〜ナレーター視点〜
現在蒼河霊能相談所の一同は、都内の大手デパートに赴いていた。
何でも真昼間から怪異現象がおきて困ったことになっているらしい。
そして閉店してからデパートの中で現場検証をすることになったのだ。
「ひぇっ、人間がマネキンになってる!」
「生体発光はちゃんとある…これぞまさに生き人形だね」
どうやらマネキンにされた人達はちゃんと生きているらしい。
それから他のマネキンにされた人たちを見て回る。
エレベーター嬢とか、家族連れの買い物客、そして今まさに万引きしようとしてる少年。
そして問題のマネキンがあった場所に案内される。
「ん、どうやらライトの配置の所為で魔法陣が出来ちゃったみたいだね」
「なんか黒っぽい気配がする…下等悪魔か何かを呼んじまったみたいだな」
マネキンが立っていた場所にはライトに照らされた支柱の影で五芒星の模様が描かれている。
此れが簡易召喚陣となって招かれざる者を呼んでしまったようだ。
「うわあああああぁぁぁぁ!!」
その時、フロア中に男性の悲鳴が響き渡る。
一同は悲鳴のしたスポーツ用品店まで走ると、そこには大きな口を開けて驚愕の表情のままマネキンになっている警察官の姿があった。
「あちゃ、どうやら相手はまだ店内にいるみたいだね」
キイが自分たち意外は全員避難する様に店長に促す。
店長達が避難し終わってから、キイは横島にトランシーバーを渡して屋上へと向かわせる
『それじゃあ、忠っちは上の階から霊視しながら降りてきてね』
「あいよ〜…キイ兄サボるなよ?」
横島はキイのサボり癖が出ないように釘を刺しておく。
『…マサカサボルワケナイジャン』
「キイ兄、半分の五階で待ってるからちゃんと来いよ」
そこでトランシーバーを腰に戻す。
小さく舌打ちする音が聞こえたような気がしたが、何時ものことなので横島は気にしなかった。
一階一階丹念に霊視しながら下の階へと降りていく。
そして、アクセサリーショップの前に着いたところで、
「わ〜、横島さん! ちょっと見てきていいですか?」
やはり女の子なのかそう言った小物に興味があるらしいおキヌちゃん。
「おキヌちゃん…一応今仕事中だよ」
「う〜、じゃあ今度連れて来てくれますか?」
「つーか、おキヌちゃん幽霊なんだからアクセサリーなんて付けられないでしょ?」
横島の言うとおりで、霊体のおキヌちゃんは持ったり触ったりなどは出来るが、それには意識を集中して、『其れに触る・持つ』などの意思を常にはっておかなければならない。
だから気が抜けると体をすり抜けて落ちてしまうのでアクセサリなどを付けられないのである。
「それでもいいんです。駄目ですか?」
手を胸元で組み横島に『お願い』するおキヌちゃん。
ちょっと潤んだ目+上目遣い+甘えるようなオーラを放つ。
何処でそんな高等技術を学んだのか、最近キイが買い与え始めた週間ゴシップ誌か…
それとも最近横島がいない間にキイが開く『女を魅せるテクニック講座』で学んだことの実践か…
どちらにせよキイの所為であるのには変わらないらしい。
「わ、分かったからそんな捨てられそうな子犬のような目で俺を見ないでくれ…」
何も悪いことをしていないのに良心がちくちくと痛み出した横島はあっさりと白旗を揚げた。
もともと女性には強く出れない横島、多分普通にお願いされても簡単に折れていたことだろう。
その時、フッとデパート内の電源が落ちた。
「うおっ!? キイ兄電気消えたぞ?」
『ん〜、どうやらブレーカーがやられたみたいだね』
ヘタに動くと危険だと言うことで、キイが横島の元に向かうから其処で待つように言った。
とりあえずアクセサリーショップの前にある家具屋においてある椅子に座って待つことにした。
「そういえば、横島さん達と会って結構経ちましたね」
「ああ、あの雪山で会ってからな。そういや結構昔のことに感じられるな〜」
毎日があまりにも詰まった日々だったので、おキヌちゃんと出会ったのがとても昔に感じられる横島。
懐かしいな〜とあのときのことを思い出す。
「あの時は大変だった…キイ兄が何時もの如く暴走して」
「うっ、アレは怖かったです…」
会ってすぐキイが岩で潰れ、そのあと再開したらいきなり結界に捕まって毛虫で脅されたのだ。
とても印象的な出会いとなっただろう。
「けどそれから私のために色々としてくれて、今はこうして横島さんと一緒にいられますし…
私、今とっても幸せですよ」
死んじゃってるのが残念ですけどと舌をぺろっと出して笑うおキヌちゃん。
別段無理もしていない、心の其処からそう思っているのが分かって横島の顔も自然と綻んだ。
「俺も、おキヌちゃんと一緒にいられて幸せだよ」
そして二人は顔を見合わせ互いに軽く微笑んだ。
そんなのんびりほんわかとした雰囲気が形成されているとき、
「うわっひゃあぁぁぁ〜〜!」
突然フロアに悲鳴が響き渡る。
「この声はキイさんです!」
「行くよおキヌちゃん!」
悲鳴のしたほうへと急ぐ横島とおキヌちゃん。
そして辿り着いたエスカレーターの前で見たのは、
倒れたマネキン、散らばる買い物カゴ、そして…
涙を流すダンシングフラワー、うねうねと動きながらサングラスの下から涙を流している。
「あ〜、ビックリした。咄嗟に使ったけど成功してよかったよ」
そしてその前に立っているキイの手には燃え尽きて灰になる霊符が一枚。
どうやらそれでマネキンについた悪魔をダンシングフラワーに移したらしい。
パンッと手を叩くたびうねうね腰を振るそれに、おキヌちゃんが面白いと言いながら何度も何度も手を叩いている。
「それで…此れどうするんだ?」
「まあ、とりあえず祓っちゃおうか」
そう言ってキイは破魔札を取り出しぺたっとダンシングフラワーに貼る。
すると黒い気がしゅわ〜と溢れて、霧のように消えていった。
こうしてデパートでの仕事が終わった…
だが、今日はまだ終わっていなかった!
『横島さんと一緒にいられますし…私、今とっても幸せです』
『俺も、おキヌちゃんと一緒に入れて幸せだよ』
そんな声が先ほどから蒼河霊脳相談所の中でエンドレスで流されていた。
もはや告白ととっても不思議ではない台詞をさっきから流しているのは勿論キイだ。
「うっひゃ〜、お兄さんこんなの聞いてたら顔が火照ってしょうがないよ!」
「やめれー! 何てもん流しとるんじゃ!!」
そして部屋の中で暴れまわるキイと横島。
因みに防音防衝撃の結界を張ってあるのでご近所には迷惑はかからない。
「キイ兄いつの間にこんなの録ったんじゃー!!」
「トランシーバーから聞こえてきたからおもわずね〜」
「おキヌちゃん! おキヌちゃんも手伝って!」
自分だけでは奪えないと考えた横島はおキヌちゃんに援護要請をする。
だがおキヌちゃんは横島の声が聞こえないのか、頬に手を当ててほうっとしている。
「そんな…私は横島さんのこと………でも…」
おキヌちゃんは『キャッ♪』と顔を赤くさせてしきりに首を横に振る。どうやら完全にトリップしてしまっているらしい。
それから数時間して録音したテープを取り上げられてグレンに食べさせた横島は、疲れたと言って早々に布団に潜り込んだ。
だが、横島が完全に眠ってしまった後、キイがふっと笑みを浮かべながらパソコンを立ち上げる…
「ふふっ、まだまだ甘いね忠っち…」
そういいながら、一枚のCDを取り出すキイ。そのCDに貼ってあるラベルには『忠っちの成長記録〜17歳・恋のからさわぎ編〜』と書かれていた。
こうして、横島の恥ずかしい出来事がまた一つ完全永久保存されたのだった。
せかいはまわるよどこまでも
〜〜二年GS組キイ先生!!〜〜
〜横島視点〜
太陽が昇り穏やかな光が降り注ぐ中、生徒達は学校へと登校する。
そして俺は今、校門の前で自分の学校を見上げていた。
「ふっ、学校か…懐かしいな………一昨日ぶりだぜ」
ヒューっと風が通り過ぎていく、やはり…突っ込み役が欲しいな。
俺は肩に下げているバックを直しながら自分の教室へと向かった。
「ヤッホ〜エブリバディー! 元気にしてたかい?」
「横島君、朝の挨拶はおはようよ」
「あ、はい…おはようございます」
景気付けに一発ボケをかまそうとしたら扉近くの本を読んでいる女子に出鼻を挫かれてしまった。
なかなかやるな…お前にボケキラーの称号をやろう。
「謹んで辞退させてもらうわ」
読んでいた本を閉じてにっこりと笑顔で拒否された。
「何…「声に出てたわ」……さいですか…」
俺が最後まで喋る前に答えられてしまった。
なんだか最近クラスメイトの突っ込みが早すぎる…
「うん、これも俺が日々ボケ通して鍛えているおかげだな」
「いや、お前がワンパターンなだけだ」
教壇の前でだべっていた男子が切り捨てるように俺にそう言った。
ぐあぁ…ワンパターンなんて芸人として死活問題だ。すぐさま此れに対する傾向と対策を練らなくては…
俺はさながら戦場の負傷兵の如く体を引き摺る。
んだが、一向に体が前に進まない。何がおきた?
「おい横島、お前ちょくちょく学校休んでるけど…噂じゃGSの助手やってるんだって? 本当か?」
行き成り俺の肩を組んで尋ねてくる男子数名、なんだか女子も数名こっちを見ているんだがそんなに聞きたいことか?
まあ、隠すことでもないし教えるけどさ。
「ああ、親戚のプロのGSの所で雇ってもらってる」
俺がそう言った瞬間クラスの中がざわめきだした。何故だ?
「それじゃあ横島クンって将来GSになるの?」
「ああ、そのうち免許とって今勤めてるところに正社員として雇ってもらうつもりだ」
まあ、キイ兄が道楽で行き成りGS止めなければだけど。
「GSって儲かる仕事なのよね? どれ位儲かるの?」
「そうだな、仕事の種類によって違うがこの前の仕事は五千万だった」
其れを聞いて更に色めきだすクラスメイト達。だから何なんだよお前ら。
そして行き成り俺の手を握ってくる男子数名、
「「「横島、俺達親友だよな!」」」
「俺に目が『$』マークな親友はいねぇ!」
一発しばいてしっしと追い払う。
全く金目当ての親友なんて溜まったもんじゃないわ!
「横島クンはまだアルバイトなのよね? 時給は幾らなの?」
「ん、今は六千円」
横島の給料はアレから幾度もの賃金値上げ交渉を経て何とか千円アップしていた。
「「「横島! 俺達心の友と書いて『心友』だよな!」」」
「お前らちょっと寝てろや!!」
俺は近寄ってくる金目当ての自称心友を蹴散らして床に寝かせておいた。
其れを見て流石にこれ以上はまずいかと散らばっていくクラスメイト達。
其れを見てため息をつき、俺は自分の席へと向かった。
「何だこれは…」
何故か俺の席だけ随分と古い机と椅子に変わっていた。てかこの学校って完全に木だけで出来たものがまだあるのかよ。
「何だ、イジメかお前ら?」
受けて立つぞとパキパキと骨を鳴らす俺。スゥーっとクラスを見渡すが誰もが首を横に振っている。まあ、このクラスにこんな椅子とか机まで持ってきてまで悪戯する奴なんていないし。
じゃあ一体誰が?
「随分と年季の入った机だな」
俺がすっと机に触れたとたん、何かが俺の中に伝わってきた。
これは…妖気か!?
「やばいっ! 皆この机から離れ…」
その時、突然机の引き出しから伸びた手に掴まれた。
やばい! 振りほどけない!
すぐさま脱出が困難と判断した俺は、近くにいた女子にカバンの中から俺の財布を投げた。
「その中に蒼河霊脳相談所の電話番号が入った名刺がある! そこに連絡してキイ兄を…」
其処まで言って、俺の体は机の中に引き摺り込まれた。
〜ナレーター視点〜
横島が机に引きずり込まれてからすぐに蒼河霊脳相談所に連絡が行った。
そしてすぐさま駆けつけるキイとおキヌちゃん。その速度はまだ電話最中にもかかわらず既に学校に到着しているほどだ。
電話をしていた教師の方は電話口とすぐ傍から声が聞こえてえらく混乱していたが、兎に角校長室に通されて事情を聞くことになった。
それから事の顛末を聞いて、出されたお茶と菓子をキイが軽々と言いあて、実はお茶好きだった校長としばしお茶座談会を開いていた。
「校長!」
「おお! そういやこんな場合ではなかった!」
教師に言われやっと本来の目的を思い出した校長は、問題の机のある教室へとキイとおキヌちゃんを案内する。
「うっ、此処は…」
横島が頭を押さえながらゆっくりと起き上がった。
どうやら教室の中のようだが、机が教壇以外なく自分以外に誰もいない。
「多分、ここはあの妖怪の腹の中か…」
体がややふらつくが、一時的なものですぐに回復する。
他に異常もなく、どうやら只中に連れて来られただけらしい。
ふと校舎の外を見ると変なひびだらけの地面に、前衛的なオブジェっぽい岩がところどころに転がっている。
「ただの腹の中じゃなくて…異界空間になってるみたいだな」
明らかにおかしいこの空間、横島はしばし妙なオブジェ岩を見ていると教室の扉が開いた。
「あなたが今回取り込まれた人ね…」
そう言って入ってきたのはセーラー服姿の長い黒髪の少女。因みに美人だ。
そして此処に来て起動する横島ブレイン。この後するべき行動をすぐさまはじき出す。
「初めまして綺麗な彼女。俺の名前は横島忠夫、有無を言わさず人気の無い学校で楽しく可笑しく遊びませんか? その果てで間違い犯しちゃったり無かったり?」
行き成り高速移動してその少女の手を握り早口でまくし立てる。
微妙に直接的表現をかわす辺り現在の横島の本気具合が分かる。
つまり、
「しません!」
パシンと頭を叩かれる横島。
そして、わなわなと震え始めた。自分の判断は正しかったと…
「君名前は!」
「えっ…あ、愛子よ」
急に両肩をつかまれて、真剣な顔を間近で見た愛子はちょっと頬を赤くする。
「よしっ! 愛子、お前を俺の学校での相棒にするぞ!」
「えっ、何? それってもしかして…遠まわしの告白? お前は俺のものだ宣言?」
ちょっとうろたえながらも逃げようとはしない愛子。
「おうよ! 学校では片時も俺の傍を離れるな!」
「や、やだっ…私達会ったばかりなのにそんな急に……
でも一目惚れした女子にその留めきれないトキメキを告白する男子…
ああっ、此れって青春だわ!」
手を握り合わせて右頬辺りにあてうっとりとする愛子。
だが、そんな甘い空間を自ら形成できるほど横島の乙女回路は高性能ではなかった。
「これから、俺の突っ込み役の相棒として付き合ってくれ!」
「もうっ、そんな付き合ってくれなんて……突っ込み?」
此処に来て、愛子は二人の間に大きな語弊があることに気付いた。
愛子は聞き違いかと確認してみるが…
「えっ、ただの突っ込みじゃ嫌か? じゃあノリ突っ込みにするか?」
だが横島のほうは全く気付いていない。何処までも鈍感な男である。
そして今までのことが勘違いだと気付いた愛子は、
「二人の間に生まれた勘違い、けど其処から始まるラブストーリー…これも青春だわ!」
それでも全くめげずに更なる展開に喜んでいた。なかなかの強者である。
「おっ、委員長ここにいたのか。どうやら新入生も見つかったようだね」
「高松君」
高松と呼ばれるロンゲで糸目の少年。
高松も横島と同じように此処に取り込まれた人間の一人らしい。
そして話によるとさらに沢山の仲間がいるそうだ。
「あ、彼が新しいクラスメイト?」
「一緒にこの学園をより良い場所にして行こう」
横島は他の教室に案内され、久しぶりの新入生だと歓迎されえる。
そして空いている席に座らされ、愛子が教壇に立つ。
「それでは第11025回ホームルームを始めます」
そう言って始まる自己紹介、なんだかなぁと苦笑する横島。
「なあ、やっぱ外に出る方法は見つかってないのか?」
「横島クン、質問がある場合は手を上げてね。
質問の答えはその通りよ。見つかってたらとっくに外に出てるわ」
其れはそうだろう。好き好んで妖怪のお腹の中でずっと過ごすなんて普通はしたくない。
だが出口は見つからず、愛子は32年間此処に閉じ込められていると言う。
横島は其れを聞いて、成るほどと頷いておいた。そしてちょっと思案顔をして、まあいいかと席に着いた。
「何っ! 机が無いだと!」
「そんなっ、ついさっきまででは確かに此処に…」
教室に案内されたキイとおキヌちゃんだったが、肝心の机がなくなっていた。
「どうやら自分が来たことに気付いて隠れちゃったみたいだね」
キイはかくれんぼの鬼は得意だぞと何故か準備体操を始める。
そんなキイを教室の出入り口から見ているのは横島のクラスメイト達。
「えっ、あの子が横島クンの上司なの?」
「まだ子供じゃねぇか、GSってあんな子供でもプロになれるんだな」
「外国人かな?」
キイはその声が聞こえてそっちを向く。そして殺到している生徒達を見てきょとんとした顔で首をかしげた。
「キャー、可愛い〜」
「こんな弟欲しいわ〜」
「ねぇ、一緒にクッキー食べない?」
其れを見て喜色満面でキイに集まる女子生徒たち。
その後ろの方でちやほやされるキイを見て悔しがる男子生徒たち。
「ん〜、皆今は除霊中で危ないから下がっててね〜」
キイがそんなことを言うんだけど、やはり外見の所為か殆ど子供がごっこをしているようにしか見えなくてあまり効果が無かった。
その時、キイは霊感に何か引っかかり天井を見上げる。
其処には引き出しの中に光る二つの目がある妖怪机が天井に張り付いていた。
「おキヌちゃん皆を退避させて!」
「了解です!」
おキヌちゃんが返事をして瞬間、妖怪机から舌のようが出てきてキイを捕まえようとする。
だがキイはそれを軽くかわして、その舌を素手で引っつかんで、
「おりゃっ!」
妖怪机を床に引き摺り落とした。妖怪机はシタンと着地するが、その瞬間床に円形に紋様が浮かび上がり、妖怪机を閉じ込めた。
「はい、いっちょ上がりと」
いつの間に仕掛けた罠を発動させ、キイは手をパンパンと払う。
其れを見ていた生徒達は流石プロと感心していた。
「それじゃあおキヌちゃん、ちょっくら忠っち探してくるね」
「はい、いってらっしゃ〜い」
おキヌちゃんに見送られ、キイは結界の中に閉じ込めた妖怪机の引き出しに手をかけて潜り込んでいった。
「やっほー!」
キイは行き成り教壇の手前に現れた。そして何故か服装がいつの間にかスーツ姿になっている。
「キイ兄!」
横島ががたんと席から立ち上がり、キイの元に向かう。
「横島クン、この子と知り合いなの?」
「ああ、俺のバイト先の上司。因みにこう見えても20歳だ」
『嘘っ!』とクラス一同驚愕する。やはり人目でキイを成人男性として見れる人はいないようだ。
ひとしきり驚いたところで、今度は全員の顔がパアァッと明るくなった。
「それじゃあ先生ね! ついにこの学校にも先生が来たんだわ!」
「しかも今流行の子供先生か! これは萌えてくるな!」
「先生に私達が色々と教えてあげるのね!」
一部不穏当な台詞が混じりながらも先生として祭り上げられるキイは、しばし考えてポンッと手を打つ。
「は〜い、皆〜席についてね〜。授業を始めるよ〜」
わ〜っと急いで席についていく生徒達。
「ちょっと待てキイ兄! 何考えてんだ!」
それに横島がこの状況をどうにかしないのかと突っ込む。
だがキイはそんな横島を何処からか取り出した出席簿の角で強打した。
その懐かしいような破壊力抜群の攻撃に横島は頭を押さえて蹲る。
「先生と呼びなさい横島クン」
すっかり教師気取りのキイは近くにいた生徒に横島を席に運ばせると、教壇に立つ。
「は〜い授業を始める前に一つ話しておくことがあります。自分の考えによると実はこのクラスの中に此処を作った妖怪がいます」
其処まで聞いて横島は何か対策が合っての事なのかと感心した様子でキイを見る。
やはりキイもやるときはやるということかと任せておこうと思ったのだが…
「まあ、そんな事はどうでもいいので授業に入りましょ〜」
ズルッとこける生徒一同。横島はガバッと起き上がり何だ其れはと突っ込むがキイの方は一向に取り合わなかった。
そして教科書を取り出し授業を開始した。
―数学―
「はいっ、それじゃあ此れ分かる人?」
キイが尋ねるが誰も手を上げない。全員唸るように考えているが答えが分からないようだ。
「もうっ、みんな分からないの? しょうがないな〜」
「って、分かるか! なんじゃそのフェルマーの最終定理って!」
有名な数学者達が何人も挑戦して、約四百年近くに渡ってやっと証明された超難しい定理のことだ。
此れを高校生に解けなんて普通に無理である。
―外国語―
「それじゃあ皆此れを訳してね」
そう言ってキイが書いていくのは見たことも無い象形文字。
勿論の事誰も読めない。
「先生、それは何語なんですか?」
一人の生徒が手を上げて尋ねる。
「これはエジプトで発見された古文書に書かれている文字でね。もし読めたら歴史的に大きな発見になるよ」
考古学者でも読めないような文字を生徒に教えるなよと横島が心の中で突っ込む。
「因みに此れの意味は『今日はお供と狩りに出かけました。大好きなウェジュと一緒で心が躍りっぱなしです。今日はとてもよい一日でした』と書かれている」
「って、読めるのかよ! しかも内容日記じゃん!」
横島の突っ込みに、キイは更にその古文書を読む。
内容はやはり聞くほうが恥ずかしくなるような日記ばかりだった。
「『昨夜何とウェジュと契りを交わしました! ウェジュったら私の…』」
「先生! それ以上はマズイと思います!」
愛子が顔を真っ赤にしてキイの朗読を遮った。今までの内容で赤面したのか、それとも今の内容で一気に赤くなったのか…
その後キイは半数の生徒から『契り』の意味について聞かれたが、横島と愛子が知ってるようなのでそっちから聞くようにと流された。
休み時間になった瞬間、生徒が二人に殺到して『契り』と言う言葉を連発する。
愛子は赤面して俯き、横島は謀ったなとキイを恨めしそうな顔で見ていた。
―美術―
「今日の描くお題はズバリ『セミヌード』ね。忠っち服脱いで」
「俺が脱ぐのかよ! てか嫌に決まってるだろうが!」
いきなりアホなことを言うキイに横島が反論する。
だが、仕方ないとキイが指を鳴らすと何人かの生徒が横島の両手両足を押さえ込んだ。
「ゴメンね〜、やらなきゃ先生授業止めちゃうって言うから…」
「横島クン、青春のために我慢してね!」
そして何故か女子が嬉々として横島の服を脱がせにかかった。
口では謝っているがその顔には好機と期待の色が篭っている。
因みに男子の方は自分じゃなくてよかったとハンカチを目に当てたり振ったりして横島が脱がされるのを生暖かい目で見守っていた。
「わっ、横島クンって筋肉ついてるんだね」
「すっごい着やせしてるから全然分からなかった」
「ああん、触らんといて! 其処は敏感なんやー!」
そして嬉しいやら恥ずかしいやら、嫌がっているようで女子に囲まれてつい頬がにやけてしまう横島だった。
「はい、流石にパンツは残しておこうか」
制服にシャツまで脱がされて、ついに最後の砦に手が伸びようとしたところでキイのストップがかかった。
男子の方は見苦しいものを見ないで助かると言った表情だが、女子の方は何故だか不満顔。
横島のほうは危うく見せるのに快感を覚えるところで、
「俺は露出狂にはならん! 変態じゃないんやーー!」
壁に頭を打ちつけて自分を取り戻そうとしていた。
―科学―
「はい、それじゃあ皆材料は行き渡りましたね?」
科学室に移動して、キイは色々と液体やら道具やらを配った。
「先生、此れで何の実験をするんですか?」
目の前にあるものは大体一般でも手に入りそうなものばかりだ。
「はい、今日は皆に家庭でも出来る簡単な『簡易時限爆弾』を作ってもらおうと思います」
「待てっ! 何だかスッゴイ危険な気がするぞソレ!」
生徒達をテロ予備軍にでもする気かと突っ込む横島。
けどキイはソレを無視して、一つの十センチ四方の箱を取り出す。
「はい、此れが完成品です。試しに爆発させて見ましょう」
そう言ってキイは、その場でタイマーのスイッチを入れた。
そしてソレを横島に投げてよこす。時計のカウントは残り…
「じゅ、十秒ぅぅーーー!!」
一斉に教室の隅に避難する生徒達。
「横島クンこっちよ!」
横島がそちらを向くと愛子が開いた窓を指差している。横島は力の限りその窓から外に向かって爆弾を放り投げた。
そしてボンッと爆発して半径数十センチの火の玉になる爆弾。
「はい、威力は見ての通りですので人がいる場所では絶対に爆発させちゃ駄目だよ」
「言うことはそれだけかコラー!」
キイの頬に渾身の左ストレートを叩き込む横島。
「校内暴力! 社会の乱れはこんなところにもぉぉーー!」
訳の分からんことを言いながら倒れこむキイだった。
そしてあらかたの授業をやってやってきた放課後…
「ふうっ、今日もいい先生でいられたかな?」
「ああ、いい反面教師だったよキイ兄」
汗を拭う仕草をするキイに、横島がじと目で言い放った。
「あれ? 忠っちまだ意識支配されてなかったんだ?」
「当たり前だろが! これでもGS助手だぞ!」
そうは言ってもここは妖怪の領域なのだプロのGSでも長時間いれば洗脳されてしまうだろう。
そのへんは無駄に自我が強い横島はケロリとしたように平気だった。
「それで、此処から出る手立てはちゃんと考えてるのか?」
「ん? 何にも」
しばし沈黙が流れる…
「アホかー! それじゃあ俺達一生この学校で生徒と教師をやり続けるのかよ!」
「ん〜、教師役もは結構堪能したし…そろそろいいかな?」
そういいながらキイは、懐から丸っこいピンがついている物騒なものを取り出した。
「キイ兄…それ焼夷手榴弾だよな?」
嫌な汗が吹き出てくるのを感じながら、横島はそれで何をするつもりなのかを尋ねる。
キイは、悪人の顔になってニヤリと笑った。
「ほ〜れ、燃えろ燃えろー!!」
「だああぁぁぁぁ! 危ねえぇぇぇーー!!」
行き成り学校中に焼夷手榴弾をばら撒きまくるキイに、横島はソレを止めようと必死で追いかけるがキイはひらりひらりとかわしては投げていく。
「な、何してるんですか先生!」
「学校を燃やすなんて何を考えてるんですか!」
どっから現れたのか生徒達がキイと横島のもとに駆けつける。
「何って、妖怪退治だよ。この学校は妖怪そのものだからここが崩れれば妖怪も死んじゃうよ」
「けど、このままじゃあ私たちまで一緒に焼け死んじゃうわ!」
「それは無いんじゃない?」
そう言いながらキイは自分の走ってきた道を指す。
すると其処にはまるで何事も無かったかのようにちょっと古びた廊下があった。
さっきまで燃え上がっていたのが嘘のようである。
「妖怪が慌てて消したみたいだね。けど、これで力も結構使っちゃってるから…」
キイは懐からナイフを取り出し、徐に壁を切りつけた。
するとそこには、パックリと異次元の扉が開いた。
「ほら、こうやって外と繋ぐのも簡単だ。これで皆帰れるよ」
そう言ってキイはにっこりと笑みを生徒達に向けた。
帰れると聞いて生徒達は、ハッと正気に戻った。
「そ、そんな…」
そして愛子が急にへたりとその場で座り込んだ。
そこに、キイがすっと近寄って自分も身をかがめる。
「愛子ちゃん、君が妖怪だったんだね?」
「……はい…」
素直に認める愛子に、他の生徒達が動揺している。
一番の古株と言う時点で怪しいはずだが、それでも学級委員として優しかった愛子が妖怪と言うのには少なからずショックが合ったのだろう。
「私…机が変化した妖怪で…、学校に憧れてたんです〜〜」
長年学校で使われ続けた備品などに魂が宿り変化するのは結構よくあることらしい。
愛子は涙をボロボロと流しながらやっぱり妖怪じゃあ青春は味わえないのねと号泣している。
「あ〜、そんなこと無いだろ」
そこで横島が愛子に声をかけた。愛子は『えっ?』と言う顔で横島の方を見る。
「まあ、キイ兄の所為で普通じゃない学校になったが結構楽しかったろ?
騙しているとか負い目も合っただろうがそのときを楽しんでいたんならそれも青春じゃねぇのか? なあ、皆?」
横島が後ろの生徒達に振ると、皆うんうんと涙を流しながら頷いている。
そしてキイが立ち上がり愛子にすっと手を差し伸べる。
「間違いを犯した生徒を皆の力で正す! そしてさらに深まる友情の輪! これぞまさに青春だよね?」
「せ、先生ぇぇーー! ごめんなさーい!」
愛子がキイに抱きつき、そこに俺達も行くぞと皆がキイに飛びついていく。
そしてしばしもみくちゃにした後…
「よし! 皆胴上げだ!!」
誰が言ったか皆は其れに反応してキイを持ち上げる。
「「「わーっしょい! わーっしょい!!」」」
そしてキイは中に投げ上げられる。
横島は皆ノリがいいな〜とちょっと離れて見守っていた。
「はっはっは、皆止せってそんなことすると…」
その時、誰かがちょっとタイミングがずれたのかキイの体がちょっと斜めに飛ぶ。運悪く其処は女子ばかりで、そのまま前に押しやれず更に後ろへ、そして後ろには謀ったように開いている窓がある因みに此処は三階だ…
「「「「「あっ…!」」」」」
「ひゃっほうなんか落ち続けるよぉぉぉぉぉ〜………」
キイの声がだんだんと遠ざかっていき…何かがつぶれる音がした。
「キイ兄ーーー!!」
「「「「「先生ーーー!!」」」」」
急いで校舎を出てキイの元へとと走り出す横島と生徒達。
そして皆が見たものは…
<グロテスクかつ醜悪な情景のため描写できません>
ってな感じになっていた。
「うわぁっ! スプラッター!」
「ひ、酷いです…」
「うげっ、俺暫く肉食べられない…」
「ふえぇぇん、こ、怖いよーー!」
その時、キイの体がピクリと動き出した。
「あ、悪の住人達から生徒達を守るため地獄の其処から帰還してきました…」
「正義の使者にはならんでいいからしっかりしろキイ兄ー!!」
横島は再び逝っちゃいそうなキイを揺さぶる。
その度血液がダクダクと溢れているのだが、明らかに致死量に達している。
そしてちょうど終業のチャイムが鳴り響いた。
やはりキイが教師になったクラスは最後まで騒がしいのであった。
シュンッと横島とキイが元の世界へと返ってきた。
それに気付いたおキヌちゃんが近寄ってくる。
「あ、お帰りな……き、キャー! キイさんが血まみれですよー!」
「いや〜、エキサイティングでスリリングな体験をしてきたよ」
参った参ったと頭をかきながらキイは余裕で笑っている。
キイは外傷完全に無くなっていて完全復活しているが、横島はもうそんなこと慣れっこなので全然気にしてなかった。
それから、皆に謝罪した愛子は備品としてでいいので授業に出してくれと頼んでいる。
そしてそれに感動した教師陣、こーゆー生徒が欲しかったんだと涙ながらに愛子を生徒として受け入れるのだった。
「あっ、今回の依頼料は忠っちの給料から引いとくからね?」
「何でやねん!」
「だって忠っちが自分を呼べって言ったんでしょ? つまり依頼者は忠っちじゃん」
「ぎゃふんっ!?」
こうして横島の給料が暫くの間大幅にカットされるのだった。
〜おまけ〜
愛子が生徒になった次の日の昼休み…
「忠っち〜、忘れた弁当届けに来たよ〜」
キイが横島の弁当を届けにやってきた。
「おっ、サンキュー」
横島が其れを受け取りパカッと中を開くと、何故かおかずが消失してご飯と梅干だけのプチ日の丸弁当になっていた。
「途中でお腹が空いたから食べちゃった、てへ♪」
「可愛こぶってんじゃねー!」
横島の鋭い突っ込みが光る。
「横島ってボケより突っ込みのほうがうまいんじゃないか?」
「自分が鍛えてるからね」
生徒の言葉にキイが答える。
「う、うおおおぉぉぉ! 俺の唯一のボケる場の学校についにキイ兄の魔の手が!?
俺の聖地が! エルサレムが支配されるぅぅ! 聖戦だ、ジハードじゃー!」
勇猛果敢に向かっていく横島だったが、結局クラスの皆からは『ボケ』もするが『突っ込み』タイプとして認識を改められてしまった。
しくしくと泣く横島に、愛子がポンッと手を肩に置く。
「大丈夫よ横島クン。私が頑張って突っ込み役になるから」
そう意気込んだ様子で横島を慰める愛子に横島は、
「あ、愛子ぉぉぉぉぉ!!」
「きゃあっ! 横島クン駄目よ、皆が見ているわ! でもこれも青春なのかも…」
ガバッと飛びついた。愛子の方は口で嫌がりつつも自分式青春ワールドに浸って至福の笑みを浮かべている。
そしてキイはその様子をしっかりカメラに収めている。
こうして『忠っちの成長記録〜17歳・恋のからさわぎ編〜』の空き容量がさらに少なくなった。
あとがき
むむっ、ここで最初に使う言葉がなくなってきた…
兎に角レス返しします!
>八尺瓊の鴉様
読んでくださってありがとうございます。
これからも頑張って書いていきます!
>アビゲイルホームラン(以下省略…
いや迷ったんですよね。けどおはようマイ・マザーのほうだとモーニングスターなので潰れちゃうかなと思ってこっちにしました。
>黒覆面(赤)様
>時空消滅内服液のときに助けてくれた何者かなのかもしれませんが
一応そのつもりです。正体のほうはまだ秘密で(笑)
戦闘のほうは自信なかったのですが楽しめてもらえて嬉しい限りです。
さて、今回は机妖怪愛子ちゃんの登場です。
彼女には頑張って横島クンの突っ込み役になって欲しいけど…ちょっと役不足かな?(笑)
今回はちょっと色恋沙汰をネタにしました。するとスラスラと書けるわ…楽しんでいただけると嬉しいです。
次回はネズミか…ちょっと難しいけど頑張ってみます。
短いですがこの辺で失礼致します…