「おキヌちゃん俺と一緒の高校じゃないんスか? 俺はまたてっきり……」
美神の衝撃の発言に横島が鞄を落とした。美神が続けて、
「おキヌちゃんはね、あんたなんかよりずっと勉強できるのよ。それにせっかくだからGSのエリート教育を受けさせようと思ってね」
「エ、エリート? イヤな響きだ……」
最近急速に改善されているが横島は基本的に雑草人生だ。エリートとか秀才とかいうものには抜きがたいコンプレックスがあった。
しかしそれを聞いた美神はふんと鼻を鳴らして、
「何言ってるの。おキヌちゃんがエリート教育ならあんたは超々エリート教育よ。私にルシオラ、小竜姫さまがマンツーマン体制なんだから。こんなの世界中探したってないわよ。
……不足だってんなら、もう少ししごいてやってもいいけどね」
「そうね。私もまだ甘かったかも知れないし」
「……薮蛇? つーか俺って不幸!?」
美神とルシオラに突っ込まれて顔中に縦線効果が入る横島。本当は幸運の女神に愛された果報な男なのだが、本人にその自覚はない。
「ま、それはともかく。六道女学院て知ってる?」
美神が名を挙げたのは、普通科の他に霊能科がある事で有名な女子高だった。六道女史が理事をやっているので美神もたまに実技指導をすることがある。おキヌの才能を伸ばすには1番の場所だろう。
「あ、あの有名な? 知ってますよ。そっか、女学院……女子高か。学園祭に呼んでもらえる……! 体育祭とかも行けたらいいな……」
しかしやっぱり横島は邪だった。
その噂話を遡ること数時間。当のおキヌは学校の体育館で霊的模擬格闘の授業を受けていた。
GS試験のときのような物理攻撃を無効化する結界の中で、式神ケント紙でつくられた簡易式神と戦うというものだ。
「ほなまずは弓、手本見せてもらおか」
式神決闘の後六道女学院の教師になった鬼道がそう言って人型に切り抜いたケント紙を放ると、ぼふっと膨張して悪の組織の戦闘員のような姿の式神に変化した。
「GSの世界は実力がすべて! そこに所属する以上階級の差には敬意を払うべきです! 私に服従しなさい!」
少女漫画のような瞳が特徴的な長髪の美少女だったが、言ってることはどこの高慢チキなお嬢様かといった感じだ。
しかし口だけのことはあるようで、弓は突進してくる式神に洗練された動作で脚払いをかけ、体勢が崩れた所へ背中に掌打を入れる。そしてその一撃で式神を破壊して元の紙切れに戻してしまった。
その後数人が式神と戦った後、おキヌの番がきた。
何故か後ろから弓の非好意的な視線が刺さってくるが、気づいた様子はなく、
(えっと、霊力の流れを読め、でしたよね……)
前の番の生徒が鬼道に言われた台詞だ。
(できるはずよ。霊体のことなら誰より知ってるはずだもん。あとはルシオラさんに習ったこれで……!)
拳を握ったおキヌに鬼道が放った式神が飛びかかる。
バクバクする心臓を必死に抑えつけて、じっとその動きを観察した。
「見えた――!」
むしろ感じたと表現するべきだろう。おキヌは式神が突き出してくる拳に伴う霊力の流れを感じ、両腕でそれを横に払う。そして式神の霊的中枢、心臓の辺りに霊撃拳を叩き込んだ。
「えーいっ!」
ドガッ!
威力は弓の掌打よりやや劣るものの、狙いはまさにピンポイント。式神がぼむっと破裂して紙に戻る。
「ほう、なかなかやるやないか。しかし動きがかなりぎこちないな。今後はその辺を重点的にやってくとええ」
「は、はい。ありがとうございます」
腕で汗をぬぐいながら応えるおキヌ。僅か数秒の闘いだったがそれなりに気を張って疲れたようだ。
(ふん、素人かと思いましたが少しはやるようですわね)
自分とほぼ同じタイムでケリをつけられた弓の視線が僅かに緩む。現実を全く認めない、というほど頑固ではないようだ。
(えへへ。弟子4号、頑張りましたよ。横島さん、ルシオラさん)
そして最初の実地授業で褒めてもらえて、帰ったらすぐ報告しないと、と心が躍ったおキヌなのだった。
授業が終わった後急いで帰り、さっそく所長室に赴くおキヌ。
「あ、美神さん、横島さん、ルシオラさん。今日、私――」
挨拶もそこそこに今日の出来事を話そうとするが、
「あ、おキヌちゃん、お帰り。それ学校の制服?」
という横島の台詞に我に返って、
「あ、はい、今日からなんです。……えっと、どうですか?」
「ああ、似合ってるよ。何つーか、新鮮な感じ」
「えへへ、そうですか? うれしいです」
とにっこり微笑んで両手でスカートの裾をつまんで持ち上げ、ちょこんとお辞儀をしてみせた。
「くっ、おキヌちゃん、どこでそんな技を……」
思わず手で鼻血を押さえる横島。美神が苦笑して、
「もう、コイツにそんなサービスすることないのに」
「そんなことないですよ、私がこうしていられるのは皆のおかげなんですから」
(それにライバルはみんな手ごわいですしね。うふふ)
微妙に『黒化』が発動しているかも知れない。
「――それでクラス代表に? 転入そうそう凄いじゃない!」
「えへへ、私も弟子4号ですから。でも弓さんと一文字さんも代表だから足ひっぱっちゃうかも……」
「クラス対抗ってやっぱ霊能バトルか何か?」
「ええ、霊能科の年中行事なんですって」
「前にGS試験やったでしょ。あれを団体戦でやるのよ」
皆でおやつを食べながらおキヌの話を聞く美神達。彼女の話では、おキヌは今日の授業でいい所を見せたので、1週間後に行われるクラス対抗戦の代表選手の1人に選ばれたらしい。
ルールは物理攻撃無効の結界内での霊的格闘、3対3のタッグマッチである。
「……それだとおキヌちゃんは不利じゃない?」
ルシオラが好物の砂糖水を飲みながら呟く。後衛専門のネクロマンサーが弓や一文字のような前衛格闘タイプとぶつかったらひとたまりもないではないか。
「そうねー、でもこれもGS試験のルールに沿ってるから。
もっともおキヌちゃんがGS資格取るんなら特例でOKなんだけどね」
いま世界に3人しか登録されていないネクロマンサーである。圧倒的不利なルールで蹴落とすほどGS協会も間抜けではない。
「ま、あと1週間あるんだし。せいぜい鍛えてやってちょうだい」
「ええ、今後のためにもなるものね。任せといて」
ルシオラが頷いておキヌの方に顔を向ける。ただその視線には、師として以外のナニカが多量にこもっていた。
「……え、えっと、お、お手柔らかにお願いしますね」
その正体を本能的にさとって身を竦めるおキヌにルシオラはごく軽い口調で、
「じゃ、星○徹コースね」
他には東方○敗コースとか比○清○郎コースとかがあるらしい。
いずれも筋肉痛やケガの類は文珠で治すので、どんなにへばっても休日はもらえないステキな修行である。
「そ、それってムチャクチャ厳しいんじゃ……」
「ヨコシマはアル○リアコースやってるんだけどそっちにする?」
「……」
さっきのはあざと過ぎたかな、と後悔したが先には立たず。恐怖で口から魂が抜けたおキヌを美神はとりあえず気付けだけしてやって、
「でもおキヌちゃんが出るんなら行かなきゃね。おばさまに審査員と実技指導頼まれて迷ってたんだけど……」
「え、行くんですか!?」
「来てくれるんですか!?」
美神の呟きにおキヌより先に横島が反応した。血涙を流し握り拳に血を滲ませてまでして行きたがる姿に美神はため息をついて、
「いいけど、おキヌちゃんの学校なんだからおいたはなしよ。あんたが変な事したらおキヌちゃんまで恥かくんだから。ルシオラ、しっかり見張り頼むわね」
この判断は、「蹴ったら文珠使ってでもついて来かねない」という非常に脱力的な理由によるものだ。
「……。ところで実技指導って?」
「たまに体験談とか話しに行ってるのよ。実物を見せるっていうか刺激を与えるっていうかね」
実際に技術を伝授する事が求められているわけではなく、現役一流のGSがどういうものかを見せる事で生徒達の意欲と向上心を高めようというのだ。その点美神は華やかな外見とイメージ、一流の名に見合う知識と能力、GS長者番付1位の実績を持つ理想的人材なのである。他に西条や唐巣が招かれることもあった。
「今回は対抗戦の後で私が簡易式神とバトルするっていう流れなのよ」
「ふうん。じゃあ逆にその試合がヨコシマにもいい刺激に……ならないか」
男子禁制の乙女の園に入れる喜びにひたっている横島に、そんな殊勝な心がけなどあろう筈がなかった。
そして1週間が過ぎて。ようやく地獄の特訓から解放されたおキヌは喜びをかみしめていた。一応今日の対抗戦が本番なのだが、今のおキヌに緊張や不安はなかった。
朝礼台に立った六道女史が開会の挨拶をする。
「今日はみなさんケガしないように頑張って下さいね〜〜〜。
それから特別審査員を紹介します〜〜〜。GS長者番付1位の美神令子さん〜〜〜。時々講師をお願いしてるから皆さんご存知ね〜〜〜。彼女には最後に模範として簡易式神との模擬格闘をしていただきます〜〜〜」
紹介された美神が軽く手を挙げて挨拶すると、生徒達が一斉に嬌声をあげた。
「きゃーーっ、お姉さまーーー!!」
「すてきーーー!!」
女子高とはそういう所なのだろうか?
ちなみにこの中で1番の美神ファンが例の弓かおりで、彼女がおキヌを敵視するのもそれが理由である。
その後横島とルシオラも紹介されたが生徒達は特に反応しない。2人のことを知っているのはおキヌだけなのだから当然だが。
ところで普段の横島ならここで自己アピールのため屋上からトランペットでも吹き出す所なのだが、今はルシオラが忠実に任務を実行しているのでその隙はなかった。ルシオラとしては横島の多少の奇行は構わないのだが、場所柄というものがあると思っているのだ。
生徒達はいったん教室に戻り、それぞれ得意な霊衣に着替える。
おキヌはむろん300年着慣れた(?)巫女装束がそれであった。
「おキヌちゃん神道系なんだ、頑張ってね!」
「うん、ありがとう」
すでに大勢友達になったクラスメイトの励ましにさらっと答えるおキヌ。
「あんまり緊張してないみたいね。さすが美神おねーさまの助手してるだけのことはあるわ」
「あはは……」
今度は乾いた笑い。
だって今の心境に彼女は関係ない。
あの鬼コーチのしごきに比べれば、今日の試合なんてままごとだろうと思えるだけのことなんだから……。
「……こちらも準備よろしくてよ!」
「あ、はい!」
自分を呼びに来た弓と一文字に答えて教室を出る。まだまだへっぽこな私だけど、せっかく特訓してもらったんだから、ちょっとでも役に立てるように頑張ろう――――。
最後に心でそう結論づけて、2人について試合場に向かうおキヌだった。
――――つづく。
というわけでおキヌちゃん修行編でした(嘘)。
その成果は次回にて。
ではレス返しを。
○ビートさん
>ジーク出番無しw
ヒャクメに食われました○(_ _○)
下手したら月世界編でも出ないかも……(汗)。
○花翔さん
気に入っていただけたようで嬉しいです。
ご期待に沿えるようがんばります。
おキヌちゃんはつおいです。
○拓坊さん
>くすくすわらってごーごーなわけですね?
作者も今から恐いです(ぉぃ
○ゆんさん
>ルシオラは強力なライバル出現でヤバイか!!
アラート鳴りまくりです。
法的には二股でも問題ありませんが<マテ
○L、Lさん
>おキヌちゃん最強じゃん!
むしろ最恐です。
○無銘さん
>黒キヌは白キヌを駆逐するのですか(泣泣)
そこはそれ、生身の人間である以上黒い部分もあって当然というか、あるいはサーヴァ○トになってしまったのが百年目というか。
○遊鬼さん
>おキヌちゃんは属性に貧乳が付かないんでしょうか?(w
付かない程度にはボリュームあったようですw
>それにしてもおキヌちゃんが原作と違いずいぶん積極的ですね
明白なライバルの存在が彼女を変えました♪
○ももさん
>自分的には家事A+かな〜とか思いましたが
私的にはA+は「超一流」「プロ中のプロ」なんでそこまではいかないかな、と。
シメサバ丸は追加修正しました〜。
○良介さん
>EX判定がある時点で今の所の各サーヴァント最強なんじゃあ?^^;
はい、恐いです。
でも出し方が中途半端だと今回みたいに己の身に返ってくるというリスクもありますw
○315さん
>幽霊で無くなった途端に黒化EXとは、さすがはおキヌちゃん
英霊化でパワーアップなのです(違)。
○怪猫さん
>純粋で清楚なおキヌちゃんが腹黒策士のまじかるシルクにぃいい?
白だけでは立ち向かえない強敵ばかりですから(ぇ
○ケルベロスさん
>しかも黒化EXって・・・どこぞのマスターですかアナタは?(^_^;)
そういう仕様ですから(ぉぃ
横島が固有○界持ってたりルシオラが弓兵語録持ってたりするのも仕様なんです<マテ
>イリ○の「やっちゃえバーサーカー」に似てたのであのようなコメントをしました
おお、そういえばそんな台詞があったですね。うん。
○ガルニアさん
>おキヌちゃん
サー○ァントはギャグをやらなきゃならない宿命なんです<だからマテ
○テトラさん
>霊撃拳は悪霊を殴るためじゃなくて、横島を殴るためにあるんだ、きっと!!
うわぁほんとに真っ黒だー!(怖)
ではまた。