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「せかいはまわるよどこまでも〜21〜(GS)」

拓坊 (2005-11-28 02:56/2005-12-01 01:38)
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〜横島視点〜


今俺達、蒼河霊能相談所のメンバーは豪華客船に乗って、夜の海を遊覧中だ。
何でも、美神さんが地獄組の組長から招かれたらしいのだが、急な仕事が入って行けなくなったので、代わりにキイ兄が来ることになったわけだ。

それで今は船内のカジノで、ルーレットをして『遊んで』いる。


「赤の7!」


ルーレットのボールが、赤の7番に入った。そしてキイ兄が賭けている場所は、勿論のこと赤の7番だったのだ。
キイ兄の前にディーラーから姿が見えないほどのチップが積まれていく。これ何枚かくすねても絶対ばれないよな?


「ん〜、面白いね。こんな簡単にお金が増えちゃうなんて」


あ〜っと、確か最初にチップにしたのが百万だったっけ? それで今は見ただけでもざっと数十億分の儲けになってるし…一財産稼いでないか?


「た、楽しんでもらえて何よりですな」


「あっ、地獄組の組長さん。今回はお招きいただきありがとうございます」


キイ兄が組長にぺこりと頭を下げる。妙なとこだけ礼儀正しいよなキイ兄って…
つーか、組長の額の汗が大変なことになってるな。表情も引きつってるし、すっげー複雑な状況なんだろうな。
何たってキイ兄、カジノ来てから一度も負けてない勝率100%だもんな。イカサマしてるんじゃないかって疑われてるけど、全然そんなそぶりないし。それにルーレットには店側ならともかく客側からは細工もくそも無いだろう。


「キイさん、本当に運良いですね。はい、これ頼まれた飲み物です」


「あっ、ありがとうおキヌちゃん」


おキヌちゃんがオレンジ色の液体の入ったグラスをキイ兄に手渡した。ちなみに中身は…


「プハー、稼いだあとの果汁100%オレンジジュースはおいしいね」


「キイ兄、ガキじゃないんだからせめて果実酒とかにしろよ」


スーツは着ているが思いっきり子どもなキイ兄が、オレンジジュースを飲んでる姿は知らないものが見ればほほえましいが、事情を知っている俺にはこれでも成人しているキイ兄がオレンジジュースを飲んでる姿がひどく間違っているような気がした。


「さ〜て、それじゃあ次は赤の20に五億ほどいってみようかな」


五億とかそんな軽々と賭けるなよ。俺の自給の数千倍以上が一瞬で増えたり消えたりしてるのって、見てて悲しくなってくるんだけど。


「では私は黒の13に賭けるざんす!」


いきなり現れた男が、そう言ってチップを賭ける。
何だこのいけ好かない野郎は? 何だか変な気配がするんだが気のせいか?


「なっ、やつは『ビック・カジノ』! 何故やつがここに!」


組長が驚いたように叫び、聞いても居ないのにあの男の説明をしてくれた。
しかし変な通り名だな。それにカジノを潰すぐらい常勝してるなんて明らかにおかしいだろ。誰か変だと思わなかったのか?
それに本名も不明なのによくこの客船乗せてもらえたな。もしかして密航か?


「黒の13!」


おおっ、キイ兄が初めて外したな。しかしこれで五億がパーなのか…凄い散財だな。それだけあればどれぐらい牛丼食べれるんだ? …っと、思考が思いっきり庶民レベルだな俺。


「どうざんす? ポーカーでサシの勝負をしないざんすか?」


「ん、別に良いよ〜」


いいのかよキイ兄…でも見た目子どもなキイ兄をカモにしようとするこいつもなかなかの悪だな。
と、其処でキイ兄が俺の傍に来ると、耳元で小さく囁く。


「忠っち、これで彼女を助けてやって。おキヌちゃんも一緒に連れて行ってあげてね」


「部屋の鍵? つーか彼女って誰だよ?」


いきなりおそらく客室の鍵だろうものを渡され、わけの分からないことを頼まれた。ちょっと、いやかなり困るんだが。


「まあ、やってくれなかったら忠っちの給料が減るだけだから別にいいんだけどさ。減給10割ってとこ?」


「待て! 10割だったら完全に収入0じゃねぇか!」


んな横暴を許せるかってんだ。まあ、でも結局のところしぶしぶその頼みを聞いてしまうんだけどさ。断る理由も特に無いし、なぜかおキヌちゃんが早く行きましょって喜びながら急かしてくるし。まあとりあえずいって見るかな。


俺とおキヌちゃんは船内を歩いて、キイ兄に渡された鍵の番号と同じ部屋を見つけた。
鍵を開けて中に入ると、一見見るにただの客室。だがあきらかに普通とは違う異質な気配を感じる。けど別に悪い感じはしないので其処まで心配はしないでもよさそうだ。


「あ〜、彼女って言ってたけど誰も居ないよな?」


部屋の中を探してみたが誰かが縛られているとか、そんな事件の匂いを漂わせるものは何も無かった。けど、キイ兄が誰かを助けろとか言うのはいつもの冗談とかじゃないからな。普段は嘘&騙してばっかだけど、こういう話では決して冗談や嘘を言わないのがキイ兄のけじめみたいなところだ。

あと探してないところといったら…
俺は机の上にある、上に髑髏の置かれた金庫に目をつけた。まさかとは思うが、とりあえず霊視してみた。


「これは…中に何か居る?」


金庫の中から微量だが霊力を感じた。しかもただの霊とかじゃなくて妖精…いや、精霊とかそっちのような気がする。

何だか良くはわからないが、とりあえず金庫を開けてみることにした。


「番号か…おキヌちゃん頼める?」


「わかりました〜」


おキヌちゃんが金庫の中に頭を突っ込む。
その時、空中で逆立ち状態になるもんだからおキヌちゃんの袴がずり下がってその白い綺麗な脚線美が白日の下に晒されるわけで…


「分かりましたよ横島さん…って何してるんですか?」


「うおおぉぉぉ! 駄目やんか俺ー!! 今は救出ミッション中だろがーー!!」


壁に頭を打ち付けている俺を見て、おキヌちゃんが不思議そうに問いかけてきた。いつの間にかまっすぐ立って……じゃなくて浮いていて何時ものように袴は足首までを覆い隠している。
いや、おキヌちゃんもうちょっと……じゃなくていや、ご苦労様。

俺はおキヌちゃんに言われるまま金庫のダイヤルを回していく。


「ダイヤルを右に5、左に6です」


「右に…5っと、んで左に6……よし、開いた!」


軽い金属音と共に金庫の扉が開いた。その瞬間、急に金庫の上にある髑髏から霊力があふれ出した。


「トラップか! だが甘〜〜い!!」


髑髏が霊派で体を作ろうとしているところで、俺は霊波を纏ったチョップで髑髏を叩き割った。
見事真っ二つになった髑髏は、霊波を霧散させて床にころっと転がった。


「横島さ〜ん。金庫の中にこんなものが〜」


そう言っておキヌちゃんが金庫の中にあったらしい瓶を手渡してきた。その中には、白いローブらしきものを頭から被っている肌の白い人型の精霊が入っていた。


「くそぅ、もうちょいでかけりゃ口説いたんだが…」


「横島さん何か言いましたか?」


「い、いや何でもない!」


何か正直に言ったらひどい目を見そうな気がして咄嗟に誤魔化しておいた。
とにかく、この精霊が何なのか知らないとな…


「ちょいとお尋ねするが、あんた精霊だよな? 名前は?」


「私の名前はフォーチュン。幸運の精霊です」


幸運の精霊フォーチュンって…何でまたそんな精霊が瓶詰めにされて金庫の中に?


「実はある男に捕まってしまい、ここに幽閉されているのです。助けていただけないでしょうか?」


「助けるのは当たり前だけど。その男って…髪半分から分けてて嫌らしい笑いする変なやつか?」


「ええ、その男に間違いないでしょう」


なるほど、あのキイ兄に勝負挑んだ男なわけね。キイ兄に勝ったのもこのフォーチュンのおかげだったわけだ。
それじゃあ、この瓶さえ開ければ奴の幸運はなくなると…
へっ、野郎の幸せなんてぶちこわしてやるぜ! ざまあみやがれこんちくしょう!!
多少僻みが入りつつ、俺は瓶のふたを開けた。


「ありがとうございます。これで私もやっと自由の身…
ふふっ、まずはあの男に制裁をくわえなくてはいけませんね…」


こ、怖いぞフォーチュンさんよ…精霊って皆こうなのか?
低い声で笑ういながらカジノへと向かうフォーチュンの後を、ゆっくりとした足取りで俺とおキヌちゃんは付いていった。


「はい、ロイヤルストレートフラッシュ」


「そ、そんな馬鹿な…」


カジノに着いたらキイ兄とあの男の勝負が丁度今ついたところだった。勝負のほうはキイ兄の圧勝だったらしい。


「ん〜、どうやらそっちは賭けられるものないらしいし、この勝負自分の勝ちだね」


男のほうは文字通り身包み剥がされてトランクスいっちょの姿で泣き崩れていた。
あれ? でもフォーチュン出したのってついさっきだよな?
何でキイ兄勝ってるんだ?


「忠っち、勝負というものは運だけじゃない。自分の力で勝ち進むものなんだよ!」


そう言ってスーツの胸元と袖の中をチラッと見せるキイ兄。其処には、何枚ものカードが…
ああ、確かにそれなら幸運とかそれ以前の問題で勝てそうだな…


「って、イカサマかよ! 確かに実力だけど意味違うだろそれ!」


「忠っち、細かいこと気にしてたら禿げるよ?」


細かくない! それに俺はまだ若いから禿げん!


「そうだ、フォーチュンちゃん天罰下さないの?」


そこでキイ兄がフォーチュンのほうに向かって話しかける。てか、精霊に向かって『ちゃん』はないだろキイ兄。
フォーチュンのほうは、キイ兄の言葉にちょっと迷っているようだ。そりゃそうだろうな。すでに身包み剥がされて、不幸のどん底に突き落とされている相手を見てこれ以上不幸にしていいのかって考えるよな普通。
少しだけ男に同情した。


「自分的にはこの後ウェイターが転んで、その拍子に机に手をかけたせいで机の脚が折れて、跳ね上がった盤に顔面強打されて中に舞い上がって、そのままガラスを突き破って海に落ちて、その後サメの大群に襲われるくらいしてもいいんじゃないと思うけど?」


ずいぶんと具体的な例だな、おい。しかもこれ以上不幸にしてやれって進めるキイ兄もどうかとおもうぞ。

フォーチュンは結局これ以上不幸にはせず、今後大きな幸せは絶対来ないように呪いをかけておいたそうだ。


そして分かれる際に、フォーチュンが一組のトランプを宙に広げて俺の前に差し出した。


「この中のカードを一枚受け取ってください。私からのささやかなお礼です」


「別にお礼なんていらないんだが…まあ、貰える物は貰っておこうかな」


俺は真ん中あたりから一枚のカードを引き抜いた。その表には、『JOKER』の文字が…しかもこの絵って俺の影法師そっくりだけど偶然か?


「そのカードがあなたの行く末を指し示すものです。大事にしてやってくださいね」


「あっ、はい。ありがとございます…」


フォーチュンはにこっと微笑むと、そのまま空へと飛び立っていってしまった。
いや、しかし人間大になれるんだったらやはり口説いておくべきだったかな…
ちょっと後悔しつつ、俺はそのカードを懐にしまった。


せかいはまわるよどこまでも
〜〜竜神族一同、理不尽とのファーストコンタクト! 前編〜〜


〜ナレーター視点〜


なんてことない住宅街の一角にある幸福荘。其処に今時代錯誤な格好をした長身の男が二人、駕籠を担いでえっちらおっちらとやってきた。


「ここじゃな、左の!」


「そのようじゃな、右の!」


その男達の正体とは、ご存知のとおり人間に化けた鬼門達だ。二人は駕籠を置くと、さっとかしずいた。


「着きましてございます。お嬢様」


「ご苦労様です。二人はここで待っていてください」


駕籠の中から出てきたのは勿論のこと小竜姫だった。ちょっと辺りを見渡して、物珍しそうに電柱を見上げているその姿はちょっぴりお間抜けさんに見える。
小竜姫は、はたと自分の用事を思い出して幸福荘へと足を向けた。


二階の扉の前に立つ小竜姫。表札には『お家兼蒼河霊能相談所』と書かれている。あくまでも『家』というのが先らしい。
小竜姫はすっと手の甲で扉を叩こうとしたとき、


「こらああぁぁぁ! 何しようとしてるのぉぉぉ!!」


「ご、ごめんなさい!」


突然中からキイの怒声が聞こえてきて、思わず謝ってしまった。どうもあの事件(15話参照)以来キイに少しだけ苦手意識が生まれているらしい。
暫くしてから、自分が怒られているのではないと分かった小竜姫は、ちょっと驚いたことに恥ずかしさを覚えながらコンコンっと扉を叩いた。


「えぇいっ! うるさいから静かにしなさいっ!!」


「す、すみません!」


またしてもちょうどいいタイミングで怒声が響き、小竜姫は扉を叩いた手を慌てて引っ込めた。そしてまた暫くして、自分のことではないと気付いて顔を赤くした。


「こ、今度こそは!」


小竜姫はめげずに扉へと手を伸ばした。


「るごるあああぁぁぁぁ!! いい加減にしないとスクラップにして燃えないゴミの日に出すよぉぉぉ!!!」


「ああ、すみません! ごめんなさい! 羽だけは許してくださいっ!!」


トラウマになった事件が蘇ったのか、もう半泣きで謝り倒す小竜姫。そんなにあの攻めはいやだったらしい。


「あれ? 小竜姫様何なさっているんですか?」


そこで扉を開けたおキヌは不思議顔をする。目の前には頭を抱えて蹲っているあの修行場で合った竜神族の女性がいるのだから、それは不思議に思うだろう。ましてやあのトラウマが蘇ってきているなんて考えすらできないだろう。
小竜姫はおキヌの声にハッと意識を取り戻すと、慌てて立ち上がって何でもありませんとコホンと咳払いをした。照れ隠しなのだろうが、普通に見れば明らかにバレバレである。


「そうですか。それより何か御用みたいですけど…」


「はい、実はキイさんにお話があるのです。いらっしゃいますか?」


「はい。居るには居るんですが…」


微妙に困った顔を浮かべるおキヌに、小竜姫は小さく首を傾げる。おキヌがご自分で確かめてくださいと入り口から少し体をずらして、部屋の中を見えるようにした。小竜姫はそこからそっと部屋の中を覗き込んでみる。


「み〜、みみぃ〜〜♪」


【うむ、見事じゃな】


其処には背中に生えた小さな羽根でパタパタと飛んでいるグレンと、その手に持たれているシメサバ丸。そしてその視線の先で掃除機のファスを相手に、吸引パイプとコードでコブラツイストもどきをかけられているキイの姿があった。


「痛たたたた! 其処見てないで助けなさい!」


「みみっみ〜」


【ワシも同感じゃ。締め上げられたくはない】


実は昼ドラのチャンネル争いで、頑なに譲り合わなかった二人が同時に実力行使に出たのだ。
その結果四六時中不真面目で貫き通すキイだが、横島達や敵をからかう時以外は横島並みのへたれっぷりを発揮するのだ。それで掃除機相手に惨敗を帰しているというわけだ。

小竜姫は最初は目を疑った。それは自分を卑劣な手とはいえ屈服させた相手が、よく分からない電化製品に惨敗しているのを見れば疑いたくもなる。だがそれが現実なのだと知って、キイのアホさに呆れ返り、けど自分の立場がないと少し涙を流していた。

そこでキイがやっと玄関にいる小竜姫が目に入った。その瞬間、今まで逃げ切れなかったファスの拘束を瞬く間に外した。


「やあ、小竜姫ちゃん。何か御用かな?」


「ぇ、ええ。実は………」


小竜姫は今回地上に降りてきた理由を話し出した。
なんでも、竜神王が地上の竜神達との会談のためにこちらに来たときに、その息子である『天龍童子』が一緒について来て、妙神山に預けられていたらしい。だがちょっと目を放した隙に逃げ出してしまったそうだ。


「こんなガキに逃げられるなんて…監督不行き届き以前に、管理人としてそれでいいの?」


「し、仕方なかったんですよ!? 殿下は竜神王様の天界最強の結界破りを持ち出してまして……!」


必死に弁解する小竜姫だったが、彼女はまだ気付いていなかった。キイは、言い訳になんて耳はかさない。だって、相手を弄る為だけに全力をだすのだから。


「小竜姫ちゃん……このままじゃ管理人失格どころか懲罰ものだね♪」


しかも相手によっては弄るというか苛めるので性質が悪かった。


「………泣いてもいいですか?」


何でここに頼りに来てしまったのかと、小竜姫は今更ながらに後悔した。


「キイさん、そろそろおふざけは止めにしてあげないと小竜姫様が可哀そうですよ」


「むぅ〜、もうちょっと弄りたかったんだけどな」


物足りないと言った態度でキイはどうしよっかなといたずらな笑みを浮かべる。
そんなキイにおキヌはにっこりと微笑む。


「ご飯抜きにしますよ?」


「さあ小竜姫ちゃん、さっそくその迷子を捜しに行こう!」


台所を統べる者の権力は絶大だった。キイは自分でも簡単な料理ならできるのだが、今ではおキヌに台所を完全に支配されているため、おキヌがご飯抜きと言ったらそれに従うしかないのだ。外食に行ってもいいのだが、変なところで素直なキイはおキヌに従ってしまうのだ。

小竜姫はその手のひらを返すような変わりように、目をぱちくりして驚いている。まさかご飯を抜きにすると言っただけでこうまで態度を変えるのだから。


「まあ、街を散策することになるし。その服装じゃ目立つから着替えてもらおうか」


キイはおキヌ小竜姫のことを頼んで下に居る鬼門達を呼びにいった。
小竜姫は部屋に通されて、ちょっとおろおろとしている。


「えっと、私はどうすれば?」


「ふふっ、私に任せてくださいね小竜姫様」


おキヌはそう言って、大き目のクローゼットを開いた。
そこにはワンピースやらコートやら、いろんな種類の服が掛けられている。
ただ、全部女性用だったが…


「な、何故ここに女性ものの服が?」


「えっと…キイさんは使う時がくるからって言ってましたよ。それで今回が記念すべき一回目です」


確かに使う時が来たが、今後使われる機会が来るのだろうか?
しかもその服は全て小竜姫のサイズに合わせられていた。ほかの人じゃあ着れないぞ?
特に胸のあたりが小さ…


「誰の胸が小さいですって!!」


「しょ、小竜姫様いきなり抜刀しないでください!?」


「はっ! すいません。いまどこからか邪悪な意識を感じたもので…」


小竜姫は剣を鞘に戻しながらもあたりを警戒していた。
先ほどの言葉は訂正して、小竜姫のプロポーションは控えめなのでサイズが小さくて他の人が着れないのである。

おキヌは気を取り直して、何着かの洋服を取り出して小竜姫に手渡した。


「それじゃあまずはこの辺から試していきましょう」


「あの、こんなに着るんですか?」


「ええ、ちゃんと一番似合っているものを着せなさいってキイさんに言われてますから」


その後、クローゼットの中にある全ての服を試しに着て、その中から一着の服を選び出すのに数時間も時間を浪費した。
因みにその間にキイと鬼門達は先に迷子の天龍を捜しに出ていた。


〜横島視点〜


「あ〜、今日はバイトもないし。ゆっくりのんびりナンパしにでも行くかな!!」


最近になって彼女が欲しいと思ってきてナンパを始めた。暇ができるごとに街へとナンパに繰り出していた。ただ、その戦跡は0勝52敗20無効だ。つまり一回も成功したためしがない。
敗はもちろん思いっきり振られたり逃げられたりした数、無効はキイ兄やおキヌちゃんがいきなり現れて否応がなしに連れて行かれたりした数だ。
まあ、話でもできれば僥倖と思ってナンパしてるからいいけどさ。せっかくお茶とかに誘えたときに限って現れるのは止めて欲しい。おかげで戦績に白星が一個もないのだから。


「どこに目ぇ付けて歩いとるんじゃガキ」


「何じゃと? 御主のほうがぶつかってきたのではないか」


ちょっと目を声のしたほうに向けてみた。其処には典型的な人相の悪い不良と、時代劇のような変な格好をしたガキが言い争っていた。
いや、あんな柄の悪い奴に真っ向から対立しているガキは凄いな。それに比べてあの不良は、ガキ相手に絡んで恥ずかしくないのかよ。

さて、ここで選択肢が二つあるな。

A.間に入って仲裁する。
B.無視して素通りする

さて…どっちがいいだろうか?


「このガキ。あんまり図に乗ってると、こうなるんだぞ!」


そう言って不良が脚を後ろに振り上げた。そのまま振り切ればあのガキは軽々とふっとぶだろう。


「よし。Cのぶちのめすに決定」


不良が足をガキに向けて振るうが、いきなり見えない壁を蹴ったように宙で止まった。
まあ俺が素早くサイキックソーサーを作って、ガキと不良の間に投げただけなんだがな。
俺は何が起きたのか分からなくてガンガンとサイキックソーサーを蹴りつける男の背後に近づいた。


「ガキ相手にみっともないことやってんじゃねぇよ」


「あん? 誰だぶほっ!?


俺は振り向こうとした不良の頬に、カウンター気味に拳を叩き込んだ。顔を見られて後で仕返しに来られたら厄介だからな。勿論面倒ごとにならないように拳には霊波のほうは纏わせてない。
不良は白目をむいてがくっと膝を曲げて地面に崩れ落ちた。
まあ、車に轢かれないように端に寄せておこうか。


「よし、それじゃあさっさと行くとするかな」


いや、良いことしたな。これならきっとナンパも成功するだろう。
俺は何事もなかったかのようにその場を離れようとした…のだがズボンの裾を引かれてつい足を止めてしまった。


「…なんだガキ? 俺は忙しいからさっさと家にでも帰ってTVでも見てろ」


「お主、なかなかやるではないか。そうじゃ余の家来にしてやろう」


何だこの偉そうなガキは…たっく、構ってられるかよ。


「ああ、はいはい。それじゃあお暇頂くからそれじゃあな」


「ええい、待たぬか! 余を蔑ろにするとは何事だ!」


ガキが腰につけてる剣の柄に手を掛けた。
ん、相違やなんかこのガキ変な気配がするな。普通のガキじゃないのか?
俺は目を細めてガキを霊視してみた。
なんか…妖怪とも違うし……どっかで感じたことがあるな……


「ん、ああ! 小竜姫様の霊格と似てるのか」


「なっ! おまえ小竜姫を知っておるのか! さては追っ手だな!! それ以上近づく…」


「住宅街のど真ん中で叫ぶな。一旦黙れ」


ガキの頭をぺしんと叩いて黙らせた。無礼者と騒いでいるが知ったこっちゃない。どうやら竜神の子供みたいだが何でまたこんな街中に居るんだ? 地上にも竜神族が居るってキイ兄に聞いたことはあったけど人前にはめったに姿を現さないって聞いてたんだがな。


「おまえ、余は竜神族の王、竜神王の世継ぎである天龍童子であるぞ!」


「頭が高いってか? 俺が頭を下げるのは尊敬できたりする人以外では母さんとキイ兄だけだ。別に王だとか王子とかでも、それ相応の態度をとってなければかしずいたりなんかしねぇよ。
お前はまるっきりガキだから勿論対象外だ」


こんな考えもキイ兄からの影響なんだがな…
んなことより、どうやらこの天龍とやら小竜姫様関連のことみたいだし、ここは一旦キイ兄のところにでも連れてくかな。


「はい、それじゃあ搬送しますかね」


「おまえ何をする気だ!」


俺の脇に抱えあげられた天龍が叫ぶ。あんま暴れるな、落としそうだ。


「まあ、一旦俺の住んでるとこに連れてって…小竜姫様に連絡して引き取ってもらう」


「なっ! おまえやはり追っ手だったのか!」


「違うって、単に面倒ごとをさっさと片付けたいだけだ」


ギャーギャーと文句を言う天龍を抱えたまま俺は幸福荘へと足を向ける。
途中で小判とか出されたが、別に金には困っていないので鼻で笑ってやった。金でどうなるかと思ったら大間違いだぞ。


「余はただ…遊びたかっただけなのじゃ……」


急に大人しくなってうな垂れる天龍。
あー、罪悪感なんて感じてないぞ。同情なんてしちゃ駄目だ。


「父上はいつも忙しくて、遊んでくれたことなぞほとんどなかった」


まあ、王ともなれば遊ぶ暇なんてないだろうな。
何か涙目になってるけど、心が揺らいだりなんかしてないぞ。そういや親父は全然遊んでくれたことはなかったな。むしろ俺を餌にナンパなんてする奴だからな。
似てないようで似ている家族関係に親近感なんて沸いてない。ないったらない!


「さびしかった…てか?」


「…………さびしくなどない。余は王となるために生まれてきた身なのだ。そんな感情は持ち合わせておらぬ」


王となるため…ねぇ………これキイ兄が聞いたらどうするかな…まあ決まってるな。


「じゃあ、お前の人生つまらんものだな。つーか生きてる意味あるのか?」


「何! おまえ余を愚弄しているのか!」


天龍が怒りに任せて吼える。いっちょまえに自尊心だけは立派なことだな。だが、それだけじゃあ、何の意味もない。


「じゃあお前は何しに此処に来たんだ? 天界にだって王の息子だからって命を狙ってくる奴らだっているんだろ? それなのに意味もなく外に飛び出し、危険に飛び込むのが王のすることなのか?」


神界魔界など数ある世界は、どこも平和な場所なんかなくて、この俺達の居る世界みたいに黒くて汚い部分があるってキイ兄が言っていた。どこでそんなこと知ったかは知らないけど、その話をしていたキイ兄の顔は真剣だった。最初は夢だと思って頬をつねったりしたがな。


「お前はまだ子供だ。周りのことなんか気にせずに遊びまわって、迷惑掛けて、心配掛けて、んで怒らせながらも無事で良かったって思わせるガキなんだよ。」


「…余は…それなら余はどうすればいいのだ?」


「だからさっき言っただろが…」


俺はそこで天龍に笑いかけた。たぶん、小学生のときみたいな悪戯小僧の顔になってるだろう。


「遊びに行くぞ。お前に生きてるって素晴らしさを教えてやる。帰してくれって泣いても帰さんからな?」


目が点になっている天龍の頭にぽんっと手を置き、脇に抱えたまま街を走った。
そうだな、まずはやっぱりゲーセンからかな? つーか其処以外に俺の思いつく遊び場ってないしな。


「おお! 横島、此れはどうするのじゃ!!」


「ああ、まずは金入れてからこのボタン押すんだよ。ちゃんとタイミング計らないと取れんぞ」


ゲーセンに来た天龍はまず直ぐ入り口にあったお菓子をすくうクレーンゲームに張り付いた。
まあ、給料出たばっかだから金はあるし大丈夫だろ。
天龍はボタンを押して機械を操作するが、結局一個もお菓子を取れなかった。


「下手だなぁ。どれ貸してみろ」


俺は硬貨を入れて、クレーンを操作する。
ふっふっふ、伊達にナンパに失敗しては憂さ晴らしにゲーセンに通ってないからな、この手のゲームも制覇済みなのさ。
二回やって戦績は、飴やらラムネ合わせて十六個。まあ平均かな。


「ほれ、なめてみろ」


「おお! 桃の味がするぞ。俗界には変わった食べ物があるのだな」


こいつ飴も食べたことないのかよ。まあ、最近まで天界にずっと居たみたいだし竜神族が飴なんか食べたりしないだろからな。けどやっぱ竜って肉食なのか? 小竜姫様が暴走したときはスッゲーでかくなってたけど…どれくらい食べるんだろ? 牛一頭は丸々食えそうだったが…

俺はちょっと小竜姫様が牛一頭を丸呑みしているシーンを想像してみた。


「横島? どうした、気分でもすぐれぬのか?」


「いや、自分の素晴らしい想像力が嫌になっただけだ」


天龍が急に蹲った俺に話しかけてくる。
小竜姫様ごめんなさい。俺は貴女を汚してしまいました。
嫌な想像は記憶のかなたに押しやって、何とか立ち上がった。


「おっしゃ、次は体験型ゲームだ! ついて来い天龍!」


「殿下と呼ばぬか。まあ、今回だけは特別に名前で呼ぶことを許してやろう」


生意気なことを言いつつも、天龍の顔は自然と笑みになっていた。
やっぱ子供は笑ってるのが一番でしょ?


その後、いろんなゲームをやっている内に結構な時間がたっていた。
まあ外も暗くなってるわけでもないし、まだ大丈夫だろ。
俺と天龍は休憩所の長いすに座ってジュースを飲みながら休憩していた。


「此れほど楽しかったのは久しぶり…いや、初めてかもしれん。感謝するぞ横島」


「別に気にすんな。俺が好きでやってるんだしな。御節介ってやつだよ」


飲み終わった空き缶を手首のスナップでゴミ箱にシュートする。
ゲーセンでは遊び終わったし、次はどこに行くかな?
そんなことを考えているうちに、霊感に何か引っかかりを感じた。


「この感じは……キイ兄かな? 他にも二人くらい人外が一緒にいるみたいだけど」


距離にして100メートルくらい。だけど、位置は壁をはさんで反対側だ。街の歩道辺りでも歩いてるのか?
ん、なんか増えたな…こっちは二つ、今度はキイ兄たちとは逆のほうの壁側だ。いったい今日は何なんだ? 百鬼夜行とかの前触れか?

と、ゲーセンの非常口のドアが開いたかと思ったらそこから入ってくる三つの影。


「あっ、忠っち発見」


「キイ兄…そんなとこから入ってるくるなって」


とりあえず店の人が困りそうなので注意しといた。多分聞かないだろうけど。
んで、キイ兄の両隣に居る黒ずくめの男たち…なんかSPか何かみたいに見えるんだが…こいつらたぶん鬼門だよな? 人に化けれたんだな。


「「殿下!」」


「鬼門か! 横島逃げるぞ!!」


天龍が俺の手をつかんで走り出した。
おいおい、そんなに慌てるなって。焦ると事を仕損じるぞ?
だって、そっち人外の残りの二つの気配がするほう、しかも近づいてきてるんだぞ?
俺が何かを言う前に天龍は従業員用の通路に入る。もちろん後ろから鬼門とキイ兄も追ってくる。


「い、い、いたんだなアニキ」


「へっへっへ、捕まえるぞ」


そして前の扉から出てきた長身ノッポとチビモヒカン。どうでもいいんだけどよ、鬼門もお前らもさ、もうちょっと普通の人間っぽく化けれないのか? せっかく人間に化けても、一般人から見ても怪しさ爆発でそのうち警察に通報されそうだぞ?
どうせなら小竜姫様みたいに綺麗で可愛い格好になれや。いや、男なら男前でかっこいいか?
…あぁ、その姿で良いや。美形の野郎なんて誰が好き好んでみるかってんだ。


「うおおぉぉ! お逃げください殿下! ここは私たちが食い止めます!!」


「へっ! たかが鬼と人間が俺達竜神族に勝てると思ってるのか!」


「よ、よく聞いてなかったけどそうなんだな!」


「はっはっは、まあどうにかなるんじゃない?」


うおっ! なんか知らん間に場面展開が進んでる!!
鬼門達がよく分からん自称竜神族達と相対し、何故かキイ兄は背の高いほうに捕まってるし。
俺が考えごとしてる間にいったい何が起きたんだ?


「忠っち〜、まあその子連れて先に家に帰っておいて〜」


「あ、ああ…じゃあ後任せるな」


俺は天龍を小脇に抱えてそのまま非常口から飛び出した。


「へっへっへ、此れでも食らいな!」


「うおおぉ! ひ、左のぉぉぉ!!?」


なんか後ろで爆音が聞こえて、鬼門の叫びが聞こえた気がしたが無視しておこう。
まあ、キイ兄も居るだろうしどうにでもなるだろう。


「まさか本当に余を狙っているものが居るとは……おい、横島。これからどうするのじゃ?」


「さあな。とりあえずキイ兄の言うとおりに家に帰るとしましょうか」


俺は途中でタクシーを拾って家へと向かった。因みにタクシーの料金はちゃんと領収書を貰う。こういう金を経費で落とすことを忘れてはいけない。キイ兄からお金の大切さは身をもって教えられたからな…
いや、一ヶ月だけやった極貧生活は死にそうだった。自分の分の生活費を月を一万で過ごせなんて…無駄に高いサバイバル能力がなかったら俺餓死してたぞ絶対に…


タクシーを降りて、俺は幸福荘に帰ってきた。
自分の家の扉を開けて、中に入ったとたんにいきなり肩を掴まれた。
その手は異形の、あの天龍を追ってきていた竜神族のノッポのほうの手だった。
何で家にこいつらが! まさかキイ兄までやられたのか!?
そう考えた瞬間、目の前の竜神が口を開いた。


「あ、あ、アニキを助けて欲しいんだな!」


「…はぁ?」


いきなり助けを求めてきたノッポに、俺は部屋の中を覗き込んだ。
其処には、キイ兄とモヒカンのほうの竜神族がいた。


「ひいいぃぃぃ!? もう勘弁してくれ!!」


「ふふふっ、それなら早く吐いてしまいなさい。そう、洗いざらい全部ね…」


キイ兄は、ファスの電源コードでモヒカンをぐるぐる巻きにしている。しかも微妙に服が焦げてるところがある。多分電気でも流して感電させているのだろう。


「みぃみみ〜」


【グレンあんまり揺らすでない。気分が悪くなる】


そしてシメサバ丸をもったグレンをその頭上に飛ばしていた。因みにシメサバ丸の刃先はモヒカンの頭のてっぺんに狙いを定めている。グレンが手を離せば腐っても妖刀であるシメサバ丸がモヒカンの頭に突き刺さること間違いなしだ。

キイ兄が無事だったのはいいんだが、拷問はよくないぞキイ兄…


「あっ、お帰り忠っち。遅かったね」


「先に帰っとけとか言って自分のほうが先に帰ってきてたんだろが。つーかどうやって帰ってきたんだよ」


俺達のほうが先に出たはずなのに何でキイ兄のほうが早い。不思議でたまらない。


「とにかく…話を聞くから拷問はやめぃ」


「ちぇっ、これからいいところだったのに」


キイ兄はそういいながら押入れの中に何かをしまっていく。
何かやけに硬そうなギザギザした石の座布団と重そうな石の板とか。蝋燭と先が三つに分かれてる短めの鞭とか。
キイ兄…いったいこれから何が始まろうとしていたんだ?
結局聞かなかったが、それは正しい選択だと俺は信じている。

と、そこでキイ兄がいきなり弾ける様にその場を飛び退った。
俺は驚きつつも、慣れの所為かすぐさま戦闘体制に入った。


「イーム、ヤーム。ガキ一人捕らえられないなんて役に立たないね」


部屋の隅に、いきなり体全体をローブで隠した奴が現れた。よく分からんが凄い霊圧を感じる。かなり高位の…小竜姫様並みの霊格だろう。


「もう! 勝手に入ってきたら駄目だぞ! ちゃんとドアをノックして返事があるまで入っちゃ駄目なんだぞ!」


「いや、キイ兄! 言うことが違うでしょ普通に!!」


真っ当な注意なのだろうが、こんな非常事態に何普通なことやってるんだよ。
なんて羨ましいんだ。この状況でボケられるなんてさすがキイ兄。
その状況でも冷静に突っ込んでる俺。ふっ、突っ込みスキルばかり上がっていくな…虚しい。


「ふんっ。こんな人間どもにしてやられるなんて…一緒に消えな」


ローブを被った奴が手を掲げると、いきなり俺達を囲むように変な黒い板が三枚出現した。


「此れは火角結界! だんな話が違うじゃないか!!」


「所詮お前らは捨て駒だ。知る必要はない」


モヒカン…ヤームが叫ぶが、ローブを被った奴はそれだけ言うと姿を消した。
ヤームが言うにはこの結界中にいる奴を木っ端微塵に吹き飛ばすそうだが…もしかして凄いピンチですか俺達?


「こいつは大変だ忠っち! 此処は冷静になるために一緒にコサックダンスでも!」


「錯乱しすぎだキイ兄! この状況で踊ってもどうしようもないぞ!!」


そうこうしている間に、カウントダウンが残り10秒になっていた。


「ふぅっ…和むね」


「和んでる場合かーーー!!」


いきなり座布団に座ってお茶をすすりだしたキイ兄に、俺は後頭部を思いっきりぶん殴った。
そしたらキイ兄が持っていた湯飲みが宙を舞い、キイ兄の頭に見事命中。中身をぶちまけてちょこんとキイ兄の頭の上に乗っている。芸が細かいな…


「くっ…ここでまでボケられるとは……負けたぜキイ兄」


「日々精進だよ」


ぽんっとキイ兄の手が俺の肩に置かれた、俺は立ち上がってキイ兄と肩を組んで、大きく笑った。


「「あっはっはっはっは」」


「「「笑ってる場合じゃないだろう!!!」」」


ちょうどカウントが0になった。
視界が真っ白になりました。

死ぬ間際まで笑いを求める、これもお笑い道の醍醐味というものだろう。


〜おまけ〜


そのころの小竜姫とおキヌは、今ちょうど空を飛んでいるところだった。
洋服もやっと決まり、いざ出発と思ったら『先に探しに行ってきます』という書置きが玄関に張られていた。
そして地理を全く詳しくない小竜姫と、近所くらいしか道を知らないおキヌでは迷子になるのは確実なので、ここは空から探そうということになった。


「なかなか見つかりませんね」


小竜姫は長袖のシャツにジャケット、ミニスカートにニーソックスとあの何時の時代の服か分からない物を着ていたときよりかなり可愛く仕上がっていた。


「そうですね〜。キイさんもその殿下さんもどっちも見あたりません」


双眼鏡で地上を見ながらおキヌは小竜姫の言葉に返事をした。
おキヌのほうも、長袖の黒いブラウスに、赤いチェックの入ったロングスカート。胸元のスカーフが今回のポイントのようだ。
何故おキヌが服を着ているかというと、キイが買い与えて準備してあったのだ。普段は巫女袴の姿で過ごすのだが、今日は小竜姫が着替えるのを見ていて自分もおめかししたくなったという訳だ。

因みに二人はかれこれ2時間は探し続けているのだが、いっこうに目標は見つからない。


「ん〜、あっグ○コの看板です」


「あれは…カニでしょうか? ずいぶんと大きいカニですね」


…二人がキイや天龍を見つけられないのも無理はないだろう。だって二人が今居るのは大阪、皆は東京近辺に居るのだから見つかるはずがないのだ。
どうやら二人とも、空を飛んでいるうちにずいぶんと遠いところまできてしまったようだ。


「あっ! 小竜姫様、私気付いちゃいました!」


どうやらおキヌが何か違うことに気付いたようだ。
これでやっと本来の…


「やっぱり小竜姫様には女の子らしさを出してもらうためにフレアスカートに…」


目的に戻るどころかさらに脱線し始めた。


「おキヌちゃん…その話はもう十回目ですよ…」


「でも、やっぱり女の子なら可愛い洋服とか着たくありませんか?」


「あのですね…私は仮にも竜神族なのです。街に居る普通の人たちとは違うのですよ?」


さすが、これでも何百、何千年と時を重ねた小竜姫だ。別にファッションなどには今更興味など…


「私は体を動かしますからね。可愛いものもいいのですがどうせなら動きやすいという項目が付かないと…」


「だからミニスカートなんですね?」


…小竜姫まで進んで話を脱線させ始めた。もうこの列車は本線に戻ることはないのだろうか?


「この前読んだ雑誌には、随分とひらひらとした布が使われた服がありました。やはりああ言う物が可愛いというのでしょうか?」


「そうですね。けどやっぱり好みもあるでしょうし…」


自分たちが何故上空にいるかの理由なども忘れてお互いの意見を話し合うおキヌと小竜姫。
その知識は主に雑誌、おキヌのほうはキイの女の子講座から少しだけ得ていた。


「ところで小竜姫様……ミニスカートを選んだ理由は動きやすいからだけですか?」


「? 何が言いたいのですかおキヌちゃん?」


「…………横島さん


「(ギクッ!)」


おキヌがポソッといった言葉に、小竜姫の体がそれはもう誤魔化せないくらいに跳ねた。
小竜姫は額に汗を浮かべながら、乾いた笑いをあげる。


「あ、あははは…おキヌちゃん何を言ってるんですか…私は別に横島さんのことなんて……」


「…………デートのお誘い


「(ギクギクッ!!)」


またしてもおキヌの呟きに体を跳ねさせる小竜姫。心なしか頬が赤くなっているのは…たぶん気のせいではないだろう。
そんなあからさまな反応を見せる小竜姫をおキヌはじと目で見ている。
だが小竜姫も神の端くれである。三百年生きているとはいえただの幽霊に負けるわけには行かない。
だが、それが今この状況をさらにヒートアップさせることになるのだ。残念ながら小竜姫はそんなことには気付いていなかった。


「そ、それならおキヌちゃんだって何時もと違ってやけにおめかししているではありませんか!」


「わ、私は別に横島さんに見てもらって『似合ってるね』とか『可愛いよ』って言って貰う為にきた訳では……言ってくれたら嬉しいですけど……

って、それなら小竜姫様横島さんとそ、そのデート…なんてしないんですよね!」


何気に本音が出ているおキヌだが、そんなことは気にせずにさらに小竜姫を追求する。別に横島のことをなんとも思っていないのなら、デートの言葉で反応することもないだろう。


「そ、それは……そう! これは横島さんに私の名前を誓って約束したのですから違えるわけにはいかないのです!」


「それじゃあ仕方なくなんですね?」


「いえ、そういうわけでは…」


以後約1時間に亘って繰る広げられる攻防戦…
その話は何時の間にやらおキヌによる横島の日々日常を語ることになっていて、小竜姫がそうなのですかとしきりにうなずいていたりした。

この場に横島がいたのなら……多分何故に争っているか分からず、その後の自分のプライベートの暴露話にもだえていたに違いない。


そんな話をしている間に、東京のある荘の一室で大爆発が起きたのだった。




あとがき


どうも、拓坊です。更新遅れてしまってすみませんでした。

まずはレス返しからさせていただきます。


>なまけもの様
誤字の報告ありがとうございます。やはり深夜に書くと痛いミスばかりで…本当にすみません(汗)
幼美神が懐いてるのは、まあそういう理由名わけです。これだ大人になると…何故ああなるんだか(笑)


>黒覆面(赤)様
追伸のほう…言われてその光景をイメージ……確かに! 意識していませんでしたが言われてみれば!(笑)


>花翔様
一応このSSの中ではいろんな意味で最強(凶)キャラですから(笑)


>八尺瓊の鴉様
>百で済むのでしょうカネ。
知られてはまずい話を厳選してトップ100として綴られたキイ編集のものなのです。
内容のほうは…知らないほうが身のためですね(笑)


>ジェミナス様
キイに手に入れられない情報などほとんどないでしょう。今は弱ってますから上級神魔となると分かりませんが、人間の秘密くらいなら簡単に…(恐っ)


>月の葉熊様
ナイトメア馬刺し…漫画だとナイトメアは顔だけ馬であとは筋肉質な人間っぽいボディです。
…………………おえ〜、まずそうですね。一応横島君たちは食べてますから害はないと思われます。


>HAPPYEND至上主義者様
大樹は、ちょっとだけ真面目に。美神は少し可愛く。ナイトメアは…まあ、ギャグ死(爆)。
グレン・シバサメ丸・ファスにはそのうち活躍してもらおうと思います。応援してやってください。


はい、さらに謝罪させていただきます。ごめんなさい。
ちょっと短編のほうに力を注ぎすぎて精根尽き果ててダウンしてました。

フォーチュンは仲間にならなかった…さすがに彼女はちょっとね(汗)
変わりにアイテムGET! 使い道は…現在考え中です<オイ!

天龍ですが、やっぱりまだ子供なんですから元気に遊んで欲しいですね。じきに王になって暇なんてなくなるのだから、小さいころに楽しい思い出を沢山もってほしいですね。

そしておまけ…ちょっと眠くて頭のねじが一本緩んでいますので読み流す程度で(笑)

次回はついに姐さん登場! 敵だけど好きなキャラなので…遊ばれてもらいましょうか!!(爆)


それではこの辺で失礼致します…

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