さて、横島達が死津喪比女の分身と戦っていた頃。とある山奥の修行場の一室で、見目麗しい2柱の女神がお茶を飲みながら談話していた。
「ヒャクメ、あなたまた遊びに来たのですか?」
「固いこと言わないのねー。サーヴァ○トとしてマスターの近況を知っておくのは義務なのね」
「『何でなのねー』とか言ってたくせに……」
「なってしまったものは仕方ないわ。それにいい事もあるのねー」
「いいこと?」
ネタか悪戯の類だと思っていた小竜姫が顔を上げた。
「ええ。ルシオラさんの記憶の中で、私達は108ヶ所の拠点を破壊されてチャンネルを切られたでしょう? 今後もしそうなっても横島さんのサー○ァントでいれば人界で活動することができるのね」
「ええっ!?」
驚きに目を見開く小竜姫。
「そ、それは横島さんを霊力源にするということですか? いくら何でも人間にそんなことが……」
「それができるのねー。ルシオラさんが横島さんの霊力でゼロからあの身体をつくったのに、それでも横島さんは何の障害もなく生きているわ。なら私達を維持するくらい大した負担じゃないのねー」
一応筋は通っているが、にわかに信じがたい話だ。常識外にもほどがある。小竜姫は眩暈がするのを覚えた。
「確かに横島さんは表面的には一般GS並みの霊力しか持ってないわ。でも彼の中には私にも見えない何かがあるのねー」
「そうですか……彼の素質を最初に見出した者として、もう誇っていいのか呆れていいのか分かりません」
「そんな堅苦しく考えることないのね。それより小竜姫も見る?」
「……こほん。しょうがないですね、お茶を飲んでいるだけでも退屈ですし」
女神のくせに覗き見とは困ったものである。
「ところで美神さんの魂の中にあるエネルギー結晶のことですが、やはり本人に話すべきでしょうか?」
「それは難しいのねー。脈絡もなくそんなこと話したら絶対怪しまれるのね」
「そうですね……美神さんも老師の修行を受けてくれればそこから糸口がつかめるのですが。でも霊的成長期を過ぎた彼女には危険ですし……」
「美神さんは結晶を奪われないように隠れててくれればいいだけだから、そんなに心配することないと思うけど……」
「そうですね。ルシオラさんが今ここにいる以上、彼女の記憶とは違う道を採れるのですから……」
小竜姫は軽くため息をつくと、またディスプレイに視線を戻した。
「……それにしても横島さん達は本当にトラブルに縁がありますね。死津喪比女といえばある意味九尾の狐を上回る程の大妖怪ですよ」
「でもあれは魔族じゃないから助けには行けないのねー」
「まあルシオラさんがいるから大丈夫でしょう。それより○ーヴァントを3人も囲いながら普通の女の子にまで手を出すなんて、横島さんたら本当に女の子が好きなんですね#」
何故か小竜姫の額の辺りに井桁マークが浮かんでいる。ヒャクメはちょっとびくつきながらも、
「あれは横島さんがコナかけたわけじゃないのねー。それより小竜姫、そろそろ夕食の準備の時間じゃないの?」
「ああ、そうでしたね。あなたも食べて行きますか?」
「お願いするのねー」
今日も修行者が来なかった妙神山の1日は、こうしておおむね平和に過ぎていった。
「あ……あれ? わたす……ここは?」
早苗が目覚めた時、そこはもう崖の下だった。体はルシオラの腕の中で介抱されている。
「あ、気がついたのね。いきなり倒れたからびっくりしたわ。化物のせいで気が動転したのね」
「……」
そうではなかったような気がするが、疑うのは失礼な気もした。とりあえず助けて貰ったお礼をのべて、
「そ、それじゃ神社に案内するだぁ。もうすぐ近くだべ…………ところで、ルシオラさんと横島さんはやっぱり恋人同士なんだべか?」
この年頃の娘の最大関心事の1つである。美神なら全力で否定するところだが、ルシオラは我が意を得たりと、
「ええ、私とヨコシマはそれはもうロマンチックな出会いをして、身を焦がすような恋をしたのよ! 結婚式もしたんだから」
熱弁を振るうルシオラに早苗は少々引きながらも、
「け、結婚式!?」
「ちょっとわけがあってね。法律的には無効なんだけど、でも恋をしたらためらったりしないわ!」
「……す、すごいだす……」
早苗はもう憧憬のまなざしでルシオラを見上げている。もしルシオラが頭軽めの娘だったらバカにしたかも知れないが、早苗自身より知的でしっかりしたタイプに見えたから、実際にそういう事があったのだろうと感心したのだ。
それに伴って横島の評価もさらに上がったのだが、
(くっ、これじゃ何もできんではないか)
いつもならそろそろセクハラに走っている時分なのだが、今それをやったら自分だけでなくルシオラまで軽蔑されるのは明らかである。哀れ横島はこのミッションの間中、ナンパも覗きも封印されたのだった。
3人が神社に着いたのはもう日暮れ頃だった。
横島達が早苗に案内された部屋では、美神が神主と一緒に古文書をあさっていて、
「あ、横島クン、ルシオラ。お疲れさま。どうだった? ……あとそちらの娘は誰?」
「わたすは氷室早苗、この神社の娘だぁ。あんたは?」
「あら、それは失礼したわね。私はGSの美神令子、そこの2人の雇い主よ。もう聞いてるかも知れないけど地震のことで調べに来たの」
「それは聞いたべ。祠から帰る途中に化物に襲われたときもかばってくれたし……」
「何ですって!? いったい何があったの?」
思わず顔が強ばる美神。そして互いに情報を交換した後、
「つまり、死津喪比女はもう復活してるのね。植物系の妖怪で地上に出てくるのは端末だってんなら、本体は球根か何かでどこかの地下に埋まってるんでしょうね。やっかいだわ」
「やっぱりおキヌちゃんがカギっスかね?」
「そうね、まずはその辺の呪的メカニズムを解明しないと。ま、今日はもう遅いし引き上げましょう」
「あ、したら家に泊まるといいべ。助けてもらったお礼もしてないし。なあ父っちゃ?」
横ルシカップルを尊敬している早苗がしゅたっと手を挙げて提案する。神主も重々しく頷いて、
「そうですね、下のホテルからでは往復に時間もかかります。問題が問題ですし、遠慮はいりませんから泊まって行って下さい」
「それじゃお世話になります」
……。
その後、早苗の母が夕食をつくっている間に横島・ルシオラ・早苗の見た目同年代な3人がトランプをしているのを見て、何となく違和感を覚える美神。
「……? 別にどこも不審じゃないけど……」
やがてぽんと手を打って、
(そっか、初対面の美少女が横島クンに好意的なのが不思議なんだ)
見た目は悪くないのだが出会い頭にセクハラをかますケースが多いため、女性が彼から受ける第一印象はたいてい最低の一語に尽きる。いくら助けてもらったとはいえその後アレが来たら帳消しになると思うのだが……。
そう言えばここに来てから横島はやけにおとなしい。
(ルシオラね、あの子がセクハラ止めさせてるのか。それなら納得できるけど……)
微妙に読みが足りない部分はあったが、とにかく何故か不愉快だ。後でとっちめようと心に誓う美神だった。
「へえ……! いいなぁ、家の裏にこんな温泉が沸いてるなんて……」
「露天風呂って初めてだけど悪くないわね」
夕食後、美神とルシオラは早苗と一緒に屋敷の裏にある温泉に入っていた。死津喪が復活していなければ温泉宿気分なのに惜しい所である。
「社では何も見つからなかっただべか?」
「ええ、今日はずっと古文書見てたから。明日はきっちり調べさせてもらうわね」
「頼むだ。でもGSって凄いんだな。横島さんの雇い主ってことは、美神さんはもっと凄いんけ?」
「うっ……ま、まあスタイルは違うけどね」
美神も通常の戦闘ならもう横島の方が上なのは分かっていたが、ここで認めるわけにもいかず曖昧に答える。そう、自分は万能性が強みなんだから、集束・具現化に特化しすぎてるあいつより総合力では勝っている。勝ってるんだったら!
「そっかー。わたす山田君と付き合ってるんだけど、何かルシオラさんと横島さん見てたら物足りなくなってきたっていうか……」
「ふふふっ、ヨコシマは特別なんだから比べちゃ駄目よ」
「……」
ライバルにはなりえない女性に恋人を称賛されて上機嫌のルシオラと、これまた面白くなさそうな美神。
(何で私不愉快なのかしら? 私が横島クンに惚れてるってのは有り得ないし……うーん、丁稚を取られて寂しい?のかしら……?)
もう3人とも死津喪のことなどどうでもいいみたいだった。
一方その頃、噂の肴になった横島はといえば。くしゃみをするなどというベタな展開ではなく、あてがわれた部屋でごろごろと床を転がっていた。
「ぐううっ……見たい! 覗きたい! ここで覗きに行かずして何が漢か!! しかしルシオラにバレないわけがねーし、そーなったら早苗ちゃんにも幻滅されるな……」
どんな漢だ。
「いや待て、そー言えば崖で死津喪に襲われたよな。風呂場といえば最も無防備な場所、隠れて護衛に当たるのはむしろ漢の義務なのでは!?」
それは彼の主観では名案だったらしく、ぱっと顔を上げて立ち上がりかけたが、
「……ルシオラがいるんだから平気だよなぁ、どー考えても」
壁に背をつけたまま、ずるずると座り込む横島であった。
……しかし、横島は護衛に来ても良かったかも知れない。何故なら彼が予想した通り(?)、死津喪比女はこの温泉を襲ってきたのだから。
「先ほどは花を1輪摘まれてしもうた……痛かったぞ、とてもな」
「おまえ、死津喪……」
「え、こいつが!?」
現れたのは崖で横島達を襲った死津喪と全く同じ姿の妖怪が5体ほど。
ルシオラが立ち上がって前に出、美神が早苗を後ろにかばう。美神は道具を持っていないのだから当然の配役だった。
「あいつがまたこの社に来てるのは分かっているぞえ。会わせておくれでないかえ? ……いや、その前にさっきのお返しをしておくとしようかえ」
先頭の死津喪がそう言ってルシオラめがけて腕を伸ばす。
ルシオラはそれを霊気をこめた拳で叩き壊すと、
「やる気みたいね。聞きたい事は聞けたし、もういいわ!」
身構えて霊波砲を放つ。死津喪の言葉は、おキヌがここにいて、しかも封印のカギになっているという意味なのだ。これだけ聞ければ十分だ。
「ちょっ、ルシオラ、待ちなさい!」
もう少し話をして情報を引き出したかった美神が慌てて止めるが、ルシオラはもう攻撃を始めていた。
ドドドドドッ!
雪之丞ばりの連続霊波砲が死津喪たちを撃ち抜いていく。
「あぁもう……」
勝負の行方など一目瞭然。情報源が一言も残さず燃えるゴミになったのを見て、美神はがっくりと肩を落とした。
「くそっ、まさかホントに来やがるなんて。今すぐ助けにいくからな!」
騒音を聞きつけて走り出した横島は本気と書いてマジだった。さっきは平気だと思ったが、よく考えてみれば美神は武器を持ってないし早苗は素人だ。
ところが玄関まで来た所で早苗の両親と鉢合わせした。手に木刀やフライパンを持っている所からすると、2人とも異変に気づいたらしい。
が、横島の顔を見たとたん、
「娘の入浴を覗きに行く気か?」
「痴漢!?」
今回横島は何もしていないし、今もそんな気はないのだが、年頃の娘を持つ親だけに横島の正体を本能が感じとったのだろうか。
「そ、そんな場合じゃないっしょ!?」
「やかましい!」
揉め出す3人だったが、まあ足手まといを近づけなかったという功績は認めてもいいかも知れない。
「ルシオラさん……やっぱりすごいですね」
「……え?」
その声は後ろにいた早苗からだったが、口調は全然違っていた。
「おキヌちゃん!?」
いちはやく気づいた美神がその肩を掴んで、
「おキヌちゃんなのね? 心配してたのよ」
「美神さん……ごめんなさい。私、お別れを言いに来たんです……」
その言葉と表情は、もうルシオラにも分かるくらい間違いなくおキヌだった。憑依しているのではなく、どこかから送られてきた念に対して早苗が感応しているらしい。
「私、自分の役目、何も知らなくて……それでみんなに迷惑かけて。自分の命をムダにするところでした」
「ちょ、ちょっと待っておキヌちゃん。大丈夫よ、いきさつは聞いたから。今回も私が何とかしてあげるわよ」
「美神さん……いえ、もういいんです。どっちみち私は300年も昔の娘です。本当ならみんなに会えるはずなんかなかった……だから、だから私は私の役目を果たします……」
早苗、いやおキヌは涙をぽろぽろこぼしながら、
「横島さんにも会いたかったですけど……。ルシオラさん、私の分まで横島さんのことお願いしますね」
「……」
おキヌの役目の具体的な内容はさだかでないが、彼女はこのあと生き返れる筈なのだ。ルシオラは未来のライバルのために、
「私がもらっちゃっていいの? そう簡単に諦められちゃつまらないんだけど」
「…………。ルシオラさん……」
「そうよおキヌちゃん! どんな事情だか知らないけど私がそんな簡単に『はいそーですか』って引き下がると思うの……って何!?」
殺気を感じた美神とルシオラが振り向くと、
ボコボコボコボコボコ、ドグァッ!!
前方の地面が大きく割れ、そこから数百にも及ぼうかという死津喪の群れが現れたのだった。
「なっ、また……!? それにこの数……」
「死津喪比女は地脈に深く根を張って生きてる妖怪で、ここにいるのはそのほんの一部、花や葉の部分なんです!」
「やっぱりそうだったのね。でもこれが花……こんな花壇いやよ、私」
「花言葉は『悪寒』とかよ、きっと」
「あの、そんな話してる場合じゃ……」
緊張感のない2人におキヌと死津喪比女はかなり呆れていたが、
「ま、まあよい。それにしても『花』5輪使っても足らぬとは……ここまで埋め尽くすこともあるまいがの」
ぞろぞろと近づいてくる死津喪たち。それは本当に「悪寒」という花言葉がぴったりくる情景だった。
「ル、ルシオラ……あんたに任せてもいいのかしら?」
軽口は叩いたものの、実はさすがの美神にも震えがきていた。よほど大掛かりな準備でもしなければこんなのどうにもならない。
バスタオル1枚きりの今の彼女にできることは只1つ――逃げることだけだった。しかしさっきの死津喪の動きを見る限り、それすらみんなでというわけにはいかないだろう。そしてその時間を稼げるのはこの場に1人しかいなかった。
しかしルシオラは普段通りの笑顔で、
「ええ……でも、別に倒してしまっても構わないのでしょう?」
と、どこぞの弓兵のようなことを言い放ったのだ。
反応したのは美神よりも死津喪比女で、
「ほう? この数を相手に、万に1つでも勝ち目があると言うのかえ!?」
「割とね」
「……ならば、見せて貰おうではないかえ!」
数え切れないほどの死津喪の群れが一斉に飛びかかってくるのを前に、ルシオラはすっと片手を上げて、
「霊圧抑制術式3号2号1号開放……ああしてこうして以下省略。では教育してあげましょう、本当のGSの除霊というものを!」
ズドバンッ!!
人間並みに抑えていたルシオラの霊圧が解放される。
『前』に寿命を延ばしてもらったときにパワーは半分に減ったが、それでも上級魔族の範疇に入る力だ。美神と早苗(中身おキヌ)が後ろに吹っ飛ばされて目を回した。
「――っ!?」
見たこともない強大な霊力を前に、死津喪たちもびたりと前進を止める。
「な、何がGSじゃ、そんな力が人間などにあるものか。そなた一体どこの妖物かえ!?」
死津喪比女の発言は無理からぬものであったが、当然ルシオラはカチンときて、
「し、失礼ね! 花言葉『悪寒』のおまえに言われたくないわよ!」
その右手にシャレにならないレベルの霊力が集まっていく。
ガ ン マ ・ レ イ ?
「封魔87式烈光蛍乱舞!!」
キュドドドドッ!
先ほどの連続霊波砲が遊びに見えるほどの霊波弾の嵐によって、今度は燃えるゴミどころかチリにされた死津喪たちだった。
――――つづく。
いや、この先はシリアスですよ?
ではレス返しを。
○貝柱さん
>世界はここにもあるんだからキダタロー的「引用」しちゃえ。ダメ?
うーん、ネタは分かりませんがルシオラのことだから大丈夫でしょう、きっと。
○ゆんさん
>つうことは恋愛ドタバタってのが今回のテーマ?
こんな風です(ぇ
>とりあえず、サーヴ○ントの数は現状維持w
今回サーヴァ○トシステムの意義が明らかになりました<マテ
○ジェミナスさん
>シリアスシーンの連続を横島とルシオラの二人がどう切り抜けるか楽しみッス!!
この先は真面目ですので(^^;
○てとなみさん
>結局復活しないままに終わる(連載中止)作品の多い中、この作品に出会えてとても喜んでおります
途中で終わっちゃうの多いですからね。
これからも宜しくお願いします。
>長く続けてくださいね♪・・・と期待するのが重荷になりましたら失礼
いえいえむしろ励みになります。
>後発ってのは「世界はここに」を指してるんですか?w でも火攻めくらいはありかとw
それもですが、「心眼は眠らない」で文珠『炎』を使ってますので……こっちの方がより内容が近い作品ですから真似できません(^^;
○ももさん
>あ、早苗ちゃんと険悪な出会いじゃない・・・ま、まさか!(笑
そう、そうなんですよー。
でもフラグは立ちませんでしたとさ、まる。
>恋闘編・・・ということはラブコメですか。素晴らしいタイトルです
ありがとうございますー。
○Dr.Jさん
>自分の蒔いた種は自分で刈らねばいけませんよ、美神さん
まあここで逃げたらヒロインはつとまりませんからねぇ。
お金は無理でしょうけど。下手すれば払う方になりかねませんし(^^;
ではまた。