<ベスパ>
私の名はベスパ。とある魔神によって作られた魔族だ。ちなみに私たち三姉妹が作られた理由は人間の男に嫁がせるためというものだった。その時は怒りのあまりついつい土偶羅様を遠投してしまったが、今はもう納得……はしていないがまあ受け入れてはいる。それに一応姉がその男にぞっこんなため、私が嫁ぐ必要はないだろう。まあ、あの男が貧乳嫌いで巨乳好きだというなら話は別だけど。
「アシュ様、お茶をお持ちしました」
こんこんとドアを叩く。魔神アシュタロス。この方が私たち三姉妹を創造してくださった方だ。強大な魔力と卓越した頭脳により三界でも一目置かれている方だ。
そして私が恋するお方。
私とアシュ様は一応親子関係になるが、魔族にとっちゃそんなもの関係ない。むしろ背徳的で燃えるものだ。
こんこん。返事がない。
「アシュ様ー、入りますよー?」
だから私的には別に産まれた目的も親子間の禁断の愛も私の恋の妨げにはならない。
ただ一つ問題があるとしたら……
返事がないので扉をそっと開いてみると……
「はっはっはっはー! 忠夫くんフィーバァァァァァァァァ!」
そこには背中に横島忠夫の写真がプリントアウトされたはっぴを着て「忠夫くんラブ」と書かれた鉢巻をつけて、パソコンに噛り付いている父親であり恋する相手である魔神アシュタロス様の変わり果てた姿があった。
……問題が一つあるとしたら、こういう方だということだ。
妙神山のただおくん〜番外編 ベスパ、決死の戦い〜
「ごほん、アシュ様、お茶をお持ちしましたよ?」
「うん? ベスパか。ご苦労だったな」
アシュ様は私に振り返るとお茶を取り、そしてまたパソコンに向かった。パソコンの画面の中では横島忠夫の中学入学式の様子が映し出されている。アシュ様が言うには周りが女子ばかりで緊張している姿がツボらしい。数日前に配信されてから毎日のように、というか本当に毎日見ている。
「ああ、いいぞ……。いつ見ても素晴らしい。小竜姫、やっかいな相手ではあるがこういう時は感謝するぞ」
少年が戦っている画面を見ながらうっとりしている見た目中年のマッチョな魔神。
……なんで私この人に惚れたんだろう?
考えるといらっときて、ついパソコンのモニターの電源を消してしまった。
「ぬおっ!? 何をするのだベスパ! ここからがいいところだったのに」
「アシュ様! 『忠夫くんムービー』は一日三時間、それも一時間ごとに十五分の休憩を挟む約束でしたでしょう!」
「むっ、そんな固いこと言わずともよいではないか。さあベスパ、そこをどいて……」
「いけません!」
その後約三十分の論争の後、私がなんとか勝利を収め、アシュ様はしぶしぶ部屋を出て行った。きっと土偶羅様からネットに繋げてまたこっそり見る気だろう。
甘い。ちゃんと土偶羅様のプルトニウムは偽物とすりかえてあるので今頃ガス欠を起こしているはず。私の目が黒いうちは横島忠夫に夢中にさせませんからね!
とはいえ、このままじゃ駄目だ。やはりここはアシュ様を根本的に変えていくしかない!
私の先が見えない戦いが始まった。
作戦NO・1 「お色気で女性に興味を持ってもらおう!」
「アシュ様―、お風呂上がりましたよー」
「うむ、分かった。すぐに入る」
私は今、お風呂上りでバスタオル一丁。その上髪が水で濡れて艶やかで、お色気たっぷり。スタイルにも姉と違って自信はある。
「アシュ様ー」
そのまま部屋に入って、アシュ様の前にその肢体をさらけ出す。アシュ様、どうですか!? 私の身体を見て、こう、なんか男の本能が、リビドーが疼きませんか!? いえ、疼かないはずがない!(反語表現)
「ベスパ、風邪引くぞ」
……無反応だよこの親父。眉一つ動かしやがらないねえ。親子なんだから娘を女としては見れなくとも、少なくとも自分の娘がこんな格好してたら多少は反応するのが普通でしょ!? ノーリアクションってあなたどこの三流芸人ですか!?
……いかんいかん。熱くなりすぎた。よし、こうなったら仕方ない。最終手段だ。
「あっ、いけない♪ バスタオルが……」
お約束のバスタオル落としだ。古来から恋愛物では欠かせない重要なイベントの一つだ。さすがにこれを食らえばアシュ様だって……
「ベスパ!」
急に顔を険しくしたアシュ様が私に詰め寄ってきた。何、ちょっと刺激が強すぎた? もしかしていきなり? こんな廊下で? ちょ、ちょっと待ってくださいよ? 初めてがこんな廊下でしかも自分から誘った形で、でもアシュ様ならそれもまたいやでもやはりこういうことは結婚をしてからするもので、できちゃった婚なんで恥ずかしいし、でもそれもまたいいかなってだって人界では結構流行ってるっていうしだから……
アシュ様の手が私の肩を掴んだ。
私は覚悟を決め、目を瞑り、そして……
「馬鹿者! なんだ今のバスタオルの落とし方は!? まったくなっておらんぞ! いいか、バスタオル落としはもっとだな、ゆるやかに、そして相手を刺激するようにやらねばならん。そんなにストンと落としていたら相手がバスタオルが落ちる一瞬の間に女の肢体を妄想することができないではないか!」
……はい?
「バスタオル落としは基本だからすでにマスターしていると思っていたが……、そんなことでは忠夫くんを篭絡するなど夢のまた夢だ! 明日からバスタオル落としも花嫁修業の一つとする。いいな!」
こうして翌日から本当にバスタオル落としが課題に追加された。
作戦NO・1 失敗
くっ、諦めないよ!
作戦NO・2 「横島忠夫の評価を下げろ!」
そもそもアシュ様があちらに逝っちゃったのは横島忠夫に萌えたからだ。ならばアシュ様の横島忠夫の評価を落とせばきっとアシュ様も思いなおしてくれるはず!
「アシュ様! 横島忠夫について新たに分かったことがありました!」
「ふむ、なんだね?」
「なんと横島忠夫は未だに一人でトイレには行けないそうです! しかも姉に甘えてばっかりで中学生だというのにお風呂も一緒とか! なんて情けない奴でしょうか」
全部嘘だ。適当にでっち上げたものばかり。こんな情けない男だと分かればきっとアシュ様だって……
「ふむ、甘えん坊か、それはそれでまた萌えるな」
作戦NO・2 失敗
へこたれるか!
作戦NO・3 「インターネットを繋げなくして物理的に横島忠夫の情報が得られなくしてしまえ!」
「あれ、星が消えたり輝いたりしてる。忠夫くんかな? いや違うな、忠夫くんはもっとぱーと動くもんな。おーい、ネットを繋げてくださいよ、ねー」
アシュ様がカミーユになりそうだったので中止。
作戦NO・3 失敗
まだだ、まだ終わらんよ!
作戦NO・4 「横島忠夫の顔の造形を変えてアシュ様の興味をなくしてしまえ!」
「……がふっ」
妙神山に辿り着く前に小竜姫の数々のトラップにより命を落としかけ、断念。
作戦NO・4 失敗
作戦NO・5「アシュ様を……
作戦NO・5522 失敗
だ、駄目だ。私ではアシュ様の興味を移すことすらできないのか? いや、諦めては駄目だベスパ! アシュ様を救えるのは私しかいないのだから!
だから私は最後の作戦を発動させる・
……これだけはしたくなかった。きっとアシュ様が悲しむだろうから。だけど私はアシュ様のために心を鬼にしてこれをやる!
「聞いてください、アシュ様」
「むっ、ベスパ。何か用か?」
「実は前から言おうと思っていたんです。私はアシュ様のご趣味を否定する気はありません。そういう方がいるということは知っていますし、私には理解できないことではありますが、だからといってそれを理由にアシュ様のご趣味を頭ごなしに否定するなどしません」
「ふむ、さすがは我が娘」
「ですがですね、アシュ様。そういうご趣味は少なくともお互いがそういう趣味である関係でないと成立しないと思うのですよ。一方がどんなに相手を思っても、相手がその趣味がなければ絶対に結ばれません。それが男と女ならば可能性はあるかもしれませんが、こういった関係で相手にその趣味がなければ可能性はまったくの零になります。そして私の見たところ、横島忠夫にその気はまったくありません。つまりですね、アシュ様と横島忠夫は絶対に結ばれないのです!」
「…………」
アシュ様が俯いたまま黙っている。ああ、心が痛い。
「私はアシュ様傷つくを見たくありません。ですから、どうか考えを……」
「分かったぞ、ベスパよ」
「……本当ですか、アシュ様!?」
アシュ様はとてもにこやかな顔をして応えた。ああ、やっぱり努力って大切だなあ。やっとアシュ様が私の心を分かってくださった。私の数々の作戦もきっと無駄じゃなかったはずだ。アシュ様は傷ついたかもしれないけど、それを私が癒してあげよう。そしてそのまま……
「つまり私が女になればよいのだな?」
……………………………………………………………………………………………………はい?
「ふむ、さすがはベスパだ。私が元女性神ということを知っていたのだな。なるほど、さすがにこのままでは例え忠夫くんを手に入れても結ばれることはない。ならば私が女に戻ればなんの問題もないということか。いや、待てよ。逆に忠夫くんを女性化するというのもまた一興か? いや、女性化すると心も変わってしまうかもしれんからな。ここは女装というのもいいかもしれん。む、ではそれでは問題の解決にはならんか。では……」
なにやらぶつぶつ言ってるアシュ様に、フリーズして再起動中だった私がなんとか立ち上がり、
「ア……」
「あ……?」
「アシュ様の馬鹿ぁぁぁぁ! おたんちん! おたんこなす! 男色! おまえのかーちゃんでーべーそー!」
泣き叫びながら部屋を出ていった。
アシュ様の馬鹿。
<パピリオ>
「なあ土偶羅よ、ベスパはなぜ怒っていたのだね?」
「ふむ、あれですよアシュ様。いわゆる反抗期という奴です」
「なるほど、親というのも大変なものだな」
「全くですな。む、アシュ様、サイトが更新されたとの情報が私の中に入ってきました」
「よし、早速データを呼び出せ。今日も萌えるぞー!」
「もちろんです!」
ちょっとだけベスパちゃんに同情したでちゅ。
続く
あとがき
ベスパ主役の話。へっぽこ属性が付きました。なんかパピリオが一番まともになっちゃったかも。
ではレス返し
>拓坊様
>猿のおじいさんが出てきたとこで吹きました(笑)
この部分は前から書きたかったので。
>迷える駄犬様
>でも、萌え心があればOK?
ええ、この世界の半分は萌え心でできてますから。
>ゆん様
>そして、雪ノ丞は勘九朗と朝までしっぽりと・・・
大丈夫、ちゃんとゆっきーもミョージンジャーに回収された……はず。
>弧枝様
>ここら辺の会話に突っ込むメドーサさんの描写が、とても可愛くて、笑えました。
メドさんもへっぽこ属性がつきました。壊れるかへっぽこになるしかこの話では目立てないのです(笑
>D,様
>あぁ・・・・アレほどシリアスだったのに
シリアスからギャグに落とす! これが大好きなんです。
>義王様
>い、いやアンタも十分・・・異常ですからーー!!残念!!
まあミョージンジャーの他に残ってたのはせいぜい勘九朗ですからねえ。あの中ではメドさんが一番まともではないかと。
>ジェネ様
>萌え心の時点で曇りまくっとるわ!
ふふ、白のキャンバスでも黒で塗りつぶせばそれは一点の曇りもないと同じなのですよ?
>神曲様
>そして写真撮影じゃなくて忠夫君のテイクアウトが目的だったとは
そしてそのままナニをする気まんまんでした。
>Yu-san様
>えらいよメド様、基本に忠実でえらすぎるよ。
メドさんは悪役の鏡ですな。
>狛犬様
>まぁ、これではあまりにもメドが可哀そうなんで救済してもいいのではと思いました。
メドさんはこれからも出てきますよ。救済になるかどうかは分かりませんが。
>tomo様
>さびしそうなメドーサきたーーー!
今回は周りがみんなああなので話に入れないメドさんでした。
>雪龍様
>「忠夫を掴めと!」「とどろき叫ぶ!」かと思いました。
最初はそうしようかなあと思ったんですけどちょっと語呂が合わなかったんでやめたんです。
>けるぴー様
>実は元はそれです(笑
>柳野雫様
>でも今回本当のオチキャラって天竜なんじゃ・・。
そこは突っ込んじゃ嫌ですOTZ
>矢沢様
>あ、もしかしてメドはギャルメド化後に寝返って
ギャルメド化は今どうしようか悩んでいるんですよね。このままだとギャルメド化する必要がなくなるので。
>わーくん様
>はい!私は分からなかった1人です!でもおもしろいからヨシ!!(爆)
そう言っていただけると嬉しいです。できれば元ネタが分からなくでも面白いと思えるように頑張っているので。
>黒覆面(赤)様
>忠夫くんいじめ編はひとまず終了(ちっ…!)
とりあえずは終わりましたがメドさんはしつこいので……
>花翔様
>いやしかしおもろいですね。
そう言って頂けると嬉しいです。おもしろいて言われるのが一番嬉しいですからね。
>月の葉熊様
>ミョウジンジャー合体攻撃が出てきたということはそのうちミョウジンブラックが合体ロボを!?
そして合体の許可を取るのはおさるのおじいちゃんということに……
>ヒロヒロ様
>正体は秘密だったのでは・・・・・(汗)
忠夫くんは気絶しているので無問題なのです(笑
>竜様
>今回も笑いどこが、かなりあってよかったですよ(^^)
ありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします。
最近短編ばかり書いてました。短編は伏線とか続きとか気にしなくていいので気分転換にちょうどいいんですよね。
次はおじいちゃんの修行を考えてましたが、その前にちょっと胸の大きい鳩さんの話でも入れようかと思います。
ではこの辺で。
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