<おキヌ>
「ふわ~」
妙神山の朝は早いです。それに加えて食事係の私が高校へ行くことになったので、さらに起きる時間が早くなりました。でも別にきつくはありません。皆さんに御飯を作ってあげるのは好きですし、学校も楽しいですから。私は軽く伸びをすると、朝の食事を作りに台所へ向かいます。
「今日は何にしましょうか?」
基本的に皆さんは和食好きですから、朝は大体は決まっていますがそれでもやはり何を作るか考えてしまいます。……そうですね、今日は玉子焼きとアジの開き、あとお味噌汁とほうれん草のおひたしにしましょう。朝にしては少し多い気もしますが、小竜姫さんとおじいさん以外は学校へ行きますからね。特に横島さんとルシオラさんは学校の実技がはーどですし、授業中にお腹が減ってはいけませんからね。あっ、そう言えば今日はヒャクメさんが来るって言ってましたね。
すっかり忘れていましたが。
「うん、こんな感じかな」
朝食の準備も済んだ後は、皆さんを起こしに行きます。とはいえおじいさんや小竜姫さんは私が起きるより早く起きますから、そんなに大変ではないんですけどね。
私が一番最初に起こすのはもちろん横島さんです♪ 横島さんの部屋の前に立ち、少し深呼吸、髪をぱっぱと整えます。よし、大丈夫ですね。今日も元気に襖を開けます!
「横島さ~ん、朝で……」
「なんで小竜姫がここにいるのよ!? ヨコシマをどこに隠したの!?」
「それはこちらの台詞です、ルシオラさん! 大体こんな朝早くから忠夫さんの部屋に来るなんて、一体何を!?」
「うっ……、ってあなたこそなんですでに布団の中でスタンバイしてるのよ!?」
「くっ……、あなたこそその透けたぱじゃまと枕はなんですか!? 朝からナニをしようとしてたんですか!?」
横島さんの部屋の中では、小竜姫さんが布団の上で毛布を被りながら、すけすけのぱじゃまを着て立っているルシオラさんと火花を散らしています。よく見れば横島さん居ませんね? お手洗いでしょうか?
「……あなたとはやはり戦う運命にあったようね、小竜姫」
「その台詞を私に言ったのは、あなたが二人目ですよ、ルシオラさん」
二人の霊圧の火花が私にまで及んできました。うう、熱いです。そのまま二人は私に気付きもせず、その場で戦いを始めました。いや、今更驚きませんけど。これ、日常茶飯事ですし。
「あれ、おキヌちゃんおはよう。起こしにきてくれたの?」
「あっ、横島さん♪ おはようございます。どこに行ってたのですか?」
横から私に話しかけてきたのは横島さんでした。少し寝癖がついてますけど、はっきりと目は覚めているみたいですね。
「小竜姫ぃぃぃぃ! あなたが、あなたさえいなければ! アシュ様があなたを参考にさえしなければ、私がど貧乳になることはなかったのにぃぃぃぃぃ!」
「あなたは最初からそうなる運命だったと、なぜ分からないのです!」
「うん、こいつに『まだ辺りが暗くて怖いから、トイレまで付いてきてくれ』って頼まれてね。まったく、普段強気なくせに……」
横島さんが苦笑しながら頭の上に寝そべっているタマモちゃんを指します。タマモちゃん、そんなキャラじゃないでしょう……。私が疑問の眼差しを送ると、タマモちゃんは少し勝ち誇った顔(狐形態だからよく分からないですけど、多分)をして、私を見ました。私が御飯を作っている間に……ずるいです。
「私のこの手が真っ赤に萌える! 忠夫さんを掴めと輝き叫ぶぅぅぅぅぅ!」
「私が編み出したこの技、使いたくはないけど! 使わせたあなたが悪いんですからね!」
「それで、俺の部屋はどうなってるの?」
「はあ、まあいつものあれです」
ははっと、横島さんは苦笑しました。タマモちゃんは呆れているみたいです。まあ、確かにあの二人はここ最近同じようなことを飽きずに繰り返していますからね。
「みょーじんぐぅぅぅぅぅ、ふぃんがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「月光蛍である!」
こんな私の日常が、今日も始まります。
「ユニヴァァァァァァァス!」
「だから貴様は貧乳なのだぁぁぁぁぁ!」
……日常です。
妙神山のただおくん~おキヌちゃんの一日 朝ですよ~
六道女学院まで横島さんとルシオラさんと一緒に行くと、そこからは二人と分かれて私だけ高等部へ行きます。うう、最初はてっきり横島さんと同じ学年に行くと思ってたのに……。でも仕方ないですよね。私が本当は何歳だったのか覚えてませんけど、さすがに見た目中学一年生には見えませんし。
「あら、おキヌちゃんじゃない。おはよう」
「あ、美神さん。おはようございます」
廊下で出会ったのは同じくらすで、最初にお友達になった美神令子さん。入学式で横島さんと鬼ごっこの勝負をして、勝ったことは勝ったけど勝ち方に納得できないものがあったらしく、いつか一対一でちゃんとした勝負がしたいらしいです。なぜ「今すぐ」ではなく「いつか」かというと、除霊の技術や手際ならともかく、真正面からの戦いではそう簡単には勝てないらしいからです。そういえば一度横島さんがどんな修行をしているのか聞かれたこともありましたね。教えてあげたら青い顔をしましたけど。
「あら~、おキヌちゃんおはよう~」
「冥子さんも、おはようございます」
美神さんの隣にいるのは六道冥子さん。この学校の理事長さんの娘さん。私と冥子さんは元々顔見知りだったので、すぐに打ち解けました。昔はすぐ式神を暴走さしていましたけど、今ではすっかりここの憧れの上級生です。もっとも間延びした口調は変わってないですけど。
「横島くん元気~?」
「ええ、元気ですよー」
「……なんかあんたたち見てると和むわね」
そうでしょうか? そのまま冥子さんと分かれると私たちは教室に入り、担任の先生が来るまでおしゃべりします。今日の一時間目は国語だったかな。
午前の授業が終わりお昼の時間になると、私は中等部に行きます。もちろん三人分のお弁当を持って。ルシオラさんは横島さんと二人っきりでお弁当したいらしいですけど、そんなことは私の目が黒いうちはさせません! ……いや、私何百年も前に白くなってるんですけど。
それはともかく、私が二人の分のお弁当も持っているのでルシオラさんは私を拒否できません。まあ、そのために私がいつもお弁当を作って、管理しているんですけどね、ふふふ。
「あ、おキヌちゃんお昼? 一緒に行きましょ」
「私も~」
ここ数日は美神さん冥子さんも私たちと一緒にお昼を食べます。最近気付いたんですけど、基本的に二人とも寂しがりやなんです。だから大勢で食べるのが好きなんでしょうね。高等部でもその気になればいくらでも人は集まるでしょうけど、二人はあくまで憧れの対象ですからお昼を一緒するには息苦しいらしいんです。人気者というのも結構大変なんですね。
「じゃ、行きましょうか」
とても大きい六道女学院ですが、霊能科の高等部と中等部はそんなに離れていないので、五分と掛かりません。あ、あそこにいるのは横島さんかしら? 必死な形相でこちらに向かってくるのは……確かに横島さんですね。あんなに必死になって……もしかして私に会いたくて走ってるとか? きゃっ! 横島さんたらっ!
「横島さ~……」
<忠夫>
「助けて~!」
「横島く~ん、今日のから揚げは自信作なのよ! 食べてぇぇぇ!」
「写真、写真を撮らせて! 一枚でいいの! 高等部ではあなたの食事中の写真を高額で買い取ってくれるの! 一生懸命頬張ってる姿ならさらに高額に!」
「このおにぎり食べてよー! そしてほっぺに付いた御飯粒を……うっふふふふふ……」
後ろから推定百人を超えた集団が追ってくる。凄い地響きだ。俺がどれだけ必死に走っても全然振り切れない。一応小竜姉ちゃんに鍛えられてその辺のスプリンターとは比べ物にならないぐらいの脚力を持っているんだけど、なんでそんな軽がると追いてくるの!? しかもお弁当やカメラを持って喋りながら! 六道女学院すごすぎ!
「誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!」
あ、あそこにいるのは陰念! 溺れる者は藁をも掴む、だ。俺は走りすぎて真っ赤な顔で陰念に詰め寄った。
「助けてくれ陰念! このままじゃなんかすごいことになる!」
もうお前しかいなんだ! ルシオラはトイレに行ってるし、雪乃条と勘九朗は食堂。味方なりそうな奴はもうお前しかいないんだ!
陰念は少し驚いて俺を凝視した後、
「任せろぉぉぉぉぉ! こんな女子たちの十ダースや二十ダース、俺の力で押し返してみせる!」
おお、陰念が少しカッコいいぞ!? これは少し期待できるかも?
「あっ、追い付いてきた!? 頼むぞ陰念!」
「おお! その代わり今日帰りに一緒に……」
後を任せて走り出す俺と、歯を光らせて笑顔で振り向く陰念。だが俺も陰念も彼女たちの脚力をまだ舐めていたらしい。
「陰念! 前、前!」
「何ぃぃ!? って来るのはや……ぎゃああああああああああああ!」
「陰ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
女子の群集に飲み込まれていく陰念。ああ、陰念がやられた!
まあ、元々大した期待はしてなかったけど。
それより、誰か助けてくれぇぇぇぇぇ!
続く
あとがき
おキヌちゃんメインのお話……なはずだったんですが、前半は貧乳ズ、後半は陰念が目立ってしまいました。おキヌちゃんはオチキャラの魂の牢獄から抜け出せないのでしょうか? 次の夕方編ではメインになりますから! 多分……。にしても前回に続いて今回も内容薄いな~。改めて見てびっくりです。まあ自分の作品は「お手軽に」「頭をからっぽに」が基本なので、これぐらいで許してください。
とりあえずレス返しを。
>masa様
>お互い禁句だって分かってるだろうに何で言うかな…。
一言で言えば諸刃の剣だからです。自分のダメージを覚悟すればかなりのダメージを与えられますので。まあ、自分のダメージも図りきれないですけど。
>D,様
>べスパとパピリオ
まだ魔界にいます。パピリオは自分の番はまだかまだかと待っていますが、ベスパは父親を更正させようと必死です。無理ですけど。
>黒覆面(赤)様
>ただ内容が薄いのがちょっと……
ごめんなさいorz 私の作品は毎回内容薄いですけど、確かに前回はさらに薄かった気がします。今回も薄いです。でも私ではこんなものしか書けないのですorz
>神曲様
初めまして、応援ありがとうございます。
>後、忠夫の煩悩パワーの行方とか
ちょっとずつ、今の忠夫くんらしさを失わないように横島くんに近づけようと思ってます。挫折しちゃいそうですが。
>tomo様
>いつもいつも奇抜な展開がすばらしいです。これからも期待していますね。
いつも応援ありがとうございます。奇抜な展開と言われるのは正直嬉しいです。
>ジェネ様
>なぜ貧乳同士なのに争うんだ……あの争いはまるで…『自分を否定』しているようじゃありませんか!
同属嫌悪です(笑。
>第3の貧乳ミョージンブルーことおキヌちゃんが漁夫の利
今回チャンスはありましたがタマモに取られてしまいました。おキヌちゃんはオチキャラの牢獄から抜け出せるのでしょうか?
>柳野雫様
>取り敢えず忠夫くんの胃が心配です。
妙神山では大変で、学校でも大変です。彼に安息の場所はあるのでしょうか? ……ないだろうなあ。
>シヴァやん様
>このまま学校と妙神山での修羅場模様が気になりますね。
あんな感じです。
>嗚臣様
>ようやく学園生活が始まります。
本当にようやくでした……。六道に入るって決まってからかなりかかりました。
>義王様
>とある釣り馬鹿の上司みたいに持たせてあげて下さいまし
あの秘かに良い人な苦労人ですね。釣り馬鹿の中であの人一番好きです。
>にゃ♪様
初めまして。私として腹筋がいつも厳しいと嬉しいですね。
>魂の牢獄の為に死ねなかったのでついでに身体を中学生のサイズに調整している最中の「芦」君とか
「彼」が出てくることも考えなかったわけではないんですが、今出るのはちょっとなあ~ということで今回は見送りました。まあ番外編で時々出てきますけどね。
>PPP様
>よくある誤字ですが、「シミュレート」が正しいです。ああ、でもこの場合は、コレで合っているのかも、「趣味レート」で。
誤字報告ありがとうございます。これは打ち間違えではなく、本当にシュミレートだと思ってました(汗。ネット上で己の無知を晒してしまいました……。でも趣味レートっていうのも中々いいですね。
>ゆん様
>煩悩でてきちゃうんですか・・・このままでいて欲しかったが
今まで出なかったのはあくまで「子供だから」と「小竜姫の教育(調教?)」があったからです。それに中学生でまったく煩悩がないのもなんかな~と思ったので、これから少しずつ出てきます。一応修学旅行編でも少し出てますけどね。まあ、忠夫くんらしさを失わずには行こうと思いますので、これからもよろしくお願いします。
おキヌちゃんメインに出来るかな~、次回。
ではこの辺で。
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