同僚がみずからの手で得た勝利に審査員席は沸きたっていた。
「やったなおキヌちゃん。まさかあそこから前に出るなんて思わなかったよ」
「そうね。2度は通じないかも知れないけど『勝負』は1回きりだもの。教えた甲斐があったわ」
「……」
手を打ち合わせて喜びを表現する横島とルシオラを横目で眺めながら美神は思案顔をしていた。美神の目には、あのカナという娘がまるで自分からおキヌのパンチに当たりにいったように見えたのだ。
(まあ、いいか)
とにかく講評書かないとね、と実はそれなりに忙しい美神だった。
「あ、私、勝っちゃった……?」
当のおキヌは我ながら信じられない、といった様子で佇んでいる。
「……と、とりあえず戻らないと」
と自軍コーナーに戻ると一文字が歓声をあげて迎えてくれた。
「やったじゃないかおキヌちゃん。まさかあんたが2人もやっつけて勝っちまうなんて思わなかったよ」
「あ、いえ、まぐれですよ。それよりごめんなさい、一文字さんの出番なくしちゃって」
感情面だけのことではない。戦術的にはあの場は逃げて一文字に代わった方が確実だったのだ。
「夢中だったから交代すること考えつかなくって。やっぱり私まだまだ未熟ですね」
「何言ってんだ。おキヌちゃんだってさっきは出番なしだったろ。未熟はお互い様だしな」
そこへ何となく蚊帳の外でつまらなくなった弓が口を挟む。
「それより次は決勝。今度はちゃんと試合を見て予習しておくわよ! どうせ向こうもこっちを見てた筈ですもの」
「そうだな。やっぱ優勝しねーとアイツは見返せねえもんな」
「ええ。それに優勝すればおねーさまの目に留まるかも知れないし……!」
(あはは……)
私どうフォローすればいいんだろ、と頬をかくおキヌだった。
……。
「何だありゃ? 急にほうけた顔しちまって」
「あれは幻覚の類よ。何を見せられてるのかまでは分かりませんけど」
「へえ。するとあの榊の枝から飛ばした水がタネなんだろうな。てことはあれさえ食らわなきゃいいってことか……」
準決勝第2試合。おキヌ達は観客席でじっと相手の技量を観察していた。
「でももしやられちゃったらどうすればいいんですか?」
運動神経は鈍い部類に入るおキヌには水滴を避けきる自信はない。
「自分を強く持つことよ。いま自分は対抗戦をしてるんだ、という自覚を強く持っていれば幻覚にかかりにくくなるわ。
後は幻覚の中の矛盾を発見することかしら」
要は自分が見ているのは幻覚だと認識できれば破れるのよ、と弓は続けた。
「なるほどなー、やっぱ弓はすげーよな」
「は!?」
予想もしなかった相手からの称賛に思わず引いてしまう弓。
一文字は気恥ずかしいのかあさっての方に視線を泳がせながら、
「あたし、ただの不良だったからさ。何にも持ってなくて、やっと見つけたのがこれなんだ。だからこれだけはがんばろう、ってずっとやってきたんだ。
んでもって、いつかはあんたみたいになれたらいいなあ、なんて思ってたんだけどね」
やははは、と照れ隠しに空笑いする一文字に弓はぼむっと真っ赤になって、
「……そ、そう。ま、まあ私を目標にするという心構えは感心ですわね。永遠に無理だとは思うけどせいぜいがんばりなさいな」
ぷいっとそっぽを向いてしまったが、その雰囲気はずっとやわらかいものになっていた。
「1年生の部決勝戦! 1年B組対1年G組!!」
アナウンスに従って両組の選手がコートに現れる。
G組の3人は忍者のような黒ずくめの服を着た峯京香、巫女装束に榊を持った神野恵那、金髪でレオタード姿の峰・アイリス。
「改めて見ると何か落ち着いた感じがしますね。強そう……」
「神野さんの能力はさっき見たわね。あとの2人は出番がなかったけど、峯さんには注意して。入試で実技成績が私と同点首位だったわ。攻守共にスピードもパワーも十分だし、他の人間にはやれない特技を持ってる」
「特技って?」
一文字が訊ねたが弓は首を横に振って、
「中味までは知らないわ、残念ながら」
「強敵だな……」
「決勝ですもの、強敵で当たり前よ。でもそれは『私達』だって同じこと。決して勝てない相手じゃないわ」
「――!」
「弓さん……」
「私はまだダメージ残ってるし、サポート中心でいくわ。これが最後の試合……気合を入れていくわよ!」
「始めっ!」
鬼道の合図と共に、B組からは一文字が、G組からはアイリスが先鋒として結界に入った。
「雷獣変化っ!」
アイリスが掛け声と同時に変身し、四足の猛獣のような姿になる。驚いた一文字だったがそこはケンカ慣れした経験がものを言って、
「らぁっ!」
飛びかかってくる雷獣を横っ飛びに転がって避け、角材を振り回す。しかし雷獣もその名に恥じない素早さでそれをかわし、再び間合いを取った。
「こいつ……獣化能力か!」
一文字が雷獣を睨みつける。と、雷獣もその視線を真っ向から受け止めた。
バチバチッ!
霊力がこもった眼光の応酬で両者の中央に火花が散る。
「……な、何だ?」
動きを止めた2人に横島が訝しげな目を向けた。美神が答えて、
「相手は獣だからね。あーやって……」
ガンをぶつけ合っていた2人だが、やがて雷獣が気合負けして目をそらす。そのまま怯えた子犬のように自軍コーナーに逃げ戻った。
「目をそらした方が負け!」
「「……」」
横島とルシオラが脱力して机に突っ伏す。そしてその間に雷獣は恵那と交代していた。
「雷獣を気合いで負かすとは、大した精神力だわ! でもこれはどう!?」
恵那が手に持った榊の枝をばっと振り回し、それについていた水滴を一文字に振りかける。しかし一文字にとってそれは恵那が出てきた時点で予測できたことであり、
「甘えんだよ、そんなの!」
と身をかがめ、特攻服の裾を捲り上げて水滴を防いだ。
「なっ!?」
水滴は直接相手の体に付着させなければ効き目はない。恐慌して一旦下がろうとした恵那の足を一文字の角材が横薙ぎに払った。
「きゃあ!」
転ばされた恵那だが幸い自軍コーナーのそばだったので、一文字に追われる前に這い戻る。
「お、お願い!!」
「まったく、あんた達は……!」
ぼやきつつもタッチを受けて、最後に残った京香が場内に入った。
「……やっぱり、見ておいて正解だったわね」
一文字が2人まで退けたのを見て弓が呟く。アイリスはともかく、恵那の能力を知らなければ水滴をかわせず彼女の術中に陥っていただろう。
「そうですね」
平凡な相槌を打つおキヌ。思い返してみればさっきカナに自分の反撃が決まったのも、彼女が自分の技を知らないからだった。知っていれば、もっと慎重に戦って自分を懐に入れないようにしたに違いない。
敵を知る事が重要なら、己を知らせない事もまた重要。ルシオラに聞いた事だが、こうして目で見、身をもって体験してみるとやはり違う。
(これも勉強なんですね)
そう心に頷いたおキヌの目の前で、今度は激しい格闘戦が繰り広げられていた。
京香は弓と実技同点、さらには敵の大将株だけあって、素手で一文字の角材と互角以上に渡り合っている。
「くそ、こいつ、強い!」
「ふッ!」
まさに忍者のような俊敏な動き。振り回される角材を背面飛びの要領でかわすと、そのまま浴びせ蹴りにつなげて一文字をたたき伏せた。
「ぐっ!」
「交代よ、一文字さん!!」
形勢不利と見て弓が後ろから声をかけるが、京香はそれを許そうとしない。起き上がりかけた一文字を一気に仕留めようと躍りかかる。
「ナメんな!」
その言葉に反して、一文字は京香のパンチをわざとまともに顔面で受けた。そしてその勢いで後ろに下がって距離を取る。
「逃がさないわよ!」
「これでもか?」
追ってきた京香に、一文字はニヤリと笑って角材を槍投げのような体勢でかざしてみせた。
「くっ!?」
いくら京香が素早くても、至近距離で投げつけられる角材はかわせない。一瞬足をとめて様子を窺うが、その間に一文字はコーナーまで戻っていた。
「よくやったわ。後は私に任せなさい!」
と弓が場内に飛び込む。
「弓かおり……確か入試で同点首位だったわね。今ここで決着をつけようじゃない!」
「望むところよ!」
場は決勝戦、しかもお互い後はない。舞台としては最高であった。正確にはB組にはまだおキヌがいるのだが、京香の前に立ったら10秒ともたないだろうからもう戦力外だ。
「はあっ!」
弓は不用意に間合いを詰めず、薙刀でぎりぎりの距離から『突き』を入れる。一文字との戦いを見て、懐にもぐりこまれたら勝てない事を理解していたのだ。
「くっ!」
薙刀と素手ではレンジが違いすぎる。一文字の大味な戦いぶりとは違う計算された連続突きに京香は後退を重ねた。
「決着をつけるんじゃなかったですの!?」
「この……!」
どうせこのままじゃジリ貧、と腹を決めた京香が、胴を狙って突き出されたきた薙刀の刃を強引に右拳で払ってはねのける。手の甲に血が滲んだが構わずに前に出て左拳を繰り出した。
「!!」
弓にとっては意表を突かれた形だったが薙刀の長さが幸いして、手を離してブロックするのが間に合った。しかしそれは1回戦で負傷した右腕で、
「痛ッ……!」
あまりの痛みに意識が飛びかけたが、必死で後ろに飛んで何とか間合いを取った。
(やっぱり強い……このままじゃ勝てない!)
あっさり見切りをつけ、薙刀を捨てて両手で首にかけた大きな数珠を握る。
「弓式除霊術奥義、水晶観音!!」
ビュンッ!
数珠が光り、青白い珠のような甲冑に変化した。両肩の辺りに腕が4本増えている。
「クラス戦くらいでこの技は使わないつもりだったけど、短時間ならこれでケガのハンディも……!!」
6本の腕と甲冑の防御力で一気に勝負をつけようとした弓だったが、
「甘い!」
ビュンッ! パシュッ、パシュ!
京香の額の上から何かが蛇のように伸びて弓の脇辺りに突き刺さった。
「な……体が動かない!?」
「宝珠を強化服に変化させてパワーを増幅する『水晶観音』……弓式除霊術は研究済みよ!」
笑みを浮かべながら言い放つ京香。最初に「決着をつけよう」といったのは単なる挑発ではなかったようだ。
「私の特技は霊体の触手を相手に接触させて体の自由を奪うこと……あなたが鎧をまとった直後の一瞬の隙を待ってたのよ!
その身体はもう私の操り人形。勝負あったわね!」
「うぐ……」
触手から送り込まれる思念に操られ、弓が床に膝をつく。
「5秒間横におなり!」
「く……」
「弓さん、手を伸ばして!」
「弓、交代しろ!」
後ろからおキヌと一文字が声をかけてくれるが、遠くて届きそうにない。腕1本だけなら動きそうだが、それだけでは……。
(こ、このまま負けてたまるもんですか)
ついさっきまで、自分は仲間の2人を格下だと見下していた。今でも自分と同格だとは思わないが、それでもおキヌはカナに勝ったし、一文字も今2人倒した。京香はその2人より強いとはいえ、自分が一撃入れる事すらできないで負けてしまうなんて絶対に納得できない。
「いつかはあんたみたいになれたらいいなあ、なんて思ってたんだけどね」
「ま、まあ私を目標にするという心構えは感心ですわね」
そんなやりとりをしておいて。
ここであっさりやられるなんて。
「できるもんですかっ!!」
さっき捨てた薙刀を拾って思い切り投げつける。触手に精神を集中していた京香は反応できず、顔にまともにくらって集中がにぶった。
「く、いたた……」
「チャンス……!」
突進して京香の両腕を2本の腕を使って掴む。慌ててもう1度触手を出そうとした京香の額に、
「その手はもうやらせませんっ!」
なんと突進した勢いのまま頭突きを入れた。京香は頭部に何もつけていないが、弓の額には水晶観音の防具がついている。両者がぶつかれば結果は明らかであろう。
「……きゅうっ」
大きなたんこぶをつくって京香は失神したのだった。
「KO勝ち! 勝者B組!!」
「やりましたね、弓さん!」
「やったな、弓!」
鬼道の宣告と同時におキヌと一文字が場内に駆け込む。
「ええ……まさか本当に優勝してしまうなんて思ってなかったわ。それにこんなに楽しかったのも初めて……! まあ、ちょっと泥くさい勝ち方でしたけど」
「なーに言ってんだか。最初に勝てない相手じゃないって言ったのはおめーじゃんか」
「フフッ、そうだったわね。でも正直言って向こうも強かったわ。これからも頑張らないとね」
「……はいっ!」
こうして当初のわだかまりもすっかり解けた3人だったが、
「さて、これであのルシオラさんって子をとっちめてやれるわね。もしかしたらおねーさまにも誉めてもらえるかも……」
うふふふ、とお局様っぽい笑みを浮かべる弓におキヌと一文字は思わず1歩引いてしまうのだった。
ちなみにその内心は、
(こいつって結構執念深いのかな?)
(だ、だめです、相手は鬼ですよ? 人間がどうにか出来る相手じゃないです!)
まあ、何も言うまい。
2年と3年の決勝戦も終わって表彰式と講評の後、予定通り美神の模範試合が行われようとしていた。美神の講評は全体を評した話なので弓の活躍は語られなかったが、後日個々の試合の評価がそれぞれに示される予定である。
「おねーさまの試合が見られるなんて……感激ですわ」
弓がうっとりと美神を眺めているが、それとは関わりなく行事は進む。対戦相手として用意されたのは、この学校で使われる式神ケント紙の1番強いものが2鬼。3年の優等生でもてこずる代物である。
「でも1番強いのが2鬼って大丈夫かな?」
一文字は美神のことをよく知らないので多少不安なようだ。
「大丈夫ですよ、美神さんなら」
おキヌは安請け合いしたが、実際戦いはその通りになった。並んで突っ込んでくる式神に対して、まずサイドステップして側面に回りこみ、1鬼目を神通棍で薙ぎ払った。ついで2鬼目の胸の辺りに強烈な突きを入れて破壊する。最後にたたらを踏んだ1鬼目に破魔札を投げつけて終わりにした。
この間わずか10秒足らず。六女の生徒にとっては信じられない程のレベルの高さであった。
「きゃー、おねーさまー!」
「すごーい!」
試合終了と同時に黄色い歓声がどっと沸く。それが静まったあと、六道女史にコメントを求められた美神は、
「こういう場合はね、複数を同時に相手するのを避けて、なるべく1対1でやり合える状況をつくるのよ。そのためには単に力や技を鍛えるだけじゃなくて、周囲をよく見て即座に最適の行動をとれる冷静さと判断力が必要だわ。特にチームプレイではそれが重要になってくるから、勝ったチームも負けたチームも今日の試合をよく反省して次に生かすのよ」
と、戦いの解説に加えて先ほどの講評で言い損ねたことを話した。
もっとも美神が本気になれば、神通鞭の一撃で2鬼まとめて倒すこともできたのだが。
それをしなかったのは今のコメントを実際にやって見せるためであることにルシオラだけは気づいて、
(迷ってたとかライバルになるとか言ってたけど、それでも仕事はきちんとするのね)
と穏やかな笑みを送っていた。
生徒達は美神の話を真剣に聞いている。
それが終わると六道女史が引き取って、
「分かりましたかみなさん、これが一流の実力です〜〜〜。
ここまで行かなくても試験には通れますが、現場は常に真剣勝負ですから〜〜〜。あなた達自身が生き残るためにも〜〜〜少しでも上を目指して頑張って下さいね〜〜〜」
これを言う事が今日美神に試合を依頼した目的だったのだが、最後に女史は(横島にとっての)爆弾を放った。
「ではせっかくの機会ですので、助手のお2人にも試合をしていただきます〜〜〜」
「「はあ!?」」
横ルシの心の悲鳴が木霊した。
まだ見習いということで、さっきと同じ式神と2対2ということになった。
生徒達は真剣な表情で試合場を注視している。
横島は高校2年生。六女の2年生にとっては同級生、3年生にとっては年下だ。それでGS試験に合格し、その上憧れの美神の助手として実際の除霊に携わっている横島は注目に値する存在なのだ。
ルシオラについては「美神の助手」と紹介されただけなので今のところ正体不明の人物である。
「何か注目されてるぞ。俺なんか見てもおもろないっちゅーねん」
落ち着かない様子の横島。女子高生の熱い視線も、意味合いが違うとあまり嬉しくないらしい。彼がもう少し美形で垢抜けた雰囲気を持っていれば美神のように偶像視してもらえたかも知れないが……。
「まあこうなっちゃった以上しかたないわ。それにさっきバカにされたじゃない。見返すチャンスよ」
「む、そう言えばそうか。いや待てよ、ここでカッコいい所を見せれば会場中のじょしこーせーが俺にドッカンじゃねーか!」
「……何か言った?」
「イエ、ナニモ」
底冷えのする声が横島のテンションを氷点下まで下げる。話題を変えてごまかそうと、
「……で、試合はどんな風にやるんだ?」
「そうね、1鬼ずつ受け持ちましょう。あの子達に栄光の手見せても参考にならないから、ヨコシマはソーサーでやればいいんじゃない?」
栄光の手を真似できる人間などまずいないが、ソーサーなら技術的には難しくない。試合の目的を考えれば妥当な意見であった。
しかし横島は異を唱えた。
「ソーサーか? あんまり気が進まんが……」
「どうして?」
「ソーサーじゃネタがやれんからな。『GSルシオラ?』のバトルでそれはマズいだろ。ここは文珠《草》《薙》でくらいやがれー!とかやってみたいんだが」
「……。たまには普通にやりなさい」
余裕をかましている2人だが、根拠がないわけではない。1週間前おキヌの話を聞いて「式神ケント紙」なる便利な物の存在を知ったルシオラは、さっそくそれを参考にして横島修行用の式神ケント紙をつくっていたのだ。
そのパワーたるや、さっき美神が戦ったものの2倍以上である。
余裕があって当然だった。美神も「あんた達なら楽勝でしょ。適当にやっちゃいなさい」と投げやりな言い方で済ませたくらいだ。
「おお、どうやらあの2人の実力が見られるみたいだな」
「そうですわね。口ほどのことがあるかどうか見せてもらうわ」
観客席の一角で弓と一文字がそんな会話をかわしているが、
(……だから鬼なんですって)
相変わらず口には出せないおキヌだった。
「ほな、いくで!」
鬼道が式神を放ると同時に横島とルシオラも戦闘態勢に入った。横島が片手でお盆を持つような形で掌を上げ、サイキックソーサーをつくり出す。ルシオラも剣を出して構えた。
横島の戦いは一瞬で終わった。ソーサーは投げる動作を必要とせずに飛び出し、式神の頭部を爆破してしまったのだ。そのスピードが見えたのは生徒達の1割にも満たなかった。
「なっ……!?」
弓と一文字が思わず身を乗り出す。2人ともソーサーの軌跡は見えたが、それだけでしかなかった。もし彼の対戦相手が自分達であったなら、間違いなくあの1発で倒され――いや、死んでいたかも知れない。
続いて前に出たルシオラも、無造作に剣を一振りしただけで式神を両断してしまった。
「え……?」
強力な霊剣を使ったとかなら分かる。しかしあれは自分の霊気でつくった武器で、つまり本人の実力だ。おそらくは横島の技と同じ原理なのだろうが――自分達とは格が違いすぎる。
「……なあ弓。弱そうな外見でとんでもない隠し札持ってる妖怪って、あいつら自身のことだったんだな」
「そう……ですね」
そしてバカは自分のことだった。
でもいつか、負けないくらいになるんだ。
会場は静かだった。
簡単に決めすぎたせいで、眼力がある一部の生徒を除いては2人のやったことがよく理解できなかったのだ。
そんな空気を全く無視して、六道女史が試合場にとてとてと近づいて来る。
「それじゃ、横島クンにも説明をお願いしようかしら〜〜〜。式神を爆破したあれはいったいどんな技だったの〜〜〜?」
あんた知ってるだろ、と横島は内心で突っ込みを入れつつ、
「えっと、あれはサイキックソーサーといって、全身の霊力を集中して板の形に固めたものです。今みたいに相手に投げつけたり、いざという時の防御に使ったりします」
「なるほど〜〜〜大量の霊気を集中することで普通の霊波砲とかより威力を上げているというわけね〜〜〜。それじゃルシオラさんも説明してくれる〜〜〜?」
白々しい、とルシオラも内心で突っ込みつつ、
「私の剣も原理は同じです。霊気の集積量が増えれば霊剣としての切れ味も良くなりますから」
となるべく言葉少なに済ませる。
「なるほど、2人は同じ系統の技を使ってるというわけね〜〜〜。
それにしても1番強い式神をこんなにあっさり倒すなんて、さすがは美神事務所の所員さんだわ〜〜〜。みなさんも2人を見習って精進して下さいね〜〜〜」
横ルシから見れば実にわざとらしい演説なのだが、生徒達にとってはかなり心に響くものだったようで。
大音量の拍手でもってむくわれたのだった。
――――つづく。
決勝戦はおキヌちゃん出番なし○(_ _○)
黒装束娘は原作ではおキヌちゃん戦でも触手にこだわってましたが、おキヌちゃんが相手なら触手ひっこめて格闘挑めば楽に勝てたはずで、弓はその辺を危惧したわけです。
横島君の六女模擬戦ネタはすでに結構出てますが、弓&一文字の話を完結させるには必要な流れだったということで。
ではレス返しを。
○拓坊さん
>次はどんな隠し技があるのだろうか?
期待を裏切ってしまったかも知れません○(_ _○)
○ゆんさん
>年下に舐められて馬鹿にしか見えないと言われたし
普段の横島はああですからねぇ……。
しかしその分、実力を見せつけられた時の反動は大きいのです!
>罰としてア〜ンはある意味罰になってないかもw俺なら喜んで(マテ
作者も喜びます(ぉぃ
○ゆうさん
>まあ東方不○コースをやったら最強になっちゃうし
さすがに世界観が壊れちゃいますから(^^;
○無銘さん
>星○徹コースからこのネタに来ようとは、不覚にも気づきませんでした
ある意味ストレートな流れですが、意表を突けたならうれしいです(ぉ
消える魔拳は出したいですねー。
>六道女史が普通に喋ると、すごく違和感がありますね
それほど沸騰しちゃったんですね、珍しく。
霊的観点なしっていうかセクハラでしたしw
○遊鬼さん
>しかも原作通りかと思いきや必殺技まで使って
特訓とくれば必殺技はデフォですから(ぇ
そして見た目が地味なのが真の恐ろしさなのですw
○花翔さん
>しかし、横島は弓に嫌われる運命なんでしょうかね?
性格面では相性悪そうですからねー。
ある程度打ち解けるところまでいけばいいんですが。
>弓とユッキーの出会う合コンがルッシーに止められてしまいそうですよねww
横島は出席したがるでしょうがルシとの力関係がw
○ケルベロスさん
>この調子で○髪とかも習得したらある意味最凶かも(マテ
黒化せずに使えちゃったりしたら六女最兇の名も欲しいままです(ぉぃ
○315さん
>「貴い幻想」級の特訓で音を上げないおキヌちんはまだまだ隠し玉を持ってそうww
むしろ「あれが六女の星よ!」とか言われてのせられてたりしました(ぉ
ではまた。