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▽レス始

「あの日 あの時 あの場所で!! 其之四 (GS)」

匿名奇坊 (2005-11-10 17:48/2005-11-15 18:23)
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 横島が妙神山に運び込まれて二日目の夜、
ずっと昏睡状態にあった横島は、ゆっくりとその眼を見開いた。 

 「横島さんっ?気が付いたんですねっ!?」


 一睡もせず彼の看病をしていた小竜姫が枕元に顔を寄せる。

 「心配…掛けちゃった、ス、ね、」


 辛うじて聞き取れる弱々しい声で横島が応じる。

 「お、俺 小竜姫 様が槍を突き付け られてるのを見て… 」


 重く鈍く痛む頭に顔をしかめた横島は、
寝床から起き上がろうとして、小竜姫に押しとどめられる。

 「未だ動けるような状態じゃ無いんです。…ジッとしていて下さい。」


 小竜姫は水差しから冷たい水を湯飲みに注ぎ、
黙り込んでいる横島に差し出した。

 「………」 


 受け取った湯飲みに口を付け、コクコクと水を干す。

 「ふう…」


 湯飲みをおいて息を付く。

 「…少しは落ち着きましたか?」


 「・・・・・・」


 俯いた横島がポツリと尋ねる、

 「心眼は・・もう、居ないんですよね…?」


 「ッッ…!」


 いますこし隠しておきたい、
そう思っていた事をズバリ言い当てられ、
言葉を無くす小竜姫。

 内心の動揺を押し隠して問いを返す、

 「‥‥解って‥いたんですか?」


 「何となく、ですけど。」


 横島が力無く項垂れる。

 「あいつ、闘ってて、正気を無くしかけてた俺に、ずっと呼び掛け続けてたんスよ‥それでなんとか正気のカケラくらいは残ってて、‥‥」


 「眼も開けらんないし、耳も、聴こえはするんだけど、頭がガンガンして意味が入ってこなくて‥‥でも、」


 「でも、冷えきった体の中に、あいつが流れ込んでくるのは、ハッキリと解りました。」


 ポツリポツリと告白する横島の姿に、
“心眼の願いを聞いてやれなかった”という想いと“これで良かったのだ”という想いが複雑にからみ合い、
小竜姫はただ、横島の頭を撫でてやる事しか出来なかった。

 「うぐっ…くぁぁ」


 小さく嗚咽を漏らす横島の頭を抱き締める、 


 妙神山修行場の一角で、満点の星空の下、その泣き声は、静かに長く響いていた…


あの日 あの時 あの場所で!!
        其の四 妙神山の平和


 「優しい人‥‥ですね‥‥」


 (‥分かってた事ですけど、) 


 泣き疲れて眠ってしまった横島の頭を撫でながら、小竜姫は慈愛の籠った瞳で横島を見つめ、 独白する。


 長い静寂の後で、彼女は懐から、小さな輝石を取り出した。

  


 心眼は、小竜姫の竜気によって自我を与えられ、幾日も掛けて少しづつ、その霊気構成を横島の霊気へと置き換えていった。


 この輝石は、心眼の中に僅かに残った、小竜姫の竜気の欠片。

 あの日、心眼が仮染めの命を、それでも熱く燃やして、
消えかかった蝋燭に、 再び命の炎を灯した、その後に残ったモノ。


 心眼の、想いの欠片、


 小竜姫はそれを口に含むと、
横島の額に顔を寄せ、ゆっくりと口付けた…

 


 美神除霊事務所

 GS試験から一週間、
おキヌは事務所に訪れた小竜姫と話し込んでいた。

 「それで、横島さんの具合はどうなんですか?」

 心配そうにおキヌが尋ねる、
妙神山には電話などの文明の利器が無いので、
今の今まで何の音沙汰も無く、また連絡もとれなかった為、
気が気では無かったのだ。

 美神の方は“アレはそうそう簡単にくたばるタマじゃ無いでしょ”
といった具合に楽観的だったが。

 妙神山がもう少し近くにあったら
(フヨフヨと)飛んで行くのに、と何度思ったか、

 「ええ、経過は順調ですよ、もう少しすれば自力で立ち上がる事もできるようになるでしょう。」

 小竜姫がにこやかに応える。

 おキヌも一応は安心したようだ。

 「完全回復にはどれくらい掛かるの?」

 横から美神も話に入ってくる。

 サイキックスケイルを覚えてからの横島は囮としては中々優秀だし、
(小竜姫は、彼のこの扱いが内心ちょっと不満なのだが、)
 様々な除霊具を使いこなす事を武器の一つにしている美神にとって、
荷物持ちが居ないのは、なんだかんだで結構辛いのだった。

 (おキヌちゃんじゃ小さめのボストンが精々だったし…)

 …幽霊(しかも女の子)に荷物持ちさせる女、美神令子。

 「体の方は、幸い大きな外傷もありませんし、…そうですね…二週間もあれば完全に復調するでしょう。」

 「無茶な戦闘をしたせいで2、3日は筋肉痛が酷かったみたいですけど、肉離れや疲労骨折も起こしていませんし、」

 「げっ」 

 そんなに?と言いたげな美神に追い打ちを掛ける小竜姫、

 「ただ…今後あのような霊力の暴走を起こすと命に関わりますし、それを起こさない為にも至急霊力の制御を身に付けて貰わなければいけませんから、今日から数えて…大急ぎで一ヶ月、といった所でしょうか、」

 「うっ」


 文句を言いたいが、前回暴走した時の顛末を一部始終見ているので強く出られない美神、

 「そんな不満そうな顔しないで下さい、」

 小竜姫が困ったような顔をする。

 「本来、こういった基本的な物程時間が掛かって、なおかつ掛けるべきだって事くらい、 わからない美神さんじゃ無いでしょう?」

 「鼻」


 不承不承と云った面持ちで頷く美神。
確かに、霊能ほど中途半端な気持ちで首を突っ込むとイタい目にあう分野は珍しい。

 「そもそも一ヶ月、復調する迄はごく簡単な物しか出来ませんから実質二週間、というのは、暴走、という可能性を考慮して特別な方法を用いるからこその、破格の短期間なんですよ?」


 (本当なら、一年二年は妙神山に籠って貰いたいくらいです。)


 それに…

 小竜姫は一瞬言い淀んだものの、
彼らには知っておいて貰うべきだと判断して口を開く。

 「それに…最近やっと、心眼のコトに正面から向き合えるようになって、
ずっと沈みがちだったのが、持ち直して来た所ですし…」

 小竜姫の発言に美神が耳聡く反応する。

 「話したの? …心眼のコト、」

 美神の言葉に小竜姫の表情が曇る。

 「もともと、何となくは気付いてたみたいで、」


 若干、苦い顔をした後、

 「でも、これで良いんです。」


 きっぱりと言い切った。

 「何事も、目を逸らす事では解決しませんし、成長もあり得ません。
辛い事、悲しい事を乗り越えてこそ、人は成長するのです。」

 にわかに武神の顔をした小竜姫の言葉に、美神達も頷く、
小竜姫の言葉には、幾百もの年月を生きた、武神の持つ重みが滲んでいた。

 と、小竜姫が壁に掛けた時計に目をやって腰をあげた。

 「そろそろお暇しますね、」

 「「へっ?」」

 美神とおキヌが二人して時計を見る、
まだ五時前だ、小学生じゃあるまいし、慌てて帰る程の時間でも無いだろう。

 「何か用事でもあるんですか?」

 おキヌが尋ねる、

 「用事とゆうか…」

 先ほど迄の武神の顔は鳴りを潜め、“別の顔”が垣間見える、

 「お夕飯迄には帰らないと…横島さんも待ってますし…」


  ピシッッ


 音をたてて事務所の空気が凍り付くが、小竜姫は全く気が付かない。

 「それじゃあ、失礼しますね」


 そういって暇を告げると、いそいそと事務所を後にした。


 「「‥‥‥‥」」


 天使が通り過ぎる。

 しばらく固まったままだった美神が、おキヌに声を掛ける。


 「‥今、小竜姫様、妙に活き活きして無かった…?」

 美神はどことなく不機嫌そうだ。

 「私も…何となくそう思います…」

 おキヌの口元が軽く引きつっている。 


 「あの…今、妙神山って、横島さんと小竜姫様しか居ませんよね?」

 美神の顔が完全に引きつる。

 「かっ、考え過ぎよ、おキヌちゃん!小竜姫様って強いし、神様だし、それに…… ほらっ、鬼門だって居るしっ!」

 「そ、 そうですよね…」


 「「ハ、ハハハハ」」


 奇妙に乾いた笑いが、美神除霊事務所に木霊した。


 小竜姫が美神除霊事務所を訪れてから二週間、

回復した横島は銭湯そのもの、といった感じの脱衣場で修行着に着替えていた。

 この二週間の内、覗きがばれて小竜姫に折檻されたり、
遊びに来た天龍童子に振り回されてヘロヘロになったりしたが、
(角が生え変わって成人した為、以前よりは自由に外出できるのだ)
横島は持ち前の驚異的な回復力を発揮して完全復活していた。


 「これより、霊力制御を身に付ける為の修行を行います。」


 小竜姫が厳粛な面持ちで宣言する。

 「本当は、こういった基本的な事は長い時間を掛けて少しづつ修得するものなのですが… 貴方の場合は霊力を暴走させてしまった、という前例もありますし、命に関わる問題なので、特別な方法を使って短期間の内に修得して貰います。」

 そう言って小竜姫は、シャドウを喚び出す物よりひとまわり大きく、
より複雑な法円の中心に横島を立たせる。

 法円の中心には何か儀式的な意味でもあるのか、横島の腰程の高さの、黒く艶やかな石が据えられてあった。
(知識に有る物の中では黒曜石に近いが、それにしては大きすぎた。)

 「其処の石の腰掛けて、目を閉じていて下さい。」

 素直に言われたようにして、
小竜姫が何か術を使うらしき気配を感じていると、


 “がくんっ”


 不意にエレベーターに乗った時の様な、重力の喪失感を感じる、


 “ズルッ”


 「うわぁ」

 腰掛けていた“椅子”からずり落ち、目を開けた横島を待っていたのは、

 「ふぅぇ〜」


 見渡す限りの平坦な地面に、妙神山の居住区がポツンと立っている。
という、シュール極まりない光景だった。

 (此処、地球上じゃ無いぞ、 地平線に丸みが無い。)

 小竜姫が口を開く、

 「此処は、加速空間の中です。 本来は私の御師匠様が使う術で、魂を何万倍にも加速させ、その負荷を解放した際に潜在能力を引き出させる、という物なのですが… 私の能力では、精々7倍程度にしか加速させる事が出来無いので、そんな効果は有りません。」


 その話を聞いた横島は、

 (小竜姫様の師匠って、一体どんな化けモンだよ、)

 と呆然としていた。

 「此処でみっちり二週間修行して貰います。
私達の体感時間でいうと‥‥‥だいたい三ヶ月くらいですね。」


 小竜姫はにっこりと微笑んだ。


 一方その頃…

 「小竜姫様〜っ! この扱いはあんまりですぅ!」

 右の鬼門の鼻先には、


 “今月13日から27日迄の間、一身上の都合でお休みします” 

                   “妙神山管理人 ・ 小竜姫”

と書かれた紙が、ひらひらと風に吹かれていた。


               …to be continued!!


あとがき
 ああ!不味いっ!妙神山編で使おう、
と思ってたネタを前編で使い果たしてしまいましたっ!
(仁成様の作品の心眼の最期を見て)
テンぱってます。奇坊でございます。
完全に喰われちゃいました。脱帽です。スゲ−ッッ!
…もういっそ復活させちゃおっかな、心眼…(冗談)
 前回、小竜姫様との絡みを期待されてた人(居るのかな?)
の希望を力一杯スカしてしまったので,結構急いでUPします。
…次の修行編、説明臭くなりそうでちょっと怖いですが。

 〜アァ〜イシヲナゲナイデ〜

 でわでわ、


◇しらたま様
 前回のカオスメインの話、“断章”は、
でっち上げた“運命の文岐路で”があまりに短かったので苦肉の策として
お蔵入りしていた物を引っぱりだして来た物なんです。
 好きなんですよカオス。いじりにくいんであんまり出せませんが。
だから気に入って頂けたなら嬉しいです。

◇なまけもの様
 お叱りのお言葉、慎んでお受けします(反省)
何度も読み返して頂いたそうで、申しわけ無いっ、
これからも精進します。

 さて御指摘について、流れはそう理解して頂いて問題有りません。

>其之弐、其之参、については通しナンバーと御理解頂けたらと、
 SideB>其之弐の順番で読んでしまうとイマイチ意味が分かり辛いし、
SideBの2弾、3弾は前後の無印話とかぶる所の無い独立したSSの予定ですから
時系列がハッキリと分かる表記にしたかったんです。

>黒横君の今後、基本的に彼はアシュタロス編を見据えて行動します。
 具体的には(すぎるとネタバレですよね…)GS陣営の成長を促したり、
プロセッサで復活し、アシュに忠誠を誓うのを阻止する為に妖怪をフォローしたりとか。今思い付いた事ですが、わざと霊障を起こして現体勢の問題点を浮き彫りにするってのもアリかも知れません。
 ただ、死津喪比女とか、露骨に命が危ない時は、
(たとえ本文中に居なくても)行間で見守ってるハズです。

◇ジェネ様
 イマイチ設定に自信の持てない奇坊ですので、
〜納得させる〜と言って貰えると救われます(謝謝!)

 黒君は↑の他にアシュタロス編にて大暴れする予定ですが、  
其の詳細はトップシークレットなので割愛(笑)
 期待に応えられる様に頑張ります。

◇孔明様
 最初に一発。
ウチのPCは孔明様の名前を覚えやがりませんッ何故だっ!
 それはさておき(流して下さい)
黒君は1、2話挟んで再登場です。
 一番苦労するのがなんとか小竜姫様引っぱり出す事なんです。
アシュ編は最初から決めてたんで良いんですけど…

 あ、あともう一発。アシュタロスを未だに
唖首多ロスと変換しおるとです、このPC、もう嫌っ。

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