中世の件からしばらくして。
ヨコシマはいつもの日課、アパートの部屋の中で栄光の手とソーサーの制御訓練に没頭中。私は実体化してそれを横目で眺めながら彼の夕食をつくっていると、
ぴぃーん。
久しぶりの効果音と同時に、サー○ァント情報更新の表示が現れた。
どこに、とかどんな風に、とかは気にしないでね。
私はヨコシマを呼んで、
「ヨコシマ見て、またサーヴァ○トの情報が更新されたわ。うわあ、今回はすごいレベルアップよ」
パワー :900マイト
持続時間:最長35分
スキル :心眼B、飛行C−、霊波砲B、光幻影B+、麻酔A−、技術者A、単独行動E
「前の更新から随分たつものね。成長してる筈なのに変だと思ってたら表示が無かっただけなのね」
2人で手に入れた成長がうれしくて、私はヨコシマにだきついて身体をすりよせた。んー、あったかい。
「私も努力したけど、やっぱりおまえががんばってくれたから……好きよ、ヨコシマ」
私の率直な愛情表現にヨコシマはちょっと赤くなって、
「あー、いや、それほどでもねーけどよ。……ところでちょっと聞いていいか?」
「なあに?」
すりすり。ぎゅー。
「パワー900マイト、ってどれ位の強さなんだ? 基準を知らんからよく分からんのだが」
私はもうべた甘モードになってたけど、真面目に答えるべき質問だったから通常モードに戻って、
「そうね。私の目算で言うと、普段のヨコシマが大体30マイトで美神さんが80マイト、小竜姫さまとメドーサが1万くらいかな。この前のヌルは1500くらいだったわね。もちろん勝負はパワーだけで決まるものじゃないけど」
マイトというのは霊圧の単位で、気圧とか馬力とかと同系統のもの……というのはヨコシマももう知ってるので省略。
「ふーん、やっぱり神様や魔族はすげえんだな……って、俺の霊力で出来てるお前が何で俺の30倍も強いんだ!?」
「そこがヨコシマのすごい所なの。おまえが900マイトの霊波刀をつくることは出来なくても、おまえの中には900マイト、いえそれ以上のパワーを生み出せる『世界』があるのよ。私はそれを引き出してるだけ」
そう、『前』のヨコシマは普段2〜3マイトだったのに300マイトの文珠を生成してた。それが30マイトになった今、900どころか3千マイトの『私』を実体化させてもおかしくはないわ。
「へえ……よく分からんがまあいいか。っておいルシオラ、鍋が噴き出してるんじゃねーか!?」
「あ、いけない! ありがとヨコシマ」
私はあわてて台所に戻って調理を再開した。
でもこういうのってほんとに結婚生活みたいですごく幸せ。
次の日私達が美神事務所に出勤すると、西条さんを始めとした知り合いの霊能者達が大勢集まって何やら深刻な話を始めようとしていた。
「被害者はすでに10人。例外なく鋭利な刃物でズタズタに斬られている」
テーブルについた西条さんが写真を見せて説明している。どうやらTVのニュースでやってた通り魔事件のことらしかった。
「く……なんてむごいことを……」
「これ、霊刀で斬られた傷ね。……しかもこいつ、たぶん相当の腕利きよ。あくまでカンだけど」
唐巣神父がその無残さに低くうめき、美神さんは彼女らしい一流の観察眼で見抜いた情報を口にする。
――けど、真面目に話をしているのはこの3人だけだった。
カオスさんは別の椅子に腰掛けてマリアに肩を揉んでもらってご機嫌だし、小笠原さんはソファーでピートさんの隣に座って無理やり腕を組んだあげく西条さんの容貌まで品定めしている。それなりの点をつけたようだけど、反対側に座った冥子さんにはよく分からないようだった。
タイガーさんは雇い主の小笠原さんの後ろに立って妬ましげな眼差しで2人を見下ろしている。おキヌちゃんはいつも通りほえほえと宙に浮いていた。
で、私の愛する旦那さまもそのおキヌちゃんに淹れてもらったお茶を飲んで一息ついているという状況で。
どうせ自分は美神さんの指示で動くんだから、宿敵である西条さんの話など聞きたくない、ってことみたいね。
そこへ冥子さんがとてとてと近づいて来て、
「あ、横島クン〜〜〜久しぶりね〜〜〜」
「冥子ちゃんも来てたんだ。久しぶりだね」
「うん〜〜〜お母さまも〜〜〜よろしくって〜〜〜言ってた〜〜〜」
あのひともまだ諦めてないみたいね。今の台詞美神さんに聞こえてなくてよかったわ。
でも霊刀の辻斬りって何か引っかかるわね。
……あー、思い出した!!
『前』に聞いてた、フェンリルの事件だわ。犯人は人狼、犬飼ポチって名前だったわね。凶器の霊刀は「妖刀八房」名前の通り、一振りで8つの斬撃を繰り出す刀……たいへんな強敵ね。できればフェンリルになる前に退治したい所だけど……。
「ただの通り魔なら警察の管轄で、実際今までそうだったんだが、どうも怪しいと思ってね。資料を見せてもらったらこういうことだった。
で、オカルトGメンとしても放置できないということになったんだが……」
「霊刀は使えば使うほどその力を増す。一刻も早く犯人を捕まえないと……」
「ええ。でも今のところ手掛かりも少ないし、僕1人では戦力不足です。それでGS協会に協力を要請して、皆さんのことを教えてもらったんですが……」
振り向いてがっくりと肩を落とす西条さん。ほとんどの人が話を聞いてないんじゃ無理ないわね。
「貴い人命が奪われているというのに!! 君達少しは真面目に……」
唐巣さんの注意も気にかけた風はなく、
「んな事言われてもなー、わしらも生活があるから先立つものが無い事には……」
「オカルトGメンができて以来、警察は払いが渋いのよねー」
万年貧乏のカオスさんはもちろん、小笠原さんも不満そうだ。そう言えば美神さんもGメンが出来てから仕事が減ったとか依頼者がケチになったとか言ってたわね。商売敵にボランティア求められたんじゃ不真面目なのも当たり前か。
「まして令子が腕利きなんて見立てるヤツとタダでやりあうなんて問題外なワケ」
「む……分かった。では僕が自腹を切ろう。犯人逮捕に成功した者には1億出そう!」
西条さんがそう言った瞬間に場の雰囲気が変わった。
「マジ!?」
「さすが道楽公務員!」
「少し前借りしていいかっ!?」
美神さんと小笠原さんとカオスさんが目をキラキラさせて詰め寄る。それにしても西条さん、ためらいもなく1億円出せるなんて、公僕精神もあるけどお金もあるのね。
「あ、ああ……」
西条さんがこくこくと頷く。どうやらみんな依頼受ける気になったみたい。
冥子さんはあまり興味ないみたいだけど美神さんがやるとなればついて来るでしょうし。
その後、ヨコシマとピートさんとタイガーさんは遅くなったので帰ることになった。
夜の帰り道で、
「それにしても物騒ですね。霊刀の辻斬りなんて」
「あの西条とかいうヤツ、『学生は帰れ』じゃと! ワシらの力をナメとるのう!」
力というより、深夜まで学生に辻斬り探しさせるわけにはいかなかったんじゃないかしら。私達には今さらだけど……。
「牛丼特盛り……もうすぐ食べてあげるからね」
ヨコシマは太平楽を決め込んでいる。まあ彼は(というか誰も)辻斬りの正体を知らないから、あのメンバーで当たればすぐ解決すると思ってるんでしょうけど……。
ぐるるるる……。
「殺気!?」
ヨコシマとピートさんが同時に身構えた。殺意までは感じないけど攻撃的な気配だわ。
「まさか辻斬り!?」
小柄な影が木刀を持って電柱の向こうから飛び掛って来る。狙いは――ヨコシマ!?
「……っと!」
腕を……いえ、手を狙って突き出された木刀をヨコシマは身を翻してかわした。中々すばしこい動きだけど、私達に捌けないほどじゃないわ。
一撃をかわされて影がたたらを踏んだところで、ヨコシマが栄光の手(剣)を出して後ろからひっぱたいた。
「ぎゃん!!」
犬のような悲鳴をあげて影が倒れる。うん、いい動きだったわ。
「やった……!?」
「え!? じゃあ1億は俺のもんか!?」
うーん、これは多分違うと思うけど……。
「こ、子ども……!?」
ヨコシマの峰打ちで気絶してアスファルトの上に倒れているのは、赤と白の2色の髪で犬っぽい尻尾が生えた6〜7歳の子どもだった。
「人狼の子ですよ……!」
「人狼……狼男か。ん? それって吸血鬼の手下なのか?」
「いえ、その狼男とはまた別の種族です」
一応犯罪行為ではあるけれど、人外の、それも子どもを警察に突き出すわけにもいかず、私達はとりあえずその子を連れてヨコシマのアパートに行くことになった。
がつがつがつがつ……。
よほどおなかがすいていたのか、人狼の子は尻尾をぱたぱた振りながらヨコシマの牛丼を勢いよく食べている。
「俺のメシなのに……」
「腹が減ってるならそう言えばいいだろう。何故いきなり人を襲ったりしたんだ!」
「路銀が底をついて……しかしそれがしは武士ゆえ物乞いはできん! んで仕方なく……」
「強盗はいいのか……?」
被害者であるヨコシマが呆れた視線を送ったけど、食事中の人狼には効いてない様子だった。やがて食べ終えるとお茶を飲んでふーっと息をつきながら満足げにおなかをさする。ある意味いい度胸してるというか……。
と、その子は突然ばっと正座して深く土下座した。
「それがしは犬神族の子、犬塚シロと申します! 横島さまとおっしゃいましたな」
「な、何だ急に?」
驚く3人に構わず、人狼の子――シロは真剣な眼差しでヨコシマを見上げて、
「どうかそれがしを弟子にして下さいっ!!」
「弟子!?」
「訳あって仇を追っております。が、敵は恐るべき妖刀の使い手! 先ほどの霊波刀、感服致しました。あれをぜひご教授願いたいのでござる!!」
思い出した!
犬塚シロ、ってフェンリル事件のときにヨコシマの弟子になった人狼の娘だわ。私は会ってないけど、やたらヨコシマを慕ってたらしいわね――異性としてか師匠としてか飼い主としてかは不明だったけど。
なら言うことは1つだわ。
『だめ!!』
いきなり大声で断言した私に4人がびっくりするけど、それは置いといて、
『ヨコシマの『心眼』として言わせてもらうわ。ヨコシマはまだまだ未熟、弟子なんてとんでもない! そもそも人狼の技は人狼同士で教え合うのが1番いいはずなんだから、里に帰って別の人を探しなさい』
……ライバルが増えるのが嫌なわけじゃないわよ?
「こ、これは何でござるか!?」
バンダナの中で眼を開けてしゃべった私をまじまじと見詰めながらヨコシマに問いかけるシロ。
「あ、こいつはルシオラっていって、小竜姫さまっていう竜神様にもらったんだけど、俺の……師匠みたいなもんかな」
なぜ妻、せめて恋人って言わないのかが気にかかるけど、ここは便乗した方がいいわね。
『そう、ヨコシマの霊能と体術は私が教えてるの。つまりまだ弟子を取るような身分じゃないってわけ』
「くっ、そうでござるか……ならば大先生!」
『へ!?』
思わず声のトーンが上がる。身体があったらコケてたわね、今の台詞。
「先生の先生となれば大先生でござる。ぜひそれがしも弟子に!」
『私の弟子はヨコシマだけなの!』
「2人とも待って下さい!」
揉め始めた私達にピートさんが仲裁に入った。
「今はもっと重要な話があります。シロ、さっき妖刀って言わなかったか?」
「おお、そう言えばそうだったな。もしかして霊刀の辻斬りって――」
ヨコシマとピートさんの視線を受けてシロはきっと表情をひきしめ、
「はい、我ら犬神族の秘宝『八房』! 奴はそれを持ち出して人間達を襲っているのでござる……!」
全体像が見えてきたわね。
今度の敵も危険よ。しっかりね、ヨコシマ。
――――つづく。
あとがき
フェンリル編です。原作で西条の部下は出て来てないのでGメンは現在彼1人です。しかしこれでやっていけてるのかな(^^;
ではレス返しを。
○ジェミナスさん
>しかし壊れたアシュ様は魔族相手に使って良いのかどうか?
死人に口は無いので問題なしです(ぉ
しかしこの技のことが魔界で広がれば逆にアシュ派の人数が減るかも知れませんw
○黒覆面(赤)さん
>なんだかずいぶんと目つきの悪そうなブタですね
肉も固くて(以下検閲により削除)。
○遊鬼さん
>美神さんは相方がユッキーでも盾にしちゃうんですね
むしろユッキーだからというか。
横島君を盾にしたらルシオラとか六道女史とかが黙ってないのでw
○ゆんさん
>って結婚式挙げてたんだよね
すでに彼女的には完全に夫婦の仲ですw
>次は横島(良人)の手綱って感じのベルレフォーンを希望w
横島君乗られちゃうんですか(ぉ
確かに原作でもれーことお馬さんごっこしてはいたがルシだと絡み指定が要るんだろうか<違
ではまた。