って。じゃあ人さん、今日はなに作ってるの?」

『えぇ、それがですね……』

「ん?なんだ、ホノカですか。ヨコシマかと思ったです」

そこへ、人工幽霊壱号と同様エプロンを着けたパピリオがキッチンから顔を覗かせた。
こちらのエプロンの柄はグレムリンの子供である。

「あ!パピリオじゃねぇか!何してんだ、お前。こんなとこでよ?」

「ふっふ〜ん♪仕事で疲れて帰ってくるヨコシマの為にパピの手料理作ってるんです♪」

「手料理ぃ?」

『えぇ。パピリオ様腕前はなかなかのものですよ。妙神山で練習なさっていたそうで』

笑顔で語る人工幽霊壱号だが、その陰にヒャクメや鬼門たちの尊い犠牲があった事は知らない。

「ふ〜ん…………んん?」

気のない返事を返す炎華は、パピリオを見つめ呆けた様子の雪比古に気付いた。
目の前で手を振ってみるが反応は無い。

「ふんっ!」

ばぎっ!

とりあえず顔面を殴ってみた。

「痛っ!?な、なにするのさ、炎華〜?」

「パピリオのエプロン姿なんかに見とれてるからだ、このスケベ!」

「ス、スケベって……ち、違うよ!」

慌てて否定する雪比古だが炎華の視線は冷たい。

「ほ〜お、んじゃあなんで呆けてたか言ってみろよ、あぁ?」

「そっ、それは……」

「ほれみろ!言えねぇじゃねぇか?パピリオに見とれてたってはっきり言いやがれ!」

「ぐぐぐっ!?ぐ、ぐるじいよ炎華ぁ……僕が思ってたのはじ、人さんが誉めるくらいの料理ってどんな味なのかなぁ〜ってぇ〜……」

炎華に首を絞められ悶絶した雪比古が本音を白状する。
その言葉に彼の首を絞める手を離す炎華。
床にしゃがみ込み咳き込む雪比古を見下ろす彼女の目が細められた。

「ほお?そりゃアタシみたいながさつな女には料理なんざできやしねぇ、って事だな?」

「けほっけほっ……って、えぇ!?ぜ、全然違……」

「うっせぇ!そこで目ん玉ほじくって見てやがれ!アタシの料理の腕前ってやつを見せてやろうじゃねぇか?人さん、台所借りるよ!」

『は、はぁ……しかし、目玉をほじくったら何も見えませんが……』

「うっさいな、人さん……バラして埋めっぞ?」

人工幽霊を横目で睨みつつ炎華が台所へと入っていく。
そこから聞えるパピリオの抗議の声と炎華の罵声に聞かない振りをしつつ、雪比古と人工幽霊は顔を見合わせた。

「炎華が料理だって……」

『不安ですな……』


GSキッズ5
「英雄欺人!真犯人を追え!」


『次回まで待ったぞ!さぁ、勝負してもらおうか、「美神」!』

鬼に堕ちた韋駄天、十兵衛が怒りを顕わに叫ぶ。
だが怒りながらもその霊力を集中させた脚力に変わりはなく、スピードは落ちていない。
我を忘れて怒り狂っているように見えるが、完璧に我を忘れている訳ではないようだ。
しかし、今回令子が提案した作戦の為にはそのスピード、つまり彼の集中を解かせる必要があった。
そこで。

「……何の話だっけ?」

『な、なんだとっ!?』

「だから〜、何の話だったっけって聞いてるのだ」

とぼけてみた。

『テッ、テメーーーーーッ!?さっき勝負してやる、って言っただろーが!?』

ひのめの作戦通り挑発に見事に引っかかった十兵衛。
その集中が乱れ、わずかにスピードが落ちた事を気付かれぬよう、ひのめも少しだけスピードを落とす。
このまま令子たちのいる地点まで速度を緩めつつ近付く作戦だ。
さらに十兵衛に気付かれないように、ドアポケットに入れてあった携帯を手に取る。
そして、そのまま素知らぬ振りで、とぼけ作戦続行。

「忘れた。って、言うかアンタだれだっけ??」

『ムッカーーーーーーーーーーーッ!てめぇワザとだろ!?ワザとこの俺様をバカに……!!』

「うぅん、マジ」

『ッキィィーーーーーーーーーーーーーーッ!ぐっ……いいかぁ、俺様はなぁ!韋駄……』

「井田國彦?」

そう言いながら短縮ダイヤルで、電話をかける。

『違ぁーーーーーーーーーうっ!俺様は天界にその名を知られた韋駄天十……』

「天重?食べてやらない事もないけど、できれば車から降りて準備OKなのだ♪ってなってからの方が……」

『人(?)の話を聞けーーーーーーーーーーーーーーっ!!』


まだ「金ー!金よー!」と叫んでいた令子の携帯から着信音が響いた。

「金ーーーーーーーっ!!って、ん?ひのめからね……」

通話ボタンを押し、耳に当てる。
すると聞えてきたのは。

『……りて準備OKなのだ♪って……』

という言葉。
そして恐らく今回の依頼のターゲットと思われる相手の罵声がそれに続く。

「おキヌちゃん!シロ!ひのめがうまくやったみたいよ、そろそろ目標が近付いてくるわ!」

道路の反対側にいる二人に声をかけた。

「えっ!あ、わかりました!」

「ふぁばっふぁふぇぼふぁふ〜!」

おキヌ、そして彼女に両頬を摘まれたシロが返事を返した。
どうでもいいけど、シロはおキヌちゃんに何を言ったんだろう?などと考えつつ、令子はすぐ傍のロープを掴んだ。
その先はどういう訳か道路のアスファルトの中に埋まっているように見える。

「二人とも!準備はいい?」

もう一度二人に確認する。

「大丈夫です〜」

「OKでござる!」

シロはどうやら開放されたようだ。
二人の返事を確認すると、令子はロープの端を持ったままその場にしゃがみ込んだ。

「さぁて……じゃあ作戦開始といくわよ!」


「……でさ、昨日の特番見た?」

『あぁ、見た見た!あれ面白かったよなーーー……って、違ーーーーーーーーーうっ!!なんで俺様が貴様と微笑ましく談笑せにゃならんのだ!?』

「…………」

十兵衛に切れられてぷく〜、と頬を膨らますひのめ。
ほのぼの談笑作戦は失敗したようだ。
だが、着実に彼女たちのスピードは落ちている。
あと少しで令子たちの待つ地点に到着する、ひのめがさらに追い込みをかける。

「てかさ、韋駄天って何の神様だっけ?」

『なにぃ?バカめ!韋駄天とはな、神界の神々の間の情報伝達を司る重要なだなぁ?』

「パシリの神様?」

『違っ!?』

「後で雪ちゃんに拝ませたらご利益ありそうなのだ」

『だから違うっ!』

「ってか、携帯のが便利じゃん?」

『っがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!』

もはや冷静さの欠片もなく、ブチ切れて吠えまくる十兵衛にひのめが500円玉を手渡す。

「カツサンドと豆乳買ってきて」

『へいっ、ただいまっ!…………って、だからパシリじゃねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!』

「あ、そこ危ないよ」

『なにぃ?』


「今よ!」

「いくわよ、シロちゃん!」

「合点でござる!」

「「「せーのぉ!!!」」」

ひのめのコブラともう一人の人影が彼女たちの間を通ろうとした瞬間、令子がロープの先端を掴み掛け声をかける。
さらに声を合わせ、三人がロープを引く。
と、地面にからなにか布のような物がはらりと剥がれ、ピンと張った呪縛ロープが道路に張り渡された。
と同時にひのめはコブラに急制動をかけ、ロープの寸前でスピンターンで見事に停まった。
で、韋駄天十兵衛は。

『ノォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!??』

すがしゃーーーーーーーーーん!

見事ロープに脚を取られてすっ転び、中央分離帯を乗り越え対向車線に飛び出し、バウンドしつつ100mほど離れた壁に激突したのだった。


「さ〜て、一丁上がりっと!これで3億!ボロい、ボロ過ぎるっ!」

十兵衛を呪縛ロープで縛り上げ、ご満悦といった表情の令子。
縛り上げられた十兵衛はさきほどから文句を言いっ放しだ。

『ちっきしょう……ずるいぞっ!霊波迷彩生地で呪縛ロープを隠しておくだなんてっ!』

「おーっほっほっほっほっほっほっほっほ!状況説明ご苦労様!気付かないアンタがバカなのよ!」

鼻水垂らして悔しがる十兵衛を見て、令子がさらに嬉しそうに高笑いする。

「いやぁ、今夜もラクショーでござったな〜」

「そうねぇ、被害もほとんど出てないし」

「美神殿の機嫌もいいし、助かったでござるよ。美神殿、仕事で損害が出ると最近拙者の毛を抜くようになって……」

シクシクと泣き笑いするシロ。
おキヌもほっとしている様子だ。
しかし。

「姉さん……何か来るのだ!」

ひのめが自分たちのやってきた方向を見ながら短くそう告げた。

「えっ?」

令子たちがつられてそちらを見た。

「何が来るの、ひのめっ!?」

「判らないのだ……でも、こいつより強い霊気が!」

こいつ呼ばわりされた十兵衛が不平を漏らすが全員無視。

「韋駄天の仲間でござるか!?」

「美神さん、確かに何かが来ます!」

その時だった、十兵衛が決定的な一言を漏らす。

『俺は何も悪い事して無いんだぞっ!たまたま仕事の帰りにちょっと遊ぼうと思って久しぶりに寄っただけなのにぃ!』

「「「「へ!?(でござる!?)」」」」

ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!

思わず4人が十兵衛の方を振り返った瞬間、凄まじいエキゾーストノイズと共に何かが路肩に停めてあったコブラを吹き飛ばした。
コブラが大小の部品を撒き散らしながら、宙を舞いアスファルトに激突し炎上する。
その爆炎を背にしながら、何者かの影が令子たちの前に立ち塞がった。
それは。

「人間!?」

「全然普通の人に見えますけど……」

その通り。
そこに現れたのは至って普通のそこら辺にいるお兄ちゃん、といった感じの青年だった。
だが、軽量とは言え車を生身の人間が吹き飛ばせるはずがない。

「そんなっ!?人間が車一台吹き飛ばしたって言うの!?」

「私のコブラちゃんが……ぬ……うぬぬぬぬ〜〜〜〜〜〜〜!こ、このぉ!……えと……その……バッ、バカーーーーーーーーーーーーッ!!」

「って、ちょっとひのめ!?」

燃えるコブラを愕然と眺めていたひのめが、その青年に向かって容赦のない炎の塊を5つ撃ち出した。
常人ならば、いやそんじょそこらのGSでは黒焦げの炭くずになってしまうほどの霊力、そして火力である。
令子も、おキヌも、シロも、十兵衛でさえ青年の死を確信した。
令子に限って言えば、翌日の新聞のトップ記事「GS除霊作業中に一般人を殺害!?」が頭に浮かび真っ白になっている。
だが。

「うるさい……!ウるさイ……!ぶブブぶ……ぶろ……ブろロろろぉぉぉォぉォォォン!!』

青年が咆えた。
と、同時に青年の周囲を膨大な量の邪気が覆う。

「な、なんなの!?」

「凄い邪気でござるっ!」

「み、美神さは〜〜〜〜ん!火が戻ってきますぅ〜〜〜〜〜〜!」

「「「げ!?」」」

そう、青年を覆った邪気によってひのめの放った炎が弾き返されてしまった。
火の玉は狙いすましたように令子たちを…………通り過ぎた。

「「「「へ?」」」」

『あぎゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?』

炎はそのまま令子たちの後ろへ飛んで行き、どぉん!と轟音を響かせ、炎は縛られたままだった十兵衛に全弾命中したのだった。


その頃、横島と茂呂はようやく東京近郊まで戻ってきていた。
どうやってあの状況を回避したのかと言うと……。

「あ〜、ギャグキャラでよかった……。シリアスだったら死んでたぞ?なぁ、茂呂」

「僕はギャグキャラじゃないぞ!?アンタみたいな化け物と一緒にするなよ!?」

そう言いつつ額に絆創膏一枚貼っただけで助かっている茂呂。
ギャグキャラの素養十分である。

「さて、と!今日の仕事もこれで終ったし、あとは事務所に戻って書類の整理して終わりかぁ」

「たっく、誰がギャグキャラだってんだよ、誰が……」

助手席を思いっきりリクライニングさせて伸びをする横島。
茂呂はまだぶつぶつ文句を言っている。

「ん?」

かさり、と手に何かが当たる感触。
手に取って見ると他の場所の除霊依頼の書類だった。
何気なく目を通す横島。
その目がある一点に釘付けになる。
それは依頼主の道路公団側が集めたこれまでに起きた証言の一つ、

「普通の人間が車を吹き飛ばした」

という証言。
ただそれだけ。
普通のGSならば気にも留めないであろうこの証言を見て、横島の脳裏を過ぎる物があった。

「まずいっ!茂呂、すぐに車をC1に回せっ!」

「俺はギャグキャラじゃ……って、え!?C1って、首都高のか!?」

「そうだっ!令子たちの行った現場の霊障……ひょっとしたら例のアレにつながってるかもしれない!」

「例のアレって……っ!」

横島の言葉に首を傾げていた茂呂だったが、何かを思いついたように目を見開いた。
二人の頭に浮かんだ物、それは。

「DI−Aか!?アレが日本に出回ってるなんて聞いてないぞ!?」

「今まで表に出てこなかっただけさ……、とにかく急げ!令子たちだけじゃ危ない!」

「わ、判った!」


「なっ!?なによ、あの爆発!?」

タマモが驚きの声を上げる。
その声に振り向いた真友の目にも同様の火柱が映り込んだ。
彼女たちはつい先程築地で起きた新しい事件、人魚の人妻が家出して築地にマグロと共に並んだ、を解決し事務所に戻ろうとした矢先である。

「首都高環状線……タマモ!」

「ミカミたちが仕事してたはずね……」

素早く携帯を取り出し、人狼の親友の下へ電話をかけるタマモ。
だが、一向に繋がる気配はない。

「ちっ、やっぱりダメか……!」

「俺たちも行ってみよう、タマモ!所長たちが危ないのかもしれないよ!」

「判ってるわよ。急いで、真友!」

「任せて!」

真友の運転する赤いクーペが走り出す。
目指すは首都高、環状線。


「ヨコシマ帰ってきませんね〜……パピの料理が冷めちゃうです」

「ほんとだよなぁ。せっかくこのアタシが料理作ってやったってのによ〜」

炎華とパピリオがテーブルの上に並べられた豪華な食事を前にしてため息をついた。

「って、何を言ってるですか?ホノカが作ったのは料理じゃなくってどっかの異次元生物です」

「んだとぉ!?」

「あれを見てもまだ料理だと言い張るつもりですか?」

と言ってパピリオが指差す先には、イチゴ風の顔色で「こぱー……」と床に紫色の液体を垂れ流しながら倒れている雪比古の姿。
その口の奥からたまに『もげげげげーーーー』と何かの声が聞こえる。

「う……あ、あれはまだ料理の途中だったからよ!雪比古の奴が盗み食いするから悪いんだ!」

「どう見ても、嫌がるユキヒコの口にホノカが無理矢理流し込んだようにしか見えなかったです」

『さぁさぁ、炎華様たちもう遅うございますよ。せっかく明日は休日なのですからもうお休みになられては……』

雪比古も介抱を早々に諦めた人工幽霊壱号が二人を寝させようとする。
その頭の中は半ば溶け崩れ、異臭の漂う魔界となったキッチンをどうするかに夢中であった。
ついでにテーブルの上の鍋に入れられた炎華の『手料理』の処分も、だ。

「「嫌!(です)」」

二人の声が重なる。

『困りましたなぁ……』

と、そこへ電話のベルが鳴り響いた。
受話器を取ろうと人工幽霊壱号が動くより速く、炎華が受話器を取り耳に宛がう。

『もしもし!横島だ!令子たちから連絡は入ってないか!?』

受話器から響く焦った横島の声。

「親父?なんだよ、ママからの連絡は無いけど……どうかしたのか?」

『ほ、炎華!?なんでまだ事務所にいるんだ!?』

「何でもいいだろうが?それよりママたちがどうかしたのかって聞いてるんだよ!」

『う…………な、なんでもない!連絡がないならいいんだ。じゃあ、もう寝るんだぞ、炎華!じゃな!』

「あ、こら!親父!おいっ!…………ちぇ、切りやがった。にしても焦ってたな、親父の奴……」

受話器を置く炎華にパピリオが眼を輝かせて詰め寄った。

「ヨコシマからですか!?何時ごろ帰ってくるんです!?」

「知らねぇよ。ったく…………待てよ?」

しばらく何か考え込んでいた炎華だが、急にその顔に怪しげな笑みが浮かんだ。
不審気な顔を向けるパピリオと人工幽霊壱号が見つめる中、炎華はこう言い放った。

「人さん、車貸してくんない?」


GSキッズ6に続く!

>NEXT
▲記事頭

yVoC[UNLIMIT1~] ECir|C Yahoo yV LINEf[^[z500~`I


z[y[W NWbgJ[h COiq O~yz COsI COze