〜キイ視点〜
今日は依頼もなくて比較的暇な日だ。
そうだな、こういう日は…世界の株式を混乱させてみようかな?
けどそういうことすると忠っちが怒るんだよな〜。前もちょっと悪ふざけして世界の油田を一時的に止めてみたらしこたま殴られてしまった。
ニュースでも大きく取り上げられてたし結構面白かったんだけどな〜。
「キイさ〜ん、お客さんですよ〜」
おキヌちゃんの声が聞こえる。けど今日誰か来る予定なんてあったかな?
とりあえずあがって貰うことにした。
そしてやってきた今日のお客さんとは、
「キイ君、こんにちわ〜」
冥子ちゃんだった。礼儀正しく挨拶してるみたいだけど全然見えない。
何故かって?
だって、行き成り現れた式神達に襲われて、今は上半身がビカラのお腹の中なんだなこれが。
いい加減会うたびに食べるのはやめて欲しいな〜。
十数分してやっと解放された俺はおキヌちゃんの淹れてくれたお茶を冥子ちゃんと一緒に飲んでいる。
「それで? 今日はどうしたの?」
「実はね〜。ドクター・カオスが日本に来てるの〜」
ドクター・カオスって確か千年以上生きている錬金術師だったね確か。
けど何でまた日本に来たんだろ? それに何で冥子ちゃん知ってるんだ?
「実はこないだ偶然空港で会ったの〜〜! サインもしてもらっちゃった〜〜」
「サインって…まあそれは良いとしてそのドクター・カオスがどうしたの?」
「それがね〜。大変なのよ〜」
冥子ちゃんが言うには、ドクターカオスは完成した秘術を実験に来たらしい。
しかし秘密と言いながら秘術とは魂の交換をするもので、しかも標的は霊力の高い誰かと自分でばらしている。
ボケてるのかなドクター・カオス?
「うん、それでね〜。心当たりはいないかって聞かれたからキイ君のこと洗いざらい話しちゃったの〜」
「うぇ!? 何でまた自分なの? 令子ちゃんとかエミちゃんでもいいんじゃない?」
「だって〜、二人は何時も忙しいし〜キイ君よく『自堕落に週休五日だよ〜』って言ってたからいいかな〜って思ったのよ〜」
冥子ちゃん、それは話していい理由になってないよ。うん。
しかし、冥子ちゃんとかおキヌちゃん相手だとボケられないな〜。
ボケたら突っ込まずにそのまま乗りっぱなしになりそうだし…
「そういえば横島君はどうしたの〜? お出かけかしら〜?」
「実は、昨日から帰ってきてないんですよ。キイさんは心配要らないって言うんですけど」
冥子ちゃんの質問におキヌちゃんが答える。
そうだな〜。忠っちはボケキャラだと言う割りに突っ込み上手だしな〜。
早く帰ってこないかな〜。
ん、噂をすれば影かな?
「ただいま〜」
忠っちが帰ってきた。うん、やっぱり忠っちの気配は覚えちゃったな。
けど、何だか変だな…忠っちの中の気配が変だな〜
「ん〜、忠っち。フランス革命は何年の何月何日だっけ?」
「何だ行き成り? 1789年の7月14日だろ?」
うん、正解だ。
その時流し場からお皿の割れた音がした。どうやらおキヌちゃんがお皿を割ってしまったらしい。
おキヌちゃんの方を見ると驚愕を隠せずカタカタと体が震えている。
「そ、そんな…横島さんがそんなすらすらと答えるなんて…今日は嵐です! 大洪水です! ノアの箱舟伝説ですーーー!」
うわぁ、おキヌちゃん言いたい放題だね〜。でも確かに、あの忠っちが本当にスラスラ答えたら、『自分』も生命の危機を感じちゃうかも。
「さてはあなた偽者ですね!」
「な、何! 何故分かった!?」
「まあ、忠っちがスラスラ問題解くなんて宇宙意思に反するくらいありえないよ」
「う、宇宙意思に反する! 何だか良く分からんが結構酷い事言っておらんかお主等?」
けどそれくらい言っても過言じゃないと思うし。
もしかしたらアカシックコードを書き換えるなんて、自分にも出来そうにないことになりそうで怖いな〜
「ええい! こうなれば実力行使で!!」
「この面子で?」
今、忠っち改めドクター・カオスの周りには取り囲むように冥子ちゃんの式神が展開していた。
冷や汗を流し始めるドクター・カオス。まあ、気持ちは分かるな。
自分は周りに被害の出ないように結界を張ることにした。
「冥子ちゃん、結界張ったからやっちゃっていいよ」
「は〜い、皆頑張って〜」
冥子ちゃんの言葉に、式神たちが一斉に攻撃を始めた。
「ぬぉっ! り、離脱ーー!!」
おりょ? カオスの気配が消えたな…
「はっ! 戻って来…」
あっ、忠っちに戻ったみたい。だけど…
うん、今日の教訓は『赤信号、けど車は急に止まれない』に決まりだな。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
忠っちは式神達に飲み込まれていった。まあ、忠っちだし大丈夫かな?
自分はテーブルに腰掛けてちょっとぬるくなったお茶を一飲みした。
〜ナレーター視点〜
一方、カオスの方は…
「ぬ、マリア! 私だ! 放さんか!!」
「ノー。抵抗を確認、拘束を強化します」
「や、やめ、ぐおぉぉぉぉ! 蒼河葵依! 何時かこの借りは返してやるからなー!!」
マリアに背後からベアハックされ、背骨が折れる寸前まで絞めあがれれていた。
せかいはまわるよどこまでも
〜〜ちょっと心配特設授業〜〜
〜横島視点〜
「げほっ…酷い目にあった。今日は厄日か?」
ドクターカオスとか言うじいさんに捕まったかと思えば、体奪われた上にマリアってロボットに後ろから拘束されるし…
幾ら女の子でも体が硬くちゃ嬉しくないんやー! 柔らかくて暖かいほうが好きなんやー!!
うぅっ、しかもその後元に戻れたと思ったら冥子ちゃんの式神たちに袋にされるし…
「いや〜、忠っちどんどん復活する時間早くなってくね。何も秘術も使わずに不死身になれるんじゃない?」
「嬉しくないわーー!!」
キイ兄は笑いながらお茶飲んでるし、泣いてもいいかな? いいよね? 俺もう疲れたよ…
と、そこで冥子ちゃんの式神達が俺の方に近づいてきて体を舐めてきたり摺り寄せたりする。
これは…慰められてる? 俺って式神に心配されるほど哀れなのか?
これ以上考えるともっと悲惨な考えが浮かびそうなのでやめておいた。きっと賢明な判断だと思う。
「そういや冥子ちゃんは何でまたウチに?」
「ああ〜、そうだったわ〜。すっかり忘れてたわ〜」
「ん? まだ何か用があるの?」
キイ兄の物言いだとどうやら俺が帰ってくる前に幾つかの用件は済んでたのかな?
まあ、それはいいとして冥子ちゃんは和服の袂から一通の手紙を取り出した。
それをキイ兄に渡す。キイ兄は手紙を読み始めて数秒…何故かうんざりと言った表情になった。
「キイ兄、どうかしたのか?」
「ん、自分で呼んで」
自分の口から言いたくないのか、キイ兄はそのまま俺に手紙をよこした。
俺は手紙の中に目を通す。ちょっと硬く感じる挨拶から始まり…
「あ〜、講師のお願い?」
良く分からんがキイ兄は前に六道女学院ってところで講師代理をしたことがあって、今回また講義をやってくれないかと頼まれているようだ。
そういやキイ兄って色んなことで物知りだし、教えるのもうまいから教師とか向いてそうだもんな。
まあ、キイ兄って面倒くさがりやだから絶対否定するだろうけど。
「やりたくないのか?」
「まあ、この前ちょっとね……」
どうやら前回何かあったらしい。
う〜ん、まあキイ兄も嫌がるんだったら無理していかなくてもいいんじゃないかな。
「へぇ〜、人が沢山いるんですか〜。寺子屋みたいなのでしょうか?」
「そうよ〜。おキヌちゃんくらいの子達が沢山集まって勉強してるの〜」
「そうなんですか。何だか楽しそうな所ですね」
おキヌちゃんと冥子ちゃんが話し込んでいる。
あれ? でもこの話の展開だと…
「キイさん! 私、『がっこう』に行ってみたいです!」
まあ、そうなるよな。おキヌちゃんって意外と好奇心旺盛だから何でも体験してみたがるんだよな。
おキヌちゃんは300年も一箇所に縛られたから、キイ兄もやりたいって言われると大抵叶えてやるんだよな。何だか娘に甘い父親みたいだな。
まあ、今回も行くことになるんだろうな。
キイ兄の方を見ると、涙を流しながら分かったと頷いていた。
俺はその姿に同情しながら乾いた笑いをあげていた。
「じゃあ、忠っち明日ついてきてね」
「って、俺も行くのかよ! 明日学校だぞ!」
「大丈夫、こっちで話し付けるから」
結局、蒼河霊能相談所の皆で行くことになった。
けど、女子高なんかに行って本当にいいのか? 男としては嬉しいが、現実的に考えるとむちゃくちゃまずい気がするんだが…
次の日、俺達は六道女学院の門の前に立っていた。
デカイとは聞いてたんだけど、流石に度肝を抜かれた。
何たって小中高大の学校が一箇所に集まっているのだ。とてつもなく大きい。
設置されている看板を見ると、その広大さが見て取れる。本当にこんなところに入っていいのか?
暫くすると冥子ちゃんがやってきて、理事長室に通された。ここにこの学院のトップであり、六道家のトップがいるらしいのだが…
「初めまして〜、私がこの六道女学院の理事長の六道冥音よ〜。よろしくね〜」
何ていうか、冥子ちゃんそっくりだ。姿形はもとよりしゃべり方とか。
親子だと言われなくても見れば誰でも絶対気付くだろう。
「それにしてもキイ君本当に来てくれるなんて。おばさん嬉しいわ〜。」
「冥子ちゃんに入れ知恵したの冥音さんでしょ?」
「あら〜、何のことかしら〜?」
キイ兄と冥音理事長の間で火花が散っているように見える。
こ、怖ぇ〜これが大人の世界なんだな…
「もういいです。それで今回は何させる気です? どうせなら掃除とか雑務を希望するんですけど?」
「キイ君みたいな一流GSにそんなことさせないわよ〜」
「一流って、自分の一年の以来数100件以下ですよ? 良くて二流な普通のGSです」
絶対に講師の話題を出させないように話をそらしていくキイ兄。
そんなに講師の仕事やりたくないのか…
けどのらりくらりとかわしていて、全然話が進まないな。
「ところで〜、今日はキイ君に特設講師になって欲しいのよ〜」
「あっ、ズルっ! 行き成り話題変えるなんて反則じゃん!」
「GSの世界に〜、ズルも反則もないのよ〜」
どうやらキイ兄の負けらしい。やるな〜冥音理事長。
だが、それでもキイ兄は頑なに拒んでいる。
こりゃあ、随分とエライ目にあったんだろうな〜
「困ったわね〜」
そう言って、冥音理事長がこっちを見た。
何だ? 俺変なことしたかな?
「あなたが横島君よね〜、冥子から話は聞いてるわ〜。お友達になってくれたんですって〜」
「えっ? えぇ…まあ……」
「あの子ったらドジで、しかも何かあるとすぐに泣いて式神暴走させちゃうでしょ?
そのせいで今まで友達がいなくて私も心配だったのよ〜」
そういえば、キイ兄が式神達以外で初めての友達だったんだよな。
そう考えると、母親である冥音理事長も心配だったろうな。
「横島君ってキイ君の助手なのよね〜。しかも霊能力も使えてとっても強いんですって?」
確かに霊能力は使えるけどそんなに強くはないんだけどな〜。
キイ兄からいまだに一本どころか掠り傷すら付けられないし。まあ、突っ込みのときはちゃんと当たるんだけどさ…
「それにそろそろGS試験も受けるのよね〜? いいわね〜、おばさんもそういう子欲しいわ〜」
GS試験は受けるかどうか分からないけど、俺より優秀な冥子ちゃんもいるんだしこれ以上子供なんて要らないんじゃ?
あ、学園のほうに欲しいのかな? けど、俺男だしそれも違うか…じゃあ何だろう?
「冥音さん、今度は脅しですか?」
「何のことかしら〜? 私はただGS試験を受けるのか聞いただけよ〜」
何だか最初と同じようなやり取りしてるぞ。しかもキイ兄からちょっとプレッシャー感じるし。
いったい何がどうなってるんだ?
「はあ、今回だけですよ。絶対次はありませんからね?」
「そう〜、良かったわ〜。それじゃあこの組の午後の特設授業お願いね〜」
そう言って冥音理事長はキイ兄に薄い冊子を渡した。
多分アレが今日の日程なんだろう。
「それじゃあ私は〜、おキヌちゃんに学院の中を案内してくるわ〜」
「お願いします」
おキヌちゃんがぺこりと挨拶して冥子ちゃんの後についていく。
それじゃあ俺もついていこうかな…
っと思ったところで首筋を掴まれた。
「忠っちは自分と一緒に助手として出席してもらうからね」
「いや、何でさ? 除霊でもないんだし俺がいなくても大丈夫でしょう?」
「忠っち。此処女子校なんだよ? 冥子ちゃんがついてるとはいえ男なんかが学園を歩いてたらどういう目で見られるか分かるでしょ?」
あ〜、何だか大体想像がつくな。此処にくる途中でもすっごい見られてたし。此処は大人しく従ったほうがいいかな。
キイ兄の特設授業は外でやるらしい。しかも教えるのは霊能の扱い方。
ちょっと危険だから特別な結界の中で授業するらしく、俺とキイ兄は今使う場所にその結界を張っていた。
効果は霊的攻撃しか効かないようにするという、霊能を訓練するときにはポピュラーなものだ。
それなら学院のものを使えばいいかもしれないのだが、キイ兄が俺への参考のために見せくれているのだ。
暫くすると、冥音理事長と一緒に二クラス分、大体六十名近くの女子生徒たちが集まってきた。
どうやら彼女たちがこんかいのキイ兄の生徒らしい。
「あー! キイ君よー」
「きゃ〜! また来てくれたんだ〜元気だった?」
女生徒達の大半がキイ兄に殺到し揉みくちゃにされる。
「ああー、止めてーー!」
それにキイ兄は抵抗することもなく成すがままだ。悪意とかがあればまだ抵抗できるんだろうけど、単なる好奇心とかからかいみたいだからどうしようもないだろうな。
まあ、これがキイ兄が嫌がってた理由なんだろうな。
でも…
「きゃぁ〜、キイ君の髪さらさら〜」
「お肌もつやつやだわ…羨ましい……」
「でも結構筋肉とかついてるよね〜」
「ああ、駄目ー。脱がさないで! お尻に触らないでー! ノォォォーー!!」
全然助けてやろうって気がおきないな。むしろふつふつと怒りがこみ上げてきそうだ。
俺は結局生暖かい視線を送るだけに留めておいた。
〜ナレーター視点〜
アレから冥音に止められるまで逆セクハラは続いた。
解放されたキイの姿は何故か服はよれよれズボンはずり下がり、何か話しかけてはいけないような顔をしていた。
「うぅっ、酷い目にあった」
キイは涙目でそう呟いた。それを見ていた女生徒達はくすくすと笑っている。
何とか気を取り直すと、キイは授業を始めた。
「えっと、それじゃあまずは前回の『防御』についての成果を見せてもらいたいと思います」
キイが前回の講義でやったのは霊的な攻撃に対する『防御』についてだ。今日はまずそれの成果を見てみるために、教えておいた訓練方法を試してもらった。
それはただ無駄なく霊波を体に纏わせ、任意の場所の防御力を挙げるというものだった。
女生徒達は言われるまま霊波を操り、思い思いの場所の防御力を高めていった。
キイはそれを見て、一人一人に細かく改善点などを上げていく。
「ん、皆頑張ってるみたいだね。前より確実に伸びてるよ。
それじゃあ忠っちもやってみてくれる?」
「ん、了解」
横島は言われるがまま、とりあえず体全体に霊波を纏わせ、安定させる。
それを見て、女生徒達からざわめきが起こった。
まあ、それはそうだろう。今横島が行ったのは一見なんでもないようなことに聞こえるが、実はとても凄いことなのだ。
通常霊波を纏うと、必ずムラのようなものが出てきてしまうのが普通なのだ。しかもそれは徐々に流れ出して、ただそうしているだけで消費していくはずなのである。
それに対して横島の霊波はまるで湖面のように軽く波打つだけで、まったく無駄な消費がなかったのだ。
「まあ、忠っちくらいにまでなれば雑霊くらいの攻撃じゃびくともしないね。此れくらいが今皆が目指すべきラインかな」
キイの言葉に女生徒たちから感嘆の声、そして横島に尊敬の目線が送られる。
ただ横島、これまで自分が注目されるときは必ずと言っていいほど自分への印象が悪い状況だった。
(な、何なんや〜。何で皆こっち見てるんや〜。俺悪い子としたかなー…)
その所為で、横島は自分へ送られる感情を思いっきり勘違いしていた。
今回もそうだが、今までだってちゃんと尊敬や憧憬の念を向けられたこともあるのだが、横島はそんな事にはまったく気付かなかった。
それもこれも、普段はそうでもないがいろんな意味で破格なキイに鍛えられ、彼を自分と比較させる所為で常に自分は劣っていると思ってしまっているのだ。
いと哀れなり横島…
「ほいっ!」
その時、いきなりキイは何の脈絡もなしに横島に霊波砲を叩き込んだ。
横島は勿論回避することも出来ず、霊波砲は直撃し爆発して煙を巻き上げる。
それを見ていた女生徒達は言葉を失う。幾らなんでも話の途中で横にいた少年に霊波砲、しかもその距離は僅か3メートルだ。何がおきたのかをすぐに確認できなかった生徒たちも大勢いる。
そして風に流されて煙が薄れてくると…
「いきなり何するんじゃ、キイ兄!!」
服がやや煤けてはいるものの、ほぼ無傷な横島が元気いっぱいに叫んでいた。
その手には霊波の盾、サイキックソーサーが展開されている。
「アレが忠っちの防御技の霊波盾だよ。今の一瞬でも反応して霊波の収束、構築、展開をしっかりこなしていたね。アレくらい出来るようになればもう一流だね」
横島は今のも授業の一環だと理解し、しぶしぶ怒りを納めた。それからさっきの言葉が褒められているのに気付いて、やや機嫌を好くしたのだった。横島、なかなか単純である。
「さ〜て、じゃあ復習は此れ位にして。今日の授業は『攻撃』について教えようかな。
攻撃って言っても大雑把だし、皆それぞれ攻撃手段は違うだろう。
だから今回はまず皆と一対一に軽く戦ってもらうよ。
…忠っちと」
「ちょっと待てぃ! 今小さく俺の名前上げただろう!」
「さあ、皆〜準備してね〜」
キイの言葉に生徒たちはそれぞれ準備体操や瞑想をしてて体をほぐし、霊力を高めていく。
横島は最後まで講義したが、同年代のGS候補たちと戦うのもいい経験になるよという言葉についに頷いてしまった。
そして横島が先ほど作った結界の出力を上げたとき、
「あっ、因みに忠っちは攻撃しちゃ駄目だからね。あくまでも皆の力を見るだけだから」
「おい! それってサンドバックになれってことかよ!!」
キイは横島に有無を言わさず、最初の女生徒に横島へと戦うよう促した。
「よっし、最初は私からな! いくぞぉぉぉ!!」
「いややー! 痛いのは嫌いやーー!!」
横島はサイキックソーサーで防ぎ、人間ではありえないような体の反らせ方をして避けまくる。
「ちぃっ! 流石にキイさんの助手だな!!」
「うっひょー! 危ないーー! 止めてーー!!」
横島は情けない叫びを上げながら、それでいて無傷でサンドバック役をこなしていった。
避けて防いでまた避けて…結局横島は最後の一人になるまで無傷でやり過ごしていた。
本当に防御技術と回避能力が異様に高い横島だった。
(地獄や〜。周りが女子ばっかりで嬉しい筈なのに…皆敵なんてこの世の地獄や〜〜)
予想以上に平均的男子の思考を展開する横島。結構余裕があるのかもしれない。
「それじゃあ最後は…」
「私ですわね」
一人の女子が前に歩み出る。後ろのほうでは頑張れ委員長と言っているところからクラスの位置付けがすぐに分かる。
六道女学院の霊能科でクラス委員長というならそれがイコールクラス最強ないしそれに次ぐ実力者ということになる。
委員長は霊波を発し、横島に向けて構える。
「さあ、行きますわよ!」
「いい加減勘弁してーー!!」
横島は迫り来る霊波を纏った拳を体を捻ってかわし、距離を取ろうと下がる。
だが、横島を逃すまいと委員長はさらに肉迫する。
その腕に込められた一撃は、幾ら横島と言えどもダメージは避けられないほどの威力を持っているのが見て取れる。
「彼女は学年の中でも一位の成績の子よ〜。横島君でも辛いんじゃないかしら〜?」
冥音がキイにそう言う。確かに今、横島はその猛攻に完全に押されまくっているように見える。
しかしキイはそれを見てもただニコニコと笑顔を浮かべるだけで口を出そうとはしなかった。
「は〜い、それじゃあそれまでね」
キイは二人を止める。横島はやっと終わったと満面の笑顔、委員長の方はちょっと悔しそうだ。
結局、横島に攻撃は当てられてもそれは全て有効打にならず。完全に威力を殺されていたのだからそうなるのも仕方ないかもしれない。
「忠っち、彼女の攻撃受けてどうだった?」
キイは、横島に今の猛攻を受けての感想を求める。横島のほうは一瞬キョトンとする。まさか自分の方に感想を求められるとは思わなかったようだ。
横島はちょっと考えて、
「えと、何ていうか…攻撃も鋭かったし変則的だったけど何でか攻撃の軌道が見えたなぁ」
それを聞いて、委員長は顔をゆがめる。
横島が言ったのはつまり、全て見切っていたと言っているのだ。だからいなし、防ぎ、避けきったと言っているのだからプライドも傷つけられる。
「それが何故出来たか分かる?」
「あ〜……攻撃受けてばっかだから途中で霊視してみたんだけど…そしたら攻撃する場所の霊力が上がるんだよな。それかな?」
キイは良く出来ましたと横島を褒め、生徒たちの方を見る。
「え〜と、今のを聞いて分かったと思うけど。攻撃って言うのはどうしてもその箇所に霊力を集中させちゃうわけだ。
だから今回の忠っちみたいに霊視をしただけで何処から攻撃がくるか分かっちゃうんだよ」
キイは攻撃において相手にいかに読まれないようにするかも大切だよと説明する。
「それじゃあ今度は忠っちに自分を攻撃してもらおう。皆はしっかりと見て…」
キイは全てを言い終わる前に、キイの側頭部に影が迫る。横島が背後から迫りソバットを放ったのだ。
だがキイはそれを悠々と片手で受け止める。その手には一般人でも視認できそうな程の霊波を収束させていた。
「こういう風に奇襲するのもとっても有効だよ」
行き成りのことに驚いている女生徒達にキイが軽く説明している。
横島はすぐに距離を取って両腕に霊力を集中させる。
キイは横島の方に向きなおるが攻めはしない。あくまでも自分は防御側に回ると言っているようだ。
「せいっ!」
横島はサイキックソーサーを作り出し気合と共に投擲、それと同時にキイへと走る。
キイはサイキックソーサーを半身になるだけでかわし、迫る横島から目を逸らさない。
横島はそのまま右腕を振りぬく、キイはそれを内から外へと力を流して捌くがやけに威力が軽いことに気付く。その瞬間、横島はいなされた手でキイの腕を掴み、そのままキイのわき腹へと左ミドルキック。キイは腕をつかまれているので下がれず、左腕でブロックする。
横島はその瞬間、右腕を離す。キイと横島の体格は明らかに横島の方が大きい。キイはそのまま蹴り上げられ一瞬中に浮き、横島はそのまま脚を振り抜いて吹き飛ばす。
キイは、トンっと地面に脚をつける。その様子からまったくダメージになっていないようだ。
これが僅か数秒の間に行われた二人の攻防だ。攻撃の瞬間だけ霊力を上げ相手に悟られないようにし、防御の瞬間にもそれを行う。
女生徒達はそのハイレベルな戦いに完全に見入っていた。
さらに横島の攻撃は続く。右から左、上から下へと不規則に軌道を変えて変幻自在に攻め立てる。だがキイはそれを全て軽く防いで見せた。
「ん〜、まだまだだね〜」
「そっか? それじゃあ此れはどうだ!」
キイの余裕の笑みに、横島は両腕に霊波を収束させる。
しかしそれでは今までとほぼ変わらないが、それでも横島はキイに肉迫し、行き成りキイの目の前で拍子を打った。
「サイキック猫だまし!!」
横島の合わせた手から、光へと変換された霊波が弾ける。それと同時に拍子の音も増幅され、あたりの音が一瞬聞こえなくなる。
この一瞬だけ、キイの視覚と聴覚が完全に防がれた。
横島はそのまま腰を落とし、両腕を腰の辺りまで引く。そして体に纏った霊波を両掌に収束させる。
「ダブルサイキックインパクト!!」
脚をバネにして、腰を捻り、腕へと廻しその力の流れを体全体から両掌に集中させる。八極拳の『双纏手』という技を横島なりに改良して、力と同時に霊絡から霊力をその一点に集中させて放つ技だ。
霊能力と体術を合わせた渾身の一撃を横島はキイに叩き込んだ。
霊波が破壊の力となって放出される。
爆音と共に、土煙が巻き起こる。
その威力は普通の悪霊、もしかしたら下級神族魔族等へも大ダメージになりそうなほどの威力だ。
横島はバックステップで距離を取り、煙を見つめ、
「おいおい、嘘だろ…」
そう呟いた。その汗には明らかに疲労だけではない汗が流れる。
煙が晴れると、そこにはキイが立っていた。
しかも完全に無傷な状態で…
その手には何枚かの霊符が握られており、『万難退散』と書かれている。
「いや、オートで動くこの霊符無かったら危なかったね」
霊符はその役目を終えたのか、火がつきただの灰へと変わる。
「それ反則だろ? まあ、無くても結局防がれただろうけどさ」
「まあ、でもちょっとはダメージになりそうだし…怪我はしたくないじゃん?」
軽い調子で言葉を交わすキイと横島。
女生徒達のほうはもう完全にその雰囲気に飲み込まれていた。何人かの生徒はいつの間にか握り締めた汗ばむ拳に気付く。
「まあ、今回はこんなもので……
……無駄だと思うよ?」
キイが横島に近づこうとした瞬間、横島はその右腕にさらに霊波を収束させ、さらに高密度に圧縮させる。
横島は右腕に集める荒れ狂う霊圧の制御のために声はだす余裕も無い。だが、一瞬口元を吊り上げにやりと笑った。
横島の霊圧が頂点に達した瞬間、弾けた。
「んっ!」
キイの足元で、行き成り何かが弾けたのだ。それにより地面が割れ、キイは体勢を崩す。
今弾けたもの、それは戦いの最初に横島が放ったサイキックソーサーだ。
あの後目標を失ったサイキックソーサーを地面に潜り込ませ、今の今まで消えないように維持させていたのだ。
もちろん、長時間横島から離れ、さらにダブルサイキックインパクトでの霊力の消費に、今の霊力の圧縮をした所為で威力は最小もいいとこだが、それはあくまでも隙を作るものなので十分役目を果たしていた。
そして、全霊力を放出させた横島の持つ最強の一撃を放つ。
「サイキックスラッシュ派生技! 点欠!!」
地面にめり込むほどの踏み込みに合わせ、圧縮した霊波を刃へと変換する。
それをキイにめがけて一直線に放つ。振るうのではなく突く。
そしてそれが届いた瞬間、その先から全ての霊力を相手へと放出する。
纏め切れなかった余剰霊力が光を放ち、あたりは光の渦に飲み込まれた。
「ホント、キイ兄って規格外だよな。俺自信無くしそう…」
「そんな事無いよ。十分に成長してるって」
光が晴れたとき、キイはなんと横島の霊波の刃を両手で挟みこんでいた。ようは突きの真剣白刃取りだ。
キイの手には横島のそれと同じくらいに圧縮された霊波が集められている。
「ほら、受け止めた瞬間出力足りなくて切れちゃったよ」
そう言って、キイは手の平を見せる。其処には確かに傷があったが精々3センチほどの小さな傷だった。
横島は折角新技まで披露してそんなものなのかとちょっと落胆していた。
因みにさっきの横島の技の『点欠』は、本当は本来針治療などで経絡と言われる気の流れを良くするため、ツボを刺激することの『点穴』のからあやかったものだ。
横島の放った技は、相手に自分の霊波を流し込み相手の霊力のバランスを崩すものだ。
『点穴』は本来体調を整えるもの、そしてこの技はその反対に『良』の気を『欠』けさせるため、『点欠』となったのだ。
「いや〜、今日は授業以上に予想外の成果があったな。忠っちも予想以上に成長してくれて嬉しいよ、うん」
師匠として鼻高々だ〜と言いつつ、ニコニコと微笑むキイ。
(まあ、今日は怪我もさせたし進歩したよな俺も)
横島も今回の成果で満足なのか、少し上機嫌にキイに釣られて微笑んでいた。
「は〜い、皆今の見てたよね? ああいう風に奥の手はとってもGSとして生きていく中で大切なものです。
しかし、それだけではまだ足りません。だから奥の手の後にさらに隠し技、裏技みたいなものを用意しましょう。
そうすれば心にも余裕が持てて、格段と戦況を有利に出来るからね」
ただ…、とキイは付け加えて行き成り姿を消した。
「うごはっ!?」
いつの間にか横島の側面に移動したキイは、何処から取り出したのか身の丈ほどあるハリセンで横島の後頭部を叩いた。
横島はそのまま何が起こったのかわからず地面にキスする羽目になる。
「奥の手などをホイホイ出すわけにもいかないからね。
こうやって、相手が油断したとき一撃で決める方が楽なのでそういう状況に持っていくのも大事だよ。皆覚えておきましょ〜」
人差し指を立てて、『ねっ?』とジェスチャーするキイ。一同はそれを実践して見せたキイにやや戦慄していた。
横島の方は結局こうなるのかよと、早々に意識を手放していた。合掌…
その調子で講義を終え、一同は帰宅することとなった。
〜横島視点〜
家路への帰り道。俺はまだ頭を押さえていた。
キイ兄の最後の一撃がまだ残っているのだ。
こりゃコブになってるな〜。すぐ治ればいいんだけど…
「ふぅ、今日は疲れちゃったよ」
「其れにつき合わされた俺はそれ以上に疲れてるんだけど?」
「今日は楽しかったですよ。学校って広いんですね〜」
そういやおキヌちゃんは冥子ちゃんと学院の中見学してたんだっけ。すっかり忘れてたわ…
まあ楽しんでくれたんならそれでいいけどさ。
ふと、キイ兄の方を見てみるとその手に封筒を持っているのが見えた。
「キイ兄何其れ? 冥音理事長からの謝礼か何か?」
「ん、見る?」
キイ兄は無造作に其れを俺に渡してきた。
手にとって見ると結構詰まっている。しかし札束ではないみたいだが何だ?
俺はそのまま封筒をひっくり返して中身を出してみた。出てきたのは大小さまざまなメモ用紙らしきもの。一枚を開いて見てみる。
「…こ、これは……あの女の子たちの連絡先?」
「うん、帰る前に渡された」
つまり何か? この女の子たちをキイ兄は選り取り緑で? 俺には何の収穫もなしなのか?
「何でキイ兄ばっかりモテるんじゃー! 俺だって頑張ってたじゃねぇかーーー!!」
「知らないよ! それにこんなに貰ったって別に嬉しくないし」
うわぁ、キイ兄それはもてない男にはタブーだよ。男として粛清されること間違いなしだよ。けどキイ兄を粛清するのは普通に無理だな。
と、言うわけで此処は一つ、叫ぶだけにとどめよう。
「キイ兄! それは男として許されないって!! 男じゃないよキイ兄!!!」
「何だと! 其処まで言われたらしょうがない…
自分の男の証拠を見せてやる!!」
そう言ってキイ兄はその場でズボンに手をかけて一気に下ろした。
「キャァーーーー!!」
其れを見ておキヌちゃんが悲鳴を上げる。
「刑法第175条違反じゃーーー!!!」
「げぷろっ!?」
俺はキイ兄をお星様にした。
因みに、まだ最後の砦は残してあったのでナニは見えなかった。
無為論見たくもない、だって銭湯に行くたびにとてつもない敗北感に見舞われているんだからな……ふっ、夜風が目に沁みるな〜
〜おまけ〜
翌日の六道女学院理事長室。その机の上には此れでもかと言うくらいの書類の束が積み上げられている。
「これ全部、昨日のことのなのかしら?」
「ええ、そのようです」
隣にいるフミさんは肯定と返す。
昨日の特設講義にて、其れを受けた生徒たちは勿論受けられなかった生徒達までその噂を聞きつけ嘆願書を届けてきたのだ。
その内容は『キイ』の講義を『横島』という助手をつけてやってもらうこと。
其れが意味することはすぐに察することが出来るだろう。
「二人とも昨日は凄かったし〜、これはますます面白くなってきたわね〜」
微笑みながら冥音はこの嘆願書のコピーをとってキイに郵送しようかなと考える。ダンボール数箱分になるのは確実だろう。
そんなことを考えている冥音にフミさんが一言、
「理事長、そろそろこちらの書類の処理をお願いします」
そういってフミさんが指すのは別の机にある高さ50センチはある書類の山が三つ四つ。
冥音は其れを見て冷や汗をかいた。
「これじゃあ終わらないわ〜」
そんな泣き言を言うがフミさんに無理やり席につかされ書類に目を通す冥音。
その姿はやはり娘の冥子とそっくりだった。
あとがき
レスを早速返します〜
>masa様
早速今回絡んでもらいました。
キイ君は『世界』の『欠片』でも今その力は極限まで落ちてますから一応傷つきますよ(それでもあれかよ(笑))
美神さんはそろそろでてくる予定ですのでお待ちくださいませ。
>ジェミナス様
>おば様に前途有用な若者として、冥子ちゃんに付き合える心の強い者としてタゲられてしまうのか!?
されちゃいますよね〜今回ので確実に(笑)
まあ、今のところは様子見だと思われます。
まず最初にゴメンナサイ。何だか謝りまくりだな(汗)
更新一日空けちゃいました。新参者だから頑張ってたんですがやはり此処に来てボロが…無念です。
此れからもまた空けちゃったりするかもしれませんが、やり逃げはしませんのでどうか生温かい目で見守ってください。
今回、カオス爺さんほぼスルー。マリアなんてほぼ出てないし。嫌いじゃないんですけど此処はぐっと我慢して影になってもらいました。何時か活躍させるので勘弁です。
今回はちょっとオリジナル。理由は…思い付きとその場のノリです!
ああ、嘘ですゴメンナサイ。
今回は横島君の方向性と現時点での確認をと考えてのことです。
現在の横島君はGSを目指すべく助手として奮闘中、そしてその強さはGS見習い以上だが、一流と戦えばそれなりに渡り合えるか紙一重と言う程度です。
今回、結構キイ君相手に善戦しましたがあれはキイ君が攻撃しないのが前提ですので…
そして新技のほう。なんとなく説明も入れてみましたがあんなものでいいでしょうか? 技の由来まで入れる必要はないかな? どうかご意見くださいませ。
さて、次回は…ギャグに出来るかな? ちと自信ないです。
もし出来なければゴメンナサイです。今のうち謝っちゃいます。
もはやギャグかどうかも分かりませんがギャグとして通していきます!
そういう事にしておいて下さいませ! お願いします!
それではこの辺で失礼致します…