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▽レス始

「せかいはまわるよどこまでも〜11〜(GS)」

拓坊 (2005-11-02 01:51)
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〜ナレーター視点〜


初めに言おう、今日は厄日だ。


「キイ君〜! 式神が一匹いなくなっちゃったの〜〜!!」


玄関を開けてすぐ、自分は目の前の状況を瞬時に判断し辺りに結界を張った。
けど部屋を守る分しか作れなくて自分の方は守れなかった。


「「うっぎゃああぁぁぁぁぁ!!」」


あ、どうやら部屋の中の忠っちも巻き込まれたみたいだ。
あ〜、おキヌちゃん買い物に出てもらっててよかった。


部屋の中は結界を張ったけど、テーブルとか家具が半壊状態だ。
とりあえず見れる程度に片付けて、冥子ちゃんが落ち着いてから部屋の中に入ってもらった。


「ごめんなさい〜。私、うろたえちゃって〜〜昨日からこの子達暴走しっぱなしで〜」


「あ〜、それより式神がいなくなったって何で?」


普通式神って言うのは術者と一定以上は離れられないものだ。勿論偵察用や、術者が操る場合はその限りではない。


「実は〜、昨日皆で鬼ごっこしてて〜、気がついたらいなかったのよ〜」


冥子が涙目ながらにそう説明した。普通式神を十二匹使役しつつ遊ぶなんて霊力のキャパシティ的にも不可能なのだが、そこは六道家の者と言ったところか。その並外れた膨大な霊力でそれを可能にしたのだ。


「皆は〜、私が物心つく前から影の中に住んでて、ずーーっと一緒に育ってきたのよ〜。心配だわ〜」


「此れだけいれば自衛隊でも勝てそうに無いけどね〜」


「そんな事ないよ忠っち。式神にもそれぞれ弱点があるし、もともと戦いに向かない式神だっているしね」


例えば冥子のクビラ等は霊視に特化していて戦闘能力はほぼ皆無だ。
逆にビカラは此れといった特殊能力は無いが戦車並みの怪力の持ち主なのだ。
それぞれ自分の役割を持っていて、その一点においてのスペシャリストなのが冥子の式神達なのである。


「で、いなくなったのは?」


「マコラなのよ〜。マコラは変身能力があるから〜放っておくと身を守るために周りの人間に同化しちゃうのよ〜」


其れはまた厄介なものを逃がしたものだと、横島は苦笑を浮かべていた。
まあ、式神は見た目異形の姿なので其れを見て周りが混乱してしまうから他の式神と比べるとまだマシだろう。いや、騒がれた方が見つけやすいかもしれないけど…そのときの被害を考えるとまだこちらがいい。


「お願い〜〜! 見つけてくれたら何でもするわ〜!」


その言葉にいち早く反応したのは横島だった。


「おおっ! 何でもいいのか?」


「いいわよ〜。だから横島君もお願いね〜」


「よっしゃ〜、それじゃあお礼は冥子ちゃんにデートの相手でもして貰おうかな〜」


『漢』横島、こういう時にソッチ方面には考えが行かない意外と純粋な少年だった。
しかもこの誘いも無理矢理かな〜と、言ってちょっと後悔している横島君。
思春期をほぼ修行で過ごしてきた彼は、女性に興味はあるものの世間一般で言う超奥手な性格になっていた。


「………」


今のやり取りを聞いて無言で横島の背中を抓るおキヌちゃん。


「って、痛い! お、おキヌちゃん行き成り何するのさ?」


「知りませんっ」


おキヌちゃんはそっぽを向いて天井から外へと出て行った。
横島のほうは何なんだと思案顔。彼が女心を理解するのは当分先のようだ。


「と、言うわけで町に出てきましたよ!」


遊歩道を歩くキイがそう言った。
マコラはどうやらこの辺でいなくなったらしいのだが、いかんせん人が多すぎる。

だが、こんなときこそ霊能者はその真価を発揮するのだ。
霊能者には霊視がある。苦手な人もいたりするが少なくとキイと横島は霊視は得意だった。


「あっ、キイさん! いましたよ!」


だが、最初に見つけたのはおキヌちゃんだった。


「「ま、負けた…」」


キイと横島は師弟揃って地面に手をつけて敗北感に打ちひしがれていた。

その後、何とか気を取り直してマコラを追う三人。

そしてマコラが逃げ込んだスケートリングで、


「巫女さん衣装の少女が飛び入り参加だー!」


「新鮮だ! 何だか燃えるぞーー!」


「優勝に決定じゃーー!!」


「えっ? あっ、ちょっと〜〜〜」


ミス・リンクの妖精コンテストでおキヌちゃんが優勝した。
おキヌちゃん、審査員一同に捕まり再起不能(リタイア)決定。


さらにマコラは町の中を逃げて、


「すいません道を教えてくれんかの」


「東京タワーは何処ですかいの〜」


「孫の婿に来ないか?」


「ああ〜、それはですね〜」


老人達に掴まり、キイは律儀に答えている間にマコラを見失う。
キイ、結局ガイドの代わりをさせられて再起不能(リタイア)決定。


マコラはそのまま逃げ、今度はどこかの屋敷の塀の中へと。
横島は悪いと思いつつ塀を乗り越えて侵入した。


「アネさん。この度は大変なことに…」


「組長さん、かならず仇はとりますぜ!」


ただ、入った場所は極悪会の屋敷。しかも組長の葬式中だった。


「おりゃー! 捕まえたぞこら!」


そして横島君はそんなことには全く気付かずに、マコラを呪縛ロープでぐるぐる巻きにしていた。


「おい…」


「何や! こっちは今忙し…」


横島が肩を叩かれ振り向くと、其処には


「「「地獄組のもんかぁー!」」」


各々の得物を構えたヤーさん達が横島を取り囲んでいた。
そして、横島の決断は早かった


「サイキック猫だまし!!」


眩い光で極悪会のヤクザ達は一瞬横島を見失う。そしてその隙に横島はマコラを脇に抱えて逃げ出した。


「おらー! 待たんかーー!!」


「いややー! 誰が待つかーーー!」


結局、横島は一つの組織を敵に廻して逃亡劇を繰り広げた。
そして最後に追い詰められ、サイキックソーサーを、


「サイキック忍法・木っ端微塵の術!」


地面に叩きつけて煙を舞い上がらせ。その隙に下水道に潜り込んで事なきを得たのだった。


「ぐふぅ、ただい…ま……」


それから数時間後、横島はボロボロのヨレヨレになりながら何とか家へと帰ってきた。


「マコラちゃ〜ん、良かったわ〜。もう迷子になっちゃ駄目よ〜。
横島君もありがとうね〜」


「い、いいってことよ…」


冥子のお礼に横島は満足げな笑顔とサムズアップを返して、ダウンした。


因みにキイとおキヌちゃんはまだ帰ってきていない…


せかいはまわるよどこまでも
〜〜因縁の対決?〜〜


〜横島視点〜


「ソッチは元気? そっか、なら良かった。」


今俺は、国際電話でナルニアにいる母さんと話している。
随分と久しぶりに聞く声だが、やっぱり変わってないなと思った。


『それでそっちはどうだい? キイ君に迷惑はかけてないだろね?』


「ああ、順調にやってるよ。因みに問題を起こすのは大抵キイ兄のほうだからな」


『そうかい。あんたも一度はこっちに来たらどうだい? 緑が多くて良いとこだよ』


「あのな〜。ジャングルしかないところに好き好んで行きたくは無いって」


俺は手にした写真を眺めながらそう答えた。いままでナルニアで撮って送ってきた写真は全部ジャングルの中でしか撮影されていない。


『其れで…彼女の一人でも出来たかい?』


「ちっくしょー! 分かってて聞いてるだろ其れ!」


『ほほほほほ、家の助六みたいになったら問答無用で『殺』るけど、せめて一人くらい彼女は作りなさいよ!』


「余計なお世話じゃー!」


俺はいまだ笑い声を伝えてくる受話器を本体に叩き付けた。

全く、人の気も知らないでアレコレ言いやがって。俺だって彼女くらい…

俺がズーンと落ち込んでいるところに、コンコンとノックの音が聞こえた。どうやら来客のようだ。


「お、誰か来たみたいだな。忠っち出て〜」


「うぃ〜…どなたですか〜?」


ちょっと気を落ちしながら俺は玄関の扉を開けた。

扉を開けると其処には褐色の肌、黒く長い髪、そして抜群のプロポーションの美女が立っていた。

うん、俺的美人コンテストの中では上位にランクイン確定だな。


「ん、あんた誰なワケ? ここは蒼河霊能相談所よね?」


「あ、ここがそうですよ。因みに俺は助手一号の横島忠夫です」


とりあえず仕事の用の言葉遣いで俺は受け答えをした。


「ああ、おたくが横島なワケね。キイから色々と聞いてるわけ」


「い、色々ですか……」


キイ兄が色々って何かいらぬこと言ってそうで怖いんだが…


「それで、キイはいるワケ?」


「あ、今呼んで来ますね」


う〜ん、こんな美人さんが知り合いなんてキイ兄って本当に顔広いな〜。


「ん〜、寝む寝む…」


「………」


俺は寝ているキイ兄を玄関先まで引き摺っていって、そのまま手渡した。


「どうぞ持ってっちゃってください」


「それじゃあ借りてくワケ」


美人さんは全く動じずにキイ兄を引き摺っていった。どうやらキイ兄の奇行には慣れているらしい。
キイ兄、一体どれだけの人にアホな事やってるんだろう?


それから一時間後、キイ兄は自力で帰ってきた


「キイ兄、今の人誰だったんだ?」


そういえば名前も聞いてなかった。まあGS関係の人なんだろうけどさ。


「ん、彼女は小笠原エミちゃん。ブードゥーからエジプトまで呪いのことなら何でもござれのスペシャリストだよ。でも本職はGSで、呪い屋は副業なんだって」


「呪い屋って、何か危ない人なのか?」


「んにゃ、呪いって言っても政府や国際機関からの依頼で悪党を懲らしめてるだけだよ」


あっ、そうなのか。呪いのイメージって何だか悪い方しかないからてっきり勘違いしちゃったよ。


「そういや、何の話だったんだ? もしかして応援要請?」


「せいか〜い。ちょっと人手が減ったから手伝って欲しいんだってさ」


何でもエミさんの助手が一人止めてしまって今大変らしい。けどそのためにまがりなりにも一流GSのキイ兄が助手としてカバーするなんて普通は無いよな〜。
まあ、キイ兄はあんまりそういうの気にしないしいいけどさ。


「あっ、そういや同じような依頼がもう一個あったな〜」


そう言ってキイ兄は引き出しの中から依頼書を一枚取り出した。
じゃあソッチは断るしかないかな。と、思ったんだが…


「そうだな、忠っち行って見る?」


「は? 依頼の要請なんだろ? それじゃあ俺が行くわけには行かないだろ?」


キイ兄への依頼要請なら普通除霊の共同作業だと思うんだけど…


「ああ、仕事内容は荷物持ちと簡単な補助だけで良いみたいだよ。何でも自分が下手に手を出すと大変になるからだってさ」


はっはっは、参ったなとキイ兄は頭に手を乗せて笑っている。キイ兄、それは信用されてるのか微妙なところだよ? 少なくとも褒められてはないし…


「相手もプロのGSだし、きっとためになると思うよ」


「ん〜、それじゃあやってみるかな」


「オッケー。一応おキヌちゃんも連れて行ってね。はい、これ依頼書ね」


俺はキイ兄から依頼書を受け取り、目を通す。確かに簡単な事しかさせないみたいだな。
そして俺は依頼主の名前を見てみた。


「『美神令子』………美神さん?」


俺はちょっと引っかかりを感じた。


次の日、俺は地図を頼りに早速美神さんの事務所へと足を運んだ。
ドアの前に立って、表札を確認。『美神除霊事務所』確かに此処だな。

俺は扉をノックした。暫くして扉が開き、一人の女性が出迎えてくれた。
亜麻色の髪をした、ボディコンスタイルの美女。


「いらっしゃい。貴方が横島忠雄君と幽霊のおキヌちゃんね」


その美女は、確かにあの過去に戻ったときの『美神』さんだった。
ま、まさか同一人物だったとは…


「え、えと…美神さんですよね?」


「えぇ、そうよ。あら、私のこと知ってるの?」


過去で一度会ってます。とは言えるはずもない。キイ兄が言うには『時空消滅内服液』で体験した過去が自分にとっての過去になることはないらしい。そうじゃないと自分の過去が二つになってしまうので、あくまでも平行世界のようなものを体験したに過ぎないんだそうだ。

と、言うわけで適当に誤魔化すことにした。


「ええ、キイ兄に色々と聞いていますから」


「ああ、キイにね……変なこと言ってたら其れは嘘だからね」


其れは重々承知してます。美神さんもキイ兄がどういう性格してるか熟知してるんだな。


「それじゃあ、まずはテストとして軽めの除霊を手伝ってもらうわ」


「了解です!」


こうして俺は期間限定で美神さんの助手をやることになった。

何だか新鮮…じゃないな〜。やっぱキイ兄で助手の仕事は粗方してるからかな?
まぁ、美神さんの除霊を見せてもらえるしよしとしようかな。


美神さんに連れてこられたのは廃ビル。事業を興したのだが、なかなか軌道に乗らず、そこを詐欺師に騙されてあえなく倒産して社長は自殺。
そして悪霊となって、今は周りの雑霊を集めて結構な数の幽霊がビルに集まっている。


「そこっ!」


そんな中美神さんはさまざまな道具を駆使して、霊達を確実に祓っていく。
その動きには無駄がなく、多少危険があってもすぐに機転を利かせて自分の有利な戦況に持っていく。

流石はキイ兄が薦めるGSだな。そんじょそこらのプロのGSとも格が違うや。

因みに俺の方は、美神さんが取りこぼした雑霊達を霊波を纏った拳で殴り飛ばしている。しかし、今のスコアは大体10匹ほど。その他は全て美神さんが祓っているのだ。その実力は確かに本物だ。

因みにおキヌちゃんは俺のさらに後ろの方で特性ポンポンを両手で振りながら応援してくれている。
その姿は凄く可愛いんだが、この除霊の現場では結構浮いているな。


「極楽に逝かせてあげるわ!!」


【ギャアアアァァァ!!】


美神さんの神通棍が悪霊の親玉を捕らえた。悪霊はそのまま真っ二つに切り裂かれ、美神さんの霊波に当てられ消滅していく。


「すげー。あっ、お疲れ様です、美神さん」


「美神さんカッコよかったです!」


「そう? ありがと。それじゃあ戻りましょうか」


う〜ん、クールビューティーだね。これがプロのGSと言うわけか…
俺はそう思っていたんだけど……


「ふっふっふ、今日もぼろ儲けね。アレで一億円は良い仕事だったわ〜」


帰り道、車を運転しながら美神さんが満足そうな顔でそう呟いた。
今のは軽いテストのための仕事じゃなかったのか?
確かに軽いと言いながら凄い霊の量だったが、一流GSともなればアレくらいが軽いのかと思っていた……


「美神さん…軽い仕事じゃなかったんですか?」


「軽いわよ〜。今日はあの一軒だけだもの」


其れはつまり、量が軽いのであって質が軽いわけではなかったわけですね?
こ、これがキイ兄の言っていたプロのGSの手口なわけか…恐るべし。


「それにしても、横島君もなかなかやるわね。アレだけの荷物を持ちながらアレだけ動けるんだから」


「キイ兄の助手で慣れてますから」


アレだけの荷物って計40キロちかくある荷物のことか?
はっはっは、舐めちゃいけないよ。昔の武士は100キロ近くの鎧を着てたんだって言って、何処から持ってきたのか両手両足に各20キロあるリストバンドを付けられてフルマラソンさせられたんだ。
アレくらいで参ってちゃとっくに死んでるって、マジで。


「そうね。どうせなら私のところで働かない? 時給500円位なら出すわよ」


美神さん、それ法律で定める最低賃金に届いてないっすよ。それで本当に引き抜く気なのか? きっと冗談だよな? 冗談と取るぞ? よし!


「いえ、引き抜きよりも恋の駆け引きを! 強いてはこの後ホテルにでも!!」


「行き成り前工程飛びすぎよアンタ!」


パシンと笑いながら頭を叩かれた。叩かれたと言っても、思いっきりフロントガラスにぶつかって血を流しながらずり落ちるくらいの威力なのだが…


「やっぱこれやー! この突っ込みが欲しかったんやーー!!」


やはり成長しても変わらず、いやそれ以上にテクが上がっている突っ込みに俺は歓喜した。


「行き成り如何したのコイツは?」


「えっと、お笑いに飢えてるんですよ…」


美神さんとおキヌちゃんが呆れているようだが、そんなに変か俺?


〜ナレーター視点〜


横島とおキヌちゃんが美神の助手になってから数日、今日は地獄組からの依頼を受けてその組長の屋敷へと来ていた。


「私の見たところ、此れは霊では無くて呪いの類ね」


「呪い…! では極悪会の連中が……」


「そちらとは現在抗争中でしたわね。しかし違いますわ」


「あ〜、極悪会って最近組長が死んだとこだっけ」


横島は思い出して、苦笑いを浮かべながら呟いた。


「そうだ! 俺のところには毎晩その組長の霊が…」


嵌められたんだと叫びながら地獄組の組長は部屋を飛び出していった。随分と無用心なことである。
まあ、呪いの身代わり人形は作ってあるのでこの場にいる必要は無いので良いのだが…


「アンタ、極悪会となんかあったの?」


横島の微妙な物言いに美神が尋ねた。横島はこれまた苦笑いしながら頷いて、先日あった騒動のことを話す。


「アンタ、よく生きて変えれたわね」


美神は呆れながら呟いた。そりゃ、単身で極道の者に喧嘩を売るなんて正気の沙汰じゃないだろう。
それから、横島はそうなった理由を話す。つまり冥子絡みのことだと言った訳だ。


「それは……気の毒だったわね」


今度は哀れみの目で肩を叩かれた。だがその目には自分に来なくて良かったと物語っていたりする。
どうやら美神も冥子は苦手のようだ。

美神は気を取り直すと、今回の依頼について考察し始めた。


「さて、今回は恐らくエミの仕業ね。どうせ警察と組んで組織つぶしを目論んでるんでしょう」


「エミさんって…小笠原エミさんですか? 確か呪いのエキスパートでしたっけ」


「あら、横島君エミのこと知ってるの?」


横島が先日エミが事務所を訪ねてきて、キイに応援を頼みに来たことを教えた。
其れを聞いて美神の顔色が悪くなる。


「其れはつまり…キイは今もエミを手伝ってるってわけ?」


「ええ、そうですね…」


「え、エミの奴〜〜!!」


美神は拳を握り、その叫びが部屋の中で木魂した。


美神の予想通り、今回地獄組の組長に呪いを送っていたのはエミだった。
現在は組長自宅の近くの林の中に潜んでいる。


「ふふっ、思ったより早い対決になったわね」


エミはトランシーバーを片手に満足げに笑みを浮かべた。
そして止めてあるバンの中に入ろうとしたとき、一度振り向いて…


「おたくはそこを動かないでよ!」


「いや、動きたくても動けないって」


エミの言葉に、其処にいたキイはそう答えた。
現在のキイの状況は、体全体を荒縄でぐるぐる巻きにされて変な魔法陣の上に転がされていた。

そんなキイを無視してエミはバンの中で呪術用の衣装に着替えてくる。


「ふっふっふ、あんたを生贄にすれば強力な呪いが完成するワケ」


「いや、だからって無理矢理ロープでぐるぐる巻きは無いんじゃないエミちゃん?
無理矢理するのはベッドの中だぶぎゅる!


キイが全てを言い終える前にエミの脚がキイの顔を踏みつけた。
馬鹿なことを言ってるんじゃないと、キイは口にガムテープを張られた。


「さあ、令子…これを防ぎきれるかしら?」


エミは、呪いの儀式を開始した。


「! 来たわ!」


突然身代わり人形が砕け、そこからずぶずぶと黒い塊が盛り上がってくる。
其れはだんだんと形作り、


「き、キイ兄!?」


「やっぱり! エミはキイを呪いの生贄に使ったのよ!」


「えっ、それじゃあ…」


「かなりマズイ状況ね」


一流GSを使った一流の呪い屋の呪い。考えられる限りこれほど強力な呪いはそうは無いだろう。
美神は素早く神通棍を取り出し、霊力を込める。


「先手必勝よ!」


美神の一撃が、『呪いキイ』を真っ二つに切り裂いた。


「おお! すげぇ!」


かなり強力な呪いなのに、其れを真っ二つにした美神の実力に横島は素直に感動していた。
だが、呪いの方はふらふらとしながら窓に近づき、行き成りカーテンを引きちぎった。
一体何をすると思いきや、其れを頭からすっぽりとかぶって…


「1! 2! 3ーー!!」


掛け声と共にカーテンを取り去る。するとさっきまで真っ二つだった呪いキイは完璧に一つにくっついていた。
因みに、今掛け声をかけたのは横島である。


「おお! 相手もやるな〜」


「って、あんた何カウントまでしてるのよ!」


横島は美神に後ろから引っ叩かれた。

その瞬間、呪いキイが美神に向かって踊りかかってきた。


「ええい! やってやろうじゃないの!」


美神はその攻撃を神通棍で受け止める。
だが、呪いキイの攻撃は予想以上に重く、美神の体は徐々に後ろへと押されていく。
美神はまずいと判断したのか、破魔札を一枚投げつけ、一旦下がる。
破魔札は呪いキイに張り付き爆発するが、大したダメージにはなっていなかった。


「こりゃマズイは! 一旦退くわよ二人とも!」


美神はそのまま扉から廊下へと転がり出る。


「ら、らじゃー!」


「あっ、待ってください!」


その後を横島とおキヌも追い、その後で呪いキイも後を追い始めた。


一方、キイの本体の方はと言うと…


「暇だな〜。暇すぎる〜」


魔法陣の上で胡坐を書きながらそう愚痴っていた。
因みにガムテープは自力で剥がしていた。
どうやってかって? 人間その気になれば口元に足も届くとだけ言っておこう。


「おたく、緊張感てものが無いワケ?」


「ふっ、そんなものアンデス山脈の麓に置いてきたよ。行ったこと無いけどさ!」


「あっそ…」


エミの冷たく返した。今までの付き合いでキイとの接し方を学んだのかもしれない。
だがしかし、キイはたとえ突っ込まれなくても自動的にテンションが上げる無駄に迷惑なスキルを持っていた。


「ふっふっふ、それじゃあ此れでどうだー!」


そう言ってキイは何処からどうやって取り出したのか、カメラを足で挟んでいた。
そして、足で器用に操作してシャッターを切る。勿論被写体は踊っているエミだ。


「ちょ、ちょっと!」


「はっはっはー! 激写あぁぁ激写あぁぁーーー!」


キイは狂ったようにシャッターを切りまくり、そしてフィルムを取り終えると器用にフィルムを交換する。勿論足で!


「何でそんなに無駄に器用なワケおたくは!」


写真をとられ続けている所為か、キイの突拍子の無い行動の所為か。エミは少し本気で叫んでいる。


「怒った顔も良いよ〜ほらほら〜踊り止めたら呪い解けちゃうよ〜」


「くっ!」


悔しがるエミをよそに、キイはシャッターを切り続けた。もうフィルムの本数が三本目に突入しそうな勢いだ。


キイがそんなおバカなことをしているとき、美神・横島・おキヌの三人は今だ屋敷の中を走り回っていた。


「ど、如何するんですか美神さん!」


「今考え中よ!」


「もぐもぐ…」


走りながらおキヌが叫び、美神が考え、横島が途中の部屋で失敬したバナナを食べる。


「何やっとるかアンタは!!」


「ああっ! 堪忍や〜、腹減っとったんやーー!」


美神に殴れて横島が謝っていた。
横島の持っていたバナナの皮が宙を舞い、ポトリと呪いキイの前に落ちた。
そして何故か其れをじっと見つめる呪いキイ。


「ど、どうしたのかしら?」


美神のほうも不思議そうな顔で様子を見ている。
そして呪いキイは何故か一旦距離を取る。そしてくるりとこちらに向かうと、全速で走ってきた。そして、


バナナを踏んで、滑って、転んで、壁に激突した


そんな黄金コンビネーションに呪いキイはかなり満足げである。


「ま、まさかバナナの皮を使ったベタなネタをあそこまで忠実に再現するとは…芸人が一度は夢に見る最高のシュチエーションじゃないか!!」


そして其れを見ていた横島が何故か興奮していた。


「ん、待てよ…そういうことか!!」

そこで横島何か閃いたのか、行き成り部屋を飛び出し、すぐに帰ってきた。
その手には高級そうな傘と、綺麗な壷が握られている。

横島は傘を呪いキイに投げつけると、其れと同時に壷を天井擦れ擦れまで投げ上げた。

その瞬間、呪いキイは傘を開き傘でその壷を受け止める。そしてそのままくるくると傘を廻しだした。壷のほうは傘の上でコロコロと転がっている。


「な、何やってるの?」


行き成り傘回しを始めた呪いキイに美神は言葉も無いようだ。


「サイキックインパクト!」


そしてその瞬間、横島は容赦なく呪いキイに霊波の衝撃をぶちかました。
呪いキイは其れを諸に受け、壁に叩きつけられる。


「やっぱり! 美神さん、アレの弱点分かりました!」


「な、何なの?」


ちょっと予想が出来るだけ、美神の声が上ずっている。出来れば外れていて欲しいのだが…


「アレの弱点は『笑い』です」


「そ、そう……」


見事に的中していて、むしろ全く喜べなかった。あまりにもアホらしすぎて…


「アレを一撃でやっつける方法は一つだけです!


美神さん! 思いっきり突っ込んでやってください!! そう『なんでやねん』と!!」


「何でそうなるのよ!」


流石の美神も反論する。しかし、横島は負けじと説得を開始。
如何にキイが笑いのときにその力が下がり、無条件で吹き飛ぶかを…
其れを聞いた美神は…


「それでも出来ないものは出来ない!」


やはり答えはNOだった。
其れを聞いた横島は、何故か呪いキイと並んで


「やれやれ…」


一緒に手を横に広げて首を横に振っていた。
そのあとやれ意気地なしだとか、仕事のために私事を挟んじゃいけないといいたい放題である。

そして、呪いキイがそっと横島の耳に口を近づける。


「えっ…な、何! そうだったのか!?」


行き成り驚愕の声をあげる横島。そして美神のほうを…主に胸の辺りを見て、


「その胸シリコン入りやったんかーーー!!」


「悪質なデマを流すんじゃなぁぁぁい!!!」


神通棍最大出力の突っ込みが横島と呪いキイに直撃した。


「おっ、逆流してくる…」


キイがそう言った瞬間、キイの足元の魔法陣から呪いキイがこちら側に逆流してきた。


「なっ! まさかこの呪いが返されるなんて!」


よほど自身があったのか、エミは口惜しそうな顔で戻って来た呪いを睨みつける。
そして、呪いに続いて魔法陣から美神・横島・おキヌの三人も飛び出してきた。


「令子!」


「さっきはよくもやってくれたわね。でも現場を押さえれば呪いを破るのなんて簡単よ!
キイ! さっさとその魔法陣から出なさい!」


そう命令する美神だが、


「いや、ロープでぐるぐる巻きで動けないんだけど?」


キイは至極まともなことを返す。確かにその状態では動けないのが普通だろう。


「あんたなら如何にでも出来るでしょ!」


そしてなかなか理不尽なことを言う美神。エミ・横島・おキヌも流石にその言い様にそこまではと思っていたが…


「分かったよ。ちょっと待ってね…」


そう言ってキイは、


骨を外し始めた


――ここからは音声のみでお楽しみください――


ゴキ! ボキボキ!! メキ!バキ! ゴリュリュッ!!


「きゃー! キイさん腕が変な方向にーー!!」


「ん、こっちか?」


コキッ! パキッ!!


「今度は足首が正反対じゃないのよ!!」


「むぅんっ!」


ゴメキャ! ガゴッ!


「うぷっ、首…180度反対なワケ……」


「こっちかーー!」


ギュリュゴキン!!


「首回すの反対やーーー!!」


「全く…皆注文が多いな〜」


「「「「キイ(兄)(さん)のことでしょうが(なワケ)(だろ)(です)!!!」」」」


――此れより通常に戻ります――


「ふぅ、良い汗かいた〜」


そう言って色んな意味で奇跡のロープ脱出を成功させたキイは腕で額をぬぐっている。
その後ろのほうでその現場を目撃していた四人が青い顔で下を向いていた。


「こ、これで呪いは破れてアンタに返るわ…」


「くっ……おのれぇーー………」


何とかやり取りを続けようとするが、今ので大分まいってしまったのか二人とも言葉に覇気が無い。

エミは返ってくる呪いに身構えるが…肝心な呪いの方は……


「ほ〜ら、さっさと戻れ〜〜」


【ゴギググゲガァァァァァ!?】


キイが呪いキイの額にお札を貼って、ゆっくりと影に沈めていた。
呪いの方は足掻いているがそのまま底なし沼のように影へと沈んで行き、最後に突き出された手がスポンッと影に取り込まれた。


「「「「………」」」」


其れを見ていた一同は、もう其れに対して何か言葉を発す気も失せていた。


「令子、今日のところはこの辺で引き分けにしとくワケ。てかそうして欲しいワケ…」


「ええ、私も異論無いわ…。私もこれ以上は勘弁よ…」


結局、今回の美神令子と小笠原エミの勝負は、キイの一人勝ちとなるのだった。


「えっ、もう終わり? まだ続けないの?」


キイのほうはまだ物足りないみたいだが……


「「「「続けない(わ)(ワケ)(です)!」」」」


勿論のこと皆から却下された。


〜おまけ〜


「こ、これはどういうことじゃーー!!」


地獄組組長の屋敷は、美神達と呪いキイの鬼ごっこでほぼ半壊状態になっていた。

因みに此れは除霊の一環だと美神は支払いを拒否。
エミのほうは政府からの依頼であるので勿論のこと情報は漏れていない。

結局地獄組組長が自分で修繕費を払う羽目になったのだった。


「あれ? キイ兄その高そうな傘と壷は?」


「ああ、これ? 自分の呪いが持ってたからそのまま貰ってきた」


「それって……」


心当たりがある横島だあえて突っ込まないことにした。
それで良いのか? と聞くのは野暮と言うものだ。どうせ返ってくる返事は決まっているんだし。


「忠っち、犯罪はバレルまで犯罪じゃないんだよ」


「情操教育に悪いことを平気で言うな!!」


つまりはそういうことである。




あとがき


毎度お馴染みレス返しです!


>ト小様
ありがとうございます。自分でもちょっと多すぎるかなと思っているのですがそう言ってもらえて幸いです。
女性との絡みは頑張って作っていきます。ただ初めてなものですから何処まで出来るかわかりませんが(汗)


>黒覆面(赤)様
ふふふっ、それはまた次の機会にであります!
それまでお待ちくだされ!


>ジェミナス様
>十分濃い一日だと思うけどそれが普通なのか^^;
普通なんですね。仕事は重労働かもしれないけど学校ではほぼ其れが普通です(笑)
救ってくれたのは実は<検閲削除>…だめですまだ言えません!


今回は美神さん&エミさん登場!
やっとこさ重要なキャラ出せたよ(汗)
このまま美神さんには突っ込みキャラになって欲しいな〜
この調子でいけば突っ込み・ザ・イヤーに輝けるはずだ!

これでプロGSの三人娘は出たので、キイとの出会いも書いてみたいかな〜
まあ、余裕が出来たら考えて見ます。

さて、次はやっとブラボーブラドー編かな?
ちょっと構想練りきれてないので時間かかるかもです。
兎に角、笑えるように頑張ります!


それではこの辺で失礼いたします…

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