<メドーサ>
今日私がわざわざ人界にやってきたのは竜神族のVIPである天竜童子を始末するため……と見せかけて横島忠夫を始末するため……と見せかけて実は忠夫を自分のものにするためだ。天竜童子を狙っていると思わせたのは忠夫が逃げられないようにするため。忠夫なら友人が狙われていると分かれば自分を盾にしないはずがないからね。
そして作戦は上手くいっていた。もう一人の坊やは勘九朗が始末し(なぜか殺さなかったようだが)忠夫ももはや立てない。後はこのままお持ち帰りするだけだった。
そう、あの一匹の子狐が帰ってきさえしなければ。
これはなんだ? 奴が尾を一振りすると辺り一面が炎に染まる。
奴が手を振るうと観覧車を支える柱が根元から焼切れた。
ありえない。上級魔族である自分がたかが妖怪一匹を恐れるなどと。
「あ……………ああああああああああああ!」
だがあの狐は自分の力を制御しきれてないらしい。手当たりしだいに炎を撒き散らしている。私を攻撃するはずの炎は簡単に逸れて辺りを火の海に包み込む。
相手がどんな化け物で、例え一撃で死ぬような攻撃でも当たらなければなんのことはない。
これはチャンスか?
たとえどんな強大な霊力でも、所詮は妖怪の肉体。急所を一突きすればそれでおしまい。
だが私が近づこうとする前に、ある男が立ち上がって狐に叫んだ。
「駄目だタマモ! そんな力使っちゃ!」
妙神山のただおくん~子狐の歌 後編~
<玉藻>
私の中に多くの思いが入ってくる。
それは知らないけど知っている人。
止めて。私はあなたじゃない。
私はあなたじゃなく、タマモで。
ヨコシマの妹で。
違う?
私は誰?
焼き尽くせばいい?
そうか、気に入らなければ全て焼き尽くせばいいのか。
そしてその力を私は持ってて、引き出す方法も知っているのね。
分かった。私はただ憎しみのままに視界全てを炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で炎で
「駄目だタマモ! そんな力使っちゃ!」
声が聞こえた。あなたは誰?
私は知っていたはず。誰?
「タマモ!」
そうか、私の大切な人だ。なんで忘れてたんだろう。
待ってて。今あなたを害する者全てを燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして
「止めろ!」
ヨコシマはいつの間にきたのか、私の肩を掴んで揺さぶる。
「どうして私はあなたを助けようとしてるのに?」
そう、私が助ける。ヨコシマを。そのためなら私はなんでもするしなんにでもなってやる。
「でも、俺はタマモにそんな風にはなってほしくない! そんな憎しみの塊なんかに!」
「憎しみの塊? そう、確かにそうね。でも私はあなたを助けるために」
「違う!」
横島は強く言い切り、そして言った。
「勘違いするな! お前が俺を助けるんじゃない。俺がお前を助けるんだ! 兄貴の俺が、妹のお前を!」
そう言ったのだ。どんなに痛めつけられても泣かなかった男が、泣きながら。
<タマモ>
「あっ!?」
「タマモ? 良かった。正気に戻ったか……」
目の前にはヨコシマがいて、私の肩を掴んでいた。私はどうしていたのだろう。ヨコシマが危ないところを見てからの記憶があやふやだ。
「うっ……」
ヨコシマは小さく呻くとそのまま地面に倒れた。
「ヨコシマ!?」
「やれやれ、訳が分からないけど、とりあえずあの力はもうないみたいだねえ」
魔族が安心したようにこちらを見ている。周りを見渡すと辺り一面焼け野原。そうか、おそらくあれから前世の力を少しだけ使ってしまったのだろう。ヨコシマの声でなんとか戻ってこれたけど。
「さあ、忠夫を寄越しな。今のあんたじゃ私の敵にもなりゃしないよ」
魔族が一歩一歩近づいて来る。私にはもう打つ手がないのがよく分かっている。前世の力も恐らくは当分の間は使えないだろう。
私が絶望しかけた時。
その時だった。
「そこまでです! 竜族危険人物ブラックリスト“は”の5番! 全国指名手配中の魔族、メドーサ!」
どこかで聞いたことのある声。
「くっ、まさか小竜姫かい!?」
そちらを見ると、壊れかけた観覧車の上に自分も良く知っているコスチュームを着た四人が立っている。
「違います! 我らは忠夫さんを守るため、ただそれだけに発足された謎の戦士たち! そのリーダー、正義の戦士ミョージンレッド!」
「愛の戦士、ミョージンブルー!」
「影の戦士、ミョージングリーン!」
「恋の戦士、ミョージンブラック!」
「「「「一人欠けてはいるけれど、神魔人妖戦隊ミョージンジャー、ただいま参上!」」」」
「……なにやってんだい小竜姫」
メドーサが呆れた声を出した。分からなくもない。それを無視してレッドは私の方を見て口を開く。
「タマモちゃん、あなたは今回数多くのミョージンジャー同盟規約を破りました。私たちに眠り薬を盛ったこと、一人で忠夫さんをでーとに誘ったこと、そして忠夫さんを泣かせたこと」
「うっ……」
「本来ならミョージンジャー同盟から除名するところですが、忠夫さんを一応は守った功績を考慮して罰はなしにしましょう。それに今はそんなことしている暇はありませんし。戦えますね?」
「でも、今の私にはもう力が……」
「ふっ、あんな憎しみの心に頼らずとも、力など出せます! 忘れましたか、私たちの、ミョージンジャーの力の源は萌える心だと!」
「おーい、私は無視かー?」
メドーサが寂しそうに聞いてくるが、とりあえず無視だ。
「憎しみの心ではミョージンジャーの力は出せません。一点の曇りもない、鏡のように澄み切った純粋な萌え心。それこそがミョージンジャーの力を最大限に引き出すのです!」
「そ、そうだったのね!」
「納得するのかよ!」
メドーサが寂しさのあまりか突っ込み役になったが、やっぱり無視だ。
「もう怒ったよ! お前らまとめて全員……」
メドーサがついにキレてこちらに向かおうとするが、何かに気付いて足を止める。何かとは、そう、ミョージンジャーから立ち上る圧倒的な霊圧に!
「ば、馬鹿な。小竜姫の霊力はせいぜい私と互角だったはずじゃ……」
「ふっ、言ったでしょう、これがミョージンジャーの力! 明鏡止水の萌え心です!」
私以外のミョージンジャー全員が金色に光っている。どっかのビームを跳ね返すガンダムも真っ青だ。
「愛の力! ブルー・イン・ゴースト!」
「影の力! グリーン・アイズ!」
「恋の力! ブラック・ザ・ファイアフライ!」
「そして正義の力! レッド・オブ・ドラゴン!」
みんなの輝きが増していき、目に痛いぐらいに金ぴかだ。なんかみんな拳に変なマークが浮かんでいる。
「さあ、タマモちゃん! あなたにもできるはずです!」
できると言われても、そう簡単には……。そう思って目線を下げると、そこには気絶したヨコシマが。
今までのヨコシマとの生活を思い浮かべる。
お風呂に忍び込むと慌てて前を隠された。
一緒に寝ようとしたらやれやれといった感じで了承したくせに、ちょっと緊張したりしてた。
頭に乗ると、いつも優しく撫でてくれた。
ふおおおおおおおおおおお!
「こ、これは……」
萌えが頭の中を一杯にすると、私の身体を金色のオーラが包み込み、そして拳に他のミョージンジャー同様変なマークが浮かび上がった。
「そうです! それが一点の曇りなき萌え心! 明鏡止水の心です!」
「これなのね! 分かったわ小竜姫。明鏡止水の意味! 私を萌えさせてくれる!」
「ここには私以外にまともな奴はいないのか……」
メドーサがなんか愚痴ってるけど、やっぱり無視。
私はミョージンジャーたちの側に行くと、腕時計のスイッチを押してミョージンジャーに変身した。
「妖の力! イエロー・フォックス!」
光とともに、私の身体がミョージンジャーのコスチュームに包まれる。
「……なあ、もうそろそろ攻撃していいかい?」
「お待たせしました。では逝きますよ!」
「やっとかい! まあいいさ、そんな霊圧放っても、霊力が戦力の決定的差ではないことを教えて……」
こちらに突っ込もうとしていたメドーサの動きがまたも驚愕の顔をして止まった。さらに私たちの霊圧が上がったことに気付いたのだろう。
それは当然。なぜなら私たちミョージンジャーが最大の技を放とうとしているのだから。
「逝きますよ、皆さん!」
「この萌えたぎる心!」
「極限まで高めれば!」
「砕けぬものなど!」
「何もない!」
私たちの霊力が膨れ上がり、小竜姫の拳に集中していく。もちろん拳の模様の大きさもでかくなっている。まあお約束だ。
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! いくらなんでもそれは反則だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
メドーサ、ついに半泣き。
「五人のこの手が!」
「真っ赤に萌える!」
「悪を捌けと!」
「とどろき叫ぶ!」
「砕け! 必殺!」
「「「「「ミョージンジャァァァァァァ、同盟拳んんん!!」」」」」
小竜姫に集まった膨大な霊力が放たれると、それはなぜか腕を組んだ猿のおじいさんの形になり、メドーサに向かっていった。
「だからちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
メドーサの願いも虚しく、ミョージンジャー同盟拳はメドーサにぶち当たると、彼女を地平線の彼方まで吹っ飛ばしていく。
「覚えてろよ~~~~~~」
星になったメドーサの叫びがこだました。
「ふっ、正義は勝つのです。ところでタマモちゃん?」
「抜け駆けしたこと……」
「忘れてないわよね?」
グリーン以外のみんなが詰め寄ってくる。ある意味、さっきの同盟拳より怖い。
「ちょ、ちょっと待ってよ! あれは不問にするってさっき言ったじゃない!?」
「ああ、それはそれ、これはこれです。規約とは別に私個人の嫉妬ですから」
レッドの神剣が鞘から抜かれる。
「当然、受けてもらうわよ」
ブラックの手が光を放つ。
「タマモちゃん、オチキャラ化おめでとう」
ブルーが合掌しながら霊団を集めていく。
「い、いやああああああああああああああああ!」
おまけ
ちなみに
「小竜姫ぃぃぃぃぃ! どこにいるんじゃぁぁぁぁぁ!」
家に帰ったら天竜が泣いていた。
続く
あとがき
どんなにシリアスにしても、結局こうなっちゃうのが「ただおくん」。今回元ネタ分からない人はかなりつまらなかっただろうなあ……。ちょっと自己嫌悪orz。
さて、レス返しです。
>拓坊様
>一時的にボンキュッボンな大人の『玉藻』とかになって妙齢の美女対決になったり!?
なりませんでした。ごめんなさい。元々前世の記憶を取り戻させるつもりはありませんでしたからね。ロリのままです。
>SIN様
>ダークおキヌと同等かそれ以上か!?どれほどまでに黒化するのか楽しみにしてますw
あんまり黒くはなりませんでしたね。まああまりダークは好きじゃないので。
>ゆん様
>どうしてこういうシリアスな展開になると忠夫君レーダーが反応しないんだ小竜姫!!ピンチだぞ!!
タマモに眠り薬盛られてました。それでも本当のピンチにはきっかり反応しましたけど。
>ジェミナス様
>雪之丞の相手は勘九郎ッスか?ママの力を使っても完璧に負けてしまいましたね、コレをきっかけにマザコンも引っ込むか?
マザコンは引っ込まないでしょうね。彼の象徴みたいなもんですし。
>黒覆面(赤)様
>泣かないのですね忠夫くん。泣き顔見たかったなぁ……
ちょっと泣きましたけど、基本的にはあまり泣きません。まあギャグの時なら泣くかもしれませんけど。
>なまけもの様
誤字報告ありがとうございました。
>くっ、ケイの女性化も封じられましたか。しかし男の子だったとしてもケイが忠夫を「好きになる」かどうかはわかりませんな?
うーん、どうでしょう? ギャグ以外のガチはちょっと難しいですね。
>D,様
>あぁ・・・・流石サドのメドーサ・・・・
メドーサのサはサドのサです(違。
>神曲様
>やっぱり戦闘中とかに一時的に超加速使って、忠夫くんの写真を撮りまくってるんでしょうか?
ふむ、それもいいですが、基本的に今回はお持ち帰りすることが目的でしたので特に何もしてませんね。
>柳野雫様
>しかし忠夫くんは戦いの中で、しかも自分が傷付くだけじゃあご所望の泣き顔は見れんだろうなぁ
まさにその通りでした。誰かのために泣きます。
>花翔様
>覚醒タマモとメドはどっちが強いんですかね?
完全に覚醒すればタマモの方が強いという設定ですが、これ以降覚醒することはないでしょうね。
>シヴァやん様
>くっ!ケイ女性化は無しですか
まあ、一応原作では男といっていますから。SSでは半分以上の確率で女の子ですが。
次は魔族側の番外編です。多分ベスパが主役になると思います。そしてその次は……おじいちゃんの修行が始まります。
ではこの辺で。