『 美神さん。大事なお話があります。
隊長の携帯にすぐ掛けて下さい。 』
と、用件を一方的に伝えられた私は辺りを囲んでいる
自衛隊のチームに不快感を感じていた。
つい、金額で承諾してしまった依頼だったが
冷静になると色々と不穏な点が見える。
まず、違約内容の多さや
──それに伴う金額の多額さ。
次に那須に封じ込められている筈の九尾の退治が
都市近郊の森で行われるというのは
──明らかにおかしい。
そして、九尾という大妖を退治するための戦力に
オカルトGメンを登用していないのは
──明らかに何らかの意図が見えた。
そして、殺生石にある周りを囲うための結界。
妖孤を封じ込めるための結界のはずのソレは
態々レベルを下げてまで
──対人にも効果のあるソレを要求された。
ふと、依頼内容の書類を思い出す。
何故か、金額と場所に関する内容の書類が
無くなっていたが、昨夜の内に読んでいたので
──間違うことなく指定の場所に来れたのだが・・・。
今は紛失しなかった書類の方を思い出す。
『 殺生石の封印が都市近郊の森で解けるので
ソレに伴って退治をすれば報酬三億
捕獲すれば 報酬一億・・・。 』
『 違約記述 結界の補強を何より優先させること。
違反した場合は前金全額を政府に返金すること。 』
政府は那須に殺生石がないのを
──知っていたと見るのが妥当だろう。
次に理由・・・。
九尾の封印時間を延ばすために
──那須より霊的地脈が少ないこの場に移した・・・?
それであれば何故・・・時間を延ばしたのだろう。
───チラっ
私は左方を固めている自衛隊の一人に視線を移す。
( あれは銀の銃弾ね・・・。
──装備を用意するための時間稼ぎかしら?)
装備に考えを巡らし更に謎を深めた。
[ 何故、私を呼んだのか? ]
装備を整えることが出来たのなら
──私はそんなに必要ないはずだ。
( 『九尾の狐』 といっても
封印が解けたばかりじゃ赤子みたいなものだわ。)
そう、私を呼ぶ理由がない。
[ 対人にも効果のある結界術の強制 ]
ふと、違約記述の一旦が浮かぶが
何度考えても、手かがりが少ない現状では
──答えがでることが無かった・・・。
暫く考えた後
『 美神さん。大事なお話があります。
隊長の携帯にすぐ掛けて下さい。 』
答えは横島の伝言通りに従えば答えを得るのだろうと
漠然とした予感がした。
願い 〜第一話〜中篇
[ 都市近郊のはずれにある森 ]
森の木々達が枝葉で天井を作り
─その隙間から零れ落ちる陽光によって
枯葉や木の根で埋め尽くされた地面
そして─ポツン─と置かれた殺生石に複雑な模様を描いている。
そんな景色を幻想的だと思いながら私は眺めていた。
「 おキヌちゃん 」
半ば呆けていた私を小声で呼ぶ声の持ち主は
『 美神 令子 』 私の上司であり、お姉さん的な存在
である彼女は実は恋のライバルだったりする。
腰まで伸びている艶やかな亜麻色の髪や
露出度の高い服装に見合うプロモーションを持つ
彼女を見ながら『私だってっ!』 と意気込むのは
既に日常的な一幕となっている。
「 ──はへ? 」
そして、呆けていたために恥ずかしい返事を
してしまったのが私『 氷室 キヌ 』
艶やかな黒髪と
美神より少々凹凸に乏しいが
抱きしめたら折れそうな印象を与える
スリムなプロポーションを持つ元・幽霊巫女。
現在は復活して『 私立:六道女学園 』で
──立派に生徒をしている。
「 ちょっと此処から離れるわよ 」
返事をした私に再び小声で話しかけてくる美神さんを
不思議に思いながら
私は従い歩き出したのだが
───ガシっ
「 きゃっ?! 」
突如、私の腕を捕んできた自衛隊員の腕に
驚き声を出してしまった。
「 すみませんが、持ち場を離れないでもらえますか? 」
と、丁寧だがやや凄みのある声で話しかけられた私は
「 え? えっ? 」
混乱したように美神さんと
─自衛隊の男性を交互に見ることしかできなかった。
「 ちょっと話しがありますので── 」
と、笑顔を浮かべ男性に話しかける美神さんと
「 話は此処でしてもらえませんか? 」
と、私の腕を掴んだままに
武張った感じのある表情を崩さずに言う男性の
発言を耳に入れながら
──私は
男性の腕から逃げることに必死になっていた。
僅かな時間の経過。
─結局
『 殺生石に変化が起きた時の連絡のため 』
『 結界を維持するため、キヌさんには待機してもらいたい 』
と言う男性の言葉に従い妥協し
隊長格の男性が一人つき、僅かな時間持ち場から
離れることを許された。
殺生石からやや離れた場所で[自衛隊の包囲網の一番端 ]
「 おキヌちゃんに頼みたいことがあるの 」
と態々─付き添った男性に聞こえるように喋る美神さんの
思惑を考えながら私は
「 ──何ですか? 」
と返事した。
突如
『 おキヌちゃん、驚かないでね 』
そんな言葉が私の頭に響いた。
僅かに驚き─ピクっ─と反応してしまった私に
付き添った男性が怪訝な表情で私を見ていたが
──アハハっ・・・ と誤魔化し
『 今文珠使って伝えてるんだけど
──伝/心じゃないから一方通行なのよ 』
「 今から私は殺生石の周りに敷いている
──結界の点検に行くから・・・ 」
「 はい 」
頭に響く内容と言葉で喋られている内容を混乱しないように
私はゆっくりと整理して返事した。
『 ──と、いう訳で私が合図したら此処から離れる素振りをして
その際はあの男の脇を抜けるようにしてね。
そしたらアイツがまた─おキヌちゃんの腕を掴むはずだから
その隙に私は文珠で『眠』をあの男にぶつけて此処から一旦でるわ
──その時におキヌちゃんには残ってもらって
文珠を渡すから『幻』を使って時間を稼いで。
対象にぶつける訳じゃないから
効果時間は短いけれど間に合わせるから── 』
「 殺生石に変化が起こった時に、笛で知らせて欲しいのよ。
──今よっ!!」
美神さんがそう叫ぶと─私は指示にあったように
男性の脇を抜けるために駆け出した。
「 何処へ行くっ?! 」
そんな怒声と共に腕を伸ばす男性を見ながら
「 きゃぁー! 」
と声が出てしまうのは仕方ないことだと思う。
───怖いんです。
( 美神さん頼みますっ! )
怖いのを必死で抑えて男性に近づき、脇を抜けようとして
───ドサっ
( あら? )
自衛隊の男性が倒れたのをキョトンと眺める。
「 ふぅ・・。おキヌちゃんが上手いこと叫んでくれたから
注意が完全にそっちにいったわ。指示とはちょっと違ったけど
結果オーライよね。 」
と眠りに入っている男性を近くにある木の木陰に縛りながら
発言する美神さんに
「 怖かったんですよぅ! 」
と、不満をぶつけた。
暫くして、男性を縛り上げた美神さんが
「 じゃ、行って来るわね。おキヌちゃん頼んだわよっ! 」
という言葉と共に自衛隊の包囲網から
──離れた場所へと駆け込んでいった。
残された私は・・・。
「 どんな『幻』使えばいいんですかぁー! 」
と軽く泣きが入っていた。
・
・
・
・
・
『 ───と、いう訳なのよ 』
ママと電話で話した私は
自身に置かれていた役割を知った。
Gメンが殺生石に気づかなければ
私は依頼のまま、妖孤の退治をしていただろうが・・・
裏に隠された役割
違約記述にもある結界の補強という事項が引っかかった。
それは結界の存在を知られた場合に
Gメンが突入してきた穴を防ぎに出されるためのものと言えた。
そこから出される答えは結果的にもママに対する
『足止め』の効果であり、破られた場合も
違約による罰金で無料で私を遣えるという計算も
働いているのだろう。
「 なんですってぇ?!
それじゃ私は─『上手く遣われる所だった・・・』」
私の発言に被せるように発言したママの言葉は
私の背筋を凍らせた。
「 じゃ、じゃぁどうするのよ? 」
『 今から令子には持ち場に戻って
復活した九尾を結界から逃がしてほしいのよ。 』
「 どうやってよ? 」
僅かに返答に間が空いた。
『 ──ここを出るときに縛った男がいるでしょう?
それに『模』の文珠でも使って化けて頂戴 』
僅かな時間の経過
「 やってもいいけど、効果時間が心配だわ。 」
思考を終え、不安要素を述べた。
『 ──文珠は残りいくつあるの? 』
「 一つしか残ってないわね・・・ 」
『 ちょっと不安ね。──あっちょっと待ってて 』
「 急いでよママっ!時間あまりないんだからっ! 」
そういってママは向こうにいる仲間達と話しているようだ。
──所々で『 横島クン── 』いう声がした。
向こうで彼が待機しているのだろう。
( せっかく休日あげたのに、何やってるんだか・・・)
つくづくトラブルに好かれた男だと思い『ハァ・・・』と
──呆れた溜息がでる。
( 合流したら一発ぶん殴ってやらなきゃ )
等と物騒な思考に変わった所で
『 もしもし、待たせたわね 』
とママから声が掛かった。
「 んで?どうしたらいいの? 」
『 横島くんが言うには文珠は飲み込むと
使用時間が延びるらしいわ。
『模』だと飲み込んだら大体二時間は持つみたい。 』
「 わかったわ。今試したいところだけど
行動する時に使った方がいいわね。 」
『 そうね、その方がいいわね。 』
「 で、どこに逃がせばいいの? 」
『 それは ───「 ピリリリリリリリ・・・・ 」 』
「 ごめんママ、殺生石に変化が起きたみたいなのっ
おキヌちゃんも待たせてるしもう行くわっ!! 」
と言い残し電話を切ろうとしたが、
『 公園っ。 公園の方が私達が近いわ。
何とか妖孤の逃げる方向を操作してっ! 』
という声を最後に聞き取り
「 わかったわっ! 」
と切ると同時に言った。
・
・
・
・
・
[ 再び森の中 ]
おキヌちゃんと別れた場所まで着いた私は
まだ男が縛ったまま寝ているのを観察して
ある程度の装備を奪い
『模』の文珠を飲み込んだ。
瞬間
流れる記憶。
───無機質な部屋
集まった政治家達
Gメン本部の思惑
美神令子の張った結界を妖孤に抜けられた
場合においてのみ活動する公園に潜んでいる
待機チーム。
「 っつぅ・・・ 」
急激に頭に流れた情報によって
痛む頭を抑えながら殺生石のある場所へと
急ぎ駆け込んだ。
( それにしても運が良かったわね。
此処まで情報をもってる男が付き添って
その男を無意識にでも捕らえるなんて、流石私ね。 )
なんてことを考える余裕を保ちながら・・・。
[ 殺生石前 ]
私は殺生石をボーッと
眺め、美神さんを待ち続けていた。
結局私が使った『幻』の文珠は
短時間の使用で済ませた。
私が映した『幻』は
一度三人で戻ってきて、その後に
私達を監視していた男性と美神さんが
再度、殺生石の待機場所から出て行くという『幻』
( これなら途中で切れる心配なんてないですし・・・)
と思って使った私は珍しく機転が利いてたなぁ と
自身を褒めながら只管美神さんの帰りを待っていた。
突如
殺生石の周りの雰囲気が変わった気がした。
───キョロキョロ
周りを窺うが気づいた人達は居ないようだ。
( 気のせいじゃ─ないよね? )
と、自身の内に問いかけ
未だあまり得意ではない霊視を開始する。
( 何?アレ・・・ )
そうして視えたのは殺生石が辺りの霊気を
今までより明らかに数倍の勢いで吸い込んでいるビジョンだった。
「 皆さん。動きがありました。
今から美神さんに連絡するので気を引き締めてください。 」
そう周りの男性に言い放ち
───ピリリリリリリリリ・・・・
とネクロマンサーの笛に
( 美神さん 早く来てくださいぃ )
腰の引けた感情を乗せ奏でた。
───ピシッ
そしてその音に反応したのか
殺生石に僅かな罅が入り
おキヌは固まった。
・
・
・
・
・
[ 殺生石付近 ]
殺生石が視界に入る木陰に潜み
私はおキヌちゃんを探した。
( ───いたっ! )
ゆっくりと不自然じゃないように木陰から出て行く。
「 あら? 隊長。美神令子さんはどうしたんですか? 」
───ドキッ
不意に隊員に話しかけられ心臓が跳ねた。
その動揺を隠し
「 彼女は結界内に他の妖怪が進入しようとしてるのを感知し
──結界の強度を上げるためにある地点で待機している 」
( 妖怪化したママが来るのを感知して
──これから結界の一部を解くんだけどね )
内心で考えてることを表に出すことなく
真実(?)と嘘を織り交ぜた報告を行った。
「 そうなんですか。そろそろ妖孤が復活するようですよ 」
「 そうか。私は詳しい話を彼女(おキヌ)に聞いてくるとしよう
気を引き締めて持ち場に着くように。」
「 はっ!」
( ふぅぅぅ。誤魔化せたかしらね?
なるべく『模』した男の様に喋ったのだけど── )
隊員と別れ、過大に緊張していた体を解し
おキヌちゃんと元へと歩む。
時間を然程掛けること無く
「 おキヌちゃん 」
と私は小声で語りかけたのだが
───びくぅっ?!
と音がするほどに身を固まらせたおキヌちゃんを
怪訝な表情で窺った。
「 ──? どうしたの? 」
と、尋ねたが
「 ひっ! 」
身を小さく捩って私から逃げていくおキヌちゃんに
軽く傷ついた・・・。
僅かな思考の後
( あ、私『模』の文珠使ったままだった── )
少しづつ逃げようとするおキヌちゃんに
軽い頭痛を感じた後に
「 私よ。文殊つかってるの 」
と小声で話しかけた。
その言葉を聞いておキヌちゃんは
──僅かに瞳を丸くした後
「 美k「 静かにっ!」うぅー。 」
いきなり私の名前を叫ぼうとするおキヌちゃんの
口を手で押さえながら小声に感情をのせ
おキヌちゃんを黙した。
そんな私達を怪訝な目でみる隊員達に
僅かに身を捩らせた後
おキヌちゃんと一緒に
アハハ・・・と乾いた笑いを浮かべ誤魔化した。
僅かな間、白い目で見られていた私達だが、
何とか不自然じゃない程度に現場から離れ
おキヌちゃんに事情を説明することができたのだった。
後書き
何とか此処までいけました。
様々な思惑を描いて皆様にわかりやすくと思っているのですが・・・
余計わかりにくくなっている感を感じておりますorz
次回こそ!タマモをどうやって救出したかを描きますので
ヨロシクお願いしますね!
ちなみに、また今話もキャラ三人しかでてません orz
キャラを上手く使えるように努力していきますので・・・
またも暖かい目で見守っていてください!
では 次回もがんばりますので
今後ともよろしくお願いします!
>">ash様
誤字の指摘ありがとうございます!
美智恵だったんですね。
助かりました!