今日は学校もバイトもない静かな休日。私はヨコシマの部屋で実体化して本を片手に料理の勉強をしていた。たまにはこんな日も必要よね。
持続時間も伸びてきたので、簡単なものならつくれそうになってきたのよ。
エプロンなんかつけてると2回に1回は「漢の夢じゃーっ!」とか言って襲われるんだけどね。もう、ちょっとは自制しなさい!きゃあ。
ヨコシマは「和食」というこの国の郷土料理が好みなので、まずはその基本「みそ汁」という物をつくってる最中。おキヌちゃんに教えてもらえばすぐ上達するかも知れないけど、心優しい恋敵に騙し討ちのようなことはしたくないから、とりあえず普通に食べられればいいという所で妥協してる。
そこへ扉を叩く音が聞こえた。
――――!!?
その音は私の霊感に激しく響いた。開けてはいけない、という警鐘が心の中で鳴りまくるけど、家主のヨコシマには残念ながら通じなくて、
「はい?」
彼が開けた玄関の前にいたのは、セーラー服を着た女の子だった。おとなしくてやさしそうな顔立ちで……胸の辺りが妙に突き出てるのが気になるけど、まあささいなことよね。
「あの、私、隣の花戸と申しますが、えっと……」
「隣? ああ、浪人の後か……引越しの挨拶ですか? まあ入って入って」
美少女と見てさっそくコナをかけ出すヨコシマ。私がいること忘れてるんじゃないでしょうね?
しかし女の子は中に入ろうとはせず、
「あ、あの……初対面なのにすごく恥ずかしいんですけど、もし良かったらお米を少し貸していただけませんでしょうか……?」
「へ、お米?」
確かに隣人とはいえ普通初対面でそんなこと言わないでしょうね。炊飯器が壊れたとか……いえそれなら外食すればいいことだし。
「別にいいっスけど……何かワケでも?」
「……い、いえ、ごめんなさい! 何でもないんです!!」
ヨコシマが事情を聞こうとすると女の子は急に顔を赤らめ、走って帰ってしまった。
「あ、ちょっと……!? うーん、何か分からんが隣にあんな可愛いコが来たのか……」
「何か言ったヨコシマ?」
他意はないけど、その鼻先にみそ汁入りの鍋を突きつけてみた。
ヨコシマはびくっと震えて、
「あー、いや、何でもないぞ。何か事情でもあるんかなーとか思っただけで」
「まあいいわ。もうすぐ出来るから待ってて」
「ああ、すまんな」
ご飯とみそ汁以外は出来合いのものなんだけど、以前のヨコシマはインスタントや店屋物の類ばかりだったので、それよりはましになってると思う。
ただ私の『身体』は時間的に保たないから一緒に食べることはできないのが残念ね。
…………
……
『貧乏神!?』
少しだけ眠っていた私がその異様なエネルギーの動きにはっと眼を覚ますと、そこにはヨコシマと花戸さん、彼女の母親らしき女性と――メキシカンな帽子をかぶりコテコテの関西弁を喋る巨大な貧乏神がいた。
『どういうこと!?』
ヨコシマと花戸さんの説明によると、彼女の曽祖父が悪徳高利貸しで、罰が当たってこの貧乏神にとり憑かれたのだが、被害者の恨みが強すぎたせいで今も花戸家に括られているらしい。
それでもあと2、3年で消える筈だったのに、ヨコシマが迂闊にも栄光の手で攻撃してしまったため、逆にそのエネルギーを吸収して強力になった、つまり年季が伸びてしまったのだ。
貧乏神ね……一応は神の端くれだから(小竜姫さん達とはまた別の存在)、悪霊や妖怪と同じやり方で祓うことは出来ないわね。上級魔族である私なら倒せると思うけど、今の私の実体化はヨコシマの霊力がエネルギー源だからダメかも知れない。
「ルシオラ、何とかなんねーか?」
ヨコシマが情けない声で聞いてくるけど、
『うーん、私がやっても同じ結果になるかも知れないし、美神さんに聞いてみた方がいいと思うわ』
「そだなー……そーすっか」
で、美神事務所を訪ねてみたところ、すったもんだの末に居合わせた西条さんが、
「簡単さ。男らしく責任を取って彼女と結婚するんだ!」
――戦争の時間なのね?
私がアイコンタクトを送ると西条さんはびくっと身を竦めて、「違う、ちゃんと理由があるんだ!」と悲鳴じみた心の声を返してきたのでとりあえず開戦は保留すると、
「そうか、小鳩とこいつが夫婦になれば2人は身内や。少なくとも横島にもろたエネルギーは中和される……!」
なるほど、この貧乏神は元々外からのエネルギーでとり憑かされてるわけだから、身内であれば「外」じゃないので無効になるというわけね。でも、だからって……。
美神さんとおキヌちゃんもかなり反対したけど、当の小鳩さんが、
「横島さんって素敵だなって思いますけど……」
などと頬を染めながら言ったせいで、事態は一気に加速してしまった。
こうして、ヨコシマと小鳩さんの結婚式が挙行されることになった。
日本の法律では男性は18歳未満は結婚できないので、あくまで儀式ということだけど……問題は彼女がヨコシマにかなり好意を持ってるってことよね。
それにヨコシマが彼女の身内になったらせっかく私が彼の収入増につとめてきたのが台無しになっちゃうし……。
その辺をついヨコシマに愚痴っちゃったんだけど、
「ごめんなルシオラ。でも俺の責任だし2、3年で終わるっていうし、お前のこと見捨てるつもりはないからさ」
なんて言われたからそれ以上は何も言えなくなった。
その数日後、私達は式を挙げるために唐巣さんの教会に勢揃いしていた。
蝶ネクタイを締めてタキシードを着たヨコシマの隣に、ウエディングドレス姿の小鳩さんがいる。ヨコシマはガチガチに固くなってるけど、小鳩さんは小さく微笑んで嬉しそうにしていた。
くくっ、このひとヨコシマの良さに気づいてるのね……。生まれたときから貧乏だと人を見る目もつくのかしら……。
ところでそのドレス胸元が開きすぎなんじゃないかしら? いくら美神さん並みの戦力を持ってるからってそう見せつけなくても……くっ。
神父は真面目な人だからこんな茶番じみた儀式には反対で、「やめたまえ君達、これは神への冒涜だよ!」と叫んでたけど、その貧乏「神」にどこかへ連行されてしまった。何だか哀れね……。
西条さんが神父のかわりに聖書を広げて「汝、病めるときも健やかなるときも〜〜」なんて言ってたけど面倒になったのか、
「もー誓いはいいから指輪を交換しよう!」
1番大事なことなんじゃないかしら? しないに越した事はないけど……。
美神さんが不機嫌そのもののしかめっ面でヨコシマに指輪を渡す。
受け取ったヨコシマが小鳩さんの薬指にはめると、
カッ! シュウゥゥゥ……。
閃光と共に、貧乏神の巨体はしぼんでいった。
――ただし、ヨコシマと同じくらいの身長に。元が幼児ぐらいだったんだから完全ではないわ。これでは2、3年というわけにはいかないでしょうね。
でも縮んだということは、2人はある程度は夫婦と認められたということで、
「うう……美神さんやおキヌちゃんならともかく、ぽっと出の脇役にヨコシマの妻の座を奪われるなんて……それもこれも」
私は実体化すると貧乏神の後ろに歩み寄って、その首根っこをがっしと掴んだ。
「な、何するんや、ルシオラはん?」
振り向いた貧乏神の表情が何故か凍りついたけど、無視して教会の外に引っ立てていく。
「おまえがいるからよね……大丈夫、今から祓ってあげるから」
貧乏神を放り捨てて、
「このGSルシオラがジュデッカに逝かせてあげるわ♪」
「九頭蛍閃!」「アシュ様奔烈!」「刺し穿つ蛍の槍!」「蛍ストラッシュ!」「横島彗星拳!」「1211式・八稚蛍!」「十八分割!」「七蛍守護神!」
ブ ロ ー ク ン ・ ア シ ュ タ ロ ス ・ オ メ ガ
そしてとどめ、「壊れたアシュ様・超特大版ッ!!」
………………
…………
……
細かい描写は省くけど、私の総攻撃を受けてなお貧乏神は生きていた。それも3倍くらい大きくなってる。当初の危惧通りになったわね。
それはそれで予定通りなんだけど、でも心身ともにぼろぼろになったように見えるから、
「どれかは効いてるということよね。もう1周やってみようかしら」
「ま、待ってくださいルシオラさん!!」
私がどの技が有効だったのか考えていると、騒ぎを聞きつけたのか小鳩さんが駆け寄ってきた。
「び、貧ちゃんは家族なんです! そ、そんなひどいことしないで下さい……!」
目に涙がいっぱい溜まっている。悪気はないとはいえ貧乏神を家族と呼ぶなんて本当にいい娘なのね。でもヨコシマを渡すわけにはいかないのよ……!
ちょっとしおらしい表情をつくって、
「私は人に害なすものを退治しようとしただけよ。でも逆効果だったみたいだから……私も責任を取らせてもらうわね」
というわけで、私は西条さんに用意してもらっておいたウエディングドレスを着て、満面の笑顔でヨコシマの前に出た。
最初に西条さんが結婚を提案したあと彼と話し合って、私が貧乏神を退治できれば良し、駄目だったら大きくなるから責任を取って結婚する、ということになっていたのよ。ヨコシマが小鳩さんの身内になった後で彼と結婚すれば私も彼女と身内になるから貧乏神は小さくなるというわけね。さっそく条約が役に立ったわ。
「さ、指輪の交換よ、ヨコシマ! いえその前に誓いの言葉ね。神様の前で高らかに誓いましょう!!」
「お前……全部分かってたろ?」
しかしヨコシマは憮然としていた。私と結婚するのが嫌なの?
……というわけじゃなくて、単にやり方があざとかったから素直に頷けないんだと思うけど。
「ごめんなさい。でもこのままじゃヨコシマを取られそうだったんだもの。退治できないのならこうするしか……」
これは、本当。
だから……。
「……。わ、分かったよ。じゃ、じゃあ指輪の交換な」
想いは本物の私にそうきつく怒ることもできず、困ったような顔つきながらヨコシマは指輪を私の指にはめてくれた。
さすがに美神さん達の前で誓いの言葉とかキスとかは無かったけれど私はそれでも満足。
その美神さんとおキヌちゃんはぐぎぎぎぎっ、と唇を噛んでるけど今から私の真似をするほどの踏ん切りはつかないみたい。代わりにヨコシマが、
「みっかみすわ〜ん! こうなったら美神さんも一緒に4人で幸せな結婚生活をはぐしっ!」
バカとしか言えない台詞で美神さんに飛びかかって、彼女の制裁を受けて沈黙した。んもう。
その後すぐ私の実体化も時間切れになったので、式はそのまま終わってしまった。
私が起きたとき、ヨコシマは小鳩さんの家にいた。小鳩さん母娘と貧乏神はもちろん、美神さんとおキヌちゃん、西条さんまでいる。
貧乏神は身長2m以上あった。最初にヨコシマが攻撃したときよりは小さいけど、これじゃ根本的な解決にはなってないわね。
「やっぱ、あんな式だけやと元の大きさには戻らんなー」
「困ったねえ」
「て、てめえらなぁぁっ!」
貧乏神と西条さんはお気楽そうにしてるけど、ヨコシマは当事者だから笑ってはいられない。美神さんとおキヌちゃんはむっつり黙ったまま。小鳩さんのお母さんは小鳩さんがつくったご飯をひたすら口にかきこんでいる。1人娘の結婚とか貧乏とか気にならないのかしら?
「やっぱし……ほんまに結ばれなあかんのとちゃうか?」
「「「『!!!』」」」
ヨコシマが盛大に鼻血を吹き出し、そしてちらっと小鳩さんの顔を見る。
小鳩さんは視線が合うと真っ赤になって目をそらしてしまったけど、
「『あんまり嫌がってない!?』」
一気にボルテージが跳ね上がるヨコシマ。でも反対側からのすさまじい冷気に気づいて振り向いた瞬間に気分は逆転したみたい。
そこには吹雪をバックに背負った2人の夜叉がいたから。
しかし美神さんは何も言おうとはせず、おキヌちゃんと西条さんを促して出て行ってしまった。
……どういうつもりかしら?
それはともかく。とりあえず夕食の続きをして一休みしていたら、今度は美神さんが1人で現れた。
「あ、美神さん。どうしたんスか?」
「ルシオラ、ちょっと出て来てくれる?」
『え、私?』
理由は分からなかったけど言われた通り実体化した私に、美神さんはごにょごにょと耳打ちした。
「……分かったわ。そうね、ヨコシマなら正しい答えを選べると思う」
「じゃあ頼むわよ」
「ええ」
美神さんがヨコシマに近づいてバンダナを外す。私は貧乏神を組み敷いて首にかけていたがま口を取り上げた。
「な、何する気や2人とも? ま、まさか試練を!? や、やめんか危険やーーー!」
貧乏神の言葉は無視して、
「さっ、ヨコシマ今日は3人で初夜よ。いらっしゃい」
「ルシオラーー!! 今夜は寝かさんぞぉ! もちろん小鳩ちゃんもな!」
ヨコシマが疑いもせずに突貫してくる。私はがま口を開けてその中の超空間にヨコシマを吸い込ませた。
これが貧乏神を退治するための試練。中で示される2つの出口のうち、「赤貧のドア」を選べば貧乏神は福の神に変わるが、「裕福のドア」を選べば永久に取り憑かれてしまう。
答えを知った者は挑戦権を失うが、貧乏神に取り憑かれた者が裕福を望まないわけがない。非常にリスクの高い賭けだと言えるでしょうね。
でも、私と美神さんはヨコシマのことを知ってるから。
「「だって、あいつ、バカだもの」」
そして予想通り。
ヨコシマががま口から飛び出して来ると同時に閃光がひらめいて、貧乏神は福の神に生まれ変わったのだった。
その後試練の中身を知ったヨコシマとひと悶着あったけど、まあ私達がそんな深刻なケンカするわけもないし。
ところで法的な結婚はできなくても、式を挙げて一緒に住めば事実婚というものは可能よね? いえ、可能なはずよきっと。小鳩さんのことは置いといて。
だからヨコシマ。これからは夫婦だからね!
――認識は全然なさそうだけど。
――――つづく。
あとがき
同じ状況を描いた別のSSでは不注意で攻撃してましたが、ここのルシオラは計画的にやってます。
だからって黒いわけじゃないですよ? たぶん。
ではレス返しを。
○ゆんさん
>なんかこのまま独立したほうがほとんでの人にとっていいような?
ルシはアシュ戦及び高卒後に独立というビジョンを持ってるようです(ぉ ピートとタイガー以外は社員になりそうですし。
>夫婦ってまだ結婚してませんよ?ルシオラさん?
今回式を挙げてしまいましたので、野望に1歩近づきました(ぇ
○眞さん
>給料を使い切ったころ、法人税と所得税と年金の請求がくるのでありましょうな
ちがいますよぅ、経費の中に税金は含まれてます(16話本文参照)。
ただあの時点で具体的な金額は分からないので、上納金込みで7割残せばいいだろう、という計算を彼はしたのですよー。
○貝柱さん
>0が2つどころか3つ増えてもおかしくない?
現場に行ったときは別途歩合とか危険手当が出るのでしょう。
現状もそうなってますから。
○ジェミナスさん
>もう原作みたいな状態では横島を縛れませんねー美神さん、何たって天下の六道が引き抜こうと見張ってる訳ですからね
そのうえ理不尽な暴力はルシオラに阻止されるので尚更だったりしますw
もっとも横島君は金銭ではあまり動かなさそうですが。
○なまけものさん
>閃走系だけでなく閃鞘系の技とか使えそうだ
剣も装備してますからねぇ。十分可能そうです。
○黒覆面(赤)さん
小鳩ちゃんは今回です。西条がいないと成り立ちませんから。
>西条さん
フェンリル編辺りでは活躍……できるといいなぁ(ぉぃ
○MASAさん
>神装術状態の横島って飛ぶ事出来るのかな?
雪之丞と勘九郎が飛べる以上、横島も飛べると思います。
ただ体重は消えないようなので、影法師そのものほど高速にはならないと想定してます。
○Raysさん
>神装状態なら常に超加速で移動できるとなると、ほぼ無敵ですよね
そうなんです(^^;
ただし神装横島の加速はあくまで運動能力の向上によるもので、小竜姫のように時間に干渉はしてませんが……。
だから足がもつれたりするわけで、その代わり特別な消耗はしないという一長一短があります。
○遊鬼さん
毎度励ましのお言葉ありがとうございます♪
>西条さん、結局あなたは噛ませ犬だったのですね(w
本当は美神が驚くほどの実力のはずなんですが……。
相手が悪かったです。横島君じゃなくてルシオラが(ぉ
雪之丞は次回再登場の予定です。
ではまた。