〜ナレーター視点〜
ブラドー島から帰ってきて暫く…
蒼河霊能相談所にて、おキヌちゃんが居間で包丁を研いでいた。
「うふ、うふふふふふふ」
包丁の刃を指でツーっと撫でながらおキヌちゃんが笑っている。
けど顔が全然笑ってなくて、しかも目が据わっているからかなり怖いものがある。
その様子を見ていた横島も冷や汗を流している。
「お、おキヌちゃん…それどうにかなんないの?」
「えっ? 私がどうかしましたか?」
どうやら包丁を研いでいる間に笑っていたのは無意識だったらしい。
やっぱり、幽霊だけ合っておキヌちゃんも普通じゃないんだなと横島は一歩引いてそれを見守っていた。
「あ〜、キイ兄はどっか出かけて帰ってこないし…」
横島は何か食べるものはないかと厨房に向かう。
そして、冷蔵庫を開けると…
「何でこんなところに刀が…」
冷蔵庫の中に刀が納められていた。
手に取ると良い具合にひんやりと冷やされている。
【ぐふ、ぐふふふふ…我を抜き放て少年】
そして行き成り横島の頭の中に声が響いてきた。
横島は、すぐさまこの刀が何かやばいものだと悟ったようだ。
急いで刀を冷蔵庫にしまおうとして、
【ああ! 待ってくれ! その中は嫌だ! 寒いのは嫌だー!】
それを聞いて横島がこけた。
まさか刀が寒いと言うとは思わなかったようだ。
【後生だ! もう寒いのは嫌なのだ! 段々と眠くなってきて意識が遠くなるのだ!!】
横島が冷蔵庫の中を見てみるとあたり一面に『冷却』と書かれている霊符が貼られている。
電気代節約のために貼っている霊符なのだが、それから放たれる冷気は妖怪の類にも効果があったらしい。
とりあえず冷蔵庫にしまうのは勘弁して、横島は『封』と書かれた霊符を一応貼って居間への机の上に刀を置いた。
「で、お前は一体なんなんだ?」
【我の名はシメサバ丸。千年の時を戦場で血を吸い続け、妖刀として名を馳せたのだ!】
「よし、危険っぽいから冷蔵庫行きな」
横島はそんな危険なものを出しておく訳にも行かずさっさと冷蔵庫へしまうべく腰を上げた。
【ああ! 待ってくれ! 実は千年間溜め込んだ邪気の方は先日蒼髪の除霊士に祓われてしまったのだ!】
どうやらキイはやることはやってあったらしい。
まあ、それならもう少し話を聞いてやろうと横島は上げた腰を下ろした。
【邪気は祓われたのだが、我は千年の時を過ごしたのだ。そうすれば魂が宿らぬはずが無いのだ】
「つまり、九十九神ってやつか…」
九十九神、また付喪神とも書かれる長い間愛着を持って使われたり、逆に蔑ろにされたりして物に魂が宿った妖怪等のことだ。
千年もの間使われ続けたりすれば、それは間違いなく九十九神へと変化するだろう。
「それで、何でまた冷蔵庫に?」
【実は…ここ二、三百年ほどは蔵にしまわれたり、変な部屋に飾られるだけで何も斬っておらぬのだ。
だから何か斬らせろと言ったら駄目と言われてあの中に…】
つまり、刀として欲求不満になってしまったわけだ。
だがだからといって人を斬るわけにもいかないし、街で持ち歩くだけでも即逮捕だ。
戦場でも今更刀など使う場所などないだろうし、はっきり言って使い所がない。
【この際人を斬らせろとは言わん! 何でもいいから斬らせてくれーー!!!】
シメサバ丸が鞘をカタカタと揺らして一生懸命訴えてきた。
そこに、おキヌちゃんが涙目で横島の元にやってきた。
「あぅ〜、横島さ〜ん。グレンちゃんが〜」
そう言って差し出してきたのはガブリと齧られたらしき、半円状に刃が無くなっている包丁。
どうやらグレンが味見してしまったらしい。
そこで横島はポンッと手を打った。
「おい、シメサバ丸。お前姿形とか変えられるか?」
【勿論。我は千年の時を経た妖刀なのだ。それくらい朝飯前だ】
「よし…それじゃあ……」
横島はその辺にあった白紙にさらさらっと絵を書いて、此れになれとシメサバ丸にみせた。
「たっだいま〜」
日も暮れてきた頃キイが帰ってきた。
「あっ、おかえりなさ〜い」
夕食の準備をしながらおキヌちゃんがそう言った。
そして野菜を切っているその手には…
【はははははは! まだだ! もっと斬るぞーーー!!】
シメサバ丸が包丁姿になって野菜を散切りにしていた。おキヌちゃんが目を離していても、手を切らないようにちゃんと動いている。
そしてあっという間に野菜を切り終え、今度は肉を切り始めた。
【此れだ! いいぞ! この感覚を待っていたのだーー!!】
どうやら久しぶりに色々なものを斬れてご満悦らしい。
結局シメサバ丸は蒼河霊脳相談所の所有物となり、もっぱらおキヌちゃんの包丁としてその力を発揮していた。
せかいはまわるよどこまでも
〜〜竜への道は茨道? 前編〜〜
〜横島視点〜
俺は今、廃工場の中を駆け回っている。
別に迷い込んだとかではなく、ちゃんと除霊の依頼を受けて赴いたのだ。
今回の依頼はこの廃工場に住み着いた霊団の除霊だ。
俺は今、廃工場の一番広い部屋で霊力を集中させて待機している。
「横島さ〜ん、来ました〜〜!」
そこにおキヌちゃんが壁をすり抜けて入ってくる。
だんだんと幾つかの霊圧が近づいてくるのを感じた。
そして、正面の大きな扉が開きキイ兄が転がり込んできた。
その手には『幽霊引き寄せ君』とラベルの貼られた御香を持っている。
あれを持って廃工場内を走り回って、全ての霊達を集めたわけだ。
「忠っち後は任せたー!」
「よし来い!!」
俺が霊力を霊波に変換して、体全体を纏う。
そして突っ込んでくる霊団。
二十数匹だって言ってたし、それくらいなら何とか…
【ゴアァァァァ!!】
だが、キイ兄の後ろから現れた霊団は、優に百匹を超えていた。
「ちょっと待てキイ兄! 多すぎるだろこれ!!」
「どうやら依頼者の情報に嘘があったみたいだねー!」
くそっ! 嘘の報告をして依頼のランクを下げて依頼料をケチる奴らがいるって聞いたことがあるが、此れはまずいだろー!
俺は霊波を纏った拳で突っ込んでくる悪霊を殴り飛ばす。
【グルゥ……ゴアアァァ!!】
「って、一発で祓えない!?」
今までなら大抵の悪霊なら拳の一撃でも十分祓えたのに。祓えなくても結構なダメージはあったはずだ。それなのに普通にピンピンしてるぞこいつら!
何気にパワーアップしてないか?
「キイ兄! どうするんだ此れー!」
「ええぇい! こうなったらこの『必殺滅殺空間崩壊消滅君』で!!」
そう言ってキイ兄は何処からか黒塗りの導火線付きの爆弾を取り出す。
「待てぃ、キイ兄! そのとってもデンジャーな名前の爆弾を使うとここら一体はどうなるんだ?」
「勿論威力はお墨付きだから! 簡単に言うと半径1kmのクレーターの出来上がり!」
なんちゅう物騒なもの使おうとしとるんじゃ!
そしてキイ兄は懐からマッチを取り出すと、俺が何かを言う前に導火線に火をつけた。
「ハッハッハ〜、皆消えてなくなれ〜!!」
「洒落にならないこと言うんじゃねーーー!!」
俺は霊団の隙間を掻い潜って、キイ兄の頬に右ストレートを叩き込んだ。
爆弾の方はおキヌちゃんがしっかり火を消してくれた。
結局霊団は二時間かけてボコリまくって除霊した。
その間で目を放すごとにキイ兄がサボるから、その度俺の黄金の右が唸りを上げた。
あと、次の日依頼してきた会社の株価が大暴落した。
キイ兄が何かしたんだろうけど…ずっと家にいたよな?
パソコンにも触ってないし、どうやったんだ?
〜ナレーター視点〜
「やはり…キイ君のほうもなのか…」
蒼河霊脳相談所の一同はいま唐巣の教会に訪れていた。
この前の除霊の後、唐巣神父から連絡があって赴いたのだ。
「やはり、霊たちのほうが全体的に強くなっているらしいね」
唐巣が真剣な表情でキイに話す。
「おっ、ピートなんでまた此処に?」
唐巣の横に立っているピートに横島が話しかける。
「僕は先生の弟子なんですよ。今はここに下宿もさせてもらっています」
「やはり、霊たちのほうにも霊能に対する抵抗力がつき始めているのではないかと思っている」
「なるほど、だから忠っちが殴ってもあんまり効かないわけだ」
因みにキイの方はどっちにしろ一撃で祓っていた。ちゃんと相手の防御力などを見極めて攻撃しているのだ。その辺に関してはしっかりとプロっぽい対応をしていた。
「早く一人前になって、仲間たちの生活を支えなきゃならないんですよ」
「そう、それでこれは私からの提案なんだが…」
「それじゃあ…ちょっとカンパでもするか? 人間に好意的な妖怪達を保護する団体も小さいながらあるらしいぞ」
「なんでしょう?」
キイが首を傾げながら唐巣に尋ねる。
「それは、貧困に喘ぐ吸血鬼などの妖怪達の為にカンパを募ると…」
「つまり、強くなりつつある霊たちに対抗して、自分たちも戦力の底上げのために修行するべきということですね」
キイの言葉にうむ、と頷く唐巣。
そしてそれを聞いてどうなったらそうなるんだと突っ込む横島とピート。
それを受けてやっと話が変になっていたと気付く唐巣に、キイが笑っている。
「あ〜、何故か私が言いたいことをキイ君が言ってくれてそのまま流されてしまったよ」
「キイ兄、何で唐巣神父が言いたいことわかったんだよ」
「忠っち、相方の伝えたいことが瞬時に分かってこそ一流の漫才師なんだよ」
今話しているのGSのことで全く漫才のことは関係ないのだが、横島はそうなのかと真剣な顔つきでメモを取っていった。
「私、キイさんや横島さんの考えてること分からないから漫才師にはなれませんね」
そこで残念とおキヌちゃんが肩を落とす。
「ああ、おキヌちゃんはそれで良いんだよ。天然ボケって言う立派な役職だから」
「そうなんですか?」
キイが頷き、これで私も漫才師になれます〜と喜ぶおキヌちゃん。
その一連の掛け合いを見て唐巣とピートは冷や汗を流した。
何とか話を戻して、これからどういった修行をするべきかという話になった。
「ん〜、そうだな…妙神山にでもいってみようかな」
「妙神山!?」
唐巣は椅子を倒しかねないほどの勢いで立ち上がった。
それを見て横島とピートも驚いている。何時も温厚で冷静な唐巣がそこまで勢いで驚いているのだから無理もない。
「そんな! キイ君、確かに君の力は凄いがあそこは下手すると命に関わるぞ!」
「大丈夫ですよ。それに唐巣さんだってそこで強くなったんでしょ?」
キイは椅子から立ち上がると一度背伸びをして、余裕の表情で横島の横に並んだ。
「それに、修行するのは忠っちですから」
そういってキイは横島の肩ポンッと叩いた。
横島のほうはキイが何を言ったのかわからずポカンと口を開けて呆けている。
そして、横島ブレインはやっとキイの言葉を解釈して…
「何言ってるんだキイ兄! 何で俺がそんな命に関わるような危険な修行を受けなきゃならん!」
「そ、そうだよキイ君! まだ横島君はこれから伸びるんだしそんな急に育てなくても…」
「甘いよ忠っち、唐巣さん。ゆっくり何て悠長なことを言っていたら既に強くなってきている霊達に何時不覚をとってもおかしくないんだよ?」
キイにそう言われて、唐巣はぐっと黙り込む。
確かに、火急とは言わないまでも此れからゆっくりとなんて悠長なことも言ってられないのも事実だ。
一流GSであるキイの助手を務めるのなら、今のままではつらいものがあるだろう。
「ああ、それと忠っち。もし妙神山にいかないんなら前見せた修行メニューに変更するけど……やりたい?」
「横島忠夫! 全身全霊を持って妙神山の修行へと挑みたいと思います!!」
一秒もおかず横島はそう答えた。
その見せられた修行内容がよっぽどキツイものだったらしい。
かくして、横島は妙神山での修行へと赴くのだった。
「こ、ここは本当に日本か?」
険しい山道、というか崖の細道を歩く横島。
あたり一面霧が立ち込め視界がとても悪い。
「ほら、そろそろだから頑張ってね」
横島のちょっと前でキイが一歩足を滑らせればお陀仏のような危険な足場にもかかわらず、ひょいひょいと余裕で道を進んでいた。
「妙神山は数少ない人間と神の接点でね。そして人間界のおける最高の修行場なんだよ」
「なあ、本当にその妙神山とやらで修行しないといけないのか?」
横島はそれを聞いて引け腰だ。
今からでも引き返しても良いのではとかなり乗り気ではないらしい。
「別に良いけど…それならもう忠っちを仕事場に連れて行けないからお家で待機してね」
「それは……」
キイの言った事はつまり、もう自分の仕事には関わらせないということだ。
横島はそれを受けて口ごもる。
「忠っちは…何のために強くなりたかったんだっけ?」
それを聞いて、ふと頭に昔の光景がよぎる。
何も出来なかった無力な自分。
勇気だけが空回りする無謀な自分。
そして、何もできずに涙を流す…
「そうだったな。よし! いっちょやったるか!!」
何時もの調子を取り戻して、やる気を出した横島が勇んで道を進む。
それを見て微笑むキイが一言、
「忠っち、そっちは道切れてて危険だよ」
「おわぁっ!? もっと早く言わんかい!!」
横島は危うく崖から落ちかけて、おキヌちゃんに助けられながらキイに言い放った。
それから数時間して、三人は『妙神山』と書かれた門の前にたどり着いた。
門の扉には鬼のような顔がくっついていて、門の左右には首のない大きな像が佇んでいる。
『この門をくぐる者汝一切の望みを捨てよ 管理人』
そんな言葉が門に書かれている。
「管理人って…神様にもそんな役職あるんだな」
「色々と複雑な理由があるんだよ、きっと」
門の中にいるまだ見ぬ管理人に、押し付けられたりしたんだろうな〜と哀れむ二人。
神界から考えれば、人間界の管理人に送られるなんて左遷と一緒だよなと考えたらしい。
ポンッと門を軽く叩く横島。
「何をするか無礼もぶはっ!!」
行き成り喋りだす門に付いた鬼の顔を横島はつい殴ってしまった。
これから修行だと思って神経が高ぶっていたので、いきなり食って掛かって来たその鬼の顔を条件反射で殴ってしまったのだ。
「あ〜…すまん」
「み、右のー!」
ほぼ無意識で殴った所為か結構な霊力が篭っていたらしく、右側の鬼の顔はぐったりしている。
「お、おのれよくも! 右の! 仇はとってやるぞ!」
「いや、死んでないでしょ」
横島の突っ込みに問答無用と、左側の鬼の顔がふんっと力を入れる。
すると左側にある顔無しの像が動き出した。
「おいおい! ちょっと話聞けって!」
「問答無用! どちらにせよ我らを倒さなければこの門は開かんのだ!」
「あっ、それならいっか」
それを聞いて横島はささっと鬼の顔の前に移動して、
「サイキック猫騙し!」
「ぐおっ!?」
強烈な閃光をうけ、鬼の体の部分がふらふらとよろめく。
そして横島はふらつく鬼の体に背後から近づき、
「サイキックインパクト!!」
容赦なくその背中に霊波の衝撃を放った。
そしてそのまま崩れ落ちる鬼の体。
どうやら勝負はついたらしい。なんともあっけない決着だ。
そこで丁度、門が開いた。
「鬼門達、表が騒がしいようですけど…お客様ですか?」
そして出てきたのは角の生えた随分と変わった服を着ている外見15、6の少女だった。
「しょ、小竜姫様!」
右側の鬼門がやっと復活したらしく、出てきた少女の名前を言う。
小竜姫は門の外の状況を見て、
「あら、どうやら手合わせは終わっているらしいですね。彼方が今回の修行者ですか?」
「いいえ〜、今日修行に来たのはあっちの忠っちです。あっ、これ紹介状です」
キイは小竜姫に唐巣から受け取った紹介状を渡した。
小竜姫はそれに目を通す。
「成るほど。あの方ですか…なかなかスジのよい方でした。それでは早速修行場へ…」
「ま、待ってください小竜姫様! まだ我がやられてはおりませんから試練は終わっておりません!」
さっき横島に殴られて意識を飛ばしていたのだが、ここで出番役目を果たさなくてはと何とか食い下がる。
「…仕方ありませんね、早くしてくださいな」
小竜姫の言葉に、今度は右側の鬼の体が動き出す。
横島はやれやれと構えるが、そこにキイがやってきた。
「ねぇ、忠っち。あれ自分がやっていい?」
「? 別にいいけど…」
「小童が! 我に勝てると思うなよ!」
横島より幼く見えるキイに右の鬼門は強気でそう言い放つ。
そしてキイは、にっこりと笑いながら背負うリュックをあさぐる。
「よい…しょっと」
そして取り出したのは、銃身が一メートルほどありそうな銃。というかほとんどバズーカなものごっつい兵器だ。
それを見て横島とおキヌは冷や汗、鬼門はちょっとたじろいで小竜姫はそれがなんなのかよく分からなくて首を傾げている。
「これ威力高くて忠っちには試せなくてさ〜。
命を懸ける修行場ならその試練でも命かけてるよね? いや〜、こんなところで試せるなんてラッキーだね」
キイは躊躇なくトリガーを引いた。
それと同時に隣にいた横島が何かマズイ気がして銃身を横にずらす。
そして限界まで圧縮された霊力が霊波砲となり放たれる。
迸る霊波砲が銃口の先にある大岩に着弾した瞬間、爆発することなくそのままぽっかりと半径1メートル程の円形状の穴を作って貫通した。
そして霊波砲はそのまま山の彼方へと消えていった。
それを見た横島とおキヌはやはりと頬を引き攣らせ、鬼門はその威力に呆然、小竜姫は面白いですねと手を叩いていた。
「もう、忠っち何するんだよ。ちゃんと試せなかったじゃないか」
「ド阿呆! あんなの下級神族魔族くらいなら軽く死ねそうじゃねぇか!!」
「当たり前だよ! あの一発で自分の霊力丸一日分なんだからそれくらいなくちゃ困るよ!」
一流GSの、しかもその中でも規格外のキイの一日分の霊力があの一撃に込められているのだ。それじゃあ流石の鬼門でも一たまりもなかっただろう。
「えっと…まだやるか?」
「いい…通ってくれ」
横島に言われて鬼門はあっけなく通すことを許した。
あんなもの見せられてはやる気も失せるだろう。
「では改めまして私の名前は小竜姫、ここの管理人をするものです。これから彼方たちを修行場へと案内します」
「えっ! 管理人だったの? こんな若いのに…」
横島が小竜姫の言葉に驚きの声をあげる。
「霊能者たるもの見た目や外見に囚われてはいけませんよ。私はこれでも竜神の端くれなんですから」
「そっか…でも竜神の中でもまだ若いんですよね?」
「ええ、竜神族の中ではまだまだ若輩者ですね」
「それなのに…人間界のこんな辺鄙なところに左遷されたんか。可哀想に…」
そう言って哀れんだ視線で小竜姫を見るキイ、横島そしておキヌちゃん。
神界でも大変なんだな〜というオーラをビンビンに放っている。
「わ、私は左遷されたわけではありません! この修行場だって人間界と神界を繋ぐために必要なものなんです!!」
「つまり、その末端的な仲介役を押し付けられたんだよね?」
小竜姫が叫ぶが、それにトドメとキイが駄目押しをした。
「うぅっ、私だって本当は嫌だったんです。けど此れもお役目だと思って頑張ってたけど…修行に来る人間はなかなか来ないし、神界の知り合いはここは神界とは遠いのでなのでなかなか尋ねてきてくれないし…」
門に頭をもたれさせながら『の』の字を書く小竜姫。
やはりほぼ左遷と同じ状況だったらしい。
〜横島視点〜
小竜姫…様でいいのか?
とりあえず小竜姫様は暫くいじけた後、
「こほんっ、それではまずは着替えをしてもらいます」
咳払いをして気を取り直すと、門の中へと案内してくれた。
そして着いたのは、
「銭湯だよな…どうみても……」
修行場の入り口には『男』と『女』と書かれた暖簾が左右に入り口にかけてある。
コインロッカーまで完備されてるし…
俺とキイ兄は『男』の暖簾をくぐって中を覗く。
中には脱衣所があって、何故か身長計と体重計、果ては冷蔵庫に牛乳などまで準備してある。
賞味期限は大丈夫なのか?
「やっぱり銭湯だね」
「本当に此処は凄い修行場なのか?」
のほほんとした脱衣所にちょっと不安を覚える。
とりあえず服を脱いで着替えることにしたんだが…
「って、小竜姫様。そんなに見られると恥ずかしいんですけど……」
Tシャツに手をかけた所で番台からこちらを見ている小竜姫様に気付いてそう言った。
「え…ああ、そういうことですか。大丈夫ですよ、これまで修行に来た方の体も見てきましたから」
小竜姫様がじゃなくて俺が恥ずかしいんです。
まあ、別にいいけどさ、おキヌちゃんにも何時も見られてるし…
上着を脱いで、備えられている修行着に着替える。
初めて着る服なのに随分と馴染むな、流石は一流の修行場だ。
「小竜姫様、着替えましたけど?」
「…あっ、はい。それではどういった修行を望むのか教えてください」
ん? 何か考え事でもしてたのかな?
まあそれはいいとして、望む修行か…兎に角死なない程度に……
「明日もスケジュールが入ってるので一日で終わるものってあります?」
「ええ、それではここにサインを…」
そう言ってサインをしたのは…キイ兄だった。
「この修行は強くなるか死ぬかしかありません。心してかかってください」
「だって、頑張ってね忠っち」
「待てぃ! なんか勝手に決められてるぞ!!」
俺の叫びを無視してキイ兄と小竜姫様は奥に進んで行く。
キイ兄は兎も角、小竜姫様まで…ひどいって……
脱衣所の扉をくぐると、そこは見渡す限り彼方此方に岩が転がっている荒野。
それ以外には何もなく四方全てが地平線まで広がっている。
キイ兄が言うにはここは異空間らしい。それであの銭湯の入り口がその異世界とのチャンネル口になっているそうだ。
「それでは、其処の法円を踏んでください」
「これっすか?」
俺は見たこともない法円の中に足を踏み入れた。
その瞬間、体の中からぶわっと何かが引き出される感じがした。
そして、俺の目の前に広がる円形状のフィールドにいつの間にか一体の巨大な何かが現れていた。
彼方此方に星やハートがちりばめられた服、だがそれを黒いマントで覆い隠す。
その右腕には純白の手甲がなされ、反対の左腕は禍々しい漆黒の爪を携えている。
顔には半分に割れた笑顔を浮かべる仮面、そしてもう半分の素顔には涙のペイントが施されている。
「な、何だこの左右反対なけったいな奴は?」
「これは貴方のシャドウです。霊核、霊力、その他あなたの力を取り出して形にしたものです。
しかし…ここまで統一性のないシャドウは初めて見ます」
俺の霊核とか他色々って…こんな滅茶苦茶なのかよ。しかも小竜姫様まで呆れさせてるし…
こんなんで本当に大丈夫なのか?
「兎に角、あなたの分身であるシャドウが強くなればあなた自身のパワーアップに繋がるのです」
それはよく分かったけど…なんかこのシャドウこっちずっと見てて怖いんだけど…
自分自身なんだからとって食われるわけないだろうけど、なんかすっげー威圧感が…
その間にも小竜姫様の説明が続く。なんでもこれから三つの敵と戦うらしいんだけど、一回勝てば一つの力を手に入れるけど、一回負けた時点で即死亡。なんてハイリスク・ハイリターンな修行なんだ…
「それでは始めますよ! 剛練武でませい!」
ゴーレムと呼ぶらしい…そういって小竜姫様が呼び出したのは、体全体が棘だらけの球体の化け物。
何か名前とのギャップが激しいんですけど?
「あら、間違ったかしら?」
小竜姫様が頬に手を当てて首を傾げる。
長年読んでないから鈍ったかしらと呟いている。
俺はそれを聞いてずっこけた。
「小竜姫様! こっち命かけてるのに間違えないで下さい!!」
「えっと、呼んでしまったのは仕方がないのであの螺針雨武と戦ってください」
読み方はラシウムだってさ。
てか、そんな適当でいいのか小竜姫様!
あんた本当に此処の管理人なのか!
「それでは始め!」
そう考えてる間に合図がかかり、ラシウムが襲い掛かってきた。
俺はすぐさま戦闘的思考に切り替えてシャドウに念を送る。
シャドウは転がりながら突っ込んでくるラシウムを横に回避し、膝立ちで左腕の爪を構える。
「行くぞっ!」
シャドウを操り、その爪で切り裂こうとその爪を振り下ろす。
だがシャドウの爪はラシウムの針にいとも簡単に受け止められた。
そして、ラシウムの針がぐんっと伸びてシャドウに迫る。
俺は急いでシャドウを下げさせた。
硬い! そして速い! 迂闊に突っ込むそのまま針の餌食にされる!
俺はまず牽制のため左手の爪で伸びてくる針を弾きながら、相手のことを霊視する。
弱い部分…相手の弱い部分を探るんだ……
そして見つけた一箇所の霊力が低い部分。それは本体からして上の部分に位置する針の部分。
そこだけは常に霊波の放出が少ない!
「其処だ!」
俺はシャドウを跳ばせ、ラシウムの頭上を取る。
そしてそのままラシウムの頭上からその爪を突き立てようとして、行き成りラシウムがその場で高速で乱回転を始めた。
上下左右に不規則に回転するラシウムに爪が届いた瞬間、その針の回転に巻き込まれ、弾かれる。
「くそっ!!」
そのまま数メートル弾かれて地面に着地するシャドウ。
さらに、ラシウムはこちらに高速で転がってくる。
俺はシャドウに左に回避するが、その瞬間ラシウムがバンッと横に跳ねシャドウを襲う。
慌てて爪で防御するが、数本の針がシャドウの体を削っていく。
体に痛みが走るが、まだ大丈夫だ。
つーか強すぎだろ! あんなのにどうやって勝てっていうんじゃ!
そう思った瞬間、ラシウムの方から何かが射出される。
シャドウはそれを何とか爪で弾き落とした。
「此れは…ラシウムの針か?」
シャドウが弾き落としたのはラシウムの針だった。つまりあの回転にあわせて針を飛ばせるってわけか。
ラシウムから、さらに数本の針が発射される。
俺は爪で弾き落とせないと判断して、シャドウに地面を転がって回避させる。
針はそのままフィールドの地面に突き刺さる。
攻撃防御とほぼ完璧じゃねぇか!
「でぇい! どうやって勝てっちゅーんじゃ!」
飛んでくる爪を弾きながら俺はどうする事もできなくただ防戦一方になってしまった。
〜ナレーター視点〜
「おかしいですね…螺針雨武はあそこまで強くないはずなんですが……」
小竜姫が首を傾げながらそう呟く。
戦闘中の横島はうっひょーという叫びながらラシウムの針をかわしていた。
「えっ、もしかして横島さんピンチですか?」
「もしかしなくても…ピンチだろうね〜」
キイの視線の先には、転がってくるラシウムを回避してさらに飛ばしてくる針を必死に迎撃する横島のシャドウがいた。
今は何とか防ぎきっているが、決め手がない以上そのうち追い詰められるのは目に見えている。
「忠っち〜、ちょっと聞いてくれる?」
「でぇい! 今話かけんといて!」
キイが何か言おうとするが、横島は邪魔だといわんばかりに蔑ろにそれを遮る。
「しょうがないな〜もう…」
キイは自分のリュックの中からメガホンを取り出すと、横島のそばまで歩いていき…
「聞けええええぇぇぇ!!」
キイの声を何倍にも増幅した大音量が横島の右耳から左耳へと抜けていく。
「な、何するんじゃ! 鼓膜が破けるかと思ったわ!」
頭の中がぐわんぐわんとシェイクされて、ふらふらとしながらも横島はキイに向かって叫ぶ。
勿論その所為でシャドウの動きも止まっているのだが、ラシウムのほうもキイがタイムと手でTの字を作ったら動かなくなった。
ラシウム、なかなかいい奴のようである。
「忠っち、アレにただ接近して勝てるわけがないでしょ!」
「ならどうしろっちゅうんじゃ!」
「それは自分で考えるの! 唯一つ言えるのは、ちゃんとシャドウのことを知ることだね」
キイはそれだけ言うと横島のそばから遠ざかった。
「横島さん大丈夫でしょうか?」
おキヌちゃんが心配そうに尋ねる。
このままじゃ駄目だろうけど、ちゃんと気付けば大丈夫だよとキイは優しく微笑んだ。
「なかなかのチームワークですね…」
小竜姫はその様子を見て、もう大丈夫かなと試合のほうに目を戻した。
〜横島視点〜
シャドウのことを知るって…どういうことだ?
シャドウは俺の分身なんだから…自分のことを知れってこと?
わ、わけが分からんぞ!
そうこうしてる間に、ラシウムが針を飛ばしてくる。
俺は霊視をしてその飛んでくるところに予測をつけ、爪で弾き飛ばす。
その爪を弾くとき、一瞬霊視の範囲内にシャドウが入った。
ん? 俺のシャドウの爪…今随分と霊力が弱ってる……それで右手の手甲に方に霊力が溜まってるな。
さらに霊視すると、左手の爪から霊力が右手に流れているように見えた。
「自分のシャドウを知れ…成るほどね!」
俺はキイ兄の言った意味に気づき、シャドウに念を送る。
シャドウの動きが変わったことに気付いたのか、ラシウムがトドメとばかりに今まで以上の針を飛ばしてきた。
だが、それこそ俺が望んだ攻撃だった。
迫り来る針に、シャドウが右腕の手甲を掲げる。
そして、其処に収束された霊力を放出して巨大な盾を作った。
ラシウムの放った針がシャドウの盾と激突する。
針は霊波盾に突き刺さり、
「おりゃあぁぁぁぁ!!」
掛け声と共に、霊波盾を外に向けて爆発させる。
盾に突き刺さっていた針は飛んでくる針同士でぶつかり合い地面に落ちる。
そして、針を全て放ち終え丸裸になったラシウム。
だがすぐににょきにょきと針が生え始めるが、
「サイキックスラッシュ・点欠!!」
針が完全に生える前に、シャドウの身の丈ほどにまで伸びた霊波の刃をラシウムに突き立てた。
そしてそのまま刃を形成する霊波をラシウムに流し込む。
その瞬間ラシウムは中から爆発するように広がり、霧になって消えた。
ラシウムのいた周りに漂うオーラが、俺のシャドウへと吸い込まれていった。
そしてシャドウの爪が巨大化&さらに禍々しくなり、足のほうに黒っぽい靴と具足が装備される。
「おめでとうございます。此れであなたは螺針雨武の力…放出の能力、高い機動性等を手に入れました」
放出ってのはあの針飛ばしてたのだよな、けど高い機動性って…あの突進とか急旋回して飛び掛った奴か?
ちょっと役に立つのかなと思いつつ、俺は何とか一戦を終えて一息ついた。
「忠っち、よく頑張った。信じてたよ…」
「私もです!」
そう言ってくるキイ兄とおキヌちゃんは、俺はちょっと照れながら振り向くと…
何故か俺直筆で書かれている遺書と、後は判子を押すだけの死亡届を持っているキイ兄。
そして葬儀社と仏壇のパンフレットを握り締めているおキヌちゃん。
「嘘付けーー! お前ら俺が死ぬと思ってただろ!!」
一抹の感動も味わえず俺は心の其処から叫んだ。
ソンナコトナイヨ、と首を振るキイ兄。
その笑顔がとってもむかつく。
おキヌちゃんのほうはこういう位牌いいですよねと聞いてくる。
素で聞いてきている分に洒落にならない。
「さて、それでは次の試合を始めますけど、いいですか?」
そこで小竜姫様が尋ねてきた。
俺としてはもう此れで十分なんだけど…
「ああ、それと修行は途中放棄できませんのであしからず…」
小竜姫様がそう言うと、今まであった出口がスッと消えた。
何だつまり…閉じ込められた?
「後二回勝てば返してあげます。さあ、次に行きますよ!」
ああ、もう! なるようになれ!
俺はちょっと自棄になりながらフィールドの中に集中した。
「禍刀羅守出ませい!」
小竜姫様がそう言った瞬間、フィールドの中央当たりから浮き上がるように何かが呼び出されてくる。
真っ黒ボディに四本足は全て鋭利な刃になっている。背中からも四本の小さな刃が飛び出ている。
なかなか悪趣味なデザインだなおい…
【グケケーー!!】
カトラスか…名前からは判断できないから一応聞いておこう。
「小竜姫様、一ついいですか?」
「何でしょう?」
小竜姫様がきょとんとした顔で首を傾げる。
何か角さえ無視すればただの女の子に見える仕草だな。
ととっ、本題から離れるところだった。
「一応確認のため聞きますけど…あれがカトラスで合ってますよね?」
俺はフィールド内で岩を切ったりして自慢げにこちらを見る黒い異形を指して言う。
「も、勿論です! そう何度も失敗したりはしません!!」
顔を赤くしてそういう小竜姫様。
うん、やっぱりただの女の子に見えるな。
言ったら神罰とか下っちゃいそうだから口にはださないけど。
「うわっ、凶悪面でしかも随分と不細工だな…」
其処でキイ兄が遠慮なくカトラスの感想を言った。
いや、まあそう思うけど其処まではっきり言わなくても…
【グケケエエェェェー!!】
カトラスはそれを聞いて怒ったのか、キイ兄のほうに突っ込んで来る。
だがフィールド外へは出られないのか見えない壁にぶつかって間抜けな姿を晒していた。
「へっへ〜、鬼さんこちら手のなる方へ〜〜」
そう言ってカトラスを挑発するキイ兄。
カトラスのほうも相当頭にきているのか、届かないのに両前足で見えない壁を引っかきまくっている。
キイ兄にからかわれるか…何だかカトラスが可哀想に見えてきた。
カトラスはキイ兄に攻撃が届かないと諦めたのか、俺のシャドウのほうに向き直ると…
【グケケケケェッ!!】
八つ当たりとばかりにその刃を振り下ろした。
「って、ちょ待…ぐへっ!?」
突然の攻撃に対応しきれなく、左肩を斬られてしまった。俺の方にも斬られたシャドウと同じ箇所に痛みが走る。
「こらっ! 禍刀羅守! 開始の合図はまだですよ!!」
小竜姫様が叫ぶがカトラスはムシャクシャしとるんじゃと言わんばかりに反抗的な態度で両足を使って地面を斬り付けている。
「いいんですよ小竜姫様! キイ兄も何時も言ってますし…」
俺のシャドウが構えながらカトラスと向かい合った。
「戦いは…合間見える前から始まってるんだってね!」
シャドウがカトラスに向かって突撃する。
だが、先ほどの傷で動きが格段に遅くなってしまっていた。
カトラスはあっさりとシャドウの攻撃をかわし、さらに背中を斬りつけて来た。
〜キイ視点〜
ん〜、こりゃまずいね…最初のダメージが大きすぎたね。
忠っちのシャドウはあんまり防御力がないからこれ以上ダメージを食らうと動けなくなっちゃうね…
「仕方ありません。今回は特例として助太刀を認めましょう」
そう言って自分のほうに近づいてくる小竜姫…ちゃんでいいかな。
小竜姫ちゃんは俺の頭の前で手をかざし、
「あなたの影法師を抜き出します。それで手助けをしてください」
成るほど〜。自分の影法師でね…
って、あれ? 自分って影法師あるのかな?
そう思っている間に小竜姫ちゃんの掌底を喰らった。
スポンと自分の中からシャドウが現れる…はずなんだけど……
「あれ? 何処にもいませんね…」
「おかしいですね…確かに手応えは合ったんですが……」
おキヌちゃんと小竜姫ちゃんが不思議顔をしている。
ん〜、此れは教えてあげるべきかな? でも驚かせるのも悪いよな…
シャドウってのは自分の分身で、その霊核によって姿形も違うんだよ。
だから…
「ちょっと小さくしないとな〜」
『自分』の本来の姿は感覚上捉えることはできないからね〜
自分だけに見える、この異世界に収まりきらずさらに大きくなり続ける自分のシャドウ…
これじゃあ異世界が破裂して、皆異世界ごと消滅しちゃうよ。
自分はそうならないためにも急いで自分のシャドウに手を加えた。
そして出てきたのは…
「クルルァ♪」
「と、鳥…何でシャドウが鳥なんかに……」
「わー、可愛いですね〜」
出来たのは、全長一メートルほどの大きな鳥だった。
いや、最近見た『幸せの青い鳥』って本を参考したんだけど…大きすぎたかな。
「よーし! 鳥君! 早速忠っちの応援に行くんだ!」
「クルァ!」
ビシッと敬礼すると、鳥君は学ランを着て、鉢巻をして、『必勝』の二文字が書かれた旗を掲げた。
「クルアアァァァ!!」
そして一生懸命その旗を振り出す鳥君。
うん、応援違いだね。さすが自分のシャドウだ。
それを見てこけるおキヌちゃんと小竜姫ちゃん。掴みはバッチリみたいだね。
「アホやっとらんで早く助けんかーー!!」
忠っちの叫びが聞こえて、こりゃ失礼と自分の頭を叩く。
横を見ると、鳥君も同じポーズでこっちを見ていた。
そして同時にサムズアップ。
心が通じ合ってる証拠だね。
だって、自分の分身なんだから…
「うぎゃあああぁぁぁ!!」
「あっ!」「クルッ!」
そんなことをしてる間に、忠っちのシャドウが悲惨なことになっていた。
〜おまけ〜
蒼河霊脳相談所の台所で、カタカタと揺れる包丁が一本。
そう、最近ここの所有物になったシメサバ丸だ。
【暇だの…】
「みぃ〜」
シメサバ丸に同調するように、グレンがその隣でおやつの電子盤を齧りながら頷いている。
何時もの如くお留守番になり、置いていかれたグレンは新入りのシメサバ丸と雑談をすることにしたのだ。
「みぃー、みっ?」
【ん? 我の昔の話か…そうよの〜。アレは我が生まれてちょうど百年経ったほどのときだったかの〜】
そして昔話をし始めるシメサバ丸。
まあ、武勇伝なのだろうが時に関係ない歴史上の人物の裏話などを話していたりする。
「みぃ〜、みみっ!」
【むむっ! では今度は時は戦国時代…】
さらにグレンに催促されて話を続けるシメサバ丸。すっかり歴史の授業になってしまっていた。
そして熱の入るシメサバ丸の話に、グレンも真剣に手にしたスクラップを齧りながら聞く。
【そこで敵の大将の首を…って痛ああぁぁぁぁぁぁ!】
話の途中で絶叫を上げるシメサバ丸。いつの間にかグレンに持ち上げられ、その刃先を齧られていた。
「みみぃ!?」
あまりに話に集中しすぎて思わず齧ってしまったらしい。
【うおおぉぉ! 歯形が! 我の体に歯形がぁぁ!!】
「みいぃ〜〜!」
カタカタと揺れながら叫ぶシメサバ丸。それに対してグレンが謝っていた。
蒼河霊脳相談所、キイ達三人がいなくても十分に騒がしかった。
あとがき
レス返しさせて頂きますね。
>masa様
ははっ、やはりキイ君には真面目は似合わないのでああなりました。
楽しんでいただけたでしょうか?(笑)
>黒覆面(赤)様
ありがとうございます。試行錯誤、無い知恵絞って頑張って考えたかいがあります。
これからもどうぞキイ君と横島君達を宜しくです。
>ジェミナス様
何処に行ったって必ず何か騒動を起こすキイ君。
もはや蒼河霊脳相談所には平凡な日常は来ないのかもしれません(笑)
さあ、入ってきたぞ妙神山での修行編!
また長く書いちゃって一話に収まらなかったです。もうちょっとまとめる様に努力するべきかな?(汗)
今回は色々と不明な点が多いかも知れませんがその辺はまた後日に…
次回は(多分)後編です!
小竜姫様と戦う以前に禍刀羅守に勝てるのか?
キイ君のシャドウは役に立つのか!?
そして、シメサバ丸とグレンおまけはまた出来るのか?(違っ!)
それではこの辺で失礼致します…