<デミアン>
「待ってろ、ルシオラ! アシュタロスの野郎に一発カマしてやるぜっ!」
赤く輝く東京タワーから降り立った男、横島忠夫。私が憎む人間の一人。
「そうはいかないよ」
それに立ち塞がるのは、ボスのコスモプロセッサによってパリで蘇り、目の前の男を殺すために日本にまで来た私。
「久しぶりだな、横島忠夫……だったかな?」
驚愕に彩られた奴の顔を見て、心の奥底で少し満足する。だが、まだ足りない。奴をこの手で葬り去るまでは。
「お、お前は……デミアン!? な、なんで」
「さあな。だが蘇った以上は横島忠夫……貴様を殺す!」
咆哮する私。だが私はまだこの時奴を侮っていたのだろう。前回負けたのはあくまで相手が複数の上ワルキューレやジークがいたからだと。奴が奮闘したことには違いないが、一対一ならば遅れは取らないと。
「なんでやー! アシュタロスといいメドーサといい、どうして俺は敵にそんなに恨み買うんやー! だいたいあの時だって止めを刺したのは美神さんやないかー!」
「黙れ! 時給255円の人間に敗れたなど魔族の恥だ! ここでその汚名を晴らし「戦術的撤退!」てくれ…るって逃げるなぁぁぁぁぁぁ!」
私が台詞を言い終える前に逃げ出す横島忠夫。なぜ俺はこんな相手に……。そう思ったのが失敗だった。
「相手は美神さんや雪乃条、ワルキューレたちと力を合わしてやっとこさ倒した敵なんだぞ! お前なんかと戦っとったら命がいくつあっても足りるか! ここは逃げあるのみ!」
本当に全力で逃げる奴の後を、もちろん慌てて追う。
「ま、待ちやがれ!」
私は基本的には本体をやられない限り不死身だ。故に戦いでは多くの場合そのタフさとパワーで押し切る形が多い。総合力では私の方が上だが、戦い方ではメドゥーサが上だ。そのメドゥーサを(助けがあったとはいえ)倒した横島忠夫を、私は舐めていた。
奴は突如くるりと振り返ると、私の目の前で両手を叩いた。
「サイキック・猫騙し!」
「ぐっ!? だが、こんなもので……」
私の目が眩んだその一瞬の隙を突いて奴は文珠を作り出し、何か文字を込めると私に押し当てた。
『滅』
「メドーサも一撃で仕留めた再生怪人用の必殺技だ! 消滅しやがれ!」
私はまたも同じ人間に敗れたのだ。
妙神山のただおくん〜番外編 デミアン回想する〜
「ぐああああああああああ!」
私の身体が悲鳴を上げながら、ぼろぼろに崩れていく。想像以上に奴の霊力が上がっていた。以前の数倍のパワーの文珠は私の身体の霊気構造を容易く破壊していった。このままでは本体にまで文珠の効果が及んでしまうため、仕方なく私は本体と身体を切り離した。だが本体を切り離しても身体と長い間離れていれば私はいずれ死滅してしまう。よって私はなにか寄り代となるものを探さなければならない。
その時の私は幸運だと思った。なぜなら横島忠夫は私と戦う直前にルシオラという魔族によって霊気構造の補間を行っており、魂の癒着が非常に不安定になっていたからだ。私は本体の一部を自分の身体の爆発に上手く紛れさせて奴の内部に入ることに潜入した。
「ぐえ! なんか口の中に入った!? ぺっぺっ。……ってそんな場合じゃない。待ってて下さいよ、美神さん、それにルシオラ! これで美神さんを助ければきっと俺を見直すはず! これで俺はハーレムじゃー! 両手に花じゃー!」
私を内部に抱えたことに気付かないまま、奴は雄たけびをあげながら走り去っていく。
これでとりあえずは助かったと思った。
だが……。
「せっかくヨコシマと二人っきりなのに、邪魔するんじゃないわよ!」
そこには蛍の先客がいた。ルシオラは力のほとんど残っていない私をしばき倒すと、意識を横島の方へと向けた。横島がボスと戦い始めたらしい。ほとんど力のない私などもはや眼中にないのだろう。おかげで私はぎりぎりのところで消滅することを免れた。
やがて戦いは進み、横島は魂の結晶を破壊、その後ボスの作った究極の魔体の殲滅にも成功した。その間私は奴の体内で少しずつ力を戻していき、復活するチャンスを待った。力を多少取り戻したとはいえ、神魔族や腕利きのGSがいる中では復活してもあっさり殺されてしまうだろうから。そしてチャンスが訪れた。美神美知恵が自分の時代に戻るためのタイムスリップのエネルギーを得るために、横島は『雷』の文珠を作り出した。私は横島の作る文珠に上手く自分を紛れ込ませ、誰にも気付かれることなく脱出することに成功。そして美神美知恵と共に過去へと遡った。特に深い考えがあったわけではなかった。
美神美知恵の時間移動に紛れ込んだ私は当然同じ時代に行くものと思われたが、時間移動には異物として認識されたのか、時間移動の途中で私は美神美知恵とはぐれてしまった。
「そして気付けば、私は横島忠夫が生まれた少し後の時代に来ていたのだ」
「そうだったのかい。あんたも中々な面白い人生を歩んできたんだねえ」
横にいるメドーサがくくっと笑った。私としては面白くないのだがな。
「過去に戻ったと気付いた私は、まずこの時代の私と会い、融合した。私の魔力はほとんど残っていなかったし、難しいことではなかった。そしてどうせなら歴史を変えてやろうと思った。だがボスに読ませてもらった多くの学術書を読むに、歴史というものはそう簡単に変えられないらしい。私が知る限り変えられるのはコスモプロセッサのみ。だからコスモプロセッサを破壊できる可能性を唯一持つ横島忠夫を殺せば、もしかしたら歴史が変えられるのではないかと思ったのだが……」
「だが?」
「なぜこうなるのだ!? 横島忠夫を中々殺せなかったのは修正力だからと納得するとして、ボスはなぜか『忠夫くん、フォウゥゥゥゥゥゥゥ!』とか叫んでいきなり宇宙改ざん計画を取りやめるし! 他の魔族に協力を仰ごうとしても『我らが萌え神に何を考えている!』とか言われて逆にボコされるし! その上、なんだあの小竜姫たちの強さは! どうしてたかが人界駐屯の神族の霊圧が時々究極の魔体並みになるんだ!」
私がやられた時も理不尽だったが、この世界はなんだ!? 理不尽にも程があるだろう!? どこでここまで歴史が変わってしまったんだ!?
「本当にあんたも大変だねえ……」
「くっ……お前だけだ、メドーサ。分かってくれるのは。だから頼む、なんとしても横島忠夫を殺してきてくれ! もう世界の行く末などどうでもいい、奴を殺せるならば!」
とにかく私のすることなすこと邪魔するあの男が憎い。もはや私の行動理由はそれだけだ。
本来なら私自ら奴を始末しに行きたいところだが、生憎今は魔界からあまり動くことはできない。私は今自分にある改造を施しているからだ。メドーサが横島忠夫を殺せたなら用はない改造だが、奴の悪運は強い。メドーサでも殺せないかもしれん。だから念のため最終兵器の改造を自分に施す。
「安心しな。今忠夫の通っている学校に人界でスカウトした人間を送り込んでいる。奴の行動は筒抜けさ。もうすぐ私自ら殺しにいってやるよ」
さすがメドーサだ! そこら辺で『萌え萌え』言っている魔族たちとは違うな。
頼んだぞ!
……あれ、そういえばなんで「忠夫」って呼んだんだ?
<メドーサ>
「ん、メールがきている。勘九朗からだね」
メールの中には奴が撮った様々な忠夫の写真が入っていた。それもどれも泣き顔や脅えた顔ばかり。
う〜ん、いいねえ。やはり忠夫は泣いたり脅えたりする顔が一番いいねえ。ゾクゾクするよ。このまま勘九朗にはもっと忠夫の写真を撮ってもらわないとねえ。ちょうどデミアンにも言われたし、そろそろ人界に行ってみるかい。そして忠夫を私自らいじめてあげて、そしてそのまま……
「くっくっく……楽しみだねえ、その日が! 邪魔はさせないよ小竜姫! 私が最初に忠夫を食べてあげるんだからねえ! この会員ナンバー0555、麗しの蛇姫がね!」
続く
あとがき
大変遅くなって申し訳ございません。一日おきになるって言ったのにそれすら当日から守れないって……しかも量少ないしorz。
今回はデミアンとメドーサ編。一応デミアンがどうやってここまで来たかを入れたのですが……多分矛盾点ばりばりだと思います。できればスルーしてくれると嬉しいですが、あまりにも酷かったら指摘してくださいね。
この後講義があるのでちょっとレス返しが出来ません。
黒覆面(赤)様、からっぽ様、D,様、きぼー様、もも様、オーベルシュタイン様、菊重様、ジェネ様、柳野雫様、シヴァやん様、ゆん様、拓坊様、狐枝様、神曲様、maisen様、義王様、レスありがとうございます。
一括りにしてしまって申し訳ございませんが、これでレス返しとさせてもらいます。
次回はタマモか雪之丞がメインの話を書こうかと思います。
ではこの辺で。
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