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▽レス始

「せかいはまわるよどこまでも〜19〜(GS)」

拓坊 (2005-11-20 04:34)
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〜ナレーター視点〜


キイは今、おキヌと一緒にスペイン秘宝展に来ていた。
美術館の中にはスペインの秘宝である、古代の壷や宝石、果ては歴史的価値の高いオカルトアイテムまで展示されている。
それで今キイの目の前には綺麗に手入れされている箒、『青き稲妻』がガラスケースの中に展示されていた。
そして、その隣にはガラスの破片が散らばった展示台がある。
説明が書かれたプレートには『炎の狐』とかかれている。

この『青き稲妻』と『炎の狐』は中世のオカルト技術で作られた魔法の箒で、その頃盛んだった魔女狩りの所為で現在では残っているのは僅かにその二本だけなのだ。


「それで今回の依頼とは? まあこの状況を見れば分かるけど」


炎の狐の台座にはその飾られているはずの箒が無かった。炎の狐は青き稲妻と違って自分の意思がある魂を持った箒なので、どうやら何かがあって逃げ出してしまったらしい。


「実は今朝の地震で固定していた台座が倒れてしまって、その衝撃で逃げ出してしまったのです」


キイは、そういやその地震で朝戸棚から救急箱が落ちてきて忠っちの頭に直撃してたなと思い出した。
ともかく炎の狐はスペインのオカルトにおける国宝級の秘宝だ。このままでは外交問題に発展しかねないので、キイの所に依頼が回ってきたというわけだ。


「お願いします! 一刻も早くアレをー…!」


「オー回収シテクダサーイ!」


「まあ、最善は尽くしますよ」


とりあえず炎の狐を探してもらうため、おキヌちゃんに見鬼君を持たせて捜索に行ってもらった。


「ふぅ〜、終わった終わったぁ〜」


横島はカバンの中に教科書を詰め込んで席を立ち上がった。
一週間に一、二度は必ず休む横島は出席の方はプロGSであるキイの申請と、将来目指す職業であるGSの助手をしているので、学校の方も其れを全面的に認めていた。
だがやはり成績の方は赤点以上は維持してもらわないと困るので、何度か補習をしたりしている。そこまでしてなんとか授業についていっていると言うところだ。


「横島クン、今日は掃除当番なんだから逃げないでよ!」


「ちょっと待て、俺は今まで理由もなしに逃げた覚えは無いんだが?」


本当は逃げだしたいのだが、逃げるとその後どういうルートを通ってかキイにその情報が伝わり次の日に強制的に掃除をさせられるのだ。小学校の頃何度かやってそのことは重々承知だった。


「あ、あれ? 横島クン前の掃除当番のときいなかったんじゃ…」


「その時はバイトだ。しかも変わってくれたやつの変わりに他の日にやったじゃねぇか」


「そ、そうだったかしら…?」


横島にじと目で睨まれてアハハハと汗を流しながら女子生徒はそそくさと箒を持って掃除を始めた。
たっくよ、と呟きながら横島はさっと入り口から出て行った。
女生徒は一瞬逃げるのではと思ったが、彼の鞄は机の上だ。それでは何をしに行ったかとそちらを見ていると、横島は二人の男子が首根っこを捕まえて引き摺ってきた。


「おら、逃げんじゃねぇよ」


「うぉ〜、放せ横島!」


「此れはクラスの男子協定に違反する重罪だぞー!」


それにクラスの女生徒達は結構真面目なところもあるんだと横島を見直していたのだが、

(女のために体張るならまだ許せるが、野郎の分まで世話してられっかってんだ)

横島はそんなことを考えていた。さすが横島、男のことはキイと子供を除いて『完全に情け容赦なく』を突き通しているようだ。


「ところでよ、愛子…」


机を背負いながら箒をかけている愛子に横島が声をかけた。


「何? 横島クン…」


「お前、何時まで俺の席のままなんだ?」


実は愛子が学校に受け入れられて以来、結局そのまま横島の机として使用され続けているのだ。
別に教室にいて授業を受けているのは構わないのだが、何時までもぼろっちい愛子の机のままなのは周りから見たら今だ虐められているみたいでちょっと複雑な気分になるようだ。


「そんな! あんなに熱烈に『俺の傍を離れるな』って言ってくれたじゃない! アレは嘘だったの!」


「「「ええぇぇーーー!!」」」


「「「何ぃぃぃーーー!!」」」


愛子の言葉にクラスに残っていた生徒達が一斉に横島と愛子のほうに視線を向けた。
男子のほうは横島のくせにと目から男の汗を垂れ流しながら握りこぶしをわなわなと震わせて今にも横島に飛び掛りそうだ。
女子の方は愛子の周りでキャーキャーと黄色い声をあげながらアレはどうだコレはどうだと質問しまくっていた。


「誤解されるような言い方するな! それは漫才の相棒としての意味だろうが!!」


ぺしんと持っていた布巾で愛子の本体である机を叩いた。
何だ残念とやや不満そう、または安心したような顔をさせて散っていった。男子は勿論後者だが、女子の方は…微妙に別れていた。ただ横島はそんなことには全く気付かず掃除を再開した。


「この辺汚れてるな…お前ちゃんと自分の本体洗ってるか?」


「あっ、横島クン其れ失礼よ! 私だって…ひゃぁっ!?


失礼な物言いの横島に反論しようた愛子が突然小さく悲鳴を上げた。


「よ、横島クン何やってるの!」


「ん? 単に机拭いてるだけだろ?」


上ずった声の愛子に、横島は見りゃ分かるだろと布巾を掲げて見せた。
その横島が拭いている机は自分の机、つまり愛子の本体である机なのだが横島が丁寧にその机の脚を拭くたびに
愛子がピクンと反応する。


「あ〜、この辺も汚れてるな」


あっ、ふぅっ…やぁ………


横島が机の脚の付け根辺りの汚れを優しく綺麗に拭くと、愛子が何処か艶かしい声を出す。


「あっ、落書きあるじゃん。ひでぇな〜」


んっ、あぁっ、だめ…そこは……あふぅっ


机の引き出しの下の部分に落書きを見つけた横島がなかなか落ちないなとちょっと力を入れて拭く。
すると愛子が顔を上気させ、その息遣いが徐々に荒くなっていく。


「あ〜、やっぱり中も拭いとくかな…」


駄目ぇ…そんな強くされたら……でも、気持ち…いぃ…


横島がごしごしと引き出しの中を力を入れて拭き出した。
それに愛子は顔をとろんとふやけたようにさせ、自分の本体である机の上にもたれかかる。
どうやら本体である机に刺激が加わると愛子の方にも何らかの感触が伝わるらしい。
普通の人が触れたりしてもなんとも無いのだが、無意識に流されている横島の霊力に中てられて通常とは違う感触になっているらしい。

其れを周りで見る&聞いていたクラスメイト女子はつられる様に頬を赤く染めて俯きつつもちらちらと視線を送っている。男子の方は、この状況が始まった瞬間に女子達の力によって叩き出されていた。因みに逃げないように釘を刺してある。

他に汚れはと視線を机の上に向けようとした横島は(横島視点では)何故か机の上に突っ伏している愛子に首を傾げた。


「どうした愛子、顔赤いぞ? 風邪か?」


横島クンったら意外とテクニシャンなのね……な、何でもないわ。それに妖怪は人間みたいに風邪はひかないのよ」


愛子はまだ顔が赤いながらもふらふらとした足取りで立ち上がり、微笑みながら説明した。
横島は俺が机を拭いている間に何があったのかと不思議がっているがまあいいかと今度は隣の窓際にある机を拭くことにした。


「あ〜あ、この机も落書きだら…ぶほっ!?


机の上を落書きを消そうとした瞬間、突然箒が窓を突き破って横島の後頭部に直撃した。
ガラスには奇跡的に刺さらなかったものの、予想以上に威力の高かった箒の直撃を受けて横島は床に倒れ付していた。そこに愛子が慌てて駆け寄ってくる。


「よ、横島クン! 大丈夫?」


「だ、誰じゃー! 野球ボールとかソフトボールとか女子の洗濯物とか砲丸ならまだしも箒なんて投げ込んだのわーー!!」


横島は割れてない隣の窓を開けて下を覗き込んだ。だが校庭にはまだ部活生がちらほらいるだけでこの箒を投げ込みそうな位置に怪しい人物は誰もいない。


「横島クンさっき変なこと言って…「コレは一体どういうことだ! 箒が独りでに空でも飛んできたのだろうか!」…ちょっと聞いてる?」


横島は愛子の言葉を遮り、さらに聞かない振りをして箒を両手に振り回す。
そして何を思ったのか…いや、最近ボケれなくて溜まりに溜まったフラストレーションが爆発したのだろう。
横島は空のバケツを手にして、いきなり机の上に飛び乗るとその箒に跨った。


「ヤァーハァー!!」


バケツを頭に被ったと思ったら其れを片手で誰もいない教室の奥に投げてポーズを取る。
どうやらカウボーイになった気分らしい。

クラスの一同はそんな横島の奇行に呆れながらも、くすくすと笑っていた。
其れを聞いた横島は、

(これだ、俺はコレを求めてたんじゃー!!)

久しぶりにボケに回れた横島は、ポーズを取ったまま感動の涙を流していた。
そしてそのポーズで箒に跨ったまま、窓を突き破って校舎の外へと飛び出した。


「横島クン!?」


「な、何が起きたんやーーー!!」


慌てる横島をよそに、横島の乗る箒はそのまま校舎から離れていった。


「横島クーーン! まだ掃除終わってないわよーーー!!」


「明日手伝うから堪忍してやーー!!?」


その叫びながら、そのまま空の彼方へと飛び去っていった。
横島、結構余裕なのかもしれない。


「えっ? 反応が見つかった? 分かった、自分も向かうよ」


キイはおキヌからの無線を切り、ぐっと背伸びをして後ろに振り向いた。
そしてそのまま…


「なっ、何をなさるおつも…〜〜〜〜〜!?」


「ちょ〜っと黙っててね〜」


キイは館長と展覧会の責任者に『束縛』の霊符を貼り付けて、青き稲妻の収められているガラスケースに手を伸ばした。


「ふむふむ、整備も万全だね。さすが良い仕事してるね〜」


キイはそう良いながら青き稲妻に跨り、空へと飛び立った。
それから数分後、おキヌからまた連絡があった。


「はぁ? 忠っちが炎の狐に乗ってるの?」


おキヌのほうも困ったようにそうだと答えている。


『キイ兄ー! 一体どうなってるんじゃーー!!』


無線機から横島の叫びがキイの元に届く。其処までパニックにはなっていないようだけど、このままだと時間の問題のようだ。
キイはしょうがないなとおキヌに持ってもらってる発信機のもとへと急いだ。


キイが横島とおキヌの下に着くと、そこには大変な光景が広がっていた。


「忠っち何やってるの? 新しい芸か何か?」


「んなわけあるかボケーー!」


横島は今、箒の先っぽに服の襟が引っかかったまま宙吊りになっていた。
命かけてるねと呟くキイにだから違うと横島が必死な表情で助けを求めている。キイの顔が微妙に微笑んでいるところを見ると、どうやらわざと遊んでいるようだ。


「それで、俺はどうすればいいんだ?」


「ん〜、魔法の箒は思念を送れば操れるんだけどそっちは意思を持っているから話しかけても聴いてくれるはずだよ?」


「けど止まれとか結構叫んでたけど言うこと聞かなかったぞ?」


「そりゃそうだよ。スペイン語で話さなきゃ通じないよ」


無理だって、と横島は思った。英語ならまだ兎も角スペイン語なんて分かるわけが無い。


「えっと確か…『giro』」


キイがそう言った瞬間、炎の狐がその場でくるくると周回し始めた。


「おおっ! キイ兄スペイン語分かるのか!?」


「まあ、片言ならね…『Puede giro perpendicularmente』」


「スゲー…其れで今のはどういう意味?」


「縦に回れだよ」


今もう一度横島の状況を説明しよう。横島は服の襟元を炎の狐の柄の部分に引っかかっているのだ。その状況で縦に、しかも柄の先が下向きに回転し始めたのだ。
横島は急に喉もとの違和感がなくなって、下に引っ張られる感じがした。


「ぎゃあああぁぁぁ! キイ兄のアホーーー!!!」


横島は大体高度5、600メートル地点から落下した。

さあ、ここでちょっと豆知識。人間の肉体は一般成人の場合500キログラム程度の重量までしか耐えられません。骨が耐えられなくて折れたりするんですね。
さらに人間体に十数トンの力が加われば、関節がちぎれ、皮膚が裂け、血は圧力で霧状に飛び散り、細切れになったように肉片が飛び散る。そう、まるで爆発したかのように…
それで、体重60キロの人が300メートルの高さから落ちただけでも地面との衝撃の際約10トンの衝撃がかかります。

さあ、今の豆知識で得たことをヒントに、今の横島の状況を考えてみると?


「落下型人間花火(赤専用)のできあがりだね」


「さらりと怖い喩えを言ってないではよ助けろやー!!」


地面まであと半分の距離、キイは落下する横島を追いかけているがなかなか追いつけない。
そしてあと数十メートルといったとき、キイの横を駆ける様に通り過ぎ、横島のもとに駆けつけたのは…


「ほ、炎の狐? た、助かった!!」


落下する横島は自分の横に着くように飛ぶ炎の狐に掴まった。炎の狐は横島の股座に滑り込み、横島が安定したところでゆっくりと地面へと下りた。

横島は箒の尾の部分を見ながらそっと柄を撫でた。


「お前助けに来てくれたのか? サンキューな」


炎の箒はくいくいっと頷くような仕草をして横島の顔に擦り寄る。
それはまるで犬や猫が甘えている仕草に見えるが、相手はいかんせん箒だ。
怪しい、と言うのもあるがそれ以上に…


「痛たたたたたーー! 刺さってる刺さってるってぇぇ!!」


横島の顔に尾の部分がぷすぷすと刺さって大変なことになっていた。
そこにキイとおキヌもやってきたが、そんな微笑ましい(痛々しい?)光景に微笑(苦笑?)を浮かべていた。


その後、スペイン秘宝店にはしっかりと二本の魔法の箒が返されていた。
傷一つついてない状態で帰ってきたので、特に問題に問われることもなく事件は解決した。


「なあ、本当にこんなことして良いのか?」


「ん? 別にいいんじゃない。あの箒に乗って確かめることなんて無いだろうし」


今、横島とキイの目の前には今最新のコンパクトサイズの掃除機が合った。
そしてその掃除機が独りでに部屋中を掃除していた。
実はキイ、炎の狐が横島に懐いたのでその魂のみを切り離し、とりあえず買ってきた掃除機に込めてみたのだ。
もしばれたら本当に国際問題だが、其れが確かめられるのはずっと先のことだろう。


「そうだな〜、『炎の狐』じゃ可愛くないから名前付けてあげないとね」


「箒…じゃなくて掃除機に名前がいるかは知らんが……まあつけてやるか」


第892回蒼河霊脳相談所会議が開催された。
参加者はキイ、横島、おキヌ、グレン、シメサバ丸、そして『炎の狐』だ。
討議すること三時間二十一分十六秒。


「はい! それじゃあコレに決定!!」


キイが筆で超が付くほどの極上霊紙(概算1000万)に達筆な字で『炎の狐』の名前を書いた。


『命名 ファス』


単に英語訳にした頭と尻尾をとっただけの安直なネーミングだが、そのほうが覚えやすいし可愛くてキュートでグッドだ。と言うキイの一押しによりこの名前に決まった。

こうして、蒼河霊脳相談所に新たなる仲間が更に加わった。
そして、さらに人間の占有率が下がったのだった。


せかいはまわるよどこまでも
〜〜ファーストキスは何の味?〜〜


〜横島視点〜


今俺はお使いを頼まれて『厄珍堂』に向かっていた。
あの店の店主の厄珍がなかなかの曲者で、この前行った時は変な薬を飲ませようとしたので逆にその薬をおキヌちゃんと協力して飲ませてやった。
その結果、頭から煙を吹かせて倒れこみやがった。俺とおキヌちゃんは其れを見届けるとそのまま厄珍を放置して店を出た。おキヌちゃんが放っておいて良いのかと言っていたが、自業自得なので勿論あれでいいんだと答えた。

それで、今回は減ってきた霊紙とたまに使う消耗品等を購入に来たのだ。


「ちゃーす。キイ兄の品物取りに来たぞー」


「こんにちわー」


俺とおキヌちゃんは厄珍堂の扉を開け、とりあえず挨拶をしながら扉を開けた。
だって最初に来たときは昼間っからソッチ系のビデオの上映会をしていて、おキヌちゃんがそのTVから聞こえる声について尋ねてくるもんだから誤魔化すのに凄く労力を要したのだ。
だから遠慮なんかする必要は無いと判断した。

そして、客である俺等を迎えたのは倒れこんでくる厳つい顔をしてゴツイ鎧を着た石像がだった。
俺は一瞬後ろの飛び退こうかと身を構えたが、其れよりも早く俺と石像の前に何者かが滑り込んできた。


「マリア!」


「大丈夫・ですか・横島・さん?」


石像と俺の間に入ってきたのはマリアだった。マリアは石像を受け止めると、そのまま軽い動作で石像をしっかりと立たせた。
いや、助かったわ。流石はマリア、こう言った時は俺以上に頑丈で頼りになるな。

なにやら厄珍とカオスがわいわいと騒いでいるが、煩いだけなので脳内から追い出しておいた。
おキヌちゃんのほうはもはやいつものことなので棚の方から勝手に必要な道具を集めてくれている。


「そういやマリアと会うのも久しぶりだな。ブラドー島以来だっけ?」


「イエス・マリア・横島さんと・会えて・うれしい」


マリアは相変わらず無表情だが、何となく明るいオーラを発しているような気がする。
カオスのおっさんが言うにはマリアにはメタソウルとかいう魂が入ってて理論上では人間同様の感情なども持てるらしい。
まあ、マリアはカオス以外の人と接する機会も無かっただろうからあんまりそういった情緒面では成長が乏しいんだそうだ。
姿形は美人なのに、勿体無い。


「きゃぁっ!?」


と、そこでおキヌちゃんの小さな悲鳴が聞こえた。
俺がそちらを振り返ると手を滑らせたのか舞いながら地面に落ちる数枚のお札。
そして、上のほうから落下してくる沢山のオカルトアイテム。俺は脳内でその値段を瞬時に計算した。普通の計算は苦手だがこういう勘定を出すのは得意だった。
しめて26億5801万円也! そして弁償することになったら何故か俺が全部払わないといけないことになったりする。


向こう何年もただ働きになんて嫌じゃー!

俺は一部の隙も無く落下する品物をロックした。


「あーたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁぁぁぁ!!」


俺はマリアの目にも留まらないであろう速さで手と足を動かし、落ちてくる品物を受け止めては地面に置いていった。
一個でも落とせば最低でも一ヶ月分の給料が飛ぶ。俺の神経は今まで仕事では出したことが無いくらいに集中していた。


「ラストォォー!!」


俺は最後に落ちてきた壷を見事受け止めた。
やった、これで給料差っ引かれないですむ。俺がそう思って気を抜いてしまった瞬間、棚にあるギリギリのバランスでまだ落ちてきていなかった箱が、見事に落下し俺の頭に直撃した。
不意打ちだったため、俺は思わず持っていた壷から手が滑って放ってしまった。そして壷は、まるで狙ったかのようにマリアのほうへと飛んでいった。
がしゃんと言う音とともに中に入っている液がその辺に飛び散って、もちろんのこと其れを片腕で受けたマリアはその液でずぶ濡れになってしまった。


「あ、すまんマリア! 怪我…は無いだろうけどどっか悪いところ無いか?」


俺は慌ててマリアに駆け寄る。その瞬間、マリアがいきなり目を光らせた。
それにちょっとビックリした俺は足を止めた。


「横島・さん……愛…しています!」


「おわぁお!?」


行き成りマリアが飛び掛ってきた。俺は住んでのところで横っ飛びしてマリアのタックルを回避、そのまま厄珍堂から飛び出してしまった。
一体何があったっていうんだ?


「こ、これは超強力なホレ薬! これが効き出したら相手の背骨を折るほど抱きしめて窒息するまでキスするね!!」


「な、なんじゃってぇぇー!!」


店の中からおっそろしい言葉が聞こえてきた。
つーかマリアに抱きしめられたら背骨折れるくらいじゃ済まんだろ! 確実に体の上と下が泣き別れしてしまうわ!!
俺がその場から逃げ出そうとした瞬間厄珍堂の扉が吹っ飛び、中から恋する乙女と化したマリアが出てきた。けど実際はそんな可愛いものではなく、むしろ命を狙ってくるターミネーターのほうがしっくりと来るのは俺の気のせいか?


「横島・さん・愛して・います」


「お気持ちは嬉しいんだけど俺はまだ死にたくないんやーー!!」


俺はその場から脱兎の如く逃げ出した。いや、まさしく追われる兎に成り下がってるんだけどさ。
女の子に好きだといって迫られるのもそりゃあ飛びつきたくなるシュチエーションだが、その代償が自分の命ってのは流石に俺でも嫌だ。せめてリカバーできる程度に半殺しで済ませてくれ。いや、払わないで良いのに越したことは無いんだけどさ。


「横島さん! 私キイさん呼んできますね!」


「任せたぞおキヌちゃん!!」


こうなればもうキイ兄だけが頼りだ。
俺は飛んで行くおキヌちゃんを見届けてマリアに背を向けるとダッシュで逃げた。
なんとしてもキイ兄が来るまで逃げ切らなくてはならない。

ファーストキスもまだなのに死んでたまるか! あっ、今それで死にそうになってるのか…
それじゃあ俺の死因って熱烈すぎる抱擁による胴体断裂か接吻による窒息死のどちらかなのか?
嫌だ、男の本望みたいに聞こえるけどそんなギャグみたいな死亡原因嫌過ぎる…

俺は霊力を脚に巡らして強化し、スペランカー…違う、スプリンター顔負けのスピードで逃走を謀った。


あれから一時間、何とかマリアをまいたみたいだ。俺は塀に背を預け、ふうっと息を整えた。
多分もうキイ兄にはおキヌちゃんから連絡が行っているはずだから今は俺を探しているところなんだろう。
早く見つけて欲しいなぁ。勿論キイ兄に…

なんだかこの状況って囚われのお姫様が脱走して、捕まえようとする悪役と迎えに来た王子が探し回ってるって感じだよな。
そうなると俺が姫で悪役はマリア、そしてキイ兄が…王子様………


〜横島想像内〜


『忠っち姫…助けに来たよ』


『ああ、キイ兄王子…貴方の助けを待っていました。さあ、私をあなたの元へと連れ去って』


『勿論だよ。二度と君を放さないからね』


そうしてぎゅっと抱き合う二人。


〜横島現実〜


おえっ、思わず想像した光景に吐き気&眩暈がしてきた。どうせ抱き疲れるなら美人、それも巨乳だったらなおよし!
別に美少女とかでも良いけどせめて高校生になっていて欲しいぞ! 中学生あたりははOUTだ! ノーサンキュー!


「ターゲット・ロック」


「へっ?」


俺は咄嗟にもたれていた塀から前に転がり込んだ。
その瞬間塀から手が生えてきて、そのままブロック塀を粉々に砕いていった。何処まで凄い怪力なんだよ!


「横島・さん…」


光る目をこちらに向けるマリア。め、めっちゃ怖いです。無表情で目だけ光ってるのって凄く怖いぞ。
ゆっくりとこっちを向くマリア、俺は思わず一歩引いていしまった。


「お、落ち着けマリア。その感情はホレ薬で一時的に書き込まれたいわば偽りの恋だ! そんなんで付き合っても正気に戻ったら後悔するからやめとけって!!」


俺の言葉にマリアの動きが止まった。すぅっと目の光が消え、いつもと同じ綺麗な目に戻る。
どうにかなったかとちょっと期待したのだが…


「横島さん・マリア・嫌い?」


「いや、そんなわけ無いだろ! 好きに決まってるじゃん!」


「そう・マリアも・横島さん・好き・問題ない」


ぐはあぁぁぁ! 今思いっきり墓穴掘ったぞ俺!
咄嗟の質問だったからつい本音をそのままぶつけてしまった。
けどその好きってのは友愛とかの意味であって決してやましい事があってのことではないんだぞ!


「ロケット・アーム!」


「のわっ! サイキックソーサー!」


マリアの両腕を防いで地面にたたきつけた。その時、腕にちくっとした痛みが走った。
そこをみると小さな針が一本刺さっていた。ちょっと痛かったがすぐに抜いてその辺に捨てよとしたとき、行き成り体が動かなくなった。
何これ? 金縛りか?


「ドクター・カオス・特性・麻痺薬です」


マリアが腕を巻き取り、ゆっくりとした足取りで迫ってきた。
どうやらあの一瞬の攻防のあいだに仕込んだらしい。
じりじりとマリアが距離を詰めてくる。俺の方は体が全く自由を利かず、その場で固まっているしかない。

何だ、俺このまま死ぬのか? なんだかアホみたいな幕引きだなおい。もっと青春、主に女の子といちゃいちゃしたかったー!!


「横島さん…もう・逃がさ・ない!」


「あーん、堪忍してー!」


ロケットアームが巻き取られて、俺も一緒に引っ張られる。必死になって抵抗しようとしたが、やっぱり体は動かなかった。
そして迫るマリアの顔、やっぱりロボットだからか左右対称で完璧に整えられたその顔はやはり芸術だ。こんな美女と『普通』にキスできるなら喜んでやるが、先にも言ったとおり死にたくない。


「さあ・横島さん・キスを…」


「いやぁー、やっぱファーストキスはもっとムードのある展開でが良いぃぃ!」


言う台詞がお互い逆のような気がするけどそんなこと構っていられなかった。男だって夢見る生き物なのだー!

その時、行き成りマリアに何かが当たり、小さな爆発を起こした。其れと同時に俺を掴んでいたアームが外れ、支えを失った俺は倒れそうになる。
だが俺はそのまま地面に熱烈キッスと言うことにはならず、背後から誰かに持ち上げられた。


「忠っち大丈夫?」


「キイ兄! やっときてくれたか!」


待ちに待ったキイ兄の登場だった。此れでどうにかなると俺はやっと一息つけた。
しかし、今更なんだが何で俺の視界はどんどんと地面から離れて上へと上がっているんだ?
俺はしびれる体の中でかろうじて動く首を動かして後ろを振り向いた。
そこにはあの掃除機のファスに跨ったキイ兄がいた。


「キイ兄はもしかして魔女っ子か?」


「いや、まず女の子じゃないからさ。丸っこい時計に化けれる王子様は飼ってないよ」


分かる人だけに分かる会話を繰り広げる中、ファスは外で飛べるのが嬉しいのか上機嫌で風を切って飛んでいる。
マリアの方を見ると、今おキヌちゃんが張ったロープで転んでるところだった。頭に何か変なのがついてるけど、多分さっき当たって爆発した弾が低級霊弾だったのだろう。


「キイ兄これからどうするんだ?」


「まず人に迷惑がかからないところ、郊外の倒産した採掘場に行くよ。ファス、Goー!」


キイ兄の言葉とともに、ファスはスピードを上げた。


やってきた採掘場跡地はかなり広くて見渡す限り誰もいない。此れならある程度暴れても大丈夫だろう。
俺の体の痺れのほうはまだ残っててもう暫くは安静にしていないと動けそうにも無い。


「飴食べる?」


「おっ、サンキュー」


俺はキイ兄から飴玉を受け取り口の中に放り込んだ。味はピーチか。
それから暫く待つ…こともなくジェット音とともにマリアがやってきた。
ズシャッと目の前に降り立つマリア。なんだかその登場シーンにカッコいいと思ってしまった。


「やあマリアちゃんご機嫌麗しゅう〜」


「何暢気に挨拶してるんだよ! さっさとどうにかしろ!!」


俺の言葉にキイ兄がキョトンとした顔で首をかしげた。まるで何言っているのか分からないといった表情だ。


「どうにかって…忠っちマリアちゃんとキスするんでしょ?」


「………は?」


「だって…『ムードのある展開』ならいいんでしょ?」


其れは確かマリアにキスされそうになったとき叫んだ言葉だよな? そういやあの後すぐに助けられたんだし、聞かれてて当然みたいな?


「それじゃあ後は若い者に任せてこの辺で…」


「ま、待てキイ兄! このままじゃあ俺胴体が窒息して息できなくて泣き別れしちまう!!」


「ああ、それなら大丈夫」


そう言いながらキイ兄はジャケットの懐をがさごそ漁る。
つーか、俺の(素で)間違った言葉はスルーなのね。此れが今流行の放置プレイって奴か? なかなかの高等テクニック見せ付けてくれるじゃないかキイ兄。俺もうかうかしてられないな。

そんな対抗意識を燃やしたところで、キイ兄は懐から数枚の霊符を取り出すと、俺の服を行き成り捲り上げた。


「いやんっ! キイ兄のスケベ!」


「うえっへっへ、忠っちも楽しんでおるではないか」


うおっ! キイ兄乗ってきやがった。それならどちらが先に折れるか根競べだ!


「ああ、やめて。鎖骨は弱点なの」


「じゃあサービスで尾てい骨あたりに張ってあげる」


そう言いながらキイ兄は俺のズボンに手を突っ込んで尻の上辺りに霊符を張ってきた。
ぐぅっ、さすがキイ兄此れくらいではへこたれないどころか更に攻勢に回っている。


「体が熱い、キイ兄俺どうにかなっちゃう…」


「ふふっ、そのままその感情に身を任せるんだよ。すぐに楽に…いや、気持ちよくなるからさ…」


今更思ったんだが、スッゴイ路線がずれて行ってるのは気のせいか?
なんか野菜育ててる気がしてきたんだけど?


「横島さん・キイさん・同性愛者・ですか?」


そこに、今まで静観していたマリアがストレートに質問してきた。
俺は心情的に、刃渡り一メートルくらいのナイフで胸を貫かれた気分だ。え? 刃渡り一メートルだともう剣だって? それでもナイフはナイフなんです!


「ああ、そういや『プラトニック・ラブ』って普通は純粋な『精神的な愛』を意味する言葉だけど、一説によるとこれを考えたプラトンさんが同性愛者でそれを世間に認めさせるために発表したって話もあるんだよ。

つまり、同性愛を推奨してたりするんだね」


肉体的なことはしないんだけどねと最後に付け加えたキイ兄。へぇ、そんな話もあるんだな。ためになるよ。
けどさキイ兄、まずそんな話するより俺等の同性愛者説を否定してからにしてくれ。
なんだかマリアが表情は変わらないけど衝撃を受けてるっぽいからさ。


「マリア、俺達全く持って変な関係じゃないからな? 至って真面目な兄弟みたいな関係だぞ。オーケイ?」


「分かり・ました・つまり・横島さんは・フリー・なの・ですね?」


フリーって…まあそうだけどさ。生まれてからこの方ずっとフリーだよ。文句あっかこのやろう!


「霊力よ、万物を流転す大いなる力の也てその力を発現せよ」


俺とマリアが話しているうちにキイ兄が行き成り祝詞を読み出し、俺の体に張られた霊符が光って俺の体に溶け込んでいった。
その瞬間、急に体から力がみなぎってきた気がする。一体何をしたんだキイ兄?


「忠っちの体を強化したよ。これでマリアに抱きしめられても死にはしないよ…多分


「今ちっちゃく多分って言っただろう!」


俺がキイ兄を問い詰めようとした瞬間、急に影が降りてきた。
空を見上げるとさっき見かけた俺を押しつぶそうとした石像の姿があった。しかも目がハートになっている。


「横島どーん! おいどんの愛を受け止め…ほぶろっ!?


一瞬冷や汗をかいたが、キイ兄が邪魔だといわんばかりに石像を殴り飛ばして引き摺って行く。
な、なんだったんだろう一体アレは…


「あっ、忠っちさっき食べた飴。あれは暫くの間無呼吸でいられるようにする薬の試作品だからさ。後で報告宜しく」


此れで窒息の心配は無いねと言いながらキイ兄は石像を引き摺ったまま視界から消えていった。
そして残されたのは俺とマリア…あれ? 非常にまずくない?
マリアがまだ動けない俺を抱き寄せた。あ、確かに万力のごときマリアのパワーでもちょっと痛い程度だ。さすがキイに良い仕事してるね。
って、そんなことに感心している場合じゃないんだって。


「では・横島さん・キスを…」


「ま、待ちなさい! お若いお嬢さんがそんな行き成りキスだ何て…」


「ノー・マリア・六百年・以上・活動して・ます」


そうだったー! マリアってロボットだから見た目は全然変わらないんだった!
まあ、カオスみたいにシワシワになってしまうよりは良いかもしれないけど。


「ま、マリア! やっぱ薬で誤認した恋心なんてやっぱり…」


「マリア…横島さん・好き。ドクター・カオスの・728.4%好き」


そして、俺の唇は奪われました。
マリアは機械のはずなのに、初めてのキスはとても柔らかくて暖かくて…

『特別に『錯覚』で感触を補助してあげたよ』

何処からかキイ兄の声が聞こえてきた気がした。ありがたいんだか迷惑なんだか。
目を閉じたマリアが、ただ何かを求めるわけでもなく兎に角唇を合わせている。
それでも体に伝わる『錯覚』された感覚に、俺はくすぐったいものを感じていた。

長い、とてつもなく長い口付けに…俺は心地よさを感じた。其れと同時に…


何故か心がギュッと締め付けられた。


〜ナレーター視点〜


「いや〜、今回も良い絵が取れたな」


キイが今まで構えていたビデオカメラをいそいそとリュックにしまっている。

すっと前のほうに視線を向けると、そこにはすっかり薬の効果が切れてロボットなのにぼうっと上の空で立ちすくむマリアと、途中で駆けつけ横島とマリアの壮絶なキスシーンを目撃したおキヌがお馴染み『煩悩退散ハリセン君』を振り回し、俺は無実だと叫びながらおキヌに叩かれる横島の姿があった。
因みにカオスはすぐ横で頭が火事になって大暴れ。厄珍と石像はそうそうにお帰り願った。


「やっぱ忠っち…どっかおかしいよな〜」


キイがおかしいなと首を傾げながら意味ありげに呟いた。
何がおかしいのかは口にはしないが、キイにでも分からないことらしい。


「うひゃー! 勘弁しておキヌちゃん!」


「駄目です! 今日だけは許せないんです!」


何でそんなに怒られるんだと横島は頭を庇いながら逃げている。さらにそこに今まで大人しくしていたファスまで加わって追いかけっこを始めだした。飛行属性のある二人から逃げられるはずもなく。横島はあえなく捕まってぺしんぺしんおキヌに叩かれることになったのだった。
けどどこかその表情には余裕いや、楽しさが混じっているようだ。今、この状況を精一杯楽しもうとしている。そんな笑顔だった。


その後、マリアはこれと言った問題もなく無事に復活した。ちょっと修理費がかさんだが、まあ迷惑費もかねてそこはキイが出しておいた。
厄珍のほうは石像があまりにも暴れるものだからキイがやたらめったらお札を貼ったせいで、帰路の途中で石像が自力で動けなくなり、町の真ん中で立ち往生して大変困ったことになっていたらしい。


〜おまけ〜


ところ変わって此処は妙神山。
一度は倒壊した修行場だが、キイの金と横島の力もあって今では立派に建て直されていた。
そこで、修行場のもんが左右にギィッと開いた。


「ふうっ、無事に生きてこの門を出られたわね」


其処から出てきたのは、ボディコン姿の亜麻色髪の女性、美神令子だった。
実は美神、先のパイパー戦で自分の力不足に気付き唐巣に相談した結果妙神山に訪れたのだ。
そして今修行を追え、下界へと帰るところだった。


「美神さん、なかなかの腕でしたよ」


門から更に、美神より小さいちょっと固そうなイメージの美少女、龍神族の小竜姫が無事に生き残った美神を褒めた。


「そう? やっぱ私なんだから此れぐらい当然よね。」


美神は胸を張って自信にうんうんと頷く。
その自信たっぷりぶりの美神を見て、小竜姫はふふっと小さく笑った。


「それじゃあ、私はそろそろ帰るわ」


この修行のため何日か仕事をキャンセルしてきたのだ。
早く帰って金儲けがしたいと美神は思っていた。


「あっ、そうだ。美神さん一つだけお聞きしてもよろしいですか?」


「え? なんでしょう小竜姫様?」


美神のほうはまさか小竜姫に呼び止められる、しかも聞きたいことがあるということにちょっと驚きつつもその質問に興味があって聞いてみることにした。


「ええ、実は『でーと』という言葉の意味を知りたいのですが…」


小竜姫の今持っている言葉の辞書にはその言葉がなく、あの横島との約束以来暇があれば何だろうと考えていたことなのだ。
美神のほうはちょっと拍子抜けな質問に肩透かしを食らった気分だが、まあいいかなと説明してあげることにした。


「デートって言うのは、簡単に言えば仲の良い男女のペアが一緒に出かけることを言うのよ」


「そうなんですか…へぇ……」


小竜姫は更にそのデートについて詳しく調べる方法はないかと聞き、美神はデートについて書いてありそうな適当な女性雑誌を上げてみた。
何故そんなことを聞くのか質問したかった美神だが、小竜姫はなにやらぶつぶつと言いながら考え込んでしまってどうも聞ける雰囲気ではない。まああれば次の機会にでもと思いつつ、美神は妙神山を降りていった。


残された小竜姫は美神が帰ってからも暫し考え込み、すっと顔を上げた。


「右門、左門少々買い物に行ってきてくれませんか?」


「いいですが…何を買ってくるのですか?」


「ええ、先ほど美神さんが行っていた物を…。やはり恩を返すなら其れ相応に知識を身につけて相手に粗相のないようにしなければなりませんからね」


小竜姫はそういいながら、少しだけ持っている小判を右門と左門に渡した。此れを換金して買ってこいと言う意思らしい。
右門と左門は小竜姫様らしいと思いつつ下界へお使いに出かけた。


――三時間後…


鬼門達はちゃんと注文された品を持って帰ってきた。ただ、買うときに女性定員から変な目で見られたのは言うまでもない。
だって、全身黒ずくめの男が女性雑誌を買っていくのだ。その光景はさぞかしシュールな雰囲気だったのだろう。
そして小竜姫は、手に入れた雑誌を自分の個室で読むことにした。


「ふむ、今時の若い人たちはこのような服装をしているのですか…」


まずはファッション系のページを見ているようだ。やはり長年下界に下りていない小竜姫の感性はかなり古いものになっていたらしい。


「これは…また面白い」


小竜姫は一ページ開くごとに其処に書かれていることに驚いたり不思議だと呟いたりして読んでいった。
そして、美神に進められた全ての雑誌を読み終えた小竜姫は…


「あ、あうぅぅ…」


何故か顔を真っ赤にして、ベッドの上で枕を胸元で抱きしめ、その枕に顔の半分をうずめて唸っていた。
もしここにキイがいたら、ラブリーといいながら写真を取り巻くっていることだろう。


「まさかデートがそんなものだったなんて…」


小竜姫の手元にある雑誌の開かれたページには、『デートの道しるべ(ハート)』というデートの手順を紹介している記事があった。
それだけなら別に普通にどんな雑誌にでも載っていそうな記事なのだが、こうやって紹介されているデートの手順には一つの共通点があった。
それは、最後にかならず『キス』もしくは『<検閲削除>』が盛り込まれているのだ。
その二つの言葉が最初分からなかった小竜姫だったが、全ての雑誌を読み進めるうちにその二つの言葉を理解した。


「キスとは『接吻』のことで、もう一つはつまり『目合ひ』の……」


其処まで言って小竜姫の顔がポンッと赤くなった。どうやらそのシーンを想像してしまったらしい。お相手は聴かなくてもわかっているだろう。
小竜姫はそんな、違うんですーと叫びながら枕を抱いたままベッドの上をころころ転がっている。
何が違うのかは知らないが、その顔は少なくとも嫌がっているようには見えなかった。


竜神族小竜姫…剣の腕前は達人でも、恋愛に関しては今時の幼稚園生以下かもしれない…



あとがき


まずは早速レス返しを…


>八尺瓊の鴉様
あれでも甘かったですか…もっと残酷にするべきだったかせめて殺すくらいは<マテ
アレは手紙を書いたのは横島なので横島ののボケ…でいいのかな(汗)


>HAPPYEND至上主義者様
>こんだけ大暴れかつ、はっちゃけているのは初めてです!!
いや、単に自分の脳内がバカばっかなだけなんですけどね(笑)
応援してくれる方が増えてとても嬉しい限りです。
これからも頑張らせていただきますのでどうぞ宜しくです。


さあ、今回は蒼河霊脳相談所に新たな仲間が増えました。
そして横島クンにはちょっと(かなり?)良い目にあってもらいました。

早速使った掃除機ネタ分かる人いますかね? 自分が小さいことにやっていた番組なんですけどね。

今回は本編には特にいうことがないのですが…何故かおまけに以上に力を込めてしまった。何やってんだよ自分…
ただちょっと可愛いらしい小竜姫様を書きたかっただけなんだけどな…ちょい暴走してしまいました。

さて次回はついに夢馬編かな。また二つに分かれちゃったりするのかな(汗)
親父編は…頭でちょっとだけかな(苦笑)
さあ、今度は誰にどう活躍してもらおうかな?


それではこの辺で失礼致します…

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